説明

高効率分泌シグナルペプチド及びそれらを利用したタンパク質発現系

【課題】従来の分泌シグナルペプチドよりも分泌効率が高い分泌シグナルペプチドを同定する。
【解決手段】従来の膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系において用いられていた分泌シグナルペプチドよりも高い分泌能力を有する分泌シグナルペプチドを、サッカロミセス・セレビシエのゲノム中に存在する膜タンパク質及び分泌タンパク質から同定し、単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、従来の分泌シグナルペプチドよりも分泌効率が高い分泌シグナルペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、多様なタンパク質が様々な宿主(例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞)を利用して発現及び生産されている。これらタンパク質生産系において、大腸菌が最もよく用いられている宿主の一つである。しかしながら、大腸菌においてヒトなどの動物由来タンパク質を生産させた場合には、非常に高い確率で不溶化し、これらタンパク質が変性状態のタンパク質として発現されるか又は発現ができない場合がある。
【0003】
一方、昆虫細胞や動物細胞等の培養細胞を宿主としたタンパク質生産系では、ヒトなどの動物由来タンパク質を、高い確率で正常なタンパク質として生産することができる。しかしながら、これらの培養細胞を用いたタンパク質生産系は、(1)培養コストが高い、(2)生育が遅い、(3)培養スケールを大きくすることが困難である、といった問題点を有する。
【0004】
単細胞真核生物である酵母を、タンパク質生産系の宿主として用いた場合に、培養細胞同様、ヒトなどの動物由来タンパク質を比較的高い確率で正常なタンパク質として発現することができる。また、大腸菌等の微生物と同様に、培養設備、培養時間及び培養コストの面で培養細胞よりも安価に培養を行うことができるという特徴を有する。特に、出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、ビールやワインなどのアルコール飲料やパンなどの発酵を利用した食品などの製造に用いられる点で、生物としての安全性が確認されている。また、酵母は、真核生物のうちで最も早くゲノムが解読された生物であり、良く整備されたゲノム情報を活用できる優れた分子生物学的背景を有する。
【0005】
以上の背景より、酵母は、組み換えDNA技術を利用した同種/異種生物由来のタンパク質生産系の宿主として広く用いられてきた。
【0006】
ところで、上述したように、従来よりヒト由来タンパク質を始めとする多様なタンパク質の発現及び生産が試みられている。細胞内可溶性タンパク質の発現と比較して、膜タンパク質及び分泌タンパク質の細胞膜及び細胞外への発現は困難であることが一般的に知られている。このことは、膜タンパク質及び分泌タンパク質の多くが、機能を有するタンパク質として成熟するために、細胞質から小胞体/ゴルジ体を経由するタンパク質細胞内輸送系における様々な修飾を受けることが必要なためであると考えられる。
【0007】
一方、創薬研究において、ヒト由来の膜タンパク質及び分泌タンパク質の機能/構造解析は重要視されており、これらの解析においては、高効率な膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系が必須である。また、タンパク質の細胞外への分泌発現は、細胞内発現と比較して、発現タンパク質の精製が容易であり、さらに細胞内プロテアーゼによる分解を抑制できる等の利点を有しているため、工業レベルでのタンパク質生産においても重要視されている。この点で、酵母は、上記特徴と共に、動物細胞と同様のタンパク質細胞内輸送系を有することから、原核生物を宿主として用いる場合よりも、比較的容易に動物由来の膜タンパク質及び分泌タンパク質の発現が可能であることが知られている。
【0008】
一般的に、膜タンパク質又は分泌タンパク質のN末端には、分泌シグナルペプチドが存在している。膜タンパク質又は分泌タンパク質が有する分泌シグナルペプチドを、宿主由来のものを含めた高効率な分泌シグナルペプチドと置換することで、タンパク質発現系において、これら膜タンパク質又は分泌タンパク質の発現効率及び発現成功率を上げることができることが報告されている。膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系の高効率化において、分泌シグナルペプチドの高効率化は重要な要素である。既存の酵母における膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系で用いられているサッカロミセス・セレビシエ又は酵母ウイルス由来の膜タンパク質及び分泌タンパク質のシグナルペプチドとしては、例えば、α-因子(非特許文献1)、α-因子受容体(非特許文献2)、酵母ウイルス毒素、SUC2タンパク質及びPHO5タンパク質(以上、非特許文献3)、BGL2タンパク質(非特許文献4)並びにAGA2タンパク質(非特許文献5)由来の分泌シグナルペプチドが挙げられる。しかしながら、これらの分泌シグナルペプチドは、従来において膜タンパク質及び分泌タンパク質に見出された僅かな種類の分泌シグナルペプチドであり、最も高効率な分泌シグナルペプチドかどうかは不明である。
【0009】
一方、分泌シグナルペプチドの配列を予測するコンピュータープログラムが提供されている。これらのコンピュータプログラムとしては、例えば、SOSUIsignalBeta(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/~sosui/proteome/sosuisignal/sosuisignal_submit.html)、SignalP(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)、PSORT(http://psort.nibb.ac.jp/)及びPhobius(http://phobius.cgb.ki.se/)等が挙げられる。これらのコンピュータープログラムを用いることで、ゲノム情報から膜タンパク質及び分泌タンパク質に含まれる分泌シグナルペプチドの配列の存在を予測することが可能である。しかしながら、これらコンピュータプログラムより、各分泌シグナルペプチドの能力を推測することは現在のところ困難である。すなわち、予測された分泌シグナルペプチドが、実際に、例えば膜タンパク質及び分泌タンパク質等のタンパク質の発現に利用可能であるか否か、さらにこれらタンパク質の大量生産に利用できる、より高効率なものであるか否かは予測することができない。
【0010】
これまでに、本発明者らは、サッカロミセス・セレビシエの低温応答機構を解析することで、酵母低温発現系を開発した(特許文献1及び2並びに非特許文献6)。本発現系を用いてヒト由来タンパク質の発現実験を行ったところ、本発現系は従来の常温型出芽酵母発現系と比較して、低温条件によって発現タンパク質の不溶化及びプロテアーゼによる分解を抑制することができ、さらに低温刺激によって高度に誘導される低温誘導性プロモーターを用いることで、従来の常温型出芽酵母発現系よりも高い発現効率を有していることがわかった。しかしながら、本発現系においても、可溶性タンパク質の酵母細胞内発現と比較して、膜タンパク質及び分泌タンパク質の発現については、発現効率が低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2004/003197号パンフレット
【特許文献2】特開2005-160357号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. K. Ramjee, J. R. Petithory, J. McElver, S. C. Weber, J. F. Kirsch., 植物由来組換えチオールエンドプロテアーゼ, プロパパインの新規酵母発現及び分泌システム(A novel yeast expression/secretion system for the recombinant plant thiol endoprotease propapain), 「Protein Engineering」, 1996年, 第9巻, p.1055-1061.
【非特許文献2】V. Sarramegna, F.Talmont, P. Demange, A. Milon, G-タンパク質共役受容体の異種発現:大量生産・精製における発現系の比較(Heterologous expression of G-protein-coupled receptors: comparison of expression systems from the standpoint of large-scale production and purification), 「Cellular and Molecular Life Sciences」, 2003年, 第60巻, p.1529-1546.
【非特許文献3】A. Eiden-Plach, T. Zagorc, T. Heintel, Y. Carius, F. Breinig, MJ. Schmitt, キャンディダ、ピキア、出芽酵母、分裂酵母による酵母ウイルス毒素由来シグナル配列を用いた緑色蛍光タンパク質の効率的分泌(Viral preprotoxin signal sequence allows efficient secretion of green fluorescent protein by Candida glabrata, Pichia pastoris, Saccharomyces cerevisiae, and Schizosaccharomyces pombe.), 「Applied and Environmental Microbiology」, 2004年, 第70巻, p.961-966.
【非特許文献4】T. Achstetter, M. Nguyen-Juilleret, A. Findeli, M. Merkamm, Y. Lemoine, 異種タンパク質の分泌発現のための酵母由来新規シグナルペプチドとそのヒルジン合成への応用(A new signal peptide useful for secretion of heterologous proteins from yeast and its application for synthesis of hirudin.), 「Gene」, 1992年, 第110巻, p.25-31.
【非特許文献5】D. Huang, EV. Shusta, 出芽酵母を用いた緑色蛍光タンパク質の分泌及び表層提示 (Secretion and surface display of green fluorescent protein using the yeast Saccharomyces cerevisiae.), 「Biotechnology Progress」, 2005年, 第21巻, p.349-357.
【非特許文献6】T. Sahara, T. Goda, S. Ohgiya, 低温に対する酵母細胞における時間依存的遺伝的応答の包括的発現解析(Comprehensive expression analysis of time-dependent genetic response in yeast cells to low temperature.), 「Journal of Biological Chemistry」, 2002年, 第277巻, p.50015-50021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、膜タンパク質及び分泌タンパク質の発現については、高効率な分泌シグナルペプチドが必要とされる。
【0014】
そこで、本発明は、例えば、従来の分泌シグナルペプチドよりも細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官への輸送効率並びに細胞外への分泌効率が高い分泌シグナルペプチドを同定し、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、低温誘導性プロモーター(特許文献1及び非特許文献6)及び分泌型ルシフェラーゼをレポータータンパク質として利用したレポーターアッセイシステム(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする))を利用することで、常温及び低温条件下において、従来の膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系において用いられていた分泌シグナルペプチドよりも細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官への高い輸送能力並びに細胞外への高い分泌能力を有する分泌シグナルペプチドを、サッカロミセス・セレビシエのゲノム中に存在する膜タンパク質及び分泌タンパク質から見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、以下を包含する。
【0017】
(1)以下の(a)又は(b)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドをコードするDNA。
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16及び18のいずれか1記載のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチド
(b)上記(a)の分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ30℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチド
(2)上記DNAが以下の(a)〜(c)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドをコードするDNAである、(1)記載のDNA。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15及び17のいずれか1記載の塩基配列から成るDNA
(b)上記(a)のDNAにおいて、1又は複数の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、30℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNA
(c)上記(a)のDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ30℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNA
(3)(1)又は(2)記載のDNAによりコードされる分泌シグナルペプチド。
(4)(1)又は(2)記載のDNAと外来遺伝子とを含むことを特徴とする発現ベクター。
(5)(4)記載の発現ベクターによって形質転換された形質転換体。
(6)宿主が酵母であることを特徴とする、(5)記載の形質転換体。
(7)上記酵母がサッカロミセス・セレビシエであることを特徴とする、(6)記載の形質転換体。
(8)(5)〜(7)のいずれか1記載の形質転換体を20℃〜42℃で培養することを特徴とするタンパク質の製造方法。
(9)以下の(a)又は(b)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドをコードするDNA。
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100及び102のいずれか1記載のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチド
(b)上記(a)の分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ15℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチド
(10)上記DNAが以下の(a)〜(c)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドをコードするDNAである、(9)記載のDNA。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99及び101のいずれか1記載の塩基配列から成るDNA
(b)上記(a)のDNAにおいて、1又は複数の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、15℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNA
(c)上記(a)のDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ15℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNA
(11)(9)又は(10)記載のDNAによりコードされる分泌シグナルペプチド。
(12)(9)又は(10)記載のDNAと外来遺伝子とを含むことを特徴とする発現ベクター。
(13)(12)記載の発現ベクターによって形質転換された形質転換体。
(14)宿主が酵母であることを特徴とする、(13)記載の形質転換体。
(15)上記酵母がサッカロミセス・セレビシエであることを特徴とする、(14)記載の形質転換体。
(16)(13)〜(15)のいずれか1記載の形質転換体を0℃〜20℃で培養することを特徴とするタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば膜タンパク質及び分泌タンパク質等の発現系において使用することができる、従来の分泌シグナルペプチドよりも細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官への輸送能力並びに細胞外への分泌効率が高い分泌シグナルペプチドが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
サッカロミセス・セレビシエ由来の分泌シグナルペプチドを含有するタンパク質をコードする遺伝子を同定することで、本発明に係る分泌シグナルペプチドをコードするDNAを同定できる。先ず、サッカロミセス・セレビシエ(出芽酵母)ゲノムデータベースであるMIPS CYGD (http://mips.gsf.de/genre/proj/yeast/)のsubcellular localization tableより、Plasma membrane、Integral membrane、Cell periphery、Cell wall、Extracellular、ER(Endoplasmic reticulum)及びGolgiの各カテゴリーに含まれる1,037遺伝子を抽出する。次いで、上記データベースより抽出した各遺伝子の塩基配列にコードされる各アミノ酸配列から、膜貫通部位予測プログラム及び分泌シグナルペプチド予測プログラムである、TMHMM 2.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM/)、Phobius(http://phobius.cgb.ki.se/)、SOSUIsignalBeta (http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/~sosui/proteome/sosuisignal/sosuisignal_submit.html)及びSignalP 3.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて、膜貫通部位及び分泌シグナルペプチドの予測を行う。さらに、本解析によって得られた結果に基づき、複数のこれら予測プログラムによって分泌シグナルペプチドを予測できた遺伝子について、上記ゲノムデータベースより分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の抽出を行う。
【0021】
さらに、予測された分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の下流に、分泌シグナルペプチドを除いた分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を連結したDNA断片を含むレポーター遺伝子を作製し、当該レポーター遺伝子を用いてレポーターアッセイ(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする))を行うことで、常温(30℃)及び低温(15℃)条件下において、従来の膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系において用いられていた分泌シグナルペプチド(α-因子由来分泌シグナルペプチド(非特許文献1))の2倍を超える高い分泌能力を有する分泌シグナルペプチドを、細胞外におけるルシフェラーゼ活性を指標として同定する。
【0022】
その結果、常温条件下で高い分泌能力を有する分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域として新規な遺伝子領域を含む遺伝子9個を下記の表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1には、常温条件(30℃)下において、α-因子由来分泌シグナルペプチドの2倍を超える分泌能力を示す分泌シグナルペプチドについて、各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域が由来する遺伝子の系統的遺伝子名及び一般遺伝子名、α-因子由来分泌シグナルペプチドに対する相対的な分泌効率、分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列及び分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列を示す。各アミノ酸配列及び塩基配列の配列番号は、右欄に併記した配列番号である。
【0025】
一方、低温条件下で高い分泌能力を有する分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域として新規な遺伝子領域を含む遺伝子51個を下記の表2に示す。
【0026】
【表2】



【0027】
表2には、低温条件(15℃)下において、α-因子由来分泌シグナルペプチドの2倍を超える分泌能力を示す分泌シグナルペプチドについて、各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域が由来する遺伝子の系統的遺伝子名及び一般遺伝子名、α-因子由来分泌シグナルペプチドに対する相対的な分泌効率、分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列及び分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列を示す。各アミノ酸配列及び塩基配列の配列番号は、右欄に併記した配列番号である。なお、表1に含まれる遺伝子(又は分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)と同一の遺伝子(又は分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)については、系統的遺伝子名及び一般遺伝子名を網掛けで示す。
【0028】
以下では、表1に示す分泌シグナルペプチド(分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)を、「常温型分泌シグナルペプチド(常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)」といい、表2に示す分泌シグナルペプチド(分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)を「低温型分泌シグナルペプチド(低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)」という。また、常温型分泌シグナルペプチド(常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)と低温型分泌シグナルペプチド(低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)とを含めて、「分泌シグナルペプチド(分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域)」という。
【0029】
本発明に係るDNAは、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチドをコードするDNAである。本発明に係るDNAは、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列に基づきプライマーを作製し、サッカロミセス・セレビシエから抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCRによって容易に得ることができる。
【0030】
また、本発明に係るDNAは、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ表1記載の常温型分泌シグナルペプチドについては30℃において、また表2記載の低温型分泌シグナルペプチドについては15℃において、分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNAであっても良い。
【0031】
ここで、「分泌シグナル活性」とは、タンパク質(例えば、膜タンパク質及び分泌タンパク質)と融合タンパク質として発現させた分泌シグナルペプチドの細胞外へのタンパク質の分泌能力又は細胞壁、細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官へのタンパク質の輸送能力を意味する。本発明に係るDNAによりコードされる分泌シグナルペプチドの分泌シグナル活性の評価は、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子などのレポーター遺伝子を利用することで測定することができる。例えば、本発明に係るDNAの下流に融合タンパク質として発現可能にレポーター遺伝子を連結した発現ベクターを構築する。次に、この発現ベクターで適当な宿主(例えば酵母)を形質転換する。得られた形質転換体を30℃又は15℃で培養し、レポータータンパク質の細胞外への分泌量又は細胞壁、細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官への輸送量を、レポータータンパク質の活性レベル又は免疫学的方法(例えば、ウエスタンブロッテイング、ELISA及びフローサイトメトリー)等によってタンパク質量として定量することによって、本発明に係るDNAによりコードされる分泌シグナルペプチドの分泌シグナル活性を評価することができる。あるいは、分泌シグナル活性としての細胞内小器官への輸送能力は、本発明に係るDNAの下流に連結した外来遺伝子によってコードされる融合タンパク質について、抗体を用いた免疫染色等で細胞内小器官への局在を調べることによっても評価することができる。
【0032】
さらに、本発明に係るDNAは、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNA、あるいは表1及び2記載の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNAにおいて、1又は複数(例えば1〜10個、1〜5個)の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、表1記載の常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域については30℃において、また表2記載の低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域については15℃において、分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNAであって良い。従って、本発明に係るDNAは、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNA全部であっても良い。あるいは、本発明に係るDNAは、それにコードされるアミノ酸配列が30℃において分泌シグナル活性を示す限り、表1記載の常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNAの一部であっても良く、またそれにコードされるアミノ酸配列が15℃において分泌シグナル活性を示す限り、表2記載の低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNAの一部であっても良い。
【0033】
また、表1及び2記載の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列から成るDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ表1記載の常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域については30℃において、また表2記載の低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域については15℃において、分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドをコードするDNAも、本発明に係るDNAに含まれる。
【0034】
一旦、本発明に係るDNAの塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたプローブを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって、本発明に係るDNAを得ることができる。さらに、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明に係るDNAの変異型であって変異前と同等の機能を有するものを合成することができる。
【0035】
なお、本発明に係るDNAに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入キット(例えばMutant-K(TaKaRa社製))などを用いて、あるいは、TaKaRa社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異の導入が行われる。また、他の変異導入法であってもよい。
【0036】
本発明に係る分泌シグナルペプチドは、本発明に係るDNAによりコードされるペプチドである。本発明に係る分泌シグナルペプチドは、発現対象のタンパク質(例えば、膜タンパク質及び分泌タンパク質)との融合タンパク質として得ることができる。
【0037】
一方、本発明に係るDNAと外来遺伝子とを含む発現ベクター(以下、「本発明に係る発現ベクター」という)は、適当なベクターに、本発明に係るDNAと、外来遺伝子とを挿入することにより得ることができる。本発明に係る発現ベクターにおける本発明に係るDNAと外来遺伝子との位置については、本発明に係るDNAの下流又は上流に外来遺伝子が存在することができる。あるいは、外来遺伝子の内部に本発明に係るDNAが存在しても良い。好ましくは、本発明に係るDNAの下流に隣接して外来遺伝子を存在させる。本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係るDNAと外来遺伝子とはフレームを合わせて挿入される。
【0038】
使用するベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミドなどが挙げられる。また該ベクター自体に複製能がない場合には、宿主の染色体に挿入することなどによって複製可能となるDNA断片であってもよい。
【0039】
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13などのYEp系、YCp50などのYCp系等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0040】
ベクターに本発明に係るDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。またベクターと本発明に係るDNAのそれぞれ一部に相同な領域を持たせることにより、PCRなどを用いたin vitro法または酵母などを用いたin vivo法によって両者を連結する方法であってもよい。
【0041】
さらに、本発明に係るDNAの下流又は上流に外来遺伝子をベクターに挿入する方法、あるいは、外来遺伝子の内部に本発明に係るDNAが位置するように外来遺伝子をベクターに挿入する方法は、本発明に係るDNAを挿入する方法と同様であって良い。
【0042】
本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係るDNAの下流又は上流に置かれる外来遺伝子、あるいは本発明に係るDNAが内部に存在する外来遺伝子としては、いかなるタンパク質、ペプチドであっても良いが、例えば膜タンパク質や分泌タンパク質などが挙げられる。
【0043】
さらに、本発明に係る発現ベクターを宿主中に導入することにより形質転換体を得ることができる。ここで、宿主としては、本発明に係るDNA及び外来遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば酵母が挙げられる。また酵母としては、例えばサッカロミセス・セレビシエ、実験酵母、醸造用酵母、食用酵母及び工業用酵母などが挙げられる。
【0044】
酵母への本発明に係る発現ベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。また、YIp系などのベクターあるいは染色体中の任意の領域と相同なDNA配列を用いた染色体への置換・挿入型の酵母の形質転換法であっても良い。さらに酵母への本発明に係る発現ベクターの導入方法は、一般的実験書または学術論文などに記載されたいかなる方法によってもよい。
【0045】
本発明に係る発現ベクターを、上記酵母に導入するのみならず、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌、COS細胞等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞、あるいはアブラナ科等に属する植物などに導入して形質転換体を得ることもできる。細菌を宿主とする場合は、本発明に係る発現ベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明に係るDNA、外来遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。
【0046】
細菌への本発明に係る発現ベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0047】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞(COS-7細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞などが用いられる。動物細胞への本発明に係る発現ベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0048】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への本発明に係る発現ベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0049】
植物を宿主とする場合は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)又は植物培養細胞などが用いられる。植物への本発明に係る発現ベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びPEG法等が挙げられる。
【0050】
本発明に係るDNA及び外来遺伝子が宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法及びノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0051】
本発明に係るタンパク質の製造方法は、以上のように説明した本発明に係る発現ベクターによって形質転換された形質転換体(以下、「本発明に係る形質転換体」という)を培養し、本発明に係るDNAによりコードされる分泌シグナルペプチドと外来遺伝子によってコードされるタンパク質との融合タンパク質を細胞外に分泌生産、あるいは細胞壁、細胞膜、小胞体やゴルジ体を含む細胞内小器官へ輸送発現させる方法である。本発明に係る形質転換体に導入された本発明に係るDNAが常温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域に関するものである場合には、20℃〜42℃、好ましくは25℃〜37℃で本発明に係る形質転換体を培養する。一方、本発明に係る形質転換体に導入された本発明に係るDNAが低温型分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域に関するものである場合には、0℃〜20℃、好ましくは4℃〜15℃で本発明に係る形質転換体を培養する。また、本発明に係る形質転換体の他の培養条件(例えば、培地の組成)は、使用する宿主に応じて適宜選択することができる。
【0052】
本発明に係る形質転換体を培養した後、培養上清又は培養物から、本発明に係る分泌シグナルペプチドと外来遺伝子によりコードされるタンパク質との融合タンパク質として、外来遺伝子によりコードされるタンパク質を単離、抽出及び/又は精製することができる。あるいは形質転換体内で本発明に係る分泌シグナルペプチドが例えばシグナルペプチダーゼによって切断され、外来遺伝子によりコードされるタンパク質のみを、培養上清又は培養物から単離、抽出及び/又は精製することができる。これらタンパク質の単離、抽出及び精製方法は、一般的に使用されているタンパク質の単離、抽出及び精製方法に準じて行うことができる。
【0053】
以上説明した本発明によれば、従来の分泌シグナルペプチドを用いた酵母等の膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系よりも、高効率に膜タンパク質及び分泌タンパク質の発現が可能となる。本発明に従った発現系は、その分泌効率において従来の膜タンパク質及び分泌タンパク質発現系を凌駕するものであり、例えば、従来の方法で行われている酵母を利用した膜タンパク質及び分泌タンパク質発現において、それらタンパク質の生産量をさらに増加させることができる技術である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
サッカロミセス・セレビシエのゲノムにおける膜タンパク質及び分泌タンパク質をコードする遺伝子の多くに存在する分泌シグナルペプチドについて、Cypridina noctiluca分泌型ルシフェラーゼ(以下、「CLuc」という)(塩基配列:配列番号103、アミノ酸配列:配列番号104)をレポータータンパク質として用いたレポーターアッセイシステム(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする)参照)を用いて、各分泌シグナルペプチドの分泌能力について評価を行った。なお、CLucは、天然に存在する分泌シグナルペプチドを除いた成熟タンパク質(以下、「成熟型CLuc」という)として使用する。
【0056】
従来の酵母発現系で用いられている分泌シグナルペプチド(非特許文献1〜5参照)よりも高効率な分泌シグナルペプチドの同定を以下のように行った。
【0057】
〔実施例1〕レポーターベクターpCLuRA-sの作製
成熟型CLucをコードする遺伝子をレポーター遺伝子として用いたレポーターベクターpCLuRA-sを以下の方法で作製した。
pUG35(http://mips.gsf.de/proj/yeast/info/tools/hegemann/gfp.html)から作製したpUG35-MET25-EGFP3+MCSプラスミド(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする)参照)をHindIIIとXbaIとで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約5.1kbpのベクター断片を回収した。以下では、このベクター断片をDNA断片Aと呼ぶ。
【0058】
一方、プラスミドpCLuRAは、成熟型CLucをコードするDNAの5'末端にα-因子由来分泌シグナルペプチドをコードするDNAを連結した遺伝子を含む(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする)参照)。当該プラスミドpCLuRAより、成熟型CLuc(すなわち、配列番号104に示すCLucのアミノ酸配列において、1〜18番目のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチドを除くアミノ酸配列から成るタンパク質)をコードする遺伝子(以下、「成熟型CLuc遺伝子」という)を、PCR法によって増幅した。
【0059】
使用したプライマー配列は以下の通りである。cLuc ORF -Sig F +HindIIIは、5'末端にHindIII切断部位を含み、且つその下流に成熟型CLuc遺伝子の5'末端から21bpに相補的な配列を含む。cLuc ORF -Sig R +XbaIは、5'末端にXbaI切断部位を含み、且つその下流に成熟型CLuc遺伝子の終始コドンを含めて24 bpに相補的な配列を含む。
【0060】
cLuc ORF -Sig F +HindIII: GCGC-AAGCTT-CAGGACTGTCCTTACGAACCT(配列番号105)
cLuc ORF -Sig R +XbaI: GCGC-TCTAGA-CTATTTGCATTCATCTGGTACTTC(配列番号106)
【0061】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP(4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸の混合溶液)200μM、プラスミドpCLuRA 1ng、KOD -Plus- (TOYOBO社)に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で2分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。
【0062】
増幅したDNA断片は、本DNA断片の両端に存在する各制限酵素切断部位をHindIII及びXbaIによって切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約1.6kbpの成熟型CLuc遺伝子を含むDNA断片を回収した。以下では、このDNA断片をDNA断片Bと呼ぶ。
【0063】
次いで、DNA断片A及びDNA断片Bを、DNA Ligation Kit ver.2.1(TaKaRa社)を用いて結合させた後、大腸菌DH5αに導入した。得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kit(SIGMA-ALDRICH社)を用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。この形質転換体より、プラスミドを調製し、SpeI及びBamHIによって切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約6.7kbpのDNA断片を回収した。以下では、このDNA断片をDNA断片Cと呼ぶ。
【0064】
一方、ベクターpLTex321s(特許文献2参照)より、低温誘導性プロモーターであるHSP12遺伝子のプロモーター(以下、「HSP12プロモーター」という)(配列番号107)を、PCR法によって増幅した。
【0065】
使用したプライマー配列は以下の通りである。-610-HSP12 IGR F +SpeIは、5'末端にSpeI切断部位を含み、且つその下流にHSP12プロモーター領域の5'末端から19bpに相補的な配列を含む。-610-HSP12 IGR R +BamHIは、5'末端にBamHI切断部位を含み、且つその下流にHSP12プロモーター領域の3'末端から28 bpに相補的な配列を含む。
【0066】
-610-HSP12 IGR F +SpeI: GG-ACTAGT-GATCCCACTAACGGCCCAG(配列番号108)
-610-HSP12 IGR R +BamHI: CG-GGATCC-TGTTGTATTTAGTTTTTTTTGTTTTGAG(配列番号109)
【0067】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、ベクターpLTex321s 1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。
【0068】
増幅したDNA断片は、本DNA断片の両端に存在する各制限酵素切断部位をSpeI及びBamHIによって切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約600bpのHSP12プロモーター領域断片を回収した。以下では、このHSP12プロモーター領域断片をDNA断片Dと呼ぶ。
【0069】
DNA断片C及びDNA断片DをDNA Ligation Kit ver.2.1を用いて結合させた後、大腸菌DH5αに導入した。得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。この形質転換体より、プラスミドpCLuRA-sを調製した。当該プラスミドpCLuRA-sでは、HSP12プロモーターの下流に成熟型CLuc遺伝子が挿入されている。
【0070】
〔実施例2〕サッカロミセス・セレビシエ由来分泌シグナルペプチドの単離
出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ由来の膜タンパク質及び分泌タンパク質に存在する分泌シグナルペプチドの抽出を以下の方法によって行った。
【0071】
出芽酵母ゲノムデータベースであるMIPS CYGD (http://mips.gsf.de/genre/proj/yeast/)のsubcellular localization tableから、Plasma membrane、Integral membrane、Cell periphery、Cell wall、Extracellular、ER(Endoplasmic reticulum)及びGolgiの各カテゴリーに含まれる1,037遺伝子を抽出した。
【0072】
上記データベースより抽出した各遺伝子の塩基配列にコードされる各アミノ酸配列から、膜貫通部位予測プログラム及び分泌シグナルペプチド予測プログラムである、TMHMM 2.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM/)、Phobius(http://phobius.cgb.ki.se/)、SOSUIsignalBeta(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/~sosui/proteome/sosuisignal/sosuisignal_submit.html)及びSignalP 3.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて、膜貫通部位及び分泌シグナルペプチドの予測を行った。さらに、本解析によって得られた結果に基づき、複数のこれら予測プログラムによって分泌シグナルペプチドを予測できた440種類のタンパク質をコードする遺伝子について、予測された分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の抽出を行った(表3)。
【0073】
下記の表3には、出芽酵母ゲノム情報から抽出した分泌シグナルペプチドに関して、上記440種類のタンパク質をコードする遺伝子の系統的遺伝子名、一般遺伝子名、これらタンパク質をコードする遺伝子において予測された分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の塩基配列及びアミノ酸配列(これら塩基配列及びアミノ酸配列の各配列番号は、表3において右欄に併記した配列番号である)、並びにこれら分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の増幅に使用したプライマー(下記において、1st PCR産物を増幅するために用いた合成プライマーの塩基配列;これらプライマーの各配列番号は、表3において右欄に併記した配列番号である)を示す。
【0074】
【表3】





















【0075】
表3に示す分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を、サッカロミセス・セレビシエのゲノムDNAからPCR法によって増幅した。PCRにおいて使用した各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域に対する合成プライマー配列は、表3の通りである。各forwardプライマーの5'末端には、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーターの3'末端から10bpに相補的な配列を含む。また、各reverseプライマーの5'末端には、成熟型CLuc遺伝子の5'末端から10bpに相補的な配列を含む。
【0076】
PCRは、各々のプライマー 300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、Yeast Genomic DNA(Saccharomyces cerevisiae S288C株由来)(Invitrogen社)1ng、KOD -Plus- に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーター及び成熟型CLuc遺伝子に10bpの相補的な領域を両端に有し、且つ各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片を得た。以下では、これらの各DNA断片を各1st PCR産物と呼ぶ。
【0077】
また、対照として、上記の各1st PCR産物と同様に、HSP12プロモーター及び成熟型CLuc遺伝子に10bpの相補的な領域を両端に有し、且つ従来の酵母発現系で用いられているα-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域(塩基配列:配列番号1768、アミノ酸配列:配列番号1769)を含むDNA断片(以下、「DNA断片E」という)及び酵母ウイルス(M28ウイルス)毒素(K28 prepro-toxin)由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域(塩基配列:配列番号1770、アミノ酸配列:配列番号1771)を含むDNA断片(以下、「DNA断片F」という)を、それぞれ以下の方法で調製した。
【0078】
DNA断片Eを、上述したプラスミドpCLuRA(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする)参照)からPCR法によって増幅した。
【0079】
使用した合成プライマー配列は以下の通りである。MF(ALPHA)1 Sig. Fの5'末端には、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーターの3'末端から10bpに相補的な配列を含む。また、MF(ALPHA)1 Sig. Rの5'末端には、成熟型CLuc遺伝子の5'末端から10bpに相補的な配列を含む。
【0080】
MF(ALPHA)1 Sig. F: aaatacaaca-ATGAGATTTCCTTCAATTTT(配列番号1772)
MF(ALPHA)1 Sig. R: gacagtcctg-AGCTTCAGCCTCTCTTTTCT(配列番号1773)
【0081】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、プラスミドpCLuRA 1ng、 KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液 50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを30サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、上記の1st PCR産物と同様に、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーター及び成熟型CLuc遺伝子に10bpの相補的な領域を両端に有し、且つα-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片Eを得た。
【0082】
一方、DNA断片Fの調製は以下の方法で行った。
低温誘導発現ベクターである上述したベクターpLTex321s(特許文献2参照)をXhoIとSphIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約7.3kbpのベクター断片を回収した。以下では、このベクター断片をDNA断片Gと呼ぶ。
【0083】
次いで、このDNA断片Gに発現タンパク質精製用タグである6x Hisタグ及びV5抗原タグを導入するため、下記の合成DNAを作製した。
【0084】
V5-H tag F: TCGAGGGTAAGCCTATCCCTAACCCTCTCCTCGGTCTCGATTCTACGCGTACCGGTCATCATCACCATCACCATTGAGCATG(配列番号1774)
V5-H tag R: CTCAATGGTGATGGTGATGATGACCGGTACGCGTAGAATCGAGACCGAGGAGAGGGTTAGGGATAGGCTTACCC(配列番号1775)
【0085】
これら合成DNAをアニーリングさせた後、この2本鎖合成DNAとDNA断片Gとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いて結合させた後、大腸菌DH5αに導入した。
【0086】
得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。この形質転換体より、ベクターpLTex321sV5Hを調製した。
【0087】
得られたベクターpLTex321sV5HをSmaIとEcoRIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約7.4kbpのベクター断片を回収した。以下では、このベクター断片をDNA断片Hと呼ぶ。
【0088】
次いで、DNA断片Hに酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を導入するため、下記の合成DNAを作製した。
【0089】
K28 PPT Sig. F: ATGGAATCTGTTTCTTCTTTGTTTAATATTTTTTCTACTATTATGGTTAATTATAAATCTTTGGTTTTGG(配列番号1776)
K28 PPT Sig. R: GGAATTCCTGCAGCCCGGGCAAATTAGAAACAGACAACAAAGCCAAAACCAAAGATTTATAATTAACCAT(配列番号1777)
【0090】
これら合成DNAをアニーリングさせた後、Klenow fragment (TOYOBO)を用いて、アニーリングした2本鎖合成DNAの各鎖の3'末端の伸長反応を行った。伸長反応後、得られたDNA断片をEcoRIで切断し、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いて上記DNA断片Hと結合させ、大腸菌DH5αに導入した。
【0091】
得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。この形質転換体より、ベクターpLTex321sV5H K28を調製した。
【0092】
さらに、ベクターpLTex321sV5H K28に導入された酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の3'末端を、PCR法を用いて伸長させた。
【0093】
使用した合成プライマー配列は、以下の通りである。K28 Sig. Fは、ベクターpLTex321sV5H K28中の酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の5'末端から24塩基を含む配列である。K28 Sig. R (36)は、ベクターpLTex321sV5H K28中の酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の3'末端から25塩基に相補的なDNA配列、伸長させる5アミノ酸残基をコードするDNA配列並びにSmaI、PstI及びEcoRI制限酵素切断部位を含むDNA配列から成る。
【0094】
K28 Sig. F: ATGGAATCTGTTTCTTCTTTGTTT (配列番号1778)
K28 Sig. R (36): GGAATTCCTGCAGCCCGGG-ACCTCTAGCATATTT-CAAATTAGAAACAGACAACAAAGCC(配列番号1779)
【0095】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、ベクターpLTex321sV5H K28 1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で30秒(伸長)のサイクルを30サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。
【0096】
当該PCRによって得られたDNA断片をEcoRIで処理した後、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いて上記のDNA断片Hと結合させ、大腸菌DH5αに導入した。
【0097】
得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。この形質転換体より、ベクターpLTex321sV5H K28Lを調製した。
【0098】
ベクターpLTex321sV5H K28Lを鋳型とし、PCR法によって、酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片(DNA断片F)を増幅した。使用した合成プライマーは以下の通りである。K28L Sig. Fの5'末端には、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーターの3'末端から10 bpに相補的な配列を含む。また、K28L Sig. Rの5'末端には、成熟型CLuc遺伝子の5'末端から10bpに相補的な配列を含む。
【0099】
K28L Sig. F: aaatacaaca-ATGGAATCTGTTTCTTCTTT(配列番号1780)
K28L Sig. R: gacagtcctg-ACCTCTAGCATATTTCAAAT(配列番号1781)
【0100】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、ベクターpLTex321sV5H K28L 1ng、 KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で15秒、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを30サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、上記の1st PCR産物と同様に、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーター及び成熟型CLuc遺伝子に10bpの相補的な領域を両端に有し、且つ酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片(DNA断片F)を得た。
【0101】
さらに、各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片の両端に存在するプラスミドpCLuRA-sに相補的な領域を伸長させるため、PCR法により増幅を行った。
【0102】
使用した合成プライマーの配列は以下の通りである。2nd PCR Fは、HSP12プロモーター領域の3'末端から50 bpに相補的な配列から成る。2nd PCR Rは、成熟型CLuc遺伝子の5'末端から50 bpに相補的な配列から成る。
【0103】
2nd PCR F: TTCGATAATCTCAAACAAACAACTCAAAACAAAAAAAACT-AAATACAACA(配列番号1782)
2nd PCR R: CAGGAAGTTGGAACTGTGTTTGGTGGATCAGGTTCGTAAG-GACAGTCCTG(配列番号1783)
【0104】
PCRは各々のプライマー300nM、MgSO41mM、dNTP 200μM、及び10倍に希釈した各1st PCR産物、DNA断片E又はDNA断片F 1μl、並びにKOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、プラスミドpCLuRA-sに含まれるHSP12プロモーター及び成熟型CLuc遺伝子に50bpの相補的な領域を両端に有し、且つ440種類の各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片、α-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片又は酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むDNA断片を得た。以下では、これらのDNA断片を各2nd PCR産物と呼ぶ。
【0105】
〔実施例3〕分泌シグナルペプチドライブラリーの構築
実施例2において得られた各2nd PCR産物及び実施例1において作製したレポーターベクターpCLuRA-sを用いて、サッカロミセス・セレビシエを宿主とした分泌シグナルペプチドライブラリーの構築を以下のように行った。
【0106】
プラスミドpCLuRA-sをBamHIとHindIIIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、約7.3kbpのDNA断片を回収した。以下では、このDNA断片をDNA断片Iと呼ぶ。
【0107】
本ライブラリーの宿主としてはサッカロミセス・セレビシエBY4743 PEP4Δ PRB1Δ株を用いた。当該BY4743 PEP4Δ PRB1Δ株は、サッカロミセス・セレビシエBY4741株(Invitrogen社)及びBY4742株(Invitrogen社)において、主要なプロテアーゼをコードする遺伝子であるPEP4及びPRB1を、Hegemannらの方法(http://mips.gsf.de/proj/yeast/info/tools/hegemann/loxp_kanmx.html)により、両遺伝子を破壊したBY4741 PEP4Δ PRB1Δ株及びBY4742 PEP4Δ PRB1Δ株を作製し、両株を交接することで作製した。
【0108】
まず、プラスミドpUG6 (http://mips.gsf.de/proj/yeast/info/tools/hegemann/loxp_kanmx.html)を鋳型とし、PCR法によって、PEP4遺伝子を破壊するために必要なDNA断片を増幅した。使用した合成プライマーは以下の通りである。dPEP4 kan Fは、5’末端に、PEP4遺伝子上流40 bpに相補的な配列を含み、且つ3’末端に、pUG6のloxP-kanMX-loxP モジュール領域の上流19 bpに相補的な配列を含む。また、dPEP4 kan Rは、5’末端に、PEP4遺伝子下流40 bpに相補的な配列を含み、且つ3’末端に、pUG6のloxP-kanMX-loxP モジュール領域の下流22 bpに相補的な配列を含む。
【0109】
dPEP4 kan F: ATTTAATCCAAATAAAATTCAAACAAAAACCAAAACTAAC-CAGCTGAAGCTTCGTACGC(配列番号1784)
dPEP4 kan R: GGCAGAAAAGGATAGGGCGGAGAAGTAAGAAAAGTTTAGC-GCATAGGCCACTAGTGGATCTG(配列番号1785)
【0110】
PCRは、各々のプライマー 300 nM、MgSO4 1 mM、dNTP 200 μM、プラスミドpUG6 1 ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50 μlを用いて、第1ステップ:94℃で15秒、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で2分(伸長)のサイクルを30サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、PEP4遺伝子の上流40 bp及び下流40 bpに相補的な配列をそれぞれ両端に持ち、且つloxP-kanMX-loxPモジュール領域を含んだDNA断片を得た。本DNA断片を用いて、Hegemannらの方法によりBY4741株及びBY4742株のPEP4遺伝子の破壊をそれぞれ行うことで、BY4741 PEP4Δ株及びBY4742 PEP4Δ株を得た。
【0111】
さらに、PRB1遺伝子を破壊するために必要なDNA断片をPCR法によって作製した。使用した合成プライマーは以下の通りである。dPRB1 kan Fは、5’末端に、PRB1遺伝子上流40 bpに相補的な配列を含み、且つ3’末端に、pUG6のloxP-kanMX-loxP モジュール領域の上流19 bpに相補的な配列を含む。また、dPRB1 kan Rは、5’末端に、PRB1遺伝子下流40 bpに相補的な配列を含み、且つ3’末端に、pUG6のloxP-kanMX-loxP モジュール領域の下流22 bpに相補的な配列を含む。
【0112】
dPRB1 kan F: CAATAAAAAAACAAACTAAACCTAATTCTAACAAGCAAAG-CAGCTGAAGCTTCGTACGC(配列番号1786)
dPRB1 kan R: AAGAAAAAAAAAAGCAGCTGAAATTTTTCTAAATGAAGAA-GCATAGGCCACTAGTGGATCTG(配列番号1787)
【0113】
PCRは、各々のプライマー 300 nM、MgSO4 1 mM、dNTP 200 μM、プラスミドpUG6 1 ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50 μlを用いて、第1ステップ:94℃で15秒、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で2分(伸長)のサイクルを30サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。これによって、PRB1遺伝子の上流40 bp及び下流40 bpに相補的な配列をそれぞれ両端に持ち、且つloxP-kanMX-loxPモジュール領域を含んだDNA断片を得た。
【0114】
本DNA断片を用いて、Hegemannらの方法により、BY4741 PEP4Δ株及びBY4742 PEP4Δ株のPRB1遺伝子の破壊をそれぞれ行い、BY4741 PEP4Δ PRB1Δ株及びBY4742 PEP4Δ PRB1Δ株を得た。
【0115】
得られた両株(BY4741 PEP4Δ PRB1Δ株及びBY4742 PEP4Δ PRB1Δ株)を定法に従い交接することで、最終的にBY4743 PEP4Δ PRB1Δ株を得た。
【0116】
BY4743 PEP4Δ PRB1Δ株の各2nd PCR産物及びDNA断片Iを用いた形質転換は、下記の方法により行った。
【0117】
BY4743 PEP4Δ PRB1Δ株をYPD(Yeast extract 1%、Peptone 2%及びGlucose 2%)培地中、30℃で定常期まで培養した後、本培養液250μlから遠心分離によって集菌し、100μlの滅菌水で菌体を洗浄し、さらに遠心分離によって集菌を行った。
【0118】
得られた菌体を、60μlの酵母形質転換溶液(ポリエチレングリコール(PEG)4,000 33.3%、酢酸リチウム100mM、キャリアーDNA(Clontech社)250μg/ml、DNA断片I 10ng、10倍希釈した各2nd PCR産物 2μl)に懸濁し、30℃で30分間培養した。30分間の培養後、ジメチルスルホオキシド(DMSO)6μlを加え、42℃でさらに1時間培養した。1時間の培養後、培養液10μlを、SD+HL培地(Yeast nitrogen base without amino acid 0.67%、Glucose 2%、L-Histidine HCl 0.002%、L-Leucine 0.01%)1mlに植菌し、30℃で3日間の培養を行った。これによって、宿主であるBY4743 PEP4Δ PRB1Δ株内で、DNA断片Iと各2nd PCR産物との相同組換えが生じた。HSP12プロモーターの制御下(下流に)、各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域が成熟型CLuc遺伝子の上流に融合したレポータープラスミドを保持したBY4743 PEP4Δ PRB1Δ株のみを、ウラシル要求性によって選択的に生育させることで、サッカロミセス・セレビシエを宿主とした分泌シグナルペプチドライブラリーを構築した。
【0119】
また、得られた幾つかの株については、これらのレポータープラスミドの配列解析を行い、目的のプラスミドが酵母細胞内で形成されていることを確認した。
【0120】
〔実施例4〕分泌シグナルペプチドの分泌能力についての評価
実施例3において構築されたサッカロミセス・セレビシエを宿主とした分泌シグナルペプチドライブラリーを用いて、各分泌シグナルペプチドの分泌能力を、成熟型CLuc(分泌型ルシフェラーゼ)を使用して、以下のように評価した。
【0121】
実施例3で作製した各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含むレポータープラスミドを保持したサッカロミセス・セレビシエ(分泌シグナルペプチドライブラリー)を、SD+HL+PPB(Yeast nitrogen base without amino acid 0.67%、Glucose 2%、L-Histidine HCl 0.002%、L-Leucine 0.01%、Potassium phosphate buffer(pH 6.0) 200mM)培地1mlに植菌し、30℃で3日間の培養を行った。これらの培養液を前培養とし、その一部を次の本培養に用いた。
【0122】
前培養によって得られた培養液10μlを、SD+HL+PPB培地1mlに植菌し、30℃で対数増殖期まで培養した。
【0123】
対数増殖期まで培養を行った培養液を用いて、培養液中に分泌された成熟型CLuc(分泌型ルシフェラーゼ)の活性測定を行うことで、各分泌シグナルペプチドの分泌能力を評価した。
【0124】
ルシフェラーゼの活性測定方法は、下記のとおりである。
上記本培養液20μlに2.5μMルシフェリン溶液80μlを加えた後、2秒後に5秒間の発光量測定を行った。また、同時に、各本培養液200μlを用いて、600nmにおける各本培養液の吸光度の測定を行い、本測定値で発光量を除算することで、吸光度によるルシフェラーゼ活性値のノーマライゼーションを行った。
【0125】
本結果を以下の表4に示す。表4には、通常培養温度(30℃)での各分泌シグナルペプチドの分泌効率について、各分泌シグナルペプチド(各分泌シグナルペプチドが由来する系統的遺伝子名及び一般遺伝子名で表記)のα-因子由来分泌シグナルペプチドに対する相対的な分泌効率で示す。なお、既存の分泌発現系において用いられている分泌シグナルペプチドを、網掛けで示す。また、α-因子由来分泌シグナルペプチドの分泌効率結果は、一般遺伝子名「α-因子」と称した箇所である。酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドの分泌効率結果は、一般遺伝子名「K28L」と称した箇所の値である。
【0126】
【表4】








【0127】
さらに、低温条件下での各分泌シグナルペプチドの分泌能力の評価を行うため、上記の各本培養液の培養温度を15℃に低下させ、引き続き15℃で72時間培養した。低温培養後、上記ルシフェラーゼ活性測定方法を用いて、発光量及び吸光度の測定を行い、同様にノーマライズした活性値を得た。
【0128】
本結果を以下の表5に示す。表5には、低温培養温度(15℃)での各分泌シグナルペプチドの分泌効率について、各分泌シグナルペプチド(各分泌シグナルペプチドが由来する系統的遺伝子名及び一般遺伝子名で表記)のα-因子由来分泌シグナルペプチドに対する相対的な分泌効率で示す。なお、既存の分泌発現系において用いられている分泌シグナルペプチドを、網掛けで示す。また、α-因子由来分泌シグナルペプチドの分泌効率結果は、一般遺伝子名「α-因子」と称した箇所である。酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドの分泌効率結果は、一般遺伝子名「K28L」と称した箇所の値である。
【0129】
【表5】








【0130】
表4及び表5に示すように、各培養温度条件における各分泌シグナルペプチドの分泌能力の評価を、酵母細胞外に分泌された分泌型ルシフェラーゼの活性測定により行った結果、全ての分泌シグナルペプチドにおいて酵母培養液中にルシフェラーゼ活性が得られたが、これら440種類の分泌シグナルペプチドのうち、従来の酵母発現系における高効率な分泌タンパク質発現に用いられていたα-因子由来分泌シグナルペプチドの2倍を超える分泌能力を示す分泌シグナルペプチドが、通常培養温度(30℃)では9種類、低温培養温度(15℃)では51種類が、新規に同定された。これら同定された分泌シグナルペプチドには、分泌タンパク質由来だけでなく膜タンパク質に由来するものも含まれていた。
【0131】
〔実施例5〕分泌シグナルペプチドの他のタンパク質に対する分泌能力についての評価
実施例4では、分泌シグナルペプチドの分泌能力を、分泌型ルシフェラーゼ(成熟型CLuc)について評価した。本実施例では、分泌シグナルペプチドの他のタンパク質の分泌発現における有効性を検討するため、表3に示された分泌シグナルペプチド中、下記の表6に示す16種類の分泌シグナルペプチドの分泌能力を、簡便な活性測定方法が確立されている分泌タンパク質であるヒト膵臓α-アミラーゼ(cDNA:配列番号1788、アミノ酸配列:配列番号1789)について評価した。なお、宿主としては、サッカロミセス・セレビシエを用いた。
【0132】
下記の表6には、本実施例で用いた分泌シグナルペプチドを、由来する遺伝子の系統的遺伝子名及び一般遺伝子名で示し、また、各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域をサッカロミセス・セレビシエのゲノムDNAより増幅するために用いた合成プライマーの塩基配列(配列番号:右欄に併記)を示す。
【0133】
【表6】

【0134】
先ず、実施例2で作製した低温誘導発現ベクターpLTex321sV5Hに上述の16種類の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を導入するため、各遺伝子領域をサッカロミセス・セレビシエのゲノムDNAからPCR法によって増幅した。各遺伝子領域の合成プライマーは、表6の通りである。各Reverseプライマーの5'末端はSmaI切断部位中の3塩基(GGG)の配列を含む。各Reverseプライマーがこの配列を含むことで、下記のPCRによって得られる各分泌シグナルペプチドをコードするDNA断片を、SmaIで切断したベクターpLTex321sV5Hに導入することで、再びSmaI切断部位が形成される。
【0135】
PCRは、各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、Yeast Genomic DNA 1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。さらに、本PCRによって得られた各DNA断片の5'末端へリン酸基を付加するため、T4 Polynucleotide Kinase(TOYOBO社)に添付されたバッファー(1x)、ATP 1mM及びT4 Polynucleotide Kinase 20Uを含む反応液100μlを用いて、37℃で1時間の反応を行い、各DNA断片をリン酸化した。
【0136】
リン酸化処理後、アガロース電気泳動による各DNA断片の分画を行い、それぞれ目的の鎖長のDNA断片を回収した。得られた16種類の各DNA断片のうち、YGR014w遺伝子及びYBR078w遺伝子由来の分泌シグナルペプチドをコードするDNA断片には、SmaI切断部位及びXhoI切断部位がそれぞれ含まれていたため、両DNA断片以外の14種類の各DNA断片を各DNA断片Jとし、一方、YGR014w遺伝子及びYBR078w遺伝子由来の2種類の分泌シグナルペプチドをコードするDNA断片を各DNA断片Kとして、以下の方法により各分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼ(配列番号1789に示すヒト膵臓α-アミラーゼのアミノ酸配列において、1〜15番目のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチドを除くアミノ酸配列から成るタンパク質)との融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現プラスミドの構築に用いた。
【0137】
低温誘導発現ベクターpLTex321sV5HをSmaIで切断した後、得られたDNA断片に対して、E.coli Alkaline Phosphatase(TOYOBO社)に添付されたバッファー(1x)及びE.coli Alkaline Phosphatase 2Uを含む反応液100μlを用いて、60℃で30分間の反応を行い、5'末端のリン酸基が除去されたDNA断片を得た。これをDNA断片Lと呼ぶ。
【0138】
次いで、各DNA断片JとDNA断片Lとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いてそれぞれ結合させた後、大腸菌DH5αにそれぞれ導入した。得られたそれぞれの形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミド(発現ベクター)を保有した形質転換体を判別した。これらの形質転換体より、14種類の各分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域が導入された発現ベクターをそれぞれ調製した。さらに、得られた各発現ベクターをSmaIとXhoIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、それぞれ目的とするDNA断片を回収した。これらを各DNA断片Mと呼ぶ。
【0139】
一方、ヒト膵臓α-アミラーゼをコードする遺伝子(AMY2A、cDNA:配列番号1788)を含むプラスミドから、分泌シグナルペプチドを含まない成熟型α-アミラーゼをコードする遺伝子領域をPCR法によって増幅した。
【0140】
使用した合成プライマー配列は、下記の通りである。hAMY2A ORF F -Sigは、成熟型α-アミラーゼをコードする遺伝子領域の5'末端から25bpの配列から成る。hAMY2A ORF R +XhoIは、5'末端にXhoI切断部位を含み、且つその下流にヒト膵臓α-アミラーゼをコードする遺伝子領域の終止コドンを含めた27bpに相補的な配列を含む。
【0141】
hAMY2A ORF F -Sig: CAGTATTCCCCAAATACACAACAAG(配列番号1822)
hAMY2A ORF R +XhoI: GCGC-CTCGAG-TTACAATTTAGATTCAGCATGAATTGC(配列番号1823)
【0142】
PCRは上記の各プライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、ヒト膵臓α-アミラーゼをコードする遺伝子(AMY2A)を含むプラスミド1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(x1)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で2分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。
【0143】
得られたPCR産物をXhoIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、目的とするDNA断片(約1.5kbp)を回収した。これをDNA断片Nと呼ぶ。
【0144】
次いで、各DNA断片MとDNA断片Nとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いてそれぞれ結合させた後、大腸菌DH5αにそれぞれ導入した。得られたそれぞれの形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、各分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミド(発現ベクター)を保有した各形質転換体を判別した。得られた各形質転換体より、14種類の各融合タンパク質(分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質)発現ベクターをそれぞれ調製した。
【0145】
YGR014w遺伝子及びYBR078w遺伝子由来の分泌シグナルペプチドを用いた融合タンパク質(分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質)発現ベクターの作製は、以下の方法で行った。
【0146】
成熟型α-アミラーゼをコードする遺伝子領域を、合成プライマーhAMY2A ORF F -Sig +SmaI及び上述のhAMY2A ORF R +XhoI(配列番号1823)を用いてPCR法によって増幅した。
【0147】
使用した合成プライマーhAMY2A ORF F -Sig +SmaIの配列は、下記の通りである。hAMY2A ORF F -Sig +SmaIは、5'末端にSmaI切断部位中の3塩基(GGG)の配列を含み、且つその下流に成熟型α-アミラーゼをコードする遺伝子領域の5'末端から25bpの配列を含む。
【0148】
hAMY2A ORF F -Sig +SmaI: GGG-CAGTATTCCCCAAATACACAACAAG(配列番号1824)
【0149】
PCRは上記の各プライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、ヒト膵臓α-アミラーゼをコードする遺伝子(AMY2A)を含むプラスミド1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(x1)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ:94℃で2分、第2ステップ:94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で2分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ:68℃で5分のステップで行った。得られたPCR産物をXhoIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、目的とするDNA断片(約1.5kbp)を回収した。これをDNA断片Oと呼ぶ。
【0150】
一方、低温誘導発現ベクターpLTex321sV5HをSmaI及びXhoIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、目的とするDNA断片(約7.4kbp)を回収した。これをDNA断片Pと呼ぶ。
【0151】
次いで、DNA断片OとDNA断片Pとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いて結合させた後、大腸菌DH5αに導入した。得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。本形質転換体よりプラスミドを調製した。得られたプラスミドをSmaIで切断した後、本DNA断片に対して、E.coli Alkaline Phosphataseに添付されたバッファー(x1)及びE.coli Alkaline Phosphatase 2Uを含む反応液100μlを用いて、60℃で30分間の反応を行うことで、5'末端のリン酸基が除去されたDNA断片を得た。これをDNA断片Qと呼ぶ。
【0152】
さらに、各DNA断片KとDNA断片Qとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いてそれぞれ結合させた後、大腸菌DH5αにそれぞれ導入した。得られたそれぞれの形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、各分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミド(発現ベクター)を保有した各形質転換体を判別した。得られた各形質転換体より、2種類の融合タンパク質(分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質)発現ベクターをそれぞれ調製した。
【0153】
また、対照として、実施例3に記載のα-因子由来分泌シグナルペプチド又は酵母ウイルス毒素(K28 prepro-toxin)由来分泌シグナルペプチドを用いた融合タンパク質(分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質)発現ベクターを下記の方法により作製した。
【0154】
α-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を、プラスミドpCLuRA(国際出願第PCT/JP2006/311597号(特願2005-169768号を優先権の基礎とする)参照)からPCR法によって増幅した。
【0155】
使用した合成プライマー配列は以下の通りである。MF(ALPHA)1 Sig. 89aa Fは、α-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の5'末端から26bpの配列を含む。また、MF(ALPHA)1 Sig. 89aa R +SmaIは、5'末端にSmaI切断部位中の3塩基(GGG)の配列を含み、且つその下流にα-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域の3'末端から22bpに相補的な配列を含む。
【0156】
MF(ALPHA)1 Sig. 89aa F: ATGAGATTTCCTTCAATTTTTACTGC(配列番号1825)
MF(ALPHA)1 Sig. 89aa R +SmaI: GGG-AGCTTCAGCCTCTCTTTTCTCG(配列番号1826)
【0157】
PCRは各々のプライマー300nM、MgSO4 1mM、dNTP 200μM、プラスミドpCLuRA 1ng、KOD -Plus-に添付されたバッファー(1x)及びKOD -Plus- 1Uを含む反応液50μlを用いて、第1ステップ: 94℃で2分、第2ステップ: 94℃で15秒(変性)、50℃で30秒(アニーリング)及び68℃で1分(伸長)のサイクルを35サイクル、第3ステップ: 68℃で5分のステップで行った。得られたDNA断片に対して、T4 polynucleotide kinaseに添付されたバッファー(1x)、ATP 1mM及びT4 polynucleotide kinase 20Uを含む反応液100μlを用いて、37℃で1時間の反応を行うことで、本DNA断片の5'末端にリン酸基の付加を行った。
【0158】
リン酸化処理後、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、目的のDNA断片(270bp)を回収した。これをDNA断片Rと呼ぶ。
【0159】
次いで、DNA断片R及びDNA断片Lを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いて結合させた後、大腸菌DH5αに導入した。得られた形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、目的のプラスミド(発現ベクター)を保有した形質転換体を判別した。本形質転換体より、α-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域が導入された発現ベクター(pLTex321sV5Hα)を調製した。
【0160】
さらに、α-因子由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含む発現ベクターpLTex321sV5Hα及び実施例2で作製した酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子領域を含む発現ベクターpLTex321sV5H K28Lへ、それぞれ成熟型α-アミラーゼをコードする遺伝子領域を導入するため、下記の操作を行った。
【0161】
双方の発現ベクターをSmaI及びXhoIで切断し、アガロース電気泳動によるDNA断片の分画を行い、それぞれ目的とするDNA断片を回収した。得られた各DNA断片とDNA断片Nとを、DNA Ligation Kit ver.2.1を用いてそれぞれ結合させた後、大腸菌DH5αにそれぞれ導入した。得られたそれぞれの形質転換体を一晩培養後、GenElute Plasmid Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素切断パターン及び塩基配列解析により、各分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミド(発現ベクター)を保有した各形質転換体を判別した。得られた各形質転換体より、2種類の融合タンパク質(分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質)発現ベクターをそれぞれ調製した。
【0162】
以上の操作により得られた表6に示す16種類の各分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター、並びに、対照として、α-因子由来分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター及び酵母ウイルス毒素(K28 prepro-toxin)由来分泌シグナルペプチドと成熟型α-アミラーゼとの融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いて、EZ Yeast transformation Kit(Qbiogene社)によりサッカロミセス・セレビシエBY4743 PEP4Δ PRB1Δ株の形質転換を行い、SD+HLプレート培地(Yeast nitrogen base without amino acid 0.67%、Glucose 2%、L-Histidine HCl 0.002%、L-Leucine 0.01%、agar 2%)を用いて、各発現ベクターを保持した形質転換株をそれぞれ得た。
【0163】
得られた各形質転換株におけるヒト膵臓α-アミラーゼの分泌発現量を評価するため、以下の実験を行った。
【0164】
得られた各形質転換株を、1mlのSD+HL+PPB培地に植菌し、30℃にて3日間前培養を行った。これらの培養液を前培養とし、その一部を次の本培養に用いた。
【0165】
次いで、前培養によって得られた各培養液10μlを、SD+HL+PPB培地1mlに植菌し、30℃で対数増殖期まで培養を行った。その後、各本培養液の培養温度を10℃に低下させ、引き続き10℃にて168時間培養を行った。
【0166】
168時間の低温培養後、各本培養液中に分泌されたヒト膵臓α-アミラーゼの活性測定を行うことで、各形質転換株の分泌量の評価を行った。ヒト膵臓α-アミラーゼの活性測定は、各本培養液の上清5μlを用いて、アミラーゼ測定試薬(ダイヤカラーリキッドAMY、小野薬品工業株式会社)を用いて行った。また、同時に、各本培養液200μlを用いて、600nmにおける各本培養液の吸光度測定を行い、本測定値で活性値を除算することで、吸光度によるヒト膵臓α-アミラーゼの活性値のノーマライゼーションを行った。
【0167】
本結果を以下の表7に示す。表7には、従来の酵母発現系に用いられていた分泌シグナルペプチド(α-因子由来分泌シグナルペプチド及び酵母ウイルス毒素(K28 prepro-toxin)由来分泌シグナルペプチド)及び実施例1で見出した16種類の分泌シグナルペプチドを用いた場合のヒト膵臓α-アミラーゼの分泌発現量を、α-因子由来分泌シグナルペプチドを用いた場合の分泌発現量に対する分泌効率として示す。なお、表7において、各分泌シグナルペプチドは、各分泌シグナルペプチドが由来する系統的遺伝子名/一般遺伝子名で表す。また、α-因子由来分泌シグナルペプチドは、一般遺伝子名「α-因子」と称した箇所である。酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドは、一般遺伝子名「K28L」と称した箇所である。
【0168】
【表7】

【0169】
表7に示すように、16種類の分泌シグナルペプチドを用いてヒト膵臓α-アミラーゼの分泌発現を試みた結果、何れの分泌シグナルペプチドを用いた場合においても、従来の酵母発現系において高効率な分泌タンパク質発現に用いられていたα-因子由来分泌シグナルペプチド及び酵母ウイルス毒素由来分泌シグナルペプチドよりも、高い分泌発現量を確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)若しくは(b)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドを含むペプチドをコードするDNA又は以下の(c)〜(e)のいずれか1記載の分泌シグナルペプチドを含むペプチドをコードするDNAと外来遺伝子とを含む酵母用分泌性発現ベクターであって、該ペプチドが10℃において分泌シグナル活性を有し、α-因子由来分泌シグナルペプチドと比較して2倍を超える分泌能力を有するものである、前記酵母用分泌性発現ベクター。
(a)配列番号42、2、10、4、72、403、22、12、16、14、20、6、18、8、26及び24のいずれか1記載のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチドを含むペプチド
(b)上記(a)の分泌シグナルペプチドを含むペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ10℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドを含むペプチド
(c)配列番号41、1、9、3、71、402、21、11、15、13、19、5、17、7、25及び23のいずれか1記載の塩基配列から成るDNA
(d)上記(c)のDNAにおいて、1又は複数の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、10℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドを含むペプチドをコードするDNA
(e)上記(c)のDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ10℃において分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチドを含むペプチドをコードするDNA
【請求項2】
前記分泌シグナルペプチドを含むペプチドがサッカロミセス・セレビシエに由来するものである、請求項1記載の酵母用分泌性発現ベクター。
【請求項3】
請求項1又は2記載の酵母用分泌性発現ベクターによって形質転換された酵母形質転換体。
【請求項4】
上記酵母がサッカロミセス・セレビシエである、請求項3記載の酵母形質転換体。
【請求項5】
請求項3又は4記載の酵母形質転換体を0℃〜20℃で培養することを含む、タンパク質の製造方法。

【公開番号】特開2013−9685(P2013−9685A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223931(P2012−223931)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2006−297923(P2006−297923)の分割
【原出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】