説明

高周波加熱装置

【課題】従来の構成では、ドアが完全に閉まっている状態でも、加熱室内壁とドアとの対向面の間に大きな隙間が生じ、この隙間から加熱室内の漏洩電波および熱風漏れが増大する。一般的に上記の隙間が大きくなるに従って、漏洩電波および熱風漏れは増大するので、加熱室内壁とドアとの対向面に生じる隙間は、可能な限り小さくする必要がある。
【解決手段】ドア2の前面に対して加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面が斜めになるように構成し、ドア閉開時に加熱室内壁3とドア2とが接触しないように構成する。この構成により、加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間を従来の構成より小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ等の高周波加熱装置に関し、特に扉の構造に特徴を有する高周波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10に示すように従来の電子レンジは、ドア2を開閉することにより食品を出し入れできる加熱室1と、加熱室1内に電磁波(周波数2450MHzのマイクロ波。波長λは約120mm)を供給して食品を加熱するための電源やマグネトロンや導波管からなる電磁波供給手段を有している。
【0003】
また、高周波加熱調理中において、高周波が外部に漏洩すると人体に好ましくない影響を及ぼしてしまうため、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間から漏洩しようとする高周波への対策は特に重要であるので、ドア2は電磁波遮蔽部4を有している。
【0004】
電磁波遮蔽部4のチョーク構造の原理は、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間(加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間)から漏洩しようとする高周波をチョーク構造の袋小路内に導き、袋小路の端部で反射させ、その反射波と袋小路内に導かれる高周波とを合成し、チョーク構造の入り口部分9での高周波の電圧を最大、電流を最小とすることを利用したものである。
【0005】
しかしながら、従来の電子レンジは使用者が食品を出し入れしやすいようにするために、ドア2を簡単に開けられる構成となっていること、ドア厚み方向においてドア2の一部が加熱室1の内側へ入り込んでいるため、ドア2が閉開時に加熱室内壁3と接触しない構成となっていることにより、ドア2が完全に閉まっている状態でも、加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面の間には大きな隙間が生じている。
【0006】
このため、漏洩電波およびオーブン機能およびコンベクション機能使用時の熱風漏れが大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−63306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子レンジは使用者が食品を出し入れしやすいようにするために、ドア2を簡単に開けられる構成としている。さらに、ドア2の一部が加熱室1側へ入り込んでいるため、ドア2が閉開時に加熱室内壁3と接触しない構成としている。これらのため、ドア2が完全に閉まっている状態でも、加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面の間にはわずかながら隙間が生じ、加熱室1内の電磁波がその隙間より外部に伝搬する可能性がある。
【0009】
また、オーブン機能およびコンベクション機能使用時に加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面の間に生じるわずかながらの隙間から、熱風の漏れが増大する可能性もある。一般的に上記の隙間が大きくなるに従って、漏洩電波および熱風漏れは増大する。したがって、加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間は、可能な限り小さくする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明の電磁波遮蔽部4を有した高周波加熱装置のドア2において、ドア2の前面に対して加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面が斜めになるように構成し、ドア閉開時に加熱室内壁3とドア2とが接触しないように構成する。この構成により、加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間を従来の構成より小さくする。
【発明の効果】
【0011】
加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間を従来の構成と比較して小さくすることにより、加熱室1内部からの漏洩電波および熱風漏れを防止し、電波遮蔽性能および断熱性能を高く保持することが可能となる。
【0012】
また、従来の構造ではドア設計の際に、ドア厚み方向に電磁波遮蔽部4を構成するのに必要な寸法を確保しなければならないため、ドア厚みが電磁波遮蔽部4の寸法以上でなければならず、ドアの厚み方向の薄型化が制限されていた。しかし、ドア2の前面に対して加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面が斜めになるように構成することによって、従来の構成と比較してドア厚み方向の薄型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1における加熱室内壁およびドアの断面図
【図2】本発明の実施の形態1における高周波加熱装置の斜視図
【図3】本発明の実施の形態2における加熱室内壁およびドアの断面図
【図4】本発明の実施の形態3における加熱室内壁およびドアの断面図
【図5】本発明の実施の形態4における加熱室内壁およびドアの断面図
【図6】本発明の実施の形態5における加熱室内壁およびドアの断面図
【図7】本発明の実施の形態5における加熱室内壁およびドアの断面図
【図8】本発明の実施の形態5における加熱室内壁およびドアの断面図
【図9】本発明の実施の形態5における加熱室内壁およびドアの断面図
【図10】従来の高周波加熱装置の加熱室内壁およびドアの断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、一部が加熱室に入り込んでいる開閉自在のドアを有する高周波加熱装置のドアまたは本体の少なくとも一方に、電磁波遮蔽部を有しており、加熱室内壁と電磁波遮蔽部との対向面がドア前面に対して斜めである高周波加熱装置とすることにより、ドア閉開時に加熱室内壁とドアとが接触しないように構成することができ、加熱室内壁とドアの電磁波遮蔽部との対向面に生じる隙間を従来の構成より小さくすることができ、加熱室内部からの漏洩電波および熱風漏れを防止し、電波遮蔽性能および断熱性能を高く保持することが可能となる。
【0015】
第2の発明は、特に、第1の発明の加熱室内壁と電磁波遮蔽部との対向面がドア前面に対して斜めにする構成を利用することにより、ドアを厚み方向に薄型化することができる。
【0016】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1、図2は、本発明の第一の実施例における電子レンジおよび電磁波遮蔽部を有したドアについて説明するものである。
【0018】
まず、図1、図2を用いて本実施の形態の構成について説明する。電子レンジの概観は、従来と同じ図2である。図1は図2の加熱室1とドア2に関してA−Aから見た断面図である。
【0019】
電子レンジは。ドア2の開閉により食品を出し入れできる加熱室1と、加熱室1内に電磁波(本実施の形態では2450MHzのマイクロ波。波長λは約120mm)を供給して食品を加熱するための電源やマグネトロンや導波管からなる電磁波供給手段5を有している(図2参照)。
【0020】
一方、ドア2は、金属板からなるドア本体6の周囲にドア本体6の導体壁面7より切り起こした導体片8を有しており、導体片8を袋小路形状に折り曲げて加工し、チョーク構造を形成している。さらに、導体片8は導体壁面7により図中のx方向に周期的に配列されており、この周期構造全体として電磁波遮蔽部4を構成している。
【0021】
高周波加熱調理中において、高周波が外部に漏洩すると人体に好ましくない影響を及ぼしてしまうため、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間から漏洩しようとする高周波への対策は特に重要であるので、電磁波遮蔽部4を有している。
【0022】
電磁波遮蔽部4のチョーク構造の原理は、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間(加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面に生じる隙間)から漏洩しようとする高周波をチョーク構造の袋小路内に導き、袋小路の端部で反射させ、その反射波と袋小路内に導かれる高周波とを合成し、チョーク構造の入り口部分9での高周波の電圧を最大、電流を最小とすることを利用したものである。
【0023】
すなわち、チョーク構造の入り口部分9での高周波の電圧を最大、電流を最小とすることでみかけのインピーダンスを無限大(∞)とし、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間からの高周波の漏洩量をなくす、あるいは少なくするようにしたものである。
【0024】
したがって、このようなチョーク構造では、ドア2と高周波加熱装置本体との間の隙間のからチョーク構造の入り口部分9までの距離と、チョーク構造の入り口部分9から袋小路の端部までの距離とが、それぞれ使用周波数の約1/4波長10となるように設定されており、チョーク構造の入り口部分9で反射波と漏洩しようとする高周波とが逆位相となって合成されるように構成されている。
【0025】
なお、隙間の形状は、z方向には狭く、x、y方向には広いので。電磁波をx、y、z方向への合成ベクトルと考えると、x方向成分とy方向成分が大きくなりz方向成分は無視できる。よって外部への電磁波を遮蔽するためには、x方向成分とy方向成分を遮蔽しなければならない。
【0026】
ただしy方向成分を完全に0にできれば外部には伝搬しないことになり、その場合はx方向成分を気にしなくても良いことになる。この考えに基づいてチョーク構造は設計されている。
【0027】
また、図1に示すようにドア2の一部が加熱室1側へ入り込んでいることによって、オーブン機能およびコンベクション機能使用時の熱風の漏れを防止し、断熱性能を高く保持できるように構成されている。
【0028】
以上のように構成された高周波加熱装置について、以下その動作、作用について説明する。
【0029】
図1におけるy−z平面において、ドア2の前面に対して加熱室1とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面が斜めになるように構成することによって、ドア閉開時にドア2と加熱室内壁3とが接触しないように設計することにより、加熱室1とドア2の対向面に生じる隙間を従来の構成より小さくすることができる。よって、加熱室1からの漏洩電波および熱風漏れを防止し、電波遮蔽性能および断熱性能を高く保持することが可能となる。
【0030】
なお、図1のy−z平面における、ドア2の前面に対する対抗面の角度は、特定の角度に限定されるものではなく、所望の電波遮蔽性能および断熱性能によって決定されるべき設計要素である。
【0031】
また、電磁波遮蔽部4の電波遮蔽性能には、図10におけるaおよびb(L=a+b)の寸法が大きく影響する。このため、従来の構造ではドア設計の際に、ドア厚み方向に電磁波遮蔽部4を構成するのに必要な寸法を確保しなければならないため、ドア厚みが電磁波遮蔽部4の寸法(L)以上でなければならず、ドア2の厚み方向の薄型化が制限されていた。
【0032】
しかし、ドア2の前面に対して加熱室内壁3とドア2の電磁波遮蔽部4との対向面が斜めになるように構成することによって、従来の構成と比較してドア厚み方向の薄型化が可能となる。
【0033】
また、電磁波遮蔽部4はドア2側ではなく、加熱室1側に構成することも可能である。
【0034】
(実施の形態2)
図3は、本発明の第二の実施例における電子レンジおよび電磁波遮蔽部ついて説明するものである。
【0035】
実施の形態1では、ドア2の厚み方向において、ドア2の一部が加熱室1内部に入り込んでいる構造についてのみ言及したが、図3のように厚み方向においてドア全体が加熱室1内部に入り込んでいる場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【0036】
(実施の形態3)
図4は、本発明の第三の実施例における電子レンジおよび電磁波遮蔽部について説明するものである。
【0037】
図4のようにドア2が加熱室1外周の一部または全周を覆っており、加熱室1内周にチョーク構造を有する場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【0038】
(実施の形態4)
図5は、本発明の第四の実施例における電子レンジおよび電磁波遮蔽部について説明するものである。
【0039】
図5のように加熱室1外側にチョーク構造を有する場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【0040】
(実施の形態5)
図6、図7、図8、図9は、本発明の第五の実施例における電子レンジおよび電磁波遮蔽部4について説明するものである。
【0041】
実施の形態1、2、3、4では図1、図10のようにチョーク構造の入り口部分9から加熱室1内側方向に電磁波が約1/4波長10を進行した後にチョーク構造終端部で反射する構成となっている。
【0042】
しかし、図6のようにチョーク構造の入り口部分9から電磁波漏洩方向に対して直角方向に電磁波が約1/4波長10を進行した後にチョーク構造終端部で反射する構成の場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【0043】
また、図7、図8のように加熱室1外側方向にチョーク構造の入り口部分9から電磁波が約1/4波長10を進行した後にチョーク構造終端部で反射する構成の場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【0044】
また、図9のようにチョーク構造の入り口部分9から電磁波漏洩方向に対して直角方向および加熱室1内側方向に電磁波が約1/4波長10を進行した後にチョーク構造終端部で反射する構成の場合でも、実施の形態1と同様にドア2の前面に対して加熱室1とドア2の対向面が斜めになるように構成することによって、実施の形態1と同様の効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、高周波加熱機用の電波シール性能に関するものである。特に電子レンジなどのように、閉開自在のドアを有する機器に応用すれば、特に効果が発揮できる。
【符号の説明】
【0046】
1 加熱室
2 ドア
3 加熱室内壁
4 電磁波遮蔽部
5 電磁波供給手段
6 ドア本体
7 導体壁面
8 導体片
9 チョーク構造の入り口部分
10 約1/4波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部が加熱室に入り込んでいる開閉自在のドアを有する高周波加熱装置のドアまたは本体の少なくとも一方に、電磁波遮蔽部を有しており、加熱室内壁と電磁波遮蔽部との対向面がドア前面に対して斜めである高周波加熱装置。
【請求項2】
加熱室内壁と電磁波遮蔽部との対向面がドア前面に対して斜めとすることを利用して、ドア厚み方向への薄型化を図った請求項1に記載の高周波加熱装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21738(P2012−21738A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161365(P2010−161365)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】