高圧ガス貯蔵容器の製造方法及び高圧ガス貯蔵容器
【課題】 補強層の厚みが薄くなる鏡部、特に肩部の機械的強度を高めるために、肩部により多く補強部材を巻き付けることのできる高圧ガス貯蔵容器の製造方法を提供する。
【解決手段】 タンク形状にライナー4を成形した後、該ライナーの周面に帯状の補強部材13を巻き付けて製造される高圧ガス貯蔵容器15の製造方法において、ライナーの胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に、少なくともライナーの肩部4Cを覆い、当該肩部4Cに巻付けられる補強部材13の巻き数を増やす巻付け補助部材6を取り付け、補強部材13をライナーの周面に巻き付ける際に、巻付け補助部材6にも補強部材13を巻き付ける。巻付け補助部材6は、ライナーの装着部に密着するライナー接触面7と、フープ巻き時に補強部材が巻付けられる傾斜面8と、ヘリカル巻き時に補強部材が巻付けられる肩部4Cを覆う曲率面9とを備える。
【解決手段】 タンク形状にライナー4を成形した後、該ライナーの周面に帯状の補強部材13を巻き付けて製造される高圧ガス貯蔵容器15の製造方法において、ライナーの胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に、少なくともライナーの肩部4Cを覆い、当該肩部4Cに巻付けられる補強部材13の巻き数を増やす巻付け補助部材6を取り付け、補強部材13をライナーの周面に巻き付ける際に、巻付け補助部材6にも補強部材13を巻き付ける。巻付け補助部材6は、ライナーの装着部に密着するライナー接触面7と、フープ巻き時に補強部材が巻付けられる傾斜面8と、ヘリカル巻き時に補強部材が巻付けられる肩部4Cを覆う曲率面9とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガスを充填し貯蔵するための高圧ガス貯蔵容器の製造方法及び高圧ガス貯蔵容器に関し、詳細には、容器肩部への補強部材の巻付け量を増やすための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスを貯蔵するためのガス貯蔵容器としては、タンク形状とされたライナーの周面に、容器の機械的強度(耐圧性)を高める目的で帯状のカーボン繊維を巻き付けてこれを補強層とした、圧力容器が提案されている(例えば、特許文献1、2など参照)。
【0003】
カーボン繊維は、円筒形状とされる胴部にはその円周方向に巻き付けるフープ巻きで巻回され、胴部両端の曲率形状部分(ドーム形状部分)である鏡部には容器長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻きで巻回される。
【特許文献1】特開平10−220691号公報
【特許文献2】特開2002−188794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の圧力容器では、ライナーの周面にカーボン繊維を何重にも巻き付けることで当該容器の耐圧性を高めているが、鏡部の補強層厚みが胴部の補強層厚よりも薄くなり、特に、鏡部のうち胴部に近い肩部の耐圧性が他の部位よりも低くなる。
【0005】
すなわち、曲率形状とされる鏡部は、その構造上、カーボン繊維をヘリカル巻きで巻回するために、どうしても胴部に比べてカーボン繊維の巻き数が減ってしまい、他の部位と比較して相対的に鏡部(特に肩部)の強度が落ち、容器全体の耐圧強度を確保することができない。
【0006】
そこで、本発明は、補強層の厚みが薄くなる鏡部、特に肩部の機械的強度を高めるために、肩部により多く補強部材を巻き付けることのできる高圧ガス貯蔵容器の製造方法及び高圧ガス貯蔵容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高圧ガス貯蔵容器の製造方法では、ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を取り付けた後、前記補強部材をライナーの周面に巻き付ける際に、この巻付け補助手段にも補強部材を巻き付けるようにする。
【0008】
一方、本発明に係る高圧ガス貯蔵容器は、タンク形状とされたライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成される補強層とからなり、ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を設けている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高圧ガス貯蔵容器の製造方法によれば、ライナーの肩部を覆って取り付けられた巻付け補助手段の上にも補強部材が巻付けられ、この巻付け補助手段上に巻付けられる補強部材により、当該肩部における補強部材の巻き数を増やすことができる。したがて、本発明方法によれば、肩部の強度を高めることができ、容器全体としての耐圧強度を均一なものとすることができる。
【0010】
一方、本発明の高圧ガス貯蔵容器によれば、ライナーの肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を少なくとも肩部を覆って設けたので、この巻付け補助手段に巻付けられる補強部材が増えることで当該肩部における補強部材の巻き数を増やすことができ、肩部の強度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1はライナーを成形する成形工程図、図2は成形後のライナーの外周面に溝を形成する溝形成工程図、図3は巻付け補助手段の斜視図、図4は巻付け補助手段の断面図、図5は巻付け補助手段をライナーに装着する装着工程図、図6は巻付け補助手段の上に補強部材をヘリカル巻きする巻き付け工程図、図7は完成した高圧ガス貯蔵容器を示す図、図8は巻付け補助手段を設けずに補強部材を巻き付けたときの巻付け工程図である。
【0013】
本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器を製造するには、先ず、図1(a)に示すように、タンク形状に成形するためのライナーの母材となる例えばアルミニウム合金からなる円盤形状の金属板1を用意する。次に、この金属板1をプレス成形して、図1(b)に示すように、上端を開口させた円筒体2とする。次いで、この円筒体2の開口側を絞って、図1(c)に示すように、口金3を有したライナー4を完成させる。
【0014】
なお、本実施の形態では、金属板1をプレス成形することによってタンク形状にライナー4を製造したが、樹脂成形によってライナー4を製造するようにしてもよい。
【0015】
次に、このライナー4に対して、図2に示すように、円筒体部分である胴部4Aと、その胴部1A両端の曲率形状部分(ドーム形状部分)である鏡部4Bの境目近傍部であって胴部4A寄りの位置に、円周方向に沿って引掛け溝5を形成する。引掛け溝5は、口金3側と底部側にそれぞれ2ヶ所形成する。また、この引掛け溝5は、ライナー4の機械的強度(耐圧性など)が損なわれない程度の溝深さとされ、例えば最大1mm程度の深さとされる。
【0016】
次に、このライナー4の胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に装着させるための巻付け補助手段である巻付け補助部材6を用意する。巻付け補助部材6は、図3及び図4に示すように、少なくとも鏡部4Bのうち胴部4Aに近い肩部4Cを覆い、後述する補強層形成工程で補強部材をライナー周面に巻き付けるときに、当該肩部4Cに巻付けられる補強部材の巻き数を増やすために使用される。
【0017】
かかる巻付け補助部材6は、スリット6Aが設けられたリング状部材で、そのスリット6Aが閉じた状態で内周をライナー外周より若干短くすることで、素材の弾性力を利用してライナー4に押さえ付ける構造となっている。また、この巻付け補助部材6は、周囲に繊維を巻き付けて締め付けることにより、さらにタンク4を押さえつけることができる。巻付け補助部材6は、ライナー4の装着部に密着する形状とされたライナー接触面7と、補強部材をライナー4の円周方向に巻き付けるフープ巻き時に巻付けられる傾斜面8と、補強部材をライナー4の長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻き時に巻付けられる肩部4Cを覆う曲率面9とを備える。
【0018】
ライナー接触面7は、胴部4A、肩部4C及び鏡部4Bの形状に合わせて密着する直線及び曲線から構成され、これらの装着部に隙間無く密着するようになっている。
【0019】
傾斜面8は、胴部4Aから肩部4Cに掛けてその厚みが次第に厚くなるような緩やかな緩勾配とされている。この傾斜面8には、胴部4Aをフープ巻きするときに補強部材が巻付けられる。また、傾斜面8および曲率面9には、補強部材が滑り落ちないようにするための滑落防止溝10が形成されている。滑落防止溝10は、浅い溝として周方向に沿って円環状に形成され、その傾斜方向に所定ピッチで複数形成されている。
【0020】
曲率面9は、補強部材をライナー4にヘリカル巻きしたときに補強部材がより多く巻付けられるような曲面とされている。かかる曲率面9は、前記傾斜面8から肩部4Cにかけて肉厚となるような曲率で形成され、そこから次第に薄肉となるような曲率とされ、その先端が前記鏡部4Bの曲率と一致するようになっている。
【0021】
また、この巻付け補助部材6には、前記ライナー4に形成した引掛け溝5に係止される突起である係合突起11と、この係合突起11を先端部に有した弾性付与片12が形成されている。弾性付与片12は、巻付け補助部材6の本体に形成されたスリットによって舌片形状とされ、その先端に形成した係合突起11に弾性力を与えるようになっている。係合突起11は、巻付け補助部材6の内側に向かって突出し、引掛け溝5に挿入係合されることで、前記弾性付与片12の弾性力で当該引掛け溝5から容易に外れないようになされる。
【0022】
なお、巻付け補助部材6は、容器内に燃料ガスが充填されることから充填時におけるライナー4の膨張に追従すると共にライナー4との熱膨張量の差による破損を防ぐため、ライナー4と同材料により形成される。
【0023】
次に、図5に示すように、リング形状の巻付け補助部材6をライナー4の口金3側及び底部側から胴部4Aへとスライドさせる。そして、これら巻付け補助部材6を、ライナー4に形成された引掛け溝5に係合突起11が嵌り込むまでスライドさせる。すると、係合突起11が引掛け溝5に係合すると共に弾性付与片12によって付勢され、当該引掛け溝5から容易に抜け出るのが防止される。また、この巻付け補助部材6にはスリット6Aを1ヶ所設定しており、内周をライナー外周より3〜5mm短くしているため、該巻付け補助部材6の素材弾性力を利用することによって、ライナー4を押さえ付けることが可能となる。
【0024】
次に、ライナー4の周面に帯状の補強部材13を巻き付ける。補強部材13としては、例えばカーボン繊維を強化繊維とした繊維強化プラスチック素材であるCFRP層(Fiber Reinforced Plastics)を帯状としたものを使用する。
【0025】
補強部材13のライナー4へのワインディング例を図8に示す。図8は、一般的なワインディング方法であり、本実施の形態の巻付け補助部材6をライナー4に装着させていない状態で補強部材13を巻き付ける様子を示す図である。
【0026】
ライナー4の胴部4Aには、図8(a)に示すように、補強部材13を円周方向に巻き付けるフープ巻きを行い、その両端の鏡部4Bには、補強部材8を容器長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻きを行う。また、これら胴部4Aと鏡部4Bのそれぞれに補強部材13を巻き付けるには、帯状の補強部材13をエポキシ樹脂漕に浸漬させた後、ライナー4を回転させながらその周面に巻き付けて行く。
【0027】
かかるワインディング工程においては、鏡部4Bのうち胴部4Aに近接する肩部4Cでは、図8(b)に示すように、対角線上の反対側の肩部4Cに補強部材13が到達するとは限らないため、当該肩部4Cの補強層の厚みが最も薄肉となる。つまり、ヘリカル巻きでは、補強部材13を肩部4Cの強度が十分確保できる程度にまで巻くことができないため、どうしても肩部4Cが最も強度の弱い部位となる。これを回避するために、ライナー4の耐圧性を上げるべく肩部4Cの厚みを厚くして強化することも考えられるが、鏡部4Bの別の部分に余肉を生じ、容器は必要以上に重くなる。
【0028】
そこで、本実施の形態では、補強部材13をライナー4の周面に巻き付ける際に、巻付け補助部材6の上にも補強部材13を巻き付けるようにする。フープ巻き時には、ライナー4の周面だけでなく、巻付け補助部材6の傾斜面8上にも補強部材13を巻き付ける。このとき、傾斜面8には滑落防止溝10が形成されていることから、この上に巻き付けられた補強部材13がずれ落ちることが防止される。
【0029】
そして、ヘリカル巻き時には、鏡部4Bに補強部材13を巻き付けるときに、図6に示すように、巻付け補助部材6の曲率面9上にも補強部材13を巻き付ける。このようにすることで、曲率面9は補強部材13を巻き付け易いような曲率形状とされた面とされていることから、より多くの補強部材13が肩部4Cに巻き付けられる。その結果、タンクの構造上、どうしても補強部材13を巻き付け難い肩部4Cにも、十分耐圧性を確保するに足る量の補強部材13を巻き付けることができる。
【0030】
以上のようにしてフープ巻きとヘリカル巻きを行うことで、ライナー4の周面に補強部材13が複数巻き付けられることにより補強層14が形成された、高圧ガス貯蔵容器15が製造される。
【0031】
このように製造された高圧ガス貯蔵容器15によれば、ライナー4の胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に、少なくともライナー4の肩部4Cを覆う巻付け補助部材6を設けているため、ヘリカル巻きしたときに肩部4Cにも補強部材13を耐圧性を十分に確保するに足る量の補強部材13を巻き付けることが可能となり(目標とする厚さを確保でき)、当該肩部4Cにおける耐圧強度を向上させることができ、容器全体の耐圧性を均一化させることができる。
【0032】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、巻付け補助部材6をリング形状としたので、全周均一に肩部4Cの補強層14を厚くすることができる。
【0033】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、フープ巻き時には巻付け補助部材6の傾斜面8にも補強部材13を巻き付けることができると共に、ヘリカル巻き時にはその曲率面9に補強部材13をより多く巻く付けることができる。また、傾斜面8に形成した滑落防止溝10によって、この傾斜面8に巻き付けられた補強部材13の脱落を防止できる。
【0034】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、ライナー4の周面に形成した引掛け溝5に巻付け補助部材6の係合突起11を係合させているので、当該巻付け補助部材6のライナー4に対する確実な固定が図れると共に、ライナー4に対する巻付け補助部材6の位置決めが容易となる。
【0035】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、上述の実施の形態はその一例であり、本発明は、上述の実施の形態に制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ライナーを成形する成形工程図である。
【図2】成形後のライナーの外周面に溝を形成する溝形成工程図である。
【図3】巻付け補助手段の斜視図である。
【図4】巻付け補助手段の断面図である。
【図5】巻付け補助手段をライナーに装着する装着工程図である。
【図6】巻付け補助手段の上に補強部材をヘリカル巻きする巻き付け工程図である。
【図7】完成した高圧ガス貯蔵容器を示す図である。
【図8】巻付け補助手段を設けずに補強部材を巻き付けたときの巻付け工程図である。
【符号の説明】
【0037】
1…金属板
2…円筒体
3…口金
4…ライナー
4A…胴部
4B…鏡部
4C…肩部
5…引掛け溝
6…巻付け補助部材(巻付け補助手段)
7…ライナー接触面
8…傾斜面
9…曲率面
10…滑落防止溝(溝)
11…係合突起(突起)
13…補強部材
14…補強層
15…高圧ガス貯蔵容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガスを充填し貯蔵するための高圧ガス貯蔵容器の製造方法及び高圧ガス貯蔵容器に関し、詳細には、容器肩部への補強部材の巻付け量を増やすための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスを貯蔵するためのガス貯蔵容器としては、タンク形状とされたライナーの周面に、容器の機械的強度(耐圧性)を高める目的で帯状のカーボン繊維を巻き付けてこれを補強層とした、圧力容器が提案されている(例えば、特許文献1、2など参照)。
【0003】
カーボン繊維は、円筒形状とされる胴部にはその円周方向に巻き付けるフープ巻きで巻回され、胴部両端の曲率形状部分(ドーム形状部分)である鏡部には容器長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻きで巻回される。
【特許文献1】特開平10−220691号公報
【特許文献2】特開2002−188794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の圧力容器では、ライナーの周面にカーボン繊維を何重にも巻き付けることで当該容器の耐圧性を高めているが、鏡部の補強層厚みが胴部の補強層厚よりも薄くなり、特に、鏡部のうち胴部に近い肩部の耐圧性が他の部位よりも低くなる。
【0005】
すなわち、曲率形状とされる鏡部は、その構造上、カーボン繊維をヘリカル巻きで巻回するために、どうしても胴部に比べてカーボン繊維の巻き数が減ってしまい、他の部位と比較して相対的に鏡部(特に肩部)の強度が落ち、容器全体の耐圧強度を確保することができない。
【0006】
そこで、本発明は、補強層の厚みが薄くなる鏡部、特に肩部の機械的強度を高めるために、肩部により多く補強部材を巻き付けることのできる高圧ガス貯蔵容器の製造方法及び高圧ガス貯蔵容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高圧ガス貯蔵容器の製造方法では、ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を取り付けた後、前記補強部材をライナーの周面に巻き付ける際に、この巻付け補助手段にも補強部材を巻き付けるようにする。
【0008】
一方、本発明に係る高圧ガス貯蔵容器は、タンク形状とされたライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成される補強層とからなり、ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を設けている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高圧ガス貯蔵容器の製造方法によれば、ライナーの肩部を覆って取り付けられた巻付け補助手段の上にも補強部材が巻付けられ、この巻付け補助手段上に巻付けられる補強部材により、当該肩部における補強部材の巻き数を増やすことができる。したがて、本発明方法によれば、肩部の強度を高めることができ、容器全体としての耐圧強度を均一なものとすることができる。
【0010】
一方、本発明の高圧ガス貯蔵容器によれば、ライナーの肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を少なくとも肩部を覆って設けたので、この巻付け補助手段に巻付けられる補強部材が増えることで当該肩部における補強部材の巻き数を増やすことができ、肩部の強度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1はライナーを成形する成形工程図、図2は成形後のライナーの外周面に溝を形成する溝形成工程図、図3は巻付け補助手段の斜視図、図4は巻付け補助手段の断面図、図5は巻付け補助手段をライナーに装着する装着工程図、図6は巻付け補助手段の上に補強部材をヘリカル巻きする巻き付け工程図、図7は完成した高圧ガス貯蔵容器を示す図、図8は巻付け補助手段を設けずに補強部材を巻き付けたときの巻付け工程図である。
【0013】
本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器を製造するには、先ず、図1(a)に示すように、タンク形状に成形するためのライナーの母材となる例えばアルミニウム合金からなる円盤形状の金属板1を用意する。次に、この金属板1をプレス成形して、図1(b)に示すように、上端を開口させた円筒体2とする。次いで、この円筒体2の開口側を絞って、図1(c)に示すように、口金3を有したライナー4を完成させる。
【0014】
なお、本実施の形態では、金属板1をプレス成形することによってタンク形状にライナー4を製造したが、樹脂成形によってライナー4を製造するようにしてもよい。
【0015】
次に、このライナー4に対して、図2に示すように、円筒体部分である胴部4Aと、その胴部1A両端の曲率形状部分(ドーム形状部分)である鏡部4Bの境目近傍部であって胴部4A寄りの位置に、円周方向に沿って引掛け溝5を形成する。引掛け溝5は、口金3側と底部側にそれぞれ2ヶ所形成する。また、この引掛け溝5は、ライナー4の機械的強度(耐圧性など)が損なわれない程度の溝深さとされ、例えば最大1mm程度の深さとされる。
【0016】
次に、このライナー4の胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に装着させるための巻付け補助手段である巻付け補助部材6を用意する。巻付け補助部材6は、図3及び図4に示すように、少なくとも鏡部4Bのうち胴部4Aに近い肩部4Cを覆い、後述する補強層形成工程で補強部材をライナー周面に巻き付けるときに、当該肩部4Cに巻付けられる補強部材の巻き数を増やすために使用される。
【0017】
かかる巻付け補助部材6は、スリット6Aが設けられたリング状部材で、そのスリット6Aが閉じた状態で内周をライナー外周より若干短くすることで、素材の弾性力を利用してライナー4に押さえ付ける構造となっている。また、この巻付け補助部材6は、周囲に繊維を巻き付けて締め付けることにより、さらにタンク4を押さえつけることができる。巻付け補助部材6は、ライナー4の装着部に密着する形状とされたライナー接触面7と、補強部材をライナー4の円周方向に巻き付けるフープ巻き時に巻付けられる傾斜面8と、補強部材をライナー4の長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻き時に巻付けられる肩部4Cを覆う曲率面9とを備える。
【0018】
ライナー接触面7は、胴部4A、肩部4C及び鏡部4Bの形状に合わせて密着する直線及び曲線から構成され、これらの装着部に隙間無く密着するようになっている。
【0019】
傾斜面8は、胴部4Aから肩部4Cに掛けてその厚みが次第に厚くなるような緩やかな緩勾配とされている。この傾斜面8には、胴部4Aをフープ巻きするときに補強部材が巻付けられる。また、傾斜面8および曲率面9には、補強部材が滑り落ちないようにするための滑落防止溝10が形成されている。滑落防止溝10は、浅い溝として周方向に沿って円環状に形成され、その傾斜方向に所定ピッチで複数形成されている。
【0020】
曲率面9は、補強部材をライナー4にヘリカル巻きしたときに補強部材がより多く巻付けられるような曲面とされている。かかる曲率面9は、前記傾斜面8から肩部4Cにかけて肉厚となるような曲率で形成され、そこから次第に薄肉となるような曲率とされ、その先端が前記鏡部4Bの曲率と一致するようになっている。
【0021】
また、この巻付け補助部材6には、前記ライナー4に形成した引掛け溝5に係止される突起である係合突起11と、この係合突起11を先端部に有した弾性付与片12が形成されている。弾性付与片12は、巻付け補助部材6の本体に形成されたスリットによって舌片形状とされ、その先端に形成した係合突起11に弾性力を与えるようになっている。係合突起11は、巻付け補助部材6の内側に向かって突出し、引掛け溝5に挿入係合されることで、前記弾性付与片12の弾性力で当該引掛け溝5から容易に外れないようになされる。
【0022】
なお、巻付け補助部材6は、容器内に燃料ガスが充填されることから充填時におけるライナー4の膨張に追従すると共にライナー4との熱膨張量の差による破損を防ぐため、ライナー4と同材料により形成される。
【0023】
次に、図5に示すように、リング形状の巻付け補助部材6をライナー4の口金3側及び底部側から胴部4Aへとスライドさせる。そして、これら巻付け補助部材6を、ライナー4に形成された引掛け溝5に係合突起11が嵌り込むまでスライドさせる。すると、係合突起11が引掛け溝5に係合すると共に弾性付与片12によって付勢され、当該引掛け溝5から容易に抜け出るのが防止される。また、この巻付け補助部材6にはスリット6Aを1ヶ所設定しており、内周をライナー外周より3〜5mm短くしているため、該巻付け補助部材6の素材弾性力を利用することによって、ライナー4を押さえ付けることが可能となる。
【0024】
次に、ライナー4の周面に帯状の補強部材13を巻き付ける。補強部材13としては、例えばカーボン繊維を強化繊維とした繊維強化プラスチック素材であるCFRP層(Fiber Reinforced Plastics)を帯状としたものを使用する。
【0025】
補強部材13のライナー4へのワインディング例を図8に示す。図8は、一般的なワインディング方法であり、本実施の形態の巻付け補助部材6をライナー4に装着させていない状態で補強部材13を巻き付ける様子を示す図である。
【0026】
ライナー4の胴部4Aには、図8(a)に示すように、補強部材13を円周方向に巻き付けるフープ巻きを行い、その両端の鏡部4Bには、補強部材8を容器長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻きを行う。また、これら胴部4Aと鏡部4Bのそれぞれに補強部材13を巻き付けるには、帯状の補強部材13をエポキシ樹脂漕に浸漬させた後、ライナー4を回転させながらその周面に巻き付けて行く。
【0027】
かかるワインディング工程においては、鏡部4Bのうち胴部4Aに近接する肩部4Cでは、図8(b)に示すように、対角線上の反対側の肩部4Cに補強部材13が到達するとは限らないため、当該肩部4Cの補強層の厚みが最も薄肉となる。つまり、ヘリカル巻きでは、補強部材13を肩部4Cの強度が十分確保できる程度にまで巻くことができないため、どうしても肩部4Cが最も強度の弱い部位となる。これを回避するために、ライナー4の耐圧性を上げるべく肩部4Cの厚みを厚くして強化することも考えられるが、鏡部4Bの別の部分に余肉を生じ、容器は必要以上に重くなる。
【0028】
そこで、本実施の形態では、補強部材13をライナー4の周面に巻き付ける際に、巻付け補助部材6の上にも補強部材13を巻き付けるようにする。フープ巻き時には、ライナー4の周面だけでなく、巻付け補助部材6の傾斜面8上にも補強部材13を巻き付ける。このとき、傾斜面8には滑落防止溝10が形成されていることから、この上に巻き付けられた補強部材13がずれ落ちることが防止される。
【0029】
そして、ヘリカル巻き時には、鏡部4Bに補強部材13を巻き付けるときに、図6に示すように、巻付け補助部材6の曲率面9上にも補強部材13を巻き付ける。このようにすることで、曲率面9は補強部材13を巻き付け易いような曲率形状とされた面とされていることから、より多くの補強部材13が肩部4Cに巻き付けられる。その結果、タンクの構造上、どうしても補強部材13を巻き付け難い肩部4Cにも、十分耐圧性を確保するに足る量の補強部材13を巻き付けることができる。
【0030】
以上のようにしてフープ巻きとヘリカル巻きを行うことで、ライナー4の周面に補強部材13が複数巻き付けられることにより補強層14が形成された、高圧ガス貯蔵容器15が製造される。
【0031】
このように製造された高圧ガス貯蔵容器15によれば、ライナー4の胴部4Aと鏡部4Bの境目近傍部に、少なくともライナー4の肩部4Cを覆う巻付け補助部材6を設けているため、ヘリカル巻きしたときに肩部4Cにも補強部材13を耐圧性を十分に確保するに足る量の補強部材13を巻き付けることが可能となり(目標とする厚さを確保でき)、当該肩部4Cにおける耐圧強度を向上させることができ、容器全体の耐圧性を均一化させることができる。
【0032】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、巻付け補助部材6をリング形状としたので、全周均一に肩部4Cの補強層14を厚くすることができる。
【0033】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、フープ巻き時には巻付け補助部材6の傾斜面8にも補強部材13を巻き付けることができると共に、ヘリカル巻き時にはその曲率面9に補強部材13をより多く巻く付けることができる。また、傾斜面8に形成した滑落防止溝10によって、この傾斜面8に巻き付けられた補強部材13の脱落を防止できる。
【0034】
また、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器15によれば、ライナー4の周面に形成した引掛け溝5に巻付け補助部材6の係合突起11を係合させているので、当該巻付け補助部材6のライナー4に対する確実な固定が図れると共に、ライナー4に対する巻付け補助部材6の位置決めが容易となる。
【0035】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、上述の実施の形態はその一例であり、本発明は、上述の実施の形態に制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ライナーを成形する成形工程図である。
【図2】成形後のライナーの外周面に溝を形成する溝形成工程図である。
【図3】巻付け補助手段の斜視図である。
【図4】巻付け補助手段の断面図である。
【図5】巻付け補助手段をライナーに装着する装着工程図である。
【図6】巻付け補助手段の上に補強部材をヘリカル巻きする巻き付け工程図である。
【図7】完成した高圧ガス貯蔵容器を示す図である。
【図8】巻付け補助手段を設けずに補強部材を巻き付けたときの巻付け工程図である。
【符号の説明】
【0037】
1…金属板
2…円筒体
3…口金
4…ライナー
4A…胴部
4B…鏡部
4C…肩部
5…引掛け溝
6…巻付け補助部材(巻付け補助手段)
7…ライナー接触面
8…傾斜面
9…曲率面
10…滑落防止溝(溝)
11…係合突起(突起)
13…補強部材
14…補強層
15…高圧ガス貯蔵容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク形状にライナーを成形した後、該ライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて製造される高圧ガス貯蔵容器の製造方法において、
前記ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を取り付け、
前記補強部材を前記ライナーの周面に巻き付ける際に、前記巻付け補助手段にも補強部材を巻き付ける
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器の製造方法。
【請求項2】
タンク形状とされたライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成される補強層と、からなる高圧ガス貯蔵容器において、
前記ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を設けた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段は、前記ライナーの口金側及び底部側から胴部へとスライドされて装着されるリング形状である
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段は、前記ライナーの装着部に密着する形状とされたライナー接触面と、前記補強部材をライナーの円周方向に巻き付けるフープ巻き時に巻付けられる傾斜面と、該補強部材をライナーの長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻き時に巻付けられる肩部を覆う曲率面とを備える
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
少なくとも前記傾斜面には、前記補強部材の滑りを防止する滑落防止溝が形成されている
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項6】
少なくとも請求項2から請求項5の何れか一つに記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段に突起を形成し、その突起を前記ライナーの外周面に形成した溝に係止させた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項1】
タンク形状にライナーを成形した後、該ライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて製造される高圧ガス貯蔵容器の製造方法において、
前記ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を取り付け、
前記補強部材を前記ライナーの周面に巻き付ける際に、前記巻付け補助手段にも補強部材を巻き付ける
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器の製造方法。
【請求項2】
タンク形状とされたライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成される補強層と、からなる高圧ガス貯蔵容器において、
前記ライナーの胴部と鏡部の境目近傍部に、少なくともライナーの肩部を覆い、当該肩部に巻付けられる補強部材の巻き数を増やす巻付け補助手段を設けた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段は、前記ライナーの口金側及び底部側から胴部へとスライドされて装着されるリング形状である
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段は、前記ライナーの装着部に密着する形状とされたライナー接触面と、前記補強部材をライナーの円周方向に巻き付けるフープ巻き時に巻付けられる傾斜面と、該補強部材をライナーの長手方向対角線上に巻き付けるヘリカル巻き時に巻付けられる肩部を覆う曲率面とを備える
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
少なくとも前記傾斜面には、前記補強部材の滑りを防止する滑落防止溝が形成されている
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項6】
少なくとも請求項2から請求項5の何れか一つに記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記巻付け補助手段に突起を形成し、その突起を前記ライナーの外周面に形成した溝に係止させた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2006−307947(P2006−307947A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130128(P2005−130128)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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