説明

高周波誘導加熱装置

【課題】高周波電流の損失を抑え、加熱コイルに大きな高周波電流を給電するときにも装置が大型化することなく、安定して高周波電源の動作および制御を可能にする。
【解決手段】加熱コイルとマッチングトランスと高周波電流を出力する高周波電源とを有する高周波回路を複数配置し、該各高周波回路において生成された高周波電流を該各加熱コイルに同時に給電することにより、該各加熱コイルにより被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のマッチングトランスの1次側において、該高周波回路同士を逆結合させる逆結合トランスを有し、上記逆結合トランスにより、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路間に発生する干渉起電力を相殺するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱装置に関し、さらに詳細には、それぞれ別個の高周波電源で駆動される複数の加熱コイルを隣接して配置するようにして構成された高周波誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空中または減圧中で放電を起こさずに大電力を用いて誘導加熱を行う場合には、加熱コイルに掛かる電圧が大きくならないように加熱コイルを複数設けるとともに当該複数の加熱コイルを互いに隣接して配置し、各加熱コイルに高周波電流を給電する高周波電源により駆動するようにしてなる高周波誘導加熱装置が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記したようなそれぞれ別個の高周波電源で駆動される複数の加熱コイルを隣接して配置するようにして構成された高周波誘導加熱装置においては、隣接する加熱コイル間において、一方の加熱コイルが発生する磁束と他方の加熱コイルが発生する磁束とが互いに鎖交し合い相互干渉を起こすため、加熱コイルに接続される高周波電源の出力が乱され、被加熱物における加熱温度の制御に影響を及ぼすという問題点あった。
【0004】
そして、この相互干渉の度合いが大きいときには、高周波電源における出力の位相やレベルを制御する回路が悪影響を受けて高周波の発振動作が不可能になったり、出力段にトランジスタが配されている場合には、トランジスタが破損してしまう恐れがあるなどといった問題点もあった。
【0005】
また、隣接する加熱コイル間の上記した相互干渉により、加熱コイルや被加熱物から大きなビート音が発生し、作業環境が悪化するといった問題点も指摘されていた。
【0006】

ここで、上記したような問題点を解決する技術として、例えば、特許第3272680号公報に開示されたような誘導加熱装置が提案されている。
【0007】
この特許第3272680号公報に開示された誘導加熱装置は、具体的には、加熱コイルと高周波信号により生成される高周波電流を給電する高周波電源とにより構成される高周波回路を複数隣接した誘導加熱装置であって、隣接した高周波回路における加熱コイルの近傍に逆結合トランスを設けることにより、一方の高周波回路の加熱コイルによって他方の高周波回路の加熱コイルに発生する起電力たる干渉起電力に基づく干渉電流を当該逆結合トランスにより相殺し、また、当該逆結合トランスを構成する一次側鉄心と二次側鉄心との間隔を調整することにより干渉電流の相殺量を調整するようにしたものである。
【0008】
しかしながら、加熱コイルの近傍、つまり、共振回路内に逆結合トランスを設けるようにした特許第3272680号公報に開示された誘導加熱装置においては、加熱コイルに大きな高周波電流を給電する場合に、逆結合トランスにおける高周波電流の損失が大きくなることや、加熱コイルや共振回路におけるフィーダーの径が大きくなるのでフィーダーを鉄心に巻回して構成される逆結合トランスを形成することが困難になることや、逆結合トランスを形成できたとしても形成された逆結合トランスが大型化し高周波誘導加熱装置全体が大型化することなどが、新たに招来される問題点として指摘されていた。
【特許文献1】特許第3272680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高周波電流の損失を抑え、加熱コイルに大きな高周波電流を給電するときにも装置が大型化することなく、しかも、安定して高周波電源の動作および制御を可能にした高周波誘導加熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱コイルとマッチングトランスと高周波電源とを備えた高周波回路を複数配置して構成された高周波誘導加熱装置において、各高周波回路間の相互干渉を抑制する逆結合トランスを、マッチングトランスの1次側に配置するようにしたものである。
【0011】
従って、本発明によれば、電流レベルの小さな箇所で隣接した加熱コイル間に生じる干渉起電力を相殺することができるようになり、逆結合トランスにおける高周波電流の損失が軽減される。
【0012】
また、本発明によれば、電流レベルの小さな箇所で隣接した加熱コイル間に生じる干渉起電力を相殺することができるので、加熱エネルギーが増大し加熱コイルに流れる高周波電流が大きくなる場合であっても、逆結合トランスを小さく形成することができ、高周波誘導加熱装置全体の大型化を抑制することができる。
【0013】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、加熱コイルとマッチングトランスと高周波電流を出力する高周波電源とを有する高周波回路を複数配置し、該各高周波回路において生成された高周波電流を該各加熱コイルに同時に給電することにより、該各加熱コイルにより被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のマッチングトランスの1次側において、該高周波回路同士を逆結合させる逆結合トランスを有し、上記逆結合トランスにより、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路間に発生する干渉起電力を相殺するようにしたものである。
【0014】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記逆結合トランスは、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち上記所定の方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを逆方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置するようにしたものである。
【0015】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記逆結合トランスは、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち上記所定の方向とは逆方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置するようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、加熱コイルとマッチングトランスと高周波電流を出力する高周波電源とを有する高周波回路を複数配置し、該各高周波回路において生成された高周波電流を該各加熱コイルに同時に給電することにより、該各加熱コイルにより被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のマッチングトランスの1次側において、該高周波回路同士を逆結合させる逆結合トランスと、上記逆結合トランスの結合度を変化させる結合度調整手段とを有し、上記結合度制御手段によって上記逆結合トランスの結合度を制御することにより、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路間に発生する干渉起電力を低減するようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項4に記載の発明において、上記逆結合トランスは、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち上記所定の方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを逆方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置してなり、上記結合度制御手段は、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとの間隔を調整して、上記逆結合トランスの結合度を制御するようにしたものである。
【0018】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項4に記載の発明において、上記逆結合トランスは、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、上記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち上記所定の方向とは逆方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置してなり、上記結合度制御手段は、上記第1のフェライトコアと上記第2のフェライトコアとの間隔を調整して、上記逆結合トランスの結合度を制御するようにしたものである。
【0019】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項2、3、5または6のいずれか1項に記載の発明において、上記第1のフェライトコアは、インダクタンスが上記一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの巻数比の二乗と上記一方の高周波回路に設けられた加熱コイルのインダクタンスとの積と等しくなるようにしてフィーダーの巻数を調整して巻回され、上記第2のフェライトコアは、インダクタンスが上記他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの巻数比の二乗と上記他方の高周波回路に設けられた加熱コイルのインダクタンスとの積と等しくなるようにしてフィーダーの巻数を調整して巻回されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上説明したように構成されているので、高周波電流の損失を抑えることができ、加熱コイルに大きな高周波電流を給電するときにも装置の大型化を抑制することができ、しかも、安定した高周波電源の動作および制御が可能になるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0022】

ここで、図1には、本発明による高周波誘導加熱装置の実施の形態の一例を示す概略構成説明図が示され、また、図2には、図1における逆結合トランスの概略構成説明図が示されている。
【0023】
この高周波誘導加熱装置10は、第1の高周波発振器(図示せず。)と当該第1の高周波発振器で発振された信号に基づいて高周波電流を生成する第1の電流生成回路(図示せず。)とを有して構成されるとともに当該第1の電流生成回路で生成された高周波電流を一方の端子12aから出力する電源12と、電源12の一方の端子12aに一方の端部14aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー14および電源12の他方の端子12bに一方の端部16aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー16と、フィーダー14の他方の端部14bに第1の端子18aを電気的に接続されるとともにフィーダー16の他方の端部16bに第2の端子18bを電気的に接続されたマッチングトランス18と、共振コンデンサ19が設けられマッチングトランス18の第3の端子18cに一方の端部20aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー20およびマッチングトランス18の第4の端子18dに一方の端部22aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー22と、フィーダー20の他方の端部20bに一方の端部24aを電気的に接続されるとともにフィーダー22の他方の端部22bに他方の端部24bを電気的に接続されトンネル状に巻回されて配設された加熱コイル24とを有して構成される第1の高周波回路26を有している。
【0024】
また、高周波誘導加熱装置10は、第2の高周波発振器(図示せず。)と当該第2の高周波発振器で発振された信号に基づいて高周波電流を生成する第2の電流生成回路(図示せず。)とを有して構成されるとともに当該第2の電流生成回路で生成された高周波電流を一方の端子28aから出力する電源28と、電源28の一方の端子28aに一方の端部30aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー30および電源28の他方の端子28bに一方の端部32aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー32と、フィーダー30の他方の端部30bに第1の端子34aを電気的に接続されるとともにフィーダー32の他方の端部32bに第2の端子34bを電気的に接続されたマッチングトランス34と、マッチングトランス34の第3の端子34cに一方の端部36aを電気的に接続させた高周波電流を導通する線路たるフィーダー36および共振コンデンサ37が設けられマッチングトランス34の第4の端子34dに一方の端部38aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー38と、フィーダー36の他方の端部36bに一方の端部40aを電気的に接続されるとともにフィーダー38の他方の端部38bに他方の端部40bを電気的に接続されトンネル状に巻回されて配置された加熱コイル40とを有して構成される第2の高周波回路42を有している。
【0025】
さらに、高周波誘導加熱装置10は、第1の高周波回路26の加熱コイル24が発生する磁束と第2の高周波回路42の加熱コイル40が発生する磁束とが互いに鎖交し合い相互干渉を起こすために生じる干渉起電力を相殺するための逆結合トランス44と、第1の高周波回路26の加熱コイル24が発生する磁束と第2の高周波回路42の加熱コイル40が発生する磁束とが互いに鎖交し合い相互干渉を起こすために生じる干渉起電力に基づく干渉電流を検知するための検出部46と、検出部46により検出された干渉電流を表示する表示部48と、検出部46により検出された干渉電流に基づいて逆結合トランス44の位置を制御し、逆結合トランス44における干渉起電力の相殺量、つまり、逆結合トランス44の結合度を制御する結合度制御部50とを有している。
【0026】

より詳細には、第1の高周波回路26と第2の高周波回路42とは互いに隣接して配設されており、第1の高周波回路26の加熱コイル24と第2の高周波回路42の加熱コイル40とは互いに左右方向で隣接した状態とされる。
【0027】
また、逆結合トランス44は、断面E型形状を備えるとともに当該断面E型形状における中央に位置する凸部52aにフィーダー16が所定の方向に巻回されたフェライトコア52と、フェライトコア52と間隔gを開けて断面E型形状における凹凸面を対向させて配設された当該断面E型形状を備えたフェライトコア54であって、当該断面E型形状における中央に位置する凸部54aにフィーダー16が巻回された方向とは逆方向にフィーダー30が巻回されたフェライトコア54とを有して構成されている。
【0028】
ここで、フィーダー16は、フィーダー30がフェライトコア54の凸部54aに巻回されていない状態のときに、マッチングトランス18における巻数比がN:1、加熱コイル24のインダクタンスをLとするとインダクタンスがNとなるようにフェライトコア52に順方向に巻回されており、フィーダー30は、フィーダー16がフェライトコア52の凸部52aに巻回されていない状態のときに、マッチングトランス34における巻数比がN:1、加熱コイル40のインダクタンスをLとすると、インダクタンスがNとなるようにフェライトコア54に逆方向に巻回されている。
【0029】
また、検出部46は、フィーダー32に接続され、第1の高周波回路26の加熱コイル24により第2の高周波回路42の加熱コイル40に生じた干渉起電力に基づいて発生する干渉電流を検出し、検出した干渉電流は高周波増幅回路58により増幅され電源12に設けられた図示しない第1の高周波発振器により発振された高周波信号の周波数で同期検波され、表示部48に出力される。
【0030】
さらに、結合度制御部50は、モーター60によりフェライトコア54に取り付けられた変位機構62を制御してフェライトコア52とフェライトコア54との間隔gを調整するようになされている。この際、モーター60は高周波増幅回路58の出力に基づいて、検出部46で検出された干渉電流をゼロ値に近づけるように動作するように変位機構62を制御する。
【0031】
つまり、逆結合トランス44は、結合度制御部50によりフェライトコア52とフェライトコア54との間隔gを調整することによって、第1の高周波回路26の加熱コイル24により第2の高周波回路42の加熱コイル40に生じた干渉起電力に基づいて発生する干渉電流の相殺量を調整して、当該干渉電流を低減するようになされている。
【0032】

以上の構成において、高周波誘導加熱装置10の第1の高周波回路26では、第1の高周波発振装置より高周波信号が発振され、発振された信号に基づいて第1の電流生成回路により生成した高周波電流が電源12からフィーダー14を介してマッチングトランス18に給電されると、マッチングトランス18において電源12から出力された高周波電流は所定の大きさに変換され、所定の大きさに変換された高周波電流がフィーダー20、22を介して加熱コイル24に給電され、第2の高周波回路42では、第2の高周波発振器により高周波信号が発振され、発振された信号に基づいて第2の電流生成回路により生成した高周波電流が電源28からフィーダー30を介してマッチングトランス34に給電されると、マッチングトランス34において電源28から出力された高周波電流は所定の大きさに変換され、所定の大きさに変換された高周波電流がフィーダー36、38を介して加熱コイル40に給電されて、加熱コイル24および加熱コイル40が作る磁束が加熱コイル24および加熱コイル40により形成されるトンネル内を通過することにより、加熱コイル24および加熱コイル40により形成されるトンネル内を通過する被加熱物が加熱される。
【0033】

このとき、隣接する2つの高周波回路たる第1の高周波回路26と第2の高周波回路42とにおいては、第1の高周波回路26に設けられた加熱コイル24によって第2の高周波回路42に設けられた加熱コイル40に干渉起電力が発生し、この干渉起電力に基づいて第2の高周波回路42に干渉電流が発生する。
【0034】
この第2の高周波回路42に発生した干渉電流は、検出部46により検出されて検出結果が表示部48に表示される。
【0035】
具体的には、第2の高周波回路42に発生した干渉電流は、フィーダー32に接続された検出コイル56により検出され、高周波増幅回路58で増幅されて電源12に設けられた高周波発振器により発振された高周波信号の周波数で同期検波されて表示部48に表示される。
【0036】
そして、検出部46により検出された干渉電流に基づいて、干渉電流をゼロ値に近づけるように結合度制御部50によりモーター60を制御し、変位機構62を調整してフェライトコア52とフェライトコア54との間隔gが調整されることによって、第2の高周波回路42に生じた干渉電流を逆結合トランス44で相殺してゼロ値に近づけるようになされている。
【0037】
また、第2の高周波回路42に生じる干渉電流を相殺してゼロ値に近づけるためにフェライトコア52とフェライトコア54との間隔gを調整する際に、表示部48を併用することでリアルタイムで逆結合トランス44における結合度を視認できるようになる。
【0038】

このように、本発明による高周波誘導加熱装置10においては、加熱コイル24、40に大きな高周波電流を給電する場合であっても、比較的小さい高周波電流が流れるマッチングトランス18、34の1次側に逆結合トランス44を設けるようにしたため、加熱コイル24、40の近傍、つまり、共振回路において逆結合トランスを設けるようにした従来技術ではフィーダーの径が大きすぎて逆結合トランスを設けることができない構成の高周波誘導加熱装置でも、逆結合トランスを設けることができる。
【0039】
また、本発明による高周波誘導加熱装置10においては、加熱コイル24、40に大きな高周波電流を給電する場合であっても、比較的小さい高周波電流が流れるマッチングトランス18、34の1次側に干渉電流を相殺する逆結合トランス44を設けるようにしたため、加熱コイル24、40の近傍、つまり、共振回路において逆結合トランスを設けるようにした従来技術に比べて、逆結合トランスを構成するフェライトコアに巻回されるフィーダーの径が小さくてすみ、逆結合トランスを小さく構成することができるため、装置全体の大型化を抑止することができる。
【0040】
さらに、本発明による高周波誘導加熱装置10においては、比較的小さい電流が流れるマッチングトランス18、34の1次側に逆結合トランス44を設けるようにしたため、従来技術に比べ逆結合トランスにおける高周波電流の損失が軽減される。
【0041】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(7)に示すように変形することができるものである。
【0042】
(1)上記した実施の形態においては、逆結合トランスに断面E型形状のフェライトコアを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、断面U型形状のフェライトコアを用いて逆結合トランスを構成するようにしてもよい。
【0043】
(2)上記した実施の形態においては、結合度制御部により逆結合トランスの結合度をゼロ値にするように制御していたが、これに限られるものではないことは勿論であり、作業者が表示部に表示された逆結合トランスにおける結合度を視認しながら制御するようにしてもよい。
【0044】
(3)上記した実施の形態においては、加熱コイルを含む高周波回路を2個備え、これら2個の高周波回路のそれぞれの加熱コイルが隣り合って配置された、即ち、一対の加熱コイルが隣接して配置された高周波誘導加熱装置について説明したが、加熱コイルを含む高周波回路を3個以上でもよいことは勿論であり、加熱コイルを含む高周波回路の数は適宜に選択すればよい。
【0045】
(4)上記した実施の形態においては、第1の高周波回路26の加熱コイル24と第2の高周波回路42の加熱コイル40とが互いに左右方向で隣接するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、加熱コイル24と加熱コイル40とが上下方向で隣接するなど、加熱コイル24と加熱コイル40とが互いに近接して配置される状態であればよい。
【0046】
(5)上記した実施の形態においては、第1の高周波回路においては電源12の一方の端部12aから高周波電流を出力し、第2の高周波回路においては電源28の一方の端部28aから高周波電流を出力し、逆結合トランス44はフィーダー16が所定の方向に巻回されたフェライトコア52とフィーダー30が当該所定の方向とは逆方向に巻回されたフェライトコア54とを有して構成されていたが(図2を参照する。)、第1の高周波回路においては電源12の他方の端部12bから高周波電流を出力し、第2の高周波回路においては電源28の一方の端部28aから高周波電流を出力させ、逆結合トランス44をフィーダー16が当該所定の方向とは逆方向に巻回されたフェライトコア52’とフィーダー30が当該所定の方向とは逆方向に巻回されたフェライトコア54とを有して構成するようにしてもよい(図3を参照する。)。
【0047】
(6)上記した実施の形態においては、逆結合トランスにおいてコア材としてフェライトコアを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、インダクタンスを上昇させるために、例えば、珪素鋼板やアモルファスなどの透磁率が高いコア材であればよい。
【0048】
また、十分な巻数を確保しインダクタンスを得ることができれば、逆結合トランスは磁性体コアを用いることなく形成することができる。この際、逆結合トランスにおける結合度の調整は、巻回されたフィーダー自体の位置関係を制御することになる。
【0049】
(7)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(6)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、焼鈍などの熱処理や表面処理における加熱手段や、洗浄または塗装後の乾燥工程における乾燥手段などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明による高周波誘導加熱装置の概略構成説明図である。
【図2】図2は、図1における高周波誘導加熱装置における逆結合トランスの概略構成説明図である。
【図3】図3は、本発明による高周波誘導加熱装置における逆結合トランスの変形例である。
【符号の説明】
【0052】
10 高周波誘導加熱装置
12、28 電源
14、16、20、22、30、32、36、38 フィーダー
18、34 マッチングトランス
19、37 共振コンデンサ
24、40 加熱コイル
26 第1の高周波回路
42 第2の高周波回路
44 逆結合トランス
46 検出部
48 表示部
50 結合度制御部
52、54 フェライトコア
56 検出コイル
58 高周波増幅回路
60 モーター
62 変位機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱コイルとマッチングトランスと高周波電流を出力する高周波電源とを有する高周波回路を複数配置し、該各高周波回路において生成された高周波電流を該各加熱コイルに同時に給電することにより、該各加熱コイルにより被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、
隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のマッチングトランスの1次側において、該高周波回路同士を逆結合させる逆結合トランスを有し、
前記逆結合トランスにより、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路間に発生する干渉起電力を相殺する
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記逆結合トランスは、
前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち前記所定の方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを逆方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置した
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記逆結合トランスは、
前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち前記所定の方向とは逆方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置した
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
加熱コイルとマッチングトランスと高周波電流を出力する高周波電源とを有する高周波回路を複数配置し、該各高周波回路において生成された高周波電流を該各加熱コイルに同時に給電することにより、該各加熱コイルにより被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、
隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のマッチングトランスの1次側において、該高周波回路同士を逆結合させる逆結合トランスと、
前記逆結合トランスの結合度を変化させる結合度調整手段と
を有し、
前記結合度制御手段によって前記逆結合トランスの結合度を制御することにより、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路間に発生する干渉起電力を低減する
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記逆結合トランスは、
前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち前記所定の方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを逆方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置してなり、
前記結合度制御手段は、
前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとの間隔を調整して、前記逆結合トランスの結合度を制御する
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項4に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記逆結合トランスは、
前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち所定の方向に高周波電流が流れる一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第1のフェライトコアと、前記隣接して配置された加熱コイルを有する高周波回路のうち前記所定の方向とは逆方向に高周波電流が流れる他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの1次側においてフィーダーを順方向に巻回されて配設された第2のフェライトコアとを有し、前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとを所定の間隔を開けて対向して配置してなり、
前記結合度制御手段は、
前記第1のフェライトコアと前記第2のフェライトコアとの間隔を調整して、前記逆結合トランスの結合度を制御する
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項7】
請求項2、3、5または6のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記第1のフェライトコアは、インダクタンスが前記一方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの巻数比の二乗と前記一方の高周波回路に設けられた加熱コイルのインダクタンスとの積と等しくなるようにしてフィーダーの巻数を調整して巻回され、
前記第2のフェライトコアは、インダクタンスが前記他方の高周波回路に設けられたマッチングトランスの巻数比の二乗と前記他方の高周波回路に設けられた加熱コイルのインダクタンスとの積と等しくなるようにしてフィーダーの巻数を調整して巻回される
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−181886(P2009−181886A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21445(P2008−21445)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】