説明

高圧噴射工法

【課題】従来、斜めや水平方向の硬化材注入は、標準的な性能のポンプでは、噴射圧力と吐出量が不足して不充分な注入しかできず、対象地盤中における噴射圧力と吐出量を強化するためには、標準的ポンプ3台分以上高価格の特殊な高性能のポンプが必要であるという問題がある。
【解決手段】核ノズルとこれを囲む囲周ノズルによって構成される重合噴射ノズル3の各噴射材供給流路2a、2b・・にそれぞれ高圧ポンプを設定し、同時加圧により噴射材を重合噴射することにより噴射圧力を競合させて噴射材高圧噴流の対象地盤中における噴射エネルギーを強化するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構築基礎地盤の強化支保、或いは地盤の安定化や止水を目的として対象地盤に地盤硬化材を高圧噴射して注入する硬化材の注入工法や対象地盤に挿入したロッド周辺土壌を穿孔掘削して吸引排出する汚染土壌の除去工法等に用いられる高圧噴射工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の安定化、或いは止水を目的とする硬化材層造成のための地盤硬化材注入は、地盤硬化材噴流の到達距離を少しでも延長して大径の硬化材層を造成することを理想とし様々な工夫が凝らされ、その1つとして核ノズルとこれを囲繞する環状ノズルからなる重合噴射ノズルにより硬化材噴流をエアで包合して保護し到達距離を延長する方法(例えば特許文献1参照)が開発されている。
【0003】
また、硬化材噴流に先立って清水噴射による事前改良を行い、硬化材噴流の有効射程を伸長し(例えば特許文献2参照)、或いは余剰スライムを吸引機構によって吸引排出する(例えば特許文献3参照)手段等が講じられてきた。
【特許文献1】特公平7ー100931号公報
【特許文献2】特許第2865653号公報
【特許文献3】特公平6ー29506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基本的に噴射材高圧噴流の対象地盤中における噴射エネルギーを強化するためには、特殊な高性能のポンプが必要であり、現在標準的な性能のポンプとしては、吐出量が200リットル/min、噴射圧力が40MPa程度となっている。
【0005】
この標準的なポンプを用いた場合、前記特許文献1のように硬化材噴流をエアで包合すると対象地盤中に圧縮空気が残留して地盤変位の原因となったり、横坑覆工層造成等のため斜め方向や水平方向にロッドを挿入してロッドを全回転させて硬化材注入を行った場合は、円柱状造成体の上部に空気が溜まり良質な造成体構築が困難となる。
【0006】
そのため、斜め方向や水平方向の硬化材注入は、ロッド半回動による半円状造成体の範囲でしか硬化材注入を行えない問題がある。また、この標準的なポンプを吐出量が400リットル/minの高性能のポンプとするには、標準的ポンプ3台分以上の費用が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題に対応してこれを解決するため、核ノズルとこれを囲む1又は複数の囲周ノズルによって構成される重合噴射ノズルの各噴射材供給流路にそれぞれ高圧ポンプを設定し、同時加圧により噴射材を重合噴射することにより噴射圧力を競合させて噴射材高圧噴流の対象地盤中における噴射エネルギーを強化するようにしたものである。
【0008】
即ち、これまで、対象地盤への挿入ロッド側壁に設定された噴射ノズルに対する噴射材の供給は設定位置が別になっている場合は別として、重合ノズルのように1箇所に集中して開口する場合には単独のポンプによって加圧供給してきており、複数のポンプを使っても互いに干渉し合ってマイナス効果になるものと考えられてきた。
【0009】
出願人らは、佐賀県武雄市若木町の技術センターにおいて、水中に3.2ミリ標準の円形核ノズルとこれを囲む外径8ミリ、内径7.5ミリ標準による輪状の囲周ノズルからなる重合噴射ノズルを移動可能に設定し、水槽内の直径10cmの円盤に取り付けた荷重計から80cm、100cmの位置から噴射を行ってその時の荷重を計測する実験を行った。
【0010】
先ず、実験1として核ノズル単独で30MPa、120リットル/minで噴射したところ、80cmの位置で17.5Kg、100cmの位置で11.0Kgのエネルギーを測定した。次いで、実験2として核ノズル単独で40MPa、140リットル/minで噴射し、80cmの位置で31.0Kg、100cmの位置で19.0Kgのエネルギーを測定した。
【0011】
次に、実験3として囲周ノズル単独で18MPa、76リットル/minで噴射したところ、80cmの位置で3.5Kg、100cmの位置で1.5Kgのエネルギーを測定した。次いで、実験4として囲周ノズル単独で18MPa、140リットル/minで噴射し、80cmの位置で11.5Kg、100cmの位置で8.5Kgのエネルギーを測定した。
【0012】
そこで、実験5として核ノズルから30MPa、120リットル/minで、囲周ノズルから18MPa、76リットル/minで同時加圧により噴射したところ、80cmの位置で18.5Kg、100cmの位置で12.5Kgのエネルギーを測定した。
【0013】
そこで、実験6として核ノズルから30MPa、120リットル/minで、囲周ノズルから18MPa、140リットル/minで同時加圧により噴射したところ、80cmの位置で27.0Kg、100cmの位置で20.0Kgのエネルギーを測定した。
【0014】
これにより、実験5において100cmの位置で測定できた12.5Kgのエネルギーは、実験1において100cmの位置で測定できた11.0Kgのエネルギーと、実験3において100cmの位置で測定できた1.5Kgのエネルギーとの和であることが確認できたものである。
【0015】
更に、実験6において100cmの位置で測定できた20.0Kgのエネルギーは、実験1において100cmの位置で測定できた11.0Kgのエネルギーと、実験4において100cmの位置で測定できた8.5Kgのエネルギーとの和を0.5Kg超えるものであることが確認できたものである。
【0016】
この実験結果により、重合ノズルのように1箇所に集中して開口する場合に、複数のポンプを使って核ノズルと囲周ノズルから同時加圧による噴射をすることにより、少なくとも核ノズルと囲周ノズルそれぞれの単独噴射によって発生する噴射エネルギーの和以上の噴射エネルギーを得ることができることを確認できたものである。
【0017】
本発明は、以上のように重合して開口する核ノズルと囲周ノズルに対してそれぞれ個別の加圧ポンプを設定して同時加圧による噴射をすることにより、両噴射加圧を合算した競合噴流による高圧噴射を行うようにしたもので、これを地盤硬化材注入工法或いは地中穿孔掘削工法に適用するようにしたものである。
【実施例】
【0018】
以下図面に従って本発明の実施の1形態として地盤硬化材注入工法に本発明を適用した場合の1例を説明する。なお、この実施例はあくまでも1例であって材料供給路や噴射ノズルの形態、配置や数については異なった形態でも良く、噴射材料の種類も問わないものである。
【0019】
1は注入ロッドで、全体として噴射材料供給路2a、2b、エア供給路2cの三重流路管で構成され、各供給路はそれぞれ先端部側壁に設けられた核ノズル3aとこれを囲む囲周ノズル3b、更に、囲周ノズル3bを囲む囲周ノズル3cによって構成される重合噴射ノズル3に連通している。
【0020】
材料供給路2a、2b、2cの注入ロッド1の後端末はスイベル4を介して材料供給プラントからの連絡ホース4a、4b、4cに接続し、各連絡ホースはそれぞれの材料供給機構に連絡している。
【0021】
本実施例の場合、連絡ホース4a、4bは何れも地盤硬化材の供給機構に連絡し、核ノズル3aと囲周ノズル3bから地盤硬化材の高圧競合噴流として噴射するようになっており、連絡ホース4cはコンプレッサーに接続して最外側の囲周ノズル3cから上記核ノズル3aと囲周ノズル3bからの地盤硬化材高圧競合噴流を包合するエアーを噴射するようになっている。
【0022】
地盤硬化材の供給機構Aは、セメントサイロと水中ポンプを備えた水槽に接続するスラリープラントによって構成され、これに連絡する連絡ホース4a、4bにはそれぞれスラリープラントから供給される硬化材の流量を計測する流量計と超高圧ポンプ5a、5bが設定され、それぞれに硬化材噴流の噴射圧と吐出量を設定できるようになっている。
【0023】
噴射圧の設定は超高圧ポンプの回転数の設定により、吐出量の設定はポンプの回転数とノズル3a、3bの開口面積との関係によって調整されるが、ノズル開口面積の調整は予め用意されるノズルチップの交換によって行われる。
【0024】
超高圧ポンプ5a、5bの駆動によってスラリープラント、水槽に付設された水中ポンプも作動し、セメントサイロからスラリープラントに供給されるセメント、水槽から供給される水、必要に応じて専用混和剤も加えられて地盤硬化材が調製され、連絡ホース4a、4bからスイベル機構4を介して注入ロッド1の噴射材料供給路2a、2bを経てノズル3a、3bにて高圧競合噴流として対象地盤に噴射されることになる。
【0025】
注入ロッド1は、ロッド内の各流路4a、4b、4cが、このような地盤硬化材の供給機構Aと連絡ホース4a、4b、4cによって連結すると共に、基台上に装置された注入ロッド作動マシン6に支持され、次のような工程によって対象地盤中に地盤硬化材を注入して硬化材層を造成し、或いは土壌を穿孔掘削するものである。
【0026】
先ず、注入ロッド1の適宜流路に潤滑清水を供給し噴射ノズル3及び先端噴出孔から放出し、注入ロッド作動マシン6によって注入ロッド1に対して前進、回転等の作動を与え、ロッドクラウンの掘削刃と注入ロッド1の回転によって注入ロッドを対象地盤Gに挿入させる。
【0027】
このように注入ロッド1を対象地盤Gに向けて推進挿入し、所定の深度に達したところで、供給機構Aの超高圧ポンプ5a、5bとコンプレッサーを駆動させて前記により3a、3bの各ノズルに設定された噴射圧と吐出量の高圧噴流として噴射すれば、ノズル3aの核噴流3Aにノズル3bの囲周噴流3Bが競合してポンプ5aと5bの出力を合算した噴射圧を得ることができる。
【0028】
そこで、注入ロッド1を回転若しくは所定角度によって往復回動させながら抜去方向に1メートル当たり15分程度でステップアップして後退上昇させることにより、各高圧噴流は周辺地盤を穿孔切削し土粒子を破砕して、対象地盤Gに注入ロッド1の駆動軌跡に沿って円筒状に硬化材注入層による円柱或いは盤体Xを造成する。
【0029】
また、供給機構Aのセメントサイロ、スラリープラントを水槽として地盤硬化材ではなく清水を地盤穿孔切削流体としてノズル3a、3bから噴射して対象地盤を掘削し、更に、注入ロッド1に削土吸引機構を設けて対象地盤中の土壌を排出する。
【0030】
図1の実施例は対象地盤に対して注入ロッド1を垂直方向に挿入しているが、傾斜方向、水平方向でも適用することができ、特に水平方向注入の場合に競合噴流によって噴射圧を飛躍的に強化できるので、従来、半割り状の円柱しか造成できなかったものを全円円柱の造成を可能にすることができた。
【0031】
次に、囲周ノズル3bからの噴射圧力及び吐出量と核ノズル3aからの噴射圧力及び吐出量の設定に較差をつけた場合について説明する。前記出願人らの実験結果によれば、囲周ノズル3b単独で18MPa、140リットル/minで噴射し、80cmの位置で11.5Kg、100cmの位置で8.5Kgのエネルギーが測定されている。
【0032】
これに対し、核ノズル3a単独で40MPa、140リットル/minで噴射し、80cmの位置で31.0Kg、100cmの位置で19.0Kgのエネルギーが測定されている。
【0033】
この結果から見ると、核ノズル3aと囲周ノズル3bの吐出量を同一の140リットル/minに設定した場合、3aの噴射圧が40MPa、3bの噴射圧が約半分の18MPaで、80cmの位置で3aは31.0Kg、3bは11.5Kgと3aの略3分の1のエネルギーしか測定されていない。
【0034】
ところが、100cmの位置では3aは19.0Kg、3bは8.5Kgと3aの略2分の1のエネルギーが測定されている。このことは核ノズルは近距離でのエネルギーは強いが減衰性があり、囲周ノズルは近距離でのエネルギーは弱いが遠距離までエネルギーが持続するものであることが確認できた。
【0035】
更に、前記実験の場において行った実験7では、核ノズルから40MPa、140リットル/minで、囲周ノズルから16MPa、140リットル/minで同時加圧により噴射したところ、80cmの位置で27.0Kg、100cmの位置で18.0Kgのエネルギーを測定した。
【0036】
この実験結果と前記実験6の結果とを比較すると、核ノズルの噴射圧を10MPa上げて囲周ノズルの噴射圧を2MPa下げ、吐出量を略半分の76リットル/minとして80cmの位置でのエネルギーは27.0Kgと実験6の結果と全く同一となり、100cmの位置では18.0Kgと実験6の結果より2.0Kg衰退しているもののそれ程大きな差はないことが判った。
【0037】
更に、実験8として、核ノズルから40MPa、140リットル/minで、囲周ノズルから20MPa、140リットル/minで同時加圧により噴射したところ、80cmの位置で36.5Kg、100cmの位置で24.0Kgのエネルギーを測定した。
【0038】
この結果は実験7の結果とを比較して、80cmの位置で9.5Kg、100cmの位置で6.0Kgのエネルギー強化が行われており、核ノズルからの噴射は実験7と同一の条件であるから囲周ノズル噴射の条件変化がエネルギー強化に寄与したことが確認できる。
【0039】
このことにより、近距離にエネルギーを集中する場合には核ノズルの噴射条件を高く、囲周ノズルの噴射条件を低くし、遠距離にエネルギーを集中する場合には核ノズルの噴射条件を低く、囲周ノズルの噴射条件を高くする等、核ノズルと囲周ノズルの条件設定に較差を設けるように構成したものである。
【0040】
本発明は以上のように構成したので、重合噴射ノズルの各ノズル流路に各別に高圧ポンプを接合して同時加圧噴射を行うことにより、複数のポンプ性能の和に相当する高圧噴射力を得ることができ、単独のポンプでは得ることのできない高圧噴射注入力や地盤掘削力を造出することを可能としたものである。

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例を示すもので、本発明を適用した地盤硬化材注入工法における噴射材料供給経路と注入ロッド作動マシン部の施工状況を示す全体側面図
【図2】同じく、図1の噴射材料供給機構と加圧機構及び経路の実施例を示す材料供給機構部の全体経路図
【図3】本発明による重合噴射ノズルの実施例を示す重合噴射ノズル設定部における注入ロッドの部分拡大側面図
【図4】同じく、重合噴射ノズルからの各高圧噴流の噴射状況を示す重合噴射ノズル設定部における注入ロッドの部分拡大縦面側面図
【図5】出願人らが技術センターにおいて行った重合噴射ノズルの噴射圧計測実験の主要な結果一覧表
【符号の説明】
【0042】
1 注入ロッド
2a 核ノズルへの噴射材料供給路
2b 囲周ノズルへの噴射材料供給路
2c エア供給路
3 重合噴射ノズル
3a 重合噴射ノズルの核ノズル
3b 重合噴射ノズルの囲周ノズル
3c 重合噴射ノズルの囲周ノズル
3A 核噴流
3B 囲周噴流
3C 競合噴流包合エア噴流
4 スイベル機構
4a 核ノズルへの噴射材料供給連絡ホース
4b 囲周ノズルへの噴射材料供給連絡ホース
4c エア供給連絡ホース
5a 核ノズルへの噴射材料供給高圧ポンプ
5b 囲周ノズルへの噴射材料供給高圧ポンプ
6 注入ロッド作動マシン
A 噴射材料供給機構
G 対象地盤
X 硬化材注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核ノズルとこれを囲む1又は複数の囲周ノズルによって構成される重合噴射ノズルの各噴射材供給流路にそれぞれ高圧ポンプを設定し、同時加圧により噴射材を重合噴射することにより噴射圧力を競合させて噴射材高圧噴流の対象地盤中における噴射エネルギーを強化することを特徴とする高圧噴射工法
【請求項2】
核ノズルと囲周ノズルから噴射する噴射材を水もしくは地盤硬化材とし、両ノズルから同程度の圧力及び吐出量で噴射するようにしたことを特徴とする請求項1記載の高圧噴射工法
【請求項3】
核ノズルと囲周ノズルから噴射する噴射材を水もしくは地盤硬化材とし、囲周ノズルからの噴射圧力及び吐出量を核ノズルからの噴射圧力及び吐出量より低く設定して噴射するようにしたことを特徴とする請求項1記載の高圧噴射工法
【請求項4】
核ノズルと囲周ノズルから噴射する噴射材を水もしくは地盤硬化材とし、囲周ノズルからの噴射圧力及び吐出量を核ノズルからの噴射圧力及び吐出量より高く設定して噴射するようにしたことを特徴とする請求項1記載の高圧噴射工法
【請求項5】
核ノズルと囲周ノズルから噴射する噴射材を水もしくは地盤硬化材とし、最外側の囲周ノズルからエアーを噴射するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4記載の高圧噴射工法
【請求項6】
核ノズルと囲周ノズルから噴射する噴射材を何れも地盤穿孔流体とし、高圧噴射により対象地盤を穿孔掘削するようにしたことを特徴とする請求項1記載の高圧噴射工法
【請求項7】
地盤挿入ロッドに削土吸引機構を設け、重合噴射ノズルの最外側の囲周ノズルからエアーを噴射するようにしたことを特徴とする請求項6記載の高圧噴射工法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−56477(P2007−56477A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240564(P2005−240564)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(392012261)東興建設株式会社 (28)
【出願人】(000128027)株式会社エヌ・アイ・ティ (18)
【出願人】(391051049)株式会社エステック (28)
【出願人】(395022904)フローテクノ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】