説明

高周波用フェライト材料および高周波用フェライト材料の製造方法

【課題】 添加成分の分散状態を良好にすることができ、磁気特性の改善により高周波帯域でも透磁率を高く得ることができ、高周波用途への適用において小型化が良好に行える高周波用フェライト材料を提供すること
【解決手段】 主成分はNiCuZnフェライトとし、副成分としてコバルトフェライト(CoFe24)を添加する。また、コバルトフェライトは、化学量組成をCo(1+x)Fe(2−x)とおくとき、xは0から0.04としてFe量が少ない組成物とする。添加したコバルトフェライトはNiCuZnフェライトに固溶しやすく、Coは粒子間に均一に分布する。このため、NiCuZnフェライトの粒子間には異相は析出しなく、磁気特性は悪化がなく良好にできる。複素透磁率μ(μ=μ′−jμ″)の周波数特性を見ると、実部μ′の共鳴ピークが高周波側に高く得られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni−Zn系の高周波用フェライト材料および高周波用フェライト材料の製造方法に関するもので、より具体的には、NiCuZnフェライトを主成分とし、これに対する添加成分の分散状態の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られるように、Ni−Zn系のフェライト材料は、抵抗率が高い特徴から高い周波数帯域で損失を少なくでき、高周波用のコア材料に用いられることが多い。そして、高周波特性を良好に得るため各種の工夫が行われており、例えばCoやSiOなどを添加することが行われている。また、例えば特許文献1などに見られるように、CoOを添加することも一般的である。
【0003】
【特許文献1】特開2000−327411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波特性のための添加成分を見ると、CoOやCoの添加では、焼成後に一部のCo成分がNiCuZnフェライトにうまく固溶せず、主にNiCuZnフェライト中のNiやZnやCuと酸化物を形成する。これはNiCuZnフェライトの粒子間に偏析し、異相を形成する結果となる。このため、NiCuZnフェライトの磁気特性を悪化させることになる。
【0005】
また、たとえNi−Zn系のフェライト材料であっても、高周波帯域では損失が格段に大きくなり、このため透磁率が低下する特性を持っている。これは、例えば高周波帯域におけるノイズ対策コイルコアへの適用を考えると、小型に構成できないという問題になる。つまり、ノイズ除去で重要となるコイルのインピーダンスを大きく得たいときには、高周波帯域ではコア自体の透磁率が低減するので、コアサイズを大きくするか、あるいは巻線数を増すことが必要になり、何れにしても寸法サイズが大きくなってしまう。
【0006】
近年は電子機器の薄型,軽量,高機能化により、これを構成する電子部品について小型化,小チップ化の要求が特に高いため、より小型化するための改善が求められている。
【0007】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、添加成分の分散状態を良好にすることができ、磁気特性の改善により高周波帯域でも透磁率を高く得ることができ、高周波用途への適用において小型化が良好に行える高周波用フェライト材料および高周波用フェライト材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る高周波用フェライト材料は、(1)主成分はNiCuZnフェライトとし、副成分には少なくともコバルトフェライト(非化学量論組成を含む)を添加する組成にした。
【0009】
(2)また、コバルトフェライトの組成をCo(1+x)Fe2(1−x)(0<x≦0.04)として、化学量論組成よりFe量が少ない組成物を添加する組成とするとよい。
【0010】
係る構成にすることにより本発明では、副成分としてコバルトフェライトを添加するので、添加したコバルトフェライトはNiCuZnフェライトに固溶しやすく、Coは均一に分布する。このため、NiCuZnフェライトの粒子間には異相は析出しなく、磁気特性は悪化がなく、むしろ良好にすることができる。
【0011】
また、本発明の高周波用フェライトの製造方法では、NiCuZnフェライトに、副成分としてコバルトフェライト(非化学量論組成を含む)粉末を混合し、所定の形状に成形後、焼成するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、副成分としてコバルトフェライトを添加すると、Coが均一に分布し、異相は析出しなく、磁気特性を良好にすることができる。ここに、添加成分の分散状態を良好にすることができ、磁気特性の改善により高周波帯域でも透磁率を高く得ることができる。その結果、高周波用途への適用において小型化が良好に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
(製造プロセス)
【0014】
本発明に係る高周波用フェライト材料は、NiCuZnフェライトに、副成分としてコバルトフェライトを添加する組成になっている。また、コバルトフェライトは、組成式をCo(1+x)Fe2(1−x)とおくとき、xは0より大きく0.04以下として化学量論組成よりもFe量が少ない組成物とすることもよい。
【0015】
NiCuZnフェライトは、Feが43〜50モル%、ZnOが10〜35モル%、CuOが3〜15%モル%、NiOが残り全量のモル%としている。この組成は一般的な配合比であり特に限定するものではない。
【0016】
製造には、まずコバルトフェライトを得るため原料成分のCoO,Feを所定に秤量して湿式混合する。つまり、秤量した各原料成分は例えばボールミルで粉砕しつつ混ぜて混合紛体を製造し、次に900℃の温度で仮焼きする。そして、仮焼きした焼結体は乳鉢などを用いて粉砕する。これとは別に、NiCuZnフェライトを得るため原料成分のFe,ZnO,CuO,NiOを所定に秤量して湿式混合し、これを次に800℃の温度で仮焼きする。そして、仮焼きした焼結体はボールミルで粉砕し、粉砕は所定時間行う。
【0017】
次に、NiCuZnフェライト粉体に対してコバルトフェライト粉体を所定に秤量して湿式混合し、そこへPVA溶液を1wt%添加し、これを造粒する。この後、ふるいを用いて製粒し、製粒した粉体は金型に入れて所定の圧力を加えて所定形状に成形し、これは電気炉等で焼成する。焼成は所定のトップ温度を所定の時間保持することとし、これにより焼成体を製造する。そして、この焼成体に研削加工を施して、所定形状に加工した高周波用フェライト材料を得る。
【0018】
仮焼きおよび焼成では温度管理が重要であり、要求特性に応じて適宜に設定する必要がある。仮焼きにおける温度はコバルトフェライトでは800℃〜1000℃が好ましく、NiCuZnフェライトでは700℃〜900℃が好ましい。
【0019】
焼成においては、焼結が十分に進んで緻密化するとともに粒成長することが必要なので、これを達成し得る最適温度に設定することになるが、組成が異なると最適温度も相違し、このため組成に応じてその都度適正に設定する必要がある。そこで本発明に係る組成にあっては、焼成における温度は900℃〜1200℃が好ましい。
【0020】
このように、本発明にあっては副成分としてコバルトフェライトを添加するので、添加したコバルトフェライト(CoFe24)はNiCuZnフェライトに固溶しやすく、Coは均一に分布する。このため、NiCuZnフェライトの粒子間には異相は析出しなく、磁気特性は悪化がなく、むしろ良好にすることができる。
【0021】
実施例において確認したが、複素透磁率の周波数特性だけを見ると、コバルトフェライトの添加量が少ない組成では、CoOを同等量添加した組成との差が小さく、改善の効果がさほどではないように見えてしまう。しかしそうではなく、コバルトフェライトの添加では、たとえ添加が少量であってもCoの分散状態には大きな差があり、均一に分散することから磁気特性には大幅な改善を期待できる。
【0022】
すなわち本発明によれば、添加成分の分散状態を良好にすることができ、磁気特性の改善により高周波帯域でも透磁率を高く得ることができる。その結果、高周波用途への適用において小型化が良好に行える。
【実施例】
【0023】
上記した製造プロセスにより試料の製造を行った。つまり、本発明の効果を実証するため、フェライト材料は組成を変更した複数を製造し、それら各試料について複素透磁率μ(μ=μ′−jμ″),面内における元素分布を評価した。
【0024】
各試料は表1に示すように、副成分の組成を変更して製作してあり、本発明に係る副成分が相違する設定で試料1から試料9までの9種類とし、外形7mm、内径3mm、高さ4mmのリング形状に形成した。
【表1】

【0025】
各試料において、主成分のNiCuZnフェライトは、Fe=49モル%、ZnO=22モル%、CuO=6%モル%、NiO=23モル%とした。
【0026】
試料1はコバルトフェライト(CoFe24)を5wt%とし、実施例1になっている。試料2はコバルトフェライト(CoFe24)を15wt%とし、実施例2になっている。試料3はコバルトフェライト(CoFe24)は添加しないでCoOを1wt%添加し、比較例1になっている。試料4はコバルトフェライト(CoFe24)は添加しないでCoOを6wt%添加し、比較例2になっている。試料5はコバルトフェライト(CoFe24)は添加しないで、配合時にCoOを1wt%添加し、比較例3になっている。試料6はコバルトフェライト(CoFe24)は添加しないで、ボールミルによる粉砕時にCoOを1wt%添加し、比較例4になっている。試料7は添加するコバルトフェライトは化学量論組成よりもFe量が少ない組成物とし、Co(1+x)Fe2(1−x)においてx=0.04とし、実施例3になっている。試料8は添加するコバルトフェライトは化学量論組成よりもFe量が少ない組成物とし、Co(1+x)Fe2(1−x)においてx=0.08とし、実施例4になっている。試料9は添加するコバルトフェライトは化学量論組成よりもFe量が少ない組成物とし、Co(1+x)Fe2(1−x)においてx=0.12とし、実施例5になっている。
【0027】
製造は具体的には、まずコバルトフェライトを得るため原料成分のCoO,Feを所定に秤量し、秤量した各原料成分はボールミルで粉砕しつつ混ぜて混合紛体を製造し、次に900℃の温度で仮焼きを行い、仮焼きした焼結体は乳鉢を用いて解砕した。また、NiCuZnフェライトを得るため原料成分のFe,ZnO,CuO,NiOを所定に秤量し、秤量した各原料成分はボールミルで粉砕しつつ混ぜて混合紛体を製造し、次に800℃の温度で仮焼きを行い、仮焼きした焼結体はボールミルで粉砕し、粉砕は20時間行った。
【0028】
次に各試料については、表1に示す組成とするため、NiCuZnフェライト粉体に対してコバルトフェライト粉体あるいはCoO粉体を所定に秤量して添加し、乳鉢を用いて十分に混合した。さらに、それぞれへPVA溶液を1wt%添加して造粒を行った。この後、ふるいを用いて製粒し、製粒した粉体は金型に入れて所定の圧力を加えて所定形状に成形し、これは電気炉で焼成した。焼成は1150℃のトップ温度で2時間行い、これにより焼成体を製造した。そして、この焼成体に研削加工を施して、所定形状に加工してフェライト試料を得た。
【0029】
各試料それぞれについて、複素透磁率μ(μ=μ′−jμ″)の周波数特性を測定した。その結果、図1,図2,図4,図5に示す周波数特性を得た。
【0030】
図1から明らかなように、実施例1は比較例1との比較において、ほぼ同一となる複素透磁率では実部μ′の共鳴ピークが、高周波側に約15MHz高くなる特性であることを確認した。そして図2から明らかなように、実施例2は比較例2との比較において、ほぼ同一となる複素透磁率では実部μ′の共鳴ピークが、高周波側に約250MHz高くなる特性であることを確認した。
【0031】
また、実施例1,2および比較例1,2については、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)による元素分布分析を行った。つまり、それら試料の表面を切削してダイヤモンドペーストを用いた鏡面研磨を行い、当該観察面についてEPMAによる分析を行った。その結果、図3に示すCoの元素分布像を得た。
【0032】
図3から明らかなように、比較例1,2には点状にCoの偏析が見られるが、実施例1,2では均一に分散していることがわかる。
【0033】
また、図4に示す比較例3,4に注目すると、それぞれはCoOの添加時期が違う比較例1と比べて混合度は格段によいはずである。しかし、複素透磁率は比較例1とほぼ同等の特性を示しており、実施例1,2のような高周波側へ延びる効果は認められない。したがって、CoOの添加では添加する時期の違い、および添加した際の混合度の違いには関わりがなく、実施例1,2が示す効果は得られないことを確認した。そしてこのことから、実施例1,2が示す特性は、コバルトフェライトを添加することによって得られるものであることは明らかである。
【0034】
さらに、図5から明らかなように、化学量論組成よりもFe量を少なくした実施例3では、実施例1と比べて実部μ′,虚部μ″の共鳴ピークが大きくなっており、より大きな複素透磁率が得られることを確認した。そして、化学量論組成からのズレ量xを大きくした実施例4,6では共鳴ピークが逆に低減しており、より好ましい範囲としては、ズレ量xは0から0.04程度であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試作した試料について複素透磁率の周波数特性を示すグラフ図である。
【図2】試作した試料について複素透磁率の周波数特性を示すグラフ図である。
【図3】試作した試料についてEPMAによる元素分布分析を示し、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は実施例2、(d)は比較例2、それぞれ元素分布像である。
【図4】試作した試料について複素透磁率の周波数特性を示すグラフ図である。
【図5】試作した試料について複素透磁率の周波数特性を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分はNiCuZnフェライトとし、副成分には少なくともコバルトフェライト(非化学量論組成を含む)を添加する組成であることを特徴とする高周波用フェライト材料。
【請求項2】
コバルトフェライトの組成をCo(1+x)Fe2(1−x)(0<x≦0.04)として、化学量論組成よりFe量が少ない組成物を添加する組成であることを特徴とする請求項1に記載の高周波用フェライト材料。
【請求項3】
NiCuZnフェライトに、副成分としてコバルトフェライト(非化学量論組成を含む)粉末を混合し、所定の形状に成形後、焼成することを特徴とする高周波用フェライト材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−50191(P2008−50191A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226435(P2006−226435)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】