説明

高周波用の電線

【課題】第1に、周波数特性に優れ、高周波交流抵抗が軽減されてジュール熱損失が低減され、第2に、しかもこれが、諸コスト面等に優れて実現される、高周波用の電線を提案する。
【解決手段】この高周波用の電線6は、多数本の素線7が束ねて撚られると共に、外皮シースSにて絶縁被覆されており、その素線7が、毛細管状をなす極細中空パイプ構造よりなる。そして素線7は、その中空部8がエアー空洞9となるか、又は、中空部8に絶縁材10が内装されており、後者の場合、その素線7は、極細微細な絶縁糸の外周に金属導体を、メッキや蒸着にて付着させた構造よりなる。そして電線6は、例えば、電磁誘導の相互誘導作用に基づき電力を供給する非接触給電装置において、回路ケーブルやコイルとして使用され、もって高周波交流による交流抵抗増加を抑制,軽減する機能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用の電線に関する。すなわち、高周波用の配線材や巻線材等として用いられる電線、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
例えば非接触給電装置では、高周波交流方式が採用されているが、周波数増加が顕著である。
すなわち、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、定置された給電側コイルから、電気自動車等に搭載された受電側コイルに、エアギャップを介し電力を供給する非接触給電装置では、充電効率の向上、大ギャップ化,コイルの小型軽量化等のニーズから、高周波交流方式が採用されている。そして、これらのニーズに鑑み、現在は20kHz程度の高周波が用いられているが、今後は50kHz〜100kHz、更にはこれを超える高い周波数の使用が、予測される。
その他、例えばオーディオ機器,ゲーム機,パソコン,その他の各種電気機器においては、高周波交流方式の採用そして使用周波数増加のニーズが顕著である。
【0003】
《従来技術》
さて、このように高周波交流方式を採用した非接触給電装置,その他では、その配線材や巻線材等として、例えば回路ケーブル用やコイル用として、図4に示した電線1,2が、代表的に使用されていた。
まず、図4の(1)図に示した電線1は、この種の通常電線である。この電線1は、図4の(2)図に示したムクの線材の素線3を、多数本束ねて撚ると共に、外皮シースSにて絶縁被覆した構成よりなる。図4の(3)図に示した電線2は、リッツ線と称される。この電線2は、図4の(4)図に示したように、外周がエナメル等の絶縁皮膜4で被われた素線5を、多数本を束ねて撚ると共に、外皮シースSにて絶縁被覆した構成よりなる。素線5は、例えば線径200μ以下程度の細線よりなる。
なお、図4の(1)図,(3)図は、模式図であり、図面上は、1本の電線1,2について、それぞれ7本の素線3,5が図示されているが、実際上は、1本の電線1,2について、数十本〜数万本程度の素線3,5が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
上述した非接触給電装置としては、例えば、特許文献1に示されたものが挙げられる。又、リッツ線としては、例えば、特許文献2に示したものが挙げられる。
【特許文献1】特開2008−087733号公報
【特許文献2】特開平5−263377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点》
ところで、このような従来技術については、次の課題が指摘されていた。
第1に、図4の(1)図の電線1(通常電線)を、高周波交流の回路ケーブル用,高周波電力送電用等として使用すると、表皮効果による高周波交流抵抗,ジュール熱損失,電力損失等が、問題となっていた。
すなわち、電線1(通常電線)を使用すると、周波数が高くなるほど表皮効果の影響が大きくなり、周波数特性が低下し、高周波交流抵抗が増加して、ジュール熱損失が自乗的に増大し、もって電力損失が顕著化していた。
表皮効果については、次のとおり。公知のごとく、交流電流は周波数が高くなるほど、発生する交番磁束と電流の相互作用により、電線1の表面側を流れ易くなり、電流密度が表面側に集中する。その結果、高周波交流は電線1の全断面積のうち一部、つまり表面側の極く薄い肉厚部に集中的に流れるようになり、通電面積の低下により交流抵抗値が増加する。
【0006】
第2に、図4の(3)図の電線2(リッツ線)は、周知のごとく、上述した電線1(通常電線)の問題点を解決すべく、高周波用として開発,使用されている。
すなわち、この電線2は、電線1に比べて細い例えば線径200μ以下程度に細分化されると共に絶縁皮膜4付の素線5を、例えば数千本程度以上束ねることで、各素線5表面側・外周面の表面積を、トータルでより大く取るようになっている。つまり、前述した電線1より表面側・外周面の数を増し、その分だけ表面積を増大させたことにより、表皮効果による電流密度集中を、分散,分断,軽減せんとする。
しかしながら、この電線2についても、使用周波数の高域化に伴い、高周波交流抵抗の更なる抑制,軽減、更なるジュール熱損失の低減、更なる電力損失の解消が望まれていた。周波数特性の向上が切望されていた。
又、この電線2については、コスト面にも問題が指摘されていた。まず、高周波交流は表皮効果に基づき、各素線5の表面側のみを流れ中央側は流れない。各素線5の全断面積のうち極く薄い表面側を除いた中央側は、電流が流れない非使用部,無駄部となっており、材料コスト的にロスが多い(この点は前述した電線1についても同様)、という指摘があった。又、各素線5の外周を絶縁皮膜4で被うことを必須的に要するので、製造コストが嵩むという指摘もあった。
【0007】
《本発明について》
本発明の高周波用の電線は、このような実情に鑑み、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、周波数特性に優れ、高周波交流抵抗が軽減されて、ジュール熱損失が低減され、第2に、しかもこれが、諸コスト面等に優れて実現される、高周波用の電線を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、特許請求の範囲に記載したように、次のとおりである。
請求項1については、次のとおり。請求項1の高周波用の電線は、多数本の素線が束ねて撚られると共に、外皮シースにて絶縁被覆されており、該素線が、毛細管状をなす極細中空パイプ構造よりなること、を特徴とする。
請求項2については、次のとおり。請求項2の高周波用の電線では、請求項1において、該素線は、中空部がエアー空洞となっていること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の高周波用の電線では、請求項1において、該素線は、中空部に絶縁材が内装されていること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の高周波用の電線では、請求項3において
、該素線は、極細微細な絶縁糸の外周に金属導体を、メッキや蒸着にて付着させた構造よりなること、を特徴とする。
請求項5については、次のとおり。請求項5の高周波用の電線では、請求項2又は請求項3において、該素線は、外周が絶縁皮膜で被われていること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。請求項6の高周波用の電線では、請求項2又は請求項3において、該電線は、非接触給電装置にて使用される。
そして該非接触給電装置は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、1次側の電源側回路のコイルから2次側の負荷側回路のコイルに、非接触で電力を供給する。該電線は、該非接触給電装置の回路ケーブルやコイルとして使用され、もって高周波交流による交流抵抗増加を抑制,軽減する機能を発揮して、ジュール熱損失を低減せしめること、を特徴とする。
【0009】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)本発明の高周波用の電線は、極細中空パイプ構造の素線を、束ねて撚ってなる。
(2)もって、配線材や巻線材として使用される。
(3)さて、この電線の多数本の素線は、それぞれ中空パイプ構造をなし、その数だけの内周面を有している。従ってこの電線は、外周面も含めて単位長さ当りのトータルで広い表面積を有していることになり、表皮効果による電流密度集中が、分散,緩和,軽減される。
(4)従って、この電線では、その分、高周波交流の通電面が広がるため、交流抵抗,ジュール熱損失が軽減,低減される。周波数が高くなると増大する表皮効果の影響を小さくでき、優れた周波数特性を備えている。
(5)これらの点は、実験結果によっても裏付けられた。
(6)又、この電線において、高周波交流は、中空パイプ構造の素線導体部のほぼ全断面を流れ、電流が流れない非使用,無駄な導体部は存在しない。もって、素線の導体材料に無駄がなく、導体コストも重量も大幅に軽減される。
(7)又、その素線は、通常の金属パイプを作る工程に準じた工程や、微細絶縁糸に金属導体を金属メッキ法や金属蒸着法で付着させる工程を辿ることにより、簡単容易に製作される。
(8)なお、本発明の各例おいて、素線中空部をエアー空洞とした例の電線は、重量軽減面に特に優れている。これに対し、素線中空部に絶縁材が内装された例の電線は、各種強度,弾性,フレキシブル性等に優れている。
(9)素線が絶縁皮膜で被われた例の電線は、前記表面積に加え、被覆なしでは素線同士の接触により失われていた素線外周面の面積も通電面となるため、表皮効果による電流密度集中の分散,緩和,軽減が一段と促進され、周波数特性に優れている。
(10)さてそこで、本発明の高周波用の電線は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0010】
《第1の効果》
第1に、周波数特性に優れ、高周波交流抵抗が軽減されて、ジュール熱損失が低減される。
すなわち、本発明の高周波用の電線は、毛細管状をなす極細中空パイプ構造の素線を採用し、これを束ねて撚ったことにより、表皮効果による電流密度集中が、分散,緩和,軽減される。
もって、前述したこの種従来技術の通常電線やリッツ線に比し、高周波交流抵抗が一段と抑制,軽減され、周波数特性が向上する。その分だけ、ジュール熱損失が低減され、電力損失が大幅に削減される。例えば、非接触給電装置の回路ケーブルやコイルに使用した場合も、これらの効果が確実に発揮される。
【0011】
《第2の効果》
第2に、しかもこれは、諸コスト面等に優れて実現される。すなわち、本発明の高周波用の電線は、毛細管状をなす中空パイプ構造の素線を採用してなり、電流はこのような素線を流れる。
前述したこの種従来技術の通常電線やリッツ線のように、各素線中央側に、表皮効果にて電流が流れない非使用部,無駄部が存してしまい、ロスが多かった点は解消される。本発明の電線は、素線の材料コストが、中空部とした素線中央側の分だけ軽減される。又、その分だけ電線重量が軽減され、軽量化されることになる。
又、本発明の電線は、その素線が、通常の金属パイプを作る工程に準じた工程や、金属メッキ法や金属蒸着法の工程を辿って製作される等、この種従来例の通常電線に準じ簡単容易に製造可能である。各素線毎に絶縁皮膜形成が必須的な従来技術(リッツ線)に比し、製造コストが低減される。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る高周波用の電線について、発明を実施するための形態の説明に供し、(1)図は、第1例の断面模式図、(2)図は、その素線の断面図である。(3)図は、第2例の断面模式図、(4)図は、その素線の断面図である。
【図2】同発明を実施するための形態の説明に供し、(1)図は、第3例の断面模式図、(2)図は、その素線の断面図である。(3)図は、第4例の断面模式図、(4)図は、その素線の断面図である。
【図3】同発明を実施するための形態の説明に供し、本発明の実施例とこの種従来技術とについて、周波数特性のテスト結果を比較したグラフであり、(1)図はその1例を、(2)図は他の例を示す。
【図4】この種従来技術の説明に供し、(1)図は、通常電線の断面模式図、(2)図は、その素線の断面図である。(3)図は、リッツ線の断面模式図、(4)図は、その素線の断面図である。
【図5】非接触給電装置の説明に供し、(1)図は、側面説明図であり、(2)図は、ブロック図である。
【図6】非接触給電装置の説明に供し、回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
《本発明の概要》
まず、図1,図2を参照して本発明の概要について説明する。
本発明の高周波用の電線6は、多数本の素線7が束ねて撚られると共に、外皮シースSにて絶縁被覆されており、その素線7が、毛細管状をなす極細中空パイプ構造よりなること、を特徴とする。
そして代表例として、該素線7は、図1の(1)図,(2)図に示したように中空部8がエアー空洞9となるか、又は、図1の(3)図,(4)図に示したように、中空部8に絶縁材10が内装される。後者の例において、素線7は、極細微細な絶縁糸の外周に金属導体を、メッキや蒸着にて付着させた構造よりなる。
なお、図2に示したように、上述した両例について更に、素線7の外周を絶縁皮膜11で被った例も、考えられる。
本発明は、概略このようになっている。
【0014】
《本発明の詳細》
以下、本発明について更に詳述する。
まず、この電線6の素線7について、図1を参照して説明する。素線7は、純銅,銅合金,アルミ,又は金等の高導電率の金属導体製よりなり、線径が、数10μ〜数100μ程度のものが代表的であるが、数μ程度や数1,000μ程度のものも可能である。
素線7は、このように極細線状よりなると共に、中空のパイプ構造よりなり、軸芯中央部が中空部8とされたミクロ単位の毛細管状をなし、いわゆるキャピラリーチューブ,極細管状をなす。1例としては、中空部8の径が10μ程度で、その外周肉厚が1.5μ程度とされる。
そして、図1の(1)図,(2)図に示した素線7は、通常の金属パイプを作る工程に準じて製作される。これに対し、図1の(3)図,(4)図に示した素線7は、金属メッキ法や金属蒸着法にて製作される。
金属メッキ法や金属蒸着法では、絶縁材10となる絶縁抵抗の高い極細微細な絶縁糸の外周に、メッキや蒸着により金属導体を付着させる。例えば、線径10μ程度の微細絶縁糸に、肉厚1.5μ程度の金属導体が被覆される。芯材たる絶縁糸の材料としては、例えば、樹脂,ガラス,セラミックス,ゴム,その他の不導体が考えられる。例えば、高張力が要求される場合は1例として、ポリフェニレンエーテルPPE(変性PPO)(商標名ザイロン:米国ゼネラルエレクトリック社)が使用される。又、このような絶縁糸としては、単繊維製のものと、複数本を撚ったものとがある。
【0015】
電線6は、このように毛細管状をなす極細中空パイプ構造の素線7を多数本、束ねて撚った後、外皮シースSにて取り巻き絶縁被覆されてなる。
まず、1本の電線6について、総本数が数十本〜数万本に達する素線7が、束ねられる。例えば、導体断面積1.25sq・mmの電線6について、2,000本〜8,000本程度の素線7が用いられる。導体断面積11sq・mmの電線6について、50,000本程度の素線7が用いられる。
そして電線6は、このように多数本の素線7を、通常電線の製作に準じ、束ねて撚り合わせて製作される。すなわち束ねられた素線7は、一定ピッチ間隔で捻回され、絶縁膜層つまり外皮シースSにて全体外周が被覆されて、電線6となる。
なお、電線6を構成する各素線7は、通常は、そのまま全本数を束ねて撚り合わせるが、これによらず、多数本を束ね撚り合わせて子束とし、この小束複数組を束ね撚り合わせるようにしてもよい。更に、この子束複数組を束ね撚り合わせて親束とし、この親束複数組を束ね撚り合わせることも、考えられる。更に、この親束の集合体を束ね撚り合わせることも、可能である。
【0016】
ところで、図1の(1)図,(2)図に示した例の電線6では、素線7の中空部8は、そのまま空気が存在するエアー空洞9とされる。これに対し、図1に(3)図,(4)図に示した例の電線6では、素線7の中空部8には、絶縁抵抗の高い絶縁材10が内装され存在している。
又、図2の(1)図,(2)図に示した例の電線6では、その各素線7の外周が、絶縁皮膜11で被われている。この例の電線6について、その他の構成等は、前述した図1の(1)図,(2)図に示した例の電線6や素線7に準じる。図2の(3)図,(4)図に示した例の電線6では、その各素線7の外周が、絶縁皮膜11で覆われている。この例の電線6について、その他の構成等は、前述した図1の(3)図,(4)図に示した例の電線6や素線7に準じる。
この図2の両例において、素線7の外周を被う絶縁皮膜11としては、前述した電線2(リッツ線)の絶縁皮膜4に準じ(図4の(3)図,(4)図を参照)、エナメル塗膜が代表的に使用されるが、勿論、絶縁樹脂,その他の不導体も使用可能である。
ところで、次のような追加例も、考えられる。すなわち、上述した図2の(1)図,(2)図に示した例や、(3)図,(4)図に示した例について、更に、その絶縁皮膜11の外周を、素線7に準じた構成の金属導体で被うようにした例も、考えられる。更に、その又外周を、絶縁皮膜11に準じた構成の皮膜で被うようにした例も、考えられる。
なお、図1の(1)図,(3)図,図2の(1)図,(3)図は、模式図であり、図面上は、1本の電線6について、それぞれ7本の素線7が図示されているが、実際上は、1本の電線6について数十本〜数万本程度以上の素線7が使用される。
本発明の詳細については、以上のとおり。
【0017】
《非接触給電装置12について》
ここで、図5,図6を参照して、非接触給電装置12について説明しておく。
本発明の高周波用の電線6は、例えば非接触給電装置12にて使用される。非接触給電装置12は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、電源側回路13の1次コイル14から負荷側回路15の2次コイル16に、非接触で電力を供給する。
そして電線6は、非接触給電装置12の電源側回路13や負荷側回路15において、回路ケーブル17やコイル14,16,18として使用され、もって高周波交流による交流抵抗増加を抑制,軽減する機能を発揮して、ジュール熱損失を低減せしめる。
【0018】
このような非接触給電装置12(IPS)について、更に詳述しておく。図5に示したように、給電側の電源側回路13は、給電スタンドT等の給電エリアにおいて、地上側19に固定的に定置配設される。
これに対し、受電側の負荷側回路15は、電気自動車等の車輌20,その他の移動体に搭載されており、車載バッテリー21に接続されるのが代表的であるが、各種負荷22に直接接続される場合もある。そして、電源側回路13の1次コイル14と負荷側回路15の2次側コイル16とは、給電に際し、エアーギャップgを介し非接触で対応位置決めされる。
2次コイル16は、図示例では、車載バッテリー21に接続されており、バッテリー21にて走行用モータ23が駆動される。図中24は、交流を直流に変換するコンバータ、25は、直流を交流に変換するインバータである。
給電に際しては、電源側回路13の1次コイル14が、高周波用電源26からの例えば100kHz程度の高周波交流を励磁電流として通電されて、磁界が生じ磁束が形成され、磁束の磁路が1次コイル14と2次コイル16間に形成される。もって、1次コイル14と2次コイル16間が電磁結合され、2次コイル16を磁束が貫き鎖交することにより、2次コイル16に誘導起電力が生成される。
非接触給電装置19では、このような電磁誘導の相互誘導作用により、電力が、電源側回路13から、負荷側回路15へと供給される。図6中27,28,29は、コイル14,16,18との共振用のコンデンサである。
非接触給電装置12については、以上のとおり。
【0019】
《作用等》
本発明の高周波用の電線6は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)本発明の高周波用の電線6は、毛細管状をなす極細中空パイプ構造の素線7を、束ねて撚った構成よりなる(図1,図2を参照)。
【0020】
(2)もって、この電線6は、高周波用の配線材や巻線材として、使用される。例えば高周波電力送電用の回路ケーブル17やコイル14,16,18(例えば、図6の非接触給電装置12を参照)として、使用される。又、オーディオ機器,ゲーム機器,パソコン,その他の各種電気機器の配線用として、例えばスピーカーやイヤホーンに音響周波電力を送る配線用として、使用される。
【0021】
(3)そして、この電線6では、高周波交流を流した際、表皮効果による電流密度集中が、分散,緩和,軽減される。
すなわち、この電線6は、中空パイプ構造の素線7を、数十本〜数万本程度の多数本、束ねて撚ってなる。そして、このように細分化された各素線7は、その数だけ多数の内周面を有しており、結果的に電線6も、各素線7の数に対応して、外周面も含めた単位長さ当りで、トータル的に広い表面積を有していることになる(図1,図2を参照)。
そこで、この電線6にあっては、このように広い表面積の分だけ、各素線7の電流密度が下げられる。周波数が高くなると増大する表皮効果の影響、つまり表皮効果による電流密度集中が、導体外径や素線数が同一の電線に比し分散,緩和,軽減される。
なおこの点は、図2の例では、各素線7の外周面が絶縁されているので、外周面のマイナスがなくなり更に効果的に発揮されるが、絶縁皮膜11のコストが発生するようになる。
【0022】
(4)このように、この電線6では、高周波電流は新規に形成された広い内周面にも流れるようになり、高周波交流の電流密度集中が、分散,緩和,軽減される。単純には、抵抗は通電面積に略反比例するので、その分、高周波交流抵抗は抑制,軽減され、ジュール熱損失も低減される。
このようにして、この電線6は、周波数が高くなると増大する表皮効果の影響を小さくでき、優れた周波数特性を備えている。
【0023】
(5)上述した本発明の作用は、テスト結果によっても裏付けられた。本発明の電線6が周波数特性に優れていることが、実験によっても確かめられた。その実験結果を、図3のグラフに示す。
この実験では、本発明の実施例の電線6およびこの種従来技術の電線について、それぞれ周波数1kHzにおける交流抵抗値を1とみなすと共に、これに対する各周波数毎の交流抵抗値の比率を、それぞれ実測した。
なお、実験に使用した本発明の電線6について、その電線A(導体断面積1.25/4sq・mm)に対し、電線B(導体断面積1.25sq・mm)は、束ねて使用した素線7の本数を4倍(電線A:2000本、電線B:8000本)とし、それぞれ図1の(1)図に示した例のものを使用した。
通常電線つまり前述した電線1(図4の(1)図を参照)としては、市販の撚り線(導体断面積1.25sq・mm)を使用した。リッツ線A(導体断面積70sq・mm)やリッツ線B(導体断面積11sq・mm)、つまり前述した電線2(図4の(3)図を参照)としては、周波数20kHz前後で使用されているものを使用した。通常電力ケーブル(導体断面積14sq・mm)としては、市販の商用周波数用のものを使用した。
さて、このような各線について、同一条件下で高周波交流を流して実験した所、図3の(1)図,(2)図に示したように、本発明の電線6つまりその電線A,Bは、この種従来技術と比較して、優れた周波数特性を備えていることが、実証された。周波数が高くなっても、応答する抵抗比の増加は抑制され、極めて低い抵抗比が維持され、むしろ減少傾向が見られるデータが得られた。又、この電線A,Bのデータに差異がなく、束ねた本数に関係なく同性能,同じ周波数特性が得られることが確認された。
これに対し、通常電線,リッツ線A,B,通常電力ケーブル等は、周波数が高くなるにつれて、それぞれ抵抗比が急激に増加するデータとなった。
【0024】
(6)さて、このように優れた周波数特性を備えた本発明の電線6は、その素線7が中空パイプ構造をなし、高周波交流は、この素線7を環状導体として全表面を流れる。
これに対し、前述したこの種従来技術の電線1(通常電線)や電線2(リッツ線)では、通電面はその外周面のみであり、その素線3,5の断面中央側に、ほとんど電流の流れない非使用部,無駄部,ロス部が、形成されていた(図1,図2と図4とを比較対照)。
もって、この電線6は、この種従来技術に比較して、電流が流れない非使用部,無駄部は存在せず、素線7の材料である金属導体の無駄が大きく解消され、重量もコストも大きく軽減される。
【0025】
(7)又、この電線6は、簡単容易に製造可能である。すなわち、図1の(1)図,(2)図の素線7は、通常の金属パイプを作る工程に準じて製作される。又、図1の(3)図,(4)図の例の素線7は、微細絶縁糸外周に導体金属を、金属メッキ法や金属蒸着法で付着させることにより、製作される。もって、この電線6は、前述した電線1(通常電線)に準じ、簡単容易に製造される。
【0026】
(8)ところで、本発明の各例については、次のとおり。まず、図1の(1)図に示した例の電線6は、その素線7の中空部8がエアー空洞9となっているので、前述した(6)中の重量軽減面に特に優れる、という利点がある。これに対し、図1の(3)図に示した例の電線6は、その素線7の中空部8に絶縁材10が内装されているので、各種強度,弾性,フレキシブル性等に優れる、という利点がある。
【0027】
(9)図2の(1)図,(3)図に示した例の電線6は、まず、それぞれ対応する図の(1)図,(2)図について、上記(8)に記載した利点を備えている。そして更に、これに加え、その素線7外周が絶縁皮膜11で被われているので、上記(3),(4)の周波数特性により優れている。
すなわち、この図2の(1)図,(3)図の電線6は、前述したように、その素線7が中空パイプ構造をなすことに加え、外周が絶縁皮膜11で絶縁されている。そこで、この種従来技術の電線2(リッツ線)について前述した所に準じ、素線7の外周面積を確実に広く取ることができる。もって、表皮効果による電流密度集中の分散,緩和,軽減が、一段と促進される。
【符号の説明】
【0028】
1 電線(従来例)
2 電線(従来例)
3 素線(従来例)
4 絶縁皮膜(従来例)
5 素線(従来例)
6 電線(本発明)
7 素線(本発明)
8 中空部
9 エアー空洞
10 絶縁材
11 絶縁皮膜
12 非接触給電装置
13 電源側回路
14 1次コイル
15 負荷側回路
16 2次コイル
17 回路ケーブル
18 コイル
19 地上側
20 車輌
21 バッテリー
22 負荷
23 モータ
24 コンバータ
25 インバータ
26 高周波用電源
27 コンデンサ
28 コンデンサ
29 コンデンサ
g エアギャップ
S 外皮シース
T 給電スタンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の素線が束ねて撚られると共に、外皮シースにて絶縁被覆された高周波用の電線であって、該素線は、毛細管状をなす極細中空パイプ構造よりなること、を特徴とする高周波用の電線。
【請求項2】
該素線は、中空部がエアー空洞となっていること、を特徴とする請求項1記載の高周波用の電線。
【請求項3】
該素線は、中空部に絶縁材が内装されていること、を特徴とする請求項1記載の高周波用の電線。
【請求項4】
該素線は、極細微細な絶縁糸の外周に金属導体を、メッキや蒸着にて付着させた構造よりなること、を特徴とする請求項3記載の高周波用の電線。
【請求項5】
該素線は、外周が絶縁皮膜で被われていること、を特徴とする請求項2又は請求項3記載の高周波用の電線。
【請求項6】
該電線は、非接触給電装置にて使用され、該非接触給電装置は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、1次側の電源側回路のコイルから2次側の負荷側回路のコイルに、非接触で電力を供給し、
該電線は、該非接触給電装置の回路ケーブルやコイルとして使用され、もって高周波交流による交流抵抗増加を抑制,軽減する機能を発揮して、ジュール熱損失を低減せしめること、を特徴とする請求項2又は請求項3記載の高周波用の電線。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate