説明

高分子電解質膜、並びに、これを用いた膜−電極接合体及び燃料電池

【課題】高電流密度下でも十分に高い発電性能を有する燃料電池を作製することができる高分子電解質膜、並びに上記高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体及び燃料電池を提供すること。
【解決手段】
高分子電解質を含む高分子電解質膜であって、膜厚が25μm以下であり、かつ、80℃で水の吸着が飽和した湿潤状態と、23℃、相対湿度50%で水の吸着が平衡に達した乾燥状態との間を移行させたときの面方向の寸法変化率が5〜25%である高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜、並びに、これを用いた膜−電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、場合により「燃料電池」という)におけるプロトン伝導膜として、プロトン伝導性の高分子電解質膜からなるものが用いられている。近年では、住宅用や自動車用等の用途における発電機として、燃料電池の実用化が期待されており、かかる燃料電池に対しては、従来にも増して高い発電効率での運転が可能であることが求められている。
【0003】
高効率の運転を可能とするには、プロトン伝導膜のプロトン伝導性を高めるといった方法がある。高いプロトン伝導性を確保することを目的として、当該プロトン伝導膜に含まれる高分子電解質の化学構造が種々検討されている。例えば、特許文献1では、スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントとからなり、これらのセグメントの重量分率比が、特定の範囲にある芳香族ポリエーテルスルホンブロック共重合体が提案され、当該芳香族ポリエーテルスルホンブロック共重合体を含む高分子電解質膜が優れたプロトン伝導性を発現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−31232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術による高分子電解質膜を用いた場合には、高電流密度下では燃料電池が十分な出力を発揮できないことも多く、高効率の運転を確実に達成するのは未だ困難な傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高電流密度下でも十分に高い発電性能を有する燃料電池を作製することができる高分子電解質膜を提供することを目的とする。本発明はまた、上記高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、高分子電解質膜の膜厚及び吸水時の面方向の寸法変化率を所定の範囲とすることで、高電流密度下での発電性能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、高分子電解質を含む高分子電解質膜であって、膜厚が25μm以下であり、かつ、80℃で水の吸着が飽和した湿潤状態と、23℃、相対湿度50%で水の吸着が平衡に達した乾燥状態との間を移行させたときの面方向の寸法変化率が5〜25%である高分子電解質膜を提供する。
【0009】
従来、燃料電池に使用される高分子電解質膜では、その耐久性を向上させるため、高分子電解質膜の寸法変化率を抑制しようとすることが主として検討されていたことに対し、本発明者らは、高分子電解質膜の厚みを薄くして、面方向の寸法変化率を特定量にすることにより、高電流密度下での発電性能を向上できることを見出した。また、このように面方向の寸法変化率に係る膨潤・収縮は、燃料電池の実用的な運転に支障がないことも明らかになった。
【0010】
上記高分子電解質膜において、高分子電解質のイオン交換容量が2.5meq/g以上であると、より一層高電流密度下での発電性能を向上することができる。
【0011】
また、高分子電解質膜の耐熱性を向上する観点から、上記高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であることが好ましい。
【0012】
本発明の高分子電解質膜においては、該高分子電解質膜に含まれる高分子電解質が、イオン交換基を有するイオン性セグメントと、イオン交換基を有しない非イオン性セグメントとを備えるブロック共重合体を含有することが好ましい。
【0013】
具体的には、上記ブロック共重合体において、イオン性セグメントが、下記一般式(1a)で表されるセグメントを有することが好ましい。
【0014】
【化1】


[式(1a)中、Arは、芳香環に直接又は側鎖を介して間接的に結合したイオン交換基を有する2価の芳香族基を示し、mは5以上の整数を示す。]
【0015】
また、上記ブロック共重合体において、非イオン性セグメントが、下記一般式(1b)、(2b)又は(3b)でそれぞれ表されるセグメントを有することが好ましい。
【0016】
【化2】


[式(1b)、(2b)及び(3b)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びArはそれぞれ独立にイオン性官能基を有しない2価の芳香族基を示し、Z及びZはそれぞれ独立に、カルボニル基又はスルホニル基を示し、X、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは単結合又は下記一般式(100)で表される基を示し、pは0〜2の整数を示し、q及びrはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、n1、n2及びn3はそれぞれ独立に5以上の整数を示す。]
【0017】
【化3】


[式(100)中、Ra及びRbはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を示し、RaとRbとは互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0018】
上記イオン交換基は、スルホン酸基であることが好ましい。イオン交換基としてスルホン酸基を有するブロック共重合体は、特に優れたプロトン伝導性を有する高分子電解質膜を構成し得る。
【0019】
本発明はまた、上記本発明の高分子電解質膜を備える膜−電極接合体及び燃料電池を提供する。すなわち、本発明の膜−電極接合体は、上記高分子電解質膜と、該高分子電解質膜上に形成された触媒層とを備える。また、本発明の燃料電池は、一対のセパレータと、該一対のセパレータ間に配置された上記本発明の膜−電極接合体とを備えるものである。本発明の燃料電池は、上記本発明の膜−電極接合体に形成された触媒層の高分子電解質膜と接していない面にガス拡散層を備えた膜−電極−ガス拡散層接合体を、一対のセパレータ間に配置してなるものである。
【0020】
このような燃料電池は、本発明の高分子電解質膜を備えており、高電流密度下でも十分に高い発電性能を有することから、高い出力を発揮し得るものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高電流密度下でも十分に高い発電性能を有する燃料電池を作製することができる高分子電解質膜を提供することができる。本発明はまた、上記高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体及び燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】好適な実施形態に係る燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の高分子電解質膜は、高分子電解質を含み、膜厚が25μm以下であり、かつ、80℃で水の吸着が飽和した湿潤状態と、23℃、相対湿度50%で水の吸着が平衡に達した乾燥状態との間を移行させたときの面方向の寸法変化率が5〜25%である。
【0025】
[高分子電解質]
まず、本実施形態の高分子電解質膜を構成する好適な高分子電解質について説明する。
【0026】
本実施形態に係る高分子電解質としては、イオン交換基を有するイオン性セグメントと、イオン交換基を実質的に有しない非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体を含有することが好ましい。
【0027】
ここで、「イオン交換基を有するイオン性セグメント」とは、該セグメントを構成する構造単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
【0028】
一方、「イオン交換基を実質的に有しない非イオン性セグメント」とは、該セグメントを構成する構造単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.1個以下であるセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均0.05個以下であるとより好ましく、当該セグメントにイオン交換基が皆無であるとさらに好ましい。上記ブロック共重合体は、典型的には、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとが、共有結合で結ばれた形態を備えるものであるが、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとが、適当な2価の原子又は2価の原子団で結ばれた形態でもよい。
【0029】
また、高分子電解質膜の耐熱性を向上する観点から、高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であると好ましく、炭化水素系高分子電解質の中でも芳香族系高分子電解質であることがより好ましい。また、炭化水素系高分子電解質は従来のフッ素系高分子電解質に比して安価であるという利点もある。好適な芳香族系高分子電解質としては、イオン性セグメントの主鎖に芳香環を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環又は側鎖の芳香環の少なくとも1つにイオン交換基が直接結合しているものである。中でも、主鎖の芳香環に直接結合したイオン交換基を有する芳香族炭化水素系高分子電解質が、優れたイオン伝導性を発現することから好ましい。
【0030】
なお、上記炭化水素系高分子電解質とは、元素重量含有比で表してハロゲン原子が15質量%以下である高分子電解質をいう。炭化水素系高分子電解質は、従来広範に使用されていたフッ素系高分子電解質と比較して安価であり、耐熱性に優れるという利点を有する。より好ましい炭化水素系高分子電解質とは、実質的にハロゲン原子を含有していないものであり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素を発生して、他の部材を腐食させたりするおそれが少ないという利点がある。
【0031】
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、ポリイミド系、ポリアリーレン系、ポリエーテルスルホン系、ポリフェニレン系の高分子電解質が挙げられる。これらは、一種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0032】
高分子電解質として、より具体的には、上記ブロック共重合体において、イオン性セグメントが、上記一般式(1a)で表されるセグメントを有し、非イオン性セグメントが、上記一般式(1b)、(2b)又は(3b)(以下、場合により「(1b)〜(3b)」と略記する)でそれぞれ表されるセグメントを有することが好ましい。
【0033】
ここで、式(1a)中、Arは、芳香環に直接又は側鎖を介して間接的に結合したイオン交換基を有する2価の芳香族基を示す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基が挙げられる。2価の芳香族基は、好ましくは2価の単環性芳香族基である。Arは、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0034】
イオン交換基としては、カチオン交換基又はアニオン交換基のいずれでもよいが、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−OP(=O)(OH))、ホスホン酸基(−P(=O)(OH))、スルホニルイミド基(−SO−NH−SO−)等のカチオン交換基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。上記カチオン交換基は、部分的に、又はその全てが金属イオンなどで交換されて塩を形成していてもよいが、高分子電解質膜として使用する際には、実質的に全てのカチオン交換基が遊離酸の状態であることが好ましい。
【0035】
式(1b)〜(3b)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びAr(以下、場合により「Ar〜Ar」と略記する)はそれぞれ独立に、イオン性官能基を有しない2価の芳香族基を示す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基が挙げられる。2価の芳香族基は、好ましくは2価の単環性芳香族基である。これらの2価の芳香族基は置換基を有していてもよく、置換基としては、Arで例示した基と同様の基が挙げられる。
【0036】
また、Z及びZはそれぞれ独立に、カルボニル基又はスルホニル基を示し、X、X及びXはそれぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは単結合又は上記一般式(100)で表される基を示し、pは0〜2の整数を示し、q及びrはそれぞれ独立に、1〜3の整数を示す。さらに、式(100)中、Ra及びRbはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を示し、RaとRbとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0037】
また、イオン性セグメントの繰り返し数m並びに非イオン性セグメントの繰り返し数n1、n2及びn3は、それぞれ独立に、5以上の整数を示し、5〜1000が好ましく、10〜500がより好ましく、10〜100が特に好ましい。繰り返し数がこの範囲である高分子電解質は、イオン伝導性と、機械強度及び/又は耐水性とのバランスに優れるため好ましく、各々のセグメントの製造自体も容易であるという利点もある。
【0038】
高分子電解質において、イオン伝導性を担うイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、2.5meq/g以上であることが好ましく、2.5〜5.0meq/gであることがより好ましく、2.5〜4.0meq/gであることがさらに好ましい。イオン交換容量が、このような範囲であると、後述する高分子電解質膜の製造方法により、面方向の寸法変化率を所望の範囲にコントロールすることが容易となる。
【0039】
具体的に、好適なブロック共重合体としては、以下に示すイオン交換基を有する構造単位から選ばれる1種以上の構造単位を含むセグメント(イオン性セグメント)と、以下に示すイオン交換基を有しない構造単位から選ばれる1種以上の構造単位を含むセグメント(非イオン性セグメント)とからなるブロック共重合体が挙げられる。なお、両セグメント同士は直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。なお、ここでいうセグメント同士を結合する原子又は原子団の典型的なものとしては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらを組み合わせてなる2価の基を挙げることができる。
【0040】
(イオン交換基を有する構造単位)
【化4】

【0041】
(イオン交換基を有しない構造単位)
【化5】

【0042】
上述した中でも、イオン性セグメントを構成する構造単位としては、(4a−1)及び/又は(4a−2)を有するものであると特に好ましい。このような構造単位を有するイオン性セグメントを備える高分子電解質は優れたイオン伝導性を発現できるものであり、イオン性セグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も良好となる傾向にある。
【0043】
また、高分子電解質の分子量は、GPC分析によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、15000〜400000であることが特に好ましい。
【0044】
上述のような高分子電解質としては、例えば、特開2005−126684号公報、特開2005−139432号公報及び特開2007−177197号公報に準拠して得られるブロック共重合体が挙げられる。
【0045】
[高分子電解質膜]
次に、上記高分子電解質を含む高分子電解質膜を作製する方法について説明する。高分子電解質膜は、上記高分子電解質を含む溶液を用いて製膜する方法(いわゆる溶液キャスト法)により作製することができる。この溶液キャスト法とは、上記高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を支持基材上に塗布し、特定のキャスト温度で加熱処理して、溶媒を除去する工程を備える方法である。
【0046】
このような溶液キャスト法により製造される高分子電解質膜の面方向の寸法変化率を上記範囲にするには、例えば、以下のようにすればよい。使用する高分子電解質のイオン交換容量が2.5〜3.0meq/gの範囲である場合には、高分子電解質溶液を支持基材上に塗布した後の加熱処理を、50〜90℃、好ましくは60〜80℃といった比較的低温条件で実施する。こうして得られる高分子電解質膜は面方向の寸法変化率を上記範囲にすることが容易となる傾向がある。一方、使用する高分子電解質のイオン交換容量が3.0meq/gを越える場合には、高分子電解質溶液を支持基材上に塗布した後の加熱処理を、90〜200℃、好ましくは100〜150℃といった比較的高温条件で実施する。このような溶液キャスト法によっても高分子電解質膜の面方向の寸法変化率を上記範囲にすることが容易となる傾向がある。
【0047】
上記溶液キャスト法に関わる他の条件に関し説明する。具体的には、まず、上述の高分子電解質を、溶媒に溶解して高分子電解質溶液を調整する。この際、必要に応じて、その他の高分子、添加剤等の他の成分を添加してもよい。次に、高分子電解質溶液を、ガラス基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持基材上に流延塗布(キャスト製膜)し、高分子電解質膜前駆体を形成する。そして、使用する高分子電解質のイオン交換容量に応じた温度条件で加熱処理して、該高分子電解質膜前駆体から溶媒を除去し、水系溶媒で洗浄して高分子電解質膜に転化させて支持基材上に高分子電解質膜を形成する。その後、支持基材を剥離等によって除去することで、高分子電解質膜が得られる。
【0048】
上記溶媒は、高分子電解質及び必要に応じて添加される他の成分が溶解可能であり、その後に除去し得るものであれば、特に制限されない。溶媒として、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP又はこれらから選ばれる2種以上からなる混合溶媒は、高分子電解質の溶解性が高いので、好ましく使用される。
【0049】
高分子電解質膜の厚みは、5〜25μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。高分子電解質膜の厚みが25μmを超えると、膜抵抗が大きくなり、高電流密度下での発電性能が十分に得られ難くなり、5μm未満では、実用的な膜強度を備える高分子電解質膜が得られ難くなる傾向がある。なお、高分子電解質膜の厚みは、デジタルシックネスゲージ(ミツトヨ社製)を用いて、該高分子電解質膜の厚みを少なくとも6点測定し、この測定値を平均して求められる値である。通常は、測定に供する高分子電解質膜の中心部の厚みを少なくとも1点と、端部の厚みを少なくとも5点測定する。ただし、中心部の厚みが触媒層の存在により測定できないときは、端部の厚みを少なくとも9点測定する。このような高分子電解質膜の厚みは、例えば、高分子電解質溶液の濃度及び基板上への塗布厚により制御できる。
【0050】
上述のように、本発明の高分子電解質膜を構成する高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であると好ましく、イオン性セグメントと非イオン性セグメントと有するブロック共重合体がより好ましい。特に、ブロック共重合体であると、高分子電解質膜の面方向の寸法変化率を上記範囲にすることが容易になる。その理由は定かではないが、ブロック共重合体から得られる高分子電解質膜には、ミクロ相分離構造が形成されていることに起因していると推察される。
【0051】
上記ブロック共重合体を用いて得られる高分子電解質膜には、イオン性セグメントの密度が非イオン性セグメントの密度より高い相(以下、「親水性セグメント相」と呼ぶことがある。)と、非イオン性セグメントの密度がイオン性セグメントの密度より高い相(以下、「疎水性セグメント相」と呼ぶことがある。)とを含む、ミクロ相分離構造を形成しやすくなる。このようなミクロ相分離構造の高分子電解質膜において、親水性セグメント相が膜厚方向に連通していると、この親水性セグメント相がイオン伝導経路となって、極めて優れたイオン伝導性が発現できる。そして、親水性セグメント相が膜厚方向に連通している高分子電解質膜は吸水したとき、親水性セグメント相が主として膨潤するが、膜厚方向の膨潤は、疎水性セグメント相の影響を受けて十分抑制され、面方向に膨潤しやすくなる。したがって、面方向に特定の寸法変化率を有しつつ、膜厚方向の膨潤は十分抑制されるので、このような高分子電解質膜を備えた燃料電池は結果として、実用的な耐久性を維持できると推察される。そして、本発明の高分子電解質膜は、その厚みを薄くすることで、実用的な耐久性を維持しつつ、さらに発電性能に優れたイオン伝導経路が形成されたミクロ相分離構造を有していると推察される。
【0052】
ここで、ミクロ相分離構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で見た場合に、親水性セグメント相(ミクロドメイン)と、疎水性セグメント相(ミクロドメイン)とが混在し、各ミクロドメイン構造のドメイン幅すなわち恒等周期が数nm〜数100nmであるような構造を指す。該恒等周期が5nm〜100nmのミクロドメイン構造を有するものが好ましい。
【0053】
本実施形態の高分子電解質膜は、80℃で水の吸着が飽和した湿潤状態と、23℃、相対湿度50%で水の吸着が平衡に達した乾燥状態との間を移行させたときの面方向の寸法変化率が5〜25%である。具体的には、高分子電解質膜の寸法変化率は、80℃において水の吸着が飽和したときの所定の一辺の長さをLwとし、23℃、相対湿度50%において水の吸着が平衡に達したときの上記一辺の長さをLdとしたとき、下記式(I)により算出される。
寸法変化率(%)=100×(Lw−Ld)/Ld (I)
【0054】
ここで、「80℃において水の吸着が飽和したとき」とは、80℃において高分子電解質膜に水を十分に吸着させ、それ以上の水の吸着が見られなくなった状態をいう。例えば、高分子電解質膜を80℃の水中に1時間浸漬させることで、「80℃において水の吸着が飽和したとき」に達することができる。また、「23℃、相対湿度50%において水の吸着が平衡に達したとき」とは、かかる条件で高分子電解質膜を保管したときに、水の吸着量がほぼ一定となり、それ以上の水の吸着・脱離が見られなくなった状態をいう。具体的には、上述した飽和状態にある高分子電解質を、23℃、相対湿度50%で十分に乾燥させることで、「23℃、相対湿度50%において水の吸着が平衡」に達することができる。
【0055】
さらに、「所定の面方向の長さ」とは、高分子電解質膜の周縁部に設定した任意の2点間を結ぶ線分の長さをいい、例えば、高分子電解質膜の任意の一辺の長さがこれに該当する。
【0056】
高分子電解質膜の寸法変化率は、5〜25%であることが好ましく、6〜23%であることがより好ましく、7〜20%であることがさらに好ましい。高分子電解質膜の寸法変化率が5%以上であると、高電流密度下で十分に高い発電性能を有する燃料電池を作製するこができる。また、寸法変化率がこの範囲であれば、吸水による寸法変化に伴って当該高分子電解質膜が破断する等のおそれが小さくなる。なお、このような寸法変化率は、高分子電解質膜における面方向の任意の一箇所で成立すればよいが、発電性能を更に向上させる観点からは、複数箇所で成立しているとより好ましく、殆どの箇所で成立していると更に好ましい。具体的には、所定の面方向と、これとは異なる他の面方向の2箇所で測定したとき、この2箇所の吸水寸法変化率の差の絶対値が、0.05以下であると好適である。
【0057】
[燃料電池]
次に、好適な実施形態の燃料電池について説明する。この燃料電池は、上述した実施形態の高分子電解質膜を備えるものである。
【0058】
図1は、本実施形態の燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。図1に示すように、燃料電池10は、上述した好適な実施形態の高分子電解質膜からなる高分子電解質膜12(プロトン伝導膜)の両側に、これを挟むように触媒層14a,14b、ガス拡散層16a,16b及びセパレータ18a,18bが順に形成されている。高分子電解質膜12と、これを挟む一対の触媒層14a,14bとから、膜−電極接合体(以下、「MEA」と略す)20が構成されている。
【0059】
高分子電解質膜12に隣接する触媒層14a,14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらのいずれか一方がアノード電極層となり、他方がカソード電極層となる。かかる触媒層14a,14bは、触媒を含む触媒組成物から構成されるものであり、上述した高分子電解質を含むものであると更に好適である。
【0060】
触媒としては、水素又は酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、例えば、貴金属、貴金属合金、金属錯体等が挙げられる。なかでも、触媒としては、白金の微粒子が好ましく、触媒層14a,14bは、活性炭や黒鉛等の粒子状又は繊維状のカーボンに白金の微粒子が担持されてなるものであってもよい。
【0061】
ガス拡散層16a,16bは、MEA20の両側を挟むように設けられており、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進するものである。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されるものが好ましい。例えば、多孔質性のカーボン不織布やカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるため、好ましい。
【0062】
これらの高分子電解質膜12、触媒層14a,14b及びガス拡散層16a,16bから膜−電極−ガス拡散層接合体(MEGA)が構成されている。このようなMEGAは、例えば、以下に示す方法により製造することができる。すなわち、まず、高分子電解質を含む溶液と触媒とを混合して触媒組成物のスラリーを形成する。これを、ガス拡散層16a,16bを形成するためのカーボン不織布やカーボンペーパー等の上にスプレーやスクリーン印刷方法により塗布し、溶媒等を蒸発させることで、ガス拡散層上に触媒層が形成された積層体を得る。そして、得られた一対の積層体をそれぞれの触媒層同士が対向するように配置し、これらの間に高分子電解質膜12を配置して、これらを圧着する。こうして、上述した構造のMEGAが得られる。なお、ガス拡散層上への触媒層の形成は、例えば、所定の基材(ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等)の上に触媒組成物を塗布・乾燥して触媒層を形成した後、これをガス拡散層に熱プレスで転写することにより行うこともできる。
【0063】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。かかるセパレータ18a,18bは、図示しないが、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝が形成されていると好ましい。
【0064】
そして、燃料電池10は、上述したようなMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合することによって得ることができる。
【0065】
なお、本発明の燃料電池は、必ずしも上述した構成を有するものに限られず、その要旨を逸脱しない範囲で適宜異なる構成を有していてもよい。例えば、上記燃料電池10は、上述した構造を有するものを、ガスシール体等で封止したものであってもよい。さらに、上記構造の燃料電池10は、直列に複数個接続して、燃料電池スタックとして実用に供することもできる。そして、このような構成を有する燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また燃料がメタノール水溶液である場合は直接メタノール型燃料電池として動作することができる。
【0066】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
[分子量測定]
本明細書における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記分析条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリスチレン換算を行うことによって算出した。
(GPC条件A)
・測定装置 :HLC−8220GPC(東ソー社製、商品名)
・カラム :TSKgel GMHHR−M(東ソー社製、商品名)
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド(臭化リチウムを10mmol/dm含有)
・溶媒流量 :0.5mL/min
(GPC条件B)
・測定装置 :Prominence GPCシステム(島津製作所社製、商品名)
・カラム :TSKgel GMHHR−M(東ソー社製、商品名)
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(臭化リチウムを10mmol/dm含有)
・溶媒流量 :0.5mL/min
【0069】
[イオン交換容量の測定]
高分子電解質膜を、加熱温度105℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて、乾燥重量を求めた。次いで、この高分子電解質膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この高分子電解質膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸水溶液を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、高分子電解質膜の乾燥重量と中和に要した塩酸の量から、高分子電解質膜のイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0070】
[面内寸法変化率の測定]
高分子電解質膜を正方形に切り出し、得られた膜を80℃の水中に1時間浸漬した後、取り出した直後の一辺の長さLwを測定した。それから、膜を23℃、相対湿度50%の雰囲気で平衡吸水状態になるまで乾燥させ、上記と同じ一辺の長さLdを測定した。そして、これらの値を用い、吸水寸法変化率を、100×(Lw−Ld)/Ldの式に基づいて算出した。これをTD方向・MD方向それぞれ求め、その平均値を面内寸法変化率とした。
【0071】
<高分子電解質の合成>
(合成例1)
窒素置換した反応容器に無水塩化ニッケル11質量部及びジメチルスルホキシド110質量部を入れて混合し、内温70℃に昇温して1時間攪拌した。これを50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン14.5質量部を加え、同温度で10分間撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0072】
別途、窒素置換した反応容器に下記化学式(10)で表されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学社製、商品名、Mn=2.2×10、Mw=3.7×10)5質量部及びジメチルスルホキシド150質量部を入れ、50℃に昇温して1時間攪拌した。この溶液に、メタンスルホン酸0.02質量部を加え、次いで、亜鉛粉末(本荘ケミカル品、粒径6.6μm)8質量部及び2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)10質量部を加えて30分間撹拌した。得られた混合溶液に上記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、溶液に含まれる水分測定を実施し、混合溶液の水分量が1000ppmになるように水分を添加し水分調整を実施した。次いで、75℃に昇温して2時間重合反応を行ない、放冷後、反応液を大量のメタノールに注ぐことによりポリマーを析出させ濾取した。
【化6】

【0073】
得られたポリマー100質量部をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)2500質量部と混合し、80℃で3時間撹拌して均一溶解した。得られたポリマー溶液に同温度で活性アルミナ130質量部を加え2時間撹拌した後、粉末セルロース(日本製紙ケミカル社製、商品名:KCフロックW−400G)130質量部及びNMP2500質量部を加え混合した。次に、予め粉末セルロース68質量部でプレコートした濾過器を使用し、上記混合液を固液分離した。得られた均一溶液を減圧下で濃縮し、ポリマー90質量部を含む溶液1215質量部を得た。この溶液に臭化リチウム42質量部を加え、120℃で24時間撹拌した後、6mol/L塩酸4280質量部中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過回収し、熱水で洗浄した後、乾燥して目的とする下記化学式(11)で表される構造を有する高分子電解質Aを得た。得られた高分子電解質Aの分子量は、Mn1.3×10、Mw2.7×10であった。なお、合成例1における分子量は、上記GPC条件Aで測定した。
【化7】

【0074】
(合成例2)
合成例1において、ニッケル含有溶液を注ぎ込んだ後の混合溶液の水分量を650ppmになるように調整した以外は、合成例1と同様の操作を行い、高分子電解質Bを得た。得られた高分子電解質Bの分子量は、Mn1.6×10、Mw3.3×10であった。なお、合成例2における分子量は、上記GPC条件Aで測定した。
【0075】
(合成例3)
アルゴン雰囲気下、フラスコに無水塩化ニッケル21.96質量部及びジメチルスルホキシド(DMSO)221質量部を加え、70℃に昇温して撹拌した。これを50℃に冷却し、2,2’−ビピリジル29.11質量部を加え、同温度で保温することで、ニッケル含有溶液を調製した。
【0076】
別途、アルゴン雰囲気下、フラスコに末端クロロ型であるスミカエクセルPES3600P(住友化学社製、商品名Mn=2.7×10、Mw=4.5×10)6.75質量部、DMSO300質量部を加え50℃に昇温し、溶解した。得られた溶液に、メタンスルホン酸0.039質量部及び亜鉛粉末16.62質量部を加えて30分間撹拌し、次いで、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)20.00質量部を加え溶解させた。これに、上記ニッケル含有溶液を加え、70℃に昇温して2時間撹拌し、黒色の重合溶液を得た。得られた重合溶液を、70℃の熱水1200質量部に注加し、生じた沈殿を濾過で集めた。沈殿物に、沈殿物と水との合計が697質量部になるように水を加え、さらに35%亜硝酸ナトリウム水溶液9.2質量部を加えたスラリー溶液に、70%硝酸161質量部を30分かけて滴下し、滴下後、室温で1時間撹拌した。スラリー溶液を濾過して粗ポリマーを回収し、濾液のpHが1を越えるまで水洗を行なった。
【0077】
次に、冷却器を備えたフラスコに、粗ポリマーと、粗ポリマーと水との合計の重量が703質量部になるまで水を加え、さらに5%水酸化リチウム水溶液を、粗ポリマーと水とのスラリー溶液のpHが7.9になるまで加え、さらにメタノール666質量部を加え、1時間還流させた。その後、粗ポリマーを濾過して回収し、水300質量部、次いで、メタノール252質量部の順に浸漬洗浄し、80℃の乾燥機で乾燥することで、スルホン酸前駆基(スルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)基)を有するポリマー20.34質量部を得た。上述のようにして得られたスルホン酸前駆基を有するポリマー20.24質量部をフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、NMP506質量部を加えて、80℃で加熱撹拌し、溶解させた。これに活性アルミナ26質量部を加えて1時間30分保温撹拌した。その後、これに506質量部のNMPを加え、濾過により活性アルミナを除いた。得られた溶液からNMPを減圧留去することで濃縮し、241質量部のNMP溶液とした。このNMP溶液に水2.2質量部及び無水臭化リチウム10.76質量部を加え、120℃に昇温して、12時間反応した後、得られた反応溶液を6N塩酸1012質量部に投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過で集め、1012質量部の35%塩酸/メタノール溶液(質量比1/1の混合溶液)で3回浸漬洗浄した後、濾液のpHが4を越えるまで水洗を行った。そして、粗ポリマーを1316質量部の熱水(95℃)で4回浸漬洗浄し、乾燥することにより高分子電解質C13.20質量部を得た。得られた高分子電解質Cの分子量は、Mn2.2×10、Mw5.3×10であった。なお、合成例3における分子量は、上記GPC条件Bで測定した。
【0078】
[高分子電解質膜の作製]
(実施例1)
合成例1で得られた高分子電解質Aを、DMSOに濃度が10質量%となるように溶解させて、高分子電解質溶液Aを調製した。次に、高分子電解質溶液Aを、支持基材である巾300mmのPETフィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)に、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が10μmとなるよう連続的に流延塗布した。そして、熱風ヒーター乾燥炉(設定温度70℃、比湿0.087kg/kg)へと搬送し70℃で乾燥することで、溶媒を除去して高分子電解質膜前駆体を形成させた。上記高分子電解質膜前駆体が形成された支持基材を2N硫酸に2時間浸漬した後、イオン交換水で2時間洗浄し、更に常温乾燥した後、支持基材から剥離することで高分子電解質膜を得た。
【0079】
(実施例2)
高分子電解質溶液Aを、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が20μmとなるよう連続的に流延塗布した以外は、実施例1と同様の操作を行い、高分子電解質膜を作製した。
【0080】
(実施例3)
合成例2で得られた高分子電解質Bを、DMSOに濃度が10質量%となるように溶解させて、高分子電解質溶液Bを調製した。次に、高分子電解質溶液Bを、支持基材である上述のPETフィルムに、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が10μmとなるよう連続的に流延塗布した。そして、熱風ヒーター乾燥炉(設定温度61℃、比湿0.087kg/kg)へと搬送し61℃で乾燥することで、溶媒を除去して高分子電解質膜前駆体を形成させた。上記高分子電解質膜前駆体が形成された支持基材を2N硫酸に2時間浸漬した後、イオン交換水で2時間洗浄し、更に常温乾燥した後、支持基材から剥離することで高分子電解質膜を得た。
【0081】
(実施例4)
合成例3で得られた高分子電解質Cを、DMSOに濃度が10質量%となるように溶解させて、高分子電解質溶液Cを調製した。次に、高分子電解質溶液Cを、支持基材である上述のPETフィルムに、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が19μmとなるよう連続的に流延塗布した。そして、熱風ヒーター乾燥炉(設定温度130℃、比湿0.087kg/kg)へと搬送し130℃で乾燥することで、溶媒を除去して高分子電解質膜前駆体を形成させた。上記高分子電解質膜前駆体が形成された支持基材を2N硫酸に2時間浸漬した後、イオン交換水で2時間洗浄し、更に常温乾燥した後、支持基材から剥離することで高分子電解質膜を得た。
【0082】
(比較例1)
熱風ヒーター乾燥炉の設定温度を115℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、高分子電解質膜を作製した。
【0083】
(比較例2)
高分子電解質溶液Aを、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が20μmとなるよう連続的に流延塗布し、熱風ヒーター乾燥炉の設定温度を120℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、高分子電解質膜を作製した。
【0084】
(比較例3)
高分子電解質溶液Aを、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が30μmとなるよう連続的に流延塗布し、熱風ヒーター乾燥炉の設定温度を75℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、高分子電解質膜を作製した。
【0085】
(比較例4)
高分子電解質溶液Bを、スロットダイを用いて乾燥後の膜厚が30μmとなるよう連続的に流延塗布し、熱風ヒーター乾燥炉の設定温度を110℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作を行い、高分子電解質膜を作製した。
【0086】
[燃料電池セルの作製と評価]
(触媒インク調製)
市販の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、溶媒:水と低級アルコールの混合物)3.15gに、50質量%の白金が担持された白金担持カーボン(エヌ・イー・ケムキャット社製、商品名:SA50BK)を0.50g投入し、さらに水3.23g及びエタノール21.83gを加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで6時間攪拌して触媒インクを得た。
【0087】
(膜−電極接合体(MEA)の作製)
上記実施例及び比較例で作製した高分子電解質膜の片面の中央部における1cm×1.3cmの領域に、スプレー法にて上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。同様にして20回重ね塗りをした後、ステージ上に15分間放置し、溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。続いて、もう一方の面に同様に触媒インクを塗布して、カソード触媒層を形成させた。これにより、アノード触媒層として2.1mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布され、カソード触媒層として2.1mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された膜−電極接合体(MEA)を得た。
【0088】
(燃料電池セル組み立て)
上記で得られたMEAの両外側に、ガス拡散層としてカーボンペーパーと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータを配し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積1.3cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0089】
(発電特性評価)
得られた燃料電池セルを80℃に保ちながら、アノードに加湿水素、カソードに加湿空気をそれぞれ供給した。この際、セルのガス出口における背圧が0.1MPaGとなるようにした。各原料ガスの加湿は、水の入ったバブラーにガスを通すことで行い、水素用バブラーの水温は45℃、空気用バブラーの水温は55℃とした。ここで、水素のガス流量は529mL/min、空気のガス流量は1665mL/minとした。そして、電流密度2.0A/cmのときの電圧値を測定し、各燃料電池セルの発電性能を評価した。電流密度2.0A/cmのときの電圧値が大きいほど、燃料電池セルの発電性能が優れていることを示している。
【0090】
【表1】

【0091】
実施例1〜4で作製した高分子電解質膜を備える燃料電池セルは、十分に高い発電性能を示すことが確認された。一方、比較例1〜4で作製した高分子電解質膜の場合、電流密度2.0A/cmまで電流を流すことができず電圧値を測定することができなかった。換言すれば、比較例1〜4で作製した高分子電解質膜は、高電流密度下での発電性能が十分ではないものであることが判明した。
【符号の説明】
【0092】
10…燃料電池、12…高分子電解質膜、14a,14b…触媒層、16a,16b…ガス拡散層、18a,18b…セパレータ、20…膜−電極接合体(MEA)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質を含む高分子電解質膜であって、
膜厚が25μm以下であり、かつ、80℃で水の吸着が飽和した湿潤状態と、23℃、相対湿度50%で水の吸着が平衡に達した乾燥状態との間を移行させたときの面方向の寸法変化率が5〜25%である、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記高分子電解質のイオン交換容量が2.5meq/g以上である、請求項1記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質である、請求項1又は2記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記高分子電解質が、イオン交換基を有するイオン性セグメントと、イオン交換基を実質的に有しない非イオン性セグメントとを備えるブロック共重合体を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記イオン性セグメントが、下記一般式(1a)で表されるセグメントを有する、請求項4記載の高分子電解質膜。
【化1】


[式(1a)中、Arは芳香環に直接又は側鎖を介して間接的に結合したイオン交換基を有する2価の芳香族基を示し、mは5以上の整数を示す。]
【請求項6】
前記非イオン性セグメントが、下記一般式(1b)、(2b)又は(3b)でそれぞれ表されるセグメントを有する、請求項4記載の高分子電解質膜。
【化2】


[式(1b)、(2b)及び(3b)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びArはそれぞれ独立にイオン性官能基を有しない2価の芳香族基を示し、Z及びZはそれぞれ独立にカルボニル基又はスルホニル基を示し、X、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは単結合又は下記一般式(100)で表される基を示し、pは0〜2の整数を示し、q及びrはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、n1、n2及びn3はそれぞれ独立に5以上の整数を示す。]
【化3】


[式(100)中、Ra及びRbはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を示し、RaとRbとは互いに結合して環を形成していてもよい。]
【請求項7】
前記イオン交換基が、スルホン酸基である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の高分子電解質膜と、該高分子電解質膜上に形成された触媒層と、を備える膜−電極接合体。
【請求項9】
一対のセパレータと、該一対のセパレータ間に配置された膜−電極接合体と、を備え、
前記膜−電極接合体が、請求項8記載の膜−電極接合体である、燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−219028(P2010−219028A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16680(P2010−16680)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】