説明

高分子電解質、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池

【課題】 プロトン伝導性、機械的強度、水に対する形状・寸法安定性のいずれにおいても優れた高分子電解質膜、該高分子電解質膜を構成する高分子電解質、該高分子電解質膜を用いた膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】 下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質であって、前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5である高分子電解質。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高プロトン伝導性、機械的強度、水に対する形状・寸法安定性のいずれにおいても優れた高分子電解質膜、該高分子電解質膜を構成する高分子電解質、該高分子電解質膜を用いた膜電極接合体および燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質型燃料電池用電解質膜として、イオン伝導性セグメントと非イオン伝導性セグメントとを分子内に有するブロック共重合体が形成するミクロ相分離を利用する方法がある。
【0003】
ミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜は、イオン伝導性ドメインがイオン伝導経路となるため、高効率なイオン伝導が可能になるとして注目されている。このようなブロック共重合体の電解質膜としては、2つのブロックから構成されるジブロック共重合体を始めとして、構成されるブロック数に対応したトリブロック、マルチブロック共重合体などが知られている。
【0004】
このような例として、特許文献1では、トリブロック共重合体を用いた電解質膜が開示されている。ここでは、疎水性セグメントおよびスルホン酸基を有するイオン伝導性セグメントからなるトリブロック共重合体を用いた相分離構造電解質膜は、ランダム共重合体膜に比べ、高イオン伝導性を示すことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、リチウムイオン電池用電解質膜として、親水性セグメントの両端に疎水性セグメントを有するトリブロックコポリマーを用いた電解質膜が開示されている。ここでは、親水性セグメントが疎水性セグメントよりも長いことで、相分離構造中では親水性ドメインに疎水性ドメインが埋封された構造をとりやすく、ガラス転移点が低い親水性マトリクスが膜全体の柔軟性に寄与し、リチウムイオン電池用電解質膜として好適な強度を発現する効果があると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−312742号公報
【特許文献2】特表平02−500279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、親水性および疎水性セグメントのいずれもが芳香族系主鎖を有しているため、いずれのセグメントもTgが高い。
したがって、相分離構造の制御が困難であり、高効率なイオン伝導チャネルを確保することが難しいと考えられる。
【0008】
また、特許文献2においては、低Tgのイオン伝導性マトリクス中に疎水性ドメインが埋封されたミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜であるため、高分子電解質型燃料電池(PEFC)に適用した場合、電池運転による発熱と電池反応で生成した水によるマトリクスの膨潤が、膜全体の機械的強度および形状・寸法安定性を著しく低下させてしまうと考えられる。
【0009】
以上のように、PEFCには、プロトン伝導性、膜の機械的強度、水に対する形状・寸法安定性のいずれもが優れた電解質膜が望まれていながら、そのような要望を充分に満たす電解質膜がなかった。
【0010】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、トリブロック共重合体を用いて電解質膜中のミクロ相分離構造を制御することにより、プロトン伝導性、膜の機械的強度、水に対する形状・寸法安定性に優れた高分子電解質膜および該高分子電解質膜を構成する高分子電解質を提供するものである。
また、本発明は、上記の高分子電解質膜を用いた膜電極接合体および燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一は、下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質であって、前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることを特徴とする高分子電解質である。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
前記トリブロック共重合体が脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とすることが好ましい。
また、本発明の第二は、イオン伝導性ドメインと非イオン伝導性ドメインとからなるミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜であって、前記ミクロ相分離構造が本発明の第一の記載の高分子電解質で形成されることを特徴とする高分子電解質膜である。
【0012】
前記イオン伝導性ドメインが連続相を形成し、前記非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成することが好ましい。
前記イオン伝導性ドメインおよび非イオン伝導性ドメインがラメラ形状を有することが好ましい。
【0013】
本発明の第三は、下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、前記トリブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが連続相を形成し、前記セグメントBからなる非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成することを特徴とする高分子電解質膜である。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
前記ミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインがシリンダー形状を有していることが好ましい。
前記ミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが三次元網目形状を有していることが好ましい。
前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることが好ましい。
前記トリブロック共重合体が脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とすることが好ましい。
【0014】
さらに本発明の第四は、高分子電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体である。
さらに本発明の第五は、高分子電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、集電体とを少なくとも備えることを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プロトン伝導性、水に対する形状・寸法安定性評価、膜の機械的強度(引張り強度、靭性)に優れた高分子電解質膜および該高分子電解質膜を構成する高分子電解質を提供することができる。
また、本発明は、上記の高分子電解質膜を用いた膜電極接合体および燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の高分子電解質の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の高分子電解質膜中におけるミクロ相分離構造の一例を示す概略図である。
【図3】実施例1の高分子電解質膜のラメラ状ミクロ相分離構造を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】実施例2のシリンダー状ミクロ相分離構造を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】実施例3のラメラ状ミクロ相分離構造を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】本発明の膜電極接合体の一例を示す概念図である。
【図7】本発明の燃料電池の一例を示す概念図である。
【図8】実施例4のシリンダー状ミクロ相分離構造を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図9】実施例5の燃料電池の性能を示す図である。
【図10】比較例3の燃料電池の性能を示す図である。
【図11】実施例5の三次元網目状ミクロ相分離構造を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の第一は、下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質であって、前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることを特徴とする高分子電解質である。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
以下、本発明の第一について説明する。
【0019】
図1は、本発明の第一の高分子電解質の一形態を示す概略図である。
図1に示す高分子電解質は、イオン伝導性セグメントA13と非イオン伝導性セグメントB14と非イオン伝導性セグメントB15とからなるトリブロック共重合体16(以下、B−A−B型トリブロック共重合体と呼ぶ場合がある)である。
【0020】
B−A−B型トリブロック共重合体16が有するイオン伝導性セグメントA13は、高分子電解質膜10が有するミクロ相分離構造のうちのイオン伝導性ドメイン12を形成する。
【0021】
ミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが三次元網目形状を有していることが好ましい。
【0022】
トリブロック共重合体16は、イオン伝導性セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であり、非イオン伝導性セグメントBの重量分率Wが0.5<W<0.95である重合体である。ここで各重量分率は、トリブロック共重合体全体の分子量をMbcp、セグメントAの分子量をM、セグメントBの分子量をMとしたとき、
【0023】
【数1】

【0024】
で表されるものである。なお、分子量は、数平均分子量を表す。
また、W+W=1である。
0.5≦Wである場合、後述する本発明の第二の高分子電解質膜において、イオン伝導性ドメインがマトリクスとなるミクロ相分離構造を形成しやすくなり、加湿環境下において膜構造の安定性が損なわれる。したがって、W<0.5であることが必要である。また、W≦0.05である場合、後述する本発明の第二の高分子電解質膜において、ミクロ相分離構造を形成しない(相溶化する)ため、0.05<Wであることが必要である。
【0025】
ブロック共重合体は、通常、成膜後にTg以上の温度で十分な熱処理を行うことで、熱力学的な平衡状態となる相分離構造をとるように分子が再配列する。その際、両ドメインの体積分率、相溶性、および鎖長(重合度)が、安定にとり得る相分離膜構造とそのドメインサイズを決定する。しかしながら体積分率を厳密に求めることは困難であり、より簡便な各セグメントの分率決定法として、本発明においては重量分率を用いることができる。なお、前記平衡状態での相分離構造は、Bates,F.S.;Fredrickson,G.H.;Annu.Res.Phys.Chem.1990(41)525に開示されているように、一般的にはWの値が0.05〜0.2程度においては球状ミクロ相分離構造を、0.2〜0.3程度においてはシリンダー状ミクロ相分離構造を、0.3〜0.7程度においては共連続状あるいはラメラ状ミクロ相分離構造を、選択的に形成しやすい。ただし、ブロック共重合体を構成するセグメントの相溶性や重合度により、上記Wの数値は変化することが知られており、本発明においても所望の相分離構造の電解質膜を得る上で、上記数値範囲に限られるものではない。
【0026】
後述するように、ブロック共重合体溶液から溶媒を蒸発させて成膜する場合、加熱せずに、あるいはブロック共重合体のTg以下の温度で加熱して溶媒を蒸発させることで、非平衡状態のミクロ相分離構造を形成することができる。非平衡状態のミクロ相分離構造は、選択溶媒、混合溶媒比、成膜環境(空気、窒素、湿度)を精密に制御することにより容易に出現させることができる。例えば、イオン伝導性セグメントの重量分率が低くなると熱力学的に安定なミクロ相分離構造におけるイオン伝導性ドメインは球状構造となるが、製膜溶媒として選択溶媒を必要に応じて用いることで、シリンダー状構造を形成させることも可能である。
【0027】
なお、本発明においては、平衡状態および非平衡状態のいずれのミクロ相分離構造を用いてもよい。
【0028】
以下、各セグメントについて説明する。
【0029】
イオン伝導性セグメントA13は、イオン交換基を有し、かつ、Tgが40℃以下である高分子であれば良い。Tgが40℃以下である高分子としては、脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とする高分子であることが好ましい。Tgが40℃以下であることにより、イオン伝導性セグメントA13の柔軟性が向上し、イオン伝導性セグメントA13によって構成されるイオン伝導性ドメイン12のイオン伝導度が向上する。なお、本特許請求の範囲および本明細書において、「脂肪族炭化水素を主鎖とする」とは、脂肪族炭化水素を主鎖骨格とするものと、該主鎖骨格を構成する原子のうちの一部が芳香環以外の原子もしくは原子群で置換されたものの両方を含む概念とする。例えば、主鎖のメチレン基が、酸素原子、NH基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基などで置換されていても良い。また、「脂環式炭化水素を主鎖とする」とは、置換もしくは非置換の脂環式炭化水素基を主鎖骨格とするものであり、例としてシクロヘキシレン基を有するマレイミド構造などが挙げられる。また、主鎖は二重結合や三重結合を有していてもよい。
Tgが40℃以下である高分子の単量体としては、共役ジエン単量体またはオレフィン系単量体などが挙げられる。
【0030】
イオン交換基としては、例えば、スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸などから選択することができる。これらの中でも、スルホン酸、カルボン酸、リン酸が特に好ましい。
【0031】
したがって、このようなイオン伝導性セグメントA13の例としては、共役ジエン単量体またはオレフィン系単量体にスルホン酸基が付加させたものが好ましく、具体的には、スルホン酸(塩)基含有スチレン、スルホン酸(塩)基含有(メタ)アクリレート、スルホン酸(塩)基含有ブタジエン、スルホン酸(塩)基含有イソプレン、スルホン酸(塩)基含有エチレン、スルホン酸(塩)基含有プロピレンなどが挙げられる。
【0032】
なお、イオン伝導性セグメントA13には、1種類のイオン交換基が含まれていてもよく、あるいは、2種以上のイオン交換基が含まれていても良い。これらイオン交換基の導入法は特に限定されず、イオン交換基を含む単量体を重合してポリマー化してもよく、イオン交換基を含まないポリマーを合成した後に、高分子反応によりポリマー側鎖にイオン交換基を導入してもよい。またイオン交換基の量は、相分離構造を形成可能であれば良い。イオン交換基を含まないポリマーへの高分子反応によるスルホン酸基の導入方法としては、発煙硫酸、クロロスルホン酸、濃硫酸、環状スルトンなどによるスルホン化が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
また、非イオン伝導性セグメントB14および15は、イオン交換基を有さず、Tgが70℃以上、好ましくは70℃以上200℃以下である脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とする高分子からなる。Tgが70℃未満であると、非イオン伝導性セグメントの柔軟性が高くなり、燃料電池運転時に発生する熱と水により、本発明の第二である高分子電解質膜において、構造安定性が損なわれてしまう。一方、Tgが200℃以上であると耐熱性は高まるが、相分離構造の制御が困難になる上、電解質膜としての柔軟性に乏しくなり脆性を示す可能性があるため、燃料電池作製時や運転中のわずかな衝撃によりひび割れを起こし、特性劣化の原因となる場合がある。
【0034】
このような非イオン伝導性セグメントB14および15としては、脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とする疎水性の高分子であることが好ましい。非イオン伝導性セグメントB14および15の例としては例えば、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン誘導体、共役ジエン、ビニルエステル化合物などの単量体から合成される重合体が挙げられる。これら疎水性高分子を形成する単量体としては、
スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;
2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、アセナフタレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
トリメチルシロキサニルジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキサニル)シリルプロピル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルプロピルジメチルシリルエーテルなどのシロキサニル化合物類; 2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミン含有(メタ)アクリレート類;クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル、ケイ皮酸2−ヒドロキシプロピルなどの不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アリルアルコールなどの不飽和アルコール類;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などの不飽和(モノ)カルボン酸類;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−プロピルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−エチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;およびこれらのモノ、ジエステル類;
N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド、N−o−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−m−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−p−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−m−メトキシフェニルマレイミド、N−p−メトキシフェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−m−クロロフェニルマレイミド、N−p−クロロフェニルマレイミド、N−o−カルボキシフェニルマレイミド、N−p−カルボキシフェニルマレイミド、N−p−ニトロフェニルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミドなどのマレイミド類や(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0035】
これらの中でも、重合性不飽和芳香族化合物、アルキル(メタ)アクリレート類、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド類、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0036】
次に、本発明の第二について説明する。
本発明の第二は、ミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜であって、前記高分子電解質膜が、下記セグメントAと下記セグメントBとから構成されかつ各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなり、前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることを特徴とする高分子電解質膜である。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
図2は、本発明の第二の高分子電解質膜の一形態を示す概念図である。
【0037】
本発明の第二の高分子電解質膜の一形態である高分子電解質膜10は、イオン伝導性ドメイン12および非イオン伝導性ドメイン11からなるミクロ相分離構造を有する。そして、イオン伝導性ドメイン12は、本発明の第一で示したトリブロック共重合体16が有するイオン伝導性セグメントA13で構成される。非イオン伝導性ドメイン11は、非イオン伝導性ドメインB14および15で構成される。
【0038】
イオン伝導性ドメイン12は、ミクロ相分離構造におけるプロトン伝導部分であり、高分子電解質膜のミクロ相分離構造における連続相を形成する。ここで、連続相とは、ミクロ相分離膜中におけるドメインの径(幅)aと長さbとのアスペクト比b/aが10以上であることを指す。
【0039】
また、非イオン伝導性セグメントB14が形成する非イオン伝導性ドメイン11は、疎水性であり、高分子電解質膜の形状を保持する機能を有する。
一般的なジブロック共重合体のミクロ相分離電解質膜においては、セグメントを構成しているポリマー鎖の絡み合いのみで両ドメインおよび膜構造が形成されるのに対し、B−A−B型トリブロック共重合体を用いたミクロ相分離電解質膜の場合、前記絡み合いの因子に加えて、イオン伝導性ドメイン12が隣接する疎水性セグメント14のポリマー鎖間を橋かけした構造の固定点となり電解質膜構造をより強く支持する。そのため、B−A−B型トリブロック共重合体からなる高分子電解質膜は、含水時の高い膜構造安定性および高い機械的強度を発現することが可能となる。
【0040】
イオン伝導性ドメイン12および非イオン伝導性ドメイン11によって形成されるミクロ相分離構造としては、非イオン伝導性ドメイン11がマトリクス相であってイオン伝導性ドメイン12がシリンダー形状である構造、非イオン伝導性ドメイン11がマトリクス相であってイオン伝導性ドメイン12が三次元網目状に連続相を成す形状である構造(当該技術分野で共連続状構造という)、イオン伝導性ドメイン12および非イオン伝導性ドメイン11がラメラ形状である構造などが挙げられる。
【0041】
イオン伝導性ドメイン12の連続相の形状がシリンダー状もしくは三次元網目状であり、非イオン伝導性ドメイン11がマトリクス相である場合には、イオン伝導を担うイオン交換基を多く内包したイオン伝導性ドメインが低湿度下での優れたプロトン伝導性に寄与する。
【0042】
なお、「非イオン伝導性セグメントB14および15が形成する非イオン伝導性ドメイン11がイオン伝導性ドメイン12のマトリクス相である構造」とは、言い換えれば、「非イオン伝導性ドメインがイオン伝導性ドメインを取り囲む構造」である。ここで、非イオン伝導性ドメインがイオン伝導性ドメインを取り囲むとは、イオン伝導性ドメインの多くが非イオン伝導性ドメインに取り囲まれていれば良く、イオン伝導性ドメインの全てが完全に包括されていなくても良い。
【0043】
また、イオン伝導性ドメイン12および非イオン伝導性ドメイン11がラメラ形状である構造である場合には、膜構造を保持するマトリクス相が存在しないため、含水時の膜構造安定性および強度はシリンダー状あるいは共連続状相分離膜に比べて劣る場合がある。しかしながら、燃料電池作製時および運転時環境下で許される安定性および強度範囲であれば、膜中でイオン伝導性ドメインの占める体積分率はシリンダー状あるいは共連続状相分離構造に比べて高まり、プロトン伝導特性や電解質膜内における水拡散性の向上などの観点からより望ましい場合もある。なお、ラメラ形状において、イオン伝導性セグメントA13の重量分率Wが0.5<Wでは、発電に伴い生成する水による膨潤が激しく、好ましくない。
【0044】
したがって、前記シリンダー状、共連続状、及びラメラ状相分離構造は、燃料電池の要求特性に応じて適宜使い分けることができる。
また、高分子電解質膜10の膜厚は自立膜が得られれば特に制限は無いが、1μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0045】
次に、高分子電解質の作成方法について説明する。
トリブロック共重合体の合成方法は、特に制限はなく、モノマー種、用途、合成の簡便さに応じて任意に選択することができるが、例えば、以下のような方法により合成することができる。
(1)イオン交換基を有する単量体を重合してイオン伝導性ブロック13を合成した後、その両末端にイオン伝導性を示さない単量体を共重合させ、非イオン伝導性ブロック14、15を合成する
(2)非イオン伝導性ブロック14を合成した後、その片末端にイオン交換基を有する単量体を共重合してイオン伝導性ブロック13を合成し、さらにそのイオン伝導性ブロック末端より非イオン伝導性の単量体を共重合させ、非イオン伝導性ブロック15を合成する
(3)イオン交換基を有するイオン伝導性ブロック13および非イオン伝導性ブロック14、15をそれぞれ独立に合成した後に高分子反応によりブロック化する
(4)両成分ともにイオン伝導性を有さないトリブロック共重合体を合成した後、中央の構成ブロックにのみイオン交換基を導入しイオン伝導性ブロック13を形成する
トリブロック共重合体の合成法としては、リビング重合法を用いると、ブロック鎖の重合度を自由に制御して共重合体を合成することが可能である。リビング重合法には、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、配位重合、リビングラジカル重合など様々な重合法がある。これらの重合法の中で、本発明を特に限定するものではないが、リビングラジカル重合法が好ましく用いられる。リビングラジカル重合法は近年様々な手法が開発されており、以下の様な例が挙げられる。
【0046】
例えば、Macromol.Chem.Rapid Commun.1982年,3巻,133頁に示されるイニファーター重合、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、27巻、7228頁に示されるようなニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの、ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)、1995年、117巻、5614頁に示されるような有機ハロゲン化物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする「原子移動ラジカル重合」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1998年、31巻、5559頁に示される「RAFT:Reversible Addition−Fragmentation chain Transfer重合」などがあげられる。このような重合法を用いることにより、種々のビニルモノマーを重合することが可能である。
【0047】
次に、前記ミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜の作製方法について説明する。
ミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜は、
1)イオン伝導性セグメントと非イオン伝導性セグメントからなる前記B−A−B型トリブロック共重合体を溶媒に溶解させて溶液を作製する工程と
2)1)で作製した溶液を基板表面に塗布する工程と、
3)2)で基板に塗布した溶液の溶媒を蒸発させる工程と、
によって成膜することができる。
【0048】
また必要に応じて、
4)3)で作製した膜をイオン伝導性セグメントおよび非イオン伝導性セグメントのTg以上ブロック共重合体の相転移温度以下の温度でアニール処理する工程を用いてもよい。
【0049】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0050】
1)の工程では、イオン伝導性セグメントと非イオン伝導性セグメントからなる前記B−A−B型トリブロック共重合体を溶媒に溶解させて溶液を作製する。
B−A−B型トリブロック共重合体を溶解させる溶媒としては、トリブロックコポリマーを均一に溶解し、トリブロックコポリマーと反応しないものが用いられる。具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒;プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、水などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。
【0051】
2)の工程では、1)で作製した溶液を基板表面に塗布する。
溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、浸漬法、バーコート法、スプレー法、キャスト法などの塗布手段を用いることができる。
【0052】
3)の工程では、基板に塗布した溶液の溶媒を蒸発させる。
溶媒を蒸発させる際は、加熱せずに蒸発させても良いし、ブロック共重合体のTg以下の温度で加熱して溶媒を蒸発させてもよい。非加熱、または低い加熱温度で溶媒を蒸発させることで、前述したように、成膜条件(選択溶媒、混合溶媒比、成膜環境)のコントロールにより、ポリマー溶液を基板に塗布・乾燥した直後に出現する非平衡状態のミクロ相分離構造を制御することができ、また、加熱によって生じ得る重合体の分解を防ぐことができる。
【0053】
4)の工程では、熱力学的に平衡状態のミクロ相分離構造を形成する。
3)で成膜した非平衡状態のミクロ相分離膜を、ブロック共重合体のTg以上相転移温度以下の温度で熱処理した後、室温でミクロ相分離構造を固定する。
【0054】
この際、溶融時にホットプレス法や射出成形法などの方法により、所望の形状に成形しても良い。
【0055】
次に、本発明の第三について説明する。
【0056】
本発明の第三は、下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、前記トリブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが連続相を形成し、前記セグメントBからなる非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成することを特徴とする高分子電解質膜である。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下である、イオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である、非イオン伝導性セグメント
言い換えれば、本発明の第三は、Tgが40℃以下であるイオン伝導性セグメントAの両末端にTgが70℃以上である非イオン伝導性セグメントBが結合したB−A−B型トリブロック共重合体よりなる高分子電解質膜である。
【0057】
本発明の第三が本発明の第二と異なる点は、本発明の第三の高分子電解質膜を構成するトリブロック共重合体は、セグメントAおよびセグメントBの重量分率が特定の範囲に限定されるものではないこと、非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成すること、イオン伝導性ドメインが連続相を形成することである。
【0058】
高分子電解質膜が有するミクロ相分離構造は、シリンダー形状、三次元網目状形状などの形状とすることができる。いずれの形状においても、マトリクス相が、トリブロック共重合体が有する非イオン伝導性セグメントBによって構成される非イオン伝導性ドメインによって形成される。また、連続相(シリンダー形状におけるシリンダー部、三次元網目状形状における網部分)がトリブロック共重合体が有するイオン伝導性セグメントAによって構成されるイオン伝導性ドメインによって形成される。
【0059】
ここで、本発明の第三において、「非イオン伝導性ドメインがマトリクス相である」とは、本発明の第二と同様、言い換えれば、「非イオン伝導性ドメインがイオン伝導性ドメインを取り囲む構造」である。本発明の第三では、マトリクス相が非イオン伝導性ドメインで形成されることにより、膜構造安定性および強度が向上する。
【0060】
なお、本発明の第三の高分子電解質膜を構成するトリブロック共重合体は、本発明の第一に示す高分子電解質であっても良い。
【0061】
次に本発明の第四の膜電極接合体について説明する。
【0062】
上述した本発明の第二もしくは第三の高分子電解質膜の両側に、触媒層を配置することにより、図6に示す本発明の第四の一形態である膜電極接合体を作製することができる。膜電極接合体20は、本発明の第二もしくは第三の高分子電解質膜21と、それを挟んで対向する2つの触媒層(アノードおよびカソード)である触媒層22および触媒層23から構成される。
【0063】
触媒層は、白金、もしくは白金とルテニウムなどの白金以外の金属の合金などからなる構造体やこれらの構造体をカーボンなどの担持体上に分散担持させたものからなる層を用いることができる。ここで前記構造体は、粒子形状であっても良いし、樹枝状形状であっても良い。
【0064】
また、膜電極接合体の作製方法としては、高分子電解質膜表面に直接触媒層を形成する方法、触媒層をPTFEなどのポリマーフィルム上に形成した後に触媒層と電解質膜をホットプレスすることで膜上に触媒層を転写して形成する方法、触媒層をガス拡散層などの電極上に形成した後に電解質膜と接合する方法などが挙げられる。
【0065】
次に、本発明の第五の燃料電池について説明する。
【0066】
本発明の第二もしくは第三の高分子電解質膜、本発明の第四の膜電極接合体を用いて、公知の手法により本発明の第五の燃料電池30を作製することができる。燃料電池30は、上記の高分子電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、集電体とを少なくとも備える。
【0067】
該燃料電池30の構成の一例としては、前記膜電極接合体20、該膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ31、37、セパレータに取り付けられた集電体32、ガス拡散層33、およびパッキン34とを備える構成が挙げられる。アノード極側のセパレータ31にはアノード極側流路35が設けられ、水素、メタノール等のアルコール類のガス燃料または液体燃料が供給される。一方、カソード極側のセパレータ37にはカソード極側流路36が設けられ、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。なお、セパレータに代えて、あるいはセパレータとガス拡散層との間に、発泡金属等の多孔性導電体を用いたガス流路を設けることも可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
まず、以下の手順により各種ポリマーを合成した。
【0069】
(合成例1)B−A−B型トリブロック共重合体の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅(I)2.34ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン2.34ミリモル、ジメチル2,6−ジブロモヘプタンジオエート2.34ミリモル、tert−ブチルアクリレート(tBA)234ミリモルをジメチルホルムアミド(DMF)中で混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、70℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリtBAの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=11,600、Mw/Mn=1.20であった。
【0070】
次いで、得られた臭素を両末端に有するポリtBA0.261ミリモル、臭化銅(I)0.522ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.522ミリモル、スチレンモノマー156.5ミリモルを混合、窒素置換した。100℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。その後、メタノールへの再沈澱による精製によってPSt−b−PtBA−b−PStトリブロック共重合体を得た。得られたPSt−b−PtBA−b−PStトリブロック共重合体[bはブロック共重合を示す]の分子量をGPCで確認した結果、Mn=40,100、Mw/Mn=1.42であった。この結果より、各セグメントの分子量は、PtBAセグメントが11,600、PStセグメントが28,500と計算され、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0071】
次いで、得られたブロック共重合体をクロロホルム中、室温でトリフルオロ酢酸(tert−ブチル基に対して5当量)と混合することによりPtBAセグメントのtert−ブチル基の脱保護反応を行いカルボン酸へと変換し、(ポリスチレン)−b−(ポリアクリル酸)−b−(ポリスチレン)(PSt−b−PAA−b−PSt)トリブロック共重合体を得た。さらに、得られた重合体をDMFに溶解し、水素化ナトリウム(カルボン酸に対して5当量)および1,3−プロパンスルトン(カルボン酸に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PAAセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基含有セグメントの両末端にポリスチレンからなる非イオン伝導性セグメントを有するトリブロック共重合体(BP−1)を得た。BP−1におけるイオン伝導性セグメントAの重量分率を計算すると、W=0.281であり、ポリスチレン(非イオン伝導性セグメントB)の重量分率はW=0.719であった。このブロック共重合体BP−1の構造式を以下に示す。
【0072】
【化1】

【0073】
このブロック共重合体BP−1のガラス転移温度(Tg)を、示差走差熱量計(DSC)により測定したところ、スルホン酸含有セグメント(イオン伝導性セグメントAに相当)のTgは27℃、ポリスチレンセグメント(非イオン伝導性セグメントBに相当)のTgは102℃であった。
【0074】
(合成例2)A−B−A型トリブロック共重合体の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅(I)1.296ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン1.296ミリモル、ジメチル2,6−ジブロモヘプタンジオエート0.894ミリモル、スチレンモノマー432ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、100℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリスチレンの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=34.700、Mw/Mn=1.20であった。
【0075】
次いで、得られた臭素を両末端に有するポリスチレン0.072ミリモル、臭化銅(I)0.720ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.720ミリモル、tert−ブチルアクリレート(tBA)43.2モルをDMF中で混合、窒素置換した。80℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPtBA−b−PSt−b−PtBAトリブロック共重合体の分子量をGPCで確認した結果、Mn=50,400、Mw/Mn=1.13であった。この結果より、各セグメントの分子量は、PtBAセグメントが15,700、PStセグメントが34.700と計算され、H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0076】
次いで、得られたブロック共重合体をクロロホルム中、室温でトリフルオロ酢酸(tert−ブチル基に対して5当量)と混合することによりPtBAセグメントのtert−ブチル基の脱保護反応を行いカルボン酸へと変換し、(ポリアクリル酸)−b−(ポリスチレン)−b−(ポリアクリル酸)(PAA−b−PSt−b−PAA)トリブロック共重合体を得た。さらに、得られた重合体をDMFに溶解し、水素化ナトリウム(カルボン酸に対して5当量)および1,3−プロパンスルトン(カルボン酸に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PAAセグメントのスルホン化を行うことで、ポリスチレンからなる非イオン伝導性セグメントの両末端にスルホン酸基含有セグメント有するトリブロック共重合体(BP−2)を得た。BP−2におけるイオン伝導性セグメントAの重量分率を計算すると、W=0.293であり、ポリスチレン(非イオン伝導性セグメントB)の重量分率はW=0.707であった。このブロック共重合体BP−2の構造式を以下に示す。
【0077】
【化2】

【0078】
(合成例3)A−B型ジブロック共重合体の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅(I)3.51ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン3.51ミリモル、MBrP2.34ミリモル、tert−ブチルアクリレート(tBA)234ミリモルをジメチルホルムアミド(DMF)中で混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、70℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリtBAの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=10,100、Mw/Mn=1.11であった。
【0079】
次いで、得られた臭素を片末端に有するポリtBA0.20ミリモル、臭化銅(I)0.20ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.20ミリモル、スチレンモノマー120ミリモルを混合し、窒素置換した。100℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPtBA−b−PStジブロック共重合体の分子量をGPCで確認した結果、Mn=35,700、Mw/Mn=1.15であった。この結果より、各セグメントの分子量は、PtBAセグメントが10,100、PStセグメントが25,600と計算され、H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0080】
次いで、得られたブロック共重合体をクロロホルム中、室温でトリフルオロ酢酸(tert−ブチル基に対して5当量)と混合することによりPtBAセグメントのtert−ブチル基の脱保護反応を行いカルボン酸へと変換し、(ポリアクリル酸)−b−(ポリスチレン)(PAA−b−PSt)ジブロック共重合体を得た。さらに、得られた重合体をDMFに溶解し、水素化ナトリウム(カルボン酸に対して5当量)および1,3−プロパンスルトン(カルボン酸に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PAAセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基含有セグメントおよびポリスチレンからなる非イオン伝導性セグメントを有するジブロック共重合体(BP−3)を得た。BP−3におけるイオン伝導性セグメントAの重量分率を計算すると、W=0.283であり、ポリスチレン(非イオン伝導性セグメントB)の重量分率はW=0.717であった。このブロック共重合体BP−3の構造式を以下に示す。
【0081】
【化3】

【0082】
(合成例4)B−A−B型トリブロック共重合体の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅(I)1.85ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン1.85ミリモル、ジメチル2,6−ジブロモヘプタンジオエート0.925ミリモル、4−アセトキシスチレン(AcOSt)185ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、100℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリAcOStの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=18,100、Mw/Mn=1.19であった。
【0083】
次いで、得られた臭素を両末端に有するポリAcOSt0.139ミリモル、臭化銅(I)1.12ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン1.12ミリモル、スチレンモノマー111.1ミリモルを混合、窒素置換した。110℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPSt−b−PAcOSt−b−PStトリブロック共重合体の分子量をGPCで確認した結果、Mn=74,400、Mw/Mn=1.60であった。また、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比は、PAcOSt/PSt=123/320であった。
【0084】
次いで、得られたブロック共重合体を1,4−ジオキサン中、室温でヒドラジン(アセチル基に対して18当量)と混合することによりPAcOStセグメントのアセチル基の脱保護反応を行い水酸基へと変換し、(ポリスチレン)−b−(ポリヒドロキシスチレン)−b−(ポリスチレン)(PSt−b−PHS−b−PSt)トリブロック共重合体を得た。さらに、得られた重合体をDMFに溶解し、水素化ナトリウム(水酸基に対して5当量)および1,3−プロパンスルトン(ヒドロキシル基に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PHSセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基含有セグメントの両末端にポリスチレンからなる非イオン伝導性セグメントを有するトリブロック共重合体(BP−4)を得た。BP−4におけるイオン伝導性セグメントAの重量分率を計算すると、W=0.421であり、ポリスチレン(非イオン伝導性セグメントB)の重量分率はW=0.579であった。このブロック共重合体BP−4の構造式を以下に示す。
【0085】
【化4】

【0086】
このブロック共重合体BP−4について、合成例1と同様にDSCによりTgを測定したところ、スルホン酸含有セグメント(イオン伝導性セグメントAに相当)のTgは−8℃、ポリスチレンセグメント(非イオン伝導性セグメントBに相当)のTgは97℃であった。
【0087】
(合成例5)B−A−B型トリブロック共重合体の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅(I)0.188ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.188ミリモル、ジメチル2,6−ジブロモヘプタンジオエート0.375ミリモル、2−(アクリロキシエトキシ)−トリメチルシラン(HEA−TMS)37.5ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、80℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリHEA−TMSの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=14,500、Mw/Mn=1.14であった。
【0088】
次いで、得られた臭素を両末端に有するポリHEA−TMS0.172ミリモル、臭化銅(I)0.172ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.172ミリモル、スチレンモノマー103.4ミリモルを混合、窒素置換した。100℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPSt−b−PHEA−TMS−b−PStトリブロック共重合体の分子量をGPCで確認した結果、Mn=35,200、Mw/Mn=1.27であった。また、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比は、PHEA−TMS/PSt=76/220であった。
【0089】
次いで、得られたブロック共重合体をTHF中、室温で塩酸5mlと混合することによりPHEA−TMSセグメントのトリメチルシリル基の脱保護反応を行い水酸基へと変換し、(ポリスチレン)−b−(ポリヒドロキエチルアクリレート)−b−(ポリスチレン)(PSt−b−PHEA−b−PSt)トリブロック共重合体を得た。さらに、得られた重合体をDMFに溶解し、水素化ナトリウム(水酸基に対して5当量)および1,3−プロパンスルトン(ヒドロキシル基に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PHEAセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基含有セグメントの両末端にポリスチレンからなる非イオン伝導性セグメントを有するトリブロック共重合体(BP−5)を得た。BP−5におけるイオン伝導性セグメントAの重量分率を計算すると、W=0.441であり、ポリスチレン(非イオン伝導性セグメントB)の重量分率はW=0.559であった。このブロック共重合体BP−5の構造式を以下に示す。
【0090】
【化5】

【0091】
このブロック共重合体BP−5について、合成例1と同様にDSCによりTgを測定したところ、スルホン酸含有セグメント(イオン伝導性セグメントAに相当)のTgは−37℃、ポリスチレンセグメント(非イオン伝導性セグメントBに相当)のTgは104℃であった。
【0092】
(実施例1)
合成例1で得たB−A−B型トリブロック共重合体BP−1を固形分濃度20wt%となるようにTHF/メタノール混合溶媒に溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚50μmの膜を得た。得られた電解質膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を図3に示す。このTEM像より、本実施例の電解質膜は、イオン伝導性セグメントAと非イオン伝導性セグメントBとがラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることが確認された。
【0093】
(プロトン伝導度の評価)
得られた電解質膜について、恒温恒湿槽内で、四端子法により交流インピーダンス測定(周波数10Hzから1kHz、印加電圧10mV)により電解質膜の抵抗を測定し、その膜厚からイオン伝導度を求めた。
温度50℃、相対湿度50%におけるプロトン伝導度は1.11×10−2S/cmであった。
【0094】
(水に対する形状・寸法安定性評価)
電解質膜を精製水中に3時間浸漬し、目視でその変化を確認した。形状・寸法ともに変化が無かった場合を○、形状は維持されているが膨潤している場合を△、膜が破れて形状を維持していない場合を×とした。
BP−1キャスト膜については、精製水中に3時間浸漬した後も、形状・寸法ともに変化が見られなかった。
【0095】
(膜の機械的強度評価)
膜の機械的強度を評価するため、BP−1キャスト膜を短冊状(長さ3cm)に作製し、マイクロオートグラフMST−1(SHIMADZU社製)を用いて引張り試験を行い、破断強度および破断伸度を測定した。
膜の機械的強度評価の結果は、破断強度18.1MPa、破断伸度17%であった。プロトン伝導度の評価、水に対する形状・寸法安定性評価および膜の機械的強度評価の結果を表1にまとめた。
なお、BP−1キャスト膜のガス透過性は、JIS k−7126第2部差圧式GC法により測定した。その結果、実施例1のキャスト膜は、40℃・乾燥条件下での水素透過率が4.1×10cm/m・24h・atm、40℃・相対湿度90%下での水素透過率が3.4×10cm/m・24h・atmであった。
【0096】
(実施例2)
合成例1で得たB−A−B型トリブロック共重合体BP−1を固形分濃度20wt%となるようにジオキサン/イソプロピルアルコール混合溶媒に溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚50μmの膜を得た。得られた電解質膜の断面をTEMで観察した結果を図4に示す。このTEM像より、本実施例の電解質膜は、非イオン伝導性セグメントBがマトリクス相を、イオン伝導性セグメントAがシリンダー状の連続相を構成するミクロ相分離構造を形成していることが確認された。
この電解質膜について、プロトン伝導度の評価、水に対する形状・寸法安定性評価および膜の機械的強度評価を実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0097】
(実施例3)
合成例4で得たB−A−B型トリブロック共重合体BP−4を固形分濃度17wt%となるようにジメチルアセトアミドに溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚40μmの膜を得た。得られた電解質膜の断面をTEMで観察した結果を図5に示す。このTEM像より、本実施例の電解質膜は、イオン伝導性セグメントAと非イオン伝導性セグメントBとがラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることが確認された。
この電解質膜について、プロトン伝導度の評価、水に対する形状・寸法安定性評価および膜の機械的強度評価を実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0098】
(実施例4)
合成例5で得たB−A−B型トリブロック共重合体BP−5を固形分濃度17wt%となるようにTHF/メタノール混合溶媒に溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚75μmの膜を得た。得られた電解質膜の断面をTEM観察した結果を図8に示す。このTEM像より、本実施例の電解質膜は、イオン伝導性セグメントAがシリンダー状の連続相を、非イオン伝導性セグメントBがマトリクス相を構成するミクロ相分離構造を形成していることが確認された。
この電解質膜について、プロトン伝導度の評価、耐水性および引張り試験を実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0099】
(実施例5)
合成例1で得たB−A−B型トリブロック共重合体BP−1を固形分濃度18wt%となるようにN,N−ジメチルフォルムアミドに溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚60μmの膜を得た。得られた電解質膜の断面をTEM観察した結果を図11に示す。このTEM像および三次元TEM解析の結果、本実施例の電解質膜は、イオン伝導性セグメントAが三次元網目形状の連続相を、非イオン伝導性セグメントBがマトリクス相を構成するミクロ相分離構造(共連続状構造)を形成していることが確認された。
この電解質膜について、プロトン伝導度の評価、耐水性および引張り試験を実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0100】
(比較例1)
合成例2で得たA−B−A型トリブロック共重合体BP−2を固形分濃度20wt%となるようにTHF/メタノール混合溶媒に溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚50μmの膜を得た。
BP−2キャスト膜について、プロトン伝導度の評価、水に対する形状・寸法安定性評価および膜の機械的強度評価を実施例1と同様の方法で行った。結果を表1にまとめた。
【0101】
(比較例2)
合成例3で得たA−B型ジブロック共重合体BP−3を固形分濃度20wt%となるようにTHF/メタノール混合溶媒に溶解した後、キャスト法によりガラス基板上に製膜し、膜厚50μmの膜を得た。
BP−3キャスト膜について、プロトン伝導度の評価、水に対する形状・寸法安定性評価および膜の機械的強度評価を実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
なお、BP−3キャスト膜のガス透過率を実施例1と同様に測定した結果、40℃・乾燥条件下および40℃・相対湿度90%下での水素透過率がいずれも1.1×10 cm/m・24h・atmであった。
【0102】
【表1】

【0103】
膜電極接合体、および燃料電池の作製方法の一例を以下に示す。
【0104】
(実施例6)
触媒粉末として、HiSPEC1000(登録商標、ジョンソン&マッセイ社製)を使用し、電解質溶液としてはNafion溶液(登録商標、デュポン社製)を使用した。まず、触媒粉末と電解質溶液の混合分散液を作製し、ドクターブレード法を用いてPTFEシート上に成膜し、触媒シートを作製した。
【0105】
次に、作製した触媒シートをデカール法によって、100℃、100kgf/cmで、実施例1で得たBP−1電解質膜上にホットプレス転写することで、電解質膜21上に触媒層22、23を形成し、膜電極接合体20を作製した(図6参照)。さらに、得られた膜電極接合体を図7の20に配置し、燃料電池30を作製した。この時、ガス拡散層33として、カーボンクロス電極(E−TEK社製)を用いた。
【0106】
作製した燃料電池を用いて、アノード側に水素ガスを注入速度500ml/minで、カソード側には空気を注入速度2000ml/min供給し、セル出口圧力を大気圧、相対湿度をアノード、カソードともに100%、セル温度を25℃とした。得られた燃料電池の開回路電圧を測定したところ、1.02Vであった。さらに、電流−電圧測定を行ったところ、電流密度400mA/cmにおいてセル電位は680mVであった(図9参照)。その後電流密度400mA/cmで5時間定電流測定を行ったが、セル電圧の低下等は確認されず、安定した出力が得られた。5時間定電流測定を行った後の発電特性を図9に示す。定電流測定前後における発電特性に変化が無いことが確認された。
【0107】
(比較例3)
比較例2で得られたBP−3電解質膜を用いた以外は実施例5と同様の条件で燃料電池を作製し、運転を行った。得られた燃料電池の開回路電圧を測定したところ、0.90Vであった。さらに、電流−電圧測定を行ったところ、電流密度400mA/cmにおいて、セル電位は600mVであった(図10参照)。その後電流密度200mA/cmで定電流測定を行ったが開始後10分程度でセル電圧は急激に低下したため、発電を中止した。発電中止後の膜電極接合体を観察したところ、破膜が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の高分子電解質膜は、プロトン伝導性、水に対する形状・寸法安定性評価、膜の機械的強度(引張り強度、靭性)に優れているので、燃料電池用電解質膜として利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 高分子電解質膜
11 疎水性の非イオン伝導性ドメイン
12 イオン伝導性ドメイン
13 イオン伝導性セグメント
14、15 非イオン伝導性セグメント
16 B−A−B型トリブロック共重合体
20 膜電極接合体
21 高分子電解質膜
22、23 触媒層
30 燃料電池
31 アノード極側セパレータ
32 集電体
33 ガス拡散層
34 パッキン
35 アノード極側流路
36 カソード極側流路
37 カソード極側セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質であって、前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることを特徴とする高分子電解質。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
【請求項2】
前記トリブロック共重合体が脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とすることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
イオン伝導性ドメインと非イオン伝導性ドメインとからなるミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜であって、前記ミクロ相分離構造が請求項1または2に記載の高分子電解質で形成されることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項4】
前記イオン伝導性ドメインが連続相を形成し、前記非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成することを特徴とする請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記イオン伝導性ドメインおよび非イオン伝導性ドメインがラメラ形状を有することを特徴とする請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
下記セグメントAと下記セグメントBとから構成され、各セグメントがB−A−Bの順に配列したトリブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、前記トリブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが連続相を形成し、前記セグメントBからなる非イオン伝導性ドメインがマトリクス相を形成することを特徴とする高分子電解質膜。
セグメントA:ガラス転移温度が40℃以下であるイオン伝導性セグメント
セグメントB:ガラス転移温度が70℃以上である非イオン伝導性セグメント
【請求項7】
前記ミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインがシリンダー形状を有していることを特徴とする請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記ミクロ相分離構造において、前記セグメントAからなるイオン伝導性ドメインが三次元網目形状を有していることを特徴とする請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
前記トリブロック共重合体中における前記セグメントAの重量分率Wが0.05<W<0.5であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
前記トリブロック共重合体が脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素を主鎖とすることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項3乃至10のいずれかに記載の高分子電解質膜の両面に電極が配置されたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の膜電極接合体と、集電体とを少なくとも備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−259796(P2009−259796A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64679(P2009−64679)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】