説明

高周波重畳電源装置

【課題】被試験電池の放電試験において、種々の波形の高周波電流を重畳させる大電流電源を安価に提供する。
【解決手段】
受電した電力を直流に変換する第1の入力整流器と、高周波トランスの一次側にインバータ、二次側に直流に変換する整流器を有するコンバータとによって形成される第1の電力変換ユニット、および、並列接続して出力リップルを相殺させるようにスイッチング位相をシフトさせた複数の高周波インバータと波形発生回路、制御回路を有する第2の電力変換手段(高周波重畳ユニット)とによって形成された交流重畳部が、出力側にリアクトルを挿入した直流充・放電装置の出力端子に、コンデンサを介して並列に接続され、被試験電池の直流充・放電電流に高周波電流波形を重畳した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の波形の高周波電流を重畳させた直流で電池を放電試験するときに用いる高周波重畳電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の技術としては特許文献1に小型でダイナミックレンジを拡大できるスイッチング素子応用の電源に関する技術が開示されている。特許文献1に開示された発明の骨子は、『使用が予測される電池の最大電圧・最大電流を考慮して充電回路の主トランスT1、放電回路の主トランスT2を容量決定していたので、電力容量を実使用に余裕を加えて大きく設計して装置が大型化する欠点があった。これを小型にしたい』要求からなされた発明で、放電回路の主トランスT2を不要とした。このためのトランスT1の1次、2次側での回路技術が開示されている。
【0003】
特許文献1の段落(0009)に「トランスT1の1次巻線に直列にスイッチング素子を接続し、該スイッチング素子のオン/オフ時間を制御することによりリニヤな可変電圧をT1の2次巻線に発生する電力供給手段と、該手段の出力の整流手段、これの後段に接続される定電流手段、とバッテリー放電時に該スイッチング素子のオン/オフでT1の2次巻線に例えば5Vの電圧を発生させ、バッテリーにこの5Vを加え合わせ、定電力電源を実現する」と記述され、段落(0016)に「スイッチング用トランジスタTSWのオン/オフ時間を制御するスイッチング制御回路CNTを備える事により、トランスT1の2次側に出力電圧をリニヤに変化させることができる」段落(0020)に「所要の電流容量を得るために、例えばパワーMOSトランジスタを並列に接続することになる」と記載されている。従来に比べて放電回路のトランスT2を不要の充放電装置とし小型化した実例である。
【0004】
以上の開示技術はスイッチング素子応用の充放電電源に関する技術であるが、市場で要求されている電力容量、例えば、DC500V電池を300Aで放電させるDC充放電電源装置(既設)に接続して正弦波、三角波など波高値0〜20Aを100Hz〜20kHz可変で重畳させ放電することが可能な装置が欲しい場合には、最大電流の大きさ320Aが原因で適用し難い技術である。理由は主電流回路のパワーMOSトランジスタを並列に接続する上記開示技術の場合、該トランジスタに直列接続のバランス用抵抗器と電流検出用の合計で1ボルト、トランジスタと配線で3ボルトの合計4ボルト電圧分の電力を消費する、このときの発熱が電源装置の周辺に温風となって設置環境に良くないし、発熱は電力ロスであるから運転経費が不経済な装置となってしまう。
【0005】
【特許文献1】「特開平6−335176号」公報、名称「充放電電源装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明での装置は、バッテリー放電時に高周波電流を重畳させ放電試験するときの高周波の波形を変えることができない欠点があった。加えて、発熱が電源装置の周辺に温風となって設置環境に良くなく、発熱は電力ロスであるから資源が不経済な電源装置となってしまう欠点があった。高い周波数に於ける基本波を歪ませるリップル電流を減らし滑らかな高周波波形を重畳させること、既設の直流300A電源装置に接続し、波高値25Aの高周波を重畳させて500Vの電池を放電させること。波高値25Aをゼロまで可変できること。重畳させる高周波波形の周波数を100Hzから20kHzまで可変であること。重畳させる高周波波形を正弦波、三角波、方形波、など設定可能であること。以上の要求を満足させる電源を提供できる技術を創出する事が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に関しては、
受電した電力を直流に変換する第1の入力整流器と、高周波トランスの一次側にインバータ、二次側に直流に変換する整流器を有するコンバータとによって形成される第1の電力変換ユニット、および、並列接続して出力リップルを相殺させるようにスイッチング位相をシフトさせた複数の高周波インバータユニットと波形発生回路、制御回路を有する第2の電力変換手段(高周波重畳ユニット)とによって形成された交流重畳部が、直流充・放電装置の出力端子にコンデンサを介して並列に接続されて被試験体である電池に接続されて、該電池の充・放電波形が高周波電流波形を重畳した直流として形成されることを特徴とした高周波重畳電源装置とした。
【0008】
請求項2に関しては、
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットが、ブリッジ接続された半導体スイッチング素子で構成されており、90度の位相差を有する信号で駆動される2相式の高速PWMで制御され、複数の高周波インバータ出力の合成波形には、それぞれの高周波インバータ出力に含まれたリップルが相殺されて滑らかな出力波形である高周波インバータである請求項1記載の高周波重畳電源装置とした。
【0009】
請求項3に関しては、
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットを構成するブリッジ接続された半導体スイッチング素子が、MOSトランジスタ又はIGBTであり、波高値司令信号、波形切換信号、周波数司令信号で駆動し、波高値、波形、周波数を設定可能に切替えて生成する事を特長とした請求項1乃至2記載の高周波重畳電源装置とした。
【0010】
請求項4に関しては、
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットの合成出力が、周波数を100Hzから20kHzまで可変の正弦波、三角波、方形波に設定可能で、正弦波、三角波、方形波、など波形設定可能にディジタル信号で切替えて生成する事を特長とした請求項1乃至3記載の高周波重畳電源装置とした。
【0011】
請求項5に関しては、
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニット出力の周波数を司令する周波数司令信号生成器、正弦波、三角波、方形波に切換設定し司令する波形切換司令信号生成器、出力波高値を司令する波高値司令信号生成器を具備し、波形発生回路に結合される事を特長とした請求項1乃至4記載の高周波重畳電源装置とした。
【0012】
請求項6に関しては、
第2の電力変換手段を形成する個数Nの高周波インバータユニットが、ブリッジ接続された半導体スイッチング素子で構成されており、(180/N)度の位相差を有する信号で駆動される高速PWMで制御され、複数の高周波インバータ出力の合成波形には、それぞれの高周波インバータ出力に含まれたリップルが相殺されて滑らかな出力波形である高周波インバータである請求項1記載の高周波重畳電源装置とした。
【0013】
請求項7に関しては、
請求項1記載の直流充・放電装置が出力ラインに高周波交流阻止用のリアクトルが挿入されている直流充・放電装置であり、該直流充・放電装置の出力端子に前記交流重畳部がコンデンサを介して並列に接続されて被試験体である電池に接続され、該電池の放電波形が高周波電流波形を重畳した直流電流として形成されることを特徴とした高周波重畳電源装置とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1と図2に於いて本発明の一実施形態における装置を説明すると、
受電した電力を直流に変換する第1の入力整流器1、高周波トランス2の一次側にインバータ3、二次側に直流に変換する整流器4を有するコンバータ5とによって第1の電力変換ユニット6が形成される。並列接続して出力リップルを相殺させるようにスイッチング位相をシフトさせた複数の高周波インバータユニット7と波形発生回路8、制御回路9とによって、第2の電力変換手段(AC高周波重畳ユニット)10が形成される。第1の電力変換ユニット6に第2の電力変換手段(AC高周波重畳ユニットと呼ぶ)10が接続されて交流重畳部12が形成される。直流充・放電装置11の出力端子13に並列に交流重畳部12が接続され、さらに被試験体(電池)15が接続されると該電池の充・放電電流波形は高周波電流波形を重畳した直流として形成される。
【0015】
直流充・放電装置11の出力端子13に並列に交流重畳部12が接続されるとき、直流充・放電装置11に交流重畳部12の高周波交流電流が逃げて行くのを防止する目的で高周波阻止リアクトルLが直流充・放電装置11の出力側ラインに直列に接続されている。交流重畳部12に直流充・放電装置11の直流が逃げていくのを阻止するためにコンデンサ14が交流重畳部12の出力側ラインに直列に接続されている。
【0016】
前記波形発生回路8に対して接続された波形切換信号生成器16からディジタル信号の波形切換信号が送信され、ディジタル信号による例えば正弦波、三角波、方形波の信号に応じて波形発生回路8の信号が選択され、制御回路9に送信されて高周波インバータユニット7への駆動信号を制御して司令した波形のトリガー信号を生成し、高周波インバータユニットが出力する。波高値司令信号生成器17からディジタル信号による波高値指定がなされて、制御回路9に送信されて高周波インバータユニット7への駆動信号を制御して司令した波高値トリガー信号を生成し、高周波インバータユニットが出力する。周波数司令信号生成器18からディジタル信号による周波数指定がなされて、制御回路9に送信されて高周波インバータユニット7への駆動信号を制御して司令した周波数トリガー信号を生成し、高周波インバータユニットが出力する。
【0017】
図3に於いて本発明の一実施形態における装置の動作を説明すると、AC高周波重畳ユニット10の高周波インバータ7はブリッジ接続されたIGBTまたは、パワーMOSで構成され、波形生成回路8から例えば100kHzのPWM信号波形181と182を受け、該高周波インバータの各出力波形191、192は200kHzのリップルを有する波形となる。信号波形181と182との間に位相を90度だけシフトして各出力波形191、192を合成するときは、合成出力波形193は該リップルが相殺されて滑らかな高周波波形となる。高周波インバータユニット7の入力が例えばDC150Vで、該高周波インバータの各出力電流がAC10Aのとき合成出力は、波高値司令信号、周波数司令信号によって、AC20Aで100Hzから20kHzに可変できる。ディジタル信号の波形切換信号によって、正弦波、三角波、方形波、など設定可能に切替えて出力できる。このようにして、コンデンサカップリングによって安価に既設の充放電装置のDC出力に対して高周波交流電流波形を重畳させることが出来た。
【0018】
複数の高周波インバータユニット7はブリッジ接続されたIGBTまたは、パワーMOSで構成され、波形発生回路8から例えば100kHzのPWM信号波形181と182を受け、該高周波インバータの各出力波形191、192は200kHzのリップルを有する波形となるが、信号波形181と182との間に位相を90度だけシフトして各出力波形191、192を合成して出力する2相交流生成のときは等価的に400kHzの高速PWM制御を実行している。合成出力波形193は該リップルが相殺されて滑らかな高周波波形となる。
【0019】
複数の高周波インバータユニット7は例えば、三組の高周波インバータユニットを並列運転する場合は、各駆動信号の間に位相を90度だけシフトして各インバータユニットの出力波形を合成して出力すると出力のリップルが相殺されて滑らかな高周波波形となる。従ってインバータユニットの数をNとしたとき、180度/Nの度数だけ各駆動信号の間に位相をシフトして出力波形を合成して滑らかな高周波を出力する事ができる。
【0020】
既設の直流300A電源装置に接続し、波高値25Aの高周波を重畳させて500Vの電池を放電させること。波高値25Aをゼロまで可変できること。重畳させる高周波波形の周波数を100Hzから20kHzまで可変であること。重畳させる高周波波形を正弦波、三角波、方形波、など設定可能であること。以上の要求を満足させる電源を提供できる技術が本発明によって創出できた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
従来の被試験体の充・放電時に高周波電流を重畳させ放電試験するときの高周波の波形を変えることができなかった欠点を排除し、電力ロスを少なくし、資源が不経済とならない電源装置が安価に提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による第1の実施形態による要部詳細図である。
【図2】本発明による第1の実施形態を示す回路ブロック図である。
【図3】本発明による第1の実施形態による動作詳細図である。
【符号の説明】
【0023】
1 第1の入力整流器
2 高周波トランス
3 インバータ
4 整流器
5 コンバータ
6 第1の電力変換ユニット
7 高周波インバータユニット
8 波形発生回路
9 制御回路
10 第2の電力変換手段(AC高周波重畳ユニット)
11 直流充・放電装置
12 交流重畳部
13 出力端子
14 コンデンサ
15 被試験体(電池)
16 波形切換信号生成器
17 波高値司令信号生成器
18 周波数司令信号生成器
181 信号波形
182 信号波形
191 出力波形
192 出力波形
193 合成出力波形
L 高周波阻止用リアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電した電力を直流に変換する第1の入力整流器と、高周波トランスの一次側にインバータ、二次側に直流に変換する整流器を有するコンバータとによって形成される第1の電力変換ユニット、および、並列接続して出力リップルを相殺させるようにスイッチング位相をシフトさせた複数の高周波インバータユニットと波形発生回路、制御回路を有する第2の電力変換手段(高周波重畳ユニット)とによって形成された交流重畳部が、直流充・放電装置の出力端子に、コンデンサを介して並列に接続されて、被試験体である電池に接続され、該電池の充・放電波形として高周波電流波形を重畳した直流電流が形成されることを特徴とした高周波重畳電源装置。
【請求項2】
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットが、ブリッジ接続された半導体スイッチング素子で構成されており、90度の位相差を有する信号で駆動される2相式の高速PWMで制御され、複数の高周波インバータユニット出力の合成波形には、それぞれの高周波インバータユニット出力に含まれたリップルが相殺されて滑らかな出力波形である高周波インバータである請求項1記載の高周波重畳電源装置。
【請求項3】
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットを構成するブリッジ接続された半導体スイッチング素子が、MOSトランジスタ又はIGBTであり、波高値司令信号、波形切換信号、周波数司令信号で駆動し、波高値、波形、周波数を設定可能に切替えて生成する事を特長とした請求項1乃至2記載の高周波重畳電源装置。
【請求項4】
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニットの合成出力が、周波数を100Hzから20kHzまで可変の正弦波、三角波、方形波に設定可能で、正弦波、三角波、方形波、など波形設定可能にディジタル信号で切替えて生成する事を特長とした請求項1乃至3記載の高周波重畳電源装置。
【請求項5】
第2の電力変換手段を形成する複数の高周波インバータユニット出力の周波数を司令する周波数司令信号生成器、正弦波、三角波、方形波に切換設定し司令する波形切換司令信号生成器、出力波高値を司令する波高値司令信号生成器を具備し波形発生回路に結合される事を特長とした請求項1乃至4記載の高周波重畳電源装置。
【請求項6】
第2の電力変換手段を形成する個数Nの高周波インバータユニットが、ブリッジ接続された半導体スイッチング素子で構成されており、(180/N)度の位相差を有する信号で駆動される高速PWMで制御され、複数の高周波インバータユニット出力の合成波形には、それぞれの高周波インバータユニット出力に含まれたリップルが相殺されて滑らかな出力波形である高周波インバータである請求項1記載の高周波重畳電源装置。
【請求項7】
請求項1記載の直流充・放電装置が、出力ラインに高周波交流阻止用のリアクトルが挿入されている直流充・放電装置であり、該直流充・放電装置の出力端子に前記交流重畳部がコンデンサを介して並列に接続されて被試験体である電池に接続され、該電池の放電波形として高周波電流波形を重畳した直流電流が形成されることを特徴とした高周波重畳電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−258424(P2006−258424A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72134(P2005−72134)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】