説明

高分子電解質膜とその用途及び高分子電解質膜の製造方法

【課題】プロトン伝導性を大幅に低下させずにメタノール透過性を抑制できる高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上であるフェノール性水酸基含有樹脂を、高分子電解質に対して0.1〜100重量%含有してなり、とりわけフェノールアラルキル樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂より選ばれる樹脂を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる高分子電解質膜が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜に関し、詳しくはメタノール透過性が低く、プロトン伝導性に優れた燃料電池用に好適な高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。中でもメタノールなどの液体燃料を用いるものは、可搬性に優れ、小型化が可能であり、比較的簡便に製造できるため、携帯電話、コンピューター、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの携帯電子機器類の電源や、屋外での移動用電源などとしての開発が行われている。
【0003】
しかしながら、一般に用いられている高分子電解質膜はプロトン伝導性と同時にメタノール透過性を示す。高分子電解質膜がプロトン伝導性を発現するためには、通常水が存在することが必要であるが、メタノールは水と親和性が高いため、高分子電解質膜を透過しやすいためである。メタノールが高分子電解質膜を透過して燃料極から空気極に移動すると、空気極で直接酸化されるため触媒効率が低下し出力が低下したり、燃料の消費が大きくなり発電容量が低下したりするなどの問題の原因となる。燃料電池用高分子電解質膜として広く用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜は、メタノール透過性が大きい。そのため、燃料中のメタノール水溶液の濃度を大きくできず、発電効率を大きくできないなどの問題がおきる場合がある。
【0004】
一方で、ポリイミドやポリスルホンなどの耐熱性ポリマーに、スルホン酸基などのイオン性基を導入したポリマーを用いる、いわゆる炭化水素系高分子電解質膜は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー系高分子電解質膜に比べてメタノール透過性が小さいため、メタノール燃料電池への使用が期待されている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、炭化水素系高分子電解質膜においても、プロトン伝導性を大きくしようとするとメタノール透過性も大きくなる。プロトン伝導性を保持しつつメタノール透過性を低下させるために、ポリマー構造の改良によって水による膨潤性を低下させることが行われている(例えば特許文献2を参照)。また、高分子電解質の膨潤を抑制するために、架橋性の別のポリマーと複合化した高分子電解質膜も提案されている(例えば特許文献3を参照)。しかしながら、このような構成の場合、架橋性ポリマーの反応の制御が困難であり、高分子電解質膜としての特性や形状の均一性や再現性に問題を起こす場合がある。
【0006】
高分子電解質膜に水酸基を有する化合物を添加し、高分子電解質の酸性基(例えばスルホン酸基)と水酸基の間に結合を形成させることによって、メタノール透過を抑制する技術も提案されている(例えば特許文献4を参照)。しかしながら高分子電解質膜の酸性基を架橋することはプロトン伝導性を大幅に損なうため、高分子電解質膜としての性能が低下する問題を有している。
【0007】
また、高分子電解質膜に、水酸基を含む化合物を配合することは既に公知である。例えば、ポリビニルアルコールを含む高分子電解質膜(特許文献5を参照)、フェノール性水酸基を有する化合物を含む高分子電解質膜(特許文献6または7を参照)などを挙げることができる。また、特許文献2には、高分子電解質に対してフェノール樹脂を配合することができることも記載されている。
【0008】
【特許文献1】特表2004−509224号公報
【特許文献2】特開2004−149779号公報
【特許文献3】特開2006−059694号公報
【特許文献4】特開2006−031970号公報
【特許文献5】特開2003−020415号公報
【特許文献6】特開2003−201403号公報
【特許文献7】特開2001−118591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、プロトン伝導性を大幅に低下させずにメタノール透過性を抑制しようとするものであり、メタノール透過性が低く、プロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、高分子電解質に対して、特定のフェノール性水酸基含有化合物の重合体を添加することによって、プロトン伝導性の低下は最小限にとどめつつ、メタノール透過性を大きく抑制できることを見出した。メタノールに不溶であるフェノール性水酸基含有化合物の重合体がフェノール性水酸基含有化合物の重合体の好ましい態様の一つであり、その中で、フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい態様であることを見出した。また、フェノールシクロアルキル樹脂も好ましい態様の一つであることも見出した。また、前記のフェノール性水酸基含有化合物の重合体の効果は、炭化水素系高分子電解質膜において大きな効果を発現することも見出した。加えて炭化水素系高分子電解質膜において、メタノール水溶液に対する表面の接触角を特定値以上にすることによってメタノール透過性が抑制できることを見出した。以上の見出した知見より、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
(1)25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上であるフェノール性水酸基含有樹脂の1種以上を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜。
(2)フェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜。
(3)フェノールアラルキル樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する(2)に記載の高分子電解質膜。
【0011】
【化1】

[上記一般式(1)において、Arは下記一般式(2)〜(4)からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、mは0〜2の整数を、nは1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0012】
【化2】

[上記一般式(2)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p1は0〜4の整数を表す。上記一般式(3)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p2は0〜6の整数を表す。上記一般式(4)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p3は0〜3の整数を、p4は0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0013】
【化3】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0014】
(4)フェノールアラルキル樹脂が、下記一般式(6)で表される構造単位を有する(3)に記載の高分子電解質膜。
【0015】
【化4】

[上記一般式(6)において、R12は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R13は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R14は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n1は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0016】
(5)フェノールシクロアルキル樹脂が、下記一般式(7)で表される構造単位を有する(2)に記載の高分子電解質膜。
【0017】
【化5】

[上記一般式(7)において、R15は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはR16と一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R16は水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R17は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を、m2は0〜2の整数を、n2は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0018】
【化6】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0019】
(6)フェノールシクロアルキル樹脂が、下記一般式(8)で表される構造単位を有する(5)に記載の高分子電解質膜。
【0020】
【化7】

[上記一般式(8)において、R18は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n3は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0021】
(7)アルキルフェノール樹脂が、下記一般式(8’)で表される構造単位を有する(1)に記載の高分子電解質膜。
【0022】
【化8】

[上記一般式(8’)において、R18’は炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R18”は、メチレン基、及び炭素数2〜10のアルキル基がからなる群より選ばれる1種以上の基を、n3’は1〜100000の整数を、n3”は1〜3の整数を、それぞれ表す。]
【0023】
(8)フェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のフェノール性水酸基含有樹脂が、25℃におけるメタノールへの溶解度が10重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である(2)に記載の高分子電解質膜。
(9)高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質である(1)〜(8)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(10)炭化水素系高分子電解質が、芳香族系のポリマーから構成されてなる(9)に記載の高分子電解質膜。
(11)炭化水素系高分子電解質が、スルホン酸基を含有し、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン及びポリエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレンスルフィド系化合物及びポリアリーレン系化合物のいずれかを構成成分とし、かつ0.5〜3.0meq/gのイオン交換容量を有する請求項10に記載の高分子電解質膜。
(12)炭化水素系高分子電解質が、下記一般式(9)で表される構造単位の少なくとも1種と下記一般式(10)で表される構造単位の少なくとも1種とからなるポリマーの群より選ばれる1種以上のポリマーからなる(11)に記載の高分子電解質膜。
【0024】
【化9】

[一般式(9)及び(10)において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、R19は炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリール基及び直接結合(−SOY基の)のうちのいずれかを、R20及びR21は硫黄原子又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数が2〜20である、アルキレン基、アラルキル基、芳香族基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、Z又はZ’は酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、m4及びm5はそれぞれの構造単位のポリマー分子中のモル数で1〜1000の整数を表す。]
【0025】
(13)20℃、相対湿度65%の雰囲気下における5mol/Lメタノール水溶液に対する両面の接触角の平均値が65°以上である(1)〜(12)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(14)(1)〜(13)のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体。
(15)(14)の膜/電極接合体を用いた燃料電池。
(16)酸性基を有する高分子電解質とフェノール性水酸基含有樹脂とを含有してなる高分子電解質膜の製造方法であって、高分子電解質の酸性基が、アルカリ金属イオン及び塩基性化合物からなる群より選ばれる1種以上の物質と塩を形成している状態で、該高分子電解質と、フェノール性水酸基含有化合物の重合体とを混合し、製膜した後、得られた膜の酸性基を酸処理によって遊離の酸に変換する工程を有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
(17)フェノール性水酸基含有樹脂が、分子中に0.001〜0.01mol/gのフェノール性水酸基を有し、25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である請求項16に記載の高分子電解質膜の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0026】
本発明による高分子電解質膜は、プロトン伝導性の低下は最小限にとどめつつ、メタノール透過性を大きく抑制することができる。特に、高分子電解質が炭化水素系高分子電解質の場合に顕著な効果を示す。
よって、本発明による高分子電解質膜は、プロトン伝導性に優れ、かつメタノール透過性を抑制できるため、メタノールを燃料とする燃料電池に用いた場合に、出力を向上させたり、高濃度のメタノール溶液を燃料に用いてエネルギー密度を高めたり、発電容量を向上させたりするなど、優れた効果を有する。また、膜/電極接合体を製造する際の電極との接合性が向上するため抵抗が減少し出力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明における重量とは、質量を意味する。
本発明における高分子電解質膜の第一の態様は、25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である、フェノール性水酸基含有樹脂からなる群より選ばれる1種以上の化合物を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜である。前記フェノール性水酸基含有樹脂とは、フェノール性水酸基含有化合物を構成成分とする重合体であり、フェノール性水酸基、すなわち芳香族環に直接結合した水酸基を有する化合物残基が、直接もしくは他の基によって連結された構造を有する重合体を例として示すことができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
水酸基を有する化合物残基を連結する基としては、メチレン基、エチレン基、炭素数3以上のアルキレン基、アルケニレン基、アラルキレン基、スルフィド基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。フェノール性水酸基含有化合物同士が連結されている場合には、実質的に連結に寄与する原子の数は1であることが好ましい(例えば、メチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、スルフィド基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基など)。フェノール性水酸基含有化合物がエチレン基で連結されている場合には、フェノール性水酸基含有化合物が同一の炭素原子に結合していることが好ましい。連結基が炭素数3以上のアルキレン基の場合には、アルキル基が環状構造を有していることが好ましい。また、フェノール性水酸基含有化合物は、環状アルキレン基や、アラルキレン基で結合していても好ましい。あるいは、フェノール性水酸基含有化合物と芳香族化合物とが、メチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、スルフィド基、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基などで連結した構造であっても好ましい。連結基がアラルキレン基の場合には、芳香族基に結合したメチレン基、又はアルキル基で置換されたメチレン基によって、フェノール性水酸基含有化合物と結合していることが好ましい。フェノール性水酸基含有化合物が、1,2−エチレン基で結合しているような場合(例えば、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)など)のような場合、メタノールへの溶解度が大きくなり、高分子電解質膜のメタノール透過性を抑制するという課題を達成することができなくなることがある。
【0029】
前記フェノール性水酸基含有樹脂の例として、フェノールアラルキル樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノールテルペン樹脂、アラルキル基置換フェノール樹脂、フェニル基置換フェノール樹脂、フェノキシ基置換フェノール樹脂などを挙げることができ、中でもアルキルフェノール樹脂は溶解性や混合性に優れるためこのましい樹脂の一つである。これらの樹脂を用いた場合、高分子電解質の軟化温度が低下し、ホットプレスによる電極との接合など、加工性が改善されるという副次的な効果もある。
【0030】
前記フェノール性水酸基含有樹脂は、25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下であるものを選択して用いることが必須である。より好ましくはメタノールへの溶解度が0.5重量%以下であるものが好ましく、さらに好ましくは実質的にメタノールに不溶であることが好ましい。メタノールに対する溶解度が高いと、メタノール水溶液の透過性が大きくなるため好ましくない。また、前記フェノール性水酸基含有樹脂は、25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上であることを必須とする。N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%であるとより好ましい。極性化合物である高分子電解質の良溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンへの溶解度は、前記フェノール性水酸基含有樹脂と高分子電解質膜の親和性の尺度となるので、高いほうが好ましい。前記フェノール性水酸基含有樹脂と高分子電解質膜は、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒に溶解して混和することもできるし、溶媒を用いずに溶融で混合することもできる。前記フェノール性水酸基含有樹脂のフェノール性水酸基量は、0.001〜0.01mol/gの範囲にあることが好ましく、0.005〜0.01mol/gの範囲にあることがより好ましい。前記フェノール性水酸基含有樹脂の分子量は100〜1000000の範囲にあることが好ましい。分子量が低いほど高分子電解質膜との混和性が向上する傾向があるので好ましいが、脱落性が大きくなったり、高分子電解質膜の機械特性が低下したりする場合もある。分子量が大きいほど、高分子電解質膜の機械特性は向上するが、高分子電解質膜との親和性が低下したりする場合がある。高分子電解質に対する前記フェノール性水酸基含有化合物の重合体の量は、高分子電解質の2〜50重量%の範囲であることが好ましく、3〜20重量%の範囲であることがさらに好ましい。高分子電解質は特に限定されるものではないが、炭化水素系高分子電解質であるとメタノール透過抑制効果が大きいため好ましく、芳香族炭化水素系高分子電解質であるとメタノール透過抑制効果がさらに大きいためより好ましい。
【0031】
本発明における好ましい第一の態様において、前記フェノール性水酸基含有化合物を構成成分とする重合体(樹脂)と高分子電解質からなる高分子電解質膜のメタノール透過性が抑制される機構は明らかではないが、前記重合体が、メタノールに対して溶解度が低い(好ましくは溶解しない)ことが、膜内でのメタノール透過を抑制しているのではないかと推察される。また、高分子電解質との親和性には、フェノール性水酸基が寄与していると推察される。すなわち、スルホン酸基、ホスホン酸基などの酸性基や、塩基性基などの極性基を有する高分子電解質は、極性の高い物質と混合しやすいので、極性のフェノール性水酸基を有する前記重合体は、高分子電解質と適度に混和して効力を発揮していると推察される。もしメタノールに対して溶解性の低い化合物であっても、高分子電解質に対して親和性が低ければ、高分子電解質膜において均一に分散することが困難になり、メタノール透過抑制効果が得られないばかりか、膜への成形に支障をきたす可能性が非常に高い。また、フェノール性水酸基の代わりに、他の極性基、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、イミノ基などを有する重合体で、メタノールに対する溶解度が前記の範囲のものであると、本発明の重合体と同様に、高分子電解質膜におけるメタノール透過抑制性を発揮する可能性がある。
【0032】
本発明における好ましい第二の態様は、フェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のフェノール性水酸基含有樹脂を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜である。
【0033】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂とは、フェノール性の水酸基を有する基、すなわち芳香族基に水酸基が結合した基と、アラルキル基、すなわち芳香族基と非芳香族性の炭化水素基からなる基とが結合して、主となる構造単位を形成している樹脂のことをいう。フェノール性の水酸基を有する基は、フェノールに限定されるわけではなく、クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノールなどのフェノール誘導体や、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールH、ビフェノール、及びそれらの誘導体などのポリフェノール化合物や、ナフトール、ナフトジオールなどのナフトール化合物などに由来する基も含む。アラルキル基は、芳香族基に対して、置換基を有していてもよい二つのメチレン基を有する基を表し、キシリデン基、α、α’−ジメチルキシリデン基、メチレン基を有するナフタレン誘導体、メチレン基を有するビフェニル誘導体などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂は、上記のフェノール性水酸基を有する化合物と、アラルキル基化合物とを縮合反応させることによって得ることができる。例えば、フェノール性水酸基を有する化合物に対して、芳香族ジビニル化合物や、ビニル基とハロメチル基を有する芳香族化合物や、ビス(ハロメチル)芳香族化合物や、ビス(メトキシメチル)芳香族化合物や、ビス(ヒドロキシメチル)芳香族化合物などを、トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、しゅう酸、リン酸、マレイン酸などの酸性物質や、塩化アルミニウム、塩化第一錫、塩化亜鉛、三フッ化ほう素エーテラート、硫酸ジメチルなどのフリーデルクラフツ触媒の存在下で反応させることによって得ることができる。反応温度は30〜150℃の間で、原料の種類や重合度に応じて適宜選択することができる。触媒量は0.001〜5重量%の間で、触媒の種類や、反応温度、原料に応じて適宜選択することができる。原料は、溶融状態で反応させてもよいし、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒中で行うこともできる。
【0034】
フェノール性水酸基を有する化合物に対して、ビニル基はフェノール性水酸基を有する化合物のベンゼン環に対してα位で付加重合する。また、クロロメチル基などのハロメチル基はHClを、メトキシメチル基はメタノールを、ヒドロキシメチル基は水を、それぞれ脱離して重合する。このようなフェノールアラルキル樹脂の製造方法は、例えば、特公昭47−6510号公報、特公昭48−10960号公報、特開昭61−221284号公報、特開昭61−296024号公報、特開昭63−238129号公報、特開平5−78457号公報、特開2000−53740号公報に記載されている。反応後の樹脂組成物は、そのまま用いてもよいし、減圧蒸留や再沈によって未反応物やオリゴマー、モノマーの変性物などを除去して用いてもよいし、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの適当な溶媒に溶解して用いてもよい。
【0035】
本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂とは、フェノール性の水酸基を有する基、すなわち芳香族基に水酸基が結合した基と、シクロアルキル基とが結合して、主となる構造単位を形成している樹脂のことをいう。フェノール性の水酸基を有する基は、フェノールに限定されるわけではなく、クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノールなどのフェノール誘導体や、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールH、ビフェノール、及びそれらの誘導体などのポリフェノール化合物や、ナフトール、ナフトジオールなどのナフトール化合物などに由来する基も含む。シクロアルキル基としては、シクロブタン基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ジシクロヘプタン基、ジシクロノナン基、トリシクロデシル基などを挙げることができる。
【0036】
本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂は、上記のフェノール性水酸基を有する化合物と、シクロアルキル基化合物とを縮合反応させることによって得ることができる。例えば、フェノール性水酸基を有する化合物に対して、ジシクロペンタジエン、シクロテルペン、ピネン、シクロブタジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロヘプタジエン、ジシクロノナジエンや、ジビニルシクロアルキル化合物や、ビニル基とハロメチル基を有するシクロアルキル化合物や、ビス(ハロメチル)シクロアルキル化合物や、ビス(メトキシメチル)シクロアルキル化合物や、ビス(ヒドロキシメチル)シクロアルキル化合物などを、トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、しゅう酸、リン酸、マレイン酸などの酸性物質や、塩化アルミニウム、塩化第一錫、塩化亜鉛、三フッ化ほう素エーテラート、硫酸ジメチルなどのフリーデルクラフツ触媒の存在下で反応させることによって得ることができる。反応温度は30〜150℃の間で、原料の種類や重合度に応じて適宜選択することができる。触媒量は0.001〜5重量%の間で、触媒の種類や、反応温度、原料に応じて適宜選択することができる。原料は、溶融状態で反応させてもよいし、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒中で行うこともできる。フェノール性水酸基を有する化合物に対して、ビニル基はフェノール性水酸基を有する化合物のベンゼン環に対してα位で付加重合する。また、クロロメチル基などのハロメチル基はHClを、メトキシメチル基はメタノールを、ヒドロキシメチル基は水を、それぞれ脱離して重合する。このようなフェノールアラルキル樹脂の製造方法は、例えば、米国特許3536734号に記載されている。反応後の樹脂組成物は、そのまま用いてもよいし、減圧蒸留や再沈によって未反応物やオリゴマー、モノマーの変性物などを除去して用いてもよいし、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの適当な溶媒に溶解して用いてもよい。
【0037】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂は、分子量が100〜1000000の間にあることが好ましい。より好ましく200〜500000の間である。また、前記樹脂は、実質的に線状の重合体であることが好ましい。多数の分岐構造や、網状構造を有する樹脂であると、高分子電解質との混和性が低下する可能性がある。前記樹脂は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホンなど、一般的な高分子電解質を溶解することのできる溶媒に、溶解することができると、溶液で混合することができるので好ましい。高分子電解質と前記樹脂が同一の溶媒に混合しない場合には、溶融状態で混合することもできる。
【0038】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂は、メタノールに対する25℃での溶解度が10重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。メタノールに対して溶解性が大きいものであると、メタノール透過の抑制性能が低下する場合がある。高分子電解質膜に対する、前記樹脂の量は、2〜50重量%であることが好ましく、2〜20重量%であることがより好ましい。前記樹脂の量が、高分子電解質に対して2重量%未満であると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られないことがあるため好ましくない。また、100重量%を超えると、高分子電解質膜の機械特性が低下する場合があるため好ましくない。前記樹脂の含有量は、抽出法、NMR法などによって分析することができる。
【0039】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂は、フェノール性水酸基の量が1〜10mmol/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜7.5mmol/g、さらに好ましくは2〜6mmol/g、特に好ましくは、2.5〜5mmol/gの範囲である。フェノール性水酸基の量が1mmol/g未満であると、高分子電解質との混合性が低下し、高分子電解質膜としての均一性に問題が生じる場合がある。フェノール性水酸基の量が7.5mmol/gを超えると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られないことがあるため好ましくない。フェノール性水酸基の量は、NMR法、酸無水物による水酸基の定量法、酸化還元滴定法など、任意の方法で定量することができる。高分子電解質膜をそのまま分析することもできるし、前記樹脂を抽出した後で分析することもできる。
【0040】
フェノールアラルキル樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂及びアルキルフェノール樹脂などの、本発明におけるフェノール性水酸基含有化合物を構成成分とする重合体(フェノール性水酸基含有樹脂)は、フェノール性水酸基が、高分子電解質の酸性基と、実質的に結合を形成しないことが好ましい。結合を形成しているかどうかは、高分子電解質膜について、IR測定やNMR測定を行い、遊離の水酸基の有無を確認することによって行うことができる。前記樹脂単体で検出されたOH由来のピークあるいはシグナルが、高分子電解質膜についても検出されれば、結合を形成していないことを示している。また、高分子電解質膜のイオン交換容量を測定し、理論量(高分子電解質膜に含まれる高分子電解質についての量)と実測値に差があるかどうかで判断することができる。理論量と実測値が同等であれば、結合はないと判断することができる。また、高分子電解質を溶解することのできる溶媒に、高分子電解質膜を浸漬して溶解するかどうかを観察することでも判断できる。高分子電解質膜が良好に溶解すれば、結合はないと判断でき、溶解せず膨潤するにとどまったり、一部がゲル状に残存したりするようであれば、結合があると判断することができる。
【0041】
高分子電解質の酸性基と、フェノールアラルキル樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂及びアルキルフェノール樹脂などの、本発明におけるフェノール性水酸基含有樹脂のフェノール性水酸基とが、結合を形成していない高分子電解質膜を得るための手段としては、高分子電解質の酸性基を塩にした状態で、前記樹脂と混和し、膜に成形した後で、酸処理により高分子電解質膜の酸性基を酸にすることが好ましい。高分子電解質の酸性基と塩を形成させる物質としては、Li、K、Naなどのアルカリ金属イオンや、脂肪族又は芳香族のアミン化合物、第四級アンモニウム塩などの1価のカチオンが好ましい。中でもLi、K、Naなどのアルカリ金属イオンが好ましい。酸性基を塩にした高分子電解質と前記樹脂との混和は、溶液の状態で行ってもよいし、溶融状態で行ってもよいが、より混合性が高くなる溶液での混和が好ましい。また、高分子電解質の酸性基を塩にする代わりに、ハロゲン化やエステル化することもできる。
【0042】
本発明の好ましい第二の態様においては、フェノールアラルキル樹脂の方が、フェノールシクロアルキル樹脂よりも、メタノール透過性の抑制性能が高くすることが可能になるので好ましい。本発明において、フェノールアラルキル樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂及びアルキルフェノール樹脂が高分子電解質膜のメタノール透過性を抑制する機構は定かではないが、単にフェノール性水酸基を有する化合物(例えば、ポリ(4−ヒドロキシルスチレン)や、フェノール系酸化防止剤類)では、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂、又はフェノールシクロアルキル樹脂のような、顕著な透過抑制効果は見られないことから、疎水性のアルキル基、アラルキル基、又はシクロアルキル基がメタノール透過を抑制すると共に、極性基であるフェノール性水酸基が高分子電解質との混合性を高めるため、高分子電解質と前記樹脂との混合性が確保されているためではないかと推察される。
【0043】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂は、主として下記一般式(1)で表される構造単位で構成されていることが好ましい。本発明におけるフェノールアラルキル樹脂は、下記一般式(1)で表される構造単位を少なくとも有し、下記一般式(1)で表される構造単位以外には、末端基や、他の繰り返し単位などを有していてもよい。本発明におけるフェノールアラルキル樹脂中の下記一般式(1)で表される構造単位の割合は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。50重量%未満であると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られない場合があり好ましくない。また、下記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位が繰り返し単位として含まれていると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られない場合があるので、下記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位は、末端基であることが好ましい。末端基としては、フェノールアラルキル樹脂の合成反応において、ポリマー末端に導入し得る基であればよいが、下記一般式の構造単位を得るためのモノマーに由来する基であることが好ましい。
【0044】
【化10】

[上記一般式(1)において、Arは下記一般式(2)〜(4)からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、mは0〜2の整数を、nは1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0045】
【化11】

[上記一般式(2)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p1は0〜4の整数を表す。上記一般式(3)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p2は0〜6の整数を表す。上記一般式(4)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p3は0〜3の整数を、p4は0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0046】
上記一般式(1)において、Arは一般式(2)で表される基であると、原料が安価に入手できる場合が多いので好ましい。上記一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。Rが炭素数1〜20のアルキル基である場合には、p1は1であることが、反応性が高くなるので好ましい。上記一般式(3)において、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。Rが炭素数1〜20のアルキル基である場合には、p2は1であることが、反応性が高くなるので好ましい。上記一般式(4)において、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。Rが炭素数1〜20のアルキル基である場合には、p3は1であることが、反応性が高くなるので好ましい。また、上記一般式(4)において、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。Rが炭素数1〜20のアルキル基である場合には、p4は1であることが、反応性が高くなるので好ましい。
【0047】
上記一般式(1)において、RはRと一体化して炭素数3〜20の環状アルキル基を形成していてもよい。例えば、RがRのオルト位に位置して芳香環を形成し、ナフトール基を形成していてもよい。それ以外の場合において、Rは、水素原子、メチル基、下記化学式(5)で表される基であることが好ましい。メチル基であると、合成の際の副反応を抑制しやすいため好ましい。下記化学式(5)で表される基であると、高分子電解質との混合性が向上するため好ましい。
【0048】
【化12】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0049】
上記一般式(5)において、Rがスルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、酸素原子、硫黄原子であると、極性溶媒への溶解性が向上するため好ましい。R11は水素原子又はメチル基が好ましい。メチル基の場合には、qは1又は2であることが好ましい。R10は水素原子、メチル基、水酸基が好ましく、高分子電解質との混合性の面で水酸基が好ましい。
【0050】
上記一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基が好ましい。メチル基の場合には、mは1又は2であることが好ましい。R及びRは、少なくとも一つがメチル基であることが好ましい。nは3〜1000000の範囲にあることが好ましく、10〜100000の範囲にあることがより好ましい。上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂において、R及びRの一つがメチル基であり、もう一つが水素原子の場合には、RとRとが入れ替わった構造異性体で表される構造単位も含む場合がある。これは、非対称の官能基を有する原料を用いた場合、例えば、p−クレゾールと、p−クロロメチルスチレンとを原料に用いてフェノールアラルキル樹脂を合成する場合、p−クレゾールに対して、p−クロロメチルスチレンの官能基であるビニル基及びクロロメチル基の両方が反応性を有しており、どちらの官能基が結合するかは制御できないことがあるためである。従って、R及びRの一つがメチル基であり、もう一つが水素原子の場合には、RとRとが入れ替わった構造異性体も含めて同一のフェノールアラルキル樹脂とみなされるべきである。
【0051】
上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂において、より好ましい態様は、主として下記一般式(6)で表される構造単位で構成されるフェノールアラルキル樹脂である。
【0052】
【化13】

[上記一般式(6)において、R12は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R13は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R14は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n1は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0053】
上記一般式(6)において、R12及びR13は、少なくとも一つがメチル基であることが好ましい。R14はメチル基であることが好ましい。n1は3〜1000000の範囲にあることが好ましく、10〜100000の範囲にあることがより好ましい。
【0054】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂の構造の例を以下に示すが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【化14】

【0056】
【化15】

【0057】
【化16】

【0058】
【化17】

【0059】
【化18】

【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
【化21】

【0063】
上記化合物において、R及びRの一つがメチル基であり、もう一つが水素原子の場合には、R12とR13が入れ替わった構造異性体も同一のフェノールアラルキル樹脂とみなすことができる。これは、フェノールアラルキル樹脂の原料として、非対称のモノマーを用いた場合に、両方の構造が生成しうるためである。例えば、下記の二種類の構造単位は、前記の理由により、本発明においては等価とみなすものである。
【0064】
【化22】

【0065】
本発明のフェノールアラルキル樹脂を表す、上記一般式(1)や上記一般式(6)におおいて、ベンゼン環に対する、メチレン基又は1,1−エチレン基の結合位置は、一定でなくてもよい。例えば、フェノール性水酸基を有するベンゼン環に対しては、オルト位が主となるが、メタ位やパラ位に結合していてもよい。また、アラルキル基におけるベンゼン環に対しては、お互いにメタ位やパラ位になるように結合していることが好ましいがオルト位になるように結合していてもよい。これらの構造は、原料や反応条件によってある程度制御することが可能であるが、同じ原料を用いても、異なる位置に結合が生成する場合もあるため、本発明のフェノールアラルキル樹脂は、複数の構造異性体も含めた混合物を1種類の樹脂としてみなすこともできる。
【0066】
本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂は、主として下記一般式(7)で表される構造単位で構成されることが好ましい。本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂は、下記一般式(1)で表される構造単位を少なくとも有し、下記一般式(1)で表される構造単位以外には、末端基や、他の繰り返し単位などを有していてもよい。本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂中の下記一般式(1)で表される構造単位の割合は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。50重量%未満であると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られない場合があり好ましくない。また、下記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位が繰り返し単位として含まれていると、メタノール透過の抑制効果が十分に得られない場合があるので、下記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位は、末端基であることが好ましい。末端基としては、フェノールシクロアルキル樹脂の合成反応において、ポリマー末端に導入し得る基であればよいが、下記一般式の構造単位を得るためのモノマーに由来する基であることが好ましい。
【0067】
【化23】

[上記一般式(7)において、R15は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはR16と一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R16は水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R17は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を、m2は0〜2の整数を、n2は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0068】
【化24】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0069】
上記一般式(7)において、R15はR16と一体化して炭素数3〜20の環状アルキル基を形成していてもよい。例えば、R16がR15のオルト位に位置して芳香環を形成し、ナフトール基を形成していてもよい。それ以外の場合においてR15は、水素原子、メチル基、下記化学式(5)で表される基であることが好ましい。メチル基であると、合成の際の副反応を抑制しやすいため好ましい。下記化学式(5)で表される基であると、高分子電解質との混合性が向上するため好ましい。
【0070】
【化25】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【0071】
上記一般式(5)において、Rがスルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、酸素原子、硫黄原子であると、極性溶媒への溶解性が向上するため好ましい。R11は水素原子又はメチル基が好ましい。メチル基の場合には、qは1又は2であることが好ましい。R10は水素原子、メチル基、水酸基が好ましく、高分子電解質との混合性の面で水酸基が好ましい。
【0072】
上記一般式(7)において、R17はシクロブタン基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ジシクロヘプタン基、ジシクロノナン基、トリシクロデシル基であることが好ましい。中でも、シクロヘキシル基、ジシクロヘプタン基、ジシクロノナン基、トリシクロデシル基が好ましく、トリシクロデシル基がさらに好ましい。シクロアルキル基と、フェノール性水酸基を有するベンゼン環との結合位置は特に限定されるものではなく、同じ原料を用いても異なる構造を有する樹脂が生成しうる。n2は3〜1000000の範囲にあることが好ましく、10〜100000の範囲にあることがより好ましい。
【0073】
本発明のおけるフェノールシクロアルキル樹脂のさらに好ましい態様は、主として下記一般式(8)で表される構造単位で構成されるフェノールシクロアルキル樹脂である。
【0074】
【化26】

[上記一般式(8)において、R18は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n3は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【0075】
上記一般式(8)において、トリシクロデシル基と、フェノール性水酸基を有するベンゼン環との結合位置は特に限定されるものではなく、同じ原料を用いても異なる構造を有する樹脂が生成しうる。下記一般式(8’)の式で表される構造も実質的に等価であるとみなすことができる。n3は3〜1000000の範囲にあることが好ましく、10〜100000の範囲にあることがより好ましい。
【0076】
【化27】

【0077】
本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂の好ましい態様の例を以下に示すが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、上記の条件を満たすものであれば、良好に使用することができる。
【0078】
【化28】

【0079】
【化29】

【0080】
【化30】

【0081】
【化31】

【0082】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂を製造するための原料のうち、フェノール性水酸基を有する化合物の例としては以下のような化合物を挙げることができるが、これらに限定されず、上記の条件に適合するフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂を合成できるものであれば、任意の化合物を用いることができる。
【0083】
例えば、フェノール、p−クレゾール、o−クレゾール、p−エチルフェノール、p−ターシャリーブチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、4−フェノキシフェノール、4−フェニルフェノール、4,4−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4−ビフェノール、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフ ェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド、2,2’−ジヘキシル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ナフトール、ナフトジオールなどを挙げることができる。
【0084】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂を製造するために、フェノール性水酸基を有する化合物と反応させる化合物としては、以下のような化合物を挙げることができるが、これらに限定されず、上記の条件に適合するフェノールアラルキル樹脂を合成できるものであれば、任意の化合物を用いることができる。
【0085】
例えば、p−ジビニルベンゼン、o−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼンとo−ジビニルベンゼンの混合物、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェノール、ジビニルアントラセン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メトキシメチル)ベンゼン、ビス(メトキシメチル)ナフタレン、4,4’−ビス(メトキシメチル)ビフェニル、ビス(メトキシメチル)アントラセン、1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,4−ビス(フルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(ヨードメチル)ベンゼン、1,3−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3−ビス(フルオロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(ヨードメチル)ベンゼン、ビス(クロロメチル)ナフタレン、ビス(ブロモメチル)ナフタレン、ビス(フルオロメチル)ナフタレン、ビス(ヨードメチル)ナフタレン、ビス(クロロメチル)アントラセン、ビス(ブロモメチル)アントラセン、ビス(フルオロメチル)アントラセン、ビス(ヨードメチル)アントラセン、ビス(クロロメチル)テトラフェニルメタン、ビス(ブロモメチル)テトラフェニルメタン、ビス(フルオロメチル)テトラフェニルメタン、ビス(ヨードメチル)テトラフェニルメタン、4,4’−(クロロメチル)ビフェニル、4,4’−(ブロモメチル)ビフェニル、4,4’−(フルオロメチル)ビフェニル、4,4’−(ヨードメチル)ビフェニル、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、ビス(ヒドロキシメチル)アントラセン、4,4−ビス(ヒドロキシメチル)ビフェニル、ビス(ヒドロキシメチル)テトラフェニルメタン、4−フルオロメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−ブロモメチルスチレン、4−ヨードメチルスチレン、3−フルオロメチルスチレン、3−クロロメチルスチレン、3−ブロモメチルスチレン、4−ヒドロキシメチルスチレン、3−ヒドロキシメチルスチレンなどを挙げることができる。
【0086】
本発明におけるフェノールシクロアルキル樹脂を製造するために、フェノール性水酸基を有する化合物と反応させる化合物としては、以下のような化合物を挙げることができるが、これらに限定されず、上記の条件に適合するフェノールシクロアルキル樹脂を合成できるものであれば、任意の化合物を用いることができる。
【0087】
例えば、2,4−ジメチル−1,4−シクロブタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、シクロテルペン、ピネン、ジシクロヘプタジエン、ジシクロノナジエン、ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ジビニルシクロヘキサンを挙げることができる。
【0088】
本発明におけるアルキルフェノール樹脂の例としては、o−又はp−クレゾールノボラック樹脂、ジメチルフェノールノボラック樹脂、ターシャリーブチルフェノールノボラック樹脂、クレゾールレゾール樹脂などを挙げることができる。クレゾールノボラック樹脂は、例えば、o−またはp−クレゾールとホルムアルデヒドを、酸性触媒の存在下で加熱して脱水縮合することによって得ることができる。アルキルフェノール樹脂は、アルキル基を置換基として有するフェノール誘導体を、ホルムアルデヒドなどの縮合剤と反応させて得ることができる。また、縮合剤との反応には水酸化ナトリウムなどの塩基性触媒を用いることもできるが、反応が進行しすぎると架橋反応が進行し、溶媒に不溶化するなど取り扱いが困難になる場合があるので好ましくない。酸性触媒を用いて、実質的に線状の重合体であることが好ましい。アルキルフェノール樹脂を得るための、アルキル置換フェノールとしては、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、エチルフェノール、ジエチルフェノール、トリエチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノールなどを例として挙げられるがこれらに限定されるものではない。アルキル置換フェノールと反応させる縮合剤は、ホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミンなどを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。触媒に用いる酸性化合物としては、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、アルキルホスホン酸、ビニルホスホン酸などの強酸を挙げることができる。アルキル置換フェノールと縮合剤と触媒は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの溶媒の存在下、あるいは非存在下で、還流条件下で加熱し反応させることができる。未反応の化合物や溶媒は、再沈殿、透析、蒸留、減圧蒸留などによって除去することができる。未反応の化合物はできるだけ除去しておくことが好ましい。
【0089】
本発明におけるアラルキル基置換フェノール樹脂、フェニル基置換フェノール樹脂、フェノキシ基置換フェノール樹脂などの置換フェノール樹脂は、アラルキル基置換フェノール、フェニル基置換フェノール、フェノキシ基置換フェノールなどの置換フェノールを、ホルムアルデヒドなどの縮合剤と反応させることによって得ることができる。これらの樹脂は前記のアルキル置換フェノール樹脂と同様にして合成することができる。原料として用いることのできるフェノール化合物としては、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルプロパン、メチルフェニルフェノール、フェニルフェノール(ヒドロキシビフェニル)、フェノキシフェノール(ヒドロキシジフェニルエーテル)などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0090】
本発明におけるフェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂は、フェノール性水酸基を有する化合物を過剰にして反応させ、末端がフェノール性水酸基を有する化合物であるオリゴマーを、ホルムアルデヒドなどのジアルデヒド化合物と脱水縮合することによって製造することもできる。
【0091】
本発明における高分子電解質は、0.1〜5.0meq/gのイオン交換容量を有することが好ましく、0.5〜2.5meq/gのイオン交換容量を有することがより好ましい。さらに、0.5〜1.5meq/gのイオン交換容量を有することがより好ましく、0.7〜1.3meq/gのイオン交換容量を有することがさらに好ましい。イオン交換容量の小さい高分子電解質ほど、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂やフェノールシクロアルキル樹脂との混和性がよくなる傾向にある。イオン交換容量の大きい高分子電解質ほどプロトン伝導性は大きくなる。
【0092】
本発明の高分子電解質膜は、0.1〜3.0meq/gのイオン交換容量を有することが好ましく、0.5〜2.0meq/gのイオン交換容量を有することがより好ましい。さらに、0.5〜1.5meq/gのイオン交換容量を有することがより好ましく、0.7〜1.3meq/gのイオン交換容量を有することがさらに好ましい。
【0093】
本発明の高分子電解質膜における高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であることが好ましい。炭化水素系高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質膜に比べて、ハロゲンを含まないことや、有害な排出物が少ないこと、コストを小さくできることなどの利点を有しているが、膨潤や寸法安定性に劣るためである。炭化水素系高分子電解質膜は、チタン酸繊維と複合化することによって、前記の欠点を克服することができる。炭化水素系高分子電解質とは、主な構造が酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系高分子から主になっており、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、カルボキシル基などの酸性のイオン性基を有するものをいう。イオン性基としては、スルホン酸基やスルホンイミド基などの強酸基であるとプロトン伝導性が高くなるため好ましく、ホスホン酸基やリン酸基では、高温低湿度の状態でもプロトン伝導性を示すため好ましい。
【0094】
本発明の炭化水素系高分子電解質を構成するポリマーの具体的な例としては、ポリアリーレン、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンエーテルスルフィド、ポリアリーレンエーテルニトリル、ポリアリーレンエーテルニトリルスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリベンザゾール、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどの耐熱性ポリマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
中でも、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンエーテルスルフィド、ポリアリーレンエーテルニトリル、ポリアリーレンエーテルニトリルスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンが、さらに好ましい例として挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0096】
本発明における炭化水素系高分子電解質は、主として芳香族系のポリマーから構成されていることが好ましいが、部分的に脂肪族基を有していてもよい。例えば、側鎖や主鎖の少なくとも一部が脂肪族基で構成されていてもよい。
【0097】
本発明における炭化水素系高分子電解質は、スルホン酸基を含有し、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン及びポリエーテルケトン系などのポリマーのうちの少なくとも1種を含むポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレンスルフィド系化合物及びポリアリーレン系化合物のいずれかを構成成分とすることが好ましい。これらのポリマーは、合成が容易であり、溶媒への溶解性が良く、耐熱性や機械的特性にも優れているためである。
【0098】
本発明における炭化水素系高分子電解質は、0.5〜3.0meq/gのイオン交換容量を有することが好ましく、0.5〜2.5meq/gのイオン交換容量を有することがより好ましく、0.5〜1.5meq/gのイオン交換容量を有することがさらに好ましく、0.7〜1.3meq/gのイオン交換容量を有することがさらに好ましい。
【0099】
本発明における炭化水素系高分子電解質の好ましい態様は、下記一般式(9)で表される構造から選ばれる1種以上の構造、及び下記一般式(10)で表される構造から選ばれる1種以上の構造を有するポリマーからなる群より選ばれる1種以上のポリマーから構成されている炭化水素系高分子電解質である。
【0100】
【化32】

[一般式(9)及び(10)において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、R19は炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリール基及び直接結合(−SOY基の)のうちのいずれかを、R20及びR21は、それぞれ独立して、硫黄原子又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数が2〜20である、アルキレン基、アラルキル基、芳香族基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、Z又はZ’は酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、m4及びm5はそれぞれの構造単位のポリマー分子中のモル数で1〜1000の整数を表す。]
【0101】
本発明における炭化水素系高分子電解質は、一般式(9)又は(10)で表される構造単位の範囲内において複数の構造単位を含んでいてもよい。また、一般式(9)で表される構造単位と、一般式(10)で表される構造単位との結合様式は特に限定されるものではなく、ランダムに結合していてもよいし、一般式(9)及び一般式(10)で表されるものうちのいずれかの構造単位が連続したブロック構造や、一般式(9)で表される構造単位が連続したブロックと一般式(10)で表される構造単位が連続したブロック構造とが結合した形態であってもよく、一般式(9)で表される構造単位と一般式(10)で表される構造単位が交互に結合していてもよい。
【0102】
一般式(9)におけるXは−S(=O)−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。ZはOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
【0103】
一般式(9)におけるR19は炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリール基、直接結合のいずれかを表すが、アルキレン基であるとプロトン伝導性が向上するため好ましい。また、スルホン酸基とベンゼン環が直接結合している直接結合であると、熱やラジカルなどに対するスルホン酸基の安定性が高まり、プロトン伝導性にも優れるため、より好ましい。アルキレン基は、分岐を有するものよりも、直鎖のものが好ましい。アルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、n−プロピレン基、n−ブチレン基が好ましい。オキシアルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、オキシ−n−プロピレン基、オキシ−n−ブチレン基が好ましい。アリール基としては、オキシフェニレン基、フェニレン基、などを挙げることができる。
【0104】
一般式(9)における、下記一般式(11);
【0105】
【化33】

【0106】
で表される部分構造の具体例を以下に示すが、これらに限定されるわけではなく、スルホン酸基の一部及び全部が1価の陽イオンを形成しているものも含む。下記の部分構造のうち、化学式11A、11B、11C、及び11Dがより好ましく、化学式11A及び化学式11Bがさらに好ましい。
【0107】
【化34】

【0108】
一般式(9)及び(10)におけるR20及びR21は、それぞれ独立して、硫黄原子又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数が2〜20である、アルキレン基、アラルキル基、芳香族基からなる群より選ばれる1種以上の基である。R20及びR21の例としては、ベンゼン環、ピリジン環などの芳香環、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環芳香族基や、芳香族基が、直接結合、脂肪族基、スルホン基、エーテル基、スルフィド基、パーフルオロアルキル基及び芳香族基を含む脂肪族基で複数連結した基や、脂肪族基や、芳香族基を含む脂肪族基などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。一般式(9)及び(10)におけるR20及びR21は、複数の構造からなっていてもよい。
【0109】
一般式(9)及び(10)におけるR20及びR21の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0110】
【化35】

【0111】
【化36】

【0112】
【化37】

【0113】
一般式(9)及び(10)におけるR20及びR21の例として記した上記の構造の中でも、化学式12E、12AVの構造単位は、高分子電解質膜の膨潤を抑制するため好ましい。また、化学式12F、12G、12N、12O、12U、12Yなどの構造は高分子電解質膜の軟化温度を低下させるため電極触媒層との接合性が向上し好ましい。化学式12AX、12AYで表される構造も高分子電解質膜の軟化温度を低下させるため電極触媒層との接合性が向上し好ましい。さらに化学式12AY〜12BNで表される構造は、電極触媒層との接合性が向上すると共に耐久性を向上させるため好ましい、また、化学式12AO、12AI、12AN、12AQ、12Xで表される構造は、メタノール透過性を抑制するため好ましい。また、化学式12I、12J、12Kで表される構造は、燃料電池におけるフラディングを抑制するため好ましい。また、化学式12BOで表される構造は、高分子電解質膜の耐久性を向上させるため好ましい。なお、R20及びR21が化学式12AY〜12BNで表される構造の場合は、一般式(9)及び(10)におけるZ及びZ’が硫黄原子であることが好ましい。化学式12Nにおけるoは2〜10の整数を表す。
【0114】
一般式(9)及び(10)におけるR20及びR21は複数の基から構成されていてもよいが、好ましい組み合わせとしては、化学式12Eで表される構造と、化学式12F、12G、12N、12O、12U、12Y、12AX、12AY、12AY〜12BNで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせ、化学式12F、12G、12N、12O、12U、12Yで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造と、12AY〜12BNで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせ、化学式12AO、12AI、12AN、12AQ、12Xで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造と、及び、12AY〜12BNで表される構造から群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせが好ましい。また、前記の好ましい構造、及び好ましい構造の組み合わせに、化学式12I、12J、12Kをさらに組み合わせることによってフラッディング抑制効果を、化学式12BOで表される構造をさらに組み合わせることによって耐久性向上効果を、それぞれ得ることができる。
【0115】
一般式(10)におけるArは、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0116】
一般式(10)におけるArの構造の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0117】
【化38】

【0118】
一般式(10)におけるArの好ましい構造は、化学式13A〜13Dで表される構造であり、中でも化学式13C及び13Dで表される構造がより好ましく、さらに化学式13Dで表される構造が好ましい。化学式13Aの構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式13Bの構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式13C又は13Dの構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式13Dの構造がより好ましい。一般式(10)におけるArは、複数の構造からなっていてもよく、複数の構造から構成される場合には、化学式13A〜13Dからなる群より選ばれる2種以上の構造や、化学式13A〜13Dからなる群より選ばれる1種以上の構造と化学式13E〜13Pからなる群より選ばれる1種以上の構造の組み合わせが好ましい。
【0119】
本発明における高分子電解質を構成するポリマーは、例えば、電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物からなる群より選ばれる2種以上の化合物と、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、アルキルジチオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを、塩基性化合物の存在下、加熱することによって芳香族求核置換反応により重合することができる。
【0120】
電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物のうち、イオン性基を有するものとしては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(ブチルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ビス(フェニルスルホン酸)カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができ、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジケトン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジケトン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンが好ましく、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンがより好ましい。
【0121】
イオン性基を含有しない、活性化芳香族ジハロゲン化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジクロロビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)−p−ターフェニル、等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。中でも好ましいのは、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリルであり、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリルがさらに好ましい。
【0122】
ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4−ヘキシルレゾルシノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド、4,4’−ビフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4−エチルレゾルシノール、4−ヘキシルレゾルシノール、2−ヘキシルハイドロキノン、2−オクチルハイドロキノン、2−オクダデシルハイドロキノン、2−ターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーアミルハイドロキノン、2,2’−ジヘキシル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1−オクチル−2,6−ジヒドロキシナフタレン、2−ヘキシル−1,5−ジヒドロキシナフタレン、などが挙げられるがこれらに限定されることなく、上記の電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物と反応し得る化合物であれば用いることができる。
【0123】
アルキルジチオール化合物の例としては、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,11−ウンデカンジチオール、1,12−ドデカンジチオール、1,13−トリデカンジチオール、1,14−テトラデカンジチオール、1,15−ペンタデカンジチオール、1,16−ヘキサデカンジチオール、1,17−ヘプタデカンジチオール、1,18−オクタデカンジチオール、1,19−ノナデカンジチオール、1,20−イコサンジチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、3,7−ジチア−1,9−ノナンジチオール、3−チア−1,5−ペンタンジチオール、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されることなく、上記の電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物と反応し得る化合物であれば用いることができる。
【0124】
本発明に用いる高分子電解質を芳香族求核置換反応により重合する場合、活性化芳香族ジハロゲン化合物及び活性化ジニトロ芳香族化合物からなる群より選ばれる2種以上の化合物と、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物及びアルキルジチオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を加えて、塩基性化合物の存在下で加熱して反応させることで重合体を得ることができる。モノマー中の、反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基又はメルカプト基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1であり、0.95〜1.05であるとさらに好ましく、1であると最も高重合度のポリマーを得ることができる。
【0125】
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0126】
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、及びアルキルジチオール化合物を、フェニルイソシアネートなどのイソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
【0127】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造にし得るものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物及びアルキルジチオール化合物の、水酸基及びメルカプチト基に対して、アルカリ金属として100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくは、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、及びアルキルジチオール化合物の、水酸基及びメルカプチト基に対して、アルカリ金属として105〜125モル%の範囲である。塩基性化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
【0128】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
【0129】
また、本発明の高分子電解質膜に用いる高分子電解質は、後で述べる方法により測定した対数粘度が0.1dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dL/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、0.3dL/g以上であることがさらに好ましい。一方、対数粘度が5dL/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0130】
本発明において、高分子電解質を構成するポリマーが、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる1種以上の原子が両端に結合したフェニレン基を有していると、前記フェノール性水酸基を有する重合体との混和性が向上するため好ましい。このような構造は、原料に、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドなどの化合物を用いることでポリマーに導入することができる。
【0131】
本発明の高分子電解質膜は任意の厚みにすることができるが、10μm未満であると所定の特性を満たすことが困難になることがあるので10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、300μmを超えると製造が困難になることがあるため、300μm以下であることが好ましい。
【0132】
本発明の高分子電解質膜は、その他のポリマーを含んでいてもよい。そのようなポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。本発明の高分子電解質膜には、プロトン伝導性ポリマーが全体の50重量%以上100重量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70重量%以上100重量%未満である。50重量%未満の場合には、高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の高分子電解質膜は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0133】
本発明における好ましい第三の態様は、20℃、相対湿度65%の雰囲気下における5mol/Lメタノール水溶液に対する両面の接触角の平均値が65°以上であり、電解質として炭化水素系高分子電解質を有する高分子電解質膜である。メタノール水溶液に対する接触角が大きい炭化水素系電解質膜であると、メタノール透過を抑制することが可能になる。接触角が大きい高分子電解質膜を得る方法としては、例えば、本発明のおける好ましい第一及び第二の態様のように、特定のフェノール化合物の重合体、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂と、炭化水素系高分子電解質、特に芳香族系炭化水素系高分子電解質とを混合して膜にすることを挙げることができる。ナフィオン(登録商標)に代表されるフッ素系高分子電解質膜では、膜内にイオンチャンネル構造を有するため、接触角が高くてもメタノール透過が大きくなる場合がある。炭化水素系高分子電解質膜においては、接触角を制御することによってメタノール透過性を抑制することができる。製膜の方法によっては、面によって接触角が異なる場合がある。例えば、ガラスなどの基板に高分子電解質膜溶液をキャストして乾燥して製膜した場合などである。このような場合は、両面の接触角の差ができるだけ小さく、なおかつそれらの平均値が高いことが好ましい。
【0134】
本発明の高分子電解質膜は、1種以上の高分子電解質と、前記の特定のフェノール化合物の重合体、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂、及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂とを含む組成物から、押し出し、圧延又はキャストなど任意の方法で成形することで得ることができる。組成物としては、溶媒を含む溶液組成物が好ましい。溶液組成物からは、公知の任意の方法を用いて溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。例えば、加熱、減圧乾燥、高分子電解質膜及び前記樹脂の非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去することができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥を用いることが好ましい。前記溶液組成物は必要に応じて他の化合物を含んでいてもよい。溶解挙動が類似する化合物は、良好な成形ができる点で好ましい。得られた高分子電解質膜のスルホン酸基は陽イオン種と塩を形成していても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することができる。
【0135】
前記の溶液組成物は、例えば、高分子電解質を溶解することができる溶媒や、高分子電解質の溶液に混和することができる溶媒に対して、前記の特定のフェノール化合物重合体、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を溶解して得られた溶液と、高分子電解質溶液を混合することによって得ることができる。また、高分子電解質と、前記の特定のフェノール化合物重合体、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を同一の溶媒に同時に溶解することによっても得ることができる。ただし、溶液組成物を得る方法は、これらの方法に限定されるものではない。高分子電解質を含む溶液を混合するには、スターラー、攪拌翼、ミキサー、押し出し機などを用いることができ、混合する際に、溶媒の沸点以下の温度で加熱してもよい。高分子電解質の溶液に混和することのできる溶媒としては、水、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0136】
本発明の高分子電解質膜を製造するための溶液組成物に用いることのできる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0137】
溶液組成物における高分子電解質の濃度は0.1〜50重量%の範囲が好ましく、5■50重量%の範囲にあることがより好ましく、10〜40重量%の範囲がさらに好ましい。
【0138】
本発明の高分子電解質膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液組成物からのキャストであり、キャストした溶液組成物から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液組成物の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液組成物の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液組成物の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液組成物の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な膜ができやすくなる傾向にある。溶液組成物のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液組成物は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液組成物を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。加工において、加熱を伴う場合、プロトン伝導性ポリマー中のスルホン酸基がカチオンと塩を形成していると、安定性が向上するため好ましい。ただし、高分子電解質膜として使用するためには、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことが効果的である。
【0139】
本発明の膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極触媒層と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法、高分子電解質膜と、予め電極に触媒を含むペーストを塗布して作製しておいた電極触媒層とを加熱加圧する方法、別のシートに作製した触媒層を高分子電解質膜に転写した後、電極を取り付ける方法、高分子電解質膜の表面に触媒及び導電性粒子などを含む分散液を、スプレー、印刷などでコートしてから電極を接合する方法等があるが、これらに限定されるものではない。接着剤としては、ナフィオン(商品名)溶液など公知のものを用いてもよいし、本発明における高分子電解質を構成するポリマーと同種のポリマー組成物を主成分としたものを用いてもよいし、他の炭化水素系プロトン伝導性ポリマーを主成分とするものを用いてもよい。電極反応に必要な白金、白金―ルテニウム合金などの触媒は、カーボンなどの導電性粒子に坦持させたものを、上記接着剤中に分散させておくことで、電極触媒層を得ることができる。
【0140】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0141】
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池に適している。本発明の高分子電解質膜は、メタノールなどの液体燃料の透過性が小さいため、特にダイレクトメタノール燃料電池、ジメチルエーテル燃料電池、蟻酸燃料電池、ダイレクトエタノール型燃料電池などに適している。燃料の透過性が小さいので、透過した燃料による電圧低下が少なく高い出力が得られると共に、高濃度の燃料溶液を用いることができる。また、透過によって、無駄に消費される燃料が少なくなるので容量を向上させることができ、エネルギー効率を高めることができる。
【実施例】
【0142】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
<対数粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0143】
<プロトン伝導性>
自作測定用プローブ(テトラフルオロエチレン樹脂製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、25℃の純水中に幅1cmの試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を0.5cm間隔で変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
【0144】
<接触角の測定>
高分子電解質膜を1×5cmに切り出し、スライドガラス上にテープで固定し、協和界面科学株式会社製 接触角計 CA−X型を用いて、20℃、相対湿度60%の雰囲気下で、5mol/Lの濃度のメタノール水溶液(5Mメタノール水溶液)を滴下して1分後の接触角を、液滴の左右両端、及び頂点の位置から求めた。一つのサンプルにつき、製膜の際に基板に接していた面(基板面)、及び反対側の面(空気面)それぞれについて3点づつ測定し、その平均値を値として用いた。
【0145】
<ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の発電評価>
Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業社製 TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業社製 TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施した東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により165℃、8MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜−電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込み、燃料電池発電試験機(株式会社東陽テクニカ製)を用いて発電試験を行った。発電は、セル温度40℃で、アノードに40℃に調整した5mol/Lのメタノール水溶液(1.5ml/min)を、カソードに40℃に調整した高純度空気ガス(80ml/min)を、それぞれ供給しながら電流密度を変えて出力電圧を測定した。
【0146】
<イオン交換容量>
110℃で1時間乾燥し、窒素雰囲気下室温で一晩放置した試料の重量をはかり、水酸化ナトリウム水溶液と撹拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定でイオン交換容量を求めた。
<メタノール透過速度>
高分子電解質膜の液体燃料透過速度はメタノールの透過速度として、以下の方法で測定した。20℃に調整した5M(モル/リットル)のメタノール水溶液に24時間浸漬した高分子電解質膜をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5Mメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水(18MΩ・cm)を注入し、20℃で両側のセルを撹拌しながら、高分子電解質膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量を、ガスクロマトグラフで測定することで算出した(高分子電解質膜の面積は、2.0cm)。
<メタノール透過係数>
上記の方法で測定したメタノール透過速度と膜厚から以下の式により求めた。
メタノール透過係数[μmol・m−1・sec−1
=メタノール透過速度[mmol・m−2・sec−1]×膜厚[μm]×1000
【0147】
<フェノールアラルキル樹脂の合成>
<合成例1>
攪拌機、温度計、窒素導入管、排出口、及び滴下漏斗を備えた500mLの四つ口ガラスフラスコに、p−クレゾール100.0gとクロロベンゼン100.0g、及び47%三フッ化ホウ素エーテラート(BF・(CO)0.5部を投入し、内温を35℃に保ちながら、4−クロロメチルスチレン155.0g、p−クレゾール11.0g、及びクロロベンゼン166.0gの混合物を、攪拌しながら3時間かけて滴下した。その後、35℃で12時間反応させ、ビニル基の消失をIRスペクトルで確認した。その後、窒素をフラスコ内に導入し、排出ガスは10M水酸化ナトリウム水溶液を通した。その後、0.1gの塩化亜鉛を加えて、内温を80℃にし8時間反応させた。発生した塩化水素ガスは水酸化ナトリウム水溶液で回収した。反応生成物を、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で2回、水で5回洗浄した後、減圧下でクロロベンゼンを蒸留して除去し、メタノールで5回洗浄した。その後、50℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は25000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14A)に示す。化学式(14A)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0045mol/gであった。
また、合成例1で得られたポリマー10gにメタノール90gを加え、ガラス容器中25℃で3日間攪拌したが、合成例1で得られたポリマーは溶解しなかった。濾過してポリマーを分離したメタノールを蒸発乾固させたが固形分の存在は認められなかった。すなわち、合成例1で得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。
【0148】
【化39】

【0149】
<合成例2>
p−クレゾール100.0gの代わりに、フェノール87.0g、p−クレゾール11.0gの代わりにフェノール9.6gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は30000であり、構造を化学式(14B)に示す。化学式(14B)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定した、樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0050mol/gであった。
【0150】
【化40】

【0151】
<合成例3>
p−クレゾール100.0gの代わりに、2−ナフトール133.3g、p−クレゾール11.0gの代わりに2−ナフトール14.7gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は20000であり、構造を化学式(14C)に示す。化学式(14C)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定した、樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0040mol/gであった。
【0152】
【化41】

【0153】
<合成例4>
p−クレゾール100.0gの代わりに、1,5−ジヒドロキシナフタレン148.1g、p−クレゾール11.0gの代わりに1,5−ジヒドロキシナフタレン16.3gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は20000であり、構造を化学式(14D)に示す。は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0081mol/gであった。
【0154】
【化42】

【0155】
<合成例5>
p−クレゾール100.0gの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン211.1g、p−クレゾール11.0gの代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン23.2gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は31000であり、構造を化学式(14E)に示す。化学式(14E)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定した、樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0063mol/gであった。
【0156】
【化43】

【0157】
<合成例6>
p−クレゾール100.0gの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン310.9g、p−クレゾール11.0gの代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン34.2gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は29000であり、構造を化学式(14F)に示す。化学式(14F)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定した、樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0045mol/gであった。
【0158】
【化44】

【0159】
<合成例7>
p−クレゾール100.0gの代わりに、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン231.4g、p−クレゾール11.0gの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン25.5gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は29000であり、構造を化学式(14G)に示す。化学式(14G)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定した、樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0055mol/gであった。
【0160】
【化45】

【0161】
<合成例8>
p−クレゾール100.0gの代わりに、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン248.2g、p−クレゾール11.0gの代わりに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン27.3gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は29000であり、構造を化学式(14H)に示す。化学式(14H)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0053mol/gであった。
【0162】
【化46】

【0163】
<合成例9>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管、及び滴下漏斗を備えた1000mLの四つ口ガラスフラスコに、フェノール100.0gと塩化アルミニウム0.5gを入れ、内温が90℃になるようにした。内温を130℃に保って攪拌しながら、ジビニルベンゼン(p−ジビニルベンゼンとm−ジビニルベンゼンの混合物)を3時間かけて滴下し、その後、3時間反応させた。得られた反応生成物は200gのメチルエチルケトンに溶解し、水で再沈し、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で2回、水で5回洗浄した後、25℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は22000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14I)に示す。化学式(14I)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法で測定による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0047mol/gであった。
【0164】
【化47】

【0165】
<合成例10>
フェノール100.0gの代わりに、4,4’−ビフェノール242.6g及びシクロヘキサノン200.0gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は33000であり、構造を化学式(14J)に示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0065mol/gであった。
【0166】
【化48】

【0167】
<合成例11>
フェノール100.0gの代わりに、4,4’−チオビスフェノール231.9g及びシクロヘキサノン200.0gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は30000であり、構造を化学式(14K)に示す。化学式(14K)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0060mol/gであった。
【0168】
【化49】

【0169】
<合成例12>
フェノール100.0gの代わりに、4,4’−オキシビスフェノール214.9g及びシクロヘキサノン200.0gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は34000であり、構造を化学式(14L)に示す。化学式(14L)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0064mol/gであった。
【0170】
【化50】

【0171】
<合成例13>
フェノール100.0gの代わりに、4−フェノキシフェノール197.9g及びシクロヘキサノン200.0gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は28000であり、構造を化学式(14M)に示す。化学式(14M)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0065mol/gであった。
【0172】
【化51】

【0173】
<合成例14>
フェノール100.0gの代わりに、4−フェニルフェノール197.9g及びシクロヘキサノン200.0gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は27000であり、構造を化学式(14N)に示す。化学式(14N)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0035mol/gであった。
【0174】
【化52】

【0175】
<合成例15>
フェノール100.0gの代わりに、p−クレゾール114.9gを用いた他は、合成例9と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は33000であり、構造を化学式(14O)に示す。化学式(14O)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0042mol/gであった。
【0176】
【化53】

【0177】
<合成例16>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管、ディーンスタークトラップ、及び滴下漏斗を備えた1000mLの四つ口ガラスフラスコに、フェノール100.0g、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン180.0g、及びp−トルエンスルホン酸一水和物0.5gを入れ、攪拌しながら内温が140℃になるようにし、窒素を導入して水をトラップから除去しながら5時間反応させた。得られた反応生成物は200gのメチルエチルケトンに溶解し、水で再沈し、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で2回、水で5回洗浄した後、25℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は12000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14P)に示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0042mol/gであった。
【0178】
【化54】

【0179】
<合成例17>
フェノール100.0gの代わりに、p−クレゾール114.9gを用い、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン180.0gの代わりに4,4’−ビス(メトキシメチル)ビフェニル204.9gを用いた他は、合成例14と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は13000であり、構造を化学式(14Q)に示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0035mol/gであった。
【0180】
【化55】

【0181】
<合成例18>
攪拌機、温度計、窒素導入管、排気口、ディーンスタークトラップ、及び滴下漏斗を備えた1000mLの四つ口ガラスフラスコに、p−クレゾール100.0g、4,4’−ビス(クロロメチルメチル)ビフェニル209.0g、クロロベンゼン200g、及び塩化アルミニウム1.0gを入れ、攪拌しながら内温が80℃になるようにし、窒素を導入して水をトラップから除去しながら8時間反応させた。発生した塩化水素ガスは水酸化ナトリウム水溶液で回収した。反応終了後、クロロベンゼンを減圧蒸留で除去した。得られた反応生成物は、メタノールで4回洗浄した後、200gのメチルエチルケトンに溶解し、水で再沈し、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で2回、水で5回洗浄した後、25℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は14000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造は合成例17と同じく化学式(14Q)で表されるものであった。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0036mol/gであった。
【0182】
<合成例19>
4,4’−ビス(クロロメチルメチル)ビフェニル209.0gの代わりに、9.10−ビス(クロロメチル)アントラセン224.5gを用いた他は、合成例18と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は13000であり、構造を化学式(14R)に示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0032mol/gであった。
【0183】
【化56】

【0184】
<合成例20>
p−クレゾール100.0gの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)プロパン263.0g、p−クレゾール11.0gの代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)プロパン28.9gを用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。ポリマーの重量平均分子量は9000であり、構造を化学式(14S)に示す。化学式(14S)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0051mol/gであった。
【0185】
【化57】

【0186】
<フェノールシクロアルキル樹脂の合成>
<合成例21>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管、及び滴下漏斗を備えた500mLの四つ口ガラスフラスコに、p−クレゾール100.0gとクロロベンゼン100.0g、及び47%三フッ化ホウ素エーテラート(BF・(CO)0.5部を投入し、内温を25℃に保ちながら、ジシクロペンタジエン134.3g、p−クレゾール11.0g、及びクロロベンゼン166.0gの混合物を、攪拌しながら3時間かけて滴下した。その後、60℃で12時間反応させ、ビニル基の消失をIRスペクトルで確認した。反応生成物を、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で2回、水で5回洗浄した後、減圧下でクロロベンゼンを蒸留して除去し、200gのメチルエチルケトンに溶解した後、水で再沈し、水で5回洗浄した後、30℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は8000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14T)に示す。化学式(14T)は、記載された二種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0040mol/gであった。
【0187】
【化58】

【0188】
<高分子電解質の合成>
<合成例22>
3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS) 35.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN) 49.02g、4,4’−ビフェノール(略号:BP) 16.58g、4,4’−チオビスフェノール(略号:BPS) 58.32g、炭酸カリウム 54.16g、N−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP) 440.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 20gを、攪拌翼、窒素導入管、還流冷却管を取り付けた1000ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。攪拌しながら加熱を行い、反応溶液の温度が190〜200℃になるようにオイルバスで加熱し、0.5L/分の窒素を流して還流した状態で16時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を水中に注いでストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で2回、室温の純水で6回洗浄した後、120℃で乾燥した。ポリマーの対数粘度は1.21dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Aに示す。
【0189】
【化59】

[化学式(15A)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0190】
<合成例23>
S−DCBPS 40.00g、DCBN 44.35g、BP 31.59g、BPS 37.03g、炭酸カリウム 51.58g、NMP 420.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.18dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Bに示す。
【0191】
【化60】

[化学式(15B)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0192】
<合成例24>
S−DCBPS 45.00g、DCBN 40.52g、BP 30.46g、BPS 35.70g、炭酸カリウム 49.74g、NMP 420.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.16dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Cに示す。
【0193】
【化61】

[化学式(15C)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0194】
<合成例25>
S−DCBPS 40.00g、DCBN 46.89g、BP 65.92g、炭酸カリウム 53.82g、NMP 480.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.48dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Dに示す。
【0195】
【化62】

[化学式(15D)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0196】
<合成例26>
S−DCBPS 40.00g、DCBN 56.02g、BP 37.91g、1,6−ヘキサンジチオール(略号:HDT) 30.60g、炭酸カリウム 61.90g、NMP 400.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、反応温度を200〜203℃になるようにした他は合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は0.72dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Eに示す。
【0197】
【化63】

[化学式(15E)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0198】
<合成例27>
3,3−ジスルホン酸ナトリウム−4,4−ジクロロベンゾフェノン(略号:S−DCBP) S−DCBPS 30.00g、DCBN 45.35g、BP 15.34g、BPS 53.94g、炭酸カリウム 50.10g、NMP 410.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.21dL/gであった。得られたポリマーの構造はNMR法及びIR法で確認した。構造式を化学式15Fに示す。
【0199】
【化64】

[化学式(15F)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0200】
<アルキルフェノール樹脂の合成>
<合成例28>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管、ディーンスタークトラップ及び滴下漏斗を備えた500mLの四つ口ガラスフラスコに、p−クレゾール114.9gと37%ホルムアルデヒド溶液81.9g、トルエンスルホン酸一水和物0.5gを入れ、水を除去しながら110℃で8時間反応させた。その後、水で2回洗浄した後、減圧濃縮し、メチルエチルケトンに溶解した後、水で再沈した。その後、30℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は12000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14U)に示す。また、合成例28で得られたポリマー10gにメタノール90gを加え、ガラス容器中25℃で3日間攪拌したが、合成例1で得られたポリマーは溶解しなかった。濾過してポリマーを分離したメタノールを蒸発乾固させたが固形分の存在は認められなかった。すなわち、合成例28で得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0087mol/gであった。
【0201】
【化65】

【0202】
<合成例29>
4−クロロメチルスチレンの代わりに、3−クロロメチルスチレンと4−クロロメチルスチレンの等モル混合物を用いた他は、合成例1と同様にして黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は23000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(14V)に示す。化学式(14V)は、記載された四種類の構造単位からポリマーが構成されていることを示す。また、合成例29で得られたポリマー10gにメタノール90gを加え、ガラス容器中25℃で3日間攪拌したが、合成例29で得られたポリマーは溶解しなかった。濾過してポリマーを分離したメタノールを蒸発乾固させたが固形分の存在は認められなかった。すなわち、合成例29で得られたポリマーは25℃のメタノールに対して不溶であり、溶解度は1重量%以下であった。また、得られたポリマー2gを、8gのN−メチル−2−ピロリドン中で25℃で混合したところ、透明で均一な薄褐色の溶液が得られ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1%以上であることが確認できた。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0045mol/gであった。
【0203】
【化66】

【0204】
<本発明の範囲外のフェノール樹脂の合成>
<比較合成例1>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管、ディーンスタークトラップ及び滴下漏斗を備えた500mLの四つ口ガラスフラスコに、フェノール100.0gと37%ホルムアルデヒド溶液81.9g、トルエンスルホン酸一水和物0.5gを入れ、水を除去しながら110℃で8時間反応させた。その後、水で2回洗浄した後、減圧濃縮し、メチルエチルケトンに溶解した後、水で再沈した。その後、30℃で減圧乾燥して黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は12000であった。NMR法及びIR法で確認したポリマーの構造を化学式(16A)に示す。なお、得られたポリマー10gは25℃のメタノール90gに対して溶解し、溶解度は10重量%以上であった。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0100mol/gであった。
【0205】
【化67】

【0206】
<比較合成例2>
フェノール100.0gの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン242.6gを用いた他は、比較合成例と同様にして黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は11000であった。ポリマーの構造を化学式(16B)に示す。なお、得られたポリマー10gは25℃のメタノール90gに対して溶解し、溶解度は10重量%以上であった。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0090mol/gであった。
【0207】
【化68】

【0208】
<比較合成例3>
フェノール100.0gの代わりに、4,4’−ビフェノール197.9gを用いた他は、比較合成例と同様にして黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は9000であった。ポリマーの構造を化学式(16C)に示す。なお、得られたポリマー10gは25℃のメタノール90gに対して溶解し、溶解度は10重量%以上であった。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0104mol/gであった。
【0209】
【化69】

【0210】
<比較合成例4>
フェノール100.0gの代わりに、2−ナフトール153.2gを用いた他は、比較合成例と同様にして黄白色のポリマーを得た。GPC法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は14000であった。ポリマーの構造を化学式(16D)に示す。なお、得られたポリマー10gは25℃のメタノール90gに対して溶解し、溶解度は10重量%以上であった。なお、無水酢酸法による樹脂中のフェノール性水酸基含有量は、0.0064mol/gであった。
【0211】
【化70】

【0212】
<比較例の高分子電解質の合成>
<比較合成例5>
S−DCBPS 30.00g、DCBN 47.85g、BP 15.79g、BPS 55.54g、炭酸カリウム 51.58g、NMP 410.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.29dL/gであった。得られたポリマーの構造式を化学式17Aに示す。
【0213】
【化71】

[化学式(17A)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0214】
<比較合成例6>
S−DCBPS 25.00g、DCBN 49.60g、BP 15.79g、BPS 55.54g、炭酸カリウム 51.58g、NMP 400.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.33dL/gであった。得られたポリマーの構造式を化学式17Bに示す。
【0215】
【化72】

[化学式(17B)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0216】
<比較合成例7>
S−DCBPS 33.00g、DCBN 49.26g、BP 16.46g、BPS 57.88g、炭酸カリウム 53.75g、NMP 430.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.21dL/gであった。得られたポリマーの構造式を化学式17Cに示す。
【0217】
【化73】

[化学式(17C)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0218】
<比較合成例8>
S−DCBPS 28.00g、DCBN 51.47g、BP 66.33g、炭酸カリウム 54.16g、NMP 460.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.51dL/gであった。得られたポリマーの構造を化学式17Dに示す。
【0219】
【化74】

[化学式(17D)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0220】
<比較合成例9>
S−DCBPS 35.00g、DCBN 64.34g、BP 41.46g、HDT 33.47g、炭酸カリウム 67.70g、NMP 420.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、反応温度を200〜203℃になるようにした他は合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は0.74dL/gであった。得られたポリマーの構造式を化学式17Eに示す。
【0221】
【化75】

[化学式(17E)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0222】
<比較合成例10>
S−DCBP 28.00g、DCBN 58.78g、BP 15.91g、BPS 55.94g、炭酸カリウム 51.95g、NMP 440.00g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 25gを用い、合成例22と同様の操作を行い、ポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は1.15dL/gであった。得られたポリマーの構造式を化学式17Fに示す。
【0223】
【化76】

[化学式(17F)においてYはNaイオン又はKイオンを、()の右横の数字は各構成単位のモル比を、それぞれ表す。]
【0224】
化学式(15A)〜(15F)、及び化学式(17A)〜(17F)において、[]内の()で囲まれた1種以上の構造単位のいずれかと、別の[]内の()で囲まれた1種以上の構造単位のいずれかとが、結合していることを表す。
【0225】
<実施例1>
合成例22で得られたポリマー 9g、合成例1で得られたポリマー1g、NMP 30gを100mLのガラスフラスコに投入し、窒素雰囲気下、60℃で12時間攪拌した。得られた溶液を、ホットプレート上に置いたガラス板に約400μm厚にキャストして80℃で0.5時間、120℃で0.5時間、150℃で0.5時間加熱した後、窒素雰囲気の150℃のオーブン中で1時間乾燥し、ガラス板からフィルムを剥離した。得られたフィルムは室温の純水に1日浸漬した後、2mol/Lの硫酸水溶液に1時間ずつ2回浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、表面に付着した水をろ紙で除いた後、新たなろ紙で両面を挟み、さらにガラス板で両面を挟み、上面から3kgの荷重をかけて23℃で相対湿度50%の室内に2日間放置して乾燥して、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。得られた高分子電解質膜の5Mメタノールに対する接触角は、基板面側が69.0°、空気面側が75.6°であり、平均すると72.3°であった。
【0226】
<実施例2〜21>
合成例1で得られたポリマーの代わりに、それぞれ合成例2〜21で得られたポリマーを用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
【0227】
<実施例22>
合成例22で得られたポリマーの量を8gに、合成例1で得られたポリマーの量を2gにした他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。得られた高分子電解質膜の5Mメタノールに対する接触角は、基板面側が62.4°、空気面側が69.2°であり、平均すると65.2°であった。
<実施例23>
合成例22で得られたポリマーの量を9.25gに、合成例1で得られたポリマーの量を0.75gにした他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
【0228】
<実施例24>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例23で得られたポリマーを用いた他は、実施例22と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例25>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例24で得られたポリマーを用いた他は、実施例22と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例26>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例25で得られたポリマーを用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例27>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例26で得られたポリマーを用いた他は、実施例22と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例28>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例27で得られたポリマーを用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例29>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例28で得られたポリマーを用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
<実施例30>
合成例22で得られたポリマーの代わりに、合成例29で得られたポリマーを用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し評価した。
【0229】
<比較例1>
比較合成例6で得られたポリマー 10g、NMP 30gを100mLのガラスフラスコに投入し、窒素雰囲気下、60℃で12時間攪拌した。得られた溶液を、ホットプレート上に置いたガラス板に約400μm厚にキャストして80℃で0.5時間、120℃で0.5時間、150℃で0.5時間加熱した後、窒素雰囲気の150℃のオーブン中で1時間乾燥し、ガラス板からフィルムを剥離した。得られたフィルムは室温の純水に1日浸漬した後、2mol/Lの硫酸水溶液に1時間ずつ2回浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、表面に付着した水をろ紙で除いた後、新たなろ紙で両面を挟み、さらにガラス板で両面を挟み、上面から3kgの荷重をかけて23℃で相対湿度50%の室内に2日間放置して乾燥して、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0230】
<比較例2〜6>
比較合成例6で得られたポリマーの代わりに、比較合成例6〜10で得られたポリマーをそれぞれ用いた他は、比較例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価した。
【0231】
<比較例7〜10>
合成例1で得られたポリマーの代わりに、比較合成例1〜4で得られたポリマーをそれぞれ用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価した。
【0232】
<比較例11>
合成例1で得られたポリマーの代わりに、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)(平均分子量8000)を用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価した。なお、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)10gは25℃のメタノール90gに対して溶解し、溶解度は10重量%以上であった。
【0233】
<比較例12>
合成例1で得られたポリマーの代わりに、フェノール性水酸基を有するフェノール系酸化防止剤であるイルガノックス(商品名)1010(チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)を用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価した。なお、イルガノックス(商品名)1010の2gは25℃のメタノール98gに対して溶解し、溶解度は2重量%以上であった。
【0234】
<比較例13>
合成例1で得られたポリマーの代わりに、キシレン樹脂(平均分子量10000)を用いた他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を試みたが、厚みむらや欠点が多発したため高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0235】
<比較例14>
市販のパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜である高分子電解質膜(商品名:ナフィオン117)について評価を行った。
【0236】
<比較例15>
比較合成例6で得られたポリマーの代わりに、合成例22で得られたポリマーを用いた他は比較例1と同様にして高分子電解質膜を作製した。得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.03meq/gであった。得られた高分子電解質膜の、5Mメタノールに対する接触角は、基板面側が62.9°、空気面側が65.5°であり、平均すると63.7°だった。
【0237】
実施例及び比較例の高分子電解質膜について、イオン交換容量、プロトン伝導性、メタノール透過性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0238】
【表1】

【0239】
【表2】

表1及び2において、NMPはN−メチル−2−ピロリドンを表す。
【0240】
実施例1で得られた高分子電解質膜、及び、イオン交換容量と膜抵抗が同等である比較例1の膜について発電評価を行った。電流密度に対する出力電圧のプロットを図1に、電流密度に対する出力(電力密度)のプロットを図2に示す。
【0241】
本発明の好ましい第一の態様である、25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である、フェノール性水酸基含有樹脂からなる群より選ばれる1種以上を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜である高分子電解質膜は、優れたメタノール透過阻止性を有することが、実施例と比較例の比較から分かる。特に比較例7〜10のようにメタノールに溶解するフェノール樹脂や、比較例11及び12のようにフェノール性水酸基を有するもののメタノールに可溶である化合物を含む高分子電解質膜では、メタノール透過性は抑制されておらず、本発明の優位性は明らかである。
【0242】
本発明の好ましい第二の態様である、フェノールアラルキル樹脂又はフェノールシクロアルキル樹脂を含む高分子電解質膜は、フェノールアラルキル樹脂又はフェノールシクロアルキル樹脂を含まない高分子電解質膜や、フェノールアラルキル樹脂又はフェノールシクロアルキル樹脂以外の化合物を含む高分子電解質膜よりも優れた特性を示している。例えば、表1及び2によれば、実施例1とイオン交換容量とプロトン伝導性が同等である比較例1とを比較すると、実施例1の高分子電解質膜は比較例1の高分子電解質膜に比べ、メタノール透過係数が著しく低下していることが分かる。これらの膜の膜/電極接合体を作製し、ダイレクトメタノール型燃料電池としての評価を行った結果を示した図1から、実施例1の高分子電解質膜のほうが約20%高い電圧が得られていることが分かる。また、同様のことは、実施例24〜28と、それに対応する比較例2〜6の比較によっても明らかである。さらに実施例25に着目すると、メタノール透過性は比較例1と同等であるが、膜の抵抗は約1/2であり、出力の高い燃料電池を作製するために有用な高分子電解質膜であることが分かる。
【0243】
また、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂のいずれでもない、フェノール樹脂を含む比較例7〜10の高分子電解質膜は、実施例1の高分子電解質膜に比べて、メタノール透過の抑制効果がほとんどないことが明らかであり、フェノールアラルキル樹脂やアルキルフェノール樹脂やフェノールシクロアルキル樹脂が、メタノールの透過抑制に重要な効果を示していることが分かる。また、同じフェノール性水酸基を有する化合物としてポリ(4−ヒドロキシスチレン)を用いた比較例12の高分子電解質膜や、フェノール性水酸基を有するフェノール系酸化防止剤であるイルガノックス(商品名)1010を用いた比較例13の高分子電解質膜も、メタノール透過の抑制効果がほとんどないことが明らかである。また、フェノール性水酸基を有さないキシレン樹脂を用いた場合、良好な高分子電解質膜は得られなかったが、これは相溶性に問題があったためと推定している。これらのことから、本発明の高分子電解質膜において、フェノールアラルキル樹脂、アルキルフェノール樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂は、単にフェノール性水酸基を有することのみでメタノール透過を抑制しているのではなく、その特徴ある構造が、高分子電解質と組み合わせたときに、メタノール透過抑制に関して著しい効果を示すことは明らかである。
【0244】
さらに、アルキルフェノール樹脂である合成例28のクレゾールノボラック樹脂を添加した実施例29の高分子電解質膜は、比較合成例1のフェノール樹脂を添加した比較例1の高分子電解質膜に比べ、メタノール透過性が著しく抑制されていることが分かる。これは、合成例28のクレゾールノボラック樹脂がメタノールに対して不溶であるのに対し、比較合成例1のフェノール樹脂がメタノール可溶であることが影響しているためと推察される。これらのことから、フェノール性水酸基含有樹脂において、メタノールへの溶解性が、高分子電解質膜に添加したときのメタノール透過抑止性に大きく影響する要因であることが分かる。
【0245】
さらに、本発明の高分子電解質膜は、市販のパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーからなる高分子電解質膜に比べて、膜抵抗はわずかに高いが、メタノール透過性は極めて低く、ダイレクトメタノール燃料電池に用いるのに好適な高分子電解質膜であることが分かる。
【0246】
また、従来の技術のように高分子電解質の酸性基と水酸基が相互作用していないことは、イオン交換容量が同等である実施例1の高分子電解質膜と比較例15の高分子電解質膜との比較で明らかである。比較例15の高分子電解質膜は、合成例22の高分子電解質のみからなる高分子電解質膜である。実施例1の高分子電解質膜は、合成例22の高分子電解質9重量部に対して、合成例1のフェノールアラルキル樹脂を1重量部添加した高分子電解質膜である。すなわち、実施例1における高分子電解質の含有量は90重量%であることから、計算上のイオン交換容量は、1.03meq/g(比較例15の高分子電解質膜のイオン交換容量)の9割、すなわち0.93meq/gとなる。実施例1の高分子電解質膜のイオン交換容量は表1より0.92meq/gであるので、理論値と一致する。これは、高分子電解質のスルホン酸基が、水酸基と結合して消費されていないことを示している。また、実施例1の高分子電解質膜と同等のイオン交換容量で、フェノールアラルキル樹脂を含まない高分子電解質のみからなる高分子電解質膜である比較例1の高分子電解質膜は、実施例1の高分子電解質膜とプロトン伝導性が同等であることから、実施例1の高分子電解質膜において、スルホン酸基はフェノールアラルキル樹脂の影響を受けずにプロトン伝導性を示しており、相互作用がないことを示している。これは、高分子電解質とフェノールアラルキル樹脂やアルキルフェノール樹脂やフェノールシクロアルキル樹脂を混合して高分子電解質膜とする構成によるものである。さらに、本発明の高分子電解質膜の製造方法は、スルホン酸基が塩の状態でフェノールアラルキル樹脂やアルキルフェノール樹脂やフェノールシクロアルキル樹脂を混合するので、スルホン酸基との化学反応が起こることを防ぐので、より優れた製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明の高分子電解質膜は、膜抵抗を増大させずにメタノール透過性を著しく抑制できるため、ダイレクトメタノール燃料電池に用いてその出力を向上させたり、高濃度メタノールの使用を可能にしたりすることができる。さらに、本発明の高分子電解質膜は、メタノール以外にも、ジメチルエーテル、ギ酸などの液体を用いる燃料電池に特に好適に用いることができる。さらにまた、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜としても公知の任意の用途に用いることができ、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0248】
【図1】実施例1及び比較例1で得られた高分子電解質膜についての発電評価において、電流密度に対して出力電圧をプロットした(高分子電解質膜の出力特性を示す)図である。
【図2】実施例1及び比較例1で得られた高分子電解質膜についての発電評価において、電流密度に対して出力(電力密度)をプロットした(高分子電解質膜の出力特性を示す)図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上であるフェノール性水酸基含有樹脂の1種以上を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
フェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のフェノール性水酸基含有樹脂を、高分子電解質に対して2〜100重量%含有してなる膜であることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項3】
フェノールアラルキル樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する請求項2に記載の高分子電解質膜。
【化1】

[上記一般式(1)において、Arは下記一般式(2)〜(4)からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、mは0〜2の整数を、nは1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【化2】

[上記一般式(2)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p1は0〜4の整数を表す。上記一般式(3)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p2は0〜6の整数を表す。上記一般式(4)において、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Rは水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、p3は0〜3の整数を、p4は0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【化3】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【請求項4】
フェノールアラルキル樹脂が、下記一般式(6)で表される構造単位を有する請求項3に記載の高分子電解質膜。
【化4】

[上記一般式(6)において、R12は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R13は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R14は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n1は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【請求項5】
フェノールシクロアルキル樹脂が、下記一般式(7)で表される構造単位を有する請求項2に記載の高分子電解質膜。
【化5】

[上記一般式(7)において、R15は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、及び下記一般式(5)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはR16と一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R16は水素原子及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基、もしくはRと一体となった炭素数が3〜20の環状の炭化水素基を、R17は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を、m2は0〜2の整数を、n2は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【化6】

[上記一般式(5)において、Rは、ベンゼン環同士の直接結合、スルホニル基、スルホン基、カルボニル基、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、フェニレン基、シクロヘキシリデン基、ビス(イソプロピリデン)フェニル基、酸素原子、硫黄原子、ビス(オキシ)フェニル基、及びビス(チオ)フェニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R10は水素原子、水酸基、及び炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R11は水素原子、及び炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、qは0〜4の整数を、それぞれ表す。]
【請求項6】
フェノールシクロアルキル樹脂が、下記一般式(8)で表される構造単位を有する請求項5に記載の高分子電解質膜。
【化7】

[上記一般式(8)において、R18は水素原子及びメチル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、n3は1〜100000の整数を、それぞれ表す。]
【請求項7】
アルキルフェノール樹脂が、下記一般式(8’)で表される構造単位を有する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化8】

[上記一般式(8’)において、R18’は炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、R18”は、メチレン基、及び炭素数2〜10のアルキル基がからなる群より選ばれる1種以上の基を、n3’は1〜100000の整数を、n3”は1〜3の整数を、それぞれ表す。]
【請求項8】
フェノールアラルキル樹脂及びフェノールシクロアルキル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のフェノール性水酸基含有樹脂が、25℃におけるメタノールへの溶解度が10重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である請求項2に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質である請求項1〜8のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
炭化水素系高分子電解質が、芳香族系のポリマーから構成されてなる請求項9に記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
炭化水素系高分子電解質が、スルホン酸基を含有し、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン及びポリエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレンスルフィド系化合物及びポリアリーレン系化合物のいずれかを構成成分とし、かつ0.5〜3.0meq/gのイオン交換容量を有する請求項10に記載の高分子電解質膜。
【請求項12】
炭化水素系高分子電解質が、下記一般式(9)で表される構造単位の少なくとも1種と下記一般式(10)で表される構造単位の少なくとも1種とからなるポリマーの群より選ばれる1種以上のポリマーからなる請求項11に記載の高分子電解質膜。
【化9】

[一般式(9)及び(10)において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、R19は炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリール基及び直接結合(−SOY基の)のうちのいずれかを、R20及びR21は硫黄原子又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数が2〜20である、アルキレン基、アラルキル基、芳香族基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、Z又はZ’は酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、m4及びm5はそれぞれの構造単位のポリマー分子中のモル数で1〜1000の整数を表す。]
【請求項13】
20℃、相対湿度65%の雰囲気下における5mol/Lメタノール水溶液に対する両面の接触角の平均値が65°以上である請求項1〜12のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体。
【請求項15】
請求項14の膜/電極接合体を用いた燃料電池。
【請求項16】
酸性基を有する高分子電解質とフェノール性水酸基含有樹脂とを含有してなる高分子電解質膜の製造方法であって、高分子電解質の酸性基が、アルカリ金属イオン及び塩基性化合物からなる群より選ばれる1種以上の物質と塩を形成している状態で、該高分子電解質と、フェノール性水酸基含有化合物の重合体とを混合し、製膜した後、得られた膜の酸性基を酸処理によって遊離の酸に変換する工程を有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項17】
フェノール性水酸基含有樹脂が、分子中に0.001〜0.01mol/gのフェノール性水酸基を有し、25℃におけるメタノールへの溶解度が1重量%以下で、かつ25℃におけるN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が1重量%以上である請求項16に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−204929(P2008−204929A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51037(P2007−51037)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】