説明

高圧式エタノール抽出法

【課題】原料から目的物質の抽出量の増加、抽出時間の短縮化、熱により変質しやすい目的物質の非加熱抽出ができる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物の収容工程と、高圧容器内に加圧用流体を供給する加圧用流体供給工程と、前記加圧用流体を高圧ポンプにより高圧にする加圧工程と、溶媒であるエタノール、またはエタノールと水の混合液を5MPa以上の所定の高圧、及び高圧下で溶媒の融点以上沸点未満の所定の温度に維持して、原料に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程とを含む工程からなる高圧式のエタノール抽出法を実施することにより、原料から目的物質の抽出量の増加や抽出時間の短縮化などが実現できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品原料を対象にした目的物質の抽出方法として広く行われているエタノール抽出法に関するものである。さらに詳しくは、植物、魚類、または動物などの食品原料に含まれる目的物質の抽出方法として高圧下でのエタノール抽出法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエタノール抽出法としては常圧またはその近傍の圧力下、常温で原料をエタノールに浸漬するか、エタノールを加熱還流することにより目的物質の抽出が行われている。
【0003】
エタノール抽出法として、特許文献1には、原料を粉砕し、該粉砕した原料に2倍容量の85%エタノールを加えて室温で2時間静置し、その後、固液分離して、第1のエタノール抽出液と残渣に分離する。該残渣に等量の85%のエタノールを加え、加熱還流しながら、1〜2時間静置する。さらに、固液分離して、第2のエタノール抽出液を分離する。第1のエタノール抽出液と、第2のエタノール抽出液とを合わせて濃縮して、エタノール抽出液とすると開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、エタノール抽出法として、ノビレチン含有植物を、その2重量倍以上の20〜50%のエタノール水溶液に浸漬し、25〜30°C程度で12〜24時間抽出し、次いでエタノールを常法により除去すると開示されている。
【0005】
一般的には、加熱還流式エタノール抽出法は、図4において、通常、目的物質を含む原料41を細かく粉砕し、粉砕した原料41を抽出容器42内に収納し、溶媒であるエタノールを溶媒容器43内に収納する。そして、エタノールを溶媒容器43の中で加熱していったん沸騰・蒸発させて、その蒸気が抽出容器42の上部と連通する蒸気管44を通って上昇し、抽出容器42の最上部に設置された冷却器45で冷却されて凝縮・液化されたものが、抽出容器42の中に還流滴下して滞留する。
【0006】
抽出容器42の中で目的物質を含む原料41がエタノールに浸漬されることにより、原料41から目的物質が抽出物としてエタノール中に抽出され、前記目的物質がエタノールといっしょに還流管46を通って溶媒容器43の中に還流・降下する。以上が繰り返されて溶媒容器43の中に抽出された目的物質が溜まっていく。
【0007】
以上の過程を経て、溶媒容器43の中の目的物質を含有する溶媒相と、抽出容器42の中の原料抽残相の2つの異相を形成させて相分離し、最後に溶媒容器43の中の溶媒相から目的物質の分離を行うことによって、目的物質を取出す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のエタノール抽出法では、第一に、目的物質の抽出範囲は原料41が溶媒の中に浸漬されることにより抽出される範囲であるので、常圧の場合であると原料41の表面とその表面近傍のものに限定されるため、原料内部への浸透や抽出には長時間の処理を必要とする。事実アルコール抽出冷浸法として知られているチンキ剤の製法ではしばしば数ヶ月から数年の静置抽出が行われている。
【0009】
第二に、抽出量の増加と抽出時間の短縮を図るために、常圧の場合であると溶媒と固体の状態の原料41との接触面積を増やすためには、固体である原料41を小さく粉砕しなければならないという問題がある。
【0010】
第三に、抽出容器42の中で抽出された抽出物が溶媒と一緒に溶媒容器43の中で保持されるので、溶媒の加熱・還流に際して抽出物も溶媒と一緒に加熱されることになり、目的物質によっては熱に弱い物質が変質するという問題がある。
【0011】
第四に、溶媒を溶媒容器43から抽出容器42へ供給するために、溶媒を蒸発させて供給する必要があり、沸点以上に加熱するための熱エネルギーが必要であるという問題がある。
【0012】
本発明はこうした問題を解消させるために創案されたもので、原料を粉砕するしないにかかわらず、熱で変質させると抽出困難となる物質に対しては加熱を行わず、熱で変質させて抽出したい物質に対しては加熱を行うことができ、原料の表面及びその近傍のみでなく原料の内部からも抽出でき、短時間で抽出できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明において、「高圧」とは、5MPa以上の圧力を意味する。
【0014】
本発明において、「加圧用流体」とは、高圧ポンプまたはスラリーポンプで供給し高圧状態に加圧する液体またはスラリーなどの流体を意味し、「加圧対象物」とは、高圧状態となった加圧用流体で加圧される対象物を意味する。
【0015】
請求項1に記載の高圧式エタノール抽出法は、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物1の収容工程と、高圧容器8内に加圧用流体2を供給する加圧用流体供給工程と、前記加圧用流体2を高圧ポンプ13により高圧にする加圧工程と、溶媒4であるエタノール、またはエタノールと水の混合液を所定の高圧及び所定の温度に維持して、原料3に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程と、を含む工程からなることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の高圧式エタノール抽出法は、請求項1において、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物1の収容工程において加圧対象物1が原料3であって前記加圧対象物1を高圧容器8内に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体2が溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の高圧式エタノール抽出法は、請求項1において、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物1の収容工程において加圧対象物1が可撓性ある袋体21に封入された原料3及び溶媒4であるエタノール5、または原料及びエタノールと水の混合液7であって前記加圧対象物1を高圧容器8内に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体2が水6であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の高圧式エタノール抽出法は、請求項1において、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物1の収容工程において加圧対象物1が原料3、及び溶媒4であるエタノール5、または原料3、及び溶媒であるエタノールと水の混合液7であって、前記加圧対象物1を流体槽12に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体2が前記流体槽12に収容された溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7であることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の高圧式エタノール抽出法は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、所定の高圧の範囲が、5MPa以上、好ましくは10MPa以上100MPa以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の高圧式エタノール抽出法は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、原料3から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、所定の温度の範囲が、高圧下における溶媒の融点以上沸点未満の温度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明は、第一に、溶媒4であるエタノール5または水6の分子が常圧状態よりも高圧状態の方が圧搾効果が加味されるので、原料3を粉砕しなくても、原料3と溶媒4との接触面積を原料の表面及び表面近傍だけでなく原料の内部まで浸透させることができるという効果を奏することができる。
【0022】
それにより、原料抽残量を大幅に減少させることができ、原料3から目的物質の抽出の総量が増加するという効果を奏するとともに、高圧状態の方が常圧状態よりも同じ量を抽出するまでの時間を短縮できるという効果を奏することができる。
【0023】
第二に、溶媒4であるエタノール5またはエタノールと水の混合液、及び原料3を高圧状態にすると、非粉砕状態の原料3から目的物質の抽出が可能となることから、目的物質の抽出の効率を高めるために原料3を小さく粉砕しなくてもよいという効果を奏することができる。
【0024】
第三に、従来のエタノール抽出法に比べて、加熱還流式でなく加圧式であるので、原料からの目的物質の抽出プロセスが簡素化されるという効果を奏する。
【0025】
請求項2の発明は、請求項1の発明と同じ効果を奏する。
【0026】
請求項3の発明は、請求項1の発明と同じ効果を奏する。そして、1回の加圧処理においてはそれぞれ独立した可撓性ある袋体に封入された形で原料が提供されるので複数の異なる原料3から複数の異なる目的物質を抽出できるという効果を奏する。
【0027】
請求項4の発明は、請求項1の発明と同じ効果を奏する。そして、流体槽31、32に収容されたスラリー状態の原料3または溶媒4とをスラリーポンプ33、34で高圧容器36内に圧送することにより連続して目的物質が抽出できるという効果を奏する。また、スラリー状態の原料3及び溶媒4を同一の流体槽に収容して一つのスラリーポンプで圧送してもよく、この場合も連続して目的物質が抽出できるという効果を奏する。
【0028】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかの発明と同じ効果を奏する。
【0029】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかの発明と同じ効果を奏する。そして、低温域に維持した場合は冷凍された食品原料から成分変質を生じさせずに目的物質の抽出ができるという効果を奏することができ、常温域に維持した場合は加熱工程が存しないので、目的物質の熱に弱い成分の変質を生じさせず、かつ加熱のための熱エネルギーが不要になるという効果を奏することができ、常温域より高い温度の高温域に維持した場合は、熱で変質させた目的物質を抽出させたい場合や高温で抽出されやすい目的物質を多く抽出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の加圧対象物が高圧容器内に収容された原料で、加圧用流体が溶媒の場合の高圧式エタノール抽出工程の概念図である。
【図2】本発明の加圧対象物が可撓性ある袋体に封入された原料及び溶媒で、加圧用流体が水である場合の高圧容器内の概念図である。
【図3】本発明の加圧対象物が流体槽に収容された原料及び溶媒で、加圧対象物を加圧用流体とする場合の高圧式エタノール抽出工程の概念図である。
【図4】従来のエタノール抽出法の実施装置の概略図である。
【図5】小豆10g、所定圧力を100MPa、所定温度を30°C、所定時間を60分で、溶媒をエタノール濃度100%で10mlとした場合の抽出液の測定波長と吸光度のデータ図である。
【図6】小豆10g、所定圧力を常圧、所定温度を30°C、所定時間を60分で、溶媒をエタノール濃度100%で10mlとした場合の抽出液の測定波長と吸光度のデータ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の具体的な態様を各工程ごとに詳細に説明する。
【0032】
高圧式エタノール抽出法に使用する高圧装置として、高圧容器8内に封入した加圧用流体2を高圧に加圧、又は高圧に加圧及び加熱することで、高圧容器8内の加圧用流体2中に没入させた加圧対象物1を高圧下、または高圧下及び加温下に置く装置であって、1MPa〜100MPaの範囲内での加圧手段と、室温〜100°Cの範囲内での加熱手段と、1分〜99時間59分の範囲内での設定時間まで所定高圧及び所定温度を保持する手段とを具備する装置を準備する。
【0033】
選択した目的物質を原料3から最も効率よく抽出するために、前記目的物質の抽出効率を最大化する溶媒4のエタノール濃度、溶媒と原料との接触時の圧力、温度、時間を把握しておく。ここで、水は、蒸留水や水道水などでよく、特に限定されるものではない。
【0034】
設定圧力は、5MPa以上、好ましくは10MPa以上100MPa以下に設定する。溶媒中に抽出された量が、5MPa以上で常圧下に対して高圧下の方が抽出効率が高くなるが、10MPa以上であると常圧との差が極めて大きくなり、100MPa超であると抽出量は増加するが高圧装置が大型化するので経済的でないからである。
【0035】
設定温度は、高圧下で溶媒の融点以上沸点未満の温度に設定する。高圧下で溶媒が液体であれば、原料の内部に溶媒が浸透することができるからである。
【0036】
まず、図1において、加圧対象物1が原料3であって加圧用流体2が溶媒4としてエタノール、またはエタノールと水の混合物である場合の実施形態について説明する。
【0037】
加圧対象物1の収容工程では、原料3として目的物質を含有していると思われる植物や魚類などを選択し、選択した原料3を粉砕せずに高圧容器8内に収納し、高圧容器の蓋体9を閉じる。
【0038】
高圧容器8内に加圧用流体2を供給する加圧用流体供給工程では、高圧装置の高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11を所定の高圧に設定した後、流体槽12に収容されている加圧用流体2としてのエタノール5、またはエタノールと水の混合液7を高圧ポンプ13で供給し、高圧容器8内に溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7を充満させる。
【0039】
加圧用流体2を高圧にする加圧工程は、高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11によって設定された圧力より過大な圧力から保護すると同時に設定圧力に制御するようにし、高圧容器8の上流側に配設された高圧ポンプ13の作動を間断なく連続させる。これにより、加圧用流体2を所定の高圧に昇圧させ所定の高圧に維持することができる。
【0040】
溶媒4を所定の高圧及び所定の温度に維持して原料3に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程では、高圧状態の溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7を所定時間原料3に接触させることにより、溶媒4が原料3の内部にまで浸透していき目的物質を溶解し抽出する。
【0041】
次に、図2において、加圧対象物1が可撓性ある袋体21に封入された原料3及び溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7であって、加圧用流体2が水6の場合の実施形態について説明する。
【0042】
加圧対象物1の収容工程では、原料3として目的物質を含有していると思われる植物や魚類などを選択し、選択した原料3を粉砕せずに溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7とともに袋体21に密封し、該密封した袋体21を高圧容器8内に収納し、高圧容器の蓋体9を閉じる。ここで、複数の袋体21を収容できるので、異種の原料3から異種の目的物質を抽出することができる。
【0043】
高圧容器8内に加圧用流体2を供給する加圧用流体供給工程では、高圧装置の高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11を所定の高圧に設定した後、流体槽12に収容されている加圧用流体2としての水6を高圧ポンプ13で供給し、高圧容器8内に水6を充満させる。
【0044】
加圧用流体2を高圧にする加圧工程は、高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11に設定圧がすでに設定されているので、高圧容器8の上流側に配設された高圧ポンプ13の作動を間断なく連続させるこれにより、加圧用流体2を所定の高圧に昇圧させ所定の高圧に維持することができる。
【0045】
溶媒4を所定の高圧及び所定の温度に維持して原料3に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程では、高圧状態の水6によって袋体21内の溶媒4を所定の高圧下において原料3に所定時間接触させることにより、溶媒4が原料3の内部にまで浸透していき目的物質を溶解し抽出する。
【0046】
図3において、加圧対象物1が原料及び溶媒であり、前記加圧対象物を流体槽に収容するとともに、加圧用流体2が原料及び溶媒である場合の実施形態について説明する。
【0047】
加圧対象物1の収容工程では、原料3として目的物質を含有していると思われる植物や魚類などを選択し、選択した原料3をスラリー化して流体槽31に収容し、溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合物7を流体槽32内に収容する。
【0048】
高圧容器36内に加圧用流体2を供給する加圧用流体供給工程では、流体槽31または流体槽32に収容されている加圧用流体2としての原料3または溶媒4をスラリーポンプ33またはスラリーポンプ34で供給し、高圧容器36内に原料3と溶媒4を充満させる。
【0049】
加圧用流体2を所定の高圧にする加圧工程は、高圧容器36の下流側に配設された圧力制御弁39によって設定された圧力より過大な圧力から保護すると同時に設定圧力に制御するようにし、高圧容器36の上流側に配設されたスラリーポンプ33及びスラリーポンプ34の作動を間断なく連続させる。これにより、加圧用流体2を所定の高圧に昇圧させ所定の高圧に維持することができる。また、加圧用流体の昇温は予熱管35で加熱し恒温槽37で所定温度維持する。
【0050】
溶媒4を所定の高圧及び所定の温度に維持して原料3に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程では、高圧状態の溶媒4を所定時間原料3に接触させることにより、溶媒4が原料3の内部にまで浸透していき目的物質を溶解し抽出する。抽出された抽出液は受槽38に貯留する。
【0051】
以下に、加圧対象物1が可撓性ある袋体21に封入された原料3及び溶媒4であるエタノール5、またはエタノールと水の混合液7であって、加圧用流体2が水6の場合の実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
高圧式エタノール抽出法に使用する高圧装置として、100MPaまで圧力設定可能である高圧装置2L用「まるごとエキス」(株式会社東洋高圧製)を使用した。
【0053】
抽出液に含有されている目的物質の濃度を測定するため、紫外可視分光光度計UVmini−1240(株式会社島津製作所製)を使用した。
【0054】
原料から抽出された目的物質の抽出量比較は、抽出液中に含有された目的物質の濃度比較で行うことし、前記目的物質の濃度を定量的に表す吸光度を測定して該吸光度で比較した。また、比較する前記吸光度は紫外可視分光光度計で測定したときの吸光度の最大値とした。
【実施例1】
【0055】
加圧対象物1の収容工程では、原料3として小豆を10g選択し、選択した小豆を粉砕せずに袋体21に入れ、溶媒4としてエタノール濃度100%を10mlを袋体21に入れて袋体21を密封する。前記密封した袋体21を高圧容器8内に収納し、高圧容器の蓋体9を閉じる。
【0056】
高圧容器8内に加圧用流体2を供給する加圧用流体供給工程では、高圧装置の高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11を100MPaの高圧に設定した後、流体槽12に収容されている加圧用流体2としての水6を高圧ポンプ13で供給し、高圧容器8内に水6を充満させる。
【0057】
加圧用流体2を100MPaの高圧にする加圧工程は、高圧容器8の下流側に配設された圧力制御弁11が100MPaに設定されているので、高圧容器8の上流側に配設された高圧ポンプ13の作動を間断なく連続させるこれにより、加圧用流体2を100MPaに昇圧させ維持する。
【0058】
溶媒4を100MPaの高圧及び30°Cの温度に維持して、原料3の小豆に60分間接触させて目的物質を抽出する抽出工程では、100MPaの高圧状態の水6によって袋体21内のエタノール濃度100%の溶媒4を100MPaの高圧下におきながら小豆に60分間接触させることにより、溶媒4が小豆の内部にまで浸透していき目的物質を溶解し抽出する。抽出後、袋体内の抽出液を取出し該抽出液の濃度を知るために吸光度を測定する。
【0059】
上記は所定の圧力が100MPaの場合の実施についてであるが、同様に20MPa、10MPa、5MPa、常圧についても実施し、それぞれの所定圧力下における抽出液の吸光度を測定した。
【0060】
所定圧力100MPaの場合を図5に、常圧の場合を図6に表し、100MPa、20MPa、10MPa、5MPa、及び常圧の場合の吸光度比較結果を表1に示す。
【0061】
図5及び図6とも、縦軸が吸光度で横軸が測定波長を表している。図5において、281nmのときが最大吸光度で2.173Aであり、図6において、281nmのときが最大吸光度で0.368Aである。抽出液中の目的物質の濃度比較をするために最大吸光度を使用した。表1において、吸光度比率は、常圧時吸光度に対する加圧時吸光度の比率を表す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、常圧の場合に比較し、小豆から抽出された目的物質の濃度が、100MPaの場合が5.90倍、20MPaの場合が5.34倍、10MPaの場合が5.00倍、5MPaの場合が3.00倍も高くなっており、高圧にした方が常圧よりも目的物質の抽出量が増加する。
【0064】
したがって、抽出工程における圧力を常圧よりも高圧にした方が、選択した目的物質を効率的に簡単に抽出することができるという効果を奏する。
【0065】
実施例1では抽出工程における所定時間を60分として高圧時と常圧時とを比較したが、常圧の場合に前記所定時間を60分超に長くすれば原料からの抽出量が増加し、抽出液中の目的物質の濃度が高くなる。このことから、同一抽出量を得る時間を比較した場合には、常圧下よりも高圧下にした方が原料から目的物質を抽出する時間を短縮させることができるという効果を奏する。
【0066】
また、実施例1は、従来のエタノール抽出法の加熱還流式でなく加圧式であり、溶媒を蒸留させて還流させるという複雑な抽出プロセスではないので、原料からの目的物質の抽出プロセスが簡素化され、蒸留のための熱エネルギーを必要としないという効果を奏する。
【実施例2】
【0067】
実施例2は、実施例1とは、小豆の重量が20g、溶媒であるエタノール濃度100%の量が20ml、抽出工程における所定温度が50°Cであることと、所定圧力を100MPa、常圧としたことが異なる点である。
【0068】
原料3として粉砕していない小豆20g、溶媒4として100%エタノール20ml、抽出工程における所定温度を50°C、所定時間を60分として、抽出液の濃度を知ることができる吸光度について所定の高圧を100MPaとした場合と常圧の場合とを比較した。吸光度比較結果を表2に示す。表2において、吸光度比率は、常圧時吸光度に対する加圧時吸光度の比率を表す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から、常圧の場合に比較し、100MPaの高圧の場合の方が、小豆から抽出された目的物質の濃度が3.18倍も高くなっており、高圧にした方が常圧よりも目的物質の抽出量が増加する。
【実施例3】
【0071】
実施例3は、実施例1とは、所定圧力が100MPaと常圧であることと、溶媒のエタノール濃度を変化させていることとが異なる。
【0072】
原料3として粉砕していない小豆10g、抽出工程における所定の高圧を100MPaまたは常圧として、所定の温度を30°C、所定時間を60分として、溶媒4の量を10mlとし、エタノールと水の混合液である前記溶媒のエタノール濃度を、エタノール濃度100%、75%、50%、25%、0%とした場合の抽出液の濃度を知ることができる吸光度について、それぞれ常圧の場合とを比較した。吸光度比較結果を表3に示す。表3において、吸光度比率は、常圧時吸光度に対する加圧時吸光度の比率を表す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3から、エタノール濃度にかかわらず高圧100MPa状態の方が常圧状態よりも、小豆から抽出された目的物質の濃度が、エタノール濃度100%の場合が5.90倍、エタノール濃度75%の場合が3.22倍、エタノール濃度50%の場合が4.86倍、エタノール濃度25%の場合が5.30倍、そしてエタノール濃度0%の場合が2.07倍も高くなっており、高圧にした方が常圧よりも目的物質の抽出量が増加する。
【実施例4】
【0075】
実施例4は、実施例1とは、小豆の重量が20g、溶媒であるエタノール濃度100%の量が20ml、抽出工程における所定温度を30°C、50°Cとしたことと、所定圧力を100MPa、常圧としたことが異なる点である。
【0076】
原料3として粉砕していない小豆20g、抽出工程における所定の高圧を100MPa、所定時間を60分として、溶媒4としてエタノール濃度100%を20mlとし、所定の温度を30°C,50°Cとした場合の抽出液の濃度を知ることができる吸光度について、常圧の場合とを比較した。吸光度比較結果を表4に示す。表4において、吸光度比率は、常圧時吸光度に対する加圧時吸光度の比率を表す。
【0077】
【表4】

【0078】
表4から、温度にかかわらず超高圧100MPa状態の方が常圧状態よりも、小豆から抽出された目的物質の濃度が、所定温度が50°Cの場合が3.18倍、30°Cの場合が5.72倍も高くなっており、高圧にした方が常圧よりも目的物質の抽出量が増加する。
【実施例5】
【0079】
実施例5は、実施例1とは、抽出工程における所定温度を0°C、30°Cとしたことと、所定圧力を100MPa、常圧としたことが異なる点である
【0080】
原料3として粉砕していない小豆10g、抽出工程における所定の高圧を100MPa、所定時間を60分として、溶媒4の量をエタノール濃度100%を10mlとし、所定の温度を0°C、30°Cとした場合の抽出液の濃度を知ることができる吸光度について、常圧の場合とを比較した。吸光度比較結果を表5に示す。表5において、吸光度比率は、常圧時吸光度に対する加圧時吸光度の比率を表す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5から、温度にかかわらず超高圧100MPa状態の方が常圧状態よりも、小豆から抽出された目的物質の濃度量が、所定温度が30°Cの場合が5.00倍、0°Cの場合が12.14倍も高くなっており、高圧にした方が常圧よりも目的物質の抽出量が増加する。
【0083】
表4及び表5から、所定温度が低温になるほど、小豆から抽出された目的物質の吸光度比率が常圧時よりも高圧加圧時の方が高くなっているので、所定温度が低温になるにつれて抽出量の差が拡大する。また、高圧状態下においては所定温度が0°C以下であっても溶媒の融点までであれば目的物質を効果的に抽出することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 加圧対象物
2 加圧用流体
3 原料
4 溶媒
5 エタノール
6 水
7 エタノールと水の混合物
8 高圧容器
9 蓋体
10 加熱器
11 圧力制御弁
12 流体槽
13 高圧ポンプ
21 袋体
31 流体槽
32 流体槽
33 スラリーポンプ
34 スラリーポンプ
35 予熱管
36 高圧容器
37 恒温槽
38 受槽
39 圧力制御弁
41 原料
42 抽出容器
43 溶媒容器
44 蒸気管
45 冷却器
46 環流管
【先行技術文献】
【特許文献】
【0085】
【特許文献1】特開2000−189117号公報
【特許文献2】特開2008−74723号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物の収容工程と、高圧容器内に加圧用流体を供給する加圧用流体供給工程と、前記加圧用流体を高圧ポンプにより高圧にする加圧工程と、溶媒であるエタノール、またはエタノールと水の混合液を所定の高圧及び所定の温度に維持して、原料に所定時間接触させて目的物質を抽出する抽出工程と、を含む工程からなることを特徴とする高圧式エタノール抽出法。
【請求項2】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物の収容工程において加圧対象物が原料であって前記加圧対象物を高圧容器内に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体が溶媒であるエタノール、またはエタノールと水の混合液であることを特徴とする請求項1記載の高圧式エタノール抽出法。
【請求項3】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物の収容工程において加圧対象物が可撓性ある袋体に封入された原料及び溶媒であるエタノール、または原料及びエタノールと水の混合液であって前記加圧対象物を高圧容器内に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体が水であることを特徴とする請求項1記載の高圧式エタノール抽出法。
【請求項4】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、加圧対象物の収容工程において加圧対象物が原料、及び溶媒であるエタノール、または原料、及び溶媒であるエタノールと水の混合液であって前記加圧対象物を流体槽に収容するとともに、加圧用流体供給工程において加圧用流体が前記流体槽に収容された溶媒であるエタノール、またはエタノールと水の混合液であることを特徴とする請求項1記載の高圧式エタノール抽出法。
【請求項5】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、所定の高圧の範囲が、5MPa以上、好ましくは10MPa以上100MPa以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高圧式エタノール抽出法。
【請求項6】
原料から目的物質を抽出するエタノール抽出法であって、所定の温度の範囲が、高圧下における溶媒の融点以上沸点未満の温度であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の高圧式エタノール抽出法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−253435(P2010−253435A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109174(P2009−109174)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(592148878)株式会社東洋高圧 (49)
【Fターム(参考)】