説明

高周波用給電線

【課題】高周波で生ずる表皮効果及び近接効果による高周波損失を低減することができる高周波給電線を提供する。
【解決手段】中央に中空部6を有する複数の中空導電線1と、絶縁物2と、を一体に形成してなる高周波用給電線Aにおいて、中心に位置する一の中空導電線1aの周囲に他の中空導電線1bを等角度に配置するために、絶縁物2の外周には中空導電線1aに対して等角度ピッチで、中空導電線1bが嵌る位置決め溝が複数形成されており、さらに、中心に位置する一の中空導電線1aは周囲に配置された他の中空導電線1bより断面肉厚が小さいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高周波で生ずる表皮効果による高周波損失を低減することができる高周波給電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一様の導電率σを有する導電線に交流を通電し、その周波数ωを上げていくと交流電流は導電線の表面近くに集中して流れる表皮効果(skin effect)が生じ、一般に表皮効果の程度は表皮深さ(skin depth)δで表される。そして、表皮深さδは、δ=(2/ωσμ)1/2で表される。ここで、ωは周波数、μは導電線の透磁率を示す。
【0003】
よって、導電線を流れる電流の周波数ωが高くなると、表皮深さδが小さくなり、例えば、断面形状が丸形の導電線においては、中心付近では電気抵抗が増加し、電流が流れにくくなり、その結果導電線全体の電気抵抗が増大することとなる。そこで、表皮深さδ以下の径の導電線を用いることで表皮効果による電気抵抗増加による損失は著しく低減させることができる。
【0004】
従来から、例えば、特開平5−250926号公報(特許文献1)に示されるように、表皮効果の低減を図るために、細分化されたエナメル線を複数本撚り合わせたリッツ線が知られている。このリッツ線は、図6に示すように、中心位置に細分化されたエナメル被覆20を有する導電線10を配置し、その周辺に同様の複数のエナメル被覆20を有する導電線10を配置して構成されている。
【0005】
しかし、細分化されたエナメル線を複数本撚り合わせたリッツ線を用いた高周波用給電線にあっては、リッツ線の各導電線10の径を小さくすることによって、表皮効果の低減を図ることができるが、周波数が大きい場合には、極細の導電線10を作らなければならず、作製が困難であり、又、たとえ極細の単線が作製できても、撚り線にする際の取り扱いが非常に困難である等の不具合があった。
【0006】
そこで、従来から、特開平9−008076号公報(特許文献2)に示されるように、中空部を有する中空導電線を用いる高周波用給電線が知られている。この高周波用給電線は、図7に示すように、導電線30の内部に中空部31を構成して内周面33を設けることで、導電線30の外周面32に高周波電流を流すだけでなく導電線30の内周面33にも高周波電流を流すことができ、従来導体として機能していなかった導電線30の内部にも高周波電流を流すことができる。このことによって、導電線30の外径寸法を増大させることなく、高周波電流が流れる有効面積を増加させることができることが知られている。
【0007】
ここで、中空導電線30を単線で構成した高周波給電線の場合、例えば、周波数を10kHz、材質が銅であるとすれば、表皮深さδは0.6mmとなる。よって、高周波電流が流れる有効面積として5.5mm2確保する必要がある場合には、単線の中空導電線30で構成される高周波用給電線の径は13.2mmとなる。
【特許文献1】特開平5−250926号公報
【特許文献2】特開平9−008076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示すように、中空導電線30を7本で構成した場合、上記と同様に、周波数を10kHz、材質が銅、有効面積が5.5mm2であるとすれば、中空導電線30の径は1.9mmとなり、高周波用給電線の径は5.7mmに周辺の絶縁物を加えた径となる。よって高周波用給電線は単線の中空導電線30で構成するよりも複数の中空導電線30で構成した方が外径を小さくすることができる。
【0009】
しかし、この高周波用給電線にあっては、中空導電線40を複数で構成する場合、周辺に配置される中空導電線40aは、中心に配置される中空導電線40bに対する基準位置がなく、均等に周辺へ配置することができないため、電流密度分布を均一にすることができず、効果的に表皮効果を低減できないという問題点があった。
【0010】
本願発明は、上記背景技術に鑑みて発明されたものであり、その目的は、複数の導電線を軸中心に均等に配置することによって、電流密度分布を均一にして効率的に表皮効果を低減し、電気抵抗値の増加を低減することができる高周波用給電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明では、複数の導電線と、絶縁物と、を一体に形成してなる高周波用給電線において、中心に位置する一の導電線の周囲に他の導電線を等角度に配置する手段を有することを特徴としている。
【0012】
本願請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の高周波用給電線において、中心に位置する一の導電線は周囲に配置された他の導電線より断面肉厚が小さいことを特徴としている。
【0013】
本願請求項3記載の発明では、上記請求項1記載の高周波用給電線において、導電線の外周面に長手方向へ延設した溝が複数周設されていることを特徴としている。
【0014】
本願請求項4記載の発明では、上記請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波用給電線において、導電線は内部に中空部を有することを特徴としている。
【0015】
本願請求項5記載の発明では、上記請求項4記載の高周波用給電線において、長手方向に突合せ接合された導電線の該突合せ接合部の中空部に両導電線に跨がり且つ導電線の内面に圧接するように嵌合させる接続部材を介して導電線が接続されることを特徴としている。
【0016】
本願請求項6記載の発明では、上記請求項5記載の高周波用給電線において、接続部材の両端部に長手方向へ延設したスリットが周設されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本願請求項1記載の発明の高周波用給電線においては、絶縁物の形状によって、一の導電線を中心位置に、他の導電線を中心に対して等角度に、簡単且つ確実に配置することができ、このことによって、当該複数の導電線は軸中心に対して均等に配置され、高周波の電流を流した場合に、電流密度分布が均一になり、表皮効果を効果的に低減でき電流抵抗値を低くすることができる。
【0018】
本願請求項2記載の発明の高周波用給電線においては、特に、中心に位置する一の導電線の断面積を他の導電線より小さくすることによって、高周波で発生する近接効果が特に強く発生する中心に位置する導電線の電流抵抗値の増加をさらに低減させることができる。
【0019】
本願請求項3記載の発明の高周波用給電線においては、特に、導電線の外周に溝を設けることで、導電線の表面積を増やすことができるので、この導電線に高周波電流を通電した場合に、表皮効果による電流抵抗値増加を低減できる。
【0020】
本願請求項4記載の発明の高周波用給電線においては、特に、導電線の内部に中空部を設けることによって、導電線の内周面にも高周波電流を流すことができるため、導電線の外径寸法を増大させることなく、高周波電流が流れる有効面積を増加させることができ、この導電線に高周波電流を通電した場合に、表皮効果による電流抵抗値増加を低減できる。
【0021】
本願請求項5記載の発明の高周波用給電線においては、特に、導電線同士を接続する接続部材を用いることによって、容易に導電線同士の接続ができ、加工工数を減らすことができる。
【0022】
本願請求項6記載の発明の高周波用給電線においては、特に、導電線同士を接続する接続部材にスリットを設けることによって、接続部材の径が縮まるように変形することで導電線の中空部への圧入が容易となり、圧入状態においては、接続部材と導電線との接続部分の接圧を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1〜図3は、本願発明の第1の実施形態である高周波用給電線を示している。図1に示すように、内部に中空部6を有する複数の中空導電線1と、絶縁物2と、を一体に形成してなる高周波用給電線Aにおいて、中心に位置する一の中空導電線1aの周囲に他の中空導電線1bを等角度に配置する手段を有している。当該手段は、絶縁物2の形状によって複数の中空導電線1の位置決めを行うことによって実現されている。また、中心に位置する一の中空導電線1aは周囲に配置された他の中空導電線1bより断面肉厚が小さいものである。
【0024】
以下、この実施形態の高周波用給電線を、より具体的詳細に説明する。図2に示すように、絶縁物2は、中心位置に外被覆4で覆われている中空導電線1aの外形と同形状の孔2aが形成されており、外周には中心に対して等角度ピッチで、中空導電線1bが嵌る位置決め溝2bが複数形成されているものである。
【0025】
次に、図3に示すように、外被覆4で覆われている中空導電線1aを絶縁物2の中心位置の孔2aに配置し保持する。さらに、外被覆4で覆われている中空導電線1bを絶縁物2の外周に複数形成されている位置決め溝2bに嵌め込むことによって、中心に中空導電線1aが配置されて他の中空導電線1bが中空導電線1aを中心に等角度で周囲に配設される。
【0026】
そして、図1に示すように、絶縁物2の中心に中空導電線1aが配置し保持されて絶縁物2の位置決め溝2aに中空導電線1bが配置されて一体となったものの外側を覆うように絶縁層3を成形することによって、中空導電線1bが絶縁物2から外れることなく確実に保持され、中空導電線1bと外部との絶縁性を保持することができる。
【0027】
このように、本願発明の高周波用給電線Aの中空導電線1は中心に対して等角度に配置することができる。
【0028】
また、中空導電線1aの断面肉厚は周囲に配設される他の中空導電線1bよりも薄く形成される。ここで、中空導電線1の中央部の空洞の内周面が、表皮効果によって高周波電流を流すための表皮部として機能し、その内周面に高周波電流が流れる表皮深さδは、中空導電線1の外周面に流れる表皮深さδと等しい。よって、中空導電線1の外径をr1、内径をr2、高周波電流が流れる表皮深さをδとしたとき、r1≧r2+2δとするのが望ましい。特に、中央に位置する中空導電線1aの表皮深さδは、周囲に複数の中空導電線1bが配設されているため、近接効果が他の中空導電線1bよりも大きく、表皮深さδがさらに小さくなるので、外形r1を小さくするか、内径r2を大きくすることが必要となる。よって、中空導電線1aの断面肉厚を他の中空導電線1bよりも薄くすることによって、電流抵抗値を低くすることができる。
【0029】
なお、中空導電線1を製造する製造方法は適宜であって、押出し法等によって所定の寸法の中空導電線1を形成してもよいし、所定の寸法より大きい径の導電線を引き抜き加工等によって所定の寸法に縮径加工することによって製造することができる。
【0030】
したがって、中心に位置する一の中空導電線1aと、周囲に等角度に他の中空導電線1bとを配置することによって、当該複数の中空導電線1は軸中心に対して均等に配置されるので、高周波の電流を流した場合に、電流密度分布が均一になり、表皮効果を効果的に低減でき電流抵抗値を低くすることができる。
【0031】
また、中心に位置する一の中空導電線1aの断面肉厚を他の中空導電線1bより薄くすることによって、高周波で発生する近接効果が特に強く発生する中心に位置する中空導電線1aの電流抵抗値の増加をさらに低減させることができる。
【0032】
以上では、中空部6を有する中空導電線1で構成する高周波用給電線Aについて説明したが、中空部6を有しない中実の導電線で構成した場合でも同様のことができる。
【0033】
図4は、本願発明の第2の実施形態である高周波用給電線を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。この高周波用給電線Aは、図4に示すように、中空導電線1の外周面に長手方向へ延設した溝5が複数周設することによって、中空導電線1の表面積を増やすことができる。ここで、溝5は等角度ピッチで中空導電線1の外周に配設されることが望ましい。なぜなら、電流密度分布を均一にすることによって、表皮効果を効果的に低減できるため、高周波用給電線Aを構成する中空導電線1の形状及び配置が中心に対して均一とする必要があるからである。
【0034】
したがって、中空導電線1の外周に溝5を設けることで、中空導電線1の表面積を増やすことができるので、この中空導電線1に高周波電流を通電した場合に、表皮効果による電流抵抗値増加を低減できる。
【0035】
以上では、中空部6を有する中空導電線1で構成する高周波用給電線Aについて説明したが、中空部6を有しない中実の導電線で構成した場合でも同様のことができる。
【0036】
本願発明の第1及び第2の実施形態は以下の構成とすることができる。図5に示すように、この高周波用給電線Aは、長手方向に突合せ接合された中空導電線1の該突合せ接合部の中空部6に両中空導電線1に跨がり且つ中空導電線1の内面に圧接するように嵌合させる接続部材7を介して中空導電線1が接続され、接続部材7の両端部に長手方向へ延設したスリット9が周設されている。
【0037】
図5は、2本の高周波用給電線Aを接合する場合で、複数ある中空導電線1の接合のうちの一の接合箇所についての長手方向に沿った断面図である。両中空導電線1の中空部6に跨り且つ中空部6の内面に圧接するように、導電体で構成されている接続部材7を嵌合させることによって、両中空導電線1が接続される。ここで、接続部材7は中空導電線1の中空部6に圧入することによって接合されるので、中空導電線1の内径r2及び接続部材7の外径R1に対してハメアイ寸法公差を適宜に設定する必要がある。
【0038】
また、中空導電線1の中空部6の内面に接触する接続部材7の両端外周面7aにローレット加工を施すことによって接触保持力を向上させることができる。
【0039】
ここで、接続部材7に流れる高周波電流による表皮効果によって接続部材7の電流抵抗値が増加するが、接続部材7の中央部を中空導電線1と同様に空洞とすることによって低減することができる。
【0040】
さらに、図5に示すように、接続部材7の両端部に長手方向へ延設したスリット9を設けることによって、接続部材7を中空導電線1の中空部6に圧入する場合に、接続部材7の両端部の径が縮まるように変形することで圧入が容易となる。また、接続部材7が圧入された状態においては、接続部材7の両端部に弾性が生じ、接続部分の接圧の安定を図ることができる。
【0041】
なお、接続部材7の中空導電線1と接触する両端部以外の外周に接続部材外被覆8を設けることによって、外部との絶縁性を確保することができる。
【0042】
したがって、中空導電線1同士を接続する接続部材7を用いることによって、容易に中空導電線1同士の接続ができ、加工工数を減らすことができる。しかも、中空導電線1と接続部材7の接触面は全周に亘っており、接続部材7の接触面をローレット加工することで接触保持力を向上させることができる。また、接続部材7の中央を空洞にすることによって、電流抵抗値を低減することができる。
【0043】
さらに、中空導電線1同士を接続する接続部材7にスリット9を設けることによって、接続部材7の両端部の径が縮まるように変形することで、接続部材7の中空導電線1の中空部6への圧入が容易となり、圧入状態においては、接続部材7と中空導電線1との接続部分の接圧を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本願発明の第1の実施形態である高周波用給電線の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図2】同高周波用給電線の中空導電線の位置決めをする絶縁物の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図3】同高周波用給電線の中空導電線が絶縁物に配置された状態の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図4】本願発明の第2の実施形態である高周波用給電線の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図5】本願発明の第1及び第2の実施形態である高周波用給電線の中空導電線における突合せ接合した接合部の長手方向に沿った断面図である。
【図6】従来例である細分化されたリッツ線を用いた高周波用給電線の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図7】従来例である高周波用給電線の中空導電線の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【図8】従来例である複数の中空導電線を用いた高周波用給電線の長手方向に対して鉛直な断面図である。
【符号の説明】
【0045】
A 高周波用給電線
1 中空導電線
1a 中心に位置する一の中空導電線
1b 周囲に位置する複数の中空導電線
2 絶縁物
2a 位置決め溝
3 絶縁層
4 外被覆
5 溝
6 中空部
7 接続部材
8 接続部材外被覆
9 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電線と、絶縁物と、を一体に形成してなる高周波用給電線において、中心に位置する一の導電線の周囲に他の導電線を等角度に配置する手段を有することを特徴とする高周波用給電線。
【請求項2】
中心に位置する一の導電線は周囲に配置された他の導電線より断面肉厚が小さいことを特徴とする請求項1記載の高周波用給電線。
【請求項3】
導電線の外周面に長手方向へ延設した溝が複数周設されていることを特徴とする請求項1記載の高周波用給電線。
【請求項4】
導電線は内部に中空部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波用給電線。
【請求項5】
長手方向に突合せ接合された導電線の該突合せ接合部の中空部に両導電線に跨がり且つ導電線の内面に圧接するように嵌合させる接続部材を介して導電線が接続されることを特徴とする請求項4記載の高周波用給電線。
【請求項6】
接続部材の両端部に長手方向へ延設したスリットが周設されていることを特徴とする請求項5記載の高周波用給電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−53143(P2008−53143A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230447(P2006−230447)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】