説明

高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法及びそのシステム

【課題】高含水バイオマス等のガス化、分解及び改質時に雰囲気を高圧化せずに、高含水バイオマス等を比較的低温で効率良く分解・改質して、H2、CH4、CO、CO2等の有益なガスを生成するとともに、付加価値の高い金属粒子を副産物として回収する。
【解決手段】有益ガス生成手段16を用いて、高含水バイオマス等11を熱分解することによりガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気13と金属担持担体14とに接触させることによりガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持担体を触媒として用いて、高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方をガス化する方法及びシステムと、使用済みの金属担持担体から金属粒子を回収する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜排せつ法の施行により家畜排せつ物の野積みが禁止されたため、家畜排せつ物の高効率処理法が切望されている。上記家畜排せつ物は、従来、農作物の堆肥として利用したり、或いはメタン発酵させてエネルギーとして利用していた。
一方、下水汚泥は、従来、単純に燃焼させて得られる熱の利用が主であった。
しかし、上記下水汚泥の単純燃焼により熱利用では、僅かな排熱を回収できるだけであり、エネルギーの回収効率が極めて低かった。
この点を解消するために、製紙工場廃水などの液状バイオマスを触媒の存在下で加熱及び加圧処理する燃料ガスの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この燃料ガスの製造方法では、Niを担持した炭素担体からなるNi担持多孔質触媒の存在下で液状バイオマスを250〜400℃の温度で加熱するとともに、1〜20MPaの圧力で加圧する。この触媒の寸法は0.3〜2mmであり、触媒のNi担持量は35〜50重量%である。また炭素担体のBET比表面積は150〜200m2/gであり、炭素担体の細孔径は1〜10nmである。更に液状バイオマスは、バイオマスが水中に粉砕分散された状態で存在している液状物、バイオマスが水中に粉砕分散されかつ部分的に溶解した状態で存在している液状物、或いはバイオマス由来の可溶成分が水中に溶解している液状物であり、上記触媒はこれらの液状物、即ち水溶液中の有機成分を選択的に細孔内に取込む機能を発揮する。
このように構成された燃料ガスの製造方法では、バイオマスを液状の形態として、高い効率で有用なガスに変換させることができるので、バイオマスからの燃料ガス製造コストを低減できる。またバイオマス系廃棄物を資源として再利用することにより、CO2削減を含む地球環境の保全に貢献できるようになっている。
【特許文献1】特開2003−246993号公報(請求項1〜3、段落[0008]、段落、[0009]、段落[0021]、段落[0024]、段落[0025])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の家畜排せつ物の堆肥としての利用では、農地の富栄養化が進み、堆肥の消費量が減少してきており、家畜排せつ物の堆肥としての利用率が低下してきた。
また、上記従来の家畜排せつ物のメタン発酵では、発酵の進行が遅く、需要に見合うメタンを回収できない問題点があった。
更に、上記従来の特許文献1に示された燃料ガスの製造方法では、バイオマスのガス化雰囲気を大気圧より高い圧力にする必要があるため、堅牢なガス生成炉を必要とするとともに、高圧化に多くのエネルギーを必要とする問題点があった。
本発明の目的は、高含水バイオマスや廃棄物のガス化、分解及び改質時に雰囲気を高圧化せずに、高含水バイオマスや廃棄物を比較的低温で効率良く分解・改質して、H2、CH4、CO、CO2等の有益なガスを生成できる、高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法及びシステムを提供することにある。
本発明の別の目的は、使用済みの金属担持担体を燃料として用いることができるとともに、付加価値の高い金属粒子を副産物として回収できる、金属担持担体から金属粒子を回収する方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(以下、高含水バイオマス等という)11を加熱してガス及びタール状物質を生成し、ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気13と金属担持担体14とに接触させることによりガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法である。
請求項5に係る発明は、図1に示すように、高含水バイオマス等11を熱分解することによりガス及びタール状物質を生成し、ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気13と金属担持担体14とに接触させることによりガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する有益ガス生成手段16を備えた高含水バイオマス・廃棄物のガス化システムである。
請求項9に係る発明は、図1に示すように、請求項1ないし4いずれか1項に記載のガス化方法で用いられた使用済みの金属担持担体14を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化する工程と、ガス化後の金属担持担体14の残渣から金属粒子を回収する工程とを含む金属担持担体から金属粒子を回収する方法である。
請求項10に係る発明は、図1に示すように、請求項5ないし8いずれか1項に記載のガス化システムで用いられた使用済みの金属担持担体14を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化するガス化手段17と、ガス化後の金属担持担体14の残渣から金属粒子を回収する回収手段18とを備えた金属担持担体から金属粒子を回収するシステムである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に係る発明では、高含水バイオマス等を加熱してガス及びタール状物質を生成し、ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気と金属担持担体とに接触させることによりガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する。過熱水蒸気は上記タール状物質と水蒸気ガス化反応(シフト反応や水性ガス化反応)を起こし、金属担持担体はタール状物質を分解・改質する触媒として作用する。これにより、高含水バイオマス等をガス化するときに生成されるタール状物質を効率良く分解・改質して、H2、CH4、CO、CO2等の有益なガスを生成できる。また上記金属担持担体は高活性触媒として作用するため比較的低温でタールを分解・改質することができ、生成ガス(H2,CH4,CO,CO2等)は、火力発電、燃料電池、都市ガス、化学原料等に利用できる。また高含水バイオマス等の水分率が5〜60%と比較的多い状態で高含水バイオマス等をガス化できるので、高含水バイオマス等を乾燥するためのエネルギーを消費することなく、高含水バイオマス等の生成に由来する水分率を有する状態で或いは若干量の水分率を調整するだけで高含水バイオマス等を低エネルギーで効率良くガス化できる。
【0006】
請求項5に係る発明では、有益ガス生成手段で、高含水バイオマス等を熱分解することによりガス及びタール状物質を生成するとともに、ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気と金属担持担体とに接触させることによりガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する。これにより、請求項1に係る発明と同様に、高含水バイオマス等を熱分解してガス化するときに生成されるタール状物質を効率良く分解・改質して、H2、CH4、CO、CO2等の有益なガスを生成できる。また金属担持担体は高活性触媒として作用するため比較的低温でタールを分解・改質することができ、生成ガス(H2,CH4,CO,CO2等)は、火力発電、燃料電池、都市ガス、化学原料等に利用できる。また上記と同様に高含水バイオマス等の水分率が5〜60%と比較的多い状態で高含水バイオマス等をガス化できるので、高含水バイオマス等を低エネルギーで効率良くガス化できる。
【0007】
請求項9に係る発明では、上記ガス化方法で用いられた使用済みの金属担持担体を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化し、ガス化後の金属担持担体の残渣から金属粒子を回収したので、使用済みの触媒を燃料として用いることができるとともに、付加価値の高い金属粒子を副産物として回収できる。
請求項10に係る発明では、ガス化手段により、上記ガス化システムで用いられた使用済みの金属担持担体を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化し、回収手段により、上記ガス化後の金属担持担体の残渣から金属粒子を回収したので、請求項9に係る発明と同様に、使用済みの触媒を燃料として用いることができるとともに、付加価値の高い金属粒子を副産物として回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施の形態>
図1に示すように、高含水バイオマス等11のガス化システム及び金属粒子の回収システムは、高含水バイオマス等11の水分率を好ましくは5〜60%、より好ましくは10〜60%、更により好ましくは20〜40%に調整する水分率調整手段12と、この高含水バイオマス等11を熱分解して生成されたガス及びタール状物質を過熱水蒸気13及び金属担持担体14に接触させることにより上記ガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する有益ガス生成手段16と、使用済みの金属担持担体11を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化するガス化手段17と、ガス化後の金属担持担体14の残渣から金属粒子を回収する回収手段18とを備える。高含水バイオマス等11は、水分を極めて多く含む下水汚泥又は畜産廃棄物のいずれか一方又は双方である。畜産廃棄物としては、牛糞、鶏糞、豚糞などの家畜排せつ物が挙げられる。また水分率調整手段12は、高含水バイオマス等11の水分率が5〜60%の範囲内に入っていないときに用いられる。例えば、処理場で採取された下水汚泥の水分率が50%を越えるときには、水分調整手段12である脱水機などにより脱水されて上記水分率の範囲に調整され、農場から採取された畜産廃棄物の水分率が50%未満であるときには、水分調整手段12である水スプレーなどにより加水されて上記水分率の範囲に調整される。これにより、高含水バイオマス等11の水分率が5〜60%の範囲に入っているときには、水分率調整手段12は不要になる。ここで、高含水バイオマス等11の水分率を5〜60%の範囲に限定したのは、5%未満では高含水バイオマス等の供給時にこの高含水バイオマス等が帯電して供給用配管内面に付着し易くなり、結果として高含水バイオマス等を供給し難くなる問題点があり、60%を越えると冷ガス効率が殆どゼロになってしてしまうからである。ここで、冷ガス効率とは、高含水バイオマス等11の有するエネルギ(発熱量)に対する、この高含水バイオマス等11から発生した発熱し得るガスの有するエネルギ(発熱量)の割合をいう。
【0009】
上記金属担持担体14としては、Ni、Pt、Pd等の貴金属を担持したAl23、SiN、SiC等の担体からなる市販の触媒粒子を用いてもよく、或いは金属イオンを含む水溶液又は懸濁液を、イオン交換能を有する低品位炭粒子と接触させることにより調製された金属担持担体を用いてもよい。上記低品位炭粒子を用いた金属担持担体14では、金属イオンの金属としては、周期表第7族〜第12族の遷移金属が挙げられ、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、鉄等の金属が挙げられる。これらの金属は、殆どのものが天然の鉱物(鉱石を含む。)中に含まれているので、安価な低品位鉱物(低品位鉱石を含む。)を原料として利用することが好ましい。これらの低品位鉱物から所望の金属イオンを含む水溶液又は懸濁液を調製する方法としては、アンモニア水又は酸(硫酸、リン酸等)を用いて、低品位鉱物から所望の金属を抽出する方法が挙げられる。またイオン交換能を有する低品位炭粒子としては、泥炭、亜炭、褐炭等が挙げられ、褐炭が特に好ましい。この低品位炭粒子の平均粒径は1〜5mm、好ましくは1〜3mmの範囲に設定される。ここで、低品位炭粒子の平均粒径を1〜5mmの範囲に限定したのは、1mm未満では金属担持担体14が目詰まりを起こすおそれがあり、5mmを越えると接触効率が低下するからである。更に金属イオンを含む水溶液又は懸濁液をイオン交換能を有する担体と接触させる方法としては、担持したい金属イオンを含む水溶液又は懸濁液中にイオン交換能を有する担体を入れて、室温で数分間〜数十時間撹拌する方法が挙げられる。
【0010】
上記有益ガス生成手段16は、この実施の形態では、水分率の調整された高含水バイオマス等11及び金属担持担体14を混合して或いは所定の間隔をあけて収容されるとともに、過熱水蒸気13が供給されるガス生成炉16aを有する。このガス生成炉16a内は、不活性ガス雰囲気中で、大気圧下400〜800℃、好ましくは400〜600℃の範囲に加熱され、ガス生成炉16a内には400〜800℃、好ましくは400〜600℃に加熱された過熱水蒸気13が供給される。これによりガス生成炉16a内で高含水バイオマス等11が加熱されて熱分解しガス及びタール状物質が生成され、この熱分解で生成されたガス及びタール状物質が過熱水蒸気13及び金属担持担体14に接触することにより分解・改質されて有益ガスが生成されるように構成される。上記不活性ガスとしてはアルゴンガスや窒素ガスが挙げられる。また本明細書において、上記ガス及びタール状物質は、タールを含むガスという意味で用いられる。ここで、ガス生成炉16a内の温度を400〜800℃の範囲に限定したのは、400℃未満では高含水バイオマス等11を十分に熱分解できず、800℃を越えると金属担持担体14に担持された金属のシンタリングなどによる不活性化が起こるからである。またガス生成炉16a内に供給される過熱水蒸気13の温度を400〜800℃の範囲に限定したのは、400℃未満では過熱水蒸気13と上記熱分解したガス及びタール状物質との間に起こる後述の水蒸気ガス化反応(シフト反応及び水性ガス化反応)が不十分であり、800℃を越えると冷ガス効率が低いからである。
【0011】
なお、この実施の形態では、有益ガス生成手段として、高含水バイオマス等及び金属担持担体14を収容して加熱するとともに過熱水蒸気が供給されるガス生成炉を有するものを挙げたが、所定の炉内に高含水バイオマス等を収容して加熱し、この炉に接続された煙道に過熱水蒸気を供給するとともに金属担持担体を設けることにより、所定の炉内で高含水バイオマス等を加熱して熱分解しガス(タールがガス化したものを含む。)を発生させ、このガスを煙道で過熱水蒸気と金属担持担体とに接触させて分解・改質する有益ガス生成手段を用いてもよく、また高含水バイオマス等及び金属担持担体が流動化している間にこれらを加熱しかつ過熱水蒸気を供給することにより、高含水バイオマス等或いは高含水バイオマス等及び金属担持担体から放出されたタールを過熱水蒸気及び金属担持担体にて分解・改質する流動層を有益ガス生成手段として用いてもよい。
【0012】
一方、使用済みの金属担持担体14のガス化手段17は、図示しないが、使用済みの金属担持担体14を貯留するタンクと、このタンクから供給された金属担持担体14を噴射する噴射ノズルと、噴射ノズルが挿入され酸化雰囲気又は還元雰囲気に保持されたガス化炉とを有する。また回収手段18は、上記ガス化後の金属担持担体14の残渣を集める装置と、この集められた残渣から金属粒子を分離する装置とを有する。
【0013】
このように構成されたガス化システムを用いて高含水バイオマス等11をガス化する方法を説明する。
先ず高含水バイオマス等11の水分率が所定の範囲に入っていない場合には、高含水バイオマス等11を水分率調整手段12で脱水又は加水して高含水バイオマス等11の水分率を好ましくは5〜60%、より好ましくは10〜60%、更により好ましくは20〜40%に調整する。なお、高含水バイオマス等11の水分率が上記範囲に入っている場合には、高含水バイオマス等を所定の水分率に調整する必要がないため、工程数を低減できる。次いでこの水分率を調整した高含水バイオマス等11と金属担持担体14とを混合して或いは所定の間隔をあけてガス生成炉16aに収容し、不活性ガス雰囲気中で、400〜800℃、好ましくは400〜600℃に加熱するとともに、有益ガス生成手段16のガス生成炉16aに過熱水蒸気13を供給する。このとき上記不活性ガスとともに最初だけ金属担持担体14の還元に必要な水素ガスをガス生成炉16aに供給する。ガス生成炉16a内の加熱により高含水バイオマス等11が熱分解してガス及びタール状物質(タールを含むガス)が生成され、この熱分解生成ガス中のタール(タール状物質)が過熱水蒸気13と接触することにより、次の式(1)〜式(3)で示す水蒸気ガス化反応(シフト反応や水性ガス化反応)が起き、タール(タール状物質)が過熱水蒸気13と反応して、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等が生成される。またタール(タール状物質)は、上記水蒸気ガス化反応により精製されたガス中の水素と反応して、次の式(4)及び式(5)に示す反応が起き、メタンや水が生じる場合があるけれども、メタンの発生は、主に重質のタールが金属担持担体14中のNi等の金属によって分解されることにより発生する。
C + H2O → CO + H2 …… (1)
CO + 2H2O → CO2 + 2H2 …… (2)
CO + H2O → CO2 + H2 …… (3)
C +2H2 → CH4 …… (4)
CO +3H2 → CH4 + H2O …… (5)
また金属担持担体14は触媒として作用し、上記熱分解生成ガス中のタール(タール状物質)を分解・改質する。この結果、上記熱分解生成ガス中のタール(タール状物質)は過熱水蒸気13と金属担持担体14の金属粒子とに接触することにより、効率良く分解・改質されて、H2、CH4、CO、CO2等の有益なガスが生成される、特にH2を多量に生成できる。これらの生成ガスは、火力発電(ガスタービン、ガスエンジン)、燃料電池、都市ガス、化学原料等に利用できる。従って、この高含水バイオマス等11のガス化方法により、炭素質の高効率転換を図ることができるとともに、クリーンエネルギーを生産することができる。
【0014】
なお、高含水バイオマス等11として畜産廃棄物(家畜排せつ物)を用いる場合、これに含まれるアンモニア等の窒素化合物は過熱水蒸気13と金属担持担体14とに接触させることによりN2及びH2まで分解・改質されるので、異臭の発生を低減できる。
また、上記ガス生成炉内で熱処理を行う前に金属担持担体からタールを除去する脱タール処理を、上記熱処理とは別の前処理として、或いは上記熱処理のうちの最初の1回だけの処理として行ってもよい。この脱タール処理は、金属担持担体を炉に入れ、不活性ガス雰囲気中で、400〜800℃、0〜30分間保持することにより行う。ここで、上記脱タール処理の温度を400〜800℃の範囲に限定したのは、400℃未満では脱タールが不完全になるからであり、800℃を越えると金属のシンタリングが発生するおそれがあるからである。
【0015】
更に、金属担持担体14として、金属イオンを含む水溶液又は懸濁液を、イオン交換能を有する低品位炭粒子と接触させることにより調製された金属担持担体14を用いた場合、所定時間又は所定回数使用した上記金属担持担体14は再生せずに、所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化し、ガス化後の金属担持担体14の残渣から金属粒子を回収する。具体的には、ガス化手段17のガス化炉内をO2ガス雰囲気とし、ガス化炉内に噴射された金属担持担体14を燃焼させると、金属酸化物の粒子を回収できる。この場合、金属担持担体14の燃料により発生したエネルギーをボイラー等の加熱に利用できる。またガス化手段17のガス化炉内をCO2ガス雰囲気とし、ガス化炉内を数百〜1000℃に加熱すると、金属炭酸塩の粒子を回収できる。更にガス化手段17のガス化炉内をH2ガス等の還元雰囲気とし、ガス化炉内を数百〜1000℃に加熱すると、金属微粒子を回収でき、ガス化炉内を1000℃以上の高温に加熱すると、金属が炭素と反応してガス化されない炭化物が形成され、この炭化物をガス化することにより、金属炭化物の粒子を回収できる。これらの金属粒子は粒子サイズが制御された粒子であり、サブミクロン以下のサイズの揃った金属粒子を製造でき、これらの金属粒子は、高活性触媒(高活性脱硫剤、高活性脱塩剤)の金属、電極材料、粉末冶金(原料金属微粒子、炭素内包超微粒子)、地金、ニューセラミックなどに利用できる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
図2に示すように、先ず高含水バイオマス等51として水分率を5〜10%に調整した下水汚泥を用意し、金属担持担体54としてNiを担持したAl23(粒径0.5〜1mmの市販の触媒粒子)を用意した。次いで有益ガス生成手段56として固定層二段式反応器を用いた。この反応器56は内径20mm及び長さ900mmの石英製の反応管57を有する。この反応管57の外周面上部には円筒状の第1ヒータ61(長さ300mm)を設け、反応管57の外周面下部には円筒状の第2ヒータ62(長さ300mm)を設けた。また反応管57内には、第1ヒータ61の中央に位置する第1分散板71と、第2ヒータ62の中央に位置する第2分散板72とを配設した。次に反応管57の上部の第1分散板71上に1gの高含水バイオマス等51を載せ、第2分散板72上に厚さが2cmとなるように金属担持担体54(市販の触媒粒子)を載せた後に、反応管57内を窒素ガスで置換して金属担持担体54を還元した。更に反応管57内にアルゴンガスを供給して反応管57内をアルゴンガスに置換するとともに、第2ヒータ62を制御して金属担持担体54を650℃まで昇温した後に、この温度に40分間保持し、反応管57内を安定させた。ここで、上記アルゴンガスの流量を60ml/分とした。その後、第1ヒータ61を制御して高含水バイオマス等51を10℃/分の昇温速度で昇温し、高含水バイオマス等51が150℃以上になった後に、水を0.027ml/分でスチーム発生装置58に供給して過熱水蒸気を発生させ、上記アルゴンガス(キャリアガス)と混合して枝管から第1分散板71及び第2分散板72間の反応管57内に供給した。ここで、上記アルゴンガス(キャリアガス)と過熱水蒸気との混合割合を体積比で70:30とし、過熱水蒸気の流量を36ml/分とし、アルゴンガス(キャリアガス)の流量を24ml/分とした。また第1分散板71上の高含水バイオマス等51は第1ヒータ61により900℃まで加熱した。このように高含水バイオマス等51を熱分解することによりガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気と金属担持担体54に接触させて分解・改質した。なお、上記反応管57内へのアルゴンガスの供給時に、最初だけ金属担持担体14の還元に必要な水素ガスを反応管57内に供給した。
【0017】
<比較例1>
反応管に過熱水蒸気を供給しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を金属担持担体に接触させて分解・改質した。
<比較例2>
反応管に金属担持担体を収容しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
【0018】
<比較試験1及び評価>
実施例1と比較例1及び2の生成ガス(加熱開始後100℃毎)をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにより分析し、H2、CH4、CO、CO2等の各ガスの収率を測定した。その結果を図3に示す。
図3から明らかなように、実施例1の比較例1に対するガス収率は約2倍となり、実施例1の比較例2に対するガス収率は約6倍となった。実施例1のガス収率の増大は、H2及びN2の増大によるものであった。
【0019】
<実施例2>
第2ヒータを制御して金属担持担体を550℃まで昇温したこと以外は、第1の実施の形態と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
<実施例3>
第2ヒータを制御して金属担持担体を500℃まで昇温したこと以外は、第1の実施の形態と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
【0020】
<比較試験2及び評価>
実施例1〜3の生成ガス(加熱開始後100℃毎)をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにより分析し、H2、CH4、CO、CO2等の各ガスの収率を測定した。その結果を図4に示す。
図4から明らかなように、金属担持担体の温度が650℃である実施例1のガス収率は約99m mol/g-d.a.f.と極めて高く、金属担持担体の温度が550℃である実施例2のガス収率は約86m mol/g-d.a.f.とかなり高く、金属担持担体の温度が500℃と比較的低い実施例3のガス収率は約78m mol/g-d.a.f.と比較的高かった。また金属担持担体の温度が高い実施例1及び2のみならず、金属担持担体の温度が500℃と比較的低い実施例3においても、C2以上のガス、即ち炭素数が2以上のガスの発生は認められず、また炭素収支の結果からも、タールの発生は殆どないことが確認された。
【0021】
<実施例4>
高含水バイオマス等として水分率を5%に調整した豚糞を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気と金属担持担体に接触させて分解・改質した。
<実施例5>
高含水バイオマス等として水分率を5%に調整した鶏糞を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気と金属担持担体に接触させて分解・改質した。
<実施例6>
高含水バイオマス等として水分率を20%に調整した乳牛糞を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気と金属担持担体に接触させて分解・改質した。
<実施例7>
高含水バイオマス等として水分率を26%に調整した和牛糞を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気と金属担持担体に接触させて分解・改質した。
【0022】
<比較例3>
高含水バイオマス等として水分率を5%に調整した豚糞を用いたけれども、金属担持担体(触媒粒子)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
<比較例4>
高含水バイオマス等として水分率を5%に調整した鶏糞を用いたけれども、金属担持担体(触媒粒子)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
<比較例5>
高含水バイオマス等として水分率を20%に調整した乳牛糞を用いたけれども、金属担持担体(触媒粒子)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
<比較例6>
高含水バイオマス等として水分率を26%に調整した和牛糞を用いたけれども、金属担持担体(触媒粒子)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガス及びタール状物質を生成し、このガス及びタール状物質を過熱水蒸気に接触させて分解・改質した。
<比較試験3及び評価>
実施例4〜7及び比較例3〜6の生成ガス(加熱開始後100℃毎)をサンプリングしガスクロマトグラフィーにより分析し、H2、CH4、CO、CO2等の各ガスの収率を測定した。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、実施例4の比較例3に対するガス収率は約2.9倍となり、実施例5の比較例4に対するガス収率は約1.9倍となり、実施例6の比較例5に対するガス収率は約2.9倍となり、実施例7の比較例7に対するガス収率は約2.2倍となった。実施例4〜7のガス収率の増大は、H2及びCH4の増大によるものであり、特にH2の増大が顕著であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明実施形態の高含水バイオマス等のガス化方法及びシステムを示す構成図である。
【図2】有益ガス生成手段として用いた固定層二段式反応器の構成図である。
【図3】過熱水蒸気の有無及び金属担持担体の有無によるガス収率の比較を示す図である。
【図4】金属担持担体の温度によるガス収率の比較を示す図である。
【図5】金属担持担体の有無及び高含水バイオマス等の種類によるガス収率の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
11,51 高含水バイオマス等
13 過熱水蒸気
14,54 金属担持担体
16 有益ガス生成手段
17 ガス化手段
18 回収手段
56 固定層二段式反応器(有益ガス生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)を加熱してガス及びタール状物質を生成し、前記ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気(13,53)と金属担持担体(14,54)とに接触させることにより前記ガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法。
【請求項2】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)の水分率が5〜60%である請求項1記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法。
【請求項3】
過熱水蒸気(13,53)のキャリアガスとして不活性ガスを用いる請求項1記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法。
【請求項4】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)が下水汚泥又は畜産廃棄物である請求項1又は2記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化方法。
【請求項5】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)を熱分解することによりガス及びタール状物質を生成し、前記ガス及びタール状物質を400〜800℃に加熱された過熱水蒸気(13,53)と金属担持担体(14,54)とに接触させることにより前記ガス及びタール状物質を分解・改質して有益ガスを生成する有益ガス生成手段(16)を備えた高含水バイオマス・廃棄物のガス化システム。
【請求項6】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)の水分率が5〜60%である請求項5記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化システム。
【請求項7】
過熱水蒸気(13,53)のキャリアガスとして不活性ガスを用いる請求項5記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化システム。
【請求項8】
高含水バイオマス又は廃棄物のいずれか一方又は双方(11,51)が下水汚泥又は畜産廃棄物である請求項5又は6記載の高含水バイオマス・廃棄物のガス化システム。
【請求項9】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のガス化方法で用いられた使用済みの金属担持担体(14,54)を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化する工程と、
前記ガス化後の金属担持担体(14,54)の残渣から金属粒子を回収する工程と
を含む金属担持担体から金属粒子を回収する方法。
【請求項10】
請求項5ないし8いずれか1項に記載のガス化システムで用いられた使用済みの金属担持担体(14,54)を所定の雰囲気中で所定の温度に加熱してガス化するガス化手段(17)と、
前記ガス化後の金属担持担体(14,54)の残渣から金属粒子を回収する回収手段(18)と
を備えた金属担持担体から金属粒子を回収するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−137959(P2007−137959A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331133(P2005−331133)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】