説明

高圧放電ランプおよび、この高圧放電ランプにおけるタングステン電極とモリブテン箔の溶接方法

【課題】 タングステン電極が石英ガラス管の軸線に対して傾かない高圧放電ランプの製造方法を提供する。
【解決手段】 タングステン電極2とモリブテン箔3を30度以上の密着角度で密着させると同時か、もしくは、このように密着させてから互いをレーザ溶接で接合した後に、モリブテン箔3に曲げ部3aを設ける。この曲げ部3aはモリブテン箔3の短手方向に沿って折り曲げられる。また、曲げ方向はレーザ溶接の際のタングステン電極2の傾きを0°に矯正する方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水銀ランプなどの高圧放電ランプおよびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な高圧放電ランプは細筒状の石英ガラス管からなり、この石英ガラス管は中空の球状発光部と、この球状発光部の両端に形成された直管部と、各直管部に一部が埋設され、球状発光部内で電極が対向する電極アセンブリとから構成されている。各電極アセンブリはモリブテン箔の一端にタングステン電極軸を溶接し、もう一端に外部リード線を溶接してなる。そして、モリブテン箔とこの両端に溶接されたタングステン電極の一部および外部リード線の一部が直管部のガラス内に封着されている(特許文献1参照)。なお、球状発光部の空間には水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入されている。
【0003】
上記の高圧放電ランプは、リフレクタ(反射鏡)と組み合わせてランプユニットにすることができる。図8は、上記の高圧放電ランプを備えたランプユニットの断面を模式的に示している。
【0004】
図8に示すランプユニット500は、球状発光部10と一対の直管部20とを有する高圧放電ランプ100と、この高圧放電ランプ100から発せられた光を反射するリフレクタ60とを備えている。
【0005】
リフレクタ60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したものと同等の発散光束になるように高圧放電ランプ100からの放射光を反射するように構成されている。リフレクタ60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
【0006】
高圧放電ランプ100の一方の直管部20に口金55が取り付けられており、直管部20から延びた不図示の外部リードと口金55とは電気的に接続されている。口金55が取り付けられた側の直管部20とリフレクタ60とは、例えばセメントなどの無機系接着剤で固定されて一体化されている。リフレクタ60の前面開口部60a側に位置する直管部20の外部リード30には、リード線65が電気的に接続されており、リード線65は、外部リード30から、リフレクタ60のリード線用開口部62を通してリフレクタ60の外にまで延ばされている。リフレクタ60の前面開口部60aには、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
【0007】
このようなランプユニット500は、例えば、液晶やDMDを用いたプロジェクタ等のような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源などとしても使用することができる。また、道路標識を照らす投光器用光源としても使用することができる。
【特許文献1】特開2001−23565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、タングステン電極とモリブテン箔の溶接時にモリブテン箔が変形することによってタングステン電極が傾くことがあった。
【0009】
プロジェクタの光源として用いられる超高圧水銀ランプ(水銀蒸気圧が20MPa程度の水銀ランプ)においては、ランプユニットにおけるリフレクタの集光効率を上げるため、近年、ランプの電極間距離(対向する電極先端間の距離)が約1mm程度に短くなってきている。そのため、タングステン電極が傾いたまま封止された場合、向かい合ったタングステン電極の電極間距離が図9に示すように偏芯により大きく変動する可能性があり、リフレクタの光利用効率を下げる要因となる。さらには、図10に示すようにタングステン電極と石英ガラス内壁との距離(管壁距離)が小さくなることがあり、この場合は石英ガラス内壁が黒化し品質に影響を与える可能性がある。
【0010】
なお、特許文献1には、タングステン電極が傾いた状態で封止されないために、モリブテン箔をその長手方向に沿って折り曲げ、このモリブテン箔にタングステン電極を接合することが開示されているが、タングステン電極とモリブテン箔の溶接時にモリブテン箔が変形することによって生じるタングステン電極の傾きを矯正することは開示されていない。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、タングステン電極とモリブテン箔の溶接時にモリブテン箔が変形することによって生じるタングステン電極の傾きを矯正することにより、製造後においてタングステン電極が石英ガラス管の軸線に対して傾かない高圧放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、放電室とこの両側に延びる直管部とからなる石英ガラス管と、前記放電室内において軸部の一端が対向するように前記放電室内に配置された一対のタングステン電極と、前記タングステン電極の前記軸部の他端と重ねて溶接されたモリブテン箔と、前記モリブテン箔の前記タングステン電極とは反対側の端部に溶接された外部リード線とを有し、前記放電室に水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入され、前記直管部のガラス中に前記タングステン電極の他端および前記モリブテン箔が埋め込められて前記放電室が気密封止された高圧放電ランプにおいて、
前記モリブテン箔における前記タングステン電極の他端近傍が、前記モリブテン箔の短手方向に沿って折り曲げられ、溶接された前記タングステン電極と前記モリブテン箔とが前記石英ガラス管の軸方向と平行に矯正されていることを特徴とする高圧放電ランプを提供する。
【0013】
また、本発明は、放電室とこの両側に延びる直管部とからなる石英ガラス管と、前記放電室内において軸部の一端が対向するように前記放電室内に配置された一対のタングステン電極と、前記タングステン電極の前記軸部の他端と重ねて溶接されたモリブテン箔と、前記モリブテン箔の前記タングステン電極とは反対側の端部に溶接された外部リード線とを有し、前記放電室に水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入され、前記直管部のガラス中に前記タングステン電極の他端および前記モリブテン箔が埋め込められて前記放電室が気密封止された高圧放電ランプにおける前記タングステン電極と前記モリブテン箔との溶接方法であって、
前記タングステン電極の軸部と前記モリブテン箔を密着させ、前記モリブテン箔の、前記タングステン電極の末端近傍を短手方向に沿って折り曲げ、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部との接合部分に前記モリブテン箔の側からレーザ光を照射し、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部とを溶接する方法や、
前記タングステン電極の軸部と前記モリブテン箔を密着させ、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部との接合部分に前記モリブテン箔の側からレーザ光を照射し、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部とを溶接した後、前記モリブテン箔の、前記タングステン電極の末端近傍を短手方向に沿って折り曲げる方法である。
【0014】
上記のとおりに構成された発明では、タングステン電極とモリブテン箔の溶接時にモリブテン箔が変形することによって生じるタングステン電極の傾きが石英ガラス管の軸方向と平行に矯正される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、タングステン電極が石英ガラス管の軸線に対して傾いていない高圧放電ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1において、本実施形態の超高圧水銀ランプは中央部が球状に形成された石英ガラス製の灯管1からなり、灯管1の中央の球状空間部(放電室)1aに一対のタングステン電極2が互いに対向するように配置されている。それぞれのタングステン電極2にはモリブテン箔(Mo箔)3を介して、モリブテン棒を使用した外部リード線4が接続されている。このような電極アセンブリは灯管1の両端部の石英ガラスと、タングステン電極1の一部、モリブテン箔(Mo箔)3および外部リード線4の一部が封着される。このことにより、灯管1の球状空間部1a内が気密に封止されている。この図のランプは交流点灯用であるが、陽極となる電極を陰極側よりも大きな形状にすれば直流点灯用に使用できる。
【0018】
球状空間部1a内には、水銀および、ハロゲンガス成分を含有する不活性ガスが封入されている。例えば、水銀は0.12〜0.30[mg/mm3]封入されている。不活性ガスはNe(ネオン)またはAr(アルコ゛ン)などの希ガスであり、ハロゲンガスとしてはCl(塩素),Br(臭素),I(ヨウ素)のうち少なくとも1つが封入され、球状空間部1a内のハロゲンガス分圧が1×10-8〜1×10-6[μmol/mm3]に調整されている。さらに、球状空間部1a内の酸素分圧が2.5×10-3[Pa]以下の到達真空度となるように、球状空間部1a内が排気されている。ここで、酸素分圧とはO2,CO,CO2,H2Oなど酸素含有ガスの分圧の合計であって、作製された高圧放電ランプ内のガスを採取しガス分析することによって測定することができる。また、不活性ガスの封入量は6×103[Pa]〜6×104[Pa]の範囲であることが好ましい。
【0019】
上記のランプに用いるタングステン電極2は、モリブデン箔3と電気的に接続された状態にあるように溶接または加圧圧着され、且つ、灯管1の両端部の封着工程でガラスと封着されるまでの間の処理工程およびハンドリング等の際にタングステン電極2とモリブテン箔3の接合部が外れないような強度をもっている。
【0020】
例えばタングステン電極2とモリブテン箔3を溶接する場合、図2に示すようにタングステン電極2の軸部とモリブテン箔(箔状の金属の封止材料)3を密着させた後、モリブデン箔3側よりレーザ光を照射し、モリブデン箔3とタングステン電極2を両方とも溶融させて接合する。このレーザ光の照射には、YAGレーザのように金属溶融波長を有するレーザを用いる。
【0021】
タングステン電極2にモリブデン箔3を密着させるときは図3に示すように密着角度が30度以上の状態になるようにする。
【0022】
このように、モリブテン箔3をタングステン電極2の軸に密着角30°以上で密着させ、溶接するとき、図4に示すようにタングステン電極2がモリブテン箔3の変形により、斜めに傾きを生じる。このときの傾きは、2〜10°である。
【0023】
この傾きは、図5および図6に示すように、タングステン電極2にモリブテン箔3を介して外部リード線4を接続してなる電極アセンブリ5を石英ガラス6の管(灯管1)内に挿入し、石英ガラス6を加熱軟化させることにより、石英ガラス6にてタングステン電極1の一部、モリブテン箔3および外部リード線4の一部を封止する工程において、石英ガラス6の収縮力によって、タングステン電極2を石英ガラス6の軸方向に平行に矯正しようとしても、十分にタングステン電極2の傾きを矯正できない。
【0024】
そこで、タングステン電極2とモリブテン箔3を密着させレーザ照射して溶接するにあたって、図7に示すようにモリブテン箔3に曲げ部3aを設ける。この曲げ部3aはモリブテン箔3の短手方向に沿って折り曲げられる。また、曲げ方向は、図4に示した溶接時の傾きを0°に矯正する方向とする。
【0025】
曲げ部3aの位置はタングステン電極2の末端から0.3〜3.0mmの位置が良好であった。モリブテン箔3の曲げは、レーザ溶接のためにタングステン電極2にモリブテン箔3を密着させるのと同時に行う方法か、レーザ溶接が終了してから曲げのみを行う方法とする。
【0026】
このように、電極アセンブリ5の組み立て段階においてタングステン電極2とモリブテン箔3を30度以上の密着角度で密着させると同時か、もしくは、このように密着させてから互いをレーザ溶接で接合した後に、モリブテン箔3に図7のような曲げ部3aを設けることにより、図4に示したようなタングステン電極2の傾きを矯正することができる。さらに、モリブテン箔3に曲げ部3aがあることにより、図5および図6に示す封止工程における石英ガラスの収縮力によってタングステン電極2を石英ガラス6の軸方向に平行に矯正することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態による高圧放電ランプの断面図であり、モリブテン箔の平坦部と平行な方向から見た断面図である。
【図2】本発明の一実施形態において高圧放電ランプを製造する際のモリブテン箔とタングステン電極との溶接状態を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態において高圧放電ランプを製造する際のタングステン電極へモリブテン箔を密着させる様子を、タングステン電極の軸方向から見た図である。
【図4】図2に示した溶接の際に生じるモリブテン箔の傾きを示す側面図である。
【図5】本発明の一実施形態において高圧放電ランプの製造の際に、組み立てた電極アセンブリを石英ガラス管に挿入するときの様子を示す断面図であり、モリブテン箔の平坦部と平行な方向から見た断面図である。
【図6】本発明の一実施形態の高圧放電ランプの製造の際に、組み立てた電極アセンブリを挿入した石英ガラス管を加熱溶融するときの様子を示す断面図であり、モリブテン箔の平坦部と平行な方向から見た断面図である。
【図7】本発明の一実施形態の高圧放電ランプにおけるモリブテン箔の曲げ部分を示す部分拡大図であり、(a)はモリブテン箔をその平坦部と平行な方向から見た図であり、(b)はモリブテン箔の平坦部と直交する方向から見た図である。
【図8】高圧放電ランプを備えたランプユニットを示す断面図である。
【図9】高圧放電ランプの製造方法において発生する電極同士の偏芯の様子を示す部分断面図である。
【図10】高圧放電ランプにおいて管壁距離が小さくなった様子を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 灯管
1a 球状空間部
2 タングステン電極
3 モリブテン箔
3a 曲げ部
4 外部リード線
5 電極アセンブリ
6 石英ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電室とこの両側に延びる直管部とからなる石英ガラス管と、前記放電室内において軸部の一端が対向するように前記放電室内に配置された一対のタングステン電極と、前記タングステン電極の前記軸部の他端と重ねて溶接されたモリブテン箔と、前記モリブテン箔の前記タングステン電極とは反対側の端部に溶接された外部リード線とを有し、前記放電室に水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入され、前記直管部のガラス中に前記タングステン電極の他端および前記モリブテン箔が埋め込められて前記放電室が気密封止された高圧放電ランプにおいて、
前記モリブテン箔における前記タングステン電極の他端近傍が、前記モリブテン箔の短手方向に沿って折り曲げられ、溶接された前記タングステン電極と前記モリブテン箔とが前記石英ガラス管の軸方向と平行に矯正されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
放電室とこの両側に延びる直管部とからなる石英ガラス管と、前記放電室内において軸部の一端が対向するように前記放電室内に配置された一対のタングステン電極と、前記タングステン電極の前記軸部の他端と重ねて溶接されたモリブテン箔と、前記モリブテン箔の前記タングステン電極とは反対側の端部に溶接された外部リード線とを有し、前記放電室に水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入され、前記直管部のガラス中に前記タングステン電極の他端および前記モリブテン箔が埋め込められて前記放電室が気密封止された高圧放電ランプにおける前記タングステン電極と前記モリブテン箔との溶接方法であって、
前記タングステン電極の軸部と前記モリブテン箔を密着させ、前記モリブテン箔の、前記タングステン電極の末端近傍を短手方向に沿って折り曲げ、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部との接合部分に前記モリブテン箔の側からレーザ光を照射し、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部とを溶接する方法。
【請求項3】
放電室とこの両側に延びる直管部とからなる石英ガラス管と、前記放電室内において軸部の一端が対向するように前記放電室内に配置された一対のタングステン電極と、前記タングステン電極の前記軸部の他端と重ねて溶接されたモリブテン箔と、前記モリブテン箔の前記タングステン電極とは反対側の端部に溶接された外部リード線とを有し、前記放電室に水銀、ハロゲンガスを含有する不活性ガスが封入され、前記直管部のガラス中に前記タングステン電極の他端および前記モリブテン箔が埋め込められて前記放電室が気密封止された高圧放電ランプにおける前記タングステン電極と前記モリブテン箔との溶接方法であって、
前記タングステン電極の軸部と前記モリブテン箔を密着させ、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部との接合部分に前記モリブテン箔の側からレーザ光を照射し、前記モリブテン箔と前記タングステン電極の軸部とを溶接した後、前記モリブテン箔の、前記タングステン電極の末端近傍を短手方向に沿って折り曲げる方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate