説明

高圧放電ランプ及び照明器具

【課題】簡便に色温度を変えることができ、かつ高効率な高圧放電ランプ及び照明器具を得ることを課題とする。
【解決手段】内部に発光金属および放電媒体が封入され、放電の生起によって発光する発光部を有する発光管2と;透光性材料によって筒状に形成され、前記発光管2の発光部3を覆うように設けられたシュラウド6と;コバルト,アルミニウムを主成分とする複合酸化物粒子を主体として、前記シュラウド6の少なくとも外面または内面の一方の面に形成された,光学特性として波長600nmの光のカット率が30〜70%である光カット膜7と;を具備することを特徴とする高圧放電ランプ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定波長域の光をカットする光カット膜を備えた高圧放電ランプ及びこの高圧放電ランプを備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線カット膜を設けた高圧放電ランプ及び該ランプを利用した照明器具は、紫外線及び一部青色光を必要としない被照射物等の損傷防止や紙・布等の劣化防止、低誘虫用など照明に主として利用されている。
【0003】
例えば、紫外線をカットするための膜材料には、酸化亜鉛(ZnO)系材料が主に使用されている。ここで、紫外線をカットするために使用されているZnO系被膜は、50%カット波長が約380nm以下であるが、紫外線による劣化防止の効果を向上させるためには、より長波長側の光をカットすることが望ましい。このため、例えばBiまたはInをドープしたZnO系材料を用いた紫外線カット膜が提案されている。
【0004】
従来、高演色性,低色温度性に優れたメタルハライドランプとして、可視光反射特性を調整した誘電体膜を発光管に施した色温度変換膜付メタルハライドランプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、従来、特に高い演色性を有し、容易に色温度を自由に設定可能なメタルハライドランプとして、発光管から放射される光のうち特定の波長の光出力を所定の割合で低減する被膜を形成したメタルハライドランプが知られている(例えば、特許文献2)。
更に、従来、光学特性としてのランプの光の色温度を改良したメタルハライドランプ(例えば、特許文献3)、あるいは色特性の優れた高効率、高演色型のメタルハライドランプ(例えば、特許文献4)が知られている。
【特許文献1】特開平10−208703号公報
【特許文献2】特開平5−36380号公報
【特許文献3】特許第3312670号公報
【特許文献4】特許第3603475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のメタルハライドランプでは、用途に応じて色温度で3000K〜4500Kで使用されているが、それに応じてランプの封入物、構造を変えている。また、5000K以上で演色性が低下し、ランプ製造が困難である。
【0007】
本発明は、こうした問題点に鑑みなされたもので、コーティングにより簡便に色温度を変えることができ、かつ高効率な高圧放電ランプ及び照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の高圧放電ランプは、内部に発光金属および放電媒体が封入され、放電の生起によって発光する発光部を有する発光管;透光性材料によって筒状に形成され、前記発光管の発光部を覆うように設けられたシュラウドと;コバルト,アルミニウムを主成分とする複合酸化物粒子を主体として前記シュラウドの少なくとも外面または内面に形成された,光学特性として波長600nmの光のカット率が30〜70%である光カット膜と;発光管およびシュラウドを覆うように設けられ、発光管と電気的に接続された口金が端部に設けられた外管と;を具備することを特徴とする。
【0009】
本発明において、発光管やシュラウドを構成する透光性材料は耐火性の無機成形体であり、石英ガラスやセラミックスから構成される。また、発光管内に放電を生起する手段としては、発光管内部に封装された一対の電極が適用可能であるが、電界又は磁界誘導形の無電極方式であってもよい。
本発明において、光カット膜の膜厚は0.3〜2μmが好ましく、光カット膜に使用される複合酸化物粒子の平均粒径10〜300nmが好ましい。また、複合酸化物粒子は、主としてCoAl,Co(Al,Cr)等、他の金属製分を含むものであってもよい。
請求項2記載の照明器具は、器具本体と、この器具本体に配設された請求項1記載の高圧放電ランプとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の高圧放電ランプによれば、光学特性として波長600nmの光のカット率が30〜70%である光カット膜がシュラウドの内表面または外表面の少なくも一方に形成されているので、色温度を向上することができる。また、Co,Alを主成分とする複合酸化物は、その赤外部の光学特性を調査した結果、約1200〜1500nmを効率よくカットすることが判明し、その赤外の熱線カットと約600nmを中心とする可視のカットのエネルギーをセラミック管の保温に利用し、例えば金属ハロゲン化物等の発光金属の蒸気圧を最適化することにより効率を改善できる。色温度は、元のランプと約600nmを中心としてカット率を制御することにより、自由に制御することができる。
請求項2記載の照明器具によれば、請求項1記載の高圧放電ランプを備えているので、種々の発光特性や電気特性に優れた照明器具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。但し、本発明は下記に述べるものに限定されない。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る高圧放電ランプの一例を示す。
図中の符番1は高圧放電ランプとしてのメタルハライドランプであり、セラミック製の発光管2を備えている。この発光管2は、発光部3と、この発光部3の軸方向に互いに延出する細管部4a,4bとを備えている。発光部3は、気密に封止されていて内部に放電空間(図示せず)が形成されており、この放電空間には細管部4a,4bから導入された一対の電極(図示せず)が対向して配置されている。細管部4a,4bには、夫々先端部に各電極が接合された給電体5a,5bが配設され、ガラスフリット等で封着されている。給電体5a,5bには、夫々電力給電線(図示せず)が電気的に接続されている。なお、発光管2内には所定のハロゲン金属や希ガス(必要に応じて水銀が追加される)等からなる放電媒体が封入されている。
【0012】
発光部3及び細管部4a,4bの一部の周囲には、発光部3を保護する透明な保護管としての筒状の石英製シュラウド6が設けられている。シュラウド6の内外面には、所定の波長の光をカットする厚さ0.3〜2μm,例えば1μmの光カット膜7が形成されている。光カット膜7は、例えばCo,Alを主成分とする複合酸化物粒子(CoAl)を主体とした膜で、光学特性として波長600nmの光のカット率が60%である。光カット膜7を含むシュラウド6には、シュラウド6の強度を高めるためにセラミックファイバー8が螺旋状に巻回されている。
【0013】
前記給電体5bの一端(下端)は、点灯管9に電気的に接続されている。前記発光管2や点灯管9は、一端がステム10に固定された筒状のガイド体11等により支持されている。前記ガイド体11の上下部には、不純ガスを吸着するゲッター12a,12bが設けられている。前記ガイド体11等の各部材は外管13に保護されている。この外管13の端部には、発光管2と導通する給電手段としてのE形口金14が取り付けられている。
【0014】
前記光カット膜7は、次のようにしてシュラウド6の内外面に形成する。即ち、まず、Co,Alを主成分とする複合酸化物粒子約200nmのジエチレングリコールモノエチルエーテルなど有機溶剤に分散させ、有機シリコン化合物からなるバインダーを混合した溶液を準備する。つづいて、この混合溶液にシュラウドを浸漬し、引き上げて両面にコート後、乾燥させてから、180℃〜250℃で30分の熱処理を行い、更に600℃で30分高温熱処理を行なって光カット膜7を形成する。
【0015】
第1の実施形態によれば、Co,Alを主成分とする複合酸化物粒子を主体とした膜で、光学特性として波長600nmの光のカット率が60%である光カット膜7をシュラウド6の内外面形成した構成にすることにより、色温度を約4200Kから約5300Kとすると、光束低下は約60%である。
【0016】
なお、比較のために、外管に第1の実施形態と同様にCo,Alを主成分とする複合酸化物からなる粒子を主体とした膜を2回コートし、色温度を約4200Kから約5300Kとすると、光束低下は約60%である。
【0017】
このように、シュラウド内外面にCo,Alを主成分とする複合酸化物からなる粒子を主体とした膜をコートすることにより、赤外の熱線カットと約600nmを中心とする可視のカットのエネルギーをセラミック管の保温に利用し、金属ハロゲン蒸気圧を最適化することにより効率を改善できる。
【0018】
一方、リフレクタタイプの現行の膜無しランプ(従来例)、第1の実施形態のような光カット膜が形成されたセラミックメタルハライドランプ(本発明)について、夫々色温度(TCP)、色偏差(Duv.)及び平均演色評価数(Ra)を調べたところ、下記表1に示す結果が得られた。表1より、本発明のランプの場合は、膜無しランプに対して色温度が高く、種々の光学特性に優れた数値を呈するランプであることが確認できた。なお、表1において、x、yは色温度等から求める色度座標を示す。
【表1】

【0019】
また、第1の実施形態に係る複合酸化物微粒子の拡散反射率と波長との関係は図2に示すようになり、第1の実施形態に係る光カット膜による透過率と波長との関係は図3に示すとおりである。図2,図3より、反射率が低下している600nm付近の透過率が低くなっており、この部分の光が吸収されていることが分かる。
【0020】
更に、シュラウドに光カット膜を形成していない以外は第1の実施形態と同等の比較例ランプ、及び第1の実施形態の光カット膜をコートしたランプについて、波長に対する相対放射エネルギー特性を調べたところ、図4に示す結果が得られた。なお、図4において、曲線aは膜なしの比較例ランプ、曲線bは第1の実施形態の光カット膜付きランプの場合を示す。
【0021】
図4では、約700nmから長波長側ではカット作用に差がないため、光カットの有無ではほとんど同じ放射エネルギー特性となっている。図4より、曲線bの場合、曲線aと比べ、波長600nm付近で相対放射エネルギーが小さく抑えられていることが明らかである。また、光カット率は、特定の波長における曲線a,bでの相対エネルギー分布の値の比を求めることにより求めることが可能である。図4の場合には、波長600nmにおける光のカット率は60%である。なお、両曲線は途中でオーバーラップしている部分が多いが、便宜上、曲線aは実線で、曲線bは点線で示している。
【0022】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図である。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
図中の符番21は、第1の実施形態と同様な光学特性を有する前記光カット膜7を前面カバーガラス22に用いた照明器具を示す。高圧放電ランプ1は、外管バルブ23に光カット膜が設けられていないメタルハライドランプである。高圧放電ランプ1は、照明器具21に収容して使用される。照明器具21、下面が開放された反射体25を有し、この反射体25の天井面にはソケット26を備えている。高圧放電ランプ1は、その口金を上記ソケット26に螺合することにより照明器具21に取り付けられている。光カット膜4は、第1の実施形態と同様な方法によりカバーガラス22に形成される。
【0023】
第2の実施形態の照明器具によれば、光色変化などがなく紫外線及び一部青色光を必要としない被照射物等の損傷防止や紙、布等の劣化防止、低誘虫用として最適な照明器具が得られる。
【0024】
この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る高圧放電ランプの説明図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態の高圧放電ランプによる相対エネルギー分布と波長との関係を示す特性図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態の高圧放電ランプによる透過率と波長との関係を示す特性図である。
【図4】図4は、従来及び本発明の第1の実施形態の高圧放電ランプによる相対エネルギー分布と波長との関係を示す特性図である。
【図5】図5は、本発明の第4の実施形態に係る照明器具の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1…高圧放電ランプ、2…発光管、3…発光部、4a,4b…細管部、5a,5b…給電体、6…保護管としてのシュラウド、7…光カット膜、8…セラミックファイバー、9…点灯管、10…ステム、11…ガイド体、12a,12b…ゲッター、13…外管、14…口金、21…照明器具、22…前面カバーガラス、25…反射体、26…ソケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に発光金属および放電媒体が封入され、放電の生起によって発光する発光部を有する発光管;
透光性材料によって筒状に形成され、前記発光管の発光部を覆うように設けられたシュラウドと;
コバルト,アルミニウムを主成分とする複合酸化物粒子を主体として前記シュラウドの少なくとも外面または内面に形成された,光学特性として波長600nmの光のカット率が30〜70%である光カット膜と;
発光管およびシュラウドを覆うように設けられ、発光管と電気的に接続された口金が端部に設けられた外管と;
を具備することを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
器具本体と;
この器具本体に配設された請求項1記載の高圧放電ランプと;
を具備することを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−231026(P2009−231026A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74676(P2008−74676)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】