説明

高分子電解質膜およびその製造方法ならびにダイレクトメタノール形燃料電池

【課題】高分子電解質が均質に高率に充填されたプロトン伝導性が高い高分子電解質膜を得る。
【解決手段】プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーが、三次元規則配列した高分子多孔質膜の連続細孔内に80%以上の充填率で充填されてなる高分子電解質膜を提供する。プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーを溶媒に溶解した溶液に、細孔が三次元規則配列した高分子多孔質膜を浸漬する工程であり、前記溶媒は前記多孔質膜を膨潤させるものである工程、および前記高分子多孔質膜の細孔を前記溶液で膨潤させた後、前記溶媒を除去して、前記高分子多孔質膜の細孔に前記電解質ポリマーを充填する工程によって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜、その製造方法および高分子電解質膜の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用高分子電解質膜として、パーフルオロスルホン酸系高分子電解質膜や炭化水素系高分子電解質膜が主に検討されている。しかし、耐熱性、燃料バリア性、力学的強度、価格、環境負荷などの点から、まだ多くの問題を有している。高分子電解質膜の耐熱性や強度を高め、また、燃料の透過性を調節する方法として、高分子多孔基材に高分子電解質を充填する方法は有用である。
【0003】
例えば、芳香族ポリイミド系多孔基材に、主にビニル系ポリマー電解質を充填したものが知られている(特許文献1)。さらに種々の多孔膜にスルホン化されたポリマーを充填したものが知られている(特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−083612号公報
【特許文献2】特表2001−514431号公報
【特許文献3】米国特許第6248469号明細書
【特許文献4】特開2003−335895号公報
【特許文献5】特開2005−209465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、既知の技術では、浸透させる高分子電解質溶液は粘度が高いことや、耐熱性高分子多孔基材との親和性が乏しいなどの原因により、簡単に耐熱性高分子多孔基材に高分子電解質を充填することができず(充填率50%程度)、得られる電解質膜のプロトン伝導性が概して低い。また、均質に高分子電解質を充填することが難しく、工業的に大きな課題である。
【0006】
そして、燃料電池、特に固体高分子形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などにおいて、長期使用の際に問題となる電解質膜の水やメタノール等のアルコール類による膨潤あるいは水素やメタノール燃料のアノードからカソードへの透過は起電力の低下や燃料効率の低下をもたらす。
【0007】
本発明の目的は、高分子電解質膜多孔基材に高分子電解質が均質に高率で充填されたプロトン伝導性が高い高分子電解質膜を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーが、三次元規則配列した高分子多孔質膜の連続細孔内に80%以上の充填率で充填されてなることを特徴とする高分子電解質膜に係るものである。
【0009】
本発明では、好適には前記高分子電解質膜は、溶媒による前記高分子多孔質膜の膨潤および前記連続細孔内への電解質ポリマーの充填によって得られる。
前記したプロトン伝導機能を有する電解質膜ポリマーは、好適にはスルホン化ポリエーテルエーテルスルホンである。
前記高分子多孔質膜は、好適にはポリイミドを主成分とするものであって、その空隙率が65%以上である。
前記高分子電解質膜は、好適には濃度2〜10モルdm−3のメタノール水溶液を供給したときのメタノール透過性が2×10−7cm−1以下であり、30℃におけるプロトン伝導性が10−4Scm−1以上である。
前記高分子電解質膜のプロトン透過選択性は、好適には10Scm−3s以上である。
【0010】
本発明は、前記または後述のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いたことを特徴とするダイレクトメタノール形燃料電池に係るものである。
【0011】
本発明はまた、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーを溶媒に溶解した溶液に、細孔が三次元規則配列した高分子多孔質膜を浸漬する工程であり、前記溶媒は前記多孔質膜を膨潤させるものである工程、および前記高分子多孔質膜の細孔を前記溶液で膨潤させた後、前記溶媒を除去して、前記高分子多孔質膜の細孔に前記電解質ポリマーを充填する工程を具えることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に係るものである。
【0012】
好適には、前記溶媒は非プロトン性溶媒であり、前記非プロトン性溶媒は、好適にはジメチルホルムアミドである。
前記高分子多孔質膜は、好適にはポリイミドを主成分とするものであり、前記電解質ポリマーは、好適にはスルホン化ポリエーテルエーテルスルホンである。前記電解質ポリマーの充填率は、好適には80%以上である。
【発明の効果】
【0013】
高分子電解質膜は、電解質ポリマーの充填率に優れるため、水やメタノールなどによる膨潤が少なく、しかも高プロトン伝導性などの高機能を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プロトン伝導性を示したグラフである。
【図2】メタノール透過性を示したグラフである。
【図3】直接メタノール形燃料電池(DMFC)性能曲線を示したグラフであり、(a)はコンポジット膜、(b)はナフィオン(Nafion、商標)膜についてのものである。
【図4】微細孔および連通孔の直径を示す図である。
【図5】メタノール透過性測定用装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下にこの発明の好ましい態様を列記する。
この発明は、高分子電解質膜に関し、特に高分子多孔質膜の細孔に、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーの液状物を効率よく高率で充填することを含み、それにより得られる高分子電解質膜およびその製造方法ならび高分子電解質膜のダイレクトメタノール形燃料電池への使用に関する。
【0016】
本発明によれば、高分子電解質膜は高充填率の電解質ポリマーを備え、多孔質基材に容易かつ均質に斑なく、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーを高率で充填することで得られ、水やメタノールなどによる膨潤の少ない高分子電解質膜である。
【0017】
この高分子電解質膜はリチウムイオン二次電池や燃料電池の電解質膜として使用することができ、この高分子電解質膜を用いれば良好な燃料電池特性を有する燃料電池用膜−電極接合体、固体高分子形燃料電池及びダイレクト(直接)メタノール形燃料電池を容易に得ることができる。
【0018】
高分子電解質膜は、高分子多孔質膜の細孔内に、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーが充填されてなる。高分子多孔質膜は、特に制限されることなく、種々の高分子多孔質膜を用いることができ、例えば、三次元規則配列した高分子多孔質膜でよく、細孔は微細孔でよく、連続細孔でよい。
【0019】
三次元規則配列した高分子多孔質膜は、好ましくは、三次元状に規則的に配列した微細孔を有する膜状の多孔質ポリイミドであり、さらに好ましくは、膜の空隙率が70%以上、微細孔の平均直径が100〜2000nm、微細孔同士が接して、連通孔を形成し、該連通孔の直径が1000nm以下である。
【0020】
三次元規則配列した高分子多孔質膜は、例えば、シリカ粒子を充填後、焼結して、多孔質シリカ製鋳型を得る多孔質シリカ鋳型の製造工程、多孔質シリカ鋳型の製造工程で得られた多孔質シリカ製鋳型の空隙にポリイミドを充填するポリイミド充填工程、およびポリイミドが充填された多孔質シリカ製鋳型からシリカを除去して、多孔質ポリイミドを得るシリカ除去工程を有する方法により製造することができる。
【0021】
高分子多孔質膜は、電解質ポリマーが高分子多孔質膜の連続細孔内に80%以上、好ましくは、85%までまたはそれ以上の充填率で充填されてなることができる。
【0022】
この発明の電解質ポリマーの充填率は従来のもの(50%)よりも大きい。従来の充填率は、電解質ポリマー溶液に多孔質膜を浸漬、乾燥(溶媒除去)して、電解質ポリマーを充填することによってえられる。
【0023】
このような従来の溶液法では、浸透させる高分子電解質溶液は粘度が高いのが通常であり、耐熱性高分子多孔基材との親和性が乏しいなどの原因により、耐熱性高分子多孔基材に高分子電解質を十分に充填することができない。
【0024】
本発明の高分子電解質膜の特徴は、非プロトン性溶媒のような溶媒で多孔質膜を膨潤させて、電解質ポリマーを細孔に十分に充填させてなる点にある。したがって、本発明では、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマー用の溶液に、多孔質膜を膨潤させる溶媒を用いる。
【0025】
好ましくは、多孔質膜を膨潤させるための溶媒に電解質ポリマーを溶解させ、その溶液に、多孔質膜を浸漬して、多孔質膜の細孔を溶液で膨潤させた後、溶媒を除去して、多孔質膜の細孔に電解質ポリマーを充填する。
【0026】
多孔質膜を膨潤させるための溶媒は、特に制限されることなく、種々の溶媒を用いることができる。多孔質膜を膨潤させ、電解質ポリマーの細孔への充填率を高めさせることができるものであればよい。多孔質膜の材質との関係で、細孔を膨潤させる溶媒が含まれる。
【0027】
この種の溶媒には、ジメチルホルムアミドのようなプロトン供与性を持たない溶媒、非プロトン性溶媒などが含まれる。例えば、ジメチルホルムアミドの他には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0028】
水などはプロトン性溶媒に分類されるが、水を用いた場合、電解質ポリマーとしてスルホン化ポリエーテルエーテルスルホン(SPEES)の水溶液を調製し、ポリイミド多孔質膜へ充填する系であれば、ポリイミドの膨潤はほとんど起こらず、SPEESの充填率が低い結果になると考えられる。
【0029】
例えば、以下の方法に従い、溶媒による高分子多孔質膜の膨潤および連続細孔内への電解質ポリマーの充填を高率で簡便に行うことができる。
1)充填する工程は、プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーを、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性溶媒に溶解させ、高分子多孔質膜を浸漬することで細孔を膨潤させた後、溶媒を乾燥などにより留去することで再度収縮させ、高充填を可能とする方法である。
2)高分子多孔質膜は、ポリイミドを主成分とするものであって、その空隙率が65%以上で且つ連続した細孔を有する。
3)プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーは、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホンである。
【0030】
高分子多孔質膜として、溶媒不溶性、柔軟性および/または可撓性、ならびに薄膜化の容易性などにおいて、ポリイミド多孔質膜であるのが好適である。特に、ポリイミドが、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびジアミン成分としてオキシジアニリン、パラフェニレンジアミンを各々含有するポリイミド多孔質膜であることが、得られる電解質膜用の寸法安定性、剛性、靭性、化学的安定性、価格の観点から、好ましい。
【0031】
ポリイミド多孔質膜としては、テトラカルボン酸成分、例えばピロメリット酸二無水物3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン成分、例えばオキシジアニリン、ジアミノジフェニルメタン、パラフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンとを、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中で重合して得られたポリアミック酸溶液を、多孔質化する方法を適用する。
【0032】
ポリイミド多孔質膜は具体的には、任意の方法でシリカ微粒子とポリイミドのコンポジット膜を作製し、フッ化水素水でシリカを溶出させて取得することができる三次元規則配列多孔ポリイミド膜である。この多孔質膜は65%以上の空隙率を有することができ、好ましくは、フィルター上で減圧濾過法などによって最密充填などをしたシリカ粒子から形成される三次元規則配列した孔を有する。三次元規則配列した孔は好適には、平均直径が100〜2000nmであり、且つ膜の内部においてポリイミド相と空間相が微細な連通孔を形成しており、その連通孔の直径(サイズ)が1000nm以下であるポリイミド多孔質膜である。
【0033】
多孔質膜としては、膜(フィルム)の両面間でガスおよび液体(例えばアルコールなど)が透過できる通路を有するもので、空隙率が好適には30〜95%、より好ましくは60〜90%、最も好ましくは65〜85%であるのがよい。
【0034】
また、連通孔の直径は10〜1000nm、好ましくは20〜500nmの範囲内にあるのがよい。さらに膜の厚さは10〜200μm、特に25〜100μmであるのがよい。多孔膜の空隙率、連通孔の直径、及び膜厚は、得られる膜の強度、応用する際の特性、例えば電解質膜として用いる際の特性などの点から、設計するのがよい。
【0035】
この発明におけるプロトン伝導機能を有する電解質ポリマーとしては、スルホン酸基などの極性基を有するプロトン伝導性ポリマーが挙げられる。
【0036】
前記のプロトン伝導性能を有する電解質ポリマーとしては、スルホン酸基と芳香族環を有するポリマー、好適にはスルホン化ポリエーテルエーテルスルホン(SPEES)を挙げることができる。他に、ポリアリルスルホン系重合体であれば、SPEESと物性がほぼ同じであり、同様に用いることができると考えられる。
【0037】
高分子電解質膜は、電解質ポリマーの充填率に優れ、水やメタノールなどによる膨潤が少ないとともに、高性能であり、優れたメタノール透過性、プロトン伝導性、プロトン透過選択性などを持つ。
【0038】
高分子電解質膜は、好適には25℃などにおいて、濃度2〜10モルdm−3のメタノール水溶液を供給したときのメタノール透過性が2×10−7cm−1以下であり、30℃におけるプロトン伝導性が10−4Scm−1以上である。
【0039】
高分子電解質膜はプロトン透過選択性が10Scm−3s以上であることができる。
【実施例】
【0040】
以下、この発明を実施例および比較例により更に詳しく説明するが、この発明の範囲がこれらの例により制限されるものではない。
(参考例1)
(ポリイミド多孔質膜の作製)
【0041】
日本触媒製の直径210nmシリカ単分散球状粒子を蒸留水に分散させ懸濁液とし、メンブランフィルターを用いて減圧濾過を行ないフィルター上に50μmの厚みで最密充填堆積させた。その後シリカを乾燥させ、フィルターから取り外し、高強度化の為に900℃で焼成して粒子配列シリカ膜を取得した。一方、ピロメリット酸0.5モルと4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.5モルをジメチルアセトアミド中で反応させ10%のポリアミック酸を合成し、充填するポリイミドの前駆体として用いた。合成したポリアミック酸を鋳型である粒子配列シリカ膜の空隙に真空充填法により充填し、加熱イミド化によりイミド硬化させた。ポリイミド−シリカコンポジット膜を10%のフッ化水素水溶液に浸し、シリカを溶解させ、連続細孔を有する三次元規則配列多孔質ポリイミド膜を取得した。
【0042】
得られたポリイミド多孔質膜は、三次元規則配列孔を伴った多孔質構造を有しており、膜厚70μm、空隙率70%、微細孔の平均直径が180nm、連通孔の直径が30〜50nmであった。膜厚、空隙率、微細孔の平均直径、連通孔の直径等の測定方法については後述する。
【実施例1】
【0043】
市販のポリエーテルエーテルスルホン(PEES)ペレット3gを濃硫酸50ml中で120時間撹拌し、PEESにスルホン酸基を導入して、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン(SPEES)を取得した。これを大量の水で洗浄後、乾燥した後、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、濃度の異なるSPEES−DMF溶液5〜15質量%を調製した。参考例1で得られたポリイミド多孔質膜をSPEES−DMF溶液に浸漬し、1時間ゆっくり撹拌した後、SPEES−DMF溶液から取り出し、ガラス基板上に貼り付けて室温で3時間、60℃の送風乾燥機中で3時間、85℃の真空乾燥機中で10時間乾燥させてコンポジット膜(サンプルA〜C)を取得した。
【0044】
本コンポジット膜の基本物性を表1、プロトン伝導性を図1、メタノール透過性を図2、プロトン選択性を表2に示す。なお、比較のため、メタノール透過性においては、ナフィオンとSPEES膜を用いた。膜の基本物性、プロトン伝導性、メタノール透過性、プロトン選択性等の測定方法については後述する。
【実施例2】
【0045】
SPEES濃度15質量%のSPEES−DMF溶液を用いた系において、実施例1操作を2回繰り返したコンポジット膜(サンプルD)を取得した。
【0046】
本コンポジット膜の基本物性を表1、プロトン伝導性を図1、メタノール透過性を図2、プロトン選択性を表2、DMFC性能曲線を図3に示す。なお、比較として、メタノール透過性においてはナフィオン膜とSPEES膜、DMFC特性においてはナフィオン膜を用いた。
【0047】
用いた多孔質膜の透気度、細孔平均直径、及び得られた電解質膜のメタノール透過性、プロトン伝導性及び面積変化率を以下のように評価した。
【0048】
多孔質膜の評価、物性は次の測定法によって求めた。
1)空隙率
Porosity[%]=100−(W/(A×L×d))×100
(式中、Wは膜の質量、Aは膜の見かけの面積、Lは膜厚、dはポリイミドの密度である。)
2)微細孔直径
図4に示すような微細孔P1、P2の直径D1、D2等をいう。多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、複数点の開孔部について径を測定し、その平均値から算出した。
3)連通孔直径
図4に示すような微細孔P1およびP2の連通孔Qの直径D3等をいう。多孔質フィルム断面の走査型電子顕微鏡写真により、複数点の開孔部について径を測定し、その平均値から算出した。
【0049】
コンポジット膜の評価
<質量増加率>
Weight change ratio=(Wcomposite−W3DOM)/W3DOM×100%)
(式中、Wcompositeは電解質ポリマーが充填されたコンポジット膜の質量、
3DOMは三次元規則配列した連続細孔を有する高分子多孔質膜の質量である。)
<充填率(%)>
SPEESの充填による質量増加を求め、その値とSPEES単体の密度、及びコンポジット膜の体積を用いて計算した値
<膨潤>
Swelling ratio=(AHyd−ADry)/ADry×100%)
(式中、AHydは超純水中に24時間浸漬させた膨潤状態における膜の面積、
Dryは乾燥状態における膜の面積である。)
<含水率>
Water uptake=(WHyd−WDry)/WDry×100%)
(式中、WHydは超純水中に24時間浸漬させた膨潤状態における膜の質量、
Dryは乾燥状態における膜の質量である。)
<メタノール透過性>
図5に示すセルを用いてメタノール透過性を測定した。電解質膜をセル中央に挟み、片側の容器にメタノール水溶液、もう一方の容器に超純水を入れた。液量はそれぞれ15mlとした。セル全体を30℃に保ち、超純水側のメタノール濃度の変化をガスクロマトグラフ(GC−14B、(株)島津製作所製)で測定した。メタノール濃度の変化を時間に対してプロットし、傾きから以下の式を用いて膜のメタノール透過性Pを計算した。
Methanol permeability(P)=C(t)・(V・L)/(A/C
(式中、C(t)はある時間における超純水槽のメタノール濃度、Vは超純水槽の容積、Lは電解質膜の膜厚、Aは電解質膜の面積、Cはメタノール水溶液槽のメタノール濃度である。)
<プロトン伝導性>
直径5mmの金電極が埋没された2枚のダイフロン板の中央に膜を設置し、膜厚方向のプロトン伝導性を評価した。評価には交流インピーダンス法を用いた。1モルdm−3硫酸水溶液に24時間浸漬し、十分水洗した膜を測定に用いた。インピーダンス測定から求めた膜抵抗を以下の式に代入し、膜のプロトン伝導性σを求めた。
Proton Conductivity(σ)=L/(R×A)
(式中、Rは膜抵抗、Lは膜の厚さ、Aは金電極の面積である。)
<プロトン/メタノール選択性>
ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)用電解質膜の性能を判断するための指標としてプロトン/メタノール透過選択性がある。この選択性φは以下の式で定義される。
Selectivity=Proton Conductivity/Methanol Permeability
φ値が大きい膜ほど単位メタノール透過量当りのプロトン伝導性が大きいということになり、ダイレクトメタノール形燃料電池用に適した膜といえる。
<ダイレクトメタノール形燃料電池用特性>
測定温度30℃、触媒担持量3mg・cm−2Pt−Ru(アノード)、3mg・cm−2Pt(カソード)、燃料供給:メタノール水溶液0.5ml・min−1(アノード)、酸素ガス200ml・min−1(カソード)におけるDMFC特性を測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
本発明のもの(コンポジット膜)は、ナフィオン膜よりも解放起電力が高い点(電流密度が0の時の左軸とのセル電圧(中実のシンボルの交点))、最大出力密度が大きい点(山型のオープンシンボルのグラフの最大値)から、電池特性が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明では、高分子電解質膜は電解質ポリマーの充填率に優れるため、水やメタノールなどによる膨潤が少ないとともに高プロトン伝導性などの高性能を有することができるので、リチウムイオン二次電池や燃料電池の電解質膜、特に良好な特性が要求される燃料電池用膜−電極接合体、固体高分子形燃料電池およびダイレクトメタノール形燃料電池の用途にも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
P1,P2 微細孔
Q 連通孔
D1,D2,D3 直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーが、三次元規則配列した高分子多孔質膜の連続細孔内に80%以上の充填率で充填されてなることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
溶媒による前記高分子多孔質膜の膨潤および前記連続細孔内への電解質ポリマーの充填によって得られうることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記したプロトン伝導機能を有する電解質膜ポリマーが、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホンであることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記高分子多孔質膜が、ポリイミドを主成分とするものであって、その空隙率が65%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質膜が、濃度2〜10モルdm−3のメタノール水溶液を供給したときのメタノール透過性が2×10−7cm−1以下であり、30℃におけるプロトン伝導性が10−4Scm−1以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記高分子電解質膜のプロトン透過選択性が10Scm−3s以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いたことを特徴とするダイレクトメタノール形燃料電池。
【請求項8】
プロトン伝導機能を有する電解質ポリマーを溶媒に溶解した溶液に、細孔が三次元規則配列した高分子多孔質膜を浸漬する工程であり、前記溶媒は前記多孔質膜を膨潤させるものである工程、および前記高分子多孔質膜の細孔を前記溶液で膨潤させた後、前記溶媒を除去して、前記高分子多孔質膜の細孔に前記電解質ポリマーを充填する工程を具えることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が非プロトン性溶媒であることを特徴とする請求項8に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミドであることを特徴とする請求項9に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記高分子多孔質膜がポリイミドを主成分とするものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記電解質ポリマーが、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホンであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
前記電解質ポリマーの充填率が80%以上であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−113671(P2011−113671A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266538(P2009−266538)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】