説明

高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法および装置

【課題】確実に改良体の造成状態を把握する。
【解決手段】地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法において、前記改良軸方向に対して交差する方向に移動する検出器30を有するリンク機構を備えた挿入体10を、地盤中に挿入した状態で、前記リンク機構を作動させて、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域E1と非弛緩域E2との境界Xを前記検出器30により検出し、改良体の造成状態を把握する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるジェットグラウト注入工法などの高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧噴射注入工法は、高圧噴射注入地盤改良工法とも呼ばれる。水、エア、グラウト材などを圧送して高圧噴射に伴うエネルギーを利用して、対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成するものである。この場合、対象地盤を弛める工程と対象地盤に注入材を注入する工程とは、同時の場合と時間差がある場合とがある。
この種の高圧噴射注入地盤改良工法には、古くは「CCP工法」などがあるが、近年では、大改良径などの対応を含めて種々のものが提案されており、これらの例としては、「RJP工法」、「JSG工法」、「CJG工法」、「クロスジェット工法」、「スーパージェットグラウト工法」、「スーパーミディジェットグラウト工法」などが提案されている。
高圧噴射注入工法は、大きい改良径を得ることができる利点がある。その改良体は本来ならば円柱状であるはずであるが、現実的には、希に円柱状形状にはならない、円柱状であるが改良径が小さいなどの場合がある。したがって、安全率を見越してより大径の改良を目指すことも行われる。さらに、高圧噴射注入工法では柱列状の改良体の造成を行うことがあるが、隣接する改良体相互間に繋がっていない場合にある。
これらの状況に鑑みより信頼性高い施工を行うには、現実に造成する(した)改良体の形状及び大きさ(改良径)を検知できれば、その結果に基づき施工条件にフィードバックすることができるが、かかる改良体の造成状態を把握する有効な手法がないのが現状である。したがって、本発明者の知る限り先行技術文献はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする主たる課題は、確実に改良体の造成状態を把握できる方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法において、
前記改良軸方向に対して交差する方向に移動する検出器を有するリンク機構を備えた挿入体を、地盤中に挿入した状態で、前記リンク機構を作動させて、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界を前記検出器により検出し、改良体の造成状態を把握することを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【0005】
(作用効果)
本発明では、リンク機構を設けて作動させるようにした。高圧噴射注入工法では、対象地盤を弛めるので、弛んだ地盤中ではリンク機構を作動させることができる。そして、リンク機構に改良軸方向に対して交差する方向に移動する検出器を設けておき、たとえばその検出器として圧力検出器とすれば、エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界では、圧力検出器による地盤から受ける抵抗に伴う圧力が急に高くなる。したがって、その圧力が急に高くなった時点を、対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界であると判断できる。必要により、これを改良軸方向の異なる位置において繰り返すことにより改良軸方向の改良径の変化を把握できるとともに、改良軸まわりの他の方位についても行えば、方位ごとの改良体の改良径も把握できる。
したがって、改良体の形状全体を把握することが可能であるので、信頼性の高い施工が可能であるし、必要以上の注入材を使用することを避けることができる。
【0006】
〔請求項2記載の発明〕
前記挿入体は、前記改良軸方向に延びる少なくとも一つの移動体を有し、少なくとも一つの移動体は前記リンク機構と連結しており、その一つの移動体を移動させて前記検出器を改良軸方向に対して交差する方向に移動するように構成してある請求項1記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【0007】
(作用効果)
挿入体として、単純には外管及び内管を備えるものを使用でき、その内管を移動体として外管内を移動させるようにすることができる。そして、リンク機構の一部を内管に連結し、リンク機構の他の一部を外管に連結しておき、内管の移動に伴って、リンク機構を改良軸方向に対して交差する方向に移動するように構成することができる。したがって、機構的に簡素なものでありながら、信頼性の高い(作動が確実な)ものとなる。
【0008】
〔請求項3記載の発明〕
前記検出器は、前記弛緩域から非弛緩域との境界に達したときの圧力変化を検知するものである請求項2記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【0009】
(作用効果)
検出器として、弛緩域から非弛緩域との境界に達したときの圧力変化を検知する圧力検出器を使用するものが、的確に境界を検知できることを知見している。
【0010】
〔請求項4記載の発明〕
前記注入材pHは地盤のpHと相違するものであり、前記検出器はpH検出器である請求項2記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【0011】
(作用効果)
検出器として、pH検出器を使用することも的確に境界を検知できることを知見している。すなわち、グラウト材としては、通常はセメント系のものを使用するので、アルカリ性を呈するが、未改良の地盤では弱酸性であるから、境界でのpH変化を検出することにより境界を検知できるものである。
【0012】
〔請求項5記載の発明〕
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法において、
最外管内にその軸方向に対して操作体を地盤外から移動可能に設け、
前記最外管又はこれと共に地盤内に静置している静置部の一点を静置点とし、操作体の一点と始動点とし、先端部に圧力検出器を有する可動リンクが前記最外管の軸方向と交差する方向に移動するリンク機構を備えた挿入体を、地盤中に挿入し、
前記操作体を操作させてリンク機構を作動させ、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界を前記圧力検出器により検出し、改良体の造成状態を把握することを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【0013】
(作用効果)
請求項2の作用効果の欄で関連して説明したように、外管内にその軸方向に対して操作体(たとえば内管)を地盤外から移動可能に設け、最外管又はこれと共に地盤内に静置している静置部の一点を静置点とし、操作体(たとえば内管)の一点と始動点とし、先端部に圧力検出器を有する可動リンクが最外管の軸方向と交差する方向に移動するリンク機構を備えた挿入体を地盤中に挿入し、操作体(たとえば内管)を移動させることにより、圧力検出器を最外管の軸方向と交差する方向に移動させて境界でも圧力変化を検出することができる。したがって、機構的に簡素なものでありながら、信頼性の高い(作動が確実な)ものとなる。
ここで、地盤内に挿入する挿入体としては、二重管や三重管などの多重管を使用してもよいし、外管内に他の管がパラレルに設けたものでもよい。さらに、操作体としては管の棒状体などでもよい。この意味で、地盤内に挿入する部材の最も外側に部位が管を使用することを意味するものとして、「最外管」なる用語を使用している。
【0014】
〔請求項6記載の発明〕
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法に使用する装置において、
前記改良軸方向に対して交差する方向に移動するリンク機構を備えた挿入体と、前記リンク機構の可動リンクの先端部に設けられた圧力検出器とを備え、
前記圧力検出器は、前記リンク機構を作動時において、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界における圧力検出するものであることを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握装置。
【0015】
(作用効果)
請求項1と同様な作用効果を奏する。
【0016】
〔請求項7記載の発明〕
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法に使用する装置において、
最外管内にその軸方向に対して地盤外から移動可能に設けられた操作体と、
前記最外管又はこれと共に地盤内に静置している静置部の一点を静置点とし、操作体の一点と始動点とし、先端部に圧力検出器を有する可動リンクが前記最外管の軸方向と交差する方向に移動するリンク機構とを備え、
前記圧力検出器は、前記リンク機構を作動時において、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界における圧力検出するものであることを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握装置。
【0017】
(作用効果)
請求項5と同様な作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、要するに、確実に改良体の造成状態を把握できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
図1は高圧噴射注入工法による改良体の造成例を概略的に示したものであり、地盤E内に二重管や三重管、あるいは外管内に複数の流路を設けたロッド1を所定の深さに挿入し、引き上げ過程で、基部に設けたスイベル1Aを通して高圧水W、圧送エアA及びグラウト材Gを送給し、これらを設置機2によりロッド1を軸心回りに回転する過程で噴出させる。高圧水Wの噴射により地盤を弛緩させることができ、その弛緩した地盤中にグラウト材Gを充填できる。圧送エアAは主にスライムの地上への排出を促進させるものである。図1は一例であり、先にのべた従来例と同様な施工形態を採ることもできる。
【0020】
改良体の造成が終了した時点(造成中であってもよい。)、図2〜図4に示す挿入体10を弛緩した地盤E1中に挿入する。図示例の挿入体10は、外管(最外管に相当する)12内に内管(移動体)14を挿通したものであり、外管12を座体として内管14を引き上げ油圧シリンダ16により引き上げるようになっている。
図2に示されているように、内管14の先端部には第1可動リンク21が、外管12の先端部には第2可能リンク22が枢軸21a、22aをもって連結され、第1可動リンク21及び第2可能リンク22相互も枢軸23をもって連結されている。
挿入体10は、図3に示すように、第1可動リンク21及び第2可能リンク22が内管14と平行な状態で弛緩地盤E1中に挿入され、必要な時点で、内管14をチャックしながら油圧シリンダ16により引き上げる。この引き上げに伴って、図2及び図4に示すように、第1可動リンク21及び第2可能リンク22の枢軸21a、22aが接近することに伴い、枢軸23が図4の軌跡Tのように、改良軸方向に対して交差する方向に移動するようになる。
【0021】
枢軸23部分には、たとえば歪みゲージなどの圧力検出器30が設けられており、その圧力検出器30が、弛緩地盤E1と未弛緩(未改良)地盤E2との境界に達すると、圧力検出器30による地盤から受ける抵抗に伴う圧力が急に高くなる。したがって、その圧力が急に高くなった時点を、対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界Xであると判断できる。必要により、これを改良軸方向の異なる位置において繰り返すことにより改良軸方向の改良径の変化を把握できるとともに、改良軸まわりの他の方位についても行えば、方位ごとの改良体の改良径も把握できる。したがって、改良体の形状全体を把握することが可能であるので、信頼性の高い施工が可能であるし、必要以上の注入材を使用することを避けることができる。
【0022】
弛緩域と非弛緩域との境界Xの位置は、内管14の引き上げに伴って、枢軸23又は圧力検出器30が、図5に示す軌跡を示すから、たとえば挿入下端(又は引き上げ開始)位置S0を基準として、たとえば油圧シリンダ16のストロークの合計S1を検出することにより、改良軸心からの偏位(改良径)S3及び深さ位置を知ることができる。
すなわち、第1可動リンク21の長さS4、第2可動リンク21の長さS5は既知であるから、図5に示す幾何学的関係から、改良軸心からの偏位(改良径)S3及び深さ位置(S4+S3)は知ることができるのである。
【0023】
(他の実施の形態)
一方、上記例では一つのリンク機構を設けたものであるが、図6に示すように2つのリンク機構、あるいは3つ以上のリンク機構を設けて、方位(改良軸心を中心とした方位)ごとの改良径を、必要により内管を回転させることなく検知するようにすることもできる。また、上記例では、移動体の主軸として管を使用した。これは地上で単位管を継ぎ足し、取り外しのための作業の便をよくするために使用したものであるが、ロッドなどでもよい。さらに、検出器としては、前述のようにpH検出器などを用いることができる。
上記例では、外管14を固定し内管12を引き上げるようにしたが、内管12を固定し外管14を下降させることにより、リンク機構を作動させることができる。
他方、図示例では、単純なパンタグラフ機構により本発明のリンク機構を構成したが、検出点が改良軸方向に対して交差する方向に移動する機構であれば、適宜の機構を採用できるものである。油圧シリンダ16のストロークに換えて、ロープやワイヤーの移動量などを指標にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】高圧噴射注入工法による改良体の造成例を概略的に示した説明図である。
【図2】使用状態の概要図である。
【図3】移動体の挿入状態での概要図である。
【図4】移動体の移動状態概要図である。
【図5】移動軌跡の説明図である。
【図6】他の実施の形態の説明図である
【符号の説明】
【0025】
1…ロッド、2…設置機、10…挿入体、12…外管、14…内管、21…第1可動リンク、22…第2可能リンク22、21a、22a、23…枢軸、30…検出器、A…エア、E1…弛緩地盤、E2…未弛緩地盤、G…グラウト材、W…高圧水、X…境界。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法において、
前記改良軸方向に対して交差する方向に移動する検出器を有するリンク機構を備えた挿入体を、地盤中に挿入した状態で、前記リンク機構を作動させて、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界を前記検出器により検出し、改良体の造成状態を把握することを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【請求項2】
前記挿入体は、前記改良軸方向に延びる少なくとも一つの移動体を有し、少なくとも一つの移動体は前記リンク機構と連結しており、その一つの移動体を移動させて前記検出器を改良軸方向に対して交差する方向に移動するように構成してある請求項1記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【請求項3】
前記検出器は、前記弛緩域から非弛緩域との境界に達したときの圧力変化を検知するものである請求項2記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【請求項4】
前記注入材pHは地盤のpHと相違するものであり、前記検出器はpH検出器である請求項2記載の高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【請求項5】
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法において、
最外管内にその軸方向に対して操作体を地盤外から移動可能に設け、
前記最外管又はこれと共に地盤内に静置している静置部の一点を静置点とし、操作体の一点と始動点とし、先端部に圧力検出器を有する可動リンクが前記最外管の軸方向と交差する方向に移動するリンク機構を備えた挿入体を、地盤中に挿入し、
前記操作体を操作させてリンク機構を作動させ、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界を前記圧力検出器により検出し、改良体の造成状態を把握することを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握方法。
【請求項6】
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法に使用する装置において、
前記改良軸方向に対して交差する方向に移動するリンク機構を備えた挿入体と、前記リンク機構の可動リンクの先端部に設けられた圧力検出器とを備え、
前記圧力検出器は、前記リンク機構を作動時において、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界における圧力検出するものであることを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握装置。
【請求項7】
地盤に挿入した管を通して流体を高圧で吐出させ、そのエネルギーにより対象地盤を弛めるとともに対象地盤に注入材を注入して改良体を造成する工法に使用する装置において、
最外管内にその軸方向に対して地盤外から移動可能に設けられた操作体と、
前記最外管又はこれと共に地盤内に静置している静置部の一点を静置点とし、操作体の一点と始動点とし、先端部に圧力検出器を有する可動リンクが前記最外管の軸方向と交差する方向に移動するリンク機構とを備え、
前記圧力検出器は、前記リンク機構を作動時において、前記エネルギーにより対象地盤を弛めた弛緩域と非弛緩域との境界における圧力検出するものであることを特徴とする高圧噴射注入工法による改良体の造成状態把握装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255752(P2008−255752A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102044(P2007−102044)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】