説明

高圧放電ランプ

【課題】ハロゲンサイクルが阻害されることなく、緑、青、赤のバランスの取れた発光スペクトルを得る。
【解決手段】発光管1は、内部に電極5が配置され、かつ発光物質としての水銀とともに、ハロゲン物質およびフラーレンC60がそれぞれ封入されている。水銀の封入量は0.1[mg/mm3]以上である。また、フラーレンC60の封入量の好適例は、1.0×10-7[mg/mm3]以上1.0×10-3[mg/mm3]以下の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、会議等でのプレゼンテーションや一般家庭におけるホームシアターにおいてプロジェクタが利用されている。
【0003】
このようなプロジェクタは、画像情報に応じて動作する素子(例えば透過型液晶表示素子やデジタルマイクロミラーデバイス等)に光源からの出射光を投射し、その光学像を拡大投射するものであって、その光源として点光源により近く、高輝度な例えば高圧水銀ランプが使用されている。高圧水銀ランプは、内部にタングステン製の一対の電極が配置され、かつ発光物質としての水銀とともに、ハロゲン物質等が封入された発光管を備えている。ハロゲン物質は、点灯中、電極の構成材料であるタングステンが一旦蒸発しても、いわゆるハロゲンサイクルによって、再び電極に戻す作用を有し、発光管の内面が蒸発したタングステンの付着によって黒化するのを防止している。したがって、実用上、プロジェクタ用の高圧水銀ランプにおいて前記黒化を防止して長寿命化を図るべく、ハロゲン物質の封入が必須となっている。
【0004】
ところで、この種の高圧水銀ランプにおいて、水銀蒸気圧を高めることによって水銀分子による可視域の連続発光が増大し、特に緑(535[nm]〜565[nm])、青(435[nm]〜465[nm])の発光強度を高めることができるものの、赤(600nm以上)の発光強度はそれらに応じて十分に上昇せず、色バランスが保ちにくいという問題があった。
【0005】
そこで、従来、その赤の発光を補うために、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、カリウムを封入物として添加することが提案されていた(例えば特許文献1等)。
【0006】
しかしながら、これらナトリウム、リチウムおよびカリウムを封入すると、上記したハロゲンサイクルが阻害され、前記黒化を招くことがわかっており、実用上、それらを添加することはもちろんのこと、不純物としても可能な限り除去することが望まれていた(例えば特許文献2等)。
【特許文献1】特開2000−331644号公報
【特許文献2】特開2001−189146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲンサイクルが阻害されることなく、緑、青、赤のバランスの取れた発光スペクトルを得ることができる高圧放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る高圧放電ランプは、内部に電極が配置され、かつ発光物質としての水銀とともに、ハロゲン物質およびフラーレンC60がそれぞれ封入された発光管を備え、前記水銀の封入量が0.1[mg/mm3]以上である構成からなる。
【0009】
かかる構成によれば、水銀の封入量を0.1[mg/mm3]以上とし、水銀蒸気圧を高めることによって特に緑、青の発光強度を高めることができるとともに、フラーレンC60による発光によって600[nm]以上の赤の発光スペクトルを増大させることができるため、緑、青、赤のバランスのとれた発光スペクトルを得ることができる。しかも、フラーレンC60は化学的に安定であり、上記したハロゲンサイクルの阻害要因となり得ず、従来のものと同等の寿命特性を得ることができる。
【0010】
ここで、特に前記フラーレンC60の封入量が1.0×10-7[mg/mm3]以上1.0×10-3[mg/mm3]以下の範囲内であることが好ましい。これにより、赤の発光スペクトルを十分に増大させることができ、余剰なフラーレンC60が発光管の内面に堆積し、光学的な障害となったり、その堆積物による熱吸収によって発光管を構成している容囲器が局所的に過熱されて破損したりするおそれが生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ハロゲンサイクルが阻害されることなく、緑、青、赤のバランスの取れた発光スペクトルを得ることができる高圧放電ランプをを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〈第1の実施の形態〉
図1は、本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプの発光管1の一部切欠正面断面図である。
【0013】
図1に示すように、発光管1は、その容囲器の構成材料が例えば石英ガラスからなり、管中央部の略回転楕円体形状の発光部2と、この両側からそれぞれ外方向に延在するように連設された略円柱体形状の封止部3とを有する。
【0014】
発光部2の内部(放電空間4)には、発光物質である水銀(Hg)と、始動補助用の希ガスとして例えばアルゴンガス(Ar)、クリプトンガス(Kr)、あるいはキセノンガス(Xe)またはそれら2種以上の混合ガスと、ハロゲンサイクル作用のためのヨウ素(I)あるいは臭素(Br)、またはそれらの混合物とがそれぞれ所定量封入されている。
【0015】
水銀の封入量は、少なくとも0.1[mg/mm3]以上とし、0.35[mg/mm3]以下の範囲内で、例えば0.25[mg/mm3]封入されている。一例として、アルゴンガスの封入量(25℃)は、0.01[MPa]以上1[MPa]以下の範囲内で、例えば0.3[MPa]封入されている。臭素の封入量は、1×10-10[mol/cm3]以上1×10-4[mol/cm3]以下の範囲内で、例えば5×10-5[mol/cm3]封入されている。
【0016】
ここで、特徴的なのは封入物として上記したもの以外に、フラーレンC60が例えば1.0×10-5[mg/mm3]封入されている。このフラーレンC60の封入量の好適例は、後述する理由により、1.0×10-7[mg/mm3]以上1.0×10-3[mg/mm3]以下の範囲内である。
【0017】
また、発光部2内には、一対をなすタングステン(W)製の電極5のそれぞれ一端部側が互いに略対向するように配置されている。つまり、各々の電極5の長手方向の中心軸(発光管1の長手方向の中心軸に略一致)同士が互いに略一致している。一例として、電極5間の距離L(図1参照)は、0.5[mm]以上2.0[mm]以下の範囲内、例えば1.2[mm]に設定されている。
【0018】
電極5は、図2に示すように、電極棒6とその一端部に取り付けられた電極コイル7とからなる。特にいずれの電極5の先端部8(一端部)も、電極棒6の一部と電極コイル7の一部とがそれぞれ一体的に溶融されて例えば略半球状、略球状または略円錐状等の形状に加工されている。また、これら電極5の先端部8には、点灯中のハロゲンサイクル作用によって、すなわち点灯中、電極5の構成材料であるタングステンが蒸発した後、ハロゲンによって再び電極5、特にその先端部8の頂点部に戻って堆積し、その堆積物からなる突起部9が自然発生的に形成されている。ここで示す突起部9は製造工程のエージング中に発生したもので、製品完成時には既に形成された状態にある。前記電極5間の距離Lは、具体的にはこれら突起部9間の距離を示す。
【0019】
なお、電極5の先端部8を例えば略半球状、略球状または略円錐状等の形状に形成するに当たり、電極棒6の一部と電極コイル7の一部とをそれぞれ溶融させて形成する以外に、予め略半球状、略球状または略円錐状に削り出したもの、またはそのような形状で焼結したものを電極棒6の先端部に取り付けてもよい。
【0020】
図1に戻り、電極5の他端部は、封止部3に気密に封着されたモリブデン製の金属箔10を介して外部リード線11の一端部に接続されている。外部リード線11の他端部は封止部3の端面から外部に突出し、図示していない電力供給線または口金等に接続される。
【0021】
なお、ここでは、発光管1に口金等の付属部品が取り付けられた状態を高圧水銀ランプとしているが、付属部品を取り付けない場合もあり、この場合は発光管1そのものが高圧水銀ランプとして取り扱われる。
【0022】
以上のとおり本発明の第1の実施形態に係る高圧水銀ランプの構成によれば、水銀の封入量を0.1[mg/mm3]以上とし、水銀蒸気圧を高めることによって特に緑(535[nm]〜565[nm])、青(435[nm]〜465[nm])の発光強度を高めることができるとともに、フラーレンC60による発光によって600[nm]以上の赤の発光スペクトルを増大させることができるため、緑、青、赤のバランスのとれた発光スペクトルを得ることができる。しかも、フラーレンC60は化学的に安定であり、上記したハロゲンサイクルの阻害要因となり得ず、従来のものと同等の寿命特性を得ることができる。
【0023】
特に、フラーレンC60の封入量が1.0×10-7[mg/mm3]以上1.0×10-3[mg/mm3]以下の範囲内であることが好ましい。これにより、赤の発光スペクトルを十分に増大させることができ、余剰なフラーレンC60が発光管の内面に堆積し、光学的な障害となったり、その堆積物による熱吸収によって発光管1を構成している容囲器が局所的に過熱されて破損したりするおそれが生じるのを防止することができる。
【0024】
次に、上記した本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプ(以下、単に「本発明品」という)の作用効果について確認する実験を行った。
【0025】
具体的には、本発明品を通常使用される公知の安定器を用いて定格電力で点灯させ、その発光スペクトルを分析した。その結果を図3(図3中、実線aで示す)に示す。図3において、横軸は波長[nm]を、縦軸は発光強度[a.u.]をそれぞれ示す。
【0026】
また、比較のために、フラーレンC60が封入されていない点を除いて上記した本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプと同じ構成を有している定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、単に「比較品」という)についても同じ公知の安定器を用いて定格電力で点灯させ、その発光スペクトルを分析した。その結果を図3(図3中、点線bで示す)に併せて示す。
【0027】
なお、本発明品および比較品のいずれもその基本構成は上述のとおりの同じ構成を有しており、特に水銀の封入量は0.25[mg/mm3]、臭素の封入量は5×10-5[mol/cm3]であり、本発明品におけるフラーレンC60封入量は1.0×10-5[mg/mm3]である。
【0028】
図3から明らかなように、本発明品および比較品のいずれも水銀の可視域の輝線は405[nm]、436[nm]、546[nm]、578[nm]であるが、比較品では578[nm]を超える波長の発光は水銀分子による連続発光に頼っているのに対して、本発明品では650[nm]を超える波長の光が増大していることがわかる。これは、本発明品においてフラーレンC60の発光(650[nm]以上)によって赤成分の光が補われているためである。したがって、本発明品によれば、緑、青、赤のバランスのとれた発光スペクトルを得ることができると確認された。
【0029】
また、本発明品および比較品に対し、上記と同じように点灯させて寿命試験を行った。寿命試験では、2時間点灯、0.25時間消灯を1サイクルとしてこれを繰り返し、累積点灯時間100時間を100[%]とし、光束維持率が50[%]を下回った時点を寿命時間とした。サンプル数はいずれも5本である。
【0030】
その結果、本発明品および比較品のいずれも、発光管1が破損したサンプルはなく、また発光管1の内面に目立った黒化の発生もなく、1500時間以上の寿命時間が得られた。
【0031】
(ランプユニットについて)
ところで、このような高圧水銀ランプは、図4に示すように、反射鏡12内に組み込まれてランプユニット13の一部を構成する。
【0032】
すなわち、図4に示すように、ランプユニット13は、上記した高圧水銀ランプ14と、内面が凹面の反射面15を有する基体がガラスからなる反射鏡12とを備えており、この反射鏡12内に高圧水銀ランプ14が発光管1の長手方向の中心軸Xと反射鏡12の光軸Yとが略一致するように組み込まれ、高圧水銀ランプ14からの射出光が反射面15により反射されるように構成されている。
【0033】
高圧水銀ランプ14には、発光管1の一方の封止部3に、電源接続用端子16が付設された円筒形の口金17が装着されている。一方の封止部3から外部に導出した一方の外部リード線(図示せず)が電源接続用端子16に接続されている。他方の外部リード線11には電力供給線18が接続されている。
【0034】
そして、この高圧水銀ランプ14は、口金17が反射鏡12のネック部19内に挿入され、かつ接着剤20を介して固着されている。このとき、電力供給線18は、反射鏡12に設けられた貫通孔21に挿通される。
【0035】
なお、反射面15は、例えば回転楕円体面や回転放物体面からなり、多層干渉膜等が蒸着されている。
【0036】
(プロジェクタについて)
そして、さらにこのようなランプユニット13は、例えば図5および図6に示すようなプロジェクタにおいて光源として使用される。
【0037】
図5は、フロントプロジェクタ22の概略構成を示す。フロントプロジェクタ22は、その前方に設置したスクリーン(図示せず)に向けて画像を投影するタイプのプロジェクタである。
【0038】
なお、図5は、後述する筐体23の天板を取り除いた状態を示している。
【0039】
フロントプロジェクタ22は、筐体23に収納された、光源であるランプユニット13、光学ユニット24、制御ユニット25、投射レンズ26、冷却ファンユニット27、および電源ユニット28等から構成されている。光学ユニット24は、画像形成ユニットからの出射光を合成する光合成ユニット、入射光を偏光させて画像を形成する画像形成ユニット、およびランプユニット13からの照明光をその画像形成ユニットに照射する照明ユニット(いずれも図示せず)を有している。照明ユニットは、3色のカラーフィルタ等(図示せず)を有し、照明光を3原色に分解して画像形成ユニットに照射する。3原色に分解された光を光合成ユニットで合成することにより、フルカラーの画像を得られる。制御ユニット25は、画像形成ユニット等を駆動制御する。投射レンズ26は、光合成ユニットにより合成された光学像を拡大投射する。電源ユニット28は、上記した高圧水銀ランプを始動、点灯させるための安定器を含み、商用電源から供給される電力を、制御ユニット25やランプユニット13に適した電力に変換してそれぞれ供給する。
【0040】
図6は、リアプロジェクタ29の概略構成を示す。リアプロジェクタ29は、ランプユニット13、光学ユニット、投射レンズ、ミラーおよび安定器(いずれも図示せず)等が筐体30内に収納された構成を有している。投射レンズから投射されミラーで反射された画像が、透過式スクリーン31の裏側から投影されて画像表示される。
【0041】
なお、上記第1の実施形態では、定格電力として200[W]の高圧水銀ランプ14を用いた場合について説明したが、これに限らず定格電力が例えば100[W]以上400[W]以下の範囲内の高圧水銀ランプを用いた場合でも上記と同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ハロゲンサイクルが阻害されることなく、緑、青、赤のバランスの取れた発光スペクトルを得ることが必要とされる用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプの発光管の一部切欠正面断面図
【図2】同じく高圧水銀ランプの電極の概略構成を示す正面図
【図3】同じく高圧水銀ランプの発光スペクトルを示す図
【図4】同じく高圧水銀ランプが用いられたランプユニットを示す一部切欠斜視図
【図5】同じく高圧水銀ランプが用いられたフロントプロジェクタの構成を示す斜視図
【図6】同じく高圧水銀ランプが用いられたリアプロジェクタの構成を示す斜視図
【符号の説明】
【0044】
1 発光管
2 発光部
3 封止部
4 放電空間
5 電極
6 電極棒
7 電極コイル
8 電極の先端部
9 突起部
10 金属箔
11 外部リード線
12 反射鏡
13 ランプユニット
14 高圧水銀ランプ
15 反射面
16 電源接続用端子
17 口金
18 電力供給線
19 ネック部
20 接着剤
21 貫通孔
22 フロントプロジェクタ
23,30 筐体
24 光学ユニット
25 制御ユニット
26 投射レンズ
27 冷却ファンユニット
28 電源ユニット
29 リアプロジェクタ
31 透過式スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電極が配置され、かつ発光物質としての水銀とともに、ハロゲン物質およびフラーレンC60がそれぞれ封入された発光管を備え、
前記水銀の封入量が0.1[mg/mm3]以上であることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記フラーレンC60の封入量が1.0×10-7[mg/mm3]以上1.0×10-3[mg/mm3]以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−252353(P2009−252353A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94691(P2008−94691)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】