説明

高周波加熱電源

【課題】本発明は電子レンジのようなマグネトロンを駆動する高周波加熱装置に関するものであり、冷却能力を加味しながら電源電圧に依存して高周波出力を制御する方式を提案するものである。
【解決手段】高周波出力をコントロールするマイコンのPWM信号において、入力電源電圧検出回路部より得た情報を元に可変とする。ただし、部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキを考慮して定格近傍では一定のPWM値としている。また、冷却能力と部品破壊時の絶対安全を考慮して定格でのPWM値を最大としてそれ以外は減少させることもできる(特に最大出力時)。上記方式により電源電圧ごとに冷却能力に応じた最適な高周波出力設定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジのようにマグネトロンを駆動して誘電加熱を行う高周波加熱装置の分野で入力電源電圧に依存した高周波出力の制御に関する改善を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭で使用される電子レンジ等の高周波加熱調理機器に用いられる電源としてはその性質上(持ち運びが容易で且つ調理室を大きくするために電源が内蔵される機械室スペースは小さいものが望まれる)、小型で軽いものが望まれてきた。そのため、電源のスイッチング化による小型軽量化、低コスト化が進められ、インバータ電源が主流になりつつある。
【0003】
また、高出力化の要望もあり発熱部品を多く抱えるインバータ電源においては冷却性能を入力電圧変動に対しても同性能で得られることが求められる。
【0004】
また、入力電圧変動による総入力電力の変動もあり、すなわち高周波出力のバラツキの要因ともなる。調理器としての前記バラツキに対する性能確保の方法として調理時間を可変とする方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、入力電源電圧に応じて全て一律に高周波出力を可変とする方式も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
インバータ電源の一例を図8に示すブロック図を用いて説明すると、商用電源1は整流器2で整流され直流電圧に変換され、商用電源1から電力が供給される。直流電圧はチョークコイル9とコンデンサ10よりなるフィルタ回路11を介してコンデンサ4とインダクタ13、半導体スイッチング素子3のインバータ共振回路5に印加される。
【0007】
インバータ共振回路5では半導体スイッチング素子3が20〜45キロヘルツの周波数でスイッチングし、高周波交流を作り出す。インダクタ13は高圧トランス6の一次巻線を兼ねているのでインダクタ13に発生した高周波交流は高圧トランス6で高電圧に昇圧される。
【0008】
また高圧トランス6で昇圧された高電圧は高圧整流回路7で直流高電圧に整流される。制御回路部14はカレントトランス12より得た入力電流情報を反映した形で半導体スイッチング素子3に所望の高周波出力を得るための信号を与え、これを駆動する。
【0009】
所望の出力を決定する指令信号は外部からマイコン19にてフォトカプラなどの絶縁インターフェイス(図示せず)にて制御回路部14に与えられ、1000W、800W、600W等の高周波出力を得ている。
【0010】
これらの電気要素部品が、インバータ電源18を構成する。高圧整流回路7で整流された直流高電圧はマグネトロン8のアノード部17とカソード部16間に印加される。高圧トランス6にはもう一つの補助二次巻線が設けられており、この補助二次巻線はマグネトロン8のカソード部16に加熱電流として電力供給を行う加熱電流供給線路15を構成している。
【0011】
マグネトロン8はカソード部16に電力供給を受け、カソード温度が上昇し、かつアノード部17とカソード部16間に高電圧が印加されると発振しマイクロ波を発生する。マ
グネトロン8で発生されたマイクロ波は加熱室に入れられた食品などの被加熱物に照射され誘電加熱調理を行う。
【0012】
高周波出力は当然入力電力に依存して変化するため電源電圧への依存度が高い。すなわち同一電流値の場合、減電圧となれば入力電力は下がり、増電圧では逆に上がる。そのため高周波出力変動を極力少なくするため電源電圧に依存して入力電力を制御することが求められる。
【0013】
しかしながら冷却の面から言えばシロッコファンやプロペラファンのように入力電源電圧に依存して回転数が変わる部品の場合は前述の入力電力変化は望ましい。これら相反する事象をその時々の開発に応じてコントロールできるシステムが求められるのである。
【特許文献1】特開平6−111104号公報
【特許文献2】特開平7−35352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記のような構成では下記の課題があった。すなわち、入力電源電圧に応じて電流値を変化させずに一定とする構成では高周波出力の変動が大きくなるという課題と冷却性能に応じた高周波出力調節ができないという課題を有していた。
【0015】
また入力電源電圧に応じて電流値を可変とする方式もいくらか提案されているが直線的変化のため部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキによっては定格においても入力を下げてしまい、公称高周波出力を確保できない恐れがあるという課題を有していた。
【0016】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、入力電源電圧に応じて冷却能力を加味した最適な高周波出力となるように入力電力を制御し且つ、定格での公称高周波出力の確保も実現する制御方式を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従来の課題を解決するため、本発明のインバータ電源においては高周波出力を決定するマイコンからの指令信号(PWM)を入力電源電圧に依存して可変とすることで実現している。また、定格電圧近傍の範囲はPWM値を固定とすることで部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキにも対応させて公称高周波出力を確保している。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、高周波出力を決定するマイコンからの指令信号(PWM)を入力電源電圧に応じて可変とできるため電圧変動時の公称高周波出力保証も容易に行える。なぜならば入力電力をコントロールできるからである。
【0019】
また、冷却ファンにACモーターを使用した場合は入力電源電圧の変動により当然回転数が変わり、すなわち冷却能力も変化する。この場合も入力電力をコントロールできる本発明においては冷却能力に応じた最適な入力電力を決定することも可能である。
【0020】
さらに定格電圧近傍では同一のPWMに固定しているため部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキにも対応させて公称高周波出力を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第1の発明は、マグネトロンを駆動するインバータ電源と、前記インバータ電源に高周波出力を決定する指令信号を送るマイコンと、入力電源電圧を識別する入力電源電圧検出
回路を有し、定格電圧近傍の範囲は固定としてその前後の電源電圧においては同高周波出力においても前記マイコンの指令信号を変えることを特徴とする。
【0022】
第2の発明は、第1の発明において、入力電源電圧のうち、定格以上の増電圧時のみ高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする。
【0023】
第3の発明は、第1の発明において、入力電源電圧のうち、定格以下の減電圧時のみ高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする。
【0024】
第4の発明は、第1の発明において、入力電源電圧のうち、定格以下の減電圧時のみ高周波出力を上げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする。
【0025】
第5の発明は、第1の発明において、入力電源電圧のうち、定格以外の増・減電圧時には高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする。
【0026】
第6の発明は、第1または第2の発明において、入力電源電圧のうち、ある一定レベルを超えた増電圧時には高周波出力をさらに下げる方向にマイコン指令信号の制御値を変化させて異常を知らせるブザーを備えたことを特徴とする。
【0027】
第7の発明は、第1または第4の発明において、入力電源電圧のうち、ある一定レベルを超えた減電圧時には高周波出力を下げる方向にマイコン指令信号の制御値にリミットを設けて、異常を知らせるブザーを備えたことを特徴とする。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態は、本発明を具現化した単なる例示に過ぎず、本発明は特許請求の範囲に記載した構成の範囲で変更を加えた種々の態様を含むものである。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかるブロック図を示している。従来の高周波加熱電源装置に比べて入力電源電圧検出部20が付加されている。
【0030】
すなわち入力電源電圧検出部20で得られた情報をマイコン19へフィードバックできる構成としている。この情報を用いてマイコン19からの高周波出力を決定している指令信号(PWM)を可変とする。
【0031】
図2は、定格100Vの場合のPWM変化を表している。横軸に電圧、縦軸がPWMであり、基準となる定格のPWMはオンデューティ80%の場合の変化である。従来は入力電圧変動に対しても一定であったPWMを入力電圧に応じて可変としていることが特徴と言える。当然PWMは大きければ高周波出力は高くなり、小さければ高周波出力は低くなる。PWMは高周波出力を決定できる指令信号であり、パワーコントロールの方法である。
【0032】
この時、定格近傍ということで±5Vと定義して、すなわち95V〜105Vの間は同一のPWMである。ゆえに部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキが発生したとしても極端にPWMを変えることがなく、定格における公称高周波出力を確保できる。
【0033】
さらに増電圧側ではPWMを低下させており、すなわち入力電力を定格近傍と同一に近づける制御と言える。ゆえに調理の出来栄えも電圧変動に関係なく全く同じとなるメリットが生まれる。当然調理時間を変える手間をかけずにである。
【0034】
当然これらの変化特性は各高周波出力に相当するPWMに応じて同一でも良いし、全ての高周波出力帯において変えても良い。
【0035】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における入力電圧−PWMの特性を示している。減電圧時にPWMを低下させており、この制御は入力電流に上限値がある場合(日本の家庭用機器では15A等)や部品の冷却性能が弱い場合に有効である。すなわちPWMを上昇させれば自ずと入力電流が増え、ブレーカ断や電源コードの定格電流値をオーバーしてしまう恐れがあり、これを回避するために活用できる。
【0036】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3における入力電圧−PWMの特性を示している。減電圧時にPWMを上昇させており、この制御は入力電力を一定にしたい時に有効である。すなわち入力電流の上限値に制約がなく、電圧変動に対する調理出来栄えに影響を与えないという特徴がある。
【0037】
冷却性能が優れており、上限電流に対して余裕がある時に活用できる。当然このPWMの変化は各高周波出力(例えば1000W、800W、500W等)において別々に設定しても良い。
【0038】
(実施の形態4)
図5は、本発明の実施の形態4における入力電圧−PWMの特性を示している。定格近傍以外の増・減電圧時にPWMを共に低下させており、この制御は増電圧時には入力電力を一定に、減電圧時には部品の温度上昇を抑えつつ上限電流値以下に制御したい時に適している。定格近傍での入力電力を確保しつつ、増・減電圧時も定格以上の電流、電力にならないように制御できる最も安全な制御方式と言える。
【0039】
(実施の形態5)
図6は、本発明の実施の形態5における入力電圧−PWMの特性を示している。実施の形態1と似ているがある増電圧(例として115V)以上はPWMの変化量を大きく低下させていることが特徴である。
【0040】
そして、マイコン19内部の処理として例えばトリガとなる増電圧に達して60秒動作すればブザーを鳴らして停止させる等の安全処置を施すことが可能となり(図示せず)、この際も出力を低下させているためより安全である。電源事情の安定していない地域で有効に活用できる。
【0041】
(実施の形態6)
図7は、本発明の実施の形態6における入力電圧−PWMの特性を示している。実施の形態3と似ているがある減電圧(例として85V)以下はPWMの変化として減少に転じさせていることが特徴である。
【0042】
そして、マイコン19内部の処理として例えばトリガとなる現電圧に達して60秒動作すればブザーを鳴らして停止させる等の安全処置を施すことが可能となり(図示せず)、この際も出力を低下させているためより安全である。タコ足配線や電源事情の安定していない地域で有効に活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明の高周波加熱装置によれば高周波出力をコントロールするマイコ
ンからの指令信号(PWM)を入力電源電圧に応じて可変とできるため、高周波出力一定制御や製品の冷却能力に合わせた設計ができ、また増減電圧異常時の保護機能としても活用できる。さらに、定格近傍は一定としているため部品バラツキや電源インピーダンスによる読み込みバラツキも考慮でき、公称高周波出力を確保することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる高周波加熱電源装置のブロック図
【図2】本発明の実施の形態1における入力電圧−PWM特性図
【図3】本発明の実施の形態2における入力電圧−PWM特性図
【図4】本発明の実施の形態3における入力電圧−PWM特性図
【図5】本発明の実施の形態4における入力電圧−PWM特性図
【図6】本発明の実施の形態5における入力電圧−PWM特性図
【図7】本発明の実施の形態6における入力電圧−PWM特性図
【図8】従来の高周波加熱電源装置のブロック図
【符号の説明】
【0045】
1 商用電源
2 整流器
3 半導体スイッチング素子
4 コンデンサ
5 インバータ共振回路
6 高圧トランス
7 高圧整流回路
8 マグネトロン
9 チョークコイル
10 コンデンサ
11 フィルタ回路
12 カレントトランス
13 インダクタ
14 制御回路部
15 加熱電流供給線路
16 カソード部
17 アノード部
18 インバータ電源
19 マイコン
20 入力電源電圧検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンを駆動するインバータ電源と、前記インバータ電源に高周波出力を決定する指令信号を送るマイコンと、入力電源電圧を識別する入力電源電圧検出回路を有し、定格電圧近傍の範囲は固定としてその前後の電源電圧においては同高周波出力においても前記マイコンの指令信号を変えることを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
入力電源電圧のうち、定格以上の増電圧時のみ高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
入力電源電圧のうち、定格以下の減電圧時のみ高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
入力電源電圧のうち、定格以下の減電圧時のみ高周波出力を上げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
入力電源電圧のうち、定格以外の増・減電圧時には高周波出力を下げる方向にマイコンの指令信号を制御することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項6】
入力電源電圧のうち、ある一定レベルを超えた増電圧時には高周波出力をさらに下げる方向にマイコン指令信号の制御値を変化させて異常を知らせるブザーを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
入力電源電圧のうち、ある一定レベルを超えた減電圧時には高周波出力を下げる方向にマイコン指令信号の制御値にリミットを設けて、異常を知らせるブザーを備えたことを特徴とする請求項1または4に記載の高周波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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