説明

高分子電解質型燃料電池用のセパレータおよびその製造方法

【課題】 接触抵抗が極めて小さく、単位セルの有効面積が広い高分子電解質型燃料電池を簡便に製造できる高強度、高耐食性のセパレータと、このようなセパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】 高分子電解質型燃料電池用のセパレータを、少なくとも一方の面に溝部を備えた金属基体と、この金属基体を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、金属基体の溝部を有する面に配設されたガス拡散層とを備えたものとし、このようなセパレータは、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成し、次に、導電性の電着液を用いて金属基体を被覆するように樹脂塗膜を形成し、次に、金属基体の溝部を覆うように、溝部を除く部位を被覆する樹脂塗膜にガス拡散層を当接させて載置し、その後、樹脂塗膜を硬化させて樹脂層を形成するとともに、ガス拡散層を金属基体に接合して、溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のセパレータに関し、特に固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した燃料電池の単位セル間に使用するセパレータと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、簡単には、外部より燃料(還元剤)と酸素または空気(酸化剤)を連続的に供給し、電気化学的に反応させて電気エネルギーを取り出す装置で、その作動温度、使用燃料の種類、用途などで分類される。また、最近では、主に使用される電解質の種類によって、大きく、固体酸化物型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池、高分子電解質型燃料電池、アルカリ水溶液型燃料電池の5種類に分類させるのがー般的である。
これらの燃料電池は、メタン等から生成された水素ガスを燃料とするものであるが、最近では、燃料としてメタノール水溶液をダイレクトに用いるダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCとも言う)も知られている。
なかでも、固体高分子膜を2種類の電極で挟み込み、更に、これらの部材をセパレータで挟んだ構成の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとも言う)が注目されている。
【0003】
このPEFCにおいては、固体高分子電解質膜の両側に、空気極(酸素極)と燃料極(水素極)を配置した単位セルを複数個積層し、目的に応じて起電力を大きくしたスタック構造のものが一般的である。単位セル間に配設されるセパレータは、一般に、そのー方の面には、隣接するー方の単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部が形成され、他方の面には、隣接する他方の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部が形成されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−249417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなスタック構造のPEFCは、燃料ガス供給側のセパレータと酸化剤ガス供給側のセパレータとの間に、ガス拡散層、触媒層、高分子電解質膜、触媒層、ガス拡散層の各層が積層し一体化した単位セルが挟持されている。このため、各層の位置合わせが必要となり、製造時の単位セルの組み付け作業性が悪く、また、各層の接触が不十分な場合、接触抵抗が大きくなってしまうという問題があった。
これを防止するために、スタック構造のPEFCを構成するセパレータをボルトで締め付けることにより各層の接触を確実にすることが考えられる。しかし、締め付けに必要な幅を設けると、単位セルの有効面積が減少するという問題があった。
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、接触抵抗が極めて小さく、単位セルの有効面積が広い高分子電解質型燃料電池を簡便に製造できる高強度、高耐食性のセパレータと、このようなセパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明の高分子電解質型燃料電池用のセパレータは、少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備えるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記樹脂層は、導電材料を含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であるような構成とした。
【0006】
また、本発明の高分子電解質型燃料電池用のセパレータは、少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電解重合により形成された樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備え、前記樹脂層は導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有するような構成とした。
【0007】
また、本発明の高分子電解質型燃料電池用のセパレータは、少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電解重合により形成された樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備え、前記樹脂層は電解重合により形成された導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層と、この第1の樹脂層を被覆するように電着により形成され導電材料を含有する第2の樹脂層からなるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記樹脂層は、厚みが1〜100μmの範囲であるような構成とした。
【0008】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、電着液を用いて前記金属基体を被覆するように導電性の樹脂塗膜を形成する工程と、前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位を被覆する前記樹脂塗膜にガス拡散層を当接させて載置し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて導電性の樹脂層を形成するとともに、前記ガス拡散層を金属基体に接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、を有するような構成とした。
【0009】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、電着液を用いて前記金属基体を被覆するように樹脂塗膜を形成し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて、導電性の樹脂層を形成する工程と、前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、を有するような構成とした。
【0010】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成する工程と、前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、を有するような構成とした。
【0011】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成し、次いで、電着液を用いて前記第1の樹脂層を被覆するように導電性の樹脂塗膜を形成する工程と、前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位を被覆する前記樹脂塗膜にガス拡散層を当接させて載置し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて導電性の樹脂層を形成するとともに、前記ガス拡散層を金属基体に接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、を有するような構成とした。
【0012】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成し、次いで、電着液を用いて前記第1の樹脂層を被覆するように樹脂塗膜を形成し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて、導電性の第2の樹脂層を形成する工程と、前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセパレータは、ガス拡散層を一体的に備えているので、高分子電解質型燃料電池の単位セルの組み付け作業における位置合わせが従来に比べて大幅に容易となり、かつ、単位セルを構成する各層の接触が向上し、単位セルの有効面積が広く接触抵抗が極めて低い高分子電解質型燃料電池の製造が可能であり、また、金属基板には導電性の樹脂層が電着により形成されているので、高い耐食性と強度を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[セパレータ]
図1は本発明の高分子電解質型燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す断面図である。図1において、本発明のセパレータ1は、金属基体2と、この金属基体2の両面に形成された溝部3,3と、金属基体2の両面を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層5と、溝部3を覆うように金属基体2に配設されたガス拡散層7,7を備えている。
セパレータ1を構成する金属基体2の材質は、電気導電性が良く、所望の強度が得られ、加工性の良いものが好ましく、例えば、ステンレス、冷間圧延鋼板、アルミニウム、チタン、銅等が挙げられる。
【0015】
金属基体2が有する溝部3,3は、ガス拡散層7,7で覆われて形成された空間が供給用溝部を構成しており、セパレータ1が高分子電解質型燃料電池に組み込まれたときに、一方が、隣接する単位セルに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用溝部となり、他方が、隣接する別の単位セルに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給用溝部となるものである。また、溝部3,3の一方が燃料ガス供給用溝部、酸化剤ガス供給用溝部のいずれかとなり、他方が冷却水供給用溝となるものであってもよい。さらに、金属基体2の一方の面のみに溝部3を備えるものであってもよい。
このような溝部3,3の形状は、特に制限はなく、蛇行した連続形状、櫛形状等であってよく、また、深さ、幅、断面形状も特に制限はない。また、金属基体2の表裏で、溝部3,3の形状が異なるものであってもよい。
【0016】
セパレータ1を構成する樹脂層5は、導電性を有するとともに、金属基体2に耐食性を付与するためのものである。この樹脂層5は、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により成膜し、その後、硬化させて形成することができる。
アニオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、マレイン化油樹脂、ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のアニオン性合成高分子樹脂とメラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。一方、カチオン性合成高分子樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは任意の組み合わせによる混合物として使用することができる。また、上記のカチオン性合成高分子樹脂とポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。
【0017】
また、上記の電着性を有する合成高分子樹脂に粘着性を付与するために、ロジン系、テルペン系、石油樹脂等の粘着性付与樹脂を必要に応じて添加してもよい。
このような電着性の合成高分子樹脂は、アルカリ性または酸性物質により中和して水に可溶化された状態、あるいは水分散状態で電着に供される。すなわち、アニオン性合成高分子樹脂は、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類、アンモニア、苛性カリ等の無機アルカリで中和する。また、カチオン性合成高分子樹脂は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等の酸で中和する。そして、中和された水可溶の高分子樹脂は、水分散型または溶解型として水に希釈された状態で使用される。
【0018】
電着により形成された樹脂層5の厚みは、1〜100μm、好ましくは5〜30μmの範囲とすることができる。樹脂層5の厚みが1μm未満であると、耐食性が不十分であり、100μmを超えると、接触抵抗が増大したり形状が不安定となり好ましくない。
樹脂層5に含有される導電材料としては、例えば、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等のカーボン素材、耐食性金属等が挙げられるが、耐酸性かつ導電性が所望のものが得られれば、これらの導電材料に限定されない。特に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等の微細繊維状炭素材料は、樹脂層5に導電性を付与するために好適である。このような導電材料の樹脂層5における含有量は、樹脂層5に要求される導電性に応じて適宜設定することができ、例えば、1〜30重量%の範囲で設定することができる。
【0019】
尚、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等の微細繊維状炭素材料は、ナノテクノロジーの素材として、複合材料、電子デバイス等の種々の分野に適用が期待されているものであり、これらをフィラーとして複合材料に用いた場合には、これらが有する物性を複合材料に付与することができる。例えば、カーボンナノチューブは、導電性、耐酸性、加工性、機械的強度等の面で優れており、フィラーとして複合材料に用いられた場合には、このようなカーボンナノチューブの優れた物性を複合材料に付与することができる。
セパレータ1を構成するガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)7,7は、多孔質の集電材からなるものであり、例えば、カーボン繊維、アルミナ等を使用することができる。ガス拡散層7,7の厚みは、例えば、20〜300μm程度の範囲で適宜設定することができる。
尚、上記のセパレータ1は、ガス拡散層7,7よりも外側の金属基体2上に、高分子電解質型燃料電池の単位セルの組み付け用のシール層を備えるものであってもよい。
【0020】
また、本発明では、セパレータ1を構成する樹脂層5が、電解重合により形成され、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有するような樹脂層であってもよい。電解重合は、基本的には、芳香族化合物をモノマーとして含む電解液に電極を浸漬し通電して行い、電気化学的に酸化または還元して重合する公知の方法である。樹脂層中へのドーパントの含有は、電解重合の際にドーパントを含ませる電気的ドーピング、あるいは、電解重合後に導電性高分子をドーパントの液体、またはドーパント分子を含む溶液に浸漬する液相ドーピングにより行うことができる。ドーパントとしては、アルカリ金属、アルキルアンモニウムイオン等のドナー型のドーパント、ハロゲン類、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属ハライド、有機酸等のアクセプタ型のドーパントを挙げることができる。
樹脂層5中のドーパント量は、樹脂層5に要求される導電性に応じて適宜設定することができる。
【0021】
さらに、本発明では、セパレータ1を構成する樹脂層5が、電解重合により形成された導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層と、この第1の樹脂層を被覆するように電着により形成され導電材料を含有する第2の樹脂層からなる複合膜構造であってもよい。
上述の本発明のセパレータの実施形態は例示であり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[セパレータの製造方法]
図2は、本発明のセパレータの製造方法の一実施形態を、図1に示されるセパレータ1を例として説明する図である。
図2において、金属板材2′の両面にフォトリソグラフィーにより所望のパターンでレジスト9,9を形成する(図2(A))。次に、このレジスト9,9をマスクとして両面から金属板材2′をエッチングして溝部3,3を形成し、その後、レジスト9,9を剥離して金属基体2を得る(図2(B))。
次いで、この金属基体2の両面に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により樹脂塗膜5′を形成する(図2(C))。尚、本発明では、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を電解重合により金属基体2の両面に形成し、次いで、上記のように電着液を用いて第1の樹脂層を被覆するように樹脂塗膜5′を形成してもよい。
【0023】
次に、金属基体2の溝部3,3を覆うように、溝部3,3を除く金属基体2を被覆する樹脂塗膜5′にガス拡散層7,7を載置する(図2(D))。その後、樹脂塗膜5′を硬化させて樹脂層5を形成することにより、図1に示される本発明のセパレータ1が得られる。形成された樹脂層5は、良好な導電性と高い耐食性を具備したものであり、同時に、ガス拡散層7,7を金属基体2に接合する作用をなしている。また、溝部3,3とガス拡散層7,7で囲まれた空間が供給用溝部を構成する。
上記のガス拡散層7,7の載置は、例えば、基材上に剥離可能にガス拡散層を備えた転写シートを用いて行うことができる。この場合、基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アルミナ箔、銅箔、テフロン(登録商標)シート等を用いることができる。また、基材上へのガス拡散層の形成は、例えば、カーボン繊維、アルミナ等を、酢酸メチル、2−プロパノール、ブタノール等によりペースト化したガス拡散用塗工液を用いて、スクリーン印刷法により印刷、乾燥することにより行うことができる。
【0024】
図3は、本発明のセパレータの製造方法の他の実施形態を、図1に示されるセパレータ1を例として説明する図である。
図3において、まず、金属板材2′の両面にフォトリソグラフィーにより所望のパターンでレジスト9,9を形成する(図3(A))。次に、このレジスト9,9をマスクとして両面から金属板材2′をエッチングして溝部3,3を形成し、その後、レジスト9,9を剥離して金属基体2を得る(図3(B))。
次に、この金属基体2の両面に、電着性を有する各種アニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂中に導電材料を分散させた電着液を用いて電着により樹脂塗膜を形成し、その後、硬化させて樹脂層5を形成する(図3(C))。このように形成された樹脂層5は、良好な導電性と高い耐食性を具備したものとなる。
【0025】
上記の樹脂層5の形成は、以下のようにしてもよい。すなわち、電解重合により、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する樹脂層5を形成することができる。また、電解重合により、導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を金属基体2の両面に形成し、次いで、上記のように電着液を用いて第1の樹脂層を被覆するように樹脂塗膜を形成し、その後、硬化させて第2の樹脂層を形成し、複合膜構造の樹脂層5としてもよい。
次いで、溝部3,3を除く金属基体2を被覆する樹脂層5上に、導電性接着剤層8を介して、ガス拡散層7,7を接合する(図3(D))。これにより、溝部3,3とガス拡散層7,7で囲まれた空間が供給用溝部を構成したセパレータ1が得られる。
上記の導電性接着剤層8は、例えば、上述の導電材料を含有した接着剤を用いて形成することができる。また、ガス拡散層7,7の接合は、上述のようなガス拡散層の転写シートを用いて行うことができる。
上述の本発明のセパレータ製造方法の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0026】
ここで、本発明のセパレータを用いた高分子電解質型燃料電池の一例を、図4〜図7を参照して説明する。図4は高分子電解質型燃料電池の構造を説明するための部分構成図であり、図5は高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図であり、図6および図7は、それぞれ高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を異なった方向から示す斜視図である。
図4〜図7において、高分子電解質型燃料電池11は、単位セルである膜電極複合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)21とセパレータ31とからなる。
MEA21は、図5に示されるように、高分子電解質膜22の一方の面に配設された触媒層23とガス拡散層37とからなる燃料極(水素極)25と、高分子電解質膜22の他方の面に配設された触媒層24とガス拡散層38とからなる空気極(酸素極)26を備えている。
【0027】
セパレータ31は、一方の面に燃料ガス供給用溝部33aと、これを覆うように配設されたガス拡散層37を備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部34aと、これを覆うように配設されたガス拡散層38を備えたセパレータ31Aと、一方の面に燃料ガス供給用溝部33aと、これを覆うように配設されたガス拡散層37を備え、他方の面に冷却水供給用溝部34bを備えたセパレータ31Bと、一方の面に冷却水供給用溝部33bを備え、他方の面に酸化剤ガス供給用溝部34aと、これを覆うように配設されたガス拡散層38を備えたセパレータ31Cとからなっている。このようなセパレータ31A,31B,31Cは、本発明のセパレータであり、その両面に、図1に示されるような樹脂層5が形成されているが、図示例では、省略している。
【0028】
各セパレータ31A,31B,31Cと上記の高分子電解質膜22の所定位置には、2個の燃料ガス供給孔45a,45b、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46b、2個の冷却水供給孔47a,47bが貫通孔として形成されている。そして、セパレータ31Aのガス拡散層38が配設されている面に、MEA21を構成する触媒層24が当接し、セパレータ31Bのガス拡散層37が配設されている面に、MEA21を構成する触媒層23が当接するように、また、セパレータ31Bの冷却水供給用溝部34bが形成された面とセパレータ31Cの冷却水供給用溝部33bが形成された面とが当接するように、各セパレータ31A,31B,31Cと単位セルを構成する触媒層23、高分子電解質膜22、触媒層24が積層され、この繰り返しで高分子電解質型燃料電池11が構成されている。このように積層された状態で、上記の2個の燃料ガス供給孔45a,45bはそれぞれ積層方向に貫通する燃料ガスの供給路を形成し、2個の酸化剤ガス供給孔46a,46bはそれぞれ積層方法に貫通する酸化剤ガスの供給路を形成し、2個の冷却水供給孔47a,47bはそれぞれ積層方向に貫通する冷却水の供給路を形成している。
【実施例】
【0029】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
金属板材として、厚み4.5mmのステンレス板(SUS304)を準備し、表面の脱脂処理を行った。
次に、このステンレス板の両面に、感光材料(カゼインと重クロム酸アンモニウムとの混合物)をスクリーン印刷法により塗布して厚み20μmの塗膜を形成し、溝部形成用のフォトマスクを介して露光(5kW水銀灯により60秒間照射)、現像(40℃温水をスプレー)してレジストを形成した。
【0030】
次いで、上記のレジストを介してステンレス板の両面から70℃に加熱した塩化第二鉄溶液をスプレーして、所定の深さまでハーフエッチングを行った。その後、80℃の苛性ソーダ水溶液でレジストを剥離し、洗浄処理を施した。これにより、幅が1mm、深さが0.5mmのほぼ半円形状の断面を有し、振れ幅50mm、ピッチ2mmで蛇行した長さ1250mmの溝部を両面に備えた金属基体を得た。
また、厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(日東電工(株)製 ナフロン)上に、下記組成のガス拡散用塗工液をスクリーン印刷法により印刷、乾燥し、厚み50μmのガス拡散層を剥離可能に形成して、ガス拡散層転写シートを得た。
(ガス拡散用塗工液の組成)
・カーボン長繊維(東レ(株)製 トレカミルドファイバー) … 20重量%
・カーボン短繊維(東レ(株)製 トレカカットファイバー) … 35重量%
・2−プロパノール … 45重量%
【0031】
一方、以下のようにして、エポキシ電着液を調製した。
まず、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(エポキシ当量910)1000重量部を撹拌下に70℃に保ちながら、エチレングリコールモノエチルエーテル463重量部に溶解させ、さらに、ジエチルアミン80.3重量部を加えて100℃で2時間反応させてアミンエポキシ付加物(A)を調製した。
また、コロネートL(日本ポリウレタン(株)製 ジイソシアネート:NCO13%の不揮発分75重量%)875重量部にジブチル錫ラウレート0.05重量部を加え50℃に加熱し、これに2−エチルヘキサノール390重量部を添加し、その後、120℃で90分間反応させた。得られた反応生成物をエチレングリコールモノエチルエーテル130重量部で希釈した成分(B)を得た。
【0032】
次に、上記のアミンエポキシ付加物(A)1000重量部と成分(B)400重量部からなる混合物を、氷酢酸30重量部で中和した後、脱イオン水570重量部を用いて希釈し、不揮発分50重量%の樹脂Aを調製した。この樹脂A200.2重量部(樹脂成分86.3容量)、脱イオン水583.3重量部、およびジブチル錫ラウレート2.4重量部を配合してエポキシ電着液を調製した。
次いで、上記のエポキシ電着液に、導電材料としてカーボンナノチューブ(GSIクレオス(株)製 カルベール)を樹脂固形分に対して20重量%添加し分散させて、電着液とした。
上記の電着液を20℃に保って撹拌し、この中に上記の金属基体を浸漬し、極間40mm、電圧50Vで30秒間電着を行い、引き上げた金属基体を純水洗浄した。
【0033】
次に、上述のように作製したガス拡散層転写シートのガス拡散層を、上記の樹脂塗膜に圧着し、窒素雰囲気中で180℃、1時間の加熱硬化処理を施した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離した。これにより、溝部を含めた金属基体上には、厚み15μmの電着層(樹脂層)が形成され、同時に、溝部を覆うようにガス拡散層が樹脂層を介して金属基体に接合された本発明のセパレータが得られた。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様にして、溝部を備えた金属基体を作製した。
また、実施例1と同様にして、ガス拡散層転写シートを作製した。
さらに、実施例1と同様にして、電着液を調製した。この電着液を用いて、実施例1と同様の条件で電着、洗浄して樹脂塗膜を形成し、さらに、窒素雰囲気中で180℃、1時間の加熱硬化処理を施して、溝部を含めた金属基体上に厚み15μmの電着層(樹脂層)を形成した。
【0035】
次に、金ペースト((株)スリーボンド製)を、上記のガス拡散層転写シートのガス拡散層上にスクリーン印刷法により塗布(塗布量3g/m2)して導電性接着剤層を形成した。
次いで、このガス拡散層転写シートのガス拡散層を、上記の導電性接着剤層を介して樹脂層に圧着し、200℃、1.5時間の加熱硬化処理を施した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離した。これにより、溝部を覆うようにガス拡散層が金属基体に接合された本発明のセパレータが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した燃料電池の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の高分子電解質型燃料電池用のセパレータの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のセパレータの製造方法の一実施形態を、図1に示されるセパレータを例として説明する図である。
【図3】本発明のセパレータの製造方法の他の実施形態を、図1に示されるセパレータを例として説明する図である。
【図4】本発明のセパレータを使用した高分子電解質型燃料電池の一例を説明するための部分構成図である。
【図5】図4に示される高分子電解質型燃料電池を構成する膜電極複合体を説明するための図である。
【図6】図4に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を示す斜視図である。
【図7】図4に示される高分子電解質型燃料電池のセパレータと膜電極複合体を離間させた状態を図6とは異なった方向から示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1…セパレータ
2…金属基体
3…溝部
5…樹脂層
7…ガス拡散層
2′…金属板材
5′…樹脂塗膜
11…高分子電解質型燃料電池
21…膜電極複合体(MEA)
31A,31B,31C…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電着により形成された導電性の樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備えることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項2】
前記樹脂層は、導電材料を含有することを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項3】
前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項4】
少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電解重合により形成された樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備え、前記樹脂層は導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項5】
少なくとも一方の面に溝部を有する金属基体と、該金属基体を被覆するように電解重合により形成された樹脂層と、前記金属基体の溝部を有する面に溝部を覆うように配設されたガス拡散層とを備え、前記樹脂層は電解重合により形成された導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層と、この第1の樹脂層を被覆するように電着により形成され導電材料を含有する第2の樹脂層からなることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項6】
前記導電材料は、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、耐食性金属の少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項7】
前記樹脂層は、厚みが1〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の高分子電解質型燃料電池用のセパレータ。
【請求項8】
固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、
金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、
電着液を用いて前記金属基体を被覆するように導電性の樹脂塗膜を形成する工程と、
前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位を被覆する前記樹脂塗膜にガス拡散層を当接させて載置し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて導電性の樹脂層を形成するとともに、前記ガス拡散層を金属基体に接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法。
【請求項9】
固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、
金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、
電着液を用いて前記金属基体を被覆するように樹脂塗膜を形成し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて、導電性の樹脂層を形成する工程と、
前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法。
【請求項10】
固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、
金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、
導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成する工程と、
前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法。
【請求項11】
固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、
金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、
導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成し、次いで、電着液を用いて前記第1の樹脂層を被覆するように導電性の樹脂塗膜を形成する工程と、
前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位を被覆する前記樹脂塗膜にガス拡散層を当接させて載置し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて導電性の樹脂層を形成するとともに、前記ガス拡散層を金属基体に接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法。
【請求項12】
固体高分子電解質膜の両側に電極を配した単位セルを複数個積層した高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法において、
金属板材の少なくとも一方の面に溝部を形成して金属基体を作成する工程と、
導電性高分子からなる樹脂に導電性を高めるドーパントを含有する第1の樹脂層を電解重合により前記金属基体を被覆するように形成し、次いで、電着液を用いて前記第1の樹脂層を被覆するように樹脂塗膜を形成し、その後、前記樹脂塗膜を硬化させて、導電性の第2の樹脂層を形成する工程と、
前記金属基体の前記溝部を覆うように、前記溝部を除く部位に導電性接着剤を介してガス拡散層を接合して、前記溝部と前記ガス拡散層で囲まれた供給用溝部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用のセパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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