説明

高周波回路、高周波回路部品、及びこれらを用いた通信装置

【課題】少なくとも2つの通信システムで共用可能な高周波回路において、低雑音増幅回路を共用する場合に好適な高周波回路、それを用いた高周波部品および通信装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2の周波数帯域の受信信号が入力される共通端子と、前記第1の周波数帯域の受信信号が出力される第1の受信端子と、前記第2の周波数帯域の受信信号が出力される第2の受信端子と、前記第1及び第2の周波数帯域の受信信号を増幅する低雑音増幅回路とを有し、前記第1の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を通過し、前記第2の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を阻止する可変ノッチフィルタ回路が前記共通端子と前記低雑音増幅回路の間に接続され、前記低雑音増幅回路と、前記第1の受信端子および前記第2の受信端子との間に前記第1及び第2の周波数帯域の信号を分波する分波回路を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子電気機器間における無線伝送を行う無線通信装置に関し、特に少なくとも2つの通信システムに共用可能な高周波回路及びこれを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、IEEE802.11規格に代表される無線LANによるデータ通信が広く一般化している。例えばパーソナルコンピュータ(PC)、プリンタやハードディスク、ブロードバンドなルーターなどのPCの周辺機器、FAX、冷蔵庫、標準テレビ(SDTV)、高品位テレビ(HDTV)、カメラ、ビデオ、携帯電話等々の電子機器、自動車内や航空機内での有線通信に変わる信号伝達手段として採用され、それぞれの電子電気機器間において無線データ伝送が行われている。
【0003】
無線LANの規格として、IEEE802.11aは、OFDM(直交周波数多重分割)変調方式を用いて、最大54Mbpsの高速データ通信をサポートするものであり、その周波数帯域は5GHz帯が利用される。またIEEE802.11bは、DSSS(ダイレクト・シーケンス・スペクトル拡散)方式で、5.5Mbps、11Mbpsの高速通信をサポートするものであり、無線免許なしに自由に利用可能な、2.4GHzのISM(産業、科学及び医療)帯域が利用される。更にIEEE802.11gは、OFDM変調方式を用いて、最大54Mbpsの高速データ通信をサポートするものであり、IEEE802.11bと同様に2.4GHz帯域が利用される。
【0004】
本発明者は、このような無線LANを用いた通信装置、高周波回路、高周波回路部品を、既に提供している(例えば、特許文献1)。この高周波回路は、図6に示すように、高周波スイッチ回路1、第1の分波回路3、第2の分波回路2、ローパスフィルタ回路5、ローパスフィルタ回路6、第1の高周波電力増幅器8、第2の高周波電力増幅器9、第1の低雑音増幅器17、第2の低雑音増幅器7及び検波回路16からなり、マルチバンドアンテナ端子と高周波スイッチ回路1との間にローパスフィルタ等の高調波低減回路を設けたものである。無線LANを用いた通信装置では、それを構成する高周波部品の実装空間は限られているため、該高周波部品およびそれに用いられる高周波回路は、高性能であることに加えて、小型であることが要求される。これに対して、特許文献1の構成により、検波ダイオードで発生する高調波信号の低減、低雑音増幅器で発生した高調波信号の低減を可能とした。
【0005】
【特許文献1】特開2006−304081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の構成では、回路の小型化の要求を十分に満足しているものとは言えなかった。例えば、特許文献1記載の高周波回路は、2.4GHz帯と5GHz帯の受信側経路に各々第1の低雑音増幅器17と第2の低雑音増幅器7を必要としていた。高周波回路、高周波部品のコストダウンや小型化の観点から、構成素子である低雑音増幅器の使用数を低減することが望ましい。これに対して分波回路の前段に広帯域の低雑音増幅器を配置することが有効である。しかし、一の低雑音増幅器で複数の異なる周波数帯域の受信信号を増幅する構成を採用すると、周波数帯域の異なる信号が低雑音増幅器に進入し、互いに干渉して信号の歪を発生しやすくなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑み、少なくとも2つの通信システムで共用可能な高周波回路において、低雑音増幅回路を共用する場合に好適な構成の提供、小型かつ高性能の高周波回路、さらにはこれを用いた高周波回路部品及び通信装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1及び第2の周波数帯域の受信信号が入力される共通端子(Tcom)と、前記第1の周波数帯域の受信信号が出力される第1の受信端子(Rx_a)と、前記第2の周波数帯域の受信信号が出力される第2の受信端子(Rx_b)と、前記第1及び第2の周波数帯域の受信信号を増幅する低雑音増幅回路(LNA)とを有し、前記第1の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を通過し、前記第2の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を阻止する可変ノッチフィルタ回路(VNF)が前記共通端子(Tcom)と前記低雑音増幅回路(LNA)との間に接続され、前記低雑音増幅回路(LNA)と前記第1の受信端子(Rx_a)および前記第2の受信端子(Rx_b)との間に前記第1及び第2の周波数帯域の信号を分波する分波回路(Dip2)とを具備する高周波回路(20)である。異なる周波数帯域の受信信号の増幅に対して低雑音増幅回路(LNA)を共用することによって、高周波回路を簡略、小型化することができる。さらに、前記構成によれば、周波数帯域の異なる信号が低雑音増幅器(LNA)に進入して、互いに干渉して信号の歪を発生することを抑制することができる。
【0009】
前記高周波回路(20)において、送受信信号が入出力されるアンテナ端子(Ant)と、前記アンテナ端子(Ant)と送信信号が入力される送信端子(Tx_a,Tx_b)または受信信号が出力される受信端子(Rx_a,Rx_b)との接続を切り替える、少なくとも3つのポートを備えた高周波スイッチ回路(SW)を備え、前記高周波スイッチ回路(SW)の受信端子側のポートが、前記共通端子(Tcom)に接続されるのが好ましい。
【0010】
前記高周波回路(20)において、前記可変ノッチフィルタ回路(VNF)は、インダクタ(L)、容量(C)、抵抗(R)、スイッチ回路(D)および前記スイッチ回路(D)へ電圧を印加する電圧端子を有することが好ましい。
【0011】
前記高周波回路(20)において、前記スイッチ回路(D)がPINダイオードであることが好ましい。
【0012】
前記高周波回路(20)において、前記スイッチ回路(D)がFET(電界効果型トランジスタ)であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記高周波回路(20)における前記可変ノッチフィルタ回路(VNF)、前記高周波スイッチ回路(SW)、前記低雑音増幅回路(LNA)の少なくとも一部を積層体(10)に搭載し、残部を電極パターンにより前記積層体(10)内に構成した高周波回路部品(30)である。
【0014】
更に、本発明は、前記高周波回路(20)あるいは前記高周波回路部品(30)を用いた通信装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少なくとも2つの通信システムに共用可能な高周波回路において、低雑音増幅回路を共用する場合に好適な構成を提供し小型かつ高性能の高周波回路、さらにはこれを用いた高周波回路部品及び通信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様を図面を参照して説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。図1に、2.4GHz帯無線LAN(IEEE802.11bおよび/またはIEEE802.11g)と5GHz帯無線LAN(IEEE802.11aおよび/またはIEEE802.11h)の2つの通信システムを共用可能な本発明の一実施形態の回路ブロックを示す。本発明に係る高周波回路は、第1及び第2の周波数帯域の受信信号が入力される共通端子(Tcom)と、前記第1の周波数帯域の受信信号が出力される第1の受信端子(Rx_a)と、前記第2の周波数帯域の受信信号が出力される第2の受信端子(Rx_b)と、前記第1及び第2の周波数帯域の受信信号を増幅する低雑音増幅回路(LNA)とを有する。低雑音増幅回路はローノイズアンプ回路ともいう。第1の周波数帯域を2.4GHz帯無線LAN、第2の周波数帯域をそれよりも周波数の高い5GHz帯無線LANとして以下説明する。さらに、本発明に係る高周波回路は、第1の周波数帯域の信号の受信時には第1の周波数帯域の信号を通過し、第2の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を阻止する可変ノッチフィルタ回路(VNF)が共通端子(Tcom)と低雑音増幅回路(LNA)との間に接続され、低雑音増幅回路(LNA)と第1の受信端子(Rx_a)および第2の受信端子(Rx_b)との間に第1及び第2の周波数帯域の信号を分波する分波回路(Dip2)とを具備する。
【0017】
本発明において、外部からの制御入力によって減衰極の位置を調整できる可変ノッチフィルタ回路(VNF)を使用する。該可変ノッチフィルタ回路(VNF)を用いることにより、第1の周波数帯域である2.4GHz帯の信号の受信時には該第1の周波数帯域の信号を通過し、第2の周波数帯域である5GHz帯の信号の受信時には第1の周波数帯域である2.4GHz帯の信号を阻止する。すなわち、本発明に係る高周波回路において、可変ノッチフィルタ回路(VNF)は、使用する2以上の通信システムのうち一部の通信システムの信号を阻止するために用いている。かかる点が、単純に不要な高調波の低減を目的とする従来の使用形態と異なる。さらに、可変ノッチフィルタ回路(VNF)は低雑音増幅回路(LNA)の前段に設けられ、且つ低雑音増幅回路(LNA)の後段、すなわち低雑音増幅回路(LNA)と第1の受信端子(Rx_a)および第2の受信端子(Rx_b)との間に第1及び第2の周波数帯域を分波する分波回路(Dip2)を設けられている。2.4GHz帯と5GHzとで低雑音増幅回路(LNA)を共用する、かかる構成によれば、高周波回路の小型化が可能となる。かかる場合、前記構成の可変ノッチフィルタ回路(VNF)を用いることにより、周波数帯域の異なる信号が低雑音増幅器(LNA)に進入して、互いに干渉して信号の歪が発生することを抑制することができる。
【0018】
上記の本発明に係る構成は、受信モジュールに用いられるような受信経路を主体とする高周波回路に適用してもよいし、送信経路も備えて送受信に用いられる高周波回路に適用してもよい。図1に示す回路ブロックの高周波回路は、第1と第2の周波数帯域を選択的に用いて無線通信を行うデュアルバンド無線装置に用いられる、送受信用の高周波回路である。図1の構成では、マルチバンドアンテナに接続され、送受信信号が入出力されるアンテナ端子(Ant)と、アンテナ端子(Ant)と送信信号が入力される送信端子または受信信号が出力される受信端子との接続を切り替える、少なくとも3つのポートを備えた高周波スイッチ回路(SW)を備えている。高周波スイッチ回路(SW)の受信端子側のポートが、共通端子(Tcom)に接続され、高周波スイッチ回路(SW)の送信端子側のポートに第1の分波回路(Dip1)が接続されている。高周波スイッチ回路(SW)は、FET(電界効果型トランジスタ)やPINダイオードで構成できる。第1の分波回路(Dip1)は、低周波側フィルタ回路と高周波側フィルタ回路から構成され、低周波側フィルタ回路は2.4GHz帯無線LANの送信信号を通過させ、5GHz帯無線LANの送信信号を減衰させる。一方、高周波側フィルタ回路は5GHz帯無線LANの送信信号を通過させ、2.4GHz帯無線LANの送信信号を減衰させる。
【0019】
高周波スイッチ回路(SW)と送信端子との間の回路構成は特に限定するものではない。図1の構成では、第1の分波回路(Dip1)の低周波側フィルタ回路に、第1の電力増幅回路(PA1)が接続され、その第1の電力増幅回路(PA1)は第1のバンドパスフィルタ回路(BPF1)を介して2.4GHz帯無線LANの送信端子(Tx_b)に接続されている。ここで、バンドパスフィルタ回路(BPF1)は、送信信号に含まれる帯域外の不要なノイズを除去する。第1の電力増幅回路(PA1)は、2.4GHz帯無線LANの送信側回路から入力される送信信号を増幅する。第1の分波回路(Dip1)の低周波側フィルタ回路は、第1の電力増幅回路(PA1)にて発生する高調波信号を減衰する作用がある。
【0020】
第1の分波回路(Dip1)の高周波側フィルタ回路には、ローパスフィルタ(LPF)を介して第2の電力増幅回路(PA2)が接続されている。さらに、第2の電力増幅回路(PA2)は第2のバンドパスフィルタ回路(BPF2)を介して、5GHz帯無線LANの送信端子(Tx_a)に接続されている。
【0021】
ここで、バンドパスフィルタ回路(BPF2)は、送信信号に含まれる帯域外の不要なノイズを除去し、第2の電力増幅回路(PA2)は、5GHz帯無線LANの送信側回路から入力される送信信号を増幅する。ローパスフィルタ(LPF)は、増幅された送信信号を通過させるが、第2の電力増幅回路(PA2)にて発生する高調波信号を減衰する作用がある。なお、必要とされる特性に応じて、図1に示す構成にフィルタ等の回路素子を追加または削除することもできる。例えば、高周波スイッチ回路(SW)と第1の分波回路(Dip1)の間に検波回路を設けてもよい。この検波回路は、第1の分波回路(Dip1)と各電力増幅回路(PA1、PA2)、とのそれぞれの間に設けることもできるが、この場合は検波回路が2つ必要になり、小型化には向いていない。また、各電力増幅回路(PA1、PA2)内に検波出力を設けることもできる。この検波回路では、カプラにより検出した送信信号を基に検波用ダイオードで高周波電力を検波し、この検出信号をRFIC回路などを介してフィードバックし、各電力増幅回路(PA1、PA2)の制御に利用される。
【0022】
次に、高周波回路の受信経路側を説明する。少なくとも3つのポートを備えた高周波スイッチ回路(SW)の受信端子側のポートは、共通端子(Tcom)に接続される。高周波スイッチ回路(SW)として、例えばSPDT(単極双投)スイッチを用いることが出来る。共通端子(Tcom)に、第1の周波数帯域の信号の受信時には第1の周波数帯域の信号を通過し、第2の周波数帯域の信号の受信時には第1の周波数帯域の信号を阻止する可変ノッチフィルタ回路(VNF)が接続される。可変ノッチフィルタ回路(VNF)の後段には、第1及び第2の周波数帯域の受信信号を増幅する低雑音増幅回路(LNA)が接続される。更に、低雑音増幅回路(LNA)と第1の受信端子(Rx_a)および第2の受信端子(Rx_b)との間に第1及び第2の周波数帯域を分波する分波回路(Dip2)とを設ける。すなわち、前記構成は、異なる周波数帯域の受信信号を一の低雑音増幅器回路で増幅し、周波数毎の経路の分岐はその低雑音増幅器回路の後段で行う構成である。この低雑音増幅回路(LNA)は、2.4GHz帯無線LANの受信信号並びに5GHz帯無線LANの受信信号を増幅する。この場合、低雑音増幅は2.4GHz帯および5GHz帯の無線LANの受信信号を増幅可能なように、ゲインの周波数特性が平坦で、広帯域をカバーするものを用いる事が望ましい。かかる構成によれば、異なる周波数帯域の受信信号を一の低雑音増幅器回路で増幅できるため、高周波回路を簡略化・小型化できる。さらに、この回路構成により、高周波回路部品の小型化、低コスト化が可能であり、更には低雑音増幅回路の入力側に分波回路およびバンドパス回路を使用する必要がないので、受信感度を向上できるなどの効果が有る。
【0023】
分波回路(Dip2)の後段には、第1の周波数帯域の受信信号が出力される第1の受信端子(Rx_a)、第2の周波数帯域の受信信号が出力される第2の受信端子(Rx_b)が設けられる。第2の分波回路(Dip2)は、低周波側フィルタ回路と高周波側フィルタ回路から構成され、低周波側フィルタ回路は2.4GHz帯無線LANの受信信号を通過させ、5GHz帯無線LANの受信信号を減衰させる。一方、高周波側フィルタ回路は、5GHz帯無線LANの受信信号を通過させ、2.4GHz帯無線LANの受信信号を減衰させる。この作用により低雑音増幅で増幅された信号は、第2の分波回路(Dip2)により分波され、2.4GHz帯無線LANの受信信号は第3のバンドパスフィルタ回路(BPF3)を介して2.4GHz帯無線LANの受信端(Rx_b)に出力され、5GHz帯無線LANの受信信号は5GHz帯無線LANの受信端(Rx_a)に出力される。
【0024】
図1において、高周波スイッチ回路(SW)と低雑音増幅回路(LNA)との間に挿入された可変ノッチフィルタ(VNF)の働きを、図2を参照して説明する。図2において、高周波スイッチ回路(SW)と低雑音増幅回路(LNA)との間に挿入された可変ノッチフィルタ(VNF)は、第1の周波数帯域(f1=2.4GHz)の受信時には第1の周波数帯域を通過し(図2(a))、第2の周波数帯域(f2=5GHz)の受信時には第1の周波数帯域(f1=2.4GHz)を阻止する(図2(b))。
【0025】
図3は、可変ノッチフィルタ(VNF)の一実施例である。可変ノッチフィルタ回路(VNF)は、インダクタ(L)、容量(C)、抵抗(R)、スイッチ回路(D)および前記スイッチ回路へ電圧を印加する電圧端子(VC)を有する。スイッチ回路(D)は、FET(電界効果型トランジスタ)やPINダイオードで構成できる。FETを使用した場合は駆動電流の低減や切り替え速度を高速化できる利点があり、PINダイオードを使用した場合は廉価で小型パッケージ品が使用できる利点がある。図3の構成では、受信信号の経路のノードに容量(C)の一端が接続され、該容量(C)の他端にはインダクタ(L)の一端が直列に接続されている。前記インダクタ(L)の他端にはさらにスイッチ回路(D)の一端が直列に接続され、該スイッチ回路の他端は接地されている。インダクタ(L)の他端とスイッチ回路(D)の一端との間のノードには抵抗(R)の一端が接続され、該抵抗Rの他端は電圧端子(VC)に接続されている。電圧端子(VC)からのバイアス電圧を用いてスイッチ回路であるダイオード(D)をON/OFF制御することにより、ノッチフィルタ回路の減衰極を調整することができる。ここで、ダイオード(D)としてPINダイオードのようなOFF時容量が0.3〜0.5pF程度に小さいものを選択するのが良い。ダイオード(D)はON時には0.1nH程度の微小なインダクタとして機能する。すなわち、図3において、例えば、コンデンサ(C)を2pF、インダクタ(L)を1nH程度の回路定数とし、ダイオード(D)をON/OFF制御することにより、LC共振の共振周波数を変化させる。伝送特性を示すSパラメータS21は、例えば図4に示すような特性を示す。ダイオード(D)のON時には減衰極の中心周波数がf1(=2.4GHz)、OFF時には減衰極の中心周波数がf1と異なるf2となる。従って、可変ノッチフィルタ(VNF)は、第1の周波数帯域(2.4GHz)の受信時には、ダイオード(D)をOffにして、第1の周波数帯域を通過させる。一方、第2の周波数帯域(f2=5GHz)の受信時には、ダイオード(D)をOnにして、第1の周波数帯域(f1=2.4GHz)を減衰させて阻止する。このように第1の周波数帯域の中心周波数を2.4GHz、第2の周波数帯域の中心周波数を5GHzとすることによって、該周波数帯を用いるデュアルバンドの無線LANに好適な高周波回路を提供することができる。なお、ダイオード(D)のOFF時に減衰極の中心周波数は、必ずしもがf2(5GHz)である必要はないが、該構成を用いることによって周波数f2の不要な信号が低雑音増幅回路に流入して第1の周波数帯域f1の信号が歪むことを阻止することができる。
【0026】
以上、第1の周波数帯域として中心周波数f1=2.4GHz、第2の周波数帯域として中心周波数f2=5GHzの場合を説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、任意の周波数の組合せに適用できる。また、マルチバンドのみならず、トリプルバンド以上のマルチバンド通信にも適用できる。また、可変ノッチフィルタ回路(VNF)の阻止帯域は前記2.4GHz帯に限定されるものではない。前記第1の周波数帯域および/または第2の周波数帯域として、WiMAX に使用される2.6GHzや3.5GHzの帯域を用いることもできる。
【0027】
次に、本発明に係る一実施例の高周波回路を有する高周波回路部品を積層体部品(セラミック積層基板を用いた部品)として構成した場合の一実施形態を説明する。本発明に係る高周波回路部品では、高周波回路における前記可変ノッチフィルタ回路、前記高周波スイッチ回路、前記低雑音増幅回路の少なくとも一部を積層体に搭載し、残部を電極パターンにより前記積層体内に構成する。
【0028】
図5は、本発明の高周波回路部品の一実施形態であって、積層体(10)に搭載部品を搭載した斜視図である。可変ノッチフィルタ回路(VNF)、高周波スイッチ回路(SW)、低雑音増幅回路(LNA)、そして電力増幅回路(PA)を積層体(10)に搭載する。可変ノッチフィルタ回路(VNF)は、図3に示すように、コンデンサ(C)、インダクタ(L)、抵抗(R)、そしてダイオード(D)で構成される。図5において、これらは全てチップ部品として積層体(10)に搭載する。
【0029】
積層体(10)は、例えば1000℃以下で低温焼結が可能なセラミック誘電体材料LTCC(Low Temperature Co‐fired Ceramics)からなり、厚さが10μm〜200μmのグリーンシートに、低抵抗率のAgやCu等の導電ペーストを印刷して所定の電極パターンを形成し、複数のグリーンシートを適宜一体的に積層し、焼結することにより製造することが出来る。前記誘電体材料としては、例えばAl、Si、Srを主成分として、Ti、Bi、Cu、Mn、Na、Kを副成分とする材料や、Al、Si、Srを主成分としてCa、Pb、Na、Kを複成分とする材料や、Al、Mg、Si、Gdを含む材料や、Al、Si、Zr、Mgを含む材料が用いられ、誘電率は5〜15程度の材料を用いる。
【0030】
なお、セラミック誘電体材料の他に、樹脂積層基板や樹脂とセラミック誘電体粉末を混合してなる複合材料を用いてなる積層基板を用いることも可能である。また、前記セラミック基板をHTCC(高温同時焼成セラミック)技術を用いて、誘電体材料を、Alを主体とするものとし、伝送線路等をタングステンやモリブデン等の高温で焼結可能な金属導体として構成しても良い。
【0031】
積層体(10)の内部には、図5で積層体(10)に搭載した可変ノッチフィルタ(VNF)、高周波スイッチ回路(SW)、低雑音増幅回路(LNA)、および電力増幅回路(PA)以外の、図1に示したローパスフィルタ(LPF)やバンドパスフィルタ(BPF)を形成する。かかる回路素子を積層体(10)の内部に形成することにより、高周波スイッチ回路(SW)、や電力増幅回路(PA)を一体化した小型の高周波部品が実現可能となる。
【0032】
本実施例のセラミック積層基板は、平面の寸法が6.5mm×5.3mmであり、非常に小型に構成することができた。また、セラミック積層基板の高さは0.6mmと薄く、半導体素子をベアチップ実装することにより、搭載部品及びその樹脂封止を含めても、高さ1.3mmに構成することができた。すなわちこの平面寸法で7mm角以下と非常に小型化することができた。
【0033】
従来回路構成では2.4GHz帯の−15dBmの信号が低雑音増幅器に入力され、この2倍の周波数である5GHzの高調波発生量が5GHz帯の受信端子より−30dBm出力され、5GHz帯の受信信号に対する感度の劣化を招いていた。これに対して、VNFを用いた本発明を適用する事により、5GHz帯の受信端子より出力される高調波発生量を−70dBmまで低減する事が可能となり、受信感度の劣化を未然に防止する事が可能となった。
【0034】
以上説明した高周波回路、あるいは高周波回路をセラミック積層基板で構成した高周波回路部品を、例えば2.4GHz帯無線LAN(IEEE802.11bおよび/またはIEEE802.11g)と5GHz帯無線LAN(IEEE802.11aおよび/またはIEEE802.11h)の2つの通信システムを共用可能なRFフロントエンド回路となし、これを用いた小型のマルチバンド通信装置を実現することが出来る。通信システムは上記した周波数帯域や通信規格に限るものではなく各種通信システムに利用可能である。また、2つの通信システムだけではなく、例えば高周波スイッチ回路を更に多段に切り替える形態をとることにより、より多数の通信システムに対応可能となる。本発明に係る高周波回路または高周波回路部品を用いた通信装置としては、例えば携帯電話に代表される無線通信機器、パーソナルコンピュータ(PC)、プリンタやハードディスク、ブロードバンドルータ等のPCの周辺機器、FAX、冷蔵庫、標準テレビ(SDTV)、高品位テレビ(HDTV)、カメラ、ビデオ、等の家庭内電子機器などに展開が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例に係る高周波回路の回路ブロックである。
【図2】本発明の高周波回路に用いる可変ノッチフィルタの機能を示す図である。
【図3】本発明の高周波回路に用いる可変ノッチフィルタの回路図である。
【図4】本発明の高周波回路のS21−周波数特性図である。
【図5】本発明の高周波回路部品の斜視図である。
【図6】従来の高周波回路の一例を示す回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
Ant: アンテナ端子
Rx_a、Rx_b: 受信端子
Tx_a、Tx_b: 送信端子
Tcom: 共通端子
VNF: 可変ノッチフィルタ回路
LNA:低雑音増幅回路
Dip1,Dip2: 分波回路
SW: 高周波スイッチ回路
f1: 第1の周波数帯域の中心周波数
f2: 第2の周波数帯域の中心周波数
10: 積層体
20: 高周波回路
30: 高周波回路部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の周波数帯域の受信信号が入力される共通端子と、
前記第1の周波数帯域の受信信号が出力される第1の受信端子と、
前記第2の周波数帯域の受信信号が出力される第2の受信端子と、
前記第1及び第2の周波数帯域の受信信号を増幅する低雑音増幅回路とを有し、
前記第1の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を通過し、前記第2の周波数帯域の信号の受信時には前記第1の周波数帯域の信号を阻止する可変ノッチフィルタ回路が前記共通端子と前記低雑音増幅回路の間に接続され、
前記低雑音増幅回路と、前記第1の受信端子および前記第2の受信端子との間に前記第1及び第2の周波数帯域の信号を分波する分波回路を具備することを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
送受信信号が入出力されるアンテナ端子と、
前記アンテナ端子と送信信号が入力される送信端子または受信信号が出力される受信端子との接続を切り替える、少なくとも3つのポートを備えた高周波スイッチ回路を備え、
前記高周波スイッチ回路の受信端子側のポートが、前記共通端子に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記可変ノッチフィルタ回路は、インダクタ、容量、抵抗、スイッチ回路および前記スイッチ回路へ電圧を印加する電圧端子を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記スイッチ回路がPINダイオードであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項5】
前記スイッチ回路がFETであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の高周波回路における前記可変ノッチフィルタ回路、前記高周波スイッチ回路、前記低雑音増幅回路の少なくとも一部を積層体に搭載し、
残部を電極パターンにより前記積層体内に構成したことを特徴とする高周波回路部品。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の高周波回路または請求項6に記載の高周波回路部品を用いたことを特徴とする通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−236017(P2008−236017A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68870(P2007−68870)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】