説明

高分子電解質膜、膜電極接合体、燃料電池

【課題】内部で発生するラジカルを失活させることで分子量低下を抑制し、高耐久化がなされた高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】高分子電解質で形成された膜状の母材12Xと、母材12Xの中に分散された金属微粒子13Aと、を有し、金属微粒子13Aの形成材料が、貴金属および貴金属合金からなる群より選ばれる1種以上の金属を含み、かつ、金属微粒子13Aが母材12Xの厚み方向に濃度勾配を有して分散している高分子電解質膜12。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜、膜電極接合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一次電池、二次電池、あるいは固体高分子形燃料電池(以下、場合により「燃料電池」という)の開発が数多く検討されている。
【0003】
燃料電池は、膜電極接合体(以下、「MEA」と称することがある)の両面に発電燃料となるガスを供給するためのガス拡散層を有するセル(燃料電池セル)を基本構成としている。ここで、膜電極接合体とは、イオン伝導性を有する高分子(以下、高分子電解質)を含む高分子電解質膜の両面に、発電燃料である水素と酸素の酸化還元反応を促進する触媒を含む触媒層と呼ばれる電極を形成したものである。
【0004】
膜電極接合体に用いられる高分子電解質膜としては、現在、主としてフッ素系高分子電解質が検討されており(例えば、特許文献1参照)、このようなフッ素系高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(デュポン社の登録商標)が知られている。また、フッ素系高分子電解質は非常に高価であり、高い信頼性が求められる燃料電池に適用するには耐熱性や膜強度が低いことが知られている。そのため、フッ素系高分子電解質に代替する材料として、炭化水素系の高分子電解質についても検討が成されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−113136号公報
【特許文献2】特開2003−31232号公報
【特許文献3】特開2007−177197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に示された高分子電解質膜は、長期運転を行った場合の運転安定性(以下、「長期安定性」と呼ぶ)が低いことが指摘されている。この長期安定性を妨げる要因としては、様々の原因が推定されている。その1つとして、電池稼動時に発生する過酸化物(例えば、過酸化水素等)またはこの過酸化物から発生するラジカルによる膜の劣化が指摘されている。具体的には、膜の劣化は、フッ素系高分子電解質膜であれば、排水中に含まれるフッ素イオンの溶出量、炭化水素系高分子電解質膜であれば、高分子電解質の分子量の低下として観察されることがある。
【0007】
それゆえ、高分子電解質膜の過酸化物やラジカルに対する耐久性(以下、「ラジカル耐性」と呼ぶことがある)を向上させることが、固体高分子形燃料電池の長期安定性に繋がる1つの対策とされている。なお、以下の説明においては、「過酸化物から発生するラジカル」を単に「ラジカル」と称することがある。
【0008】
ラジカル耐性が不十分な高分子電解質膜を用いた燃料電池は、電池の起動・停止を繰り返すような長期運転を行なうと、高分子電解質膜が著しく劣化して、イオン伝導性が低下し、結果として燃料電池自体の発電性能が低下し易い。
【0009】
この課題に対し、高分子材料分野では、従来から、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤が、加工時の溶融劣化や、経時的に生じる酸化劣化を抑制する目的で広範に用いられている。しかしながら、ラジカル耐性の向上を求めて、このような酸化防止剤を燃料電池用高分子電解質膜に用いたとしても、固体高分子形燃料電池の長期安定性の改善には不十分であった。
【0010】
したがって、良好なラジカル耐性を有し、燃料電池の長期安定性を可能とする高分子電解質膜の実現が切望されていた。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、高耐久化がなされた高分子電解質膜を提供することを目的の一つとする。更には、上述の高分子電解質膜を有し、長期安定性に優れた膜電極接合体を提供すること、およびこの膜電極接合体を有し、長期安定性に優れた燃料電池を提供することをあわせて目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の高分子電解質膜は、高分子電解質で形成された膜状の母材と、前記母材の中に分散された金属微粒子と、を有し、前記金属微粒子の形成材料が、貴金属および貴金属合金からなる群より選ばれる1種以上の金属を含み、かつ、前記金属微粒子が前記母材の厚み方向に濃度勾配を有して分散している。
【0013】
本発明の一形態においては、前記金属微粒子の濃度が極大値を有することが望ましい。
【0014】
本発明の一形態においては、前記金属微粒子の粒子径が500nm以下であることが望ましい。
【0015】
本発明の一形態においては、前記金属微粒子の形成材料が、白金、金、パラジウム、イリジウム、ロジウムおよびルテニウムからなる貴金属群より選ばれる、少なくとも1種の貴金属もしくは貴金属合金のいずれか一方、または両方を含むことが望ましい。
【0016】
本発明の一形態においては、前記高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質からなることが望ましい。
【0017】
本発明の一形態においては、前記炭化水素系高分子電解質が、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有しないセグメントと、を備えたブロック共重合体を含むことが望ましい。
【0018】
本発明の一形態においては、前記高分子電解質で形成された膜状の母材の表面に、金属層を積層させ、前記母材と前記金属層との両面から電圧を印加することで前記母材の内部に析出させた前記金属微粒子を含むことが望ましい。
【0019】
本発明の一形態においては、前記金属層が、物理蒸着法によって形成されることが望ましい。
【0020】
本発明の一形態においては、前記金属層が、金属微粒子を含有する液を前記母材の表面に塗工して形成されることが望ましい。
【0021】
本発明の膜電極接合体は、上述の高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟持するアノード触媒層およびカソード触媒層と、を有する。
【0022】
本発明の一形態においては、前記金属微粒子の濃度の極大値が、前記高分子電解質膜の膜厚方向の中心よりも前記カソード触媒層側にあることが望ましい。
【0023】
本発明の燃料電池は、上述の高分子電解質膜を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高耐久化がなされた高分子電解質膜を得ることができる。また、このような高分子電解質膜を用いることで、長期安定性に優れた膜電極接合体を得ることができる。更に、このような膜電極接合体を用いることで、長期安定性に優れた燃料電池とすることができる。そして、このような高耐久化を実現することが可能な高分子電解質膜を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好適な一実施態様の燃料電池のセルについての縦断面図である。
【図2】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の膜内を示す電子顕微鏡写真である。
【図3A】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図3B】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図3C】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図4A】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図4B】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図4C】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図4D】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図5A】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図5B】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図5C】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図6A】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図6B】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図6C】本発明の好適な一実施態様の高分子電解質膜の製造工程を示す工程図の一部である。
【図7】本実施形態の高分子電解質膜の膜内を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】本実施形態の高分子電解質膜の膜内を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】本実施形態の高分子電解質膜の膜内を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の好適な一実施態様の膜電極接合体についての縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1から図10を用いて、本発明の実施形態に係る膜電極接合体および燃料電池について順次説明する。
【0027】
<燃料電池>
図1は、本発明の好適な一実施態様の膜電極接合体を有する燃料電池のセル(以下、単に燃料電池と称することがある。)についての縦断面図である。図1では、燃料電池10は、高分子電解質膜12と、これら挟む一対の触媒層14a,14bとから構成された膜電極接合体(MEA)20を備えている。
高分子電解質膜12については後に詳述する。
【0028】
燃料電池10は、膜電極接合体20の両側に、これを挟むようにガス拡散層16a,16bおよびセパレータ18a,18b(セパレータ18a,18bは、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝(図示せず)が形成されていると好ましい)を順に備えている。なお、膜電極接合体20およびガス拡散層16a,16bとからなる構造体は、一般的に、膜電極−ガス拡散層接合体(MEGA)と呼ばれることがある。
【0029】
アノード触媒層14a、およびカソード触媒層14bは、燃料電池10における電極層として機能する層である。アノード触媒層14a、およびカソード触媒層14bには、電極触媒とパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂等のプロトン伝導性を有する高分子電解質とが含まれる。
【0030】
ここで電極触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できる電極触媒であれば特に制限はなく、公知の電極触媒を用いることができるが、白金または白金系合金の微粒子を電極触媒として用いることが好ましい。白金または白金系合金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられることもある。
【0031】
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
【0032】
ガス拡散層16a,16bは、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進する機能を有する層である。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されることが好ましい。前記多孔質材料としては、多孔質性のカーボン不織布、またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるために好ましい。
【0033】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されている。前記電子伝導性を有する材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレスが挙げられる。
【0034】
このようにして製造された燃料電池は、燃料として、例えば、水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いる各種の形式で使用可能である。
【0035】
<膜電極接合体>
以下、本発明の一実施態様としての膜電極接合体20について、更に説明する。図10で表される膜電極接合体20は、上述のように高分子電解質膜12を挟む一対の触媒層14a,14bを有している。
【0036】
<高分子電解質膜>
まず、本実施形態の高分子電解質膜12について説明する。図2は、高分子電解質膜12の膜内の様子を示す透過型電子顕微鏡写真である。図に示すように、本実施形態の高分子電解質膜12は、高分子電解質を形成材料とした母材12Xと、母材12X内に分散した金属微粒子13Aと、を有している。金属微粒子13Aは、図2の写真の中で黒い斑点状に示されている。
【0037】
<高分子電解質>
高分子電解質膜12の母材を構成する高分子電解質としては、以下に示すように、炭化水素系高分子電解質と、フッ素系高分子電解質とを挙げることができる。
また、母材12Xを構成する高分子電解質以外の成分としては、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤、保水剤等の添加剤が挙げられる。
【0038】
(炭化水素系高分子電解質)
まず、本発明の一実施態様における高分子電解質膜に用いることができる炭化水素系高分子電解質について説明する。
【0039】
ここで、炭化水素系高分子電解質とは、この高分子電解質を構成する元素質量含有比で表してハロゲン原子が15質量%以下である高分子電解質を意味する。かかる炭化水素系高分子電解質は、前記のフッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有するため、より好ましい。特に好適な炭化水素系高分子電解質とは実質的にハロゲン原子を含有していない炭化水素系高分子電解質であり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素を発生して、他の部材を腐食させたりする恐れがない。
なお、ここでいう「炭化水素系高分子電解質」とは複素原子を含んでもよい。
【0040】
また、炭化水素系高分子電解質は、イオン交換基を有する高分子であることが好ましい。その理由は、このようにイオン交換基を有する高分子電解質を用いて燃料電池用の高分子電解質膜を得たとき、この高分子電解質膜のイオン伝導性が良好になるためである。
【0041】
上述のイオン交換基として、酸性のイオン交換基(すなわち、カチオン交換基)または塩基性のイオン交換基(すなわち、アニオン交換基)が挙げられる。高いプロトン伝導性を得る観点から、イオン交換基はカチオン交換基であることが好ましい。カチオン交換基を有する高分子電解質を用いることにより、一層発電性能に優れた燃料電池が得られる。カチオン交換基としては、例えば、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホノ基(−PO)、スルホニルイミド基(−SONHSO−)、フェノール性水酸基等が挙げられる。これらの中でも、カチオン交換基としては、スルホ基またはホスホノ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。なお、これらのイオン交換基は、部分的に、あるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオン等で交換されて塩を形成していてもよいが、燃料電池用部材として使用する際には、実質的に全てが遊離酸の形態であることが好ましい。前記イオン交換基が遊離酸の形態であると、後述する積層フィルムの製造において、高分子電解質溶液の調製がより容易になるという利点もある。
【0042】
これらのイオン交換基は、高分子電解質の主鎖もしくは側鎖の何れか一方に、または両方に導入されていてもよいが、主鎖へ導入されているのが好ましい。
【0043】
前記高分子電解質がイオン交換基を有する場合、前記イオン交換基の導入量は、高分子電解質単位質量当たりのイオン交換基数であるイオン交換基容量で表すことができる。
【0044】
ここで「イオン交換基容量」とは、高分子電解質膜を構成する高分子電解質の、乾燥樹脂1g当たりに含有するイオン交換基の当量数で定義される値[ミリ当量/g乾燥樹脂](以下、meq/g)である。
【0045】
また、「乾燥樹脂」とは高分子電解質を、水の沸点以上の温度に保持し、質量減少がほとんどなくなり質量の経時変化がほぼ一定値に収束した樹脂をいう。
【0046】
本実施形態で用いる高分子電解質は、イオン交換基の導入量が、イオン交換容量で表して0.5meq/g以上6.0meq/g以下であると好ましく;1.0meq/g以上6.0meq/g以下であるとより好ましく;2.0meq/g以上5.5meq/g以下であると、更に好ましく;2.7meq/g以上5.0meq/g以下であると最も好ましい。イオン交換容量がこの範囲であると、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性や耐水性がより良好となり、いずれも燃料電池の使用される高分子電解質膜としての機能が優れるので好ましい。
【0047】
以下、好適なイオン交換基を有する高分子電解質に関し詳述する。このような高分子電解質の具体例としては、例えば、下記の(A)〜(F)で表される高分子電解質が挙げられる。
(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(B)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(C)主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(D)主鎖が、シロキサン基やフォスファゼン基等の無機の単位構造を有する高分子にイオン交換基が導入された高分子電解質;
(E)高分子電解質(A)〜(D)の調製に使用する高分子の主鎖を構成する構造単位から選ばれる2種以上の構造単位を組み合わせた共重合体に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(F)主鎖や側鎖に窒素原子を含む炭化水素系高分子に、硫酸やリン酸等の酸性化合物をイオン結合により導入した高分子電解質
【0048】
なお、以下の例示においては、イオン交換基がスルホ基である高分子電解質を主として例示するが、このスルホ基を別のイオン交換基に置き換えた高分子電解質でもよい。
【0049】
前記(A)の高分子電解質としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸等が挙げられる。
【0050】
前記(B)の高分子電解質としては、特開平9−102322号公報に記載された炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって製造された高分子を主鎖とし、スルホ基を有する炭化水素鎖を側鎖とし、共重合様式がグラフト重合であるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。また、米国特許第4,012,303号公報または米国特許第4,605,685号公報に記載された方法により得られる炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホ基を導入して固体高分子電解質としたスルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFEも挙げることができる。
【0051】
前記(C)の高分子電解質は、主鎖に酸素原子等のヘテロ原子を含む高分子電解質であってもよい。このような高分子電解質としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれに、スルホ基が導入された高分子電解質が挙げられる。具体的には、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール(例えば、特開平9−110982号公報参照)等が挙げられる。前記(C)の高分子電解質は、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子で中断されている化合物であってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)が挙げられる。このような高分子電解質は、特開平9−110982号公報、およびJ.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974)にも記載されている。
【0052】
前記(D)の高分子電解質としては、例えば、ポリフォスファゼンにスルホ基が導入された高分子電解質等が挙げられる。これらは、Polymer Prep.,41,No.1,70(2000)に記載された方法に準じて容易に製造することができる。
【0053】
前記(E)の高分子電解質は、スルホ基が導入されたランダム共重合体、スルホ基が導入された交互共重合体、またはスルホ基が導入されたブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0054】
前記(F)の高分子電解質としては、例えば、特表平11−503262号公報に記載されたようなリン酸を導入させたポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0055】
さらに、本発明の一実施態様における高分子電解質膜に使用する高分子電解質としては、イオン交換基を有する構造単位とイオン交換基を有しない構造単位とからなる共重合体が、好ましい。このような共重合体であると、得られる高分子電解質を用い、後述の方法にて作成される高分子電解質膜が良好なプロトン伝導性と耐水性を発現し、燃料電池用として有利であるという利点がある。なお、かかる共重合体に関し、2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合または交互共重合のいずれであってもよく、これらの共重合様式を組合わせてもよい。
【0056】
燃料電池用として良好な耐熱性を有する高分子電解質膜を得るためには、前記炭化水素系高分子電解質であって、中でも、主鎖に芳香環を有する炭化水素系高分子電解質(すなわち、上記(C)で表される炭化水素系高分子電解質)が好ましく;さらには主鎖を構成する芳香環を有し、且つ前記芳香環に直接結合または他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有する炭化水素系高分子電解質が好ましい。特に、主鎖を構成する芳香族を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖を構成する芳香環か側鎖の芳香環の、どちらかの芳香環に直接結合したイオン交換基を有する芳香族系高分子電解質が好ましい。
【0057】
特に好ましい芳香族系高分子電解質としては、分子構造内にイオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位と、を有する高分子電解質が例示される。
【0058】
上述のイオン交換基を有する構造単位としては、下記式(11a)〜(14a)で示される構造を例示することができる。
【0059】
【化1】

(式中、Ar〜Arは、それぞれ同一または相異なり、主鎖に芳香環を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表し;イオン交換基が、前記主鎖の芳香環か側鎖の芳香環の少なくとも1つに直接結合しており;ZおよびZ’はそれぞれ同一または相異なり−CO−で示される基、または−SO−で示される基のいずれかを表し;X、X’、およびX”はそれぞれ同一または相異なり−O−で示される基、−S−で示される基のいずれかを表し;Yは直接結合もしくは下記式(15)で表される基を表し;pは0、1または2を表し;q、rはそれぞれ同一または相異なり1、2または3を表す。)
【0060】
また、上述のイオン交換基を有しない構造単位としては、下記式(11b)〜(14b)で示される構造を例示することができる。
【0061】
【化2】

(式中、Ar11〜Ar19は、それぞれ同一または相異なり側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表し;Z、およびZ’はそれぞれ同一または相異なり−CO−で示される基、または−SO−で示される基のいずれかを表し;X、X’およびX”はそれぞれ同一または相異なり−O−で示される基、または−S−で示される基のいずれかを表し;Yは直接結合もしくは下記式(15)で表される基を表し;p’は0、1または2を表し、q’、およびr’はそれぞれ同一または相異なり1、2または3を表す。)
【0062】
【化3】

(式中、RおよびRはそれぞれ同一または相異なり、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基を表し;RとRとが連結して環を形成していてもよく;RとRとが連結して形成される環を有する式(15)の基としては、シクロヘキシリデン基などの炭素数5〜20の2価の環状炭化水素基が挙げられる。)
【0063】
イオン交換基を有する構造単位を示す式(11a)〜(14a)において、Ar〜Arは、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族炭化水素基;1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮合環系芳香族炭化水素基;ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、3H−インドール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フラザン、フェノキサジン、インドリン、イソインドリン、キヌクリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,3,5−トリアジン、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、フェナルサジン、ベンゾイミダゾール、およびベンゾトリアゾールからなる群より選ばれる1種の化合物から芳香環上の水素原子を2個取り去って得られる2価のヘテロ芳香族基;下記式(N−01)〜(N−07)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を含む2価のヘテロ芳香族基等が挙げられる。
【0064】
【化4】

【0065】
式(11a)〜(14a)におけるAr〜Arとしては、好ましくは、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族炭化水素基;1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮合環系芳香族炭化水素基であり;より好ましくは2価の単環性芳香族炭化水素基である。
【0066】
また、式(11a)〜(14a)におけるAr〜Arで表される芳香族基の芳香環上の水素原子は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基で置換されていてもよい。
【0067】
式(11a)〜(14a)におけるAr〜Arで表される芳香族基は、芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。前記イオン交換基の具体例および好ましい例は前述のものと同様なものを挙げることができる。これらのイオン交換基は、高分子電解質の主鎖、側鎖の何れか一方、または両方に導入されていてもよいが、主鎖の芳香環へ導入されているのが好ましい。前記イオン交換基として、上述のように酸性のイオン交換基が好ましく、酸性のイオン交換基の中でも、スルホ基またはホスホノ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。
【0068】
また、式(14a)で表されるイオン交換基を有する構造単位の例の一つとして、下記式(14a−1)で表される構造単位を挙げることができる。
【0069】
【化5】

(上記式(14a−1)中、Ar110、Ar120、Ar130は、それぞれ独立に、2価の芳香族基を示し、その芳香環上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよく;Y000は、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CFu000−(u000は1〜10の整数である)、−C(CF−または直接結合を示し;Z000は、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CHk000−(k000は1〜10の整数である)または−C(CH−を示し;R110は、直接結合、−O(CHp000−、−O(CFp000−、−(CHp000−または−(CFp000−を示し(p000は、1〜12の整数を示す);R120、R130は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または炭化水素基を示し;ただし、上記式中に含まれる全てのR120およびR130のうち少なくとも1個は水素原子であり;x100は、0〜4の整数であり;x200は、1〜5の整数であり;a000は、0〜1の整数であり、b000は、0〜3の整数を示す。)
【0070】
式(14a−1)におけるAr110、Ar120およびAr130は、2価の芳香族基を表す。このような2価の芳香族基としては、式(11a)〜(14a)におけるAr〜Arと同様の2価の芳香族基が挙げられる。
【0071】
120、R130は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または炭化水素基を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、またはセシウム、が挙げられる。
炭化水素基としては、複素環基を有していてもよく、このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]へプチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1] ヘプチルメチル基等の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、複素環基を有する炭化水素基等が挙げられる。これらのうちn−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基が好ましい。なお、R120、R130は、水素原子であることが好ましい。
【0072】
上記式(14a−1)で表される構造単位は、さらに下記式(14a−2)で表される構造単位であることが好ましい。
【0073】
【化6】

(式(14a−2)中、Y001は−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(ここでのhは1〜10の整数である)、および−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を示し;Z001は直接結合または、−(CH−(ここでのgは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、−S−、−CO−および−SO−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を示し;Ar001は−SOH、−O(CHSOHまたは−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示し;pは1〜12の整数を示し;m001は0〜10の整数を示し;n001は0〜10の整数を示し;k001は1〜4の整数を示す。)
【0074】
上記式(14a−2)で表されるイオン交換基を有する構造単位の具体例としては、後述の式(4a−13)〜(4a−20)で表される構造単位を挙げることができる。
【0075】
一方、イオン交換基を有しない構造単位を示す式(11b)〜(14b)において、Ar11〜Ar19は、互いに独立に2価の芳香族基を表す。このような2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族炭化水素基;1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮合環系芳香族炭化水素基;ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、3H−インドール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フラザン、フェノキサジン、インドリン、イソインドリン、キヌクリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,3,5−トリアジン、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、フェナルサジン、ベンゾイミダゾール、およびベンゾトリアゾールからなる群より選ばれる1種の化合物から芳香環上の水素原子を2個取り去って得られる2価のヘテロ芳香族基;および下記式(N−01)〜(N−07)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を含む2価のヘテロ芳香族基等が挙げられる。
【0076】
【化7】

【0077】
式(11b)〜(14b)におけるAr11〜Ar19としては、好ましくは、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族炭化水素基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮合環系芳香族炭化水素基であり、より好ましくは2価の単環性芳香族炭化水素基である。
【0078】
また、Ar11〜Ar19で表される芳香族基の芳香環上の水素原子は、フッ素原子、ホルミル基、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基で置換されていてもよい。なお、ここでいう「置換基を有していてもよい」の置換基とは前記イオン交換基を包含するものではない。
【0079】
ここで、前述の2価の芳香族基(式(11a)〜(14a)におけるAr〜Arで表される芳香族基および式(11b)〜(14b)におけるAr11〜Ar19で表される芳香族基)の置換基を以下に例示する。
【0080】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基が挙げられる。
【0081】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基;およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基が挙げられる。
【0082】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基;およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基が挙げられる。
【0083】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基;およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基が挙げられる。
【0084】
置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基;およびこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が21以下であるアシル基が挙げられる。
【0085】
前記置換基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基;フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基;ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の芳香環を有するアシル基等の芳香環を有する置換基であると、ポリマーの耐熱性が良好となる傾向があり、より実用的な燃料電池用部材が得られるため好ましい。
【0086】
芳香環を有するアシル基を置換基として有する重合体を含む高分子電解質においては、前記アシル基を有する2つの構造単位が隣接し、前記2つの構造単位にあるアシル基同士が結合したり、アシル基同士が結合した後に転位反応を生じたりすることにより、構造が変化する場合がある。また、このような構造変化が生じたか否かは、例えば13C−核磁気共鳴スペクトルの測定により確認することができる。
【0087】
なお、本発明においての炭化水素系高分子電解質の好ましい要素の一つとして、この高分子電解質を構成する元素質量含有比で表してハロゲン原子が15質量%以下である高分子電解質であることが挙げられる。かかる炭化水素系高分子電解質は、前記のフッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有するため、より好ましい、特に好適な炭化水素系高分子電解質とは実質的にハロゲン原子を含有していない炭化水素系高分子電解質であり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素を発生して、他の部材を腐食させたりする恐れがない。
【0088】
前記炭化水素系高分子電解質は、イオン交換基を有する構造単位、および、イオン交換基を有しない構造単位を有し、イオン交換基を有する構造単位が密な相が膜厚方向に連続相を形成できれば、よりプロトン伝導性に優れる高分子電解質膜が得られるといった利点があるので好ましい。
【0089】
本発明において、好適な高分子電解質は、前記式(11a)〜(14a)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有する構造単位と、前記式(11b)〜(14b)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有しない構造単位とを有する高分子電解質である。このような高分子電解質は、イオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位と、のそれぞれに対応するモノマーまたはオリゴマーを出発物質とする共重合体として得ることができる。さらに好適なイオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位との組み合わせとしては、下記の表1の<A>〜<M>に示す組み合わせをあげることができる。
【0090】
【表1】

【0091】
本発明において好適に用いられる高分子電解質の構造としては、更に好ましくは、<B>、<C>、<D>、<G>、<H>、<I>、<J>、<L>、または<M>であり;より更に好ましくは<G>、<H>、<L>または<M>であり;特に好ましくは<G>、<H>、または<L>である。
【0092】
好適な共重合体の例として、以下に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位と、以下に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位と、からなる共重合体を挙げることができる。なお、イオン交換基を有する繰り返し単位におけるイオン交換基は、好適なスルホ基により例示している。もちろん、スルホ基に代えて上述のイオン交換基のいずれかを採用してもよい。
【0093】
また、これら構造単位同士は直接結合している形態でもよく、適当な原子または原子団で連結している形態でもよい。ここでいう構造単位同士を結合する原子または原子団の典型的な例としては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらを組み合わせてなる2価の基を挙げることができる。
【0094】
(イオン交換基を有する構造単位)
【化8】

【0095】
【化9】

【0096】
(イオン交換基を有しない構造単位)
【化10】

【0097】
【化11】

【0098】
【化12】

(式(4b−15)〜(4b−32)中、r000は0または1以上の整数を示し;r000は、好ましくは100以下であり、 より好ましくは1以上80以下である。)
【0099】
前記例示の中でも、イオン交換基を有する構造単位を表す式としては、式(4a−1)、(4a−2)、(4a−3)、(4a−4)、(4a−5)、(4a−6)、(4a−7)、(4a−8)、(4a−9)、(4a−10)、(4a−11)、および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましい。同様に、式(4a−10)、(4a−11)、および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく、式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0100】
このような構造単位を含むセグメントを有する高分子電解質、特に、このような構造単位を繰り返し単位として含むセグメント(イオン交換基を有するセグメント)を有する高分子電解質は、このセグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。
【0101】
また、イオン交換基を有しない構造単位を表す式としては、式(4b−1)、(4b−2)、(4b−3)、(4b−4)、(4b−5)、(4b−6)、(4b−7)、(4b−8)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−11)、(4b−12)、(4b−13)、および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましい。同様に、式(4b−2)、(4b−3)、(4b−10)、(4b−13)、および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4b−2)、(4b−3)、および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が特に好ましい。
【0102】
本発明に係る高分子電解質は、イオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位とを有する高分子電解質であり、この2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、またはグラフト共重合の何れでもよく、これらの共重合様式の組み合わせでもよい。好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であり;より好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合であり;特に好ましくはブロック共重合である。
【0103】
ブロック共重合体としては、主としてイオン交換基を有する構造単位からなるセグメント(イオン交換基を有するセグメント)および、主としてイオン交換基を有しない構造単位からなるセグメント(すなわち、イオン交換基を実質的に有しないセグメント)とを有する共重合体が好ましい。このようなブロック共重合体では、イオン交換基を有するセグメントが密な相が膜厚方向に連続相を形成することで、よりプロトン伝導性に優れる高分子電解質膜が得られるといった利点がある。また、好適なイオン交換基を有するセグメントを構成する構造単位とイオン交換基を実質的に有しないセグメントを構成する構造単位の組み合わせとしては、下記の表2の<A>〜<M>に示すセグメントの組み合わせを挙げることができる。
【0104】
【表2】

【0105】
更に好ましくは、<B>、<C>、<D>、<G>、<H>、<I>、<J>、<L>、または<M>であり;より更に好ましくは<G>、<H>、<L>または<M>であり;<G>、<H>、または<L>が特に好ましい。
【0106】
前記例示の中でも、イオン交換基を有するセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては式(4a−1)、(4a−2)、(4a−3)、(4a−4)、(4a−5)、(4a−6)、(4a−7)、(4a−8)、(4a−9)、(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく;式(4a−10)、(4a−11)、および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0107】
本発明に係る上記ブロック共重合体の好ましい形態の一つとして、イオン交換基を有するセグメントの主鎖が、実質的に複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有することがあげられる。そのようなセグメントの構造単位として、好ましくは前述の式(4a−10)、(4a−11)、(4a−12)、(4a−13)、(4a−14)、(4a−15)、(4a−16)、(4a−17)、(4a−18)、(4a−19)および(4a−20)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく、式(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく、式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0108】
このような構造単位からなる繰り返し単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)を有する高分子電解質、特に、このような繰り返し単位からなるセグメントを有する高分子電解質は、優れたイオン伝導性を発現できるものであり、このセグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。
【0109】
ここで「ポリアリーレン構造」とは、主鎖を構成している芳香環同士が実質的に直接結合で結合されている形態であり、具体的には、前記芳香環同士の結合の総数を100%としたとき、直接結合の割合が80%以上の構造であると好ましく、90%以上の構造であるとより好ましく、95%以上の構造であると更に好ましい。なお、直接結合で結合されている形態以外の形態とは、芳香環同士が2価の原子または2価の原子団を介して結合している形態である。
【0110】
イオン交換基を有しないセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては、式(4b−1)、(4b−2)、(4b−3)、(4b−4)、(4b−5)、(4b−6)、(4b−7)、(4b−8)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−11)、(4b−12)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく;式(4b−2)、(4b−3)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4b−2)、(4b−3)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がよりさらに好ましく;式(4b−2)、(4b−3)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が特に好ましい。
【0111】
また、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとは、直接結合している形態でもよく、適当な原子または原子団で連結している形態でもよい。ここでいうセグメント同士を結合する原子または原子団の典型的な例としては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらを組み合わせてなる2価の基を挙げることができる。
【0112】
好適なブロック共重合体の例として、上記に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)と、主として上記に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を実質的に有しないセグメント)と、からなるブロック共重合体を挙げることができる。
【0113】
ここで、「イオン交換基を有するセグメント」とは、イオン交換基が、前記セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基が平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
【0114】
一方、「イオン交換基を実質的に有しないセグメント」とは、イオン交換基が、前記セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基が平均0.1個以下であるとより好ましく;平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
【0115】
典型的には、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとが、直接結合で結合されているか、適当な原子または原子団で結合された形態のブロック共重合体である。
【0116】
上記式(11a)〜(14a)で表される構造単位から選ばれる1種以上の構造単位からなるセグメントの重合度は2以上であり、3以上が好ましく;5以上がより好ましく;10以上が更に好ましい。また、かかるセグメントの重合度は1000以下が好ましく;500以下が好ましい。この重合度が2以上、好ましくは5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、十分なプロトン伝導度を発現し、この重合度が1000以下であれば、製造がより容易である利点がある。
即ち、かかるセグメントの重合度は、2以上、1000以下が好ましく;5以上、1000以下がよりに好ましく;5以上、500以下が更に好ましく;10以上、500以下が最も好ましい。
【0117】
また、式(11b)〜(14b)で表される構造単位から選ばれる1種以上の構造単位からなるセグメントの重合度は1以上であり、2以上が好ましく;3以上がより好ましい。また、かかるセグメントの重合度は100以下が好ましく;90以下がより好ましく;80以下が更に好ましい。重合度がこのような範囲内であれば、燃料電池用の高分子電解質として、十分な機械強度を有し、製造が容易であるので好ましい。
即ち、かかるセグメントの重合度は、1以上、100以下が好ましく;2以上、90以下がより好ましく;3以上、80以下が更に好ましい。
【0118】
また、本発明で用いられる炭化水素系高分子電解質の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく;10000〜800000であることがより好ましく;10000〜600000であることがより更に好ましく;中でも15000〜400000であることが特に好ましい。このような範囲の分子量の高分子電解質を用いることにより、後述の方法にて作成される高分子電解質膜は、その膜の形状を安定的に維持できる傾向がある。前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0119】
(フッ素系高分子電解質)
また、本発明の一実施形態における高分子電解質膜に用いることができるフッ素系高分子電解質としては、通常知られたフッ素系高分子電解質を例示することができる。例えば、上述の炭化水素系高分子電解質中の水素原子がフッ素原子で置換されたフッ素系高分子電解質を用いることができる。具体的には、パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、またはパーフルオロカルボン酸ポリマーが挙げられる。他にも、Nafion(デュポン社登録商標)、旭化成製のAciplex(旭化成登録商標)、旭硝子製のFlemion(旭硝子登録商標)等のフッ素系高分子電解質や、上述した特開2003−113136号公報に記載されているフッ素系高分子電解質等も用いることが可能である。
なお、「フッ素系高分子電解質」とは、当該高分子電解質を構成する元素質量含有比で表してフッ素原子が15質量%を超える高分子電解質を意味する。
【0120】
<金属微粒子>
次に、本発明の一実施態様である高分子電解質膜12が有する金属微粒子13Aについて説明する。金属微粒子13Aは、電池稼動時に発生する過酸化物またはこの過酸化物から発生するラジカルを失活させる機能を有するものであり、高分子電解質膜12の膜内に膜厚方向に濃度勾配を有して分散しているものである。
【0121】
ここで、「膜厚方向に濃度勾配を有する」とは、金属微粒子13Aが高分子電解質膜12の膜内に一様に分散しているのではなく、膜厚方向に見ると、ある位置では金属微粒子13Aの濃度が小さく、またある位置では金属微粒子13Aの濃度が大きいというように、存在に偏りがあることを示している。金属微粒子13Aが濃度勾配を有して分散していると、金属微粒子13Aの濃度が極大値を示すところでは、一様に分散しているよりも実効濃度が高くなり、効果的にラジカルを失活させやすくなる。また、金属微粒子13Aが密集することにより、ラジカルに対する活性が高くなる近接効果も期待できる。
【0122】
なお、本明細書において「極大値」とは、高分子電解質膜内の膜厚方向における金属微粒子の濃度変化について示した関数が、ある膜厚方向の位置において増加から減少に変わるとき、当該位置における値のことである。
【0123】
金属微粒子13Aの濃度は、高分子電解質膜12の膜表面ではなく、膜内部に極大値を有するとよい。また、金属微粒子13Aの濃度の最大値が、高分子電解質膜の膜厚方向の中心よりも前記カソード触媒層側にあることが好ましい。例えば、極大値が高分子電解質膜内のカソード触媒層に接する表面近傍に有することが好ましい。
【0124】
カソード触媒層14bの近傍では、アノード触媒層14aに供給される水素が、アノード触媒層14a側から高分子電解質膜を通過してカソード触媒層14b側に浸透してしまう(いわゆるクロスリーク、またはクロスオーバー)ことにより、カソード触媒層14bに供給される水素と反応し、過酸化水素およびヒドロキシラジカルが生じ得る。しかし、カソード触媒層14b側の表面近傍に金属微粒子13Aが多く存在していると、発生するラジカルを効率良く失活させることができるため、高分子電解質膜の劣化(分子量低下、フッ素イオンの溶出量の増大)を抑制することができる。
【0125】
このような金属微粒子13Aの形成材料は、貴金属および貴金属合金からなる貴金属群より選ばれる1種以上の金属を含む。前記形成材料は、白金、金、パラジウム、イリジウム、ロジウムおよびルテニウムからなる貴金属群より選ばれる少なくとも1種の貴金属もしくは貴金属合金のいずれか一方、または両方を含むことが好ましく、金、パラジウム、ルテニウム、およびロジウムからなる貴金属群より選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、パラジウムが特に好ましい。
【0126】
なお、金属微粒子13Aとしては、上記群より選ばれる2種以上の金属を形成材料としてもよい。その場合、金属微粒子13Aは、単一の金属からなる金属微粒子13Aが混合されていることとしてもよく、複数種の金属の合金を形成材料としていることとしてもよい。
【0127】
金属微粒子13Aの粒子径は、500nm以下であることが好ましい。より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは50nm以下である。また、下限は特に限定はない。金属状態で膜内に存在していればよく、一部がイオン状態で存在していてもよい。図2に示す電子顕微鏡写真では、金属微粒子13Aが黒い斑点状に写っているが、黒い斑点がない箇所には撮像した倍率では写らない大きさの微粒子が存在していることがあってもよい。
【0128】
電解質膜表面および内部に存在するPd金属の総量は、電解質膜表面および内部に存在するPd金属とPdイオンの総量に対して5%以上95%以下であることが好ましい。好ましくは5%以上80%以下であり、より好ましくは5%以上65%以下であり、更に好ましくは5%以上50%以下である。
【0129】
<膜電極接合体の製造方法>
次に、図3から図5を参照しながら、本発明の一実施態様である高分子電解質膜の製造方法について説明する。
【0130】
まず、図3に示すように、上述のような高分子電解質を用い、高分子電解質膜12の母材12Xを製造する。高分子電解質膜の製造方法としては、通常知られた種々の方法を採用することができるが、本実施形態においては、以下のキャスト製膜法を採用して製造することとして説明する。
【0131】
<キャスト製膜>
本発明の一実施態様である膜電極接合体に用いることができる母材12Xは、好ましくは、以下の(i)〜(iv)の工程を含むキャスト製膜法を用いて製造される。
(i)上述のような高分子電解質を、前記高分子電解質を溶解し得る有機溶媒に溶解し、高分子電解質溶液を調製する工程;
(ii)前記(i)で得られた高分子電解質溶液を、比較的平滑な表面を有する支持基材上に流延塗工し、前記支持基材上に高分子電解質の流延膜を形成する工程;
(iii)前記(ii)で支持基材上に形成された流延膜から、前記有機溶媒を除去して、前記支持基材上に高分子電解質膜を形成する工程;
(iv)前記(iii)の工程を行った後、支持基材と高分子電解質膜とを分離する工程
【0132】
ここで、前記キャスト製膜法に関する各工程(i)〜(iv)に関し順次説明する。
【0133】
<工程(i)>
まず、工程(i)では高分子電解質溶液を調製する。この高分子電解質溶液調製に使用する有機溶媒としては、使用する高分子電解質を溶解し得る有機溶媒が選ばれる。また、高分子電解質に加えて、他の高分子や添加剤などの成分を用いる場合は、これら他の成分も共に溶解し得る有機溶媒が好ましい。
前記有機溶媒は、使用する高分子電解質を溶解し得る溶媒であり、具体的には、この高分子電解質を、25℃で1重量%以上の濃度で溶解し得る有機溶媒を意味する。好適には、高分子電解質を5〜50重量%の濃度で溶解し得る有機溶媒を用いることが好ましい。
【0134】
また、この有機溶媒は、次の工程(ii)において支持基材上に高分子電解質の流延膜を形成した後に、加熱処理により除去し得る程度の揮発性が必要である。高分子電解質を溶解し得る有機溶媒として沸点が150℃以下の有機溶媒のみを用いると、後述する工程(iii)で流延膜から有機溶媒を除去して高分子電解質膜を形成しようとする場合に、形成した高分子電解質膜に凹凸状の外観不良が発生するおそれがある。これは、沸点が150℃以下である有機溶媒では、前記流延膜から急激に有機溶媒が揮発してしまうためである。したがって、前記有機溶媒は、101.3kPa(1気圧)における沸点が150℃以上である有機溶媒を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0135】
高分子電解質溶液の調製に好適な有機溶媒を例示すると、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)等の非プロトン性極性溶媒;あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。
【0136】
これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の有機溶媒を混合して用いることもできる。中でも、非プロトン性極性溶媒を含む有機溶媒が好ましく、実質的に非プロトン性極性溶媒からなる有機溶媒が特に好ましい。ここでいう「実質的に非プロトン性極性溶媒からなる有機溶媒」とは、主としてプロトン性極性溶媒からなる有機溶媒を意味するが、企図せず含有される水分などの存在を排除するものではない。前記非プロトン性極性溶媒は、支持基材に対して親和性が比較的小さく、前記支持基材に非プロトン性極性溶媒が吸収され難いという利点もある。また、上述の好適な高分子電解質であるブロック共重合体の溶解性が高いという点では、前記非プロトン性極性溶媒の中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP、GBLまたはこれらから選ばれる2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0137】
<工程(ii)>
次に、工程(ii)について説明する。図3Aは、工程(ii)を示す説明図である。
【0138】
この工程は、工程(i)で得られた高分子電解質溶液12Sを支持基材P上に流延塗工し、流延膜12Aを形成する工程である。前記流延塗工の方法としては、ローラーコート法、スプレイコート法、カーテンコート法、スロットコート法、またはスクリーン印刷法等の各種手段を用いることができるが、好ましくは、一定間隔の隙間(クリアランス)が設けられたダイと呼ばれる金型により、所定の幅および厚みに賦型する手段が挙げられる。図3Aでは、ダイ100から高分子電解質溶液12Sを吐出して流延膜12Aを形成することとして示している。
【0139】
このようにして支持基材P上に形成された流延膜12Aは、塗工時に高分子電解質溶液12S中の有機溶媒の一部が揮発するために膜の形状を有するものとなる。この際の流延膜12Aの膜厚は、3μm〜50μmになるようにしておくことが好ましい。このような膜厚の流延膜12Aを得るには、使用する高分子電解質溶液12Sの高分子電解質濃度、塗工装置の塗出量等を適宜調整すればよい。また、前記支持基材Pが連続的に走行する基材である場合は、その支持基材Pの走行速度等で調節することもできる。
【0140】
工程(ii)で使用する支持基材Pとしては、流延塗工に供する高分子電解質溶液12Sに対して十分な耐久性を有し、後述する工程(iii)での処理条件に対しても耐久性を有する材質からなる基材が選択される。この場合の「耐久性」とは、高分子電解質溶液12Sによって支持基材P自身が実質的に溶け出さないことや、工程(iii)の処理条件により、支持基材P自身が膨潤や収縮を起こさず寸法安定性がよいこと等を意味するものである。
【0141】
このような支持基材Pとしては、たとえばガラス板;SUS箔、銅箔等の金属箔;ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のプラスチックフィルムを挙げることができる。また、このプラスチックフィルムには、上述したような耐久性を著しく損なわない範囲で、そのフィルム表面に対し、UV処理、離型処理、エンボス処理等の表面処理を行ってもよい。以下においては、支持基板Pがプラスチックフィルムであることとして説明を行う。
【0142】
<工程(iii)>
次に、工程(iii)に関し説明する。図3Bは工程(iii)を示す説明図である。
【0143】
この工程は工程(ii)において支持基材P上に形成された流延膜12Aに含有される有機溶媒Sを除去して、前記支持基材P上に母材12Xを形成する工程である。このような除去には、乾燥または洗浄溶媒による洗浄が推奨される。図3Bでは、有機溶媒Sが蒸発することにより乾燥し、除去されることとして図示している。このような乾燥と洗浄とを組み合わせて、前記有機溶媒を除去することがより一層好ましく、乾燥と洗浄とを組み合わせる場合には、まず乾燥を行って、支持基材P上に形成された延膜に含有される有機溶媒Sのほとんどを除去した後、洗浄溶媒による洗浄を行うことが特に好ましい。
【0144】
ここでは、工程(iii)として好適な方法である乾燥と洗浄とを、この順で実施することについて詳述する。工程(ii)を経て得られた支持基材P上に形成された流延膜12Aから有機溶媒を乾燥除去するには、加熱、減圧、通風等の処理を採用することができるが、生産性が良好である点と、操作が容易である点で加熱処理が好ましい。この場合、流延膜12Aが形成された支持基材P(以下、場合により「第1の積層フィルム」という)を、直接加熱、温風処理等により加熱処理する。
【0145】
流延膜12A中の高分子電解質を著しく損なわない点で、温風処理が特に好ましい。たとえば、第1の積層フィルムが長尺状であり、かかる長尺状の第1の積層フィルムを連続的に処理する場合は、乾燥炉中に前記第1の積層フィルムを通過させればよい。このときの乾燥炉は、40℃〜150℃の範囲、好ましくは50℃〜140℃の範囲に温度設定された温風を、第1の積層フィルムの通過方向に対し垂直方向および/または対向方向に沿って送風する。こうすることにより、支持基材P上にある流延膜12Aから有機溶媒S等の揮発成分が乾燥(蒸発)除去され、支持基材P上に母材12Xが形成された第2の積層フィルムが形成する。
【0146】
このようにして得られた第2の積層フィルムの母材12X中には、まだ若干量の有機溶媒が含有されているため、この有機溶媒を洗浄溶媒で洗浄する。洗浄溶媒で洗浄することにより、外観等に優れる母材12Xが得られ易い。高分子電解質溶液の調製において好適な有機溶媒である、DMSO、DMF、DMAc、NMPまたはGBL、あるいはこれらの組合せからなる混合溶媒を使用した場合、洗浄溶媒には純水、特に超純水を使用することが好ましい。
【0147】
上述のように、第1の積層フィルムが長尺状であって連続的に走行している場合、乾燥炉を通過して連続的に形成された第2の積層フィルムは、たとえば洗浄溶媒を充填した洗浄槽中を通過させることにより洗浄することができる。また、乾燥炉を通過して連続的に形成された第2の積層フィルムを適当な巻芯に巻き取って巻取り体として後、この巻取り体を、洗浄処理を担う洗浄装置へと移し変え、移し変えた巻取り体から第2の積層フィルムを洗浄槽へと送り出す形式で洗浄を行うこともできる。こうすることで、第2の積層フィルムにある母材12Xの有機溶媒含有量はより一層低減することが可能である。
【0148】
<工程(iv)>
次に工程(iv)に関し説明する。図3Cは工程(iv)を示す説明図である。工程(iv)においては、工程(iii)において形成された第2の積層フィルムから支持基材Pを剥離などによって除去することにより高分子電解質膜12の母材12Xを得る。
得られる母材12Xは、好適なキャスト製膜法により得られたものであるため、実質的に無多孔質となる。なお、ここでいう「実質的に無多孔質」とは、ボイドなどの微小貫通孔が高分子電解質膜12に形成されていないことを意味する。ただし、この高分子電解質膜12は、燃料電池作動を阻害しない程度の少数量のボイドまたは小さい径のボイドであれば、このボイドを有するような膜であってもよい。
【0149】
なお、工程(iii)と工程(iv)との間に、得られた第2の積層フィルムを塩酸や硫酸等の強酸に接触させる酸処理工程が含まれることとしてもよい。
【0150】
また、上述のキャスト製膜法による高分子電解質膜12の製造においては、主として支持基材Pが連続的に走行している場合を説明したが、無論、枚葉の支持基材Pを用いても、高分子電解質膜12を得ることができる。この場合、枚葉の支持基材P上に塗工された高分子電解質溶液は、適当な乾燥炉中に保管することで、有機溶媒を除去することができるし、このようにして得られた枚葉の第2の積層フィルムは、洗浄溶媒を備えた洗浄槽に浸漬等することで洗浄処理を行うことができる。
【0151】
また、洗浄後の第2の積層フィルムは、支持基材Pを除去した後、残存または付着している洗浄溶媒を乾燥除去させてもよいし、洗浄後の第2の積層フィルムをそのまま加熱等することで残存または付着している洗浄溶媒を乾燥除去した後、支持基材Pを除去してもかまわない。
【0152】
次に、図4に示すように、上述の母材12Xを用いて、高分子電解質膜12および膜電極接合体20を製造する。
【0153】
まず、図4Aに示すように、母材12Xの一方の表面に金属層13を形成する。金属層13としては、母材12Xの表面に、上述の金属微粒子の形成材料を物理蒸着して成膜することにより形成することができる。物理蒸着としては、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法など、通常知られた方法を用いることができる。物理蒸着法の中では、イオンプレーティング法が好ましい。ここでは、パラジウムをターゲット金属として用いたイオンプレーティング法により、パラジウム粒子SPを積層させることとして図示している。
【0154】
なお、本発明の一実施態様においては、膜状の形態を有する金属層13を採用するものとしたが、膜状でなくてもよい。他にも、上述の形成材料の微粒子が層状に敷き詰められた形態(以下、金属微粒子層と称することがある)を採用することもできる。本明細書においては、「金属層」には、膜状の形態を有する層の他に、上記金属微粒子層も含まれることとする。
【0155】
金属微粒子層は、上述の形成材料の微粒子と、樹脂の前駆体または樹脂の溶液と、を混合した分散液を母材12Xの表面に塗布し、固化させることにより形成することができる。微粒子は、数nm〜数十nmの平均粒子径であるものを用いることができ、塗布する際に、微粒子が凝集した状態になっても構わない。また、前駆体としては、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂の前駆体を用いることができる。塗工方法としては、スプレイ法、ダイコート法等の公知の技術を用いることができる。
【0156】
これらの塗工方法で形成された金属層は、金属微粒子が電解質膜表面に微分散した構造を有している。このような金属微粒子層では、上述の物理蒸着で形成した膜状の金属層とは異なり、金属微粒子間に隙間が形成されているため、この隙間を介して高分子電解質膜と触媒層との間のイオンの授受が容易に行われる。したがって、このような金属微粒子層は発電性能を維持することができる。
【0157】
ここで、分散液の溶媒は、母材12Xを形成する高分子電解質の溶解度を基準として選択される。詳しくは、分散液は、母材12Xを構成する高分子電解質に対して貧溶媒となっている。溶媒が混合溶媒である場合、母材12Xを構成する高分子電解質に対して貧溶媒である少なくとも1種の溶媒が用いられ、貧溶媒となるように物性が調整されている。
なお、本明細書において、高分子電解質の貧溶媒とは、前記高分子電解質を25℃において0.1質量%以上の濃度で溶解し得ない溶媒を言う。これに対し、高分子電解質の良溶媒とは、前記高分子電解質を25℃において0.1質量%以上の濃度で溶解し得る溶媒を言う。具体的には、所定量の25℃の溶媒に対して所定量の高分子電解質を溶解させて溶液を調整し、当該溶液を乾固させて乾燥質量を測定することにより、溶媒に対する高分子電解質の溶解度を測定する。分散液の溶媒は、用いる高分子電解質と劣化防止剤との種類に応じ、各々溶解度を測定することにより適宜選択することができる。
【0158】
さらに、物理蒸着法であっても、例えばスパッタ法において、上述の形成材料をターゲットに用い、ターゲットに衝突させるイオン化ガスのエネルギーを制御することにより、スパッタ粒子の粒子径を制御することで、スパッタ粒子が層状に敷き詰められた金属微粒子層を形成することができる。物理蒸着法によって形成された金属層は、電解質膜表面との密着性が優れており、電解質膜と触媒層との界面での水素イオンの輸送量の低下を抑制することができることから、発電性能を維持することができる。
【0159】
次に、図4Bに示すように、金属層13を形成した母材12Xを電極50,51で挟持し、外部電源52から発電時における通電と同じ方向に、強制通電を行なう。この操作により、金属層13はイオン化して消失し、イオン化した金属は母材12Xの内部に浸透する。
【0160】
次に、図4Cに示すように、通電をやめると、金属層13から溶け出した金属イオンは、母材12X内で金属が互いに凝集しながら金属微粒子13Aとして析出する。金属層13が2種以上の形成材料を用いて形成されている場合には、合金として析出することもある。
【0161】
図4Cでは、金属微粒子13Aが幅Wの間に多く析出し、他の箇所よりも高濃度になっている様子を模式的に示している。また、高濃度になっている箇所は母材12Xの厚さ方向の中心よりは、もとの金属層13があった側(母材12Xの上方)となっていることとして示している。
このようにして本発明の一実施態様である高分子電解質膜12を製造する。
【0162】
次に、図4Dに示すように、カーボンに担持された白金または白金系合金を、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の溶剤と共に混合してペースト化したもの(以下、触媒インク14Sという場合がある)を、高分子電解質膜12の一方の表面に塗布・乾燥することにより、アノード触媒層14aが得られる。同様に、高分子電解質膜12の他方の表面に触媒インク14Sを塗布・乾燥することにより、カソード触媒層14bを形成し、本発明の一実施態様である膜電極接合体20を製造する。
【0163】
なお、高分子電解質膜12のその他の製造方法としては、上述の高分子電解質溶液の他に、高分子電解質溶液に金属微粒子を添加して分散させた金属微粒子分散液を調整し、これらの溶液および分散液を用いて形成する方法を示すことができる。
【0164】
すなわち、図5Aに示すように、支持基材Pの上に、ダイ100から高分子電解質溶液12Sを吐出して流延膜12Aを形成する。本工程は、上述の図3Aと同様である。
【0165】
次いで、図5Bに示すように、流延膜12A上に、別途調整した金属微粒子13Aを含む金属微粒子分散液19Sを吐出して流延膜19Aを形成する。流延膜12A上に金属微粒子分散液19Sを吐出すると、金属微粒子分散液19Sに含まれる溶媒により流延膜12Aの表面が膨潤し、流延膜12Aと流延膜19Aとの界面が不明確になる。一方で、予め一部の溶媒を蒸発させてなる流延膜12A内には、金属微粒子分散液19S内の金属微粒子13Aが分散されにくいため、金属微粒子13Aは流延膜19A内に局在しやすい。
【0166】
次いで、図5Cに示すように、流延膜12Aおよび流延膜19Aに含有される有機溶媒Sを除去して、前記支持基材P上に高分子電解質膜12を形成する。溶媒Sの除去の過程において、流延膜12Aと流延膜19Aとの界面は不明確になり、一体の高分子電解質膜12として形成される。
【0167】
形成される高分子電解質膜12を支持基板Pから剥離することにより、目的とする高分子電解質膜12が得られる。
【0168】
なお、必要に応じ、図5Bで形成した流延膜19Aの上に、さらに流延膜12Aまたは流延膜19Aを積層することもできる。
【0169】
また、上述した製造工程の積層順は、逆であってもよい。すなわち、まず、支持基板Pの上に流延膜19Aを形成した後、流延膜19Aの上に流延膜12Aを積層して溶媒除去を行い、高分子電解質膜12を形成することとしてもよい。
【0170】
また、図6に示すような方法を用いて、高分子電解質膜12および膜電極接合体20を製造することとしてもよい。
【0171】
まず、図6Aに示すように、ガス拡散層16aの表面に、触媒インク14Sを塗布・乾燥することにより、ガス拡散層16aと積層一体化したアノード触媒層14aが得られる。同様の方法にて、ガス拡散層と積層一体化したカソード触媒層も形成する。
【0172】
次に、図6Bに示すように、得られたアノード触媒層14a、カソード触媒層14bにて、上述の図4Aと同様の方法で金属層13を形成した母材12Xを挟持して接合させる。
【0173】
図6AおよびBに示す工程の具体的な方法としては、公知の方法(例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209に記載されている方法)を用いることができる。また、触媒インク14Sを、高分子電解質膜12に塗布・乾燥して、この膜の表面上に、直接触媒層を形成させても、燃料電池用の膜電極接合体を得ることができる。
【0174】
次に、図6Cに示すように、ガス拡散層16a,16bの外側にセパレータ18a,18bを設けて燃料電池を形成した後、アノード触媒層14a側に水素、カソード触媒層14b側に酸素をそれぞれ供給して発電を行い、エージングと呼ばれる電池電圧が飽和するまで初期馴らし運転を行なう。通常、燃料電池セルの組み立て後においては、プロトン伝導パスが充分に形成されていないために、発電が不安定になりやすいことからエージングを行う。ここでは、このエージングにおいて通電することにより、金属層13をイオン化して母材12X内に金属微粒子13Aとして析出させる。
本発明の一実施態様である高分子電解質膜12および膜電極接合体20は、以上のようにして製造することができる。
【0175】
以上のような構成の膜電極接合体によれば、高分子電解質の長期安定性を図ることで高耐久化がなされた膜電極接合体とすることができる。
【0176】
また、以上のような構成の膜電極接合体を有する燃料電池では、高分子電解質膜中でのラジカルを効果的に失活させることができ、長期安定化を図ることができる。
【0177】
なお、本発明の一実施態様である膜電極接合体では、母材12Xの一方の表面に金属層13を形成することとしたが、いずれか一方にも形成することとしても構わない。
【0178】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0179】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0180】
[分子量測定]
膜電極接合体を構成する高分子電解質の分子量測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた。
測定に際しては、高分子電解質4mgを下記移動層溶媒8mLに溶解して、下記条件で測定を行い、ポリスチレン換算を行うことによって高分子電解質の重量平均分子量および数平均分子量を算出した。測定におけるGPC条件を下記の表3に示す。
【0181】
【表3】

【0182】
[イオン交換容量の測定]
測定に供するポリマーをキャスト製膜法により成膜したポリマー膜を得、得られたポリマー膜を適当な重量になるように裁断した。裁断したポリマー膜の乾燥重量を加熱温度110℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて測定した。次いで、このようにして乾燥させたポリマー膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、ポリマー膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、裁断したポリマー膜の乾燥重量と中和に要した塩酸の量から、ポリマーのイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0183】
(実施例1)
[高分子電解質1の合成]
2,2−ジメチルプロパノール22.4gをピリジン72.5gに溶解させた。これに、0℃で、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸クロリド50gを加えた後、室温にて1時間攪拌し、反応させた。
反応混合物に、トルエン300mLおよび2mol%塩酸250mLを加え、30分間撹拌した後、静置し、有機層を分離した。
分離した有機層を水150mL、10重量%炭酸カリウム水溶液150mL、水150mLで順次洗浄した後、減圧条件下で、溶媒を留去し、濃縮液105gを得た。
濃縮液を0℃まで冷却し、析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥させることにより、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)の白色固体49.3g(収率:81.4%)を得た。
H−NMR(CDCl,δ(ppm)):0.97(s,9H),3.78(s,2H),7.52−7.53(c,2H),8.07(d,1H)
マススペクトル(m/z):297(M
【0184】
無水塩化ニッケル22.0gと、ジメチルスルホキシド220mLと、を混合し、内温70℃に調製した。これに、2,2’−ビピリジン29.2gを加え、70℃にて10分間攪拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
一方で、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)20.0gと、下記式(1)
【化13】

で示されるポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、スミカエクセルPES3600P、Mn=2.7×10、Mw=4.5×10)9.88gと、をジメチルスルホキシド300mLに溶解させて得られた溶液に、メタンスルホン酸39mg、亜鉛粉末16.7gを加え、50℃に調整した。次いで、これに上述のニッケル含有溶液を加え、70℃で2時間重合反応を行った。
【0185】
得られた重合溶液を、70℃の熱水1200gに注加し、生じた沈殿を濾過で集めた。
沈殿物に、沈殿物と水との合計が696gになるように水を加え、さらに35重量%亜硝酸ナトリウム水溶液9.2gを加えた。このスラリー溶液に、69重量%硝酸160gを滴下し、滴下後、室温で1時間攪拌した。
【0186】
スラリー溶液を濾過し、集めた粗ポリマーを濾液のpHが1を越えるまで水で洗浄した。次に、冷却器を備えたフラスコに、粗ポリマーと、粗ポリマーと水との合計の重量が698gになるまで水を加え、さらに5重量%水酸化リチウム水溶液を、粗ポリマーと水のスラリー溶液のpHが7になるまで加え、さらにメタノール666gを加え、1時間還流させた。
【0187】
粗ポリマーを濾過して集め、水200g、次いで、メタノール250gを用いて浸漬洗浄し、乾燥させることにより、下記式(2)
【化14】

で示される繰り返し単位と、下記式(3)
【化15】

で示されるセグメントと、を含むポリアリーレン23.4gを得た。
Mw:336000、Mn:68000
【0188】
アルゴン雰囲気下、フラスコに上記ポリアリーレン23.4gと、N−メチル−2−ピロリドン585gとを加え、80℃で保温し溶解した。その後、活性アルミナ30.4gを加え、80℃に保温しながら1時間30分攪拌した。得られた溶液に、N−メチル−2−ピロリドン585gを加えた後、濾過して活性アルミナを除去した。
得られた溶液からN−メチル−2−ピロリドンを減圧留去し、298gの溶液とした。
この溶液に、無水臭化リチウム10.3gと、水2.2gと、を加え、120℃に保温しながら12時間攪拌した。
得られた反応溶液を13重量%塩酸1174g中に投入し、1時間攪拌した。析出した固体を濾過で集め、メタノールと35%塩酸とを1:1で混合した混合溶液1169gで洗浄する操作を3回繰り返した。
得られた固体を水で洗浄した後、90℃以上の熱水1520gに1時間浸漬し濾過する洗浄操作を4回繰り返した。得られた固体を乾燥することにより、下記式(4)
【化16】

で示される繰り返し単位と、下記式(5)
【化17】

で示されるセグメントと、を含む、目的とする高分子電解質1を得た。収量は14.7gであった。
H−NMRスペクトルを測定し、2,2―ジメチルプロポキシスルホニル基が定量的にスルホ基に変換されていることを確認した。
Mw:455000、Mn:195000、イオン交換容量(IEC):2.7meq/g
【0189】
[高分子電解質膜1Aの作製]
上述のようにして得られた高分子電解質1をN,N−ジメチルスルホキシドに溶解して、濃度が10重量%の高分子電解質溶液を調製した。
得られた高分子電解質溶液を、スロットダイを用いて、支持基材である巾300mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製、E5000グレード、厚さ100μm)に連続的に流延塗布して、流延膜を形成した。その後、支持基板と流延膜とを連続的に熱風ヒーター乾燥炉へと搬送し、溶媒を除去して成膜した。
得られた膜を2N硫酸に2時間浸漬後、イオン交換水で水洗し、更に風乾した後に支持基材から剥離することで、高分子電解質膜1Aを作製した。高分子電解質膜1Aの膜厚は20μmであった。
【0190】
[金属層の作成]
高分子電解質膜1Aの一方の表面に、イオンプレーティング法を用いて、パラジウム(Pd)を蒸着し、Pd層を形成した。
その後、Pd層を形成した高分子電解質膜を、あらかじめ予備硬化させておいたエポキシ樹脂によって包埋し、ミクロトームにより乾式の条件で厚さ60nmの切片を切り出した。この際、表面が膜厚方向に沿う断面となるように切り出しを行った。このようにして得られた切片を、Cuメッシュ上に採取し、その表面を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)により加速電圧300kVで観察した。
観察の結果、Pd層は、10nm〜40nm程度の厚さを有していることが分かった。
【0191】
また、積層したPd量を下記の誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光)を用いて測定した。測定の結果、Pd層として積層したPd量は、高分子電解質膜の重量に対して、0.18%(1800ppm)であった。
ICP発光測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS3000
測定波長:340.46nm
【0192】
[触媒インクの作成]
市販の5重量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、溶媒:水と低級アルコールの混合物)6.30gに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50重量%)1.00g投入し、さらにエタノール43.45g、水6.43gを加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0193】
[膜電極接合体の作製]
一方の表面にPd層を形成した高分子電解質膜1Aについて、Pd層を有しない表面の中央部における3cm×3cmの領域に、スプレイ法にて上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。同様にして重ね塗りをした後、溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。アノード触媒層として14.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
続いて、Pd層の上に同様に触媒インクを塗布して、カソード触媒層を形成させ膜電極接合体1Bを得た。カソード触媒層として14.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
【0194】
[燃料電池セルの組み立て]
上述のようにして得られた膜電極接合体1Bの両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータとを配し、さらにその外側に集電体およびエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積9cmの燃料電池セルを組み立てた。本発明で用いられる集電体としての導電性物質は、公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
【0195】
[燃料電池セルのエージング]
上記で組み立てた燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点80℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点80℃の窒素(500mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、下記条件にて、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を実施した。
(CV条件)
開始電圧:0.05V
折り返し電圧:1.0V
終了電圧:0.05V
速度:100mV/秒
サイクル数:50サイクル
【0196】
上記CV後に、燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点80℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点80℃の空気(1000mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、0.1A/秒の速度で電流が30Aになるまで発電特性評価した。繰り返し数を、30サイクルとした。
発電特性評価後に再度、CV測定を実施した。この時の速度は、20mV/秒、サイクル数は5サイクルとした。
その後、燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点45℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点55℃の空気(1000mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、0.1A/秒の電流掃引速度で電流が30Aになるまで発電特性評価した。繰り返し数を、30サイクルとした。
以上の発電特性評価を行うことで、燃料電池セルのエージングを行った。
【0197】
[膜内Pd粒子の析出位置の確認]
上記エージング後の燃料電池に含まれる高分子電解質膜について、厚み方向の断面観察を透過型電子顕微鏡(TEM)にて実施した。あらかじめ予備硬化させておいたエポキシ樹脂によって包埋した。それから、この高分子電解質膜から、ミクロトームにより乾式の条件で厚さ60nmの切片を切り出した。この際、表面が膜厚方向に沿う断面となるように切り出しを行った。このようにして得られた切片を、Cuメッシュ上に採取し、その表面を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)により加速電圧300kVで観察した。
【0198】
図7〜図9は、得られたTEM観察像であり、図7は、アノード触媒層と高分子電解質膜との界面付近、図8は、高分子電解質膜の中心付近、図9は、カソード触媒層と高分子電解質膜との界面付近の様子を示すTEM写真である。なお、図9のTEM観察倍率は、10,000倍であり、図7,8のTEM観察倍率は、50,000倍である。
【0199】
図9から、カソード触媒層と高分子電解質膜との界面付近に、Pd粒子が帯状に多く析出している箇所があることが分かる。また、図7に示すアノード触媒層と高分子電解質膜との界面付近、および図8に示す高分子電解質膜の中心付近についても、多少のPd粒子が析出していることを確認した。
【0200】
この結果より、高分子電解質膜内に分散したPd粒子には濃度勾配があり、かつカソード触媒層と高分子電解質膜との界面付近で最大値を持つことが確認された。
【0201】
また、膜内に析出したPd粒子の粒子径は、TEM観察像より目視で確認した。その結果、カソード触媒層と高分子電解質膜との界面付近のPd粒子は約10nm〜約50nm程度であった。アノード触媒層と高分子電解質膜との界面付近、および高分子電解質膜の中心付近のPd粒子径は、約10nm以下であった。
【0202】
[膜内Pdイオンの分析方法]
耐久性評価を行った燃料電池セルから膜電極接合体を取り出し、エタノール/水の混合溶液(エタノール含有量:90質量%)を用いて、アノード触媒層およびカソード触媒層を取り除いた。
次いで、あらかじめエチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸二ナトリウム塩二水和物(同仁化学研究所製)7.5gを、ビーカーにとり、超純水を加え溶解し、100mLメスフラスコに定容した溶液(EDTA溶液)を作製した。試験後における高分子電解質膜5mgをスクリュービンにとり、EDTA溶液2mLを加え、膜を浸漬して室温で2時間放置した後、膜を取り出し、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光)を用いて溶液を測定した。
ICP発光測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS3000
測定波長:340.46nm
【0203】
[膜内全Pdの分析方法]
耐久性評価を行った燃料電池セルから膜電極接合体を取り出し、エタノール/水の混合溶液(エタノール含有量:90質量%)を用いて、アノード触媒層およびカソード触媒層を取り除いた。
次いで、試験後における高分子電解質膜5mgを、石英ビーカーにとり、濃硫酸0.2mLを添加し、電気コンロで20分加熱した後、650℃電気炉で2時間加熱処理行った。冷却後に濃塩酸1mLと濃硝酸1mLを添加し、ビーカーにふたをして、80℃ホットプレートで20時間加熱処理を行った。処理後の溶液を5mLに定容し、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光)を用いて溶液を測定した。
ICP発光測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS3000
測定波長:340.46nm
【0204】
[燃料電池セルの耐久性評価]
上記エージング後の作製した燃料電池セルを95℃に保ちながら、アノード触媒層側には低加湿状態の水素(70mL/分、背圧0.1MPaG)を供給し、カソード触媒層側には低加湿状態の空気(174mL/分、背圧0.05MPaG)を供給して、開回路と一定電流での負荷変動試験を行った。この条件で燃料電池セルを200時間継続して作動させた。
【0205】
[耐久性評価後膜の分子量測定]
耐久性評価を行った燃料電池セルから膜電極接合体を取り出し、エタノール/水の混合溶液(エタノール含有量:90質量%)に投入して超音波処理することで、アノード触媒層およびカソード触媒層を取り除いた。
次いで、試験前後における高分子電解質膜4mgを、25質量%テトラメチルアンモニウム水酸化物メタノール溶液10μLに浸漬し、100℃で2時間反応させた。
放冷後、得られた反応液の重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0206】
(比較例1)
高分子電解質膜1の表面にPd層を形成しないこと以外は実施例1と同様に評価した。
【0207】
(実施例2)
[高分子電解質2の合成]
2,2−ジメチルプロパノール25.2gをテトラヒドロフラン(THF)200mLに溶解させた。これに、0℃で、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.57M)151.6mLを滴下した。その後、室温で1時間攪拌し、リチウム(2,2−ジメチルプロポキシド)を含むTHF溶液を調製した。
4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド40gをTHF300mLに溶解させて得られた溶液に、0℃で、上述のリチウム (2,2−ジメチルプロポキシド)を含むTHF溶液を滴下し、その後室温で1時間攪拌して反応させた。
反応混合物を濃縮した後、残渣に、酢酸エチル1000mLおよび2mol/L塩酸100mLを加え、30分攪拌した後、静置し、有機層を分離した。
分離した有機層を飽和食塩水1000mLで洗浄した後、減圧条件下で溶媒を留去した。濃縮残渣を、シリカゲルクロマトグラフィ(展開溶媒;クロロホルム)により精製した。
得られた溶出液から、減圧条件下で溶媒を留去し、残渣を70℃でトルエン500mLに溶解させた後、室温まで冷却した。析出した固体を濾過により分離し、分離した固体を乾燥させることにより、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)の白色固体31.2gを得た。
H−NMR(CDCl,δ(ppm)):0.92(s,18H),3.69−3.86(c,4H),7.34−7.37(c,2H),7.59−7.62(c,2H),8.03−8.04(c,2H)
マススペクトル(m/z):451(M−C11
【0208】
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、窒素雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル10.2g(54.7mmol)、炭酸カリウム8.32g(60.2mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド96g、トルエン50gを加えた。バス温155℃で2.5時間トルエンを加熱還流することで系内の水分を共沸脱水した。
生成した水とトルエンを留去した後、室温まで放冷し、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン22.0g(76.6mmol)を加えた。その後、バス温を160℃に昇温し、14時間保温撹拌した。
放冷後、反応液をメタノール1000gと35重量%塩酸200gとの混合溶液に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥させた。得られた粗生成物27.2gをN,N−ジメチルアセトアミド97gに溶解し、不溶物を濾過した後、メタノール1100gと35重量%塩酸100gとの混合溶液に加えた。
析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥させることにより、下記式(6)で表される、イオン交換基を実質的に有しないセグメントを誘導する前駆体25.9gを得た。
GPC分子量: Mn=1700、Mw=3200
【化18】

【0209】
次に、アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル2.12g(9.71mmol)、N−メチルピロリドン96gを加え、バス温70℃で攪拌した。無水臭化ニッケルが溶解したのを確認した後、バス温を50℃に冷却し、2,2’−ビピリジル1.82g(11.7mmol)を加え、ニッケル含有溶液を調製した。
一方で、アルゴン雰囲気下、フラスコに上記式(6)で表される前駆体4.02g、N−メチルピロリドン384gを加え50℃に調整した。得られた溶液に、亜鉛粉末3.81g(58.2mmol)、メタンスルホン酸1重量とN−メチルピロリドン9重量部との混合溶液1.05g、および、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)24.0g(45.9mmol)を加え、50℃で30分間撹拌した。
これに、上述のニッケル含有溶液を注ぎ込み、50℃で6時間重合反応を行うことで、黒色の重合溶液を得た。
【0210】
得られた重合溶液を、13重量%塩酸3360gに投入し、室温で30分間撹拌した。生じた沈殿を濾過した後、13重量%塩酸3360gを加え、室温で30分間撹拌した。その後、沈殿物を濾過し、イオン交換水で濾液のpHが4を越えるまで洗浄した。
得られた粗ポリマーに、イオン交換水840gと、メタノール790gを加え、バス温90℃で1時間加熱撹拌した。粗ポリマーをろ過し、乾燥することにより、下記式(7)
【化19】

で示される繰り返し単位と、下記式(8)
【化20】

で示されるセグメントと、を含むポリアリーレン23.9gを得た。
【0211】
上述のポリアリーレン23.9g、イオン交換水47.8g、無水臭化リチウム15.9g(183mmol)およびN−メチル−2−ピロリドン478gをフラスコに入れ、バス温126℃で12時間加熱撹拌し、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液を13重量%塩酸3340gに投入し、1時間攪拌した。
析出した粗ポリマーを濾過し、メタノールと35%塩酸とを1:1で混合した混合溶液2390gで洗浄する操作を3回繰り返した後、濾液のpHが4を越えるまでイオン交換水で洗浄した。
さらに、得られたポリマーに大量のイオン交換水を加え、90℃以上に昇温し、約10分間加熱保温し濾過する洗浄操作を、5回繰り返した。
得られたポリマーを濾過により分離し、乾燥させることにより下記式(9)
【化21】

で示される繰り返し単位と、下記式(10)
【化22】

で示されるセグメントと、を含む、目的とする高分子電解質2を得た。収量は17.25gであった。
Mw:5.78×10 イオン交換容量(IEC):4.6meq/g
【0212】
[高分子電解質膜2Aの作製]
上述のようにして得られた高分子電解質2をN−メチル2−ピロリドンに溶解して、濃度が7.5重量%の高分子電解質溶液を調製した。
得られた高分子電解質溶液を、スロットダイを用いて、支持基材である巾300mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製、E5000グレード、厚さ100μm)に連続的に流延塗布して、流延膜を形成した。その後、支持基板と流延膜とを連続的に熱風ヒーター乾燥炉へと搬送し、溶媒を除去して成膜した。
得られた膜を2N硫酸に2時間浸漬後、イオン交換水で水洗し、更に風乾した後に支持基材から剥離することで、高分子電解質膜2Aを作製した。高分子電解質膜2Aの膜厚は10μmであった。
【0213】
実施例1と同様にして、高分子電解質膜2Aの一方の表面にPd層を蒸着して形成した後、両面に触媒層(アノード触媒層、カソード触媒層)を形成して膜電極接合体2Bを得た。
【0214】
さらに、膜電極接合体2Bを用いる以外は実施例1と同様にして、燃料電池セルを組み立て、耐久性評価を行った。耐久性評価においては、燃料電池セルを500時間継続して作動させた。その後、燃料電池セルから膜電極接合体を取り出し、高分子電解質膜2Aの重量平均分子量を測定した。
【0215】
(比較例2)
高分子電解質膜2Aの表面にPd層を形成しないこと以外は実施例2と同様に評価した。
【0216】
(実施例3)
[高分子電解質3の合成]
アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル7.69g(35.2mmol)、2,2’−ビピリジル5.49g(35.2mmol)、N−メチルピロリドン460gを加え、65℃に昇温してニッケル含有溶液を調製した。
別のフラスコに、亜鉛粉末17.2g(263.8mmol)、特開2007−270118号公報の実施例1記載の方法により合成した4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)100.0g(175.9mmol)、N−メチルピロリドン898g、上述の(14a−2)で示されるポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、スミカエクセルPES3600P)56.73gを加え50℃に調整した。このフラスコ内を十分に窒素で置換した後、メタンスルホン酸/N−メチルピロリドン溶液(重量比1/66の混合溶液)13.52gを加え、40℃で3時間撹拌した。
これに、上述のニッケル含有溶液を注ぎ込み、20℃で12時間重合反応を行うことで、黒色の重合溶液を得た。
【0217】
得られた重合反応液100重量部にトルエン200重量部、メチルエチルケトン160重量部、19重量%塩酸30重量部を加え、80℃で1時間撹拌した。
その後、30分静置して2層に分離させ、下層(水層)の薄青色透明液を除去した後、上層(有機層)の白色懸濁液から減圧下でトルエンとメチルエチルケトンとを留去して濃縮し、反応混合物を得た。
得られた反応混合物にN−メチルピロリドンを加えて、10重量%の反応混合物N−メチルピロリドン溶液を得た。
【0218】
上記N−メチルピロリドン溶液100重量部に、19重量%塩酸5重量部を加えて、120℃で24時間加熱した。得られた反応溶液をアセトンに注ぎ込み、上記反応混合物に含まれるポリアリーレンを析出させた。
析出したポリアリーレンをアセトンで洗浄した後、13重量%塩酸で洗浄し、さらに93℃の熱水で5回洗浄した上で、メタノール洗浄を4回繰り返した。得られたポリマーを乾燥することにより下記式(11)
【化23】

で示される繰り返し単位からなる、スルホ基を有するセグメントと、下記式(12)
【化24】

で示される、イオン交換基を実質的に有しないセグメントを有するブロック共重合体を高分子電解質3として得た。
Mn:1.73×10 Mw:3.46×10 イオン交換容量(IEC):2.8meq/g
【0219】
[高分子電解質膜3Aの作製]
高分子電解質3をN,N−ジメチルスルホキシドに溶解して、濃度10重量%の高分子電解質溶液を調製した。この高分子電解質溶液を用いること以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜3Aを作製した。高分子電解質膜3Aの膜厚は20μmであった。
【0220】
[膜電極接合体の作製]
高分子電解質膜3Aの一方の表面に、イオンプレーティング法を用いて、パラジウム(Pd)を蒸着し、Pd層を形成した。さらに、Pd層を有しない表面の中央部における5cm×5cmの領域に、実施例1と同様にしてアノード触媒層を形成した。アノード触媒層として39.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
続いて、Pd層の上に同様に触媒インクを塗布して、カソード触媒層を形成させ膜電極接合体3Bを得た。カソード触媒層として39.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
【0221】
[燃料電池セルの組み立て]
上述のようにして得られた膜電極接合体3Bの両外側に、実施例1と同様にしてカーボンクロス、カーボン製セパレータ、集電体およびエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積25cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0222】
組み立てた燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点80℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点80℃の窒素(500mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、下記条件にて、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を実施した。
(CV条件)
開始電圧:0.05V
折り返し電圧:1.0V
終了電圧:0.05V
速度:100mV/秒
サイクル数:50サイクル
【0223】
上記CV後に、燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点80℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点80℃の空気(1000mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、0.1A/秒の速度で電流が30Aになるまで発電特性評価した。繰り返し数を、30サイクルとした。
発電特性評価後に再度、CV測定を実施した。この時の速度は、20mV/秒、サイクル数は5サイクルとした。
その後、燃料電池セルを80℃に保ちながら、露点45℃の水素(500mL/分、背圧0.1MPaG)と露点55℃の空気(1000mL/分、背圧0.1MPaG)とをそれぞれセルに導入し、0.1A/秒の電流掃引速度で電流が30Aになるまで発電特性評価した。繰り返し数を、30サイクルとした。
【0224】
上記発電特性評価後に、燃料電池セルを95℃に保ちながら、アノード触媒層側には低加湿状態の水素(70mL/分、背圧0.1MPaG)を供給し、カソード触媒層側には低加湿状態の空気(174mL/分、背圧0.05MPaG)を供給して、開回路と一定電流での負荷変動試験を行った。この条件で燃料電池セルを200時間継続して作動させた。
以上の操作を行うことで、実施例6の燃料電池セルのエージングを行った。
【0225】
[燃料電池セルの耐久性評価]
上記エージング後の燃料電池セルを95℃に保持し、アノード触媒層側には露点95℃の水素(70mL/min、背圧0.1MPaG)を供給し、カソード触媒層側には露点30℃の空気(174mL/min、背圧0.05MPaG)を供給して、開回路保持試験(OCV試験)100時間を実施した。
【0226】
OCV試験後の燃料電池セルから膜電極接合体を取り出し、実施例1と同様にして耐久性評価後の高分子電解質膜の分子量を測定した。
【0227】
(比較例3)
高分子電解質膜3Aの表面にPd層を形成しないこと以外は、実施例3と同様に評価した。
【0228】
上記実施例1および比較例1について、高分子電解質1の初期状態からの重量平均分子量維持率を以下の表4にまとめて示す。また、上記実施例2および比較例2について、高分子電解質2の初期状態からの重量平均分子量維持率を以下の表5にまとめて示す。さらに、上記実施例3および比較例3について、高分子電解質3の初期状態からの重量平均分子量維持率を以下の表6にまとめて示す。
評価結果においては、負荷変動試験前後において分子量維持率が高いほど、高分子電解質膜の劣化が小さく、長期安定性に優れていることを示している。
【0229】
また、実施例1〜3の高分子電解質膜1A〜3Aについて、「耐久性評価後の膜中に存在する全Pd量」に対する「耐久性評価後の膜中に存在するPdイオン量」の割合と、「耐久性評価後の膜中に存在する全Pd量」に対する「耐久性評価後の膜中に存在するPd金属量」の割合と、を表7にまとめて示す。ここで、「Pd金属」とは、Pdがイオン化しておらず、高分子電解質膜中に微粒子として分散しているものを示す。
【0230】
【表4】

【0231】
【表5】

【0232】
【表6】

【0233】
【表7】

【0234】
測定の結果、本発明の膜電極接合体は、連続発電(すなわち、連続した酸化還元反応)において比較例の膜電極接合体よりも高分子電解質膜の劣化が小さく、安定であることが分かった。
また、表7に示した通り、耐久性評価を行った後には、高分子電解質膜の表面にPd層として形成したPdがイオンまたは金属状態で高分子電解質膜内に存在していることが確かめられた。また、高分子電解質膜の表面には、Pd層が残存していなかった。
これにより、本発明の有用性が確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0235】
本発明の高分子電解質膜は、高耐久性を有しているため、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体は長期安定性に優れており、燃料電池に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0236】
10…燃料電池
12…高分子電解質膜
13…金属層
13A…金属微粒子
14a…アノード触媒層
14b…カソード触媒層
16a,16b…ガス拡散層
18a,18b…セパレータ
20…膜電極接合体(MEA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質で形成された膜状の母材と、
前記母材の中に分散された金属微粒子と、を有し、
前記金属微粒子の形成材料が、貴金属および貴金属合金からなる群より選ばれる1種以上の金属を含み、かつ、前記金属微粒子が前記母材の厚み方向に濃度勾配を有して分散している高分子電解質膜。
【請求項2】
前記金属微粒子の濃度が極大値を有する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記金属微粒子の粒子径が500nm以下である請求項1または2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記金属微粒子の形成材料が、白金、金、パラジウム、イリジウム、ロジウムおよびルテニウムからなる貴金属群より選ばれる、少なくとも1種の貴金属もしくは貴金属合金のいずれか一方、または両方を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記炭化水素系高分子電解質が、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有しないセグメントと、を備えたブロック共重合体を含む請求項5に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記高分子電解質で形成された膜状の母材の表面に、金属層を積層させ、前記母材と前記金属層との両面から電圧を印加することで前記母材の内部に析出させた前記金属微粒子を含む請求項1から6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記金属層が、物理蒸着法によって形成される請求項7に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
前記金属層が、金属微粒子を含有する液を前記母材の表面に塗工して形成される請求項7に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟持するアノード触媒層およびカソード触媒層と、を有する膜電極接合体。
【請求項11】
前記金属微粒子の濃度の極大値が、前記高分子電解質膜の膜厚方向の中心よりも前記カソード触媒層側にある請求項10に記載の膜電極接合体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の膜電極接合体を有する燃料電池。

【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図10】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−164647(P2012−164647A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−7514(P2012−7514)
【出願日】平成24年1月17日(2012.1.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】