説明

高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法

【課題】 高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、プラズマ処理チャンバー内の圧力を1.0×10−7〜2.75×10−3Paに維持しながら、前記チャンバー内に位置して燃料電池用高分子電解質膜の表面にPACVD法を利用してプラズマ処理を行うことで、高分子電解質膜の表面にナノ構造を形成する段階と、プラズマ処理により形成されたナノ構造物を有する高分子電解質膜の表面に触媒を担持もしくは蒸着する段階とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法に係り、更に詳しくは、高分子電解質膜の表面にPACVD法で、アルゴン、酸素、CFなどのプラズマ処理を行い、 絨毛のようなナノ構造の表面を形成し、燃料電池用触媒粒子または触媒層をナノ構造の表面が形成された高分子電解質膜上にスパッタリング法を利用して直接蒸着することで、既存の膜・電極接合体(MEA)に比べてより簡単な工程で燃料電池電解質膜を製造することができ、ナノ構造が形成された広い表面積を持つ高分子電解質膜上に燃料電池用触媒を直接コーティングすることによって、触媒の量を格段に減少できるようにした高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている高分子電解質燃料電池(PEMFC)は、様々な燃料電池の中で作動温度が低く、高いエネルギー効率を有するなど多くの長所を持っているため、自動車の動力源として活用するための研究が持続的に進められている。
即ち、高分子電解質燃料電池は、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)、そして固体酸化物燃料電池(SOFC)などに比べて電流密度が高く、運転温度が60〜80℃と低く、腐食及び電解質の損失などが少ないという長所を持っている。
更に、低コスト、低容量、スタックの長寿命、そして迅速なスタートアップ及び非連続的動作のための安定性などの長所を持っているため、安定的な電力供給が可能であり、自動車など多様に応用されている。
【0003】
燃料電池を構成する各単位電池には、高分子電解質膜(または“プロトン交換膜”とも言う)が含まれるが、この高分子電解質膜の両側面に酸化電極(アノード)及び還元電極(カソード)がホットプレスにより一体となりながら、膜・電極接合体(MEA)10を形成する。
高分子電解質膜の表面にアノード及びカソードが一体に形成されるが、アノードの場合、H→2H+2eの反応が起き、水とプロトンが結合し得る触媒層担持体であるカーボンブラックが塗布されている。
更に、前記カソードの場合、1/2O+2H+2e-→HOの反応が起き、このような反応を通してプロトンが膜・電極接合体を通過することで、電気と水が生成される。
【0004】
このような燃料電池の高分子電解質膜として、水素イオン伝導性が高いポリペルフルオロスルホン酸塩(polyperfluoro sulfonate)系統の高分子膜を主に使用し、特にデュポン社のナフィオン(登録商標)は、その表面が疎水性を帯びながら構造的に安定しているため多く使用されている。
今日まで燃料電池高分子電解質膜と関連した研究が多く進められているが、燃料電池の安定性及び費用問題などに対する関心が増加しており、特に、高分子電解質膜の特性及び触媒使用量は、燃料電池の性能及び製造コストと密接な関連を持っているため、研究の主な目的となっている。
【0005】
従って、膜・電極接合体の性能を向上させ、触媒の使用量を減らすための従来の方法の一つとして、シリコンの上にウィスカー構造を形成して高分子電解質膜の表面に接着剤を利用して付着する方法が提案されており、白金触媒を電解質膜の表面に形成させるとき、既存に比べて相対的に増加した表面積により非常に少量の触媒のみを使用する長所を持つ。
その他に、プラズマ、イオンビーム、コロナ、電子ビームなどの多様な方法を利用して高分子電解質膜自体を直接表面改質をして、電解質膜の性能を向上させる試みとともに、高分子膜と触媒との接触面積を増加させる努力が持続して行われており、表面積が広くなる場合、高価な触媒の量を減らしながら効率が著しく高くなるという結果が出ている[非特許文献1、特許文献1]。
【0006】
更に、最近は、イオンビームを利用して表面照度を増加させる方法などがあり、このような表面改質された高分子電解質膜の上に、白金触媒が担持されたカーボンブラックをスプレー塗布法でコーティングする方法を利用されている。これに対して、低圧高密度Arプラズマを利用した研究[非特許文献2]がある。これは、高分子電解質膜に対する蒸着条件を50Wのパワーで5〜120秒として処理するもので、表面が更に少し親水性を示し、表面形状もほとんど変化がないため、プロトン伝導性を低下させる結果がもたらされた。
従って、膜・電極接合体に対する表面形状の変化による表面積の増加と疎水性が同時に得られる表面処理条件に関する研究が要請されている。
【0007】
そこで、高分子電解質膜、即ち、イオン交換膜高分子の表面上にプロトンを伝達する触媒である白金担持に関する研究が進められ、高価格金属である白金の使用量を減らすために、一般的なカーボンブラックに白金粒子を担持した後、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、テープ成形法などのイオン交換膜に形成する方法が提案されている。
更に、薄膜の表面を改質して、薄膜の表面上にスパッタリング法を利用して白金を直接蒸着する方法(Dual ion-beam assisted deposition, sputter deposition methods)、そして電着法、エレクトロスプレー(electro-spray)法などが提案されている[非特許文献3]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国特許第0405671号
【特許文献2】特開2008−066229号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Prassanna, E. A. Cho. H.-J. Kim, T.-H. Kim, et al, J. Power Sources(2006)
【非特許文献2】D. Ramdutt ea al, J. Power Sources 165(2007)41-48
【非特許文献3】J.-H. Wee, K.-Y。Lee. S. H. Kim, Journal of Power Source 165(2007)667-677
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、既存の燃料電池用膜・電極の接合工程を著しく簡素化させながら、白金触媒の量を著しく減少できる高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、プラズマ処理チャンバー内の圧力を1.0×10−7乃至〜2.75×10−3Pa、電圧を100V乃至50kVに1秒乃至60分間維持しながら前記チャンバー内に位置し、燃料電池用高分子電解質膜の表面にプラズマアシスト化学的蒸着法(PACVD法)を利用してプラズマ処理を行うことで、高分子電解質膜の表面にナノ構造物を形成する段階と、プラズマ処理により形成されたナノ構造物を有する高分子電解質膜の表面に触媒を担持もしくは蒸着する段階と、を含むことを特徴とする。
【0012】
前記ナノ構造物は、ナノヘアパターン(hair pattern)構造であり、幅が1乃至1000ナノメートルであり、長さは1乃至10,000ナノメートルの範囲で形成されることを特徴とする。
【0013】
前記ナノ構造物は、ナノ空孔構造に形成されることを特徴とする。
【0014】
前記ナノ構造物は、前記PACVD法以外に、イオンビーム、エッチング法を利用して形成されることを特徴とする。
【0015】
前記ナノ構造物は、アルゴン、CF、酸素、N及びHの中から選択されたプラズマ処理のためのガスを利用して形成されることを特徴とする。
【0016】
前記高分子電解質膜の表面処理方法として, 前記PACVD法以外に、イオンビーム、反応性イオンエッチング(RIE)法及びスパッタリング法の中から選択される方法を利用して、高分子電解質膜の表面に凸型または凹型のナノ構造物を形成する段階を含むことを特徴とする。
【0017】
前記高分子電解質膜の表面処理方法として, プラズマの進行方向と高分子電解質膜の表面がなす角度を変換させる段階を含むことを特徴とする。
【0018】
前記ナノ構造物を有する高分子電解質膜の表面に触媒を担持もしくは蒸着する方法は、
カーボンブラックに白金または白金触媒粒子を担持した後、イオン交換膜に形成するスプレーコーティング法、スクリーン印刷法、テープキャスティング法、高分子電解質膜の表面を改質して、その表面上にスパッタリング法にて白金または白金合金を直接蒸着するスパッタリング蒸着法、電着法、エレクトロスプレー法、カーボンエアロゲルを利用した超臨界蒸着法、白金ゾル法、及びカーボンナノチューブ、無定形スーパーミクロ多孔性カーボンまたはカーボンエアロゲル支持体を利用した白金または白金合金を担持する方法の中から選択されたいずれか1種の方法により実施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体を製造する方法によると、燃料電池用高分子電解質膜の上にPACVD法を利用して絨毛またはナノ孔のようなナノサイズの構造物を形成して、高分子電解質膜の表面の幅を増加させると同時に、疎水性性質が改良された表面を得ることができる。
更に、表面積が増え、疎水性性質が改良されたナノサイズ構造物の表面にスパッタリング法により白金を直接コーティングする簡単な工程のみで燃料電池用膜・電極接合体を容易に製作することができる。
特に、本発明による高分子電解質膜は、その表面が髪も毛のようなナノサイズの構造物からなり、その表面積が広くなると同時に疎水性が改良されることによって、白金触媒層をナノサイズの構造物を有する高分子電解質膜の上に直接蒸着すると、既存の燃料電池用膜・電極接合体の工程数を著しく減少させることができ、白金触媒の量を著しく減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明による高分子電解質膜にナノ表面構造を形成するためのプラズマ処理装置に対する模式図であり、(b)は、燃料電池膜・電極接合体構造、及び本発明による高分子電解質膜の表面にナノヘア構造物が形成された状態を説明する構造図である。
【図2】アルゴンプラズマを利用して高分子電解質膜に、電圧800Vで3分間表面処理をした後、白金触媒をスパッタリングした後に撮影したSEMイメージである。
【図3】(a)は、高分子電解質膜の表面に対するアルゴンプラズマの蒸着条件を600Vで3分間として白金触媒をスパッタリングした後に撮影したSEMイメージであり、(b)は、高分子電解質膜の表面に対するアルゴンプラズマの蒸着条件を800Vで10分間として白金触媒をスパッタリングした後に撮影したSEMイメージである。
【図4】(a)は、酸素プラズマを処理した後の高分子電解質膜の表面構造で、白金触媒をスパッタリングした後に撮影したSEMイメージであるり、(b)は、CFプラズマを処理した後の高分子電解質膜の表面構造であり、白金触媒をスパッタリングした後に撮影したSEMイメージである。
【図5】アルゴンプラズマの蒸着条件を800Vで1分間として処理する際の表面に表れるナノ構造の孔を表すイメージであり、白金触媒をスパッタリング法を利用してナノ構造の孔表面に蒸着した後、その高分子電解質膜の表面を撮影したSEMイメージである。
【図6】(a)は、高分子電解質膜の表面にアルゴンプラズマの表面処理が行われる前の状態として、高分子電解質膜状での純水水滴の湿潤挙動を示した光学イメージであり、(b)は、高分子電解質膜の表面にアルゴンプラズマの表面処理が行われた後の状態として、高分子電解質膜状での純水水滴の湿潤挙動を示した光学イメージである。
【図7】(a)は、高分子電解質膜の表面にアルゴンプラズマを特定な角度55°の角度で処理する方法に対する模式図、(b)は、高分子電解質膜の表面に生成された傾いたナノ構造の表面を撮影したSEMイメージ、(c)は、図7bの赤色の四角部分を拡大したイメージ、(d)は、(c)の一部分を拡大したSEMイメージである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、高分子電解質膜にプラズマ法を利用して絨毛のようなナノサイズの構造物を形成するものであり、ナノ構造物の幅と高さの比が1:50以上の形状比を持つと共に、疎水性を有する高分子電解質膜を提供する点に特徴がある。更に、白金触媒層をナノ構造物を有する高分子電解質膜の上に蒸着することで、既存の方法に比べて簡単であり、白金量を節減することにより、製造費用も大幅削減できるようにした点に特徴がある。
本発明によるナノ構造を有する高分子電解質膜の表面を製作する方法、製造されたナノサイズの構造パターン上に触媒粒子もしくは触媒層をナノサイズで蒸着する方法、ナノサイズの構造パターン上での湿潤性挙動に対する評価などを下記の実施例を通してより詳細に説明する。
【0022】
以下、添付図面を参照し、本発明に係る高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法について説明する。
【実施例】
【0023】
(1)プラズマ表面処理
13.56MHzでPACVD法を利用して、アルゴン、酸素、及びCFガスを前駆体として使用してプラズマを形成するようにし、燃料電池用高分子電解質膜の一種であるポリペルフルオロスルホン酸塩系高分子電解質膜を基板として使用した。
図1(a)に示すように、プラズマ処理装置10のチャンバー20内の電極(R.F powered water cooled cathode)上に前記基板、即ち、ポリペルフルオロスルホン酸塩系高分子電解質膜30を載せ、この基板にインピーダンス整合回路を通してプラズマが伝達されるようにする。
このとき、高分子電解質膜30に対して各ガス(アルゴン、酸素、CF)プラズマを利用して、0.49Pa、100V〜50kVの条件で1秒〜60分間プラズマ表面処理を行った。
【0024】
(2)触媒蒸着
プラズマ表面処理がされた高分子電解質膜の表面、即ち、ナノヘア構造を有する高分子電解質膜の上に簡単なスパッタリング法を利用して、白金触媒を蒸着し、蒸着が終了した後、チャンバーの外に出したナノヘア構造を有する高分子電解質膜を20〜25℃の温度、60〜70%の湿度で維持した。
このとき、前記触媒を蒸着または担持する方法として、カーボンブラックに白金または白金触媒粒子を担持した後、イオン交換膜に形成するスプレーコーティング法、スクリーン印刷法、テープキャスティング法、高分子電解質膜の表面を改質して、その表面上にスパッタリング法にて白金または白金合金を直接蒸着する方法、電着法、エレクトロスプレー法、カーボンエアロゲルを利用した超臨界蒸着法、白金ゾル法、及びカーボンナノチューブまたは無定形スーパーミクロ多孔性カーボンまたはカーボンエアロゲル支持体を利用した白金または白金合金を担持する方法の中から選択されたいずれか1種の方法により実施しても構わない。
【0025】
(3)表面分析
前記のように、プラズマ処理前後及び触媒蒸着前後の高分子電解質膜の表面を観察するために、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)を使用して観察した。
更に、蒸留水を利用して高分子電解質膜の表面改質前後の接触角を、湿潤角を測定するNRL接触角測角器を利用して測定した。
より詳しくは、基板、即ち、高分子電解質膜のベースラインを合わせ、高分子電解質膜の表面に水滴を軽く落とした後、湿潤角を測定するNRL接触角測角器を利用して接触角を測定した後、湿潤角をGBX角度計を使用して撮影した。
【0026】
(4)表面分析の結果
前記のように、PACVD法を利用したプラズマ表面処理により高分子電解質膜30の上に図1(b)の右側に模式化した図に示したように、絨毛のようなナノサイズのナノ構造物40が形成されることが分かる。
この分析結果を添付した図面により、更に詳しく説明する。
高分子電解質膜の表面にアルゴンガスプラズマを800Vで3分間処理すると、図2の写真のように、ナノ構造の幅が10〜30ナノメートルであり、その長さが0.2〜2μmのサイズを有するナノ構造物[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]などが、数本ずつ集まった束形態で分布することを観察することができた。
更に、各ナノ構造物の先端部分には、100ナノメートルほどの直径を持つ丸い形状が形成されることが分かった。
特に、白金触媒をスパッタリング法にて前記ナノ構造物の上に蒸着することで、数ナノメートルのサイズを持つ白金触媒層がナノ構造物を取り囲んでいることが分かった。
【0027】
一方、プラズマのエネルギーが低い600V、3分では、図3(a)のイメージから分かるように、ナノ構造物の幅は20〜30ナノメートルで一定であるが、その長さが最大300〜600ナノメートルとして、図2に示したものと比べて短くなることが分かった。
反面、図3(b)に示したイメージから分かるように、プラズマのエネルギーが高い800Vで10分間処理すると、ナノ構造物の束が更にはっきりと形成され、その先端は末端に比べて相対的に密集しているため、全体的に円錐形状を帯びることが分かった。
【0028】
アルゴンプラズマを使用した結果とは異なり、図4(a)に示した酸素プラズマ(400V、60分)での処理後、そして図4(b)に示したCFプラズマ(925V、3分)での処理後に生成されたナノ構造物は、下記のような特徴を示した。
即ち、酸素プラズマを利用して形成されたナノ構造物の場合、アルゴンプラズマを利用した時に得られたナノ構造物とほぼ幅と高さが似ている構造を持つが、CFの場合、相対的にエッチングされた部分(図4(b)の黒色部分)が酸素プラズマやアルゴンプラズマより多く観察された。
特に、CFプラズマの場合、既存の研究から分かるように、薄層の炭素コーティング層がナノ構造物及び膜の表面に形成され、炭素層が高分子電解質膜の表面に分布していることを予測することができる。
【0029】
図5は、アルゴンプラズマ処理の蒸着条件が800Vで1分間である場合の表面に表れるナノ構造の孔を表すイメージであり、白金触媒をスパッタリング法を利用してナノ構造の孔表面に蒸着した後、この高分子電解質膜の表面を撮影したSEMイメージである。
図5に示すように、高分子電解質膜の表面に形成されたナノ構造の形状が[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]ではない孔形状をしており、この孔構造は、アルゴンプラズマ処理の蒸着条件が800Vで1分間である場合に得られるものであり、図2乃至図4に示す凸型のナノ構造とは相反する凹型のナノ構造の形成条件を制御することができることが分かる。
【0030】
このように孔構造が形成されたものは、アルゴンプラズマ処理の蒸着条件が800Vで1分間である場合に、高分子電解質膜の高分子チェーンが局部的に不安定な場所からエッチングされながら、凹型の孔形状のナノ構造物がまず生成され、このようなナノ孔はプラズマ処理時間が増えながら、次第に広くなると同時に、互いに出会う地点で図2乃至図4に示す凸型のナノ構造物[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]で形成される。
【0031】
本発明による高分子電解質膜の湿潤性に対する実験結果は、図6(a)及び(b)のイメージに示したとおりである。
図6(a)及び(b)は、表面処理をしなかった高分子電解質膜とアルゴンガスプラズマを利用して800Vで20分間処理した高分子電解質膜の上で純水の水滴の挙動を各々表したものである。
図6(a)のようにプラズマ処理前の約80°から図6(b)のようにアルゴンプラズマ処理後の約130°に湿潤角が変化するが、これはプラズマ処理前の表面が親水性からプラズマ処理後に疎水性に変化したことを証明するものである。結局、本発明の高分子電解質膜の表面に形成されたナノ構造物[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]により疎水性性質が増加することが分かった。
【0032】
一方、高分子電解質膜の表面に生成されるナノ構造物に対する構造の変更が可能であることが、図7の実験結果のイメージを通して分かった。
図7は、高分子電解質膜の表面にアルゴンプラズマを55°の角度で処理することで、高分子電解質膜の表面にナノ構造物が傾いて形成されたものを撮影したSEMイメージである。
このような傾斜角を有するナノ構造物は、方向によって湿潤角が異なり、即ち、傾いた方への湿潤角が反対方向への湿潤角に比べて大きいため、水滴が傾いた方に良く動くことができるという特徴を有するナノ構造物となることを予測することができ、このような構造物を通して燃料電池の反応による生成水の排出性を調節することができるという長所がある。
【0033】
このようにアルゴンプラズマと高分子電解質膜がなす角を調節することで、ナノ構造物がなす角を変化させることができ、このような角変化のナノ構造物は、特定方向に水滴もしくは水を容易に抜き出す特性を持つが、高分子電解質膜の表面の水もしくは水滴を特定方向に動かす構造で使用できる。
バイアス電圧によりプラズマ処理を方向性を持って行うことで、高分子電解質膜の表面に傾いたナノ構造物[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]が生成されることが分かり、これは高分子電解質膜の表面に形成されたナノ構造物を具体的に変形させることができることを示したものである。
【0034】
以上、本発明によると、表面にアルゴン、酸素もしくはCFプラズマ処理を、600V〜950Vで1分〜20分間行う場合、表面積がはるかに広くなる凸型のナノ構造物[ナノヘアパターン=ナノ繊維=ナノ絨毛]または凹型の孔形状のナノ構造が生成されることを観察することができ、各プラズマ処理条件によってナノ構造物の形状は制御できることが分かる。即ち、本発明による方法を利用して高分子電解質膜を改質する際、表面積が著しく増加し、高分子電解質膜の表面もまた疎水性を増加させる結果を得ることができることが分かる。更に、高分子電解質膜の表面にプラズマを傾けて照射することで、特定方向に傾いた角をなすナノヘア構造物を形成できることが分かった。
【符号の説明】
【0035】
10 プラズマ処理装置
20 チャンバー
30 高分子電解質膜
40 ナノ構造物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理チャンバー内の圧力を1.0×10−7乃至〜2.75×10−3Pa、電圧を100V乃至50kVに1秒乃至60分間維持しながら前記チャンバー内に位置し、燃料電池用高分子電解質膜の表面にプラズマアシスト化学的蒸着法(PACVD法)を利用してプラズマ処理を行うことで、高分子電解質膜の表面にナノ構造物を形成する段階と、
プラズマ処理により形成されたナノ構造物を有する高分子電解質膜の表面に触媒を担持もしくは蒸着する段階と、
を含むことを特徴とする高分子電解質膜にナノ構造の表面を形成するための燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ構造物は、ナノヘアパターン(hair pattern)構造であり、幅が1乃至1000ナノメートルであり、長さは1乃至10,000ナノメートルの範囲で形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ構造物は、ナノ空孔構造に形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ構造物は、前記PACVD法以外に、イオンビーム、エッチング法を利用して形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ構造物は、アルゴン、CF、酸素、N及びHの中から選択されたプラズマ処理のためのガスを利用して形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子電解質膜の表面処理方法として, 前記PACVD法以外に、イオンビーム、反応性イオンエッチング(RIE)法及びスパッタリング法の中から選択される方法を利用して、高分子電解質膜の表面に凸型または凹型のナノ構造物を形成する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記高分子電解質膜の表面処理方法として, プラズマの進行方向と高分子電解質膜の表面がなす角度を変換させる段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ構造物を有する高分子電解質膜の表面に触媒を担持もしくは蒸着する方法は、
カーボンブラックに白金または白金触媒粒子を担持した後、イオン交換膜に形成するスプレーコーティング法、スクリーン印刷法、テープキャスティング法、高分子電解質膜の表面を改質して、その表面上にスパッタリング法にて白金または白金合金を直接蒸着するスパッタリング蒸着法、電着法、エレクトロスプレー法、カーボンエアロゲルを利用した超臨界蒸着法、白金ゾル法、及びカーボンナノチューブ、無定形スーパーミクロ多孔性カーボンまたはカーボンエアロゲル支持体を利用した白金または白金合金を担持する方法の中から選択されたいずれか1種の方法により実施されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−108894(P2010−108894A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28423(P2009−28423)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【出願人】(592127149)韓国科学技術院 (129)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】373−1,Gusung−dong,Yuseong−ku,Daejeon 305−701 KR
【Fターム(参考)】