説明

高圧での高濃度の重炭酸アルギニン溶液の製造方法

重炭酸アルギニン溶液を極めて高濃度で製造する方法であって、本方法は、アルギニン第一の部分を含むアルギニンスラリーと二酸化炭素ガス源とを高圧および高温度で反応させること、得られた溶液に続いて添加される分のアルギニンを添加し、50質量%を超える含量の最終溶液が得られるまで圧縮した二酸化炭素とさらに反応させること(ここで、アルギニンと水とのスラリーを高圧および高温に晒すことによってアルギニン溶液を製造することを含む)、および、このアルギニン溶液と二酸化炭素ガス源とを反応させ、アルギニンと炭酸水素アニオンとを含む溶液を形成すること、および、この溶液から重炭酸アルギニンを回収すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本願は、2009年12月18日付けで出願された米国仮特許出願第61/287,846号の優先権を主張する(これは、参照により本明細書に組み入れられる)。
【背景技術】
【0002】
[0002]重炭酸アルギニンは、様々な工業的な用途で使用されており、例えば口腔ケア組成物のようなパーソナルケア組成物で使用されている。例えば、米国特許第6,524,558号は、歯の知覚過敏を予防または治療するための重炭酸アルギニンおよび炭酸カルシウムの使用を説明している。工業界における重炭酸アルギニンへの要求が高まるにつれて、それらを製造するための改善された工程および方法が必要になると予想される。
【0003】
[0003]公開されたPCT出願WO2009/100267(この内容は、全てが記載されたものとしてその全体が本明細書に組み入れられる)は、重炭酸アルギニンの製造方法を説明している。
【0004】
[0004]重炭酸アルギニンは、飽和アルギニン水溶液を室温および室内圧力で二酸化炭素ガスで泡立てることによって製造することができる。米国特許第6,217,851号は、アルギニン遊離塩基溶液を二酸化炭素で泡立てることによって、または、アルギニン遊離塩基溶液に過量のドライアイスを添加することによってアルギニン水酸化物から重炭酸アルギニンを製造することを説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,524,558号
【特許文献2】WO2009/100267
【特許文献3】米国特許第6,217,851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現存する方法の効率は改善の必要がある。現存する方法は遅く、反応を完了させるのに24〜48時間を要する。二酸化炭素は極めてわずなか水溶性しかなく、この溶液に気体を放出することによって得られる最大濃度は、室温およびその自然の分圧(3.5×10−4気圧)で1.2×10−5Mである。アルギニンの水への溶解性は、室温でわずか15%w/wしかない。濃い重炭酸アルギニン溶液(例えば40%)の製造は上記溶液への継続的なアルギニン添加を必要とし、そうすることにより生産時間は長くなり定期的な反応のモニタリングが必要となる。従って、重炭酸アルギニンの製造方法を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0005]重炭酸アルギニンの製造方法である。本方法は、50%よりも高濃度に濃縮したアルギニンおよび炭酸水素アニオンの溶液、所定の実施態様においては75%(w/w)よりも高濃度に濃縮したアルギニンと炭酸水素アニオンの溶液を10〜20分もの短時間で生産することができ(これに対して、従来技術の方法を用いた場合、24〜48時間かかり、かなり低濃度の重炭酸アルギニンしか生産できない)、さらに上記溶液からより速くより簡単に重炭酸アルギニンを回収する方法も提供することから、本方法は従来技術を超える有意な改善を示すものである。
【0008】
[0006]一実施態様において、重炭酸アルギニンの製造方法は、少なくとも34474Pa(5psi)の圧力を有する二酸化炭素を、初発のアルギニンを含むスラリーと少なくとも30℃の温度で接触させること;このようにして接触させたスラリーにアルギニンを添加して、アルギニン含量を65質量%よりも高くすること;アルギニン含量が高められたスラリーを、スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素と接触させること;および、該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、を含む。
【0009】
[0007]その他の実施態様において、重炭酸アルギニンを生産するプロセスであって、アルギニンと水とのスラリーを551580Pa(80psi)より高い圧力を有する二酸化炭素と接触させること;アルギニンと水とのスラリーを60℃〜80℃の範囲内の温度に加熱すること;該スラリーに、アルギニン含量が65質量%になるまでアルギニンを添加すること;アルギニン含量が高められたスラリーに、スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素を接触させること;該スラリーを25℃の温度に冷却すること、を含む方法が開示される。
【0010】
[0008]さらにその他の形態において、重炭酸アルギニンの製造方法であって、本方法は、アルギニンと水とのスラリーを高圧および高温に晒すこと;該スラリーを二酸化炭素と接触させて、アルギニンと重炭酸塩とを含みアルギニン含量が65質量%よりも高いスラリーを形成すること;および、該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、を含む。
【0011】
[0009]所定の実施態様を以下に記載した実施例で説明し、さらに本明細書に添付した図で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、透明なプラスチックボトル中の様々な条件からの反応生成物を説明するものであり、それぞれパール(Parr)リアクターにアルギニンを:1回の工程で添加したもの(右、サンプル番号1);2回の工程で添加したもの(中央、サンプル番号2);および、3回の工程で添加したもの(左、サンプル番号3)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0011]本文全体で用いられているように、範囲は、その範囲内に含まれるそれぞれ個々の値を説明するための省略表現として用いられる。その範囲内のどの値を範囲の末端として選択してもよい。加えて、本明細書において引用された全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が本発明に組み入れられる。本発明の開示における定義と引用された参考文献における定義とで食い違いがある場合には、本発明の開示を優先させる。加えて、本組成物および方法は、ここで説明される要素を含んでもよいし、実質的にそれらからなっていてもよいし、または、それらからなっていてもよい。
【0014】
[0012]特に他の規定がない限り、本章およびそれ以外の明細書中のあらゆる所に記載された全てのパーセンテージおよび量は、質量に基づくパーセンテージを意味するものと理解されることとする。示された量は、物質の有効な質量に基づく。本明細書における具体的な値の詳述は、測定中の誤差を考慮するために変動の程度をプラスまたはマイナスした値を示すこととする。例えば、10%で示される量には、当業界における通常の技術を有するものであれば認識し熟知していると予想される測定中の誤差の程度を考慮すれば、9.5%または10.5%が含まれる可能性がある。本方法は、ガス状の二酸化炭素源とアルギニンスラリーとを高温および低圧下で反応させて、アルギニンと炭酸水素アニオンとの溶液を形成し、続いて溶液から塩を回収することによって高濃度の重炭酸アルギニンを生産するという驚くほど単純な反応を含むものである。初期の反応は、従来の方法よりも速く(24時間を超えるのに対して、90分)、より高濃度のアルギニンと炭酸水素アニオンとの溶液を生成する(40%に対して、50%より高く、所定の実施態様においては70%またはそれより高い)。
【0015】
[0013]本方法は、ガス状の二酸化炭素源とアルギニンスラリーとを高温高圧下で反応させ、アルギニンと炭酸水素アニオンとの溶液を形成し、続いてこの溶液から塩を回収することによる、高濃度の重炭酸アルギニン溶液を生産するための驚くほど単純な反応を対象とする。初期の反応は、従来の方法よりも速く(24時間に対して、10〜20分)、より高濃度のアルギニンと炭酸水素アニオンとの溶液を生成する(40%に対して、所定の実施態様において75%よりも高い)。
【0016】
[0014]一実施態様において、重炭酸アルギニンの製造方法であって、本方法は、少なくとも34474Pa(5psi)の圧力を有する二酸化炭素を、初発のアルギニンを含むスラリーと少なくとも30℃の温度で接触させること;このようにして接触させたスラリーにアルギニンを添加して、アルギニン含量を65質量%よりも高くすること;アルギニン含量が高められたスラリーを、スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素と接触させること;および、該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、を含む。
【0017】
[0015]その他の実施態様において、重炭酸アルギニンを生産するプロセスであって、アルギニンと水とのスラリーを551580Pa(80psi)より高い圧力を有する二酸化炭素と接触させること;アルギニンと水とのスラリーを60℃〜80℃の範囲内の温度に加熱すること;該スラリーに、アルギニン含量が65質量%になるまでアルギニンを添加すること;アルギニン含量が高められたスラリーに、スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素を接触させること;該スラリーを25℃の温度に冷却すること、を含む方法が開示される。
【0018】
[0016]さらにその他の形態において、重炭酸アルギニンの製造方法であって、本方法は、アルギニンと水とのスラリーを高圧および高温に晒すこと;該スラリーを二酸化炭素と接触させて、アルギニンと重炭酸塩とを含みアルギニン含量が65質量%よりも高いスラリーを形成すること;および、該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、を含む。
【0019】
[0017]一実施態様において、上記アルギニンスラリーは、アルギニンと溶媒(所定の実施態様において水)とを含み、ここで続いて添加される分のアルギニンは遊離塩基または塩の形態で段階的または連続的に添加される。一実施態様において、このようなアルギニンと水とのスラリーの質量比は、最初に含まれる分のアルギニンに関して50:50である。続いて添加される分のアルギニンは、アルギニンの水に対する比率が1.8:1を超えるまで添加されてもよく、所定の実施態様において1.9:1を超えるまで、所定の実施態様において2.0:1を超えるまで、所定の実施態様において2.5:1を超えるまで添加されてもよい。
【0020】
[0018]本方法で用いられるアルギニンは、所定の実施態様において、L−アルギニン、D−アルギニンまたはそれらの混合物から選択される。またアルギニンは、アルギニン水酸化物、アルギニン塩酸塩またはそれらの混合物によって提供されてもよい。
【0021】
[0019]この方法において、二酸化炭素は、気体として、34474Pa(5psi)〜1723689Pa(250psi)の加圧下で、所定の実施態様において275790Pa(40psi)を超過する加圧下〜551580Pa(80psi)を超過する加圧下で、さらに所定の実施態様において551580Pa(80psi)の加圧下で上記反応に提供してもよい。
【0022】
[0020]その他の実施態様において、炭酸水素イオンは、上記スラリーに炭酸水素ナトリウムを与えることによって生成することができる。その他の実施態様において、上記アルギニンスラリーおよび二酸化炭素を、高温高圧下で10分〜20分維持してもよい。当業界における通常の技術を有するものであれば当然承知しているものと予想されるが、実験室レベルまたはパイロット規模での重炭酸アルギニン生産の場合は10〜20分もの短時間で反応を進行させることができるが、商業的な規模での重炭酸アルギニン生産では通常より長くかかり、最大で5時間かかると予想される。従って上記アルギニンスラリーおよび二酸化炭素は、高温高圧下で10分〜5時間維持してもよいし、所定の実施態様において10分〜4時間維持してもよいし、所定の実施態様において、工業的な規模で生産する場合、10分ないし2〜4時間維持してもよい。
【0023】
[0021]その他の形態において、上記アルギニンスラリーはまず、反応を持続させている間中は、30℃〜80℃の範囲内、所定の実施態様において50℃〜80℃の範囲内の温度に加熱してもよく、続いて反応完了後に、0℃〜40℃の範囲内、所定の実施態様において0℃〜25℃の範囲内の温度に冷却される。所定の実施態様において、上記アルギニンスラリーは、10〜14のpHを有する。本方法を利用することによって、上記重炭酸アルギニン溶液は、7〜10のpH、所定の実施態様において7.5〜8.5(または7.0〜9.0)のpHを有する。すなわち得られた重炭酸アルギニンを含む溶液のpHが9.0未満である場合は、反応が実質的に完了したと考えられる。
【0024】
[0022]本発明の方法は、所定の実施態様において、アルギニンと溶媒(所定の実施態様において水)とを含むアルギニンスラリーの形成から開始される。アルギニン遊離塩基は室温ではほんのわずかしか水に溶解しないため、水にアルギニンを添加することによってスラリーを形成するが、ここでアルギニンの大半は溶解しない。スラリーを形成するためにアルギニンのあらゆる形態が利用可能であり、例えば、アルギニン遊離塩基の形態(DまたはL型、通常はL型)、または、アルギニン塩の形態が挙げられる。当然のことながら、様々なアルギニン塩、例えば塩酸塩および医薬的に許容される塩は、アルギニン遊離塩基よりも実質的に高い水溶性を有する可能性があり、それにより、より高濃度のアルギニンと炭酸水素アニオンとの溶液の生産が可能になる場合がある。従って、スラリーを形成するために塩を使用してもよいし、または、遊離塩基と塩との混合物を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
[0023]所定の実施態様において、上記スラリーは、溶媒にアルギニンを10質量%〜90質量%を添加することによって生産され、例えば20質量%〜80質量%、30質量%〜70質量%、40質量%〜60質量%を添加することによって生産される。続いて上記スラリーを撹拌して均質な混合物を作製してもよい。上記スラリーの初期のpHは、アルギニン遊離塩基の場合、一般的に12であり、例えば10〜13である。
【0026】
[0024]一実施態様において、上記アルギニンと水とのスラリーの比率は、質量/質量で50:50である。一実施態様において、アルギニンの溶解性を高めるために、上記スラリーを30℃〜80℃に加熱してもよく、例えば40℃、50℃、55℃、60℃、65℃または70℃に加熱してもよい。一実施態様において、上記アルギニンと水とのスラリーはまず60℃〜80℃に加熱される。
【0027】
[0025]ガス状の二酸化炭素と水との反応は当業界公知であるが、この反応において、最初のうちは炭酸が形成され、重炭酸塩と水素イオンとに解離する。続いて重炭酸塩がさらに炭酸塩と追加の水素イオンとに解離する。この方法において、加圧された容器中で上記アルギニンスラリーに二酸化炭素を添加することにより、炭酸水素アニオンが形成され、その結果としてプロトン化したアルギニンカチオンと炭酸水素アニオンとの溶液が生成する。
【0028】
[0026]二酸化炭素/炭酸とアルギニンとの平衡は、それぞれ以下の反応1および2に記載される通りである。反応3で示されるように、水中に二酸化炭素をパージすると炭酸と重炭酸塩が形成され、続いて極めて高い塩基性のアルギニン分子と反応し、重炭酸アルギニンが形成されると予想される。
【0029】
【化1】

【0030】
[0027]上記スラリーへの二酸化炭素の溶解性は、溶液の温度を低くすることによって高められる可能性があるが、それによりアルギニンの溶解性が低くなる。従って、両方の成分の溶解性において慎重なバランスを維持することが望ましい。従って、一実施態様において、加圧された容器が温度制御されていてもよい。二酸化炭素の上記スラリーへの溶解性を高める一つの方法は、二酸化炭素をスラリーの温度よりも低温で提供することであり、例えば二酸化炭素をドライアイスまたは冷却ガスとして導入することが挙げられる。所定の実施態様において、この反応において二酸化炭素ガスが用いられる。加えて、上記スラリーを直接冷却することも有意である可能性がある。
【0031】
[0028]上記スラリーへの二酸化炭素の溶解性は、反応容器中の二酸化炭素の分圧を上げることによって高められる可能性がある。従って、二酸化炭素とアルギニンスラリーとの反応は、34474Pa(5psi)〜1034214Pa(150psi)で起こしてもよく、例えば34474Pa(5psi)〜344738Pa(50psi)、34474Pa(5psi)〜413685Pa(60psi)、34474Pa(5psi)〜482633Pa(70psi)、34474Pa(5psi)〜551580Pa(80psi)、34474Pa(5psi)〜620528Pa(90psi)、34474Pa(5psi)〜689476Pa(100psi)、34474Pa(5psi)〜758423Pa(110psi)、34474Pa(5psi)〜827371Pa(120psi)、または、34474Pa(5psi)〜965266Pa(140psi)で起こしてもよい。
【0032】
[0029]アルギニンスラリーとガス状の二酸化炭素との反応において、より高いCO分圧で水中でより高い溶解性のCOガスを利用できるようにするために、圧力は、典型的には137895Pa(20psi)〜551580Pa(80psi)の範囲に維持される。一実施態様において、高圧の反応容器、例えばパール・インスツルメント(Parr instrument)のモデル425HC T316が、用いられる可能性がある。
【0033】
[0030]一実施態様において、水を含む反応器に、アルギニンと水とが50:50の比率でアルギニン粉末を添加し、ほぼ透明な溶液が形成されるまで134474Pa(5psi)より高い圧力および50℃〜75℃より高い温度で圧縮した二酸化炭素ガスと反応させる。得られた透明な溶液に、アルギニンの水に対する比率が1.9:1になるまで残りの粉末アルギニンを添加する。反応が完了しているかどうかにもよるが、所定の実施態様において、固形のアルギニンが残留しておらず、重炭酸アルギニン溶液が無色透明であり、さらにpHが9.0未満であるような場合、反応容器に追加の二酸化炭素を添加してもよい。上記反応中に存在する結果得られたアルギニン溶液にアルギニン粉末を段階的に添加することによって、50%を超える重炭酸アルギニンの最終濃度を有する重炭酸アルギニン溶液を得ることができ、所定の実施態様において60%を超える、所定の実施態様において65%を超える、所定の実施態様において70%を超える、および、所定の実施態様において75%を超える重炭酸アルギニンの最終濃度を有する重炭酸アルギニン溶液を得ることができる(76%もの高さの重炭酸アルギニンの最終濃度を有する重炭酸アルギニン溶液が得られる場合もある)。
【0034】
[0031]アルギニンスラリーと二酸化炭素との反応は、10〜20分進行させることが可能である。二酸化炭素がアルギニン溶液と反応する際、50%を超える重炭酸アルギニンの最終濃度を有する重炭酸アルギニン溶液を得るのに必要な反応時間も10分〜20分である。アルギニンは、炭酸水素アニオンの存在下においてアルギニンそのものと比較して高い可溶性を有することから、反応の完了はスラリー中の溶解していないアルギニンの存在をモニターすることによって判断できる。反応をモニターするその他の方法は、反応容器中の溶液のpHを直接測定すること、または、溶液をサンプリングして、そのpHを、開口部を有する容器で室温で測定することである。所定の実施態様において、pHは、反応が完了したかどうかを評価する手段として測定することができ、所定の実施態様において、反応完了前においてpHは9.0未満であり得る。
【0035】
[0032]重炭酸アルギニン溶液が製造されたら、続いて重炭酸アルギニンは、当業者によく知られたあらゆる手段で回収することができる。一実施態様において、溶媒は、例えば加熱、噴霧乾燥、凍結乾燥により、蒸発させられる。他の態様において、アルコールの添加により溶液から塩が析出される。
【0036】
[0033]本発明の方法は、重炭酸アルギニンを一つのバッチで製造するのに利用してもよいし、または、連続プロセスで用いてもよく、例えば連続撹拌されているタンク型反応器、流動床式反応器、および、栓流反応器で用いてもよい。当業者であれば、本明細書において説明される方法を本明細書で示されたガイドラインを用いて一つのバッチで行うこともできるし、または連続プロセスで行うこともできる。
【0037】
[0034]本文全体で用いられているように、範囲は、その範囲内に含まれるそれぞれ個々の値を説明するための省略表現として用いられる。その範囲内のどの値を範囲の末端として選択してもよい。加えて、本明細書において引用された全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が本発明に組み入れられる。本発明の開示における定義と引用された参考文献における定義とで食い違いがある場合には、本発明の開示を優先させる。当然のことながら、調合物について述べる場合、当業界では通常なされるようにその調合物の成分に関して述べる場合があるが、これらの成分は実際の調合物においてそれらが製造、保存および使用される際に互いに反応する可能性があり、このような生成物もここで述べられる調合物に含まれることとする。
【0038】
[0035]本発明の範囲内で説明された実施態様を、以下の実施例においてさらに説明し実証する。これらの実施例は単に説明のために示されたものであり、それらの本質および範囲から逸脱することなく多くの改変型が可能であるため、本発明を限定するものと解釈されないこととする。示されたもの、および、本明細書において説明されたものに加えて、当業者には本発明の様々な改変は明らかであると予想され、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることとする。
【実施例】
【0039】
実施例1
[0036]質量に基づき50%のL−アルギニンおよび質量に基づき50%の水を含むpH12のスラリーを、85gのL−アルギニンを85gの水と室温で混合することによって製造した。このスラリーを穏やかに撹拌しながら55℃に加熱した。目視での観察によっておよそ50%のL−アルギニンが溶解したことが確認された。
【0040】
実施例2
[0037]25グラムのドライアイス粒子を実施例1で製造されたスラリーに添加し、この混合物を加圧された容器に移した。ドライアイスをそのまま蒸散させて容器から大気中の空気を追い出し、続いて容器を密封した。容器中の圧力をそのまま551580Pa(80psi)に高め、溶液を加圧下で3分間維持した。容器を開けたとき、容器の底に少量の未反応のアルギニンが観察された。
【0041】
実施例3
[0038]実施例2の溶液をスパチュラで撹拌して懸濁液を作製した。容器に10グラムのドライアイスを添加し、容器を密封した。そのまま圧力を高め、620528Pa(90psi)に維持した。3分後に容器を開け、粘性の透明な無色の溶液は沈殿がないことを観察した。この溶液を12℃に冷却し、最終pHが8.8の濃度60%の重炭酸アルギニン溶液を作製した。重炭酸アルギニンを凍結乾燥することによって回収した。
【0042】
実施例4
[0039]アルギニンと水とのスラリーと圧縮したCOガスとの反応を、一連の反応で、CO注入ポートおよび付属品を備えたパール・インスツルメント製の300mlの高圧反応器(425HC 300mlシリンダー,パール・インスツルメント(イリノイ州モリーン)から市販されている)で行った。この反応器は、L型ステンレス鋼チューブを備えたポートを含んでおり、このチューブは反応器の底に達している。このポートは、CO注入ポートとして機能し、COガスを直接反応物に吹き付けさせることができ、よってミキサー/撹拌機としても役立つ。この反応器はT型コネクターも含み、これは、反応器をパージバルブに連結させ、また、反応器を頂部にある安全性のための緊急開放バルブに連結させる。反応温度を正確に制御することができるように反応器の本体を恒温槽の内部にセットした。
【0043】
[0040]恒温槽を予め決められた温度に到達させた。高圧反応器中でスパチュラを用いてL−アルギニン粉末と脱イオン水とを混合した。反応器のキャップを締め、パージバルブは開いたままにし、続いて反応物が望ましい温度に到達することができるように反応器を恒温槽に置いた。恒温槽中で温度が平衡状態に達したら、反応器に圧縮したCOガスを導入した。反応器を通じた一定流量のCOガスにより撹拌が生じるように、パージバルブを部分的に開けたままにした。COタンクで二段階の調節弁を用いてガス圧を調節し、圧力の読み取りは、調節弁の計器から行った。パージバルブは常に開いているため、反応器内部の圧力は、調節弁の計器で示される値よりもわずかに低い。各反応を一定期間進行させ、続いてCOガス供給を止めた。反応器を即座に開き、反応器中の内容物をプラスチック容器に移行した。プラスチック容器のキャップをきつく締めて、それを冷却するために室温で水道水の槽に沈めた。室温における最終的な溶液のpHを標準的なガラス電極のpHメーターを用いて測定した。
【0044】
[0041]味の素(Ajinomoto)のCグレードのL−アルギニン粉末(40グラム)と脱イオン水40グラムとを反応させるために1:1の質量比で混合した。反応後、60%(w/w)の重炭酸アルギニン水溶液を得た。COタンクの調節弁の計器で示された通り、反応温度は45、60および75℃であり、圧力は、68948Pa(10psi)、137895Pa(20psi)、275790Pa(40psi)、413685Pa(60psi)、および、551580Pa(80psi)であった。温度平衡時間は5分であり、反応時間は10分であった。表1に、この高圧高温で行われた反応で用いられた詳細な組成および条件を列挙した。
【0045】
【表1】

【0046】
[0042]表1に列挙した反応を、1度に1つのパラメーターを変化させながら、類似の条件で10分間行った。次に、最終的なpH値を用いて、様々な反応条件の効率または完成度を決定した。異なる圧力のCOガス下での水溶液のpHは正確な指標とならないと予想され、さらにインラインでの濁度測定も気泡が混入した状態を示すため、最終的なpHを指標として使用することが望ましい。
【0047】
[0043]最終的なpH値はCOガス圧に対してプロットされ、3種の温度(75、60および45)における反応からのデータを得て、それを表1に記載した。表1を参照すると、CO圧力が反応速度に最も強い影響を与えることが明らかであり、すなわち圧力が高ければ高いほど、反応はより速くなり最終的なpHはより低くなる。例えば75℃および551580Pa(80psi)で、反応の10分以内に、最終的なpHは12.0を超える初期の値から7.5未満に低下した。また表1に示されたデータから、比較的高温であるほうが反応速度を改善するが、特に温度が60℃を超えるような場合、その作用は高圧の場合ほど劇的ではないことも示される。
【0048】
[0044]さらに特筆すべきことに、圧力が高ければ高いほど、反応器中でCOガスストリームがかき混ぜ装置のように働くためにより多くの撹拌が起こる。理論にとらわれずにいえば、撹拌を強くすればするほど、より高圧でより速い反応速度が得られると考えられる。これは、反応中にパージバルブが閉じられている反応からも実証されており、最終的なpHが、撹拌のための一定のガスフローを確保するためにパージバルブが部分的に開けてある以外は同じ条件下で行われた反応のpHよりも、有意に高かった。さらにこの実験からは、良好な撹拌は、速い反応に重要である可能性があることも示された。
【0049】
[0045]反応が完了した後、高いCO圧力を維持しながら反応器を氷水浴中で冷却する際に、最終的なpHは、同じ条件下で反応させたが最後の冷却を省略した場合、すなわち反応器を反応温度で外気にさらした場合に得られたpHよりも有意に低かった。これは、COは温度が低いほどより高い水溶性を有するという事に起因する可能性がある。
【0050】
実施例5
[0046]この実施例において3種の重炭酸アルギニンサンプルを製造し、ここでサンプル1にはアルギニンを一度に添加し、サンプル2および3には段階的に添加した。合計12分の間、3種全てのサンプルにおいて反応温度は75℃とし、圧力は551580Pa(80psi)に維持した。サンプル1において、一工程で、アルギニンの水に対する比率が1.8:1を超えるように反応容器にアルギニンと水とのスラリーを添加することによって重炭酸アルギニンを調製した。このスラリーはむしろ固形の「湿潤した粉末」に近い状態であることが見出された。パールリアクター底部を観察したところ、全ての水がアルギニン粉末によって吸収され自由な水が残っていなかったため、全ての「湿潤した粉末」が反応器の片側に押しやられていた。予想した通り、この出発原料は75℃および551580Pa(80psi)でさえもあまりよく反応に役立たなかった。図1の左のボトルで示されるように、12分の反応時間の後、大量の未反応で溶解していない固形のアルギニンが観察された。以下の表2に、サンプル1の反応に関する条件およびパラメーターを示す。
【0051】
[0047]反応速度を高めるために、表2で示された第二のサンプルにおいて、これまでに述べられた条件と類似の条件で複数回のアルギニン粉末添加を行うことによって上記の手順を改変した。パールリアクターに80%を超えるアルギニン粉末の大半を添加し、まずは水と混合したところ、サンプル1のときのように「湿潤した粉末」ではなくスラリーが得られた。サンプル2において、上記スラリーにおけるアルギニンの水に対する比率は、1.5:1である。反応器を閉じて5分間熱平衡化させた。反応器に551580Pa(80psi)で圧縮したCOガスを5分導入し、アルギニンスラリーをCOと反応させた。続いて反応器を即座に開いて、アルギニン粉末の残り(全アルギニンの20%未満)を添加して、反応器の内部でこの透明な溶液とスパチュラで混合した。反応器を閉じて、反応器に再度圧縮したCOガスを導入した。この反応をさらに7分実行し、反応時間は合計12分とした。図1中央の透明なプラスチックボトルで示されるように、目に見える量の固形アルギニンがほとんど存在しないほぼ透明な溶液が得られた。
【0052】
[0048]複数回の段階的な添加による反応のその他の実施例において、表2のサンプル3で示されるように、アルギニン粉末を、反応の始め、続いてその後3分および6分のインターバルを置いて3回に分けて添加した。図1の右の透明なプラスチックボトルで示されるように、固形のアルギニン粉末が残存していない完全に透明な溶液が得られた。以下の表2に、全ての反応の詳細な条件およびパラメーターを示す。
【0053】
【表2】

【0054】
[0049]どのような作用の理論にもとらわれずにいえば、このアルギニン溶液は高濃度では非常に高粘度のゲルであるが、このような高粘性のために迅速な反応が起こらないようになると考えられる。反応が比較的低濃度で開始された場合、ほとんどのアルギニンは低濃度で迅速に反応するものと予想されることから、アルギニンが低粘度でわずかな量しかない場合は、高濃度および高粘性でより遅い速度で反応させる必要がある。
【0055】
[0050]この実施例から、反応器にアルギニン粉末を複数回の工程で徐々に添加すれば、上記反応をより速く進行させて完了させることができることが実証された。一実施態様において、反応速度をさらに改善するために、反応器にアルギニン粉末を連続的に添加してもよい。この方法において、添加されたアルギニンは溶解し、長時間固形のままでいることなく即座に反応することができる。反応器に一度に全てのアルギニンを投じるのではなくアルギニンを徐々に添加した結果として、効率的に、さらに10分以内の極めて早期にに水溶液が生産される。
【0056】
[0051]これらの実験結果から、反応器にアルギニンを複数回で、または連続的に添加することは、迅速で完全かつ効率的な反応に寄与することが示される。その他の関連要因としては:(i)134474Pa(5psi)を超過する高いCOガス分圧;(ii)反応物にとって50℃を超過する高温(ただし反応の最終段階を除く);(iii)反応の最終段階において温度は反応物にとって20℃未満とすべきこと;および、(iv)十分な撹拌が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重炭酸アルギニンの製造方法であって、該方法は:
少なくとも34474Pa(5psi)の圧力を有する二酸化炭素を、アルギニンを含む初発のスラリーと少なくとも30℃の温度で接触させること;
このようにして接触させたスラリーにアルギニンを添加して、アルギニン含量を65質量%よりも高くすること;
アルギニン含量が高められたスラリーを、スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素と接触させること;および、
該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記接触させたスラリーにアルギニンを遊離塩基または塩の形態で連続的に添加することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーは水を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記初発のスラリーは、50質量%のアルギニンを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルギニンは、L−アルギニン、D−アルギニンまたはそれらの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルギニンは、アルギニン水酸化物、アルギニン塩酸塩またはそれらの混合物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素の圧力は、137895Pa(20psi)〜1723689Pa(250psi)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素の圧力は、275790Pa(40psi)よりも高い、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
10分〜4時間、前記スラリーの温度は25℃より高く、前記スラリーの圧力は大気圧より高い、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記スラリーをまず30℃〜80℃の温度に加熱し、pHが9未満になるまで30℃〜80℃で維持し、続いて0℃〜40℃の温度に冷却する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記スラリーをまず50℃〜80℃の温度に加熱し、pHが9未満になるまで50℃〜80℃で維持し、続いて0℃〜25℃の温度に冷却する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記初発のスラリーのpHは、10〜14である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アルギニン含量が高められたスラリーを、スラリーのpHが8.5未満になるまで二酸化炭素と接触させる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記重炭酸アルギニンは、蒸発または沈殿によって前記スラリーから回収される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記スラリーに炭酸水素ナトリウムを添加することをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
重炭酸アルギニンの製造方法であって、該方法は:
アルギニンと水とのスラリーを551580Pa(80psi)より高い圧力を有する二酸化炭素と接触させること;
アルギニンと水とのスラリーを60℃〜80℃の温度に加熱すること;
該スラリーに、アルギニン含量が65質量%になるまでアルギニンを添加すること;
アルギニン含量が高められたスラリーに、該スラリーのpHが9未満になるまで二酸化炭素を接触させること;
該スラリーを25℃の温度に冷却すること、
を含む、上記方法。
【請求項17】
重炭酸アルギニンの製造方法であって、該方法は:
アルギニンと水とのスラリーを高圧および高温に晒すこと;
該スラリーを二酸化炭素と接触させて、アルギニンと重炭酸塩とを含みアルギニン含量が65質量%よりも高いスラリーを形成すること;および、
該スラリーから重炭酸アルギニンを回収すること、
を含む、上記方法。
【請求項18】
前記接触させたスラリーにアルギニンを遊離塩基または塩の形態で連続的に添加する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スラリーは水を含む、請求項17または18に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−514357(P2013−514357A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544665(P2012−544665)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/059992
【国際公開番号】WO2011/075422
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(590002611)コルゲート・パーモリブ・カンパニー (147)
【氏名又は名称原語表記】COLGATE−PALMOLIVE COMPANY
【Fターム(参考)】