説明

高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材

【課題】35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で高圧容器に流体を充填した場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができるシール構造およびそれに用いるシール部材を提供する。
【解決手段】高圧容器1とこれに隣接する付属品2との間にシール部材5を配置するシール構造であって、円筒状のシール部材5が外周に、第1テーパー面5aおよび第2テーパー面5bを有し、第1テーパー面5aは、第2テーパー面5bから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、第2テーパー面5bは、第1テーパー面5aから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、高圧容器の開口部1bに設けられたテーパー面1eに第1テーパー面を嵌め合い、付属品の開口部2bに設けられたテーパー面2cに第2テーパー面5bを嵌め合うことを特徴とする高圧容器のシール構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が高圧で充填される高圧容器と、これに隣接する接続管や止栓といった付属品の間を密閉するためのシール構造およびそれに用いるシール部材に関し、さらに詳しくは、35MPa以上の超高圧の流体の充填・放出に高圧容器を用いる際に、流体が高圧容器と接合部材の間から漏れるのを抑制できるシール構造およびそれに用いるシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧容器は、主に水素、酸素、窒素等の流体の貯蔵に用いられ、これらの流体が高圧で充填される。高圧流体の充填・放出に高圧容器を用いる際は、配管が取付け可能な接続管や開口部を封止する止栓といった付属品が隣接される。高圧容器と付属品の間から、充填・放出される高圧流体がリーク(漏れ)するのを防止するため、高圧容器と付属品の間にシール部材が配置される。従来、充填・放出される流体の最大圧力は、20MPaが慣用されていた。
【0003】
近年、燃料電池自動車の開発が急速に進められており、その燃料には水素ガスが用いられる。燃料電池自動車では、水素ステーションの高圧容器に貯蔵された水素ガスを燃料電池自動車が備えるガスタンクに充填して使用する。ガスタンクの充填容量を向上させるために、燃料電池自動車では、慣用される20MPaを超えて、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で水素ガスをガスタンクに充填する場合がある。このため、ガスタンクに水素ガスを充填する高圧容器およびそれに用いられるシール構造も、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で漏れがないことが求められる。
【0004】
図1は、従来の高圧容器に用いられるシール構造を示す断面図である。同図に示すシール構造は、付属品として接続管を用いる場合を示し、高圧流体を充填・放出する高圧容器1と、高圧容器に隣接される接続管2と、流体の漏れを防止するためのシール部材であるOリング3と、高圧容器1に隣接する付属品(接続管2)を固定する袋ナット4とが用いられる。
【0005】
高圧容器1は、流体が充填される容器部1aと、流体の流路となる開口部1bと、袋ナットが締め付けられるねじ部1cと、隣接される付属品と接合する接合面1dとを備えている。また、接続管2は、高圧容器との接合面1dにシール部材であるOリングを受け入れる溝部2aと、流体の流路となる開口部2bを備え、袋ナット4は高圧容器と付属品(接続管2)の接合面における流体漏れを検知するための孔であるリークポート4aを備える。
【0006】
同図に示すように、シール構造では、付属品(接続管2)の溝部2aにOリング3を埋め込むことにより、高圧容器1と付属品(接続管2)の間に、シール部材を配置する。この状態で袋ナット4を締め付け、付属品(接続管2)を高圧容器1に押し付けることにより、Oリング3が圧縮変形し、高圧容器の接合面1dおよび付属品(接続管2)の溝部2aの底面と密着する。
【0007】
また、高圧流体が充填・放出される際は、高圧流体の圧力によりOリングが拡径方向に変形し、Oリングと付属品の溝部の外周側の側面が密着する。このように、Oリングと高圧容器の接合面並びに付属品の溝部の底面および外周側の側面が密着して気密性が向上し、高圧容器と付属品の間から流体が漏れるのを防止している。以下、シール部材(Oリング)と高圧容器および付属品(接続管や止栓)が密着する部分をシール部とも呼ぶ。
【0008】
一般的に、シール構造では、シール部材を圧縮変形させて高圧容器および付属品に密着させる。この際、圧縮変形したシール部材と高圧容器および付属品の間に発生する圧力が、気密にすることができる流体の最大圧力であることが知られている。すなわち、シール部材と高圧容器および付属品が密着して発生する圧力は、充填・放出される流体の圧力以上にする必要がある。同図に示すシール構造では、シール部に発生させる圧力は、袋ナットを締め付ける際のトルクにより調整される。
【0009】
高圧ガスの充填・放出に高圧容器を用いる際は、高圧ガス保安法により気密性を確認するため、設計圧力以上の圧力による気密試験を行うようにしなければならない。前記図1に示すシール構造を用い、袋ナットの締め付けトルクを調整した後、高圧容器に35MPaを超える圧力の流体の充填や放出を行うと、高圧容器と付属品(接続管や止栓)の間から流体が漏れる場合があり、この場合、気密試験に要するコストや、気密試験で不合格となった場合の手直しにより製品歩留りが低下し、問題となる。
【0010】
また、前記図1に示すシール構造により20MPaを超える圧力の流体の充填や放出する際に、シール部材としてゴム材料を用いた場合、外気圧と充填・放出される流体の差圧により埋め込まれたシール部材が溝部から外れ、気密性が低下する恐れがある。
【0011】
20MPaを超える圧力の流体の充填や放出に用いることができるシール構造として、従来から種々の提案がなされている。
【0012】
特許文献1には、35MPa、70MPaといった高圧の水素ガスを充填する繊維強化プラスチックの高圧容器において、シャットオフ弁に用いるシール構造が提案されている。特許文献1では、空間を区切るシール部材として、ゴム材料といった弾性体からなり、高圧の第1の空間側に形成される環状部と、第1の環状部より体積が小さく、低圧の第2の空間側に形成される環状部とを有するものを用いたシール構造が提案されている。
【0013】
特許文献1で提案されるシール構造では、第2の環状部の体積を第1の環状部より小さくすることにより、シール部材を弁座に当接させて弁を閉じた際、高圧側の第1の環状部から低圧側の第2の環状部へ向かって弾性体の流動が生じ、第2の環状部において弾性体と弁座との接触によるシール圧が増大され、流体の漏れを防止できるとしている。また、弾性体が流動する際に、第1の環状部に配置された余剰体積分が第2の環状部に移動するので、シール部材全体の歪みが緩和されて大変形が生じず、シール部材が溝部から外れるのを防止できるとしている。
【0014】
特許文献1で提案されるシール構造では、シール部材をゴム材料といった弾性体を用いる。高圧ガス環境でゴム材料を曝露すると、減圧後にゴム内部から気泡や亀裂が発生する、いわゆる、ブリスタ破壊が発生する場合がある。したがって、特許文献1で提案されるシール構造では、高圧容器への高圧ガスの充填・放出を繰り返すことにより、シール部材にブリスタ破壊が発生する恐れが高く、耐久性が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−133497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述の通り、従来の高圧容器に用いられるシール構造は、20MPaを超え、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填する場合、漏れの発生や、高圧ガス環境で発生するブリスタ破壊による耐久性が問題となる。
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で高圧容器に流体を充填した場合でも気密性を確保できるとともに、ブリスタ破壊を防ぎ耐久性に優れたシール構造およびそれに用いるシール部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で高圧容器に流体を充填した場合でも気密性を確保できるシール構造として、前記図1に示すシール構造において、Oリング以外にも、断面形状が八角形であるオクタゴナル形リングジョイントガスケットを用いることを検討した。オクタゴナル形リングジョイントガスケットを用いた場合、50MPaまでの高圧流体の充填・放出では、漏れが発生することなく、十分な気密性を確保することができる。
【0019】
しかし、50MPaを超える高圧流体の充填・放出では気密性を確保するために必要な圧力をシール部に発生させるため、袋ナットを締め付けるトルクが増大し問題となる。例えば、ねじ部サイズをM60とし、設計圧力を90MPaとする場合、締め付けトルクは200kgf・mとなり、作業者が単独で取り付ける場合に作業上実用的ではなくなる。このため、オクタゴナル形リングジョイントガスケットを50MPa以上の高圧流体のシール部材に用いることは困難であることが判明した。
【0020】
本発明者は、さらに種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることにより、90MPa以上の圧力で高圧容器に流体を充填した場合でも気密性を確保できることを知見した。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)の高圧容器のシール構造、下記(3)および(4)の高圧容器のシール部材を要旨としている。
【0022】
(1)高圧容器とこれに隣接する付属品との間にシール部材を配置するシール構造であって、円筒状の前記シール部材が外周に、第1テーパー面および第2テーパー面を有し、前記第1テーパー面は、前記第2テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、前記第2テーパー面は、前記第1テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、前記高圧容器の開口部に設けられたテーパー面に前記第1テーパー面を嵌め合い、前記付属品の開口部または凹部に設けられたテーパー面に前記第2テーパー面を嵌め合うことを特徴とする高圧容器のシール構造。
【0023】
(2)前記シール部材が金属材料からなることを特徴とする前記(1)に記載の高圧容器のシール構造。
【0024】
(3)高圧容器とこれに隣接する付属品との間に配置される円筒状のシール部材であって、外周に、第1テーパー面および第2テーパー面を有し、前記第1テーパー面は、前記第2テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、前記第2テーパー面は、前記第1テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成されることを特徴とする高圧容器のシール部材。
【0025】
(4)前記シール部材が金属材料からなることを特徴とする前記(3)に記載の高圧容器のシール部材。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高圧容器のシール構造によれば、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることにより、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出する場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。さらに、シール部材をJIS記号SUS316Lのステンレス鋼とすることにより、樹脂材料やゴム材料等を用いたシール部材で危惧されるブリスタ破壊の発生および金属材料等を用いたシール部材で危惧される水素脆化を防止でき、水素環境中においても優れた耐久性を確保することができる。
【0027】
このシール構造に用いる本発明の高圧容器のシール部材は、高圧容器および付属品に嵌め合わされる第1テーパー面および第2テーパー面を有することにより、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることができ、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出するシール構造に用いる場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の高圧容器に用いられるシール構造を示す断面図である。
【図2】本発明の高圧容器のシール構造であって、付属品として接続管を用いる場合の構成例を説明する断面図である。
【図3】本発明の高圧容器のシール構造であって、付属品として止栓を用いる場合の構成例を説明する断面図である。
【図4】本発明の高圧容器のシール構造であって、フランジ型によりシール部を密着させる場合を説明する断面図である。
【図5】本発明例または比較例のシール構造を用いた気密試験での充填された流体圧力とリーク発生率(%)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材を図面に基づいて説明する。
【0030】
図2は、本発明の高圧容器のシール構造であって、付属品として接続管を用いる場合の構成例を説明する断面図である。同図に示すシール構造では、高圧流体を充填・放出する高圧容器1と、高圧容器に隣接される付属品である接続管2と、高圧容器1と接続管2の間から流体が漏れるのを防止するシール部材5と、高圧容器1に接続管2を固定する袋ナット4とを用いる。
【0031】
本発明の高圧容器のシール構造は、高圧容器1とこれに隣接する付属品(接続管2)との間にシール部材5を配置するシール構造であって、円筒状のシール部材5が外周に、第1テーパー面5aおよび第2テーパー面5bを有し、第1テーパー面5aは、第2テーパー面5bから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、第2テーパー面5bは、第1テーパー面5aから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、高圧容器の開口部1bに設けられたテーパー面1eに第1テーパー面5aを嵌め合い、付属品(接続管2)の開口部2bに設けられたテーパー面2cに第2テーパー面5bを嵌め合うことを特徴とする。
【0032】
すなわち、シール部材5の外周に、第2テーパー面5bから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成された第1テーパー面5aを設けるとともに、高圧容器1の開口部1bにテーパー面1eを設け、シール部材5と高圧容器1のシール部をテーパーによる嵌め合いとする。さらに、シール部材5の外周に、第1テーパー面5aから遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成された第2テーパー面5bを設けるとともに、接続管2の開口部2bにテーパー面2cを設け、シール部材5と接続管2のシール部をテーパーによる嵌め合いとする。
【0033】
このように、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることにより、シール部が強く密着して気密性が向上するとともに、袋ナットを締め付ける際のトルクが実用的な範囲内であっても、シール部に90MPa以上の圧力を生じさせることができる。
【0034】
例えば、高圧容器のねじ部サイズをM60とし、設計圧力を90MPaとする場合、袋ナットの締付トルクは、前述のオクタゴナル形リングジョイントガスケットを用いたシール構造では200kgf・mとなるのに対し、本発明の高圧容器のシール構造では110kgf・mとなる。これは、本発明の高圧容器のシール構造では、従来のシール構造よりも流体の流路から近い距離にシール部材が配置できることから、シール部材の内径が小さくなることによる。
【0035】
このため、本発明の高圧容器のシール構造は、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出する場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。
【0036】
従来のOリングやリングジョイントガスケットといったシール部材を用いたシール構造は、高圧容器の開口部(流体の流路)の外径より大きな外径のシール部材を用いるのに対し、本発明のシール構造では、高圧容器の開口部に設けたテーパー面にシール部材を嵌め合う。これにより、本発明のシール構造ではシール部材(ガスケット)の反力円の直径を従来のものより小さくすることができ、シール構造を小型にして効率的に気密性を確保することができる。
【0037】
前記図2に示すシール構造では、高圧容器に隣接する付属品が接続管であることから、シール部材には、流体の流路として孔を設けている。本発明のシール構造は、付属品に止栓を用いる場合にも適用することができる。
【0038】
図3は、本発明の高圧容器のシール構造であって、付属品として止栓を用いる場合の構成例を説明する断面図である。同図に示すように、付属品を止栓とする場合、止栓6にシール部材の一端を挿入する凹部6aと、その凹部にシール部材の第2テーパー面5bを嵌め合うテーパー面6bとを設ける。これにより、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部が、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとなり、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出する場合でも、高圧容器1と止栓6の間から漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。
【0039】
前記図2および前記図3で示すシール構造では、高圧容器と付属品を接合させるとともに、シール部材と高圧容器および付属品を密着させるために、袋ナットを用いているが、本発明のシール構造では、フランジ型によりシール部を密着させることもできる。
【0040】
図4は、本発明の高圧容器のシール構造であって、フランジ型によりシール部を密着させる場合を説明する断面図である。同図に示すシール構造は、付属品を接続管とする場合を示し、高圧容器のねじ部に取付けるフランジ7と、接続管を高圧容器に接合させる押さえフランジ8と、フランジに押さえフランジを固定するボルト9とを用いる。
【0041】
同図に示すように、フランジ7を高圧容器のねじ部1cに取付け、高圧容器1と押さえフランジ8の間に接続管2を配置した状態で、ボルト9およびフランジ7を締め付けることにより、押さえフランジ8が高圧容器側に移動し、接続管2が高圧容器に押付けられるとともに、シール部材が高圧容器および接続管と密着する。
【0042】
本発明の高圧容器のシール構造は、シール部材に金属材料を用いるのが好ましい。前述の通り、ゴム材料は高圧ガス環境下で使用すると、ブリスタ破壊を生じ、耐久性が問題となる。また、従来のゴム材料からなるOリングを用いたシール構造で発生し、シール部材が大変形して溝から外れ、気密性が低下して問題となる。このような耐久性や気密性が低下する問題を、シール部材に金属材料を用いることにより、防止できる。
【0043】
さらに、シール部材にゴム材料を用いた場合、高温環境でシール部材が劣化し、または極低温環境でシール部材が硬化して気密性が低下するおそれがあるが、シール部材に金属材料を用いることにより、高温環境および極低温環境で気密性が低下する問題を抑制できる。金属材料としては、例えば、アルミ合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、ニッケル基合金を用いることができる。
【0044】
高圧容器が充填・放出する流体が水素ガスである場合、シール部材をJIS記号SUS316Lのステンレス鋼とするのが好ましい。JIS記号SUS316Lのステンレス鋼は、水素脆化による影響が小さいので、高圧容器が充填・放出する流体が水素とする場合でも、耐久性を確保することができるからである。
【0045】
本発明の高圧容器のシール構造では、前記図2に示すシール部材5の第1テーパー面の傾斜角α、および第2テーパー面の傾斜角βは、高圧容器、シール部材および付属品の材質や、シール部に発生させる必要圧力に応じて、適宜決定することができる。
【0046】
具体的にはシール部材と接触する高圧容器と付属品の材料の強度が同じ場合、シール部材の第1テーパー面の傾斜角αと第2テーパー面の傾斜角βを同一にするのが好ましい。
【0047】
シール部材と接触する高圧容器と付属品の材料の強度が異なる場合、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部にそれぞれ発生させる必要圧力を均等とするために、シール部材の第1テーパー面の傾斜角αと第2テーパー面の傾斜角βを異なる角度とするとともに、シール部で高圧容器または付属品とシール部材が接触する面積を同一とするのが好ましい。具体的には、高圧容器と付属品の材料強度を比べ、強度が低い材料と接触するシール部材のテーパー面の傾斜角を、強度が高い材料と接触するシール部材のテーパー面の傾斜角より、大きくするのが好ましい。
【0048】
本発明の高圧容器のシール部材は、前述の本発明の高圧容器のシール構造に用いられるシール部材である。このため、本発明の高圧容器のシール部材によれば、シール部がテーパーを用いた嵌め合いとなり、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出する場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。
【実施例】
【0049】
本発明の高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材を用い、高圧容器に高圧流体を充填する気密試験を行い、本発明の効果を検証した。
【0050】
[試験方法]
両端に開口部を有する高圧容器を用い、一端に前記図2に示すシール構造により接続管を隣接し、他端に前記図3に示すシール構造により止栓を隣接した。接続管には配管を介して高圧容器に流体を供給するポンプおよび圧力計を接続した。流体は、不燃性ガスである窒素ガスを用い、シール部材は、JIS記号SUS316Lのステンレス鋼とし、袋ナットの締め付けトルクは110kgf・mとし、高圧容器の容量は60Lとした。
【0051】
接続管または止栓はJIS記号SCM435のクロームモリブデン鋼とし、高圧容器はJIS記号SNCM439のニッケルクロムモリブデン鋼とした。高圧容器と接続管または止栓の強度を比べ、高強度である高圧容器と接触するシール部材の第1テーパー面の傾斜角αを30°とし、低強度である接続管または止栓と接触するシール部材の第2テーパー面の傾斜角βを45°とした。また、シール部材において第1テーパー面および第2テーパー面の軸方向の長さを調整し、シール部で高圧容器、接続管または止栓とシール部材が接触する面積を同一とした。
【0052】
気密試験は、昇圧機により窒素ガスを90MPaになるまで高圧容器に充填して行った。この際、10MPaごとに両端のシール構造から窒素ガスの漏れがないか、袋ナットに設けられたリークポートに、検知液を用いて気泡の発生有無を確認して行った。
【0053】
比較例として、高圧容器の両端の開口部を前記図1に示すメタルOリングを用いたシール構造とし、気密試験を行った。この際、OリングはJIS記号SUS316Lのステンレス鋼とし、袋ナットの締め付けトルクは、110kgf・mとした。高圧容器の容量は、比較例1では60Lとし、比較例2では100Lとした。気密試験は、比較例1では本発明例と同様に90MPaになるまで窒素ガスを充填し、比較例2では72MPaになるまで窒素ガスを充填して行った。
【0054】
[評価指標]
気密試験による漏れ確認を、本発明例ではのべ2箇所、比較例1ではのべ22箇所、比較例2ではのべ10箇所で行い、それぞれリーク発生率を算出した。リーク発生率は、漏れが発生したシール構造の箇所数をシール構造を用いたのべ箇所数で除して百分率により表示したものである。
【0055】
[試験結果]
図5は、本発明例または比較例のシール構造を用いた気密試験での充填された流体圧力とリーク発生率(%)の関係を示す図である。同図から、従前型のOリングを用いた比較例1および2では、充填された流体圧力が50MPaを超えるあたりから、漏れの発生がみられたが、本発明例のシール構造においては、流体圧力が90MPaまで全く漏れは発生しなかった。
【0056】
したがって、本発明の高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材により、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で高圧容器に流体を充填した場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の高圧容器のシール構造によれば、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることにより、35MPa以上を超え、50MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出する場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。さらに、シール部材をJIS記号SUS316Lのステンレス鋼とすることにより、ブリスタ破壊の発生および水素脆化を防止でき、優れた耐久性を確保することができる。
【0058】
このシール構造に用いる本発明の高圧容器のシール部材は、高圧容器および付属品に嵌め合わされる第1テーパー面および第2テーパー面を有することにより、シール部材と高圧容器、およびシール部材と付属品のシール部を、それぞれテーパーを用いた嵌め合いとすることができ、35MPa以上の圧力、さらには90MPa以上の圧力で流体を充填・放出するシール構造に用いる場合でも、漏れが発生することなく、気密性を確保することができる。
【0059】
したがって、本発明の高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材を燃料電池自動車向等の水素ステーション用の蓄圧器に適用すれば、より高圧の水素ガスをガスタンクに充填できる。このため、本発明の高圧容器のシール構造およびそれに用いるシール部材は、燃料電池自動車に用いられるガスタンクの充填容量の向上に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:高圧容器、 1a:容器部、 1b:開口部、 1c:ねじ部、 1d:接合面、
1e:高圧容器のテーパー面、 2:接続管、 2a:溝部、 2b:開口部、
2c:接続管のテーパー面、 3:Oリング、 4:袋ナット、
4a:リークポート、 5:シール部材、 5a:第1テーパー面、
5b:第2テーパー面、 6:止栓、 6a:凹部、 6b:止栓のテーパー面、
7:フランジ、 8:押さえフランジ、 9:ボルト、
α:第1テーパー面の傾斜角、 β:第2テーパー面の傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器とこれに隣接する付属品との間にシール部材を配置するシール構造であって、
円筒状の前記シール部材が外周に、第1テーパー面および第2テーパー面を有し、前記第1テーパー面は、前記第2テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、前記第2テーパー面は、前記第1テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、
前記高圧容器の開口部に設けられたテーパー面に前記第1テーパー面を嵌め合い、
前記付属品の開口部または凹部に設けられたテーパー面に前記第2テーパー面を嵌め合うことを特徴とする高圧容器のシール構造。
【請求項2】
前記シール部材が金属材料からなることを特徴とする請求項1に記載の高圧容器のシール構造。
【請求項3】
高圧容器とこれに隣接する付属品との間に配置される円筒状のシール部材であって、
外周に、第1テーパー面および第2テーパー面を有し、前記第1テーパー面は、前記第2テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成され、前記第2テーパー面は、前記第1テーパー面から遠ざかるにつれ径が小さくなるように形成されることを特徴とする高圧容器のシール部材。
【請求項4】
前記シール部材が金属材料からなることを特徴とする請求項3に記載の高圧容器のシール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196511(P2011−196511A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66233(P2010−66233)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000182926)住金機工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】