説明

高周波磁界アシスト垂直磁気記録ヘッド

【課題】高周波磁界アシスト磁気記録ヘッドにおける高周波発振素子の、発振特性の制御性を向上する。
【解決手段】高周波発振素子110のクロストラック方向の幅を、媒体対向面から遠ざかるにつれて狭くなる構造とし、媒体対向面を研磨加工するとき、高周波発振素子の電気抵抗を測定し、目標電気抵抗値に達したときに研磨加工を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に対し高周波磁界を印加することにより磁化反転を誘導する機能を有する磁気記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
HDD(Hard Disk Drive)に代表される磁気記録再生装置は、情報インフラの基盤として広範な利用がされている。インターネットの普及を契機とした情報化社会の発展とともに、デジタルデータの生成量は爆発的な増加を続けており、その保存に必要な情報ストレージには信頼性・コスト・環境負荷・消費エネルギーなど様々な観点の性能改善が必要とされている。このうちコストは、現状の情報ストレージデバイスに要求される最も重要な性能の一つである。これに対してHDDでは、面記録密度の向上によるビットコスト低減のための技術開発が進められてきた。その記録密度向上は年率40%程度に達し、2012年ごろには面記録密度は、1Tbits/inch2に達すると予想されている。
【0003】
面記録密度向上は、磁気記録ヘッド及び再生ヘッドの微細化と磁気記録媒体の粒径の微細化によってなされてきた。しかしながら磁気記録ヘッドの微細化に伴う記録磁界強度の減少によって、記録能力不足の問題が顕在化しつつある。一方、磁気記録媒体の粒径が微細化すると熱揺らぎの問題が顕在化するため、粒径の微細化と同時に媒体の保磁力や異方性エネルギーを増加させる必要があり、結果的に記録が困難になる。そこで上記の相反を脱却するための技術として、熱や高周波磁界の印加により記録時のみ一時的に磁気記録媒体の保磁力を低下させるアシスト記録が提案されている。「熱」の印加によるアシスト記録方式は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
一方、高周波磁界印加による方式は、「マイクロ波アシスト記録(MAMR)」という名称とともに、近年着目されている。MAMRでは、強力なマイクロ波帯の高周波磁界をナノメートル単位の領域に印加して記録媒体を局所的に励起し、磁化反転磁界を低減して情報を記録する。磁気共鳴を利用するため、大きな磁化反転磁界の低減効果を得るためには、記録媒体の異方性磁界に比例する周波数の高い高周波磁界を用いる必要がある。特許文献2には、高周波アシスト磁界を発生させるための、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)に類似する構造の積層膜を電極で挟んだ構造の高周波発振素子が開示されている。高周波発振素子は、GMR構造に発生するスピン揺らぎをもつ伝導電子を非磁性体を介して磁性体に注入することにより、局所的な高周波振動磁界を発生させることができる。同様に、非特許文献1には、スピントルクによるマイクロ波発振が報告されている。非特許文献2には、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接して、スピントルクによって高速回転する高周波磁界発生層を配置してマイクロ波(高周波磁界)を発生せしめ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。さらに、非特許文献3には発振素子を磁気記録ヘッドの主磁極と主磁極後方のトレーリングシールドの間に配置させ、高周波磁界の回転方向を記録磁界極性に応じて変化させることにより、磁気記録媒体の磁化反転を効率的にアシストする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−244801号公報
【特許文献2】特開2005−025831号公報
【特許文献3】特開2001−101634号公報
【特許文献4】特開2006−344381号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献l】Nature 425, 380(2003)
【非特許文献2】“Microwave Assisted Magnetic Recording” J-G. Zhu et. al., IEEE trans. Magn., Vol.44, NO.1, 125 (2008)
【非特許文献3】”Medium damping constant and performance characteristics in microwave assisted magnetic recording with circular ac filed” Y. Wang, et al., Journal of Applied Physics, Vol.105, p.07B902 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GMR素子に類似する構造を有する発振素子を従来の再生ヘッドと同様な手法によって形成する場合、従来の再生素子と同様に、フォトリソグラフィーによりクロストラック方向の長さを決定し、スライダーの研磨(ラップ)工程において発振素子の浮上高さ方向の長さを定める。このとき発振素子の特性(周波数や磁界強度)は、素子の微細化が進むほど外形に強く依存する。なぜならば素子外周部分における反磁界の影響が顕著になるためである。したがって、ウェハ製造工程における形状及び位置バラツキを抑制することと、ラップ加工量を高精度に制御することとは、性能のよいヘッドを歩留りよく生産する上で重要な課題である。特に、後工程である研磨工程における加工量を非破壊かつ簡便に検知し、加工量を定めることは、最終的な寸法のバラツキ制御に有効である。
【0008】
研磨工程の精度を向上する手法として、研磨の進行とともに体積が減少しそれとともに電気抵抗が増大する電気抵抗検出素子が用いられる。例えば、特許文献3には、研磨面にダミーの抵抗検知膜を埋め込んでおき、研磨されるにつれ変化する抵抗値を監視しながら研磨量を調整する方法が開示されている。また、特許文献4には、スライダー形態で研磨加工を行い、スライダー内に形成されている抵抗検出素子の抵抗値を加工中に検出し、検出した抵抗値又は抵抗値から換算した再生素子の浮上高さ方向の長さが所定の値に達した場合に研磨を停止する方法が開示されている。
【0009】
本発明が対象とする高周波発振素子を備えた記録ヘッドにおいても同様な電気抵抗検出素子を用いることで、一定の精度で発振素子の浮上高さ方向の長さを制御することは可能である。しかし、一般的な電気抵抗検出素子は高周波発振素子と別個に製造され、2つの素子の相対的位置関係には微細加工精度に応じたバラツキが生じるため、高周波発振素子の形状バラツキを高精度に抑制することができない。
【0010】
本発明は、高周波発振素子を備えた磁気記録ヘッドにおいて、ウェハ加工及びスライダー研磨工程のバラツキに起因する発振特性のバラツキを抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ヘッドの媒体対向面研磨工程において高周波発振素子の電気抵抗を測定することが可能な電気回路を付与するとともに、高周波発振素子のクロストラック方向の幅が、媒体対向面から浮上高さ方向に遠ざかるにつれて狭くなるよう形成する。
【0012】
すなわち、本発明による垂直磁気記録ヘッドは、記録磁界を発生する主磁極と、主磁極のトレーリング側に配置されたトレーリングシールドと、主磁極とトレーリングシールドの間に電気的に接続して配置された高周波発振素子と、主磁極を励磁するためのコイルと、主磁極、高周波発振素子及びトレーリングシールドを介して電流を流すための手段とを備え、主磁極とトレーリングシールドとは浮上高さ方向の上方位置で電気的に絶縁されており、高周波発振素子は、媒体対向面の近くにおいて、媒体対向面から浮上高さ方向に離れるに従ってクロストラック方向の幅が狭くなる形状を有する。
【0013】
高周波発振素子は、一例として、媒体対向面から浮上高さ方向に距離xだけ離れた位置におけるクロストラック方向の幅をWとするとき、Wのxに対する変化率(dW/dx)がxとともに増加する形状とすることができる。なお、媒体対向面から浮上高さ方向に遠い領域では、クロストラック方向の幅が一定であってもよい。
【0014】
また、本発明による垂直磁気記録ヘッドの製造方法は、基板上に主磁極を形成する工程と、主磁極上に高周波発振素子となる積層膜を形成する工程と、その積層膜を媒体対向面から浮上高さ方向に離れるに従ってクロストラック方向の幅が狭くなる形状に加工する工程と、基板を1つ又は複数の垂直磁気記録ヘッドが含まれるスタックに切断する工程と、スタックの垂直磁気記録ヘッドの媒体対向面に相当する面を研磨する研磨工程とを含み、研磨工程では、積層膜の電気抵抗値を測定しながら研磨を進め、電気抵抗値が目標値に達したときに研磨を終了する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、スライダー研磨の進行に伴う、高周波発振素子の電気抵抗変化を高感度に検知することができる。その結果、電気抵抗から素子の形状を推定して研磨加工量を決定することが可能になり、高周波発振素子の特性バラツキを抑制することができる。
【0016】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】磁気記録再生ヘッドの断面模式図。
【図2】高周波発振素子と主磁極の模式図。
【図3】本発明による高周波発振素子の形状説明図。
【図4】高周波発振素子の電気抵抗のラップ加工量依存性を示す図。
【図5】高周波発振素子の、発振周波数シミュレーションのモデル図。
【図6】高周波発振素子の、発振周波数とクロストラック方向端部の傾斜角度θの関係を示す図。
【図7】高周波発振素子の電気抵抗変化率とラップ加工ずれの関係を示す図。
【図8】高周波発振素子の発振周波数とラップ加工ずれの関係を示す図。
【図9】高周波発振素子の角度θと発振周波数のバラツキの関係を示す図。
【図10】本発明による高周波発振素子の平面形状の例を示す図。
【図11】本発明による高周波発振素子の平面形状の例を示す図。
【図12】磁気ヘッドの媒体対向面研磨加工工程の一例を示す説明図。
【図13】加工プロセスのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施例を挙げ、図面を参照しながら更に具体的に説明する。
〔実施例1〕
図1は、本発明が対象とする磁気記録再生ヘッドの断面模式図である。この磁気記録再生ヘッドは、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200を有する記録再生分離ヘッドである。記録ヘッド部100は、高周波磁界を発生するための高周波発振素子110、記録ヘッド磁界を発生するための主磁極120、主磁極に磁場を励磁するためのコイル160を有する。主磁極120のトレーリング方向にはトレーリングシールド130が設けられている。ここで、トレーリング方向はヘッドの磁気記録媒体170に対する進行方向と反対の方向であり、リーディング方向はヘッドの媒体対向面に対する進行方向であると定義している。主磁極120とトレーリングシールドとは、媒体対向面から離れた浮上高さ方向の上方位置に設けられた絶縁領域150によって、電気的に絶縁されている。図1には示していないが、主磁極120のクロストラック方向の外側にサイドシールドを設けてもよい。サイドシールドは主磁極120の両側に設けてもよいし、片側にだけ設けてもよい。高周波発振素子110には、絶縁領域150を挟んで接続された電源140から主磁極120とトレーリングシールド130を介して電流が印加される。再生ヘッド部200には、下部磁気シールド220と上部磁気シールド230に挟まれて、TMR素子やGMR素子などの再生素子210が配置される。記録時、磁気記録媒体170には、主磁極120からの記録磁界と高周波発振素子110からの高周波磁界が印加される。
【0019】
磁気ヘッド部100の高周波発振素子110は、高周波磁界を発生する発振層111、スピン透過性の高い材料からなる中間層112、発振層111にスピントルクを与えるためのスピン注入層113を備える。高周波発振素子110は、図1に示すように、主磁極120側から発振層111、中間層112、スピン注入層113の順に積層してもよいし、反対に主磁極120側からスピン注入層113、中間層112、発振層111の順に積層してもよい。
【0020】
発振層111の材料には、例えばFeCoなどの強磁性金属を用いる。FeCo合金の他に、NiFe合金や、CoFeGe,CoMnGe,CoFeAl,CoFeSi,CoMnSi,CoFeSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などを用いてもよい。また、CoIrなど負の垂直異方性エネルギーを持つ材料を用いることで、効率的な発振が期待できることが報告されている(”Spin Torque Oscillator With Negative Magnetic Anisotropy Materials for MAMR” K. Yoshida et al., IEEE trans. Magn., vol.46, p.2466, 2010)。中間層112にはCuなどの非磁性の伝導材料を用い、他に例えばAu,Ag,Pt,Ta,Ir,Al,Si,Ge,Tiなどを用いることができる。スピン注入層113には垂直磁気異方性を持った材料を用いることにより、発振層111の発振を安定させることができ、例えばCo/Pt,Co/Ni,Co/Pd,CoCrTa/Pdなどの人工格子磁性材料を用いることが好ましい。また、発振の安定性は若干失われるが、発振層111と同様の材料を用いることもできる。
【0021】
図2に、記録媒体方向から見た、高周波発振素子110と主磁極120の模式図を示す。ここでは簡単のため、トレーリングシールド130は図示を省略している。また、主磁極120は、クロストラック方向の幅がトレーリング側で広くリーディング側で狭い逆台形もしくは三角形の形状であってもよい。ここで、高周波発振素子110のクロストラック方向の幅Wは、媒体対向面から遠ざかるにつれて小さくなる。ここでは簡単のため、高周波発振素子110のトラック端部の外形線は浮上高さ方向とθの角度をなす直線であるとする。
【0022】
以下、本実施例の構成によって得られる効果について説明する。電源140によって印加された電圧によって発生した電流は、主磁極120から高周波発振素子110を介してトレーリングシールドへ(あるいはその逆方向へ)流れる。このときの電気抵抗は、高周波発振素子の比抵抗ρと面積Aを用いてρ/Aと表される。従って、媒体対向面のラップ加工に伴う電気抵抗の変化を計測することで、素子形状を非破壊で検知することが可能である。
【0023】
図3に示すように、例えばラップ加工前の浮上高さ方向の長さがL0、媒体対向面における素子の幅がW0である素子を考える。これにラップ加工を施し、初期の状態からxだけ浮上高さ方向に素子を削り込んだ時の素子の形状について考える。このとき浮上高さ方向の長さは(L0−x)である。一方、加工後の媒体対向面における素子の幅Wは、W0−2x・tanθとなる。従って加工後の素子の面積Sは、(L0−x)・(W0−(x+L0)・tanθ)となる。このとき微小加工量dxに対する面積の変化dSは、dS/dx=2x・tanθ−W0である。故にθの増加とともに面積の変化率は増加する。
【0024】
図4(a)に、L0=100,W0=100とした時の、高周波発振素子の電気抵抗のラップ加工量依存性を示す。横軸はラップ加工量x、縦軸は電気抵抗である。ここでは高周波発振素子にトンネル型磁気抵抗素子構造を用いることを想定し、比抵抗は磁気記録再生ヘッドに一般的に用いられている素子を念頭に0.6Ωμmとした。図4(b)は、加工前の電気抵抗値で規格化したものである。ラップ加工量に対する電気抵抗の変化はθとともに増加する。従って、この電気抵抗を検知しつつラップ加工量を決定する場合、θを大きくすることで高精度に加工量を制御することが可能となる。
【0025】
一方、θを大きくすることは、高周波発振素子の外形を、矩形から台形にすることを意味する。従って、θの増加とともに形状の対称性が低下する可能性がある。以下では、十分な発振磁界強度と発振周波数を実現するうえで適切なθの範囲について述べる。高周波発振素子の磁化挙動は、下記のLLG方程式(”Magnetization dynamics with a spin-transfer torque” Z. Li and S. Zhang, Phys. Rev. B, vol.68, p.024404, 2003)を用いて計算した。
(1+α2)dM/dt=−γM(Heff−αHst)−λ/Ms・M2(αHeff+Hst
st=hηJMp/2eMs
α:ダンピング定数(0.02)
M:磁化ベクトル
γ:ジャイロ磁気定数
eff:異方性磁界、静磁界、交換結合磁界、ゼーマンエネルギー、電流磁界の総和
st:スピントルク磁界
λ:損失定数
s:飽和磁化
h:プランク定数
η:スピン分極率
J:電流密度
p:スピン注入層の単位磁化ベクトル
d:FGLの膜厚
e:単位電荷
【0026】
計算に用いたモデルを図5に示す。基本形状は幅40nm、高さ40nmの正方形とし、クロストラック方向と浮上高さ方向に24分割した単位胞ごとに磁化を計算した。これをθの増加とともに台形形状として、発振周波数の変化を見積もった。計算に用いた発振層、中間層及びスピン注入層の物性値を表1に示す。主磁極−シールド間の電流密度は1.8A/cm2とし、ダウントラック方向に10kOeの一様外部磁界を仮定した。
【0027】
【表1】

【0028】
図6に、計算によって得られた、発振周波数とθの関係を示す。θの増加とともに発振周波数は低減する。これは素子が小さくなるとともに、素子周縁部で発生する反磁界の影響が強くなり、発振が不安定化することが原因であると考えられる。このときθが7°から18°の範囲では比較的安定して発振が継続するが、θが20°を超えると大きく発振周波数が低下しており、θは7〜20゜の範囲で用いることが性能維持の観点からは望ましい。
【0029】
次に、本発明による高周波発振素子の特性バラツキ低減効果について述べる。まず、図4に示した素子の電気抵抗ラップ加工依存性を基に算出した抵抗変化率1/R(x)・dR(x)/dxのラップ加工量ずれの依存性を図7に示す。R(x)はxnmのラップ加工後の素子の電気抵抗である。ここで高周波発振素子の最終狙い寸法40nmと仮定し、x=40からの加工ずれをΔxとして横軸にとってある。
【0030】
図4(b)と同様に、θの増加とともに抵抗変化率は増加する。ここで抵抗変化率±0.5%が抵抗検出系の検出限界と仮定すると、高周波発振素子の最終寸法は図中四角で囲った横軸方向の長さのバラツキ(σx)を有することになる。図からわかるように、σxはθの増加とともに低下する。
【0031】
このバラツキが発振周波数に与える影響を図8に示す。図8は、発振周波数と高周波発振素子の最終狙い寸法40nmからのずれの関係を示したものである。すべてのθにおいて、発振周波数はΔxの増加ともに減少する。ここで、図7に示したσxに応じてラップ加工量がΔx=0を中心として変動した際、発振周波数の変化Δfは図中に示した四角線の縦軸方向の長さで表される。
【0032】
図9は、図8をもとにθとΔfの関係について纏めたものである。Δfはθの増加とともに減少し、例えばθ=20°とすることで、発振周波数の変動をθ=0°の場合の1/4程度に抑制することが可能になる。
【0033】
〔実施例2〕
以下では実施例1で述べた形態と同等な効果を得ることができる、高周波発振素子の様々な平面形状について述べる。
【0034】
本発明の本質は、媒体対向面のラップ加工が進行するとともに高周波発振素子のクロストラック方向の幅が小さくなり、その面積すなわち電気抵抗の変化率が増加することである。従ってクロストラック方向の幅の変化率は一様でなくても、同様な効果を得ることができる。すなわち図10(a),(b)に示すように、トラック端部の側面が湾曲していても同様な効果を得ることができる。とりわけ図10(b)に示すように、クロストラック方向の幅の変化率が、媒体対向面から浮上高さ方向に遠ざかるにつれて大きくなる形状とすることは、抵抗変化率を向上するうえで望ましい形態である。この形状は、換言すると、媒体対向面から浮上高さ方向に距離xだけ離れた位置におけるクロストラック方向の幅をWとするとき、Wのxに対する変化率(dW/dx)がxとともに増加する形状である。あるいは幅の変化が、いくつかの段階的に変化する図10(c)に示す形状でも同様に抵抗変化率を向上することが可能であり、本発明の範疇である。
【0035】
このような形態において、実施例1で述べたトラック端部の外形線と浮上高さ方向の成す角度θは、図中に破線で示すように、外形線に最小二乗法で引いた近似直線と浮上高さ方向の成す角度によって定義する。このように定義されたθにおいても、その増加とともに、ラップ加工量に伴う抵抗変化率が増加することは明らかである。
【0036】
また、発振周波数とθの関係も、トラック端部の外形線が直線又は曲線の場合で大きく変わるものではない。
【0037】
〔実施例3〕
高周波発振素子の平面形状の別の実施例について説明する。
高周波発振素子の素子全体で、クロストラック方向の長さが変化している必要は必ずしもない。例えば図11(a)〜(e)に示すように、ラップ加工後の媒体対向面近傍にクロストラック方向の長さが変化する領域を有していれば、本発明の効果を得ることができる。従って、媒体対向面から遠い高周波発振素子の端面側に、クロストラック方向の幅が一定の領域を有する図11(a),(b),(c),(d)に示すような形状もまた、本発明の範疇である。
【0038】
また、実施例2で述べたように、クロストラック方向の幅の変化率が、媒体対向面から遠ざかるにつれて大きくなる部位を媒体対向面側に有し、媒体対向面から離れた位置ではその変化率が一定となる図11(e)のような高周波発振素子の形状としても、本発明の効果を得ることができる。
【0039】
〔実施例4〕
本発明による垂直磁気記録ヘッドの媒体対向面研磨加工工程の一例について述べる。
通常のプロセスによって基板上に複数の垂直磁気記録ヘッド素子をアレイ状に形成する。ここで、本発明の高周波磁界アシスト垂直磁気記録ヘッド素子の製造に特徴的な工程は、主磁極を形成した後、主磁極の上に電気的に接続された状態で高周波発振素子となる積層膜を形成する工程、その積層膜を媒体対向面から浮上高さ方向に離れるに従ってクロストラック方向の幅が狭くなる形状に加工して高周波発振素子を形成する工程である。
【0040】
こうして基板上に形成された垂直磁気記録ヘッドの媒体対向面を、次に所定量だけ研磨する。図12(a)に示すように、始めに基板310上に形成した高周波発振素子を含む垂直磁気記録ヘッド素子を、個別あるいは複数の素子ごとのスタック311に切断する。次に、垂直磁気記録ヘッド素子が形成された基板上の面に直交する面(すなわち媒体対向面)を、回転研磨定盤312及び研磨液313などを用いて研磨する。図12(c)は、スタック311の支持部の拡大図である。スタック311は弾性体315を介してスタック支持部314に固定される。ここで支持部314及びスタック311に設けられた端子316,317を金線318にて接続する。
【0041】
加工プロセスのフローチャートを、図13に示す。加工進行中あるいは断続的な加工の合間に高周波発振素子の電気抵抗を測定し、目標電気抵抗値に達したときに研磨加工を終了する。目標電気抵抗値は、最終的な目標形状と高周波発振素子を形成するウェハ工程においてGMR膜等の電気抵抗を用いて定める。この方法によると、高周波発振素子の特性バラツキを抑制し、所望の性能を有する高周波磁界アシスト垂直磁気記録ヘッドを高い歩留まりで製造することができる。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
100 記録ヘッド
110 高周波発振素子
111 発振層
112 中間層
113 スピン注入層
120 主磁極
130 トレーリングシールド
140 電源
150 絶縁領域
160 コイル
170 磁気記録媒体
200 再生ヘッド
210 再生素子
220 下部磁気シールド
230 上部磁気シールド
310 基板
311 スタック
312 回転研磨定盤
313 研磨液
314 スタック支持部
315 弾性体
316 端子
317 端子
318 金線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録磁界を発生する主磁極と、
前記主磁極のトレーリング側に配置されたトレーリングシールドと、
前記主磁極と前記トレーリングシールドの間に電気的に接続して配置された高周波発振素子と、
前記主磁極を励磁するためのコイルと、
前記主磁極、前記高周波発振素子及び前記トレーリングシールドを介して電流を流すための手段とを備え、
前記主磁極と前記トレーリングシールドとは浮上高さ方向の上方位置で電気的に絶縁されており、
前記高周波発振素子は、媒体対向面の近くにおいて、前記媒体対向面から浮上高さ方向に離れるに従ってクロストラック方向の幅が狭くなる形状を有することを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記高周波発振素子は、前記媒体対向面から浮上高さ方向に距離xだけ離れた位置におけるクロストラック方向の幅をWとするとき、Wのxに対する変化率(dW/dx)がxとともに増加することを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記高周波発振素子は、前記クロストラック方向の幅が、前記媒体対向面から浮上高さ方向に遠ざかるにつれて狭くなる第1の領域を前記媒体対向面から浮上高さ方向に一定の範囲で有し、前記クロストラック方向の幅が一定の第2の領域を前記第1の領域より媒体対向面から浮上高さ方向に遠い位置に有することを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項4】
請求項1に記載の垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記高周波発振素子は、前記媒体対向面から浮上高さ方向に距離xだけ離れた位置におけるクロストラック方向の幅をWとするとき、Wのxに対する変化率(dW/dx)がxとともに増加する第1の領域を前記媒体対向面から浮上高さ方向に一定の範囲で有し、前記変化率が一定である第2の領域を前記第1の領域より媒体対向面から浮上高さ方向に遠い位置に有することを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記変化率は前記第2の領域でゼロであることを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項6】
請求項1に記載の垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記高周波発振素子のクロストラック方向端部の外形線に最小二乗法で引いた近似直線と、浮上高さ方向のなす角度が20°以下であることを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項7】
主磁極と、前記主磁極に電気的に接続された高周波発振素子と、前記高周波発振素子に電気的に接続されたトレーリングシールドとを有する垂直磁気記録ヘッドの製造方法において、
基板上に前記主磁極を形成する工程と、
前記主磁極上に前記高周波発振素子となる積層膜を形成する工程と、
前記積層膜を前記媒体対向面から浮上高さ方向に離れるに従ってクロストラック方向の幅が狭くなる形状に加工する工程と、
前記基板を1つ又は複数の垂直磁気記録ヘッドが含まれるスタックに切断する工程と、
前記スタックの前記垂直磁気記録ヘッドの媒体対向面に相当する面を研磨する研磨工程とを含み、
前記研磨工程では、前記積層膜の電気抵抗値を測定しながら研磨を進め、電気抵抗値が目標値に達したときに研磨を終了することを特徴とする垂直磁気記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−47998(P2013−47998A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186307(P2011−186307)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】