説明

高安定性の二イオン液体塩

本発明は、ジカチオン性またはジアニオン性分子の二イオン液体塩、ならびに二イオン液体を含む溶媒およびガスクロマトグラフィーカラム内の固定相としての二イオン液体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる2004年7月23日に提出された米国仮出願第60/590,857号の特許出願日の恩典を主張する。
【0002】
化学的研究の中で他より急速に成長している分野の1つは、常温イオン液体(RTIL)の分野である。広範囲の考えられるカチオンおよびアニオンの組み合わせは、多種多様な調整可能な相互作用および適用を可能にする1-18。RTILの使用および適用は、化学の多数の分野1-15および生化学の分野16-18にさえ浸透してきた。一部の場合において報告された300℃の熱安定性範囲19-20、それらが様々な異種分子を可溶化する能力、ならびに水および非極性有機溶媒の両方と不混和性であるイオン液体を合成できる21-22という事実がさらにそれらの有用性に加わる。RTILに関係している多数の研究はそれらの使用を有機合成における「緑色」溶媒として取り扱っているが、それらの特性解析およびそれらの固有の物理化学的および溶媒和特性についての理解は現在進行中の調査にとって重要な領域である。文献の中に記載されたイオン液体の数は急速に増加しつつあるが、それらの構造/構成とそれらの物理化学的特性および溶媒和特性との関係は明確には理解されていない。イオン液体の分野における一部の研究は、どのカチオン−アニオンの組み合わせが特異的な、および/または所望の品質を発生させるかが明白になるという期待を抱いて、それらの基本的特性について調査してきた23-24。だがこれまでのところ、このアプローチでは限定された成功しか得られていない。
【背景技術】
【0003】
初期の研究は、イオン液体のアニオン性成分はそれらの物理的および化学的特性により大きな影響を及ぼす可能性があることを示すと思われた25。しかし、この概念は、一部には、試験されたイオン液体が様々な種々のアニオンだけではなく、密接に関連する構造的に類似のカチオンを含有していたという事実に起因する。実際に、ハロゲン化物などのアニオンは、より高度の水素結合塩基度特性(Cl>Br>I)および一般に粘性液体を形成する容易な水素結合を有する。配位アニオンしか粘性液体を生成できないとは言えない;1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムイオン液体の粘性は、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)およびビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(NTf2-26-27などの非配位アニオンと対合した場合でさえ、アルキル鎖長の増加に伴って増加することが見いだされているのは周知である。カチオンおよびその構造は、確実に表面張力、融点、粘度、密度、および熱安定性に影響を及ぼし、ならびに二極性のπ−π、およびn−π相互作用によって溶解分子と相互作用できるが、その作用範囲はアニオンについてほど広範囲には試験されていない。
【0004】
それらの安定性は大げさに宣伝されたにもかかわらず、より一般的なイオン液体の多くは化学劣化および熱劣化を受けやすい4,28-30。近年、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(BMIM−Cl)は、大気に曝露させて加熱すると、120℃で黄白色から琥珀色へ変色し始めると報告された28。さらに加熱すると、イオン液体は150℃以上になると明白な分解の徴候を示し始める28。極めて最近には、大きいカチオンとトリフレートアニオンとをベースとする新規クラスの「高安定性イオン液体」が紹介され、一部のより従来のイオン液体の頑丈さは以前に考えられていたより(低熱安定性および高揮発性の両方に関して)低いように思われると報告された4。MacFarlaneおよび共同研究者らは、イミダゾリウムをベースとするカチオンの分解温度をより正確に決定するための熱重量分析(TGA)のための「ステップタンジェント法(step tangent method)」の使用によって類似の結論に達した29。彼らは、以前に報告された分解温度より明確に低い温度で揮発性分解産物が有意に発生すると指摘している。TGAを用いて熱安定性のより適切な推測値を提供するための最高作動温度パラメーターが提案された29
【0005】
固相抽出および固相マイクロ抽出の技術は知られている52,54。しかし、これらの技術と結び付けた二イオン液体塩および固定化イオン液体の使用についてはこれまで開示されていない。イオン液体は、水からのHg2+およびCd2+の抽出に使用するため、作業特異的液液抽出に使用されてきた53。しかし、二イオン液体塩は、作業特異的固相抽出法/マイクロ抽出法では使用されておらず、これらの技術では吸収、吸着もしくは固定化されたイオン液体は使用されていない。
【発明の開示】
【0006】
1つの実施形態では、本発明は、400℃以下の固体/液体転移温度を有するジカチオンまたはジアニオンの安定性液体塩を含む。
また別の実施形態では、本発明は、約100℃以下の固体/液体転移温度を有するジカチオンまたはジアニオンの安定性液体塩を含む。
また別の実施形態では、本発明は、約60℃以下の固体/液体転移温度を有するジカチオンまたはジアニオンの安定性液体塩を含む。
また別の実施形態では、本発明は、約25℃以下の固体/液体転移温度を有するジカチオンまたはジアニオンの安定性液体塩を含む。
【0007】
1つの実施形態では、本発明は、200℃未満の温度では実質的に分解もしくは揮発しないジカチオンまたはジアニオンの液体塩を含む。また別の実施形態では、本発明は、300℃未満の温度では実質的に分解もしくは揮発しないジカチオンまたはジアニオンの液体塩を含む。
【0008】
1つの実施形態では、本発明は、約200℃以上の液体範囲を有するジカチオンまたはジアニオンの安定性液体塩を含む。また別の実施形態では、本発明は、約300℃以上の、およびいっそうより好ましくは400℃以上の液体範囲を有するジカチオンの安定性液体塩を含む。
【0009】
1つの実施形態では、本発明は、200℃未満の温度では実質的に分解せず実質的に非揮発性である、または約200℃以上の液体範囲を有する、約100℃以下の固体/液体転移温度を有するジアニオンもしくはジカチオンの安定性液体塩を含む。
また別の実施形態では、ジアニオンもしくはジカチオンの安定性液体塩は、約100℃以下の固体/液体転移温度を有し、200℃未満の温度では実質的に分解せず実質的に非揮発性であり、そして約200℃以上の液体範囲を有する。
また別の実施形態では、本発明は、300℃未満の温度では実質的に分解せず実質的に非揮発性である、または約300℃以上の液体範囲を有する、25℃以下の固体温度/液体転移温度を有するジアニオンもしくはジカチオンの安定性液体塩を含む。
また別の実施形態では、ジアニオンもしくはジカチオンの安定性液体塩は、25℃以下の固体/液体転移温度を有し、300℃未満の温度では実質的に分解せず実質的に非揮発性であり、そして約300℃以上の液体範囲を有する。
【0010】
また別の実施形態では、本発明は、式IまたはII:
【化1】

(式中、AおよびA’は、どちらもアニオンもしくはどちらもカチオンである、またはどちらも全体としてアニオン性もしくはカチオン性電荷を有し、それらがどちらも同一電荷(正または負)を有する限り同一であっても相違していてもよい基である;Bは、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式、もしくは芳香族であってよく、さらに炭素原子および水素に加えて、N、O、SおよびSi原子を含んでもよい架橋基(鎖もしくは架橋部分とも呼ばれる)である;ならびにC、C’およびC’’は、AおよびA’とは反対の電荷を有する対イオンである。C’およびC’’は、両方がモノアニオン性もしくはモノカチオン性であるか、または単一アニオン性もしくはカチオン性電荷を有する基のどちらかであり、それらが同一電荷(正または負)を有する限り同一であっても相違していてもよく、そしてCは、ジアニオン性もしくはジカチオン性であるか、または各々が単一アニオン性もしくはカチオン性電荷を有する2つの基を含有するかのどちらかである(他方Cは、AおよびA’の両方へイオン的に結合しているとは示されておらず、好ましい実施形態では、Cは両方に対する対イオンである))の構造のジアニオン性分子もしくはジカチオン性分子の少なくとも1つの液体塩を含む安定性の二イオン液体を提供する。
【0011】
また別の実施形態では、AおよびA’はカチオン性であり、制限なく、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式もしくは芳香族の第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基である。AおよびA’がカチオン性である場合は、C’およびC’’は、制限なくハロゲン、モノカルボン酸塩、モノスルホン酸塩、モノ硫酸塩、NTf2-、BF4-、トリフレートもしくはPF6-を含むアニオン性対イオンであり、そしてCは、制限なく、各々がカルボン酸基、硫酸基もしくはスルホン酸基から選択される2つのアニオン性基を有するジアニオン性分子である。
また別の実施形態では、AおよびA’はアニオン性であり、制限なく、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式もしくは芳香族のカルボン酸塩、スルホン酸塩、および硫酸塩である。AおよびA’がアニオン性である場合は、C’およびC’’は、制限なく、第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基を含むカチオン性対イオンである。Cは、制限なく、各々が第4級アンモニウム塩、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基から選択される2つのカチオン性基を有する化合物であってよいジカチオン性分子である。
また別の実施形態では、これらのジアニオン性イオン液体は、約100℃以下の固体/液体転移温度および少なくとも200℃の液体範囲の両方を有する。特に好ましい実施形態では、式IまたはIIのこれらの液体塩は約100℃以下の固体/液体転移温度および/または200℃以上の液体範囲を有する、および/または200℃未満の温度では実質的に非揮発性および非分解性である。本発明の1つの態様による二イオン液体塩は、1つまたは複数の立体中心(stereogeneic center)を有してもよく、光学的に強化することができる。対イオンは、その代わりに、もしくは付け加えて、1つまたは複数の立体中心を有してもよく、光学的に強化することができる。
【0012】
本発明は、二イオン液体塩のポリマー;架橋された二イオン性物質;ならびに、架橋および非架橋二イオン性物質のクロマトグラフィーおよび抽出において使用されるカラム内の固定相としての使用をさらに意図している。架橋もしくは非架橋二イオン性物質の固定相を含むクロマトグラフィーカラムもまた意図されている。所定のカラム内では、二イオン液体塩は一イオン性物質と混合することができる。
【0013】
実際に、本発明の1つの態様では、特にガスクロマトグラフィーにおける固定相としての、高安定性の二イオン液体塩(一イオン性物質を含む、または含まない)を含む固定化イオン液体が提供される。これらの固定相は高選択性、高安定性、および温度劣化に対して高抵抗性である。
これらの物質は非架橋(しばしば、それらが固体支持体もしくはカラム上に吸収もしくは吸着されていることを意味する)、「部分的」架橋もしくは「より高度の」架橋(しばしば、それらが固体支持体もしくはカラム上に「固定化」されていることを意味する)であってよく、
そして二イオン液体塩と一イオン性物質との混合物から構成されてよい、または完全に本発明による二イオン液体塩から作製されてもよい。
非架橋固定相の場合は、使用される二イオン性塩は飽和、不飽和またはその両方の混合物であってよい。しかし、特にある程度の量の不飽和二イオン液体塩を使用する場合には、そして特に固定相を固定するために熱を使用する、もしくはGCにおけるように使用中に固定相を加熱する場合は、ある程度の架橋が起こる可能性がある。
本発明による「部分的」架橋固定相は、より安定性である高選択性の固定相の生成を許容し、およそ280℃までの温度での高効率分離を可能にする。「部分的架橋」固定相内では、一イオン性および二イオン性種の混合物が発生し、使用される二イオン性塩の量は使用される一イオン性種の量と同等であるか、それより少ない。
本発明による「より高度」に架橋した固定相は、350℃以上の温度でさえ優れた効率および安定性を提供することができる。「より高度に架橋」した固定相では、二イオン性種(二イオン液体/塩)の量は、任意の一イオン性種の量を超える。実際に、好ましくは、より高度に架橋した固定相は、実質的に排他的に(90%以上)本発明による固定化二イオン液体塩から構成される。実際に、それらは最も好ましくは純粋の二イオン液体塩である。
いずれの場合においても、使用される一イオン性種および二イオン性種は不飽和を含むはずである。一イオン性種は、一般に単一の多重結合を有するが、二イオン液体塩は一般に2つ以上の多重結合(二重結合/三重結合)を有する。これらの不飽和結合は架橋を可能にするだけではなく、固定化も促進する。飽和および不飽和種の混合物もまた、特に非架橋固定相の場合に使用できる。
1つの好ましい実施形態では、固定相はキラルであって光学的に強化された二イオン性種から作製される。さらに、固定相としてのカラム内の、またはSPE、SPME、作業特異的SPEもしくはSPME、SPME/MALDIまたは他の分析もしくは分離技術のための固体支持体へのイオン液体の架橋および/または固定化は、固定相の選択性に影響を及ぼすとは思われないので、それによってその二重性の保持挙動が保存される。
【0014】
さらにガスクロマトグラフィーおよび特にキャピラリーGCのための固定相は本発明の1つの好ましい態様であるが、二イオン液体塩は、単独もしくは一イオン液体と組み合わせてのどちらかで、例えば液体クロマトグラフィー(「LC」)および高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を含む他の形態のクロマトグラフィーにおける固定相としても使用できる。固定相、固体支持体および/または同一物を含むカラムを作製する方法が意図されているだけではなく、固定相、固体支持体およびカラム自体ならびにクロマトグラフィー、また別の分析もしくは分離技術におけるこれらの固定相を含有するカラムおよび固体支持体の使用もまた本発明の特別の態様として意図されている。
【0015】
そこで、イオン液体、および特に本発明による二イオン液体塩は、クロマトグラフィー以外の分析および分離技術において使用することができ、それらは全部が本出願の一部と見なされる。例えば、イオン液体および本発明による二イオン液体塩は、制限なく、固相抽出法(「SPE」)、固相マイクロ抽出法(「SPME」)、作業特異的SPME(「TSSPME」)、および固相マイクロ抽出法/MALDIとして知られているある種の質量分析法において使用できる。本発明は、これらの技術におけるイオン液体、および特に二イオン液体塩の使用だけではなく、イオン液体、特に二イオン液体塩が吸収、吸着、もしくは固定化される固体支持体;ならびにイオン液体および二イオン液体塩を組み込んでおり、そのような分析および分離技術において使用できるサンプリング器具(例えばピペット、自動ピペット、シリンジ、マイクロシリンジなど);もまた含む。
【0016】
本発明のまた別の実施形態は、本発明の二イオン液体(ジカチオン性イオン液体およびジアニオン性イオン液体の両方)を形成する個別塩分子もしくは二イオン性塩である。1つの特に好ましい二イオン性塩は、
【化2】

である。しかし、塩を形成するためには任意のアニオンを使用できる。本発明による他の好ましい二イオン液体塩は、表1、2、3、およびAに例示されている。この二イオン性塩を含む、したがってこの塩のジカチオン性イオン液体を含む溶媒もまた好ましい。
【0017】
さらにまた別の実施形態では、本発明は、約400℃以下の固体/液体転移温度を有する二イオン液体塩(「液体」は、他に指示しない限り、常温(25℃)または400℃以下であってよい固体/液体転移温度を超える温度のどちらかでの液体塩を意味する)を提供するが、
前記二イオン液体塩は架橋基によって分離される2つの一イオン性基、ならびに、2つの一イオン性対イオンもしくは少なくとも1つの二イオン性対イオンのどちらかを含む。
好ましくは、2つの一イオン性基はカチオン性またはアニオン性の両方であり、また別の実施形態では、それらはジェミナル(germinal)(同一)である。
カチオン性である場合は、それらの基が置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状、分枝状、環式もしくは芳香族であってよい第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、チオニウムホスホニウム、もしくはアルソニウム基であるのが好ましい。
アニオン性である場合は、それらの基は、好ましくは置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状、分枝状、環式もしくは芳香族であってよいカルボン酸基、硫酸基、またはスルホン酸基である。
特に好ましい実施形態では、これらの二イオン液体塩は、架橋および/または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和結合を含む。
【0018】
また別の実施形態では、上記のこれらの二イオン液体は、それらと混合した固体もしくは液体を溶解、懸濁もしくは分散させるための溶媒として、または化学反応のための反応溶媒として使用できる。どちらも用語「溶媒」によって意図されている。
好ましくは、上述の二イオン液体塩を含む溶媒は約400℃以下の固体/液体転移温度を有し、約200℃以上の液体範囲を有し、
また別の実施形態では、約200℃以下の温度で実質的に非揮発性であると測定される安定性を有する。
二イオン液体塩およびそれから製造された溶媒は、どちらもキラルであってよく、光学的に強化することができる。
【0019】
本発明のまた別の実施形態は、固体支持体およびその上に吸着、吸収または固定化された上述の少なくとも1つの二イオン液体塩を含む、化学的分離または分析において有用な器具である。その器具は、固体支持体がクロマトグラフィーカラム内に装填されているHPLCまたはGCにおいて使用されるカラムであってよいが、このとき固体支持体はガスクロマトグラフィーにおいて有用なキャピラリーカラムである。
【0020】
器具は、内腔を規定する中空ニードルを有するシリンジであってもよいが、そのニードルはバレルおよびバレル内に配置されたプランジャーの端部に配置され、
固体支持体は、プランジャーがバレルから引き出されるとニードルの内腔内に引き入れられ、プランジャーがバレル内に引き戻されるとニードル内から露出するようにシリンジへ取り外し不能に、または取り外し可能に結合、装填、または、付着(集合的に「結合」)させられる。
1つの実施形態では、シリンジはマイクロシリンジである。
一部の実施形態では、これらの器具に使用される二イオン液体は、それと単純に混合されてよい、または本発明の二イオン液体塩に架橋結合されてよい一イオン性物質をさらに含む。これらは、固体支持体上に吸収、吸着または固定されてよい。固定化される場合は、これらのイオン性種が不飽和基を含むことが好ましい。
本発明のまた別の態様では、特に器具がシリンジである、またはSPEもしくは任意のタイプのSPMEで使用される場合は、二イオン液体塩を含まない一イオン液体を使用することができる。しかしそのような場合には、それらは好ましくは固体支持体上に固定化される。
【0021】
1つの他の実施形態では、少なくとも1つの第1化学物質および少なくとも1つの第2化学物質の混合物を提供する工程と、上述の器具を使用して上述のようなイオン液体および特に二イオン液体塩を含む少なくとも1つの固体支持体へその混合物を曝露させる工程と、および固体支持体上の第1化学物質の少なくとも一部分をある時間にわたり保持する工程と、を含む化学物質の混合物から1つの化学物質を分離する方法が提供される。この文脈における「保持する工程」は、永続的を意味していない。分離は、サンプルからの器具の抜去または第2化学物質の放出によってシリンジ器具内で発生させることができる。クロマトグラフィーカラムの場合には、第1化学物質は第2化学物質とは相違する速度で吸収もしくは吸着されるが、その速度は結果として分離を生じさせるようにより速い速度であってもより遅い速度であってもよい。どちらも、液体もしくは気体であってよい移動相によってカラムを通して移動させられ、それらと固定相(固体支持体上のイオン液体物質)との相違する速度での相互作用が分離を引き起こす。これが、クロマトグラフィーの状況において「保持」が意味することである。しかし、所定のタイプのクロマトグラフィーでは、第1化学物質が固定相に結合される一方、第2化学物質が結合されずに溶離するまで移動相によってカラムを通して運ぶこともまた可能である。第1化学物質は個別に溶出または除去することができるが、これもまた用語「保持される」に含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本明細書は本発明を特別に指摘かつ明確に請求している特許請求項で終結するが、本発明は以下の説明によってより明瞭に理解できると考えられる。本明細書で使用したすべてのパーセンテージおよび比率は、全組成物の重量によるものであり、全測定値は他に特別に指示していない限り25℃および正常圧力で測定されたものである。全温度は、他に特別に指示しない限り摂氏温度である。本発明は、本発明の構成成分ならびに本明細書に記載した他の成分もしくは要素を(無制限に)含むことができる、または本質的にそれらからなる。本明細書で使用する「含む」は、言及した要素、または構造もしくは機能におけるそれらの同等物に言及していない任意の他の要素を含むことを意味する。用語「有する」および「含む」もまた、状況が他のことを示唆しない限り無限であると見なされたい。本明細書で使用する「本質的に〜なる」は、追加の成分が本明細書で請求した基本的かつ新規な特性を物質的に変化させない場合にのみ、本発明が請求項に言及したものに加えて成分を含む可能性があることを意味する。好ましくは、そのような添加物は全く存在しない、または微量でのみ存在する。しかし、化合物の有益性が(有益性の程度に対して)維持される限りにおいて、本発明の基本的かつ新規な特性を物質的に変化させる可能性がある物質を重量で約10%までは含めることが可能である。本明細書に言及した全範囲は、2つの数値の「間の」範囲を列挙しているものを含めて、終点を含む。「約」、「一般に」、「実質的に」などの用語は、それは絶対的なものではないが、先行技術上には現れないように用語もしくは数値を修飾できると解釈すべきである。そのような用語は状況によって規定され、それらがそれらの用語として修飾する用語は当業者には理解される。これには、少なくとも、数値を測定するために使用された所与の技術についての予測される実験誤差、技術上の誤りおよび機器の誤差の程度が含まれる。
【0023】
「二イオン性塩」もしくは「DIS」は、本明細書に記載したジカチオンとジアニオンもしくは2つのアニオンとの間または本明細書に記載したジアニオンとジカチオンもしくは2つのカチオンとの間で形成される塩である。この用語は、Mg+2またはSO4-2などの+2または−2電荷を有する単一種を含むことは意図していない。むしろ、この用語は、通常は架橋基によって分離されている2つの別個の一イオン性基を備える単一分子を意図している。2つのイオン性種は同一電荷の種でなければならない。それらは相違するタイプの基であってよい、または二イオン液体塩は、両方のイオン性基が同一電荷であるだけではなく同一構造でもあることを意味する「ジェミナル」であってよい。対イオンは、同一である必要はない。
1つの実施形態では、二イオンもしくは塩形成種は、少なくとも1つの立体中心を有するキラルである。そのような場合には、二イオン液体塩はラセミであってよい(またはジアステレオマーの場合には、各対のエナンチオマーが等量で存在する)、またはそれらは光学的に強化することができる。
エナンチオマーの場合における「光学的に強化された」は、1つのエナンチオマーが他方のエナンチオマーより多い量で存在することを意味する。ジアステレオマーの場合は、少なくとも1対のエナンチオマーが1:1ではない比率で存在する。
実際に、二イオン液体塩は、1つのエナンチオマーまたは2つ以上の立体中心が存在する場合は少なくとも1対のエナンチオマーが、他方のエナンチオマーに比較して少なくとも約90%の量で存在する「実質的に光学的に純粋」であってよい。本発明の二イオン液体塩は、さらにまた光学的に純粋、すなわち1つのエナンチオマーが他方に比較して少なくとも約98%であってよい。通常は、用語「二イオン性塩」は1つの塩分子を記載するために使用されるが、文脈が示唆するように、この用語は「二イオン液体」(「DIL」)および「二イオン液体塩」(「DILS」)と同義的に使用できる。
本発明による「二イオン液体」もしくは「DIL」は、二イオン性塩から構成される液体である。そこで、充分なDS分子は、本明細書に指示した温度でそれらが液体形で存在するように存在する。これは、単一DS分子は液体ではないと仮定している。DLは、ジカチオン性イオン液体またはジアニオン性イオン液体(本明細書に記載したジカチオン性塩またはジアニオン性塩のどちらかを含む液体)のどちらかである。
本発明による「ジカチオン性イオン液体」(「ジカチオンの液体塩」と同義的に使用する)は、ジカチオン種の塩である分子から構成される液体である。塩形成対アニオンは、例えばBr-だけのような一イオン性、または例えばコハク酸だけのようなジアニオン性であってよい。安定性で400℃以下の固体/液体転移温度を有する任意のジカチオン性イオン液体は意図されている。電荷が逆であることを除いて、「ジアニオンの液体塩」としても知られる「ジアニオン性イオン液体」についても同様のことが当てはまる。
ジカチオン性液体およびジアニオン性液体は、本明細書ではさらに二イオン液体塩(電荷に依存して「DILS」または「DCLS」および「DALS」)と呼ばれることもある。
【0024】
好ましくは、ジカチオン性イオン液体またはジアニオン性イオン液体は、200℃以下の温度では、本明細書で記載した溶融シリカキャピラリー内の薄膜として、またはシリカ固体支持体上に固定化されることによって測定した場合に実質的に分解もしくは揮発しない(または実質的に非揮発性でとどまるであろう)。この文脈における「実質的に」は、約1時間の経過にわたってキャピラリーの内側で200℃で分解もしくは揮発するのが重量で約10%未満であることを意味する。さらに、本実施形態によるジカチオン性イオン液体は、好ましくは約100℃以下の固体/液体転移温度、または少なくとも200℃の液体範囲(燃焼または分解することなく液体形にある温度範囲)のどちらかを有する。
【0025】
また別の実施形態では、これらのジカチオン性イオン液体は、約100℃以下の固体/液体転移温度および少なくとも200℃の液体範囲の両方を有する。
【0026】
本発明のまた別の態様では、ジカチオン性イオン液体は、本明細書で考察するように、約300℃未満の温度では実質的に揮発も分解もしない。この文脈における「実質的に」は、約1時間の経過にわたってキャピラリーの内側で300℃で分解もしくは揮発するのが重量で約10%未満であることを意味する。さらに、本実施形態によるジカチオン性イオン液体は、好ましくは25℃以下の固体/液体転移温度を有する。また別の実施形態では、ジカチオン性イオン液体は、少なくとも200℃の液体範囲をさらに有する。本発明のいっそうより好ましい態様では、液体範囲は300℃以上である。
【0027】
好ましくは、ジアニオン性イオン液体は、200℃以下の温度では、本明細書で記載した溶融シリカキャピラリー内の薄膜として固定化されることによって測定した場合に実質的に分解もしくは揮発しない。さらに、この実施形態によるジカチオン性イオン液体は、好ましくは約100℃以下の固体/液体転移温度または少なくとも200℃の液体範囲のどちらかを有する。
【0028】
また別の実施形態では、これらのジアニオン性イオン液体は、約100℃以下の固体/液体転移温度および少なくとも200℃の液体範囲(二イオン性分子が全温度範囲にわたって安定性である)の両方を有する。
【0029】
本発明のまた別の態様では、ジアニオン性イオン液体は、本明細書で考察するように、約300℃未満の温度では実質的に揮発も分解もしない。さらに、本実施形態によるジアニオン性イオン液体は、好ましくは25℃以下の固体/液体転移温度を有する。また別の実施形態では、ジアニオン性イオン液体は、少なくとも200℃の液体範囲をさらに有する。本発明のいっそうより好ましい態様では、液体範囲は300℃以上である。
【0030】
そこで、本発明による二イオン液体は、本明細書で記載したように測定した場合に、200℃以下の温度では実質的に分解も実質的に揮発もしない、そして100℃の固体/液体転移温度または少なくとも200℃の液体範囲を有するジカチオン性イオン液体塩またはジアニオン性イオン液体塩のどちらかである。
【0031】
本発明の他の態様では、これらの二イオン液体は、約100℃以上の固体/液体転移温度および少なくとも200℃の液体範囲の両方を有する。
【0032】
本発明による他の実施形態では、ジカチオン性イオン液体またはジアニオン性イオン液体のどちらかである二イオン液体は安定性である。すなわち本明細書で考察したように約300℃未満の温度では実質的に揮発も分解もせず、そして約25℃以下の固体/液体転移温度を有する。本発明のこの態様の特に好ましい実施形態では、二イオン液体は少なくとも200℃、およびいっそうより好ましくは少なくとも300℃の液体範囲を有する。極めて広範囲のパラメーターに合致する安定性液体塩を形成できる任意の二イオン性化合物は意図されている。
【0033】
また別の実施形態では、本発明は、式IまたはII:
【化3】

(式中、AおよびA’は、どちらもアニオンもしくはどちらもカチオンである、またはどちらも全体としてアニオン性もしくはカチオン性電荷を有し、それらがどちらも同一電荷(正または負)を有する限り同一であっても相違していてもよい基である;Bは、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式、もしくは芳香族であってよく、さらに炭素原子および水素に加えて、N、O、SおよびSi原子を含んでもよい架橋基(鎖もしくは架橋部分とも呼ばれる)である;ならびにC、C’およびC’’は、AおよびA’とは反対の電荷を有する対イオンである。C’およびC’’は、両方がモノアニオン性もしくはモノカチオン性であるか、または単一アニオン性もしくはカチオン性電荷を有する基のどちらかであり、それらが同一電荷(正または負)を有する限り同一であっても相違していてもよく、そしてCは、ジアニオン性もしくはジカチオン性であるか、または各々が単一アニオン性もしくはカチオン性電荷を有する2つの基を含有するのどちらかである)の構造のジアニオン性分子もしくはジカチオン性分子の少なくとも1つの液体塩を含む安定性の二イオン液体を提供する。
【0034】
また別の実施形態では、AおよびA’はカチオン性であり、制限なく、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式もしくは芳香族の第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基である。AおよびA’がカチオン性である場合は、C’およびC’’は、制限なくハロゲン、モノカルボン酸基、モノスルホン酸基、モノ硫酸基、NTf2-、BF4-、トリフレートもしくはPF6-を含むアニオン性対イオンであり、そしてCは、制限なく、各々がカルボン酸基、硫酸基もしくはスルホン酸基から選択される2つのアニオン性基を有するジアニオン性分子である。
また別の実施形態では、AおよびA’はアニオン性であり、制限なく、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状もしくは分枝状を含む脂肪族、環式もしくは芳香族のカルボン酸塩、スルホン酸塩、および硫酸塩である。AおよびA’がアニオン性である場合は、C’およびC’’は、制限なく、第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基を含むカチオン性対イオンである。Cは、制限なく、各々が第4級アンモニウム塩、プロトン化第3級アミン、ホスホニウムもしくはアルソニウム基から選択される2つのカチオン性基を有する化合物であってよいジカチオン性分子である。
また別の実施形態では、これらのジアニオン性イオン液体は、約100℃以下の固体/液体転移温度および少なくとも200℃の液体範囲の両方を有する。
特に好ましい実施形態では、式IまたはIIのこれらの液体塩は約100℃以下の固体/液体転移温度および/もしくは200℃以上の液体範囲を有する、ならびに/または、200℃未満の温度では実質的に非揮発性および非分解性である。
【0035】
典型的には、二イオン液体についての構造的考察は、それらがジアニオン性イオン液体であろうとジカチオン性イオン液体であろうと同一である。第一に、二イオン液体はジアニオン性もしくはジカチオン性分子のどちらかの二イオン性種を含むであろう。イオン性種は、通常は本明細書で考察するように鎖または架橋部分または基によって分離されている。ジアニオン性イオン液体またはジカチオン性イオン液体を提供できる任意のアニオンまたはカチオンが意図されている。これらには、AおよびA’と上記で同定されたものが含まれる。可能性のあるカチオンには、制限なく、第4級アンモニウム塩(−N(R)4+、プロトン化第3級アミン(−N(R)3H)+、ホスホニウムおよびアルソニウム基が含まれる。これらの基は、脂肪族、環式、または芳香族であってよい。脂肪族アンモニウムジカチオンの例は表2に記載され、芳香族アンモニウムジカチオンの例は表1に記載されている。アニオンには、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、またはスルホン酸塩を含むことができる。ジカルボン酸ジアニオンの例には、制限なく、コハク酸、ノナン二酸、およびドデカン二酸が含まれる。その他の二イオン性種(一般的架橋基を含むジアニオンおよびジカチオン)の非限定的例には、
【化4】

【化5】

が含まれる。
【0036】
nの数値は、架橋基の長さと結び付けて考察される。さらに、ハイブリッドジアニオンおよびジカチオンが意図されている。そこで、例示するためだけであるが、ジカチオンは第4級アンモニウム基およびアルソニウム基から構成されてよく、ジアニオンはカルボン酸基とスルホン酸基から構成されてよい。対イオンもまた互いに異なっていてもよい。
【0037】
2つのイオン性種間に挟まれた架橋基または鎖は、適切な特性の二イオン液体を生じる任意の長さまたは任意の組成であってよい。これらは、上記でBであると同定した基を含む。そのような鎖または架橋部分を選択する際に考察しなければならない所定の要素がある。
第一に、一般に二イオン性分子が大きいほど、融点または固体/液体転移温度が上昇する機会が多くなる。これは、液体範囲が広い必要がなく、固体/液体転移温度が極端に低い必要がない場合には大きな問題ではなくなる。しかし、約200℃以上の液体範囲および/または100℃以下の固体/液体転移温度が望ましい場合は、分子全体のサイズはより大きく、そしてより大きな要素となることがある。
第二に、鎖はある程度の柔軟性を有していなければならない。過剰な程度の不飽和基、極めて剛性および/または立体的にかさの大きな基の使用は、結果として生じる物質が溶媒として作用する能力に有害な影響を及ぼし、それらの全体的有益性を減少させる。そこで、例えば、コレステロールおよび広範囲の不飽和を備える多重不飽和脂肪族基に見いだされるなどの多重縮合環構造は、一般に回避しなければならない。
【0038】
一般に、架橋基の長さは約2〜約40個の炭素原子の飽和脂肪族炭素鎖の長さに等しい長さの範囲に及ぶ可能性がある(例えば、架橋基が炭素から構成される場合は、n=C2−C40である)。より好ましくは、長さは、およそ約3〜約30個の炭素原子の飽和脂肪族炭素鎖から生じる長さでなければならない。
【0039】
鎖または架橋基は、脂肪族、環式、もしくは芳香族、またはそれらの混合であってよい。それは飽和もしくは不飽和炭素原子、または同一物の混合、例えばアルコキシ基(エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシなど)を含有してもよい。それはさらに、アルコキシ基、グリセリド、グリセロール、およびグリコールを含んでもよい、または完全にそれらから作製されてよい。鎖は、O、N、S、またはSiなどのヘテロ原子、ならびにシロキサン、非プロトン化第3級アミンなどの誘導体をさらに含有してもよい。鎖は、シクロヘキサン、イミダゾール、ベンゼン、ジフェノール、トルエン、もしくはキシレン基などの1つまたは複数の環式もしくは芳香族基、またはビスフェノールもしくはベンジジンなどのより複雑な環含有基から作製されてよい。これらは単に代表的なものであり、限定することは意味されていない。しかし一般に、架橋基はジアニオンまたはジカチオン以外のイオン性荷電種は含有しない。
【0040】
本発明の二イオン液体は一般に塩であるが、それらは所定の状況ではイオン(+1、−1、+2、−2)として存在することができる。そこで、大多数の場合には、各イオンは、各アニオンまたはカチオンに対して1つずつの対イオンを有するはずである。電荷は保存されるはずである。ジアニオン性イオン液体の場合は、2つのカチオン(C’またはC’’と同定されたカチオンを含む)(または1つのジカチオン)(Cと同定されたジカチオンを含む)が必要とされ、ジカチオン性イオン液体の場合は、2つのアニオン(C’またはC’’と同定されたアニオンを含む)(または1つのジアニオン)(Cと同定されたジアニオンを含む)が必要とされる。アニオンの選択は、結果として生じた化合物の特性および溶媒としてのその有益性に影響を及ぼすことがある。そして、アニオンおよびカチオンは使用した単一種の状況において記載するが、ジアニオン性イオン液体を形成するためにジアニオン性種を備える塩を形成するためにカチオンの混合物を使用することも可能である。ジカチオンについてはその逆が当てはまる。明瞭にするために、塩形成イオンを本明細書では対イオンと呼ぶ。
【0041】
カチオン性対イオンは、ジカチオン性イオン液体の製造に使用するために上記で同定された任意のジカチオン性化合物を含むことができる。さらに、これらの一イオン性対応物も使用できる。そこで、例えば、第4級アンモニウム塩、プロトン化第3級アミン、ホスホニウム、およびアルソニウム基は、本発明によるジアニオン性イオン液体を形成するためにジアニオン性分子にとってのカチオン性対イオンとして有用である。
【0042】
同様に、アニオン性対イオンは、ジアニオン性イオン液体の作製において有用である本明細書で考察した任意のジアニオン性分子から選択できる。これらには、ジカルボン酸、ジスルホン酸、および二硫酸が含まれる。カルボン酸、スルホン酸、硫酸およびホスホン酸を含む対応する一イオン性化合物もまた使用できる。トリフレート、NTf2-、PF6-、BF4-などであってよいハロゲンもまた使用できる。
対イオンは、二イオン液体が良好な熱および/または化学的安定性を有し、本明細書に記載した固体/液体転移温度および/または液体範囲を有するように選択しなければならない。
最後に、本発明のイオン性基は、置換であっても未置換であってもよい。それらは、ハロゲン、アルコキシ基、脂肪族、芳香族、または環式基、窒素含有種、ケイ素含有種、酸素含有種、および硫黄含有種と置換されてよい。置換の程度および置換基の選択は、架橋または鎖の性質を考察する際に上記で記載したように、結果として生じる物質の特性に影響を及ぼすことがある。そこで、過剰な立体障害および過剰な分子量を回避すること、結果として生じる物質が全体的柔軟性を消失しないこと、そして2つのイオン種のイオン的性質を何ものも妨害しないことに注意を払わなければならない。
【0043】
本発明の二イオン液体は、担体または溶媒として純粋形または実質的に純粋形で使用できる。この文脈における「実質的に」は、約10%を超える望ましくない不純物を含まないことを意味する。そのような不純物は、文脈が示唆する他の望ましくない二イオン性塩、反応副生成物、汚染物質などのいずれかである可能性がある。2つ以上のDILSの意図された混合物中では、いずれも不純物であるとは見なされない。それらは非揮発性かつ安定性であるので、回収してリサイクルすることができ、揮発性有機溶媒の欠点をほとんど有していない。一部の場合には400℃を超える広い液体範囲に及ぶ安定性のために、それらは加熱および冷却のどちらも必要とする化学合成において使用できる。実際に、これらの溶媒は所定の化学合成の複数の反応工程の全部に適応することができる。当然ながら、これらの二イオン液体は、共溶媒および勾配溶媒を備える溶媒系において使用することができ、これらの溶媒は、制限なく、キラルイオン液体、キラル非イオン液体、揮発性有機溶媒、非揮発性有機溶媒、無機溶媒、水、油などを含むことができる。二イオン液体を使用して溶液、懸濁液、エマルジョン、コロイド、ゲルおよび分散液を調製することも可能である。
【0044】
個別の二イオン性塩および二イオン液体塩に加えて、これらの物質のポリマーを生成することも可能である。ポリマーには、主鎖内またはペンダント基として二イオン性塩を含むことができ、それらは架橋していても架橋していなくてもよい。
【0045】
溶媒および反応溶媒として有用であることに加えて、本発明のジアニオン性液体は、例えば気液クロマトグラフィーのための固定相として、分離を実施するために使用できる。例証のために使用できるジカチオン性イオン液体塩には、(1)アルキル連鎖(様々な長さの)によって分離される2つのビニルイミダゾリウムもしくはピロリジニウムジカチオンまたは(2)アルキル連鎖(様々な長さの)によって分離されてメチル、エチル、プロピル、もしくはブチルイミダゾリウムカチオンまたはメチル、エチル、プロピル、もしくはブチルピロリジニウムカチオンへ結合される1つのビニルイミダゾリウムもしくはピロリジニウムジカチオンが含まれる。
下記参照。本明細書で考察した任意のアニオン性対イオンを使用できる。不飽和基の存在が架橋および/または固定化を促進することに留意されたい。
【化6】

ジアニオン性アニオンも、多種多様なイオン液体の組み合わせを形成するためにモノカチオンもしくはジカチオンとともに使用することができる。ジカチオンが使用される場合は、電荷平衡を保持することができるいずれかが使用される。ジアニオン性アニオンは、以下で示すように、ジカルボン酸タイプ(すなわち、コハク酸、ノナン二酸、ドデカン二酸など)であってよい。
【化7】

二イオン性液体塩は、キャピラリー(または固体支持体)上に被覆し、そして任意で、例えば2つの一般的方法によって重合および/または架橋させることができる。
第1の方法では、イオン液体は、塩化メチレン、アセトン、酢酸エチル、ペンタン、クロロホルム、メタノール、またはそれらの混合物の溶液を用いて0.15〜0.45%(w/w)の範囲内の濃度の被覆溶液を用いて40℃で静的被覆法によって被覆される。イオン液体の被覆が完了した後、カラムはヘリウムでパージされ、100℃まで焼成される。
次にモノマーイオン液体固定相の被覆効率を試験するために、ナフタレンの効率が評価される。効率が充分であると思われる場合は、カラムは次に室温で、遊離ラジカル開始剤であるアゾ−tert−ブタンの蒸気を用いてフラッシュされる。蒸気を用いてフラッシュした後、カラムは次に両端で融合され、5時間にわたり200℃までの温度勾配を用いてオーブン内で加熱される。
カラムは徐々に冷却され、その後両端が再開口され、そしてヘリウムガスを用いてパージされる。ヘリウムガスを用いて一晩パージした後、カラムは次に200℃まで加熱かつコンディショニングされる。コンディショニングした後、100℃でナフタレンを用いてカラム効率が試験され、固定相被覆層が顕微鏡下で試験される。
架橋結合プロセスは、固定化を引き起こすことができる、そしてしばしば固定化を引き起こすことに留意されたい。本発明の状況における「固定化」は、支持体もしくは別のイオン液体(二イオン液体塩を含む)または両方へ共有結合またはイオン的に結合していることを意味する。これは、固体支持体上に吸収または吸着されてよいイオン液体に匹敵する。これらの特別な例における固体支持体は、カラムを含むことが意図された。
【0046】
しかし、GCにおけるそれらの使用前にこれらの物質を架橋結合させることは必要ではない。それらはカラム内で、または実際に任意の固体支持体上で吸着もしくは吸収されてよい。しかし、より高温では、それらの粘度は低下し、一部の例では、液滴として流動および集合し、カラムの特性を変化させる可能性がある。
【0047】
また別の方法は、モノマーの被覆溶液に2%までのモノマー重量の2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(「AIBN」)遊離ラジカル開始剤を加える工程を含む。次にキャピラリーカラムにはこの溶液が充填され、静的被覆法によって被覆される。被覆後、キャピラリーカラムは次に両端で密閉され、オーブンに入れられて5時間にわたり200℃までコンディショニングされる。カラムは徐々に冷却され、その後両端で再開口され、そしてヘリウムガスを用いてパージされる。ヘリウムガスを用いて一晩パージした後、カラムは次に200℃まで加熱かつコンディショニングされる。コンディショニングした後、100℃でナフタレンを用いてカラム効率が試験され、固定相被覆層が顕微鏡下で試験される。
【0048】
アルケンの遊離ラジカル重合に加えて、カチオンの芳香族環、2つのカチオンを結合する連鎖(ジカチオンを形成するため)、または、アニオンのいずれかに結合している他の官能基を含む他の重合反応を達成できる。
そのような反応の例には、カチオン性およびアニオン性鎖成長重合反応、Ziegler−Natta触媒重合、および逐次反応重合を含むことができる。付加およびブロック共重合を通してコポリマーを形成するための2つの相違するモノマーの使用もまた達成できる。さらに、アミンおよびアルコールなどの官能基を通して結合できる縮合重合もまた使用できる。以下の2つの参考文献で考察された全部の重合および架橋結合反応を使用できる。「Comprehensive Polymer Science−The synthesis,Characterization,Reactions and Applications of Polymers」 by Sir Geoffrey Allen,FRS;「Comprehensive Organic Transformations:a guide to functional group preparations」 by Richard C.Larock.2nd Edition.Wiley−VCH,New York.Copyright,1999.ISBN:0471190314。
【0049】
これらの39種のジカチオン性液体塩の生成について記載する。次の物質を使用した。1−メチルイミダゾール;1−メチルピロリジン;1−ブチルピロリジン;1,2−ジメチルイミダゾール;1−ブチルイミダゾール;1−ベンジルイミダゾール;1,3−ジブロモプロパン;1,6−ジブロモヘキサン;1,9−ジブロモノナン;1,12−ジブロモドデカン;1−ブロモ−3−クロロプロパン;ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、N−リチオトリフルオロメチルスルホンアミド、硝酸銀、および五酸化リンは全部をAldrich社(ワイオミング州ミルウォーキー)から購入した。ヘキサフルオロリン酸は毒性かつ腐食性であり、細心の注意を払って取り扱わなければならない。アセトン、酢酸エチル、および2−プロパノールは、Fisher Scientific社(ニュージャージー州フェアローン)から購入した。未処理溶融シリカキャピラリーチューブ(内径0.25mm)はSupelco社(ペンシルバニア州ベルフォンテ)から購入した。
【0050】
以下の二イオン性塩を生成できる。(表1、2および3を参照)。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3A】

【0054】
【表3B】

【0055】
【表3C】

【表3D】

【0056】
表1および2に記載した塩の一部はアニオンの正確な数を反映しておらず;通常は2であることに留意されたい(表3を参照)。表1および2に見いだされる化合物の名称は表Fに見いだされることに留意されたい。化合物1、5、9、および13は、1モル当量の1,3−ジブロモプロパン;1,6−ジブロモヘキサン;1,9−ジブロモノナン;および1,12−ジブロモドデカン各々を2モル当量の1−メチルイミダゾールと常温で反応させることによって合成した。化合物17は、1モル当量の1,9−ジブロモノナンを2モル当量の1−ブチルイミダゾールと常温で反応させることによって合成した。化合物21および24は、1モル当量の1,3−ジブロモプロパンおよび1,9−ジブロモノナン各々を125mLの2−プロパノール中に溶解した1,2−ジメチルイミダゾールと一緒に24時間還流させることによって合成した。化合物28は、1モル当量の1,12−ジブロモドデカンを100mLの2−プロパノール中の2モル当量の1−ベンジルイミダゾールと一緒に24時間環流させることによって合成した。反応が完了した(NMRによって監視する)後、全生成物は酢酸エチルを用いる抽出によって精製し、P25真空下で乾燥させた。
【0057】
化合物31および34は、1モル当量の1,3−ジブロモプロパンおよび1,9−ジブロモノナン各々を100mLの2−プロパノール中に溶解した2当量の1−メチルピロリジンと一緒に24時間還流させることによって生成した。化合物37は、2モル当量の1−ブチルピロリジンを100mLの2−プロパノール中の1当量の1,9−ジブロモノナンと一緒に24時間環流させることによって合成した。これらの塩もまた酢酸エチルを用いて抽出し、真空下で乾燥させた。N−リチオトリフルオロメチルスルホンイミド、ヘキサフルオロリン酸、およびテトラフルオロホウ酸ナトリウムを含有する全複分解反応は、以前に公表された方法を用いて実施した。複分解反応によって形成されたイオン液体は、ハロゲン化物不純物が残留していないことを確かめるために硝酸銀を用いて試験した。
【0058】
全39種のイオン液体サンプルは、1H NMRおよびエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法を用いて特性解析した。1H NMRスペクトル(400MHz)は、重水素化DMSO中で記録した。
【0059】
表面張力値は常温(23℃)で、5.940cmの平均外周および53.21のリング/ワイヤー半径を備える白金−イリジウムリングを装備した20型DuNuoy張力計(Fisher Scientific社、ニュージャージー州フェアローン)を用いて測定した。イオン液体の密度、またはより正確には、固体/液体転移温度(特別に明白に、または状況によって指示しない限り、同義的に使用する)は、23℃で2.0mLの容積測定管に2.0mLのイオン液体を入れ、差によって計量することによって決定した。イオン液体の融点は、Perkin Elmer Pyris 1型示差走査熱量計(マサチューセッツ州ボストン)を使用して決定した。典型的方法は、一次および二次熱転移を決定および同定するために10℃/分の温度勾配を使用する工程を含んでいた。融点は、全化合物について容易に決定することはできなかった。固体化合物については、融点はキャピラリー融点装置を用いて検証した。屈折率の測定は、23℃でBausch & Lomb Abbe−3L屈折計を用いて実施した。
【0060】
逆相気液クロマトグラフィー分析のためのキャピラリーカラムの調製は、以前に記載された方法を用いて実施した31。全キャピラリーカラムが2,100〜2,500段/メートルの効率を有していた。キャピラリーカラムの特性解析およびプローブ分子の説明は、補助情報に列挙されている。多重線形回帰分析(MLRA)および統計的計算は、プログラムAnalyse−it(Microsoft社、米国)を使用して実施した。
【0061】
表1、2、および3は、合成および特性解析した2クラス(39種の化合物)のジェミナルジカチオン性イオン液体の構造を提供している。
イミダゾリウム成分上でカチオンおよび/または様々なアルキル置換基を結合する様々なアルキル連鎖長を備えるイミダゾリウムをベースとするジカチオンを含有するイオン液体は、1群のイオン液体を含む。大多数の場合に、各ジェミナルジカチオン性実体は4種のアニオン(Br-、NTf2-、BF4-、およびPF6-、表3)と対合した。
ピロリジニウム基上でカチオン性および/または様々なアルキル置換基を結合する、様々なアルキル連鎖長を備えるピロリジニウムをベースとするジェミナルジカチオンもまた表3に示されている。このクラスにおける各ジカチオンについては、3つのアニオン(Br-、NTf2-、およびPF6-)を含有する別個のイオン液体を合成した。
表1および2は、これら39種のジェミナルイオン液体についての物理化学的特性を提供している。常温で液体であったサンプルについて、表面張力、密度、融点、および屈折率値を記録した。常温で固体であったサンプルについては、融点だけを決定した。ヘプタン中および水中の両方における全イオン液体の混和性/溶解度を同様に表示した。
【0062】
表面張力。数種のジェミナル常温イオン液体についての表面張力データのプロット図は図1に示した。ジカチオンを分離しているアルキル連鎖長は、表面張力にほんの小さな作用しか及ぼさないことが観察された。全部が3、6、9および12個の炭素連鎖各々によって分けられたビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(NTf2-)アニオンおよび3−メチルイミダゾリウムカチオンを含有するIL 2、6、10、および14(表1、2、および/または3)を考察すると、結合連鎖長が増加すると表面張力がわずかに低下することが明白である(約2.4ダイン/cm)。他のアニオン(例、BF4-、Br-、PF6-)を含有するイオン液体についても類似の傾向が観察されている。これらの結果は、Law et al34によってモノカチオン性イオン液体について入手された結果とは極めて相違している。イミダゾール環(イミダゾリウムカチオンの環ナンバリングについては表3を参照)の1位において4、8、および12個の炭素アルキル基を含有する一連の1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムをベースとするイオン液体についての表面張力は、アルキル鎖長が増加するにつれて有意に減少することが報告された34。表面張力における最大の減少は、表面張力における総減少が330Kでほぼ20ダイン/cmである1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸および1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸との間で観察された。特定の温度で固定されたカチオンについては、より大きなアニオンを備える化合物はより高い表面張力を有することも提案された。しかし、本発明者らのデータは、これはジェミナルジカチオン性イオン液体については当てはまらず、むしろ、モノカチオン性タイプのイオン液体について以前に観察されたデータとは反対であることを示す(表1および2)。
【0063】
二イオン液体17〜20は、イミダゾリウム環の3位で非極性ブチル基を含有する。表面張力値は、ノナンおよびドデカン連鎖各々によって分けられる3−メチルイミダゾリウムジカチオンを含有する二イオン液体9〜12および13〜16の表面張力値より有意に小さい(11%〜17%)。このデータは、イミダゾリウム環の3位上に位置するアルキル置換基は、ジェミナルジカチオンを分離するアルキル連鎖より表面張力を低下させることにより重要な役割を果たすことを示すと思われる。
【0064】
水素をイミダゾリウム環上の2位(表1、2、および3を参照)上のメチル基と置換することは表面張力に影響をほとんど及ぼさない。NTf2-およびBF4-アニオンを備えるノナン連鎖によって分けられる2,3−ジメチルイミダゾリウムジェミナルジカチオンを含有する二イオン液体25および26の場合には、表面張力値は、ノナン結合鎖も含有する対応する3−メチルイミダゾリウムジカチオン(二イオン液体10および11)に類似する。総合すると、このデータは、イミダゾリウム環の3位におけるアルキル鎖長が増加するにつれて、表面張力は結合連鎖長における対応する増加よりはるかに激しく減少することを示す。
【0065】
密度。図2に示したように、3−メチルイミダゾリウムジェミナルジカチオン性イオン液体の密度は、アニオン依存性であり、炭化水素連鎖長が増加するにつれて減少することが見いだされた。連鎖の増加はこれらのイオン液体の密度を減少させるが、アニオンの性質はNTf2->PF6->Br>BF4の順序で密度により大きな影響を及ぼす(表1、2、および図2)。アルキル鎖長が増加するに伴った密度の減少は、大きな一連の1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムイオン液体について以前に報告されている26-27
【0066】
イミダゾリウム環の3位上のメチル基がブチル基と置換されると、密度は、アニオンとは無関係に、一連の全イオン液体について減少する(9〜12を17〜20と比較せよ、表1)。しかし、環の2位での水素をメチル基と置換しても密度は変化しないと思われる(表1、10〜11および25〜26を参照)。
【0067】
融点。この試験から、4つの主要因子がこれらのジェミナルジカチオン性イオン液体の融点に影響を及ぼすことが見いだされた。同様にジアニオンに当てはまるこれらの因子は、(1)ジェミナル二イオンを分離する連鎖もしくは架橋の長さおよびタイプ、(2)二イオン(例えば、イミダゾリウム対ピロリジニウム)の性質、(3)置換基およびジアニオン上のそれらの配置、ならびに、(4)対イオンの性質である。
【0068】
最初に3−メチルイミダゾリウムをベースとするジカチオン性イオン液体を考察すると、架橋基が長いほど結果として融点が低下する。この観察所見は、一般に二イオン液体に該当する。使用された連鎖とは無関係に全部が液体であるNTf2-アニオンを備えるジェミナルジカチオンを除く上述の全部の場合において、3〜6本の炭素連鎖を含有する化合物は、相当に高い融点を備える塩であった。3−メチルイミダゾリウムジカチオンとノナン連鎖とを結合することによって、88℃の融点を有するヘキサフルオロリン酸塩を除いて全サンプルは常温イオン液体であった。しかしジカチオンがドデカン連鎖によって結合された場合は、全化合物が常温イオン液体であった。本発明による二イオン液体を作製するために使用できるジアニオンおよびジカチオンをより一般的に見ると、イオン種間の鎖長は2炭素鎖の長さより長く、そして40炭素鎖より短くなければならない。好ましくは、鎖長は3〜30炭素鎖の長さと同等である。存在する場合は、置換基の程度およびタイプは、同様に長さに影響を及ぼし、分子が大きいほど、一般に固体/液体転移温度が高くなる可能性がある。このため、結果として生じる二イオン液体塩の融点が約400℃未満、好ましくは約100℃以下、好ましくは約60℃、より好ましくは約常温(25℃)以下である限り、任意の鎖長、任意の鎖含量および任意の鎖置換パターンを使用できる。
【0069】
ジカチオンを結合している架橋の相違する長さおよびタイプの作用に加えて、アニオンは融点を決定する際にもある役割を果たした。ほぼまさにイミダゾリウムジカチオンの場合には、融点は以下の順序で上昇した。NTf2-<BF4-<PF6-<Br-(表1および2)。
【0070】
ジカチオン性イオン液体を形成するために使用できる他のアニオンには、制限なく、トリフレート、カルボン酸塩、スルホン酸塩および硫酸塩(モノ−およびポリアニオン性種の両方)が含まれる。ジアニオン性イオン液体は、安定性塩を形成できる、好ましくは400℃未満、より好ましくは100℃以下、最も好ましくは常温(25℃)以下の融点を有する任意のジアニオンから製造できる。これらには、ジカルボン酸塩、ジスルホン酸塩、および二硫酸塩が含まれる。例えばジカルボン酸塩および二硫酸塩から作製された混合ジアニオンもまた望ましい。これらのためのカチオンまたは対イオンには、制限なく、それらのモノカチオン性対応物と同様に、表1および2に列挙したジカチオンが含まれる。これは、それらが安定性の二イオン性塩を形成することができ、上述の融点を有することが前提である。
【0071】
置換基およびイミダゾリウム環上のそれらの位置もまたこれらの化合物の融点に影響を及ぼした。これらの同一の考察は、置換アニオンにも同様に当てはまる。ノナン連鎖によって結合された3−ブチルイミダゾリウムジカチオンを含有する17〜20を考察すると、メチル基(9〜12参照)をブチル基と置換することによって融点が有意に低下した。PF6-アニオンを備えるノナン連鎖によって結合された3−メチルイミダゾリウムジカチオンからなる12の場合には、融点は20を形成するためにメチル基をブチル基と置換することによってほぼ60℃低下する。さらに、イミダゾリウムジカチオンの2位のメチル化は、これらの化合物の融点を有意に増加させる(表1、21〜27参照)。プロパン連鎖によって結合された2,3−ジメチルイミダゾリウムジカチオンを含有する21の場合には、融点は、同様にプロパン連鎖(1)によって結合された対応する3−メチルイミダゾリウムジカチオンよりほぼ135℃高い。Ngo et alは、以前に1−エチル−3−メチルイミダゾリウム臭化物についての融点が79℃であるが、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム臭化物についての融点は141℃であり、その差はほぼ62℃であることが見いだされたと報告している35。イミダゾリウム環の2位上のメチル基はジェミナルジカチオン性イオン液体の表面張力および密度にはほとんど影響を及ぼさないが、従来の1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムイオン液体についてよりジカチオン性イオン液体についての方が、それらの融点には顕著な作用を及ぼすと思われる。
【0072】
最後に、3−メチルイミダゾリウムジカチオンを3−ベンジルイミダゾリウムジカチオン(28〜30)と置換し、それらをドデカン架橋によって結合することによって、融点は、特に臭化物塩の場合には、3−メチルイミダゾリウムシリーズに比較して高いと思われる。
【0073】
一般に、ピロリジニウムをベースとするジェミナルジカチオン性化合物の融点は、それらの対応するイミダゾリウム類似体の融点より有意に高い。実際には、それらのNTf2-塩のうち2つだけがイオン液体であると見なすことができる。しかし、以下で考察するように(下記参照)、これらの特定のRTILは、最大の熱安定性およびその他の高度に有用かつ興味深い特性を有する可能性がある。
【0074】
ピロリジニウムをベースとするジカチオンについての融点は、イミダゾリウムをベースとする塩に対して類似の傾向を示す。プロパンおよびノナン連鎖を含む2つの場合において、融点は連鎖が長くなるほど低下する。しかし、イミダゾリウムをベースとするジカチオンとは対照的に、ピロリジニウムをベースとするジカチオンはノナンアルキル鎖によって分離される場合はなお比較的に高い融点固体である。さらに、ピロリジニウムカチオンの第3級アミン上のメチル基に代えてブチル基を置換すると、臭化物ジカチオンにおいては融点の低下を引き起こすが、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよびヘキサフルオロリン酸アニオンを含有するジカチオンにおいては融点の上昇を引き起こす。
【0075】
表1および2に記載のデータから、第3級アミン上の長いアルキル連鎖および長い脂肪族置換基は低融点塩または常温イオン液体のどちらかを生成すると思われる。さらに、NTf2-塩は、他のアニオンを備える対応する塩より低い融点を有する。連鎖(架橋)、およびジェミナルジカチオン性塩上の置換基が可能性のある立体構造状態の数(および可能性のある結晶多形)に及ぼす寄与は、本明細書の結晶構造のセクションにおいて考察する。
【0076】
溶解度。水中およびヘプタン中の全39種のジェミナルジカチオン性イオン液体の溶解挙動についてもまた調査した。ジカチオン性イオン液体はいずれもヘプタンに溶解性ではなかった。しかし、臭化物およびテトラフルオロホウ酸塩を含有するイオン液体の大部分は水に溶解性であった。それでも、テトラフルオロホウ酸塩イオン液体については、長い連鎖およびイミダゾリウム環の3位上のより疎水性のアルキル置換基を使用することによって(化合物15および19参照)、塩の水への溶解度は減少する。一般に、水中およびヘプタン中のジェミナルジカチオン性イオン液体の溶解挙動は、水と不混和性であるNTf2-およびPF6-塩、ならびに、水と混和性であるBr-およびBF4-塩を含むモノカチオン性イオン液体に極めて類似していた。実際に、本発明の二イオン液体の一イオン性対応物は、二イオン液体塩の溶解度の優れた予測因子である。
【0077】
ドデカン連鎖および臭化物アニオンによって分けられる3−ベンジルイミダゾリウムジカチオンからなるジカチオン性イオン液体28の場合は、ジカチオンの疎水性は明白に、非水溶性であるこの特定のイオン液体を作製するために臭化物アニオンの配位性質に優先する。これは、所望の特性および特徴を備えるイオン液体(または固体)を生成するために個々のカチオンおよびアニオンの特性を平衡させて変化させることのできる優れた例である。
【0078】
熱安定性。ジェミナルジカチオン性イオン液体の熱安定性は、多数の従来のイミダゾリウムをベースとするイオン液体について観察された熱安定性より有意に高いことが見いだされた。熱安定性は、溶融シリカキャピラリーの内壁上に約0.15〜0.20ミクロンのイオン液体の薄膜を固定化することによって測定した。次にキャピラリーは、イオン液体の何らかの揮発もしくは分解を検出するために使用したオーブンおよび高感受性水素炎イオン化検出器(または質量分析計)内で緩徐に加熱した。イオン液体の熱安定性を測定するためにこのセットアップを使用することにはいくつかの長所がある。熱安定性は、ヘリウム、水素、または窒素などの不活性ガスの連続流を用いてキャピラリーをパージすることによって酸素の不在下で測定する。さらに、検出器の検出限界は、イオン液体から熱誘導された分解/揮発生成物の極めて高感受性の検出を可能にするために極めて低い(化合物に依存して、約10ppm〜10ppb)。最後に、このアプローチは、質量分析による検出を使用して可能性のある揮発/分解生成物を決定することができる。
【0079】
図3は、3種の従来のイオン液体および4種のジカチオン性イオン液体を含有する熱安定性図を示す。
従来のイオン液体は、145℃(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩化物)〜185℃(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)に及ぶ熱安定性を有する。しかし、ジェミナルジカチオン性イオン液体の熱安定性は、使用したカチオンに依存して、330℃〜400℃の範囲内であると観察された。
最高熱安定性(>400℃)はC9(mpy)2−NTf2(35)イオン液体(ノナン連鎖によって分けられる1−メチルピロリジニウムジカチオン)を用いて得られ、他方
最低揮発/分解温度(330℃)はC9(bpy)2−NTf2(38、ノナン連鎖によって分けられる1−ブチルピロリジニウムジカチオン)イオン液体を用いて観察された。
9(mim)2−NTf2(10、1−メチルイミダゾリウムジカチオン)およびC12(benzim)2−NTf2(29、ドデカン連鎖によって分けられる3−ベンジルイミダゾリウムジカチオン)の最大熱安定性はほぼ同一(350〜360℃)であることが観察された。大多数の場合には、これらの高温ではジカチオン性イオン液体の微量から中等度の分解/揮発が観察された。しかし、これらの高温では溶融シリカキャピラリーチューブの外側のポリイミドコーティングの炭化が生じるために、イオン液体は400℃までしか試験しなかった。
【0080】
ジカチオン性イオン液体の物理的および熱的特性は極めて印象的であるが、また別の興味深い事実は、これらの化合物の一部は400℃を超える有用な液体範囲を有し、これらの(C9(mpy)2−NTf2)35の1つが約−4℃から>400℃までの安定的液体範囲を有することである。この特性は、明白に、この大きな液体範囲および高熱安定性を利用できる極めて広範囲の適用のためのそれらの使用を保証する。
本発明の1つの態様によると、ジアニオンまたはジカチオンの塩である本発明のイオン液体は安定性である。本発明の文脈における安定性は、それらが本明細書で記載したように逆相ガスクロマトグラフィーによって測定された場合に約200℃未満の温度では実質的に分解も揮発もしないことを意味する。より好ましくは、ジアニオン性またはジカチオン性塩である本発明の安定性イオン液体は、それらが約300℃未満の温度では実質的に分解も揮発もしないという点で安定性である。
【0081】
図3では、約200℃〜約300℃の間での化合物D、EおよびFについて示した検出器反応は、不純物由来であって試験化合物由来ではないと考えられる。さらに、1時間にわたり200℃に、または好ましい実施形態では300℃に曝露させたときに、試験した物質の重量の10%未満しか分解もしくは揮発しないので、それらは本発明によって安定性であると言える。
【0082】
本発明による特に好ましい実施形態では、それらが200℃未満の温度で実質的に分解も実質的に揮発もしない、そして400℃以下の固体/液体転移温度を有するという点で安定性であるジアニオン性またはジカチオン性イオン液体塩が提供される。より好ましくは、100℃以下の固体/液体転移温度を有し、最も好ましくは25℃以下の固体/液体転移温度を有する。
【0083】
以前に言及したように、二イオン液体(本明細書で記載したようなジアニオンおよびジカチオンの塩)は、それらの広範囲の温度での安定性および固有の液体特性のために重要な使用を有する。これらの液体の多くは、基本的観点からはそれらの結晶格子のエネルギーに左右される予想外に低い固体/液体転移温度を有する。これらのエネルギーを正確に計算する、すなわち原子−原子電位の真の決定のための周知のむしろ重大な障害が存在する。他方では、このファミリーのイオン性化合物についての固体/液体転移温度の正確な測定(比較のために必要とされる)もまた困難を有する。転移は時間的に急激ではなく、DSC曲線上のピークは極めて幅広くなる。明示的に述べると、この転移温度は、固体状態と液体状態との熱力学的平衡の温度である真の融点とは極めて相違する可能性がある。
【0084】
溶媒和特性。本発明者らは以前に、液体の溶媒和特性を説明するために逆相気液クロマトグラフィーを利用する線形遊離エネルギーアプローチであるAbraham溶媒和モデルは、常温イオン液体を特性解析するために使用できると報告した31。方程式1によって記述されるように、このモデルは、広範囲のプローブ溶質分子について溶質記述子(R2、π2H、α2H、β2H、log L16)へ保持係数(k、クロマトグラフィーによって決定される)を当てはめるために多重線形回帰分析を使用することによっていわゆる「相互作用パラメーター」(r、s、a、b、l)を提供する。
【化8】

4種のジカチオン性イオン液体の溶媒和特性(表4参照)を評価し、相互作用パラメーターをそれらの従来モノカチオン性アナログ1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムおよび1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオン液体について入手された相互作用パラメーターと比較した。
【0085】
【表4】

【0086】
ジカチオン性イオン液体C4(mim)2−NTf2およびC9(mim)2−NTf2(10)のほぼ全部の相互作用パラメーターは、対応するモノマータイプのイオン液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに類似する。これは、それがモノマータイプのアナログである(1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)とは相違するので、ピロリジニウムジカチオンであるC9(mpy)2−NTf2(35)についても観察された。これは、従来RTILの周知の高度に有用な溶媒和特性がジェミナルジカチオン性RTILの溶媒和特性と極めて類似することを示す。3種のイオン液体間で統計的に相違する唯一の相互作用パラメーターは、「r」相互作用パラメーター、つまりイオン液体がプローブ溶質分子とのπ−π、およびn−π相互作用を受ける能力である。ピロリジニウムジカチオンは芳香族ではないので、各アニオンはr値が高いほどそのような相互作用を受けることができる2つのスルホン基を含有するのでアニオンに起因する可能性がある。しかし、これは本発明者らの試験において以前に評価された従来イオン液体については観察されなかった31
【0087】
最後に、NTf2-アニオンを備えるドデカン連鎖によって分けられた3−ベンジルイミダゾリウムジェミナルジカチオン(29)についての相互作用パラメーターは、1−ベンジル−3−アルキル−イミダゾリウムイオン液体について以前に観察された相互作用パラメーターに類似すると思われる。しかし、水素結合酸度の用語bは、ジェミナルジカチオン性イオン液体についてより大きい。これは、電子求引性ベンジル基によって誘導されたイミダゾリウム環の2位でのプロトンの増加した酸度に起因しているかもしれない4
【0088】
上述のように、一部の二イオン性塩の粘度は、温度の上昇に伴って急激に減少する。結果として高温では、事前に均質に被覆されたキャピラリー、特に固定化よりむしろ吸着または吸収によって調製されたキャピラリーは、薄膜破壊(流動などのため)を経験することがある。均質に被覆されたGCキャピラリーが、例えば不均質に被覆された実体へ緩徐に変化した場合は、分析物保持時間および効率は減少する傾向がある。
【0089】
これらの問題を克服するために必要な場合は、そして本発明のまた別の態様によると、より耐久性で頑丈な固定相はもちろん、架橋および/もしくは固定化された固定相、ならびに、同一物を含むカラムを提供するために、イオン液体モノマーの遊離ラジカル反応を含むプロセスが提供される。
低パーセンテージの遊離ラジカル開始剤を用いてイオン液体固定相を部分的に架橋結合させることによって、カラムブリードをほとんど伴わずに高温に耐えることのできる高効率のキャピラリーカラムが製造される。特別な部分架橋イオン液体固定相混合物を用いて高選択性および効率を備える低温から中温(30℃〜280℃)分離を実施できることが見いだされた。
これらの固定相は、それらの「ゼラチン性」、「半液体」非晶質状態を保持する。高温(300℃〜400℃)で実施された分離のためには、低カラムブリードを伴う高度の選択性および効率の分離を提供するために、より高度の架橋/固定化固定相が明確に適合する。相違する官能化イオン液体塩混合物および開始剤濃度の作用をこれら2つのタイプの固定相について試験した。成し遂げられた目標は、固定相の固有の選択性を犠牲にすることなく、それらの分離効率、熱安定性、およびカラム寿命を最高化することであった。
【0090】
本発明による二イオン液体塩を含む架橋固定相の固有の長所を例示するために以下の物質を使用した。1−ビニルイミダゾール、1−ブロモヘキサン、1−ブロモノナン、1−ブロモドデカン、1,9−ジブロモノナン、1,12−ジブロモドデカン、1−ブロモ−6−クロロヘキサン、1−メチルイミダゾール、N−リチオトリフルオロメタンスルホンイミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジクロロメタン、酢酸エチル、および全試験溶質はAldrich社(ワイオミング州ミルウォーキー)から購入した。未処理溶融シリカキャピラリーチューブ(内径0.25mm)および19種の標準物質を含有する脂肪酸メチルエステル(FAME)キットはSupelco社(ペンシルベニア州ベラフォンテ)から購入した。使用したモノカチオンモノマーおよびジカチオン架橋剤の構造および物理化学的特性は表Aに示されている。モノマー1、2、および3は、1モル当量の1−ビニルイミダゾールをわずかにモル過剰の1−ブロモヘキサン、1−ブロモノナン、および、1−ブロモドデカンの各々と反応させることによって合成した。これらの反応は、常温で、熱/光誘導性重合を防止するためにアルミニウムホイルで内張りした丸底フラスコ内で実施した。望ましくないイオン液体の反応を防止するために反応または回転式蒸発中の過剰な熱/光線を最小限に抑えるためにこれらの化合物を合成および精製する場合には細心の注意を払わなければならない。過剰な1−ブロモアルカンを除去するために、結果として生じる臭化物塩を真空下で蒸発させた。任意の他の不純物を除去する目的で15mLのアリコートの酢酸エチルを使用してイオン液体を3回洗浄した。真空下で酢酸エチルを蒸発させた後、臭化物塩を水中に溶解させ、1モル当量のN−リチオトリフルオロメタンスルホンイミドと混合し、さらに水に溶解させた。12時間攪拌した後、水を除去し、残っているイオン液体は水の50mLのアリコートを用いて水で完全に3回洗浄した。水の第3アリコートの一部分は、臭化銀沈降物の不在を保証するために硝酸銀試験にかけた。次にモノマーを真空下で乾燥させ、その後、光線が不在のP25真空下に置いた。
【0091】
ジカチオン架橋剤は、一連のジェミナルジカチオン性イオン液体について最近報告された変法を用いて合成した40。表A中の化合物4は、図4におけるエレクトロスプレー質量スペクトル図に示したように、1:2:1のモル混合物中で各々C6(vim)22+(m/z=272.1)、C6vm(im)22+(m/z=260.1)、およびC6(mim)22+(m/z=248.1)の混合物である。陽イオンモードで獲得した場合は、これらの3種の構造的に類似の化合物について最も優勢なイオンは+1イオンから1プロトンを引いたものであると思われる。
イミダゾリウム環上のC−2プロトン(環系のナンバリングについては図4参照)が重水素化される本発明者らのグループにおいて実施したまた別の実験は、このプロトンが失われ、陽荷電芳香族環の1つが電荷を中和して+1イオンの発生を引き起こすことを示す(データは示していない)。この混合物は、1モル当量の1−ブロモ−6−クロロヘキサンを氷浴中で1モル当量の1−メチルイミダゾールと一晩反応させることによって合成した。引き続いて、1モル当量の1−ビニルイミダゾールを30分間かけて滴下し、混合物の温度を3時間にわたり55℃へ上昇させた。15mLの酢酸エチルを使用して任意の過剰な出発物質を3回抽出し、各1当量の架橋剤塩のために水に溶解させた2当量のN−リチオトリフルオロメタンスルホンイミドの反応によって臭化物アニオンをビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミド(NTf2-)アニオンと置換した。
【0092】
類似の方法で、残留している架橋剤5、6、7、および8は、1モル当量のジブロモアルカンを2モル当量の1−ビニルイミダゾールと反応させることによって調製した。化合物9は、1モル当量の1−メチルイミダゾールを1モル当量の1−ブロモノナンと100℃で5時間反応させることによって調製した。NTf2-アニオンについての清浄化および複分解交換は、モノマーイオン液体の合成について上述したのと同様に実施した。
【0093】
キャピラリーは、40℃で静的コーティング法を用いて被覆した。モノマーおよび/または架橋剤イオン液体の被覆溶液は、ジクロロメタン中で0.20%(w/v)の濃度で調製した。ジクロロメタンをモノマーおよび/または架橋剤混合物へ添加する前に、0.7mgのAIBN(重量で約3.5%)を加えた。AIBNは分解されるとシアノイソプロピルラジカルを形成し、その後に二量体化、不均化反応、または連鎖反応によって数種の生成物を生成することが知られている42。AIBNの熱分解動態は、様々な分光分析およびポーラログラフ分析技術を用いて明確に試験されてきた43。Arrheniusプロットに基づいて、Van Hookおよび共同研究者らは、溶液中のAIBNを分解するための速度表現がkd=1.58×1015 exp(−30.8kcal/RT)であると提案した42。キャピラリーが被覆溶液中に存在する開始剤で被覆される40℃という温度については、これは約5.07×10-7sec-1の分解速度定数を生じさせる。この速度定数は極めて小さい、そして被覆速度が相当に速いという事実のために、キャピラリーの被覆中にはモノマー/架橋剤混合物の重合はほとんど生じるはずはない。
【0094】
被覆後、キャピラリーの両端を水素炎で密封し、キャピラリーをGCオーブン内に配置し、40℃〜80℃へ1℃/分で加熱した。キャピラリーは、完全な重合を保証するために80℃で5時間にわたり保持した。ヘリウムキャリアガスを次に1mL/分の速度でキャピラリーに通してフラッシュし、キャピラリーを30℃〜120℃へ3℃/分でコンディショニングし、2時間にわたり120℃で保持した。
【0095】
溶媒和熱力学の法則は、移動相と固定相の間の溶質のGibbs遊離エネルギー変化ΔG°を方程式1:
【数1】

(式中、kは溶質保持係数であり、Фはカラム相比である)によって記載できることを認識することによって、クロマトグラフィーにより決定できる。次に方程式2に示した表現を誘導することができ、温度に伴う保持係数の変化へのエンタルピーΔH°、およびエントロピーΔS°の依存性を例示する。
【数2】

Inκ対1/Tのvan’t Hoffプロットは、エントロピー(切片)およびエンタルピー(勾配)を提供し、気相からイオン液体固定相への溶質の転移を記述する。本研究では、溶媒和熱力学は、2つの架橋イオン液体相および1種のイオン液体固定相上で、表Dに列挙した7種の異なるプローブ分子について決定した。
表Dが示すように、本試験で評価したプローブ分子は、それらが有する官能基のサイズおよびタイプに関して相違している。各固定相上の各プローブ分子について、プローブ分子保持係数における変化が、各熱力学的パラメーターについて誤差を提供するために使用されるように3つの別個のvan’t Hoffプロットを構築した。プローブ分子保持係数は、可能性のある最高相関係数(>0.989)を入手するために6種の温度で決定した。
【0096】
本発明者らは、以前に極めて多数の常温イオン液体を、方程式3に示した溶媒和パラメーターモデルを用いて多重溶媒和相互作用によって特性解析した44
【数3】

このアプローチは、逆相気液クロマトグラフィーを利用し、個別の溶媒和相互作用のタイプおよび大きさによって溶質保持を逆重畳するために極めて多数のプローブ分子の使用を許容する。
方程式3からの溶質記述子(R2、π2H、α2H、β2H、log L16)は、様々な官能基を含有する多数のプローブ分子についての参考文献から入手した45。保持係数は、クロマトグラフィーによって決定した。溶質記述子および保持係数は、最終的には固定相を特徴づける相互作用パラメーター係数(r、s、a、b、l)を入手するために多重線形回帰分析を受けさせた。rは二イオン液体含有固定相が溶質のπおよびn電子と相互作用する能力である、sは二イオン液体含有固定相の二極性/分極性の尺度である、aは二イオン液体含有固定相の水素結合塩基度を規定する、bは水素結合酸度の尺度である、そしてlは二イオン液体含有固定相が一連の同種の隣接メンバーを分離する能力を意味する46
【0097】
相互作用パラメーターおよび溶媒和熱力学の法則を決定するために使用される試験溶質をジクロロメタン中に溶解させた。Hewlett−Packard製5890型ガスクロマトグラフおよびHewlett−Packard製6890シリーズ積算計を全分離のために使用した。スプリットインジェクションおよび水素炎イオン化検出は、250℃のインジェクションおよび検出温度を用いて利用した。ヘリウムは3.1psiのカラム入口圧および1.0mL/分の流量を備えるキャリヤーガスとして使用した。メタンを使用してカラムのデッドボリュームを決定した。多重線形回帰分析および統計的計算は、プログラムAnalyse−it(Microsoft社)を使用して実施した。
【0098】
静的被覆法47を用いてガスクロマトグラフィーキャピラリーのための固定相膜厚を概算するためには、方程式4:
【数4】

(式中:dfはμmでのイオン液体固定相の膜厚であり、dcはキャピラリーの径(μm)であり、そしてcは適切な溶媒中に溶解させた固定相の重量%濃度である)を使用できる。図5は、1−ヘキシル−3−ビニルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミデートの膜厚が100℃でのナフタレンのピーク効率に及ぼす作用を示す。
プロット図が明白に示すように、最高効率分離は約0.07μm(ジクロロメタン中で0.10%(w/v)のイオン液体)の膜厚を用いて実施されたが、他方最悪効率分離は約0.21μm(0.33%(w/v))の膜厚を備えるカラム上で取得された。
本研究では、全キャピラリーを、ほぼ0.125μmの膜厚を産生する0.20%(w/v)のコーティング液を用いて被覆した。
【0099】
表Aに記載のイオン液体を用いて、モノカチオン性/架橋剤モノマーの比率がいかなる値であるとGC固定相についての理想的特性を有するコポリマーとなるかを決定するためにMuldoonおよび共同研究者の方法48にしたがって、様々な遊離ラジカル架橋実験がクロロホルム内で実施された。
例えば、ほんの数重量%の架橋剤を含有する一部のコポリマー(すなわち、モノマー1および5から形成された)はガム様ポリシロキサン相に似ている。しかし、他の高度に架橋したコポリマーは硬質プラスチックを形成したので、このため気液クロマトグラフィー分離のためには望ましくない。
【0100】
モノカチオン性モノマーイオン液体1、2、および3は、ヘキシル、ノニル、およびドデシルアルキル鎖を各々備える1−ビニルイミダゾリウムカチオンを含有する。これらのイオン液体は、重合すると、Marcillaおよび共同研究者49によって以前に証明されたように、直鎖状ポリマーを形成する。
表Bに示したように、これらの固定相は、120℃へコンディショニングしたときにイオン液体1については2,813段/mおよびイオン液体3については約1,900段/mの範囲内のある範囲の初期分離効率を示した。ヘキシル置換ビニルイミダゾリウムカチオンはより効率的な固定相被覆を生じさせると思われるが、より高いコンディショニング温度を用いた、引き続いての固定相の評価はこれらのキャピラリーの効率が迅速に減少することを明らかにした。350℃へコンディショニングした後に、イオン液体の揮発は数百段/mへ低下する効率を生じさせた。380℃へキャピラリーをコンディショニングした後にはナフタレンの保持は観察されなかったが、これは不充分な量のイオン液体がキャピラリー壁上に残存することを示していた。
【0101】
より熱的に頑丈なイオン液体マトリックスを生成するために、ジカチオンを分離する様々な長さのアルキル鎖を備えるジェミナルジカチオン性ビニルイミダゾリウム架橋剤をモノカチオン性モノマーと混合した。これらの混合物は、表Bの「部分/完全架橋結合マトリックス」の見出しの下に示されている。本発明者らの以前の溶液をベースとする重合実験から、理想的な固定相特性を示すマトリックスの形成のためには架橋剤の濃度が極めて重要であることが見いだされた(データは示していない)。化合物4(表A参照)は、6炭素連鎖によって分けられる3種のジカチオン性イオン液体の混合物である。エレクトロスプレー質量分析法は、1,6−ジ(3−メチルイミダゾリウム)ヘキサン[C6(mim)22+]ジカチオンおよび1,6−ジ(3−ビニルイミダゾリウム)ヘキサン[C6(vim)22+]ジカチオンの各1つについて、2つの1−(3−ビニルイミダゾリウム)−6−(3’−メチルイミダゾリウム)ヘキサン[C6vm(im)22+]ジカチオンが存在することを示した。
カラムをこの混合物だけの重合/固定化によって調製した場合は、120℃へのコンディショニング後の初期効率はほぼ3,000段/mであった(表B)。さらに。効率は、キャピラリーをより高温でコンディショニングした後にはそれほど大きくは低下しなかった。例えば、架橋剤を含まないモノカチオン性イオン液体の効率の範囲は同一コンディショニング工程後には120〜197段/mであったのに対して、350℃でコンディショニングした後の4の効率は1,365段/mであった。
明らかに、イオン液体を架橋させることによって、固定相の効率および熱安定性はより高温において保存される。
【0102】
一連の相違する架橋結合ILもまた、上述の1−ビニル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミデート(1)およびジカチオン混合物4の様々な比率を用いて合成した。
最高効率は、等パーセンテージのモノカチオン性および架橋モノマーを用いて形成された架橋結合混合物を用いて得られたが、他方より高濃度の架橋剤を用いて形成されたコポリマーはより低効率を示した(表B参照)。
モノカチオン性モノマーのアルキル側鎖の作用は、2種の他のモノカチオン性モノマーである1−ビニル−3−ノニルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミデート(2)および1−ビニル−3−ドデシルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミデート(3)を用いて等モル比率の架橋混合物4を調製することによって調査した。表Bが表示するように、高温での分離効率および効率の消失によってこれらの様々な組成架橋マトリックス間の相違は極めて小さい。以前に、モノカチオン性モノマーが架橋剤を使用せずに重合されたときに、アルキル基の長さはより高温での固定相の分離効率/熱安定性に作用を及ぼすと思われると言及したことを思い出されたい。これは、モノカチオン性モノマー上のアルキル基の長さが、それが架橋固定相の一部である場合には高温での分離効率の消失には小さな役割しか果たさないことを証明している。
【0103】
架橋モノマーだけをベースとしているイオン液体固定相についてもまた評価した。表Bに示したように、1つの混合物はノナン連鎖によって分けられるビニルイミダゾリウムジカチオンの架橋に基づいているが(0.20%、5)、他方第2混合物はイオン液体5、6、7、および8から、つまりノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカン連鎖各々によって分けられるジカチオン性イオン液体モノマーから構成した。表4におけるC9-12(vim)2−NTf2と略記された4種の架橋剤のこの混合物は、化合物6および8が常温で過冷却固体であるという事実のために、そしてこのため「ガム状」もしくは「ワックス状」固定相を作製するための理想的モノマーではないという事実のために作製した。この混合物は、重量で10.88%の5、9.29%の6、19.59%の7、および60.24%の8からなる。
【0104】
高度に架橋したイオン液体固定相については、モノカチオン性直鎖状もしくは部分架橋物質について観察されなかった二、三の興味深い傾向が観察された。第一に、完全に架橋した固定相の分離効率は380℃へコンディショニングした後には低かったが、イオン液体固定相は、この温度へ長時間曝露させた後でも顕微鏡下で視認した場合にキャピラリー内の薄膜として依然として存在していた。これとは対照的に、高温のコンディショニング後にはほんの少数の部分架橋固定相(表B参照)しかナフタレンの保持を提供しなかった。モノカチオン性モノマー単独を用いて形成された全固定相は、380℃へのコンディショニング後にキャピラリー壁から完全に分解および/または揮発すると思われた。
【0105】
完全架橋イオン液体固定相の最も印象的で興味深い特性は、それらが高温でのコンディショニング後に実質的な効率の上昇を示す明白な能力である。この例は、表Bの「架橋結合イオン液体マトリックス」の見出しの下に見いだされる。1つのそのような例では、上述した4種のジカチオン性架橋剤の混合物を含有する架橋結合マトリックスであるC9-12(vim)2−NTf2が形成され、この固定相の効率は、カラムが300℃から350℃へコンディショニングされた場合に200%〜250%の増加を示すことが観察された(表B参照)。この傾向は試験した全部の高架橋結合固定相について観察され、コーティング溶液中の初期AIBN濃度とは無関係であると思われる(表C参照)。
【0106】
この高度に架橋した固定相の効率は狭い温度範囲内で増加するという事実は明確には理解されていないが、確実にそれらを高温での分離のために極めて有用にする。明らかに、この挙動を示すことによって、これらの固定相は約350℃の温度までは効率の極めて小さな低下しか示さないと思われる。
低温から中温での分離(25℃〜285℃)については、部分的に架橋した固定相、特に等重量%のイオン液体2および5を含有する固定相は、250℃以上の温度ではほとんどカラムブリードを伴わずに285℃までの最高効率分離を提供する。
一方では、完全に架橋した固定相は、約300℃〜380℃の温度まではカラムブリードをほとんど伴わずに最高効率分離を提供する。
このため、これらの2つの最適化されたタイプの固定化イオン液体固定相は、通常のGC温度範囲およびより高いGC温度の各々について特に提案されている。低温から中温での分離は固定相の部分架橋を伴って最適であるが、他方高温での分離は許容できる効率および低いカラムブリードを保持するためにより広範な架橋を必要とする。
【0107】
中温(0.10%の2および0.10%の5)および高温(0.20%のC9-12(vim)2−NTf2)での分離のために選択された2つの最適化架橋固定相が、それらの分離効率および熱安定性にAIBN開始剤濃度が及ぼす作用を決定するために詳細に試験された。
表Bに示したように、各コポリマーは、コーティング溶液中での様々な濃度のAIBNを用いて形成した。これらの濃度範囲は、10.0%(w/w)(AIBN対イオン液体)〜0.5%であった。部分架橋固定相については、より高い重量%の開始剤はわずかに高効率の固定相を生じさせる(すなわち、0.5% AIBNについては3,296段/m対10.0% AIBNについては3,817段/m)。さらに、重量で7.0%および10.0%の開始剤コポリマーの効率は、より低い開始剤濃度で精製したイオン液体マトリックスに比較して高温(>250℃)ほど急速には低下しない。固定相が385℃までの温度勾配を受けた後は、7.0%および10.0%の開始剤を用いて形成された2種のコポリマーしかナフタレンの保持を提供しなかったが、しかし効率は極めて低かった。他の2つの架橋固定相は、高温コンディショニング(385℃)後にはキャピラリー内でもはや観察されず、このために保持を全く提供しなかった。
【0108】
高度に架橋した固定相(0.20%のC9-12(vim)2−NTf2)の場合には、部分架橋イオン液体について観察された傾向とはほぼ反対の傾向が観察された(表B)。最初のコンディショニング工程後のカラムの効率は、より低いAIBN濃度を用いて形成されたコポリマーについてはより高かった。しかし、それでもなおより高い重量%のAIBNは、より低いパーセンテージのAIBNを用いて形成されたコポリマーに比較して、より高い温度でより小さな効率の減少を生じさせることが見いだされた。高度に架橋した固定相の全部が385℃でのコンディショニング後にナフタレンを保持することが見いだされた。上述したように、高度に架橋した固定相は、300℃でコンディショニングした場合に比較して350℃へコンディショニングした後にナフタレンについての分離効率における増加を示す。この増加の大きさは、開始剤濃度と直接的に関連しているとは思われない。例えば、3.5% AIBNを用いて形成されたコポリマーによって示された効率の増加は300℃のプログラムに比較して350℃のプログラム後には約171%高かったが、他方10% AIBNについては約250%高かった。部分架橋イオン液体について以前に観察されたように、効率における全体的減少はより高いAIBN濃度について形成されたコポリマーでは最低であった。
【0109】
これは、高温で最も効率的な固定相は、7.0%より高い重量%のAIBNを用いて架橋した固定相であることを示す。対照的に、低温/常温での分離については、モノカチオン性モノマーおよび架橋剤の選択が、固定相の効率においてより重要な役割を果たし、より高度の開始剤濃度は温度上昇に伴う効率の大きな減少を防止する(表B参照)。
【0110】
以前に、常温イオン液体が、二重性保持挙動を示す点で、広範囲に適用可能な優れたガスクロマトグラフィー固定相として作用することが証明されている44,50,51。結果として、イオン液体固定相は、高効率で、シングルカラム上の極性および非極性分子の両方を分離することが証明されている。部分的もしくは高度に架橋している固定相のどちらかを生成することによって、イオン液体に固有の溶媒和熱力学の法則および溶媒和相互作用が依然としてそれらの固定化アナログに保持されることを保証できるのは興味深い。
【0111】
2種の最適化架橋およびニートイオン液体についての熱力学の法則(表D)および溶媒和相互作用(表E)は、実験のセクションにおいて以前に記載したように決定した。これらの表に記載のデータから明らかなように、溶質の自由移動エネルギーおよび特にそれらの相互作用パラメーターはどちらも架橋およびニートモノマーイオン液体固定相の両方について類似である。全プローブ分子についての溶媒和のエンタルピーは3種のイオン液体間でほんのわずかにしか相違しないが、所定の溶質、すなわち、2−クロロアニリン、エチルフェニルエーテル、およびデカンについては高度に架橋した固定相への溶媒和のエントロピーについてより大きな相違が観察された。溶媒和のエントロピーはこれらの分子についてはいくらかマイナスであったが、これはそれらが高度に架橋した固定相を備えるより順序付けられた環境の一部であることを示す。これらの結果は、これらの3種のイオン液体をベースとする固定相の溶媒和が、溶質自由移動エネルギーにおける大きな差に寄与する実質的なエントロピー成分を有することも示す(表Dにおける2−クロロアニリンおよびデカンについての数値を参照)。
【0112】
表Eに示した溶媒和相互作用パラメーターは、ニートおよび2種の架橋したイオン液体が選択性に関して極めて類似することを示す。全3種の固定相は、非結合性およびπ電子(r−term)によって弱く相互作用する。水素結合塩基度(a)および分散力(l)は、全3種の固定相について実験誤差内で同程度であった。部分的架橋およびニートイオン液体は、高度に架橋したイオン液体によって示されたものよりいくらか低い、同程度の大きさの二極性相互作用を有していた(表E参照)。実験誤差内で、全3種のイオン液体は、水素結合酸度(b)相互作用を受ける同一能力を有した。
【0113】
アルコール、アルカン、多環式芳香族炭化水素(PAH)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、および塩素化殺虫剤を含む極めて広範囲の分析物分子の分離では、イオン液体固定相の固有の選択性が示されている51。イオン液体固定相の選択性がマトリックスを架橋した後に保存されるという事実は、図6および7に証明されている。図6は、部分架橋したIL固定相で被覆された15mのカラム上での19種の脂肪酸メチルエステル(FAME)の分離を示す。この分離は、表示した温度勾配を用いて12分間で実施される。図7は、12mの高度に架橋した固定相上でのPAHと塩素化殺虫剤との混合物の分離を示す。9分間の高温GC分離は、カラムブリードをほとんど観察することなく、335℃までの温度プログラムを用いて実施した。これらのイオン液体の選択性は以前にニートイオン液体を用いて観察された選択性とほとんど相違しないが51、今度は極度の温度への曝露後に高温でカラムブリードをほとんど伴わず、高効率、および保持時間の変化をほとんど伴わずに分離を遂行できるという事実は、固定化イオン液体の有効性をさらに証明している。
【0114】
この研究は、高温でのイオン液体固定相の使用およびカラム耐久性に関連する基本的問題を取り扱っている。詳細には、イオン液体モノカチオン性モノマーおよびジカチオン性架橋剤を使用することによって、固定化GC固定相を展開できることが証明された。
架橋固定相は、全イオン液体固定相に固有の二重性選択性挙動を保持している。さらに、カラムは、高効率分離を同時に提供しながら低カラムブリードで高温で使用できる。
この研究では2つのタイプの固定相が同定されたが、これらはそれらの最高/最低作用温度に関して相違している。部分架橋した固定相は周囲温度から280℃までの温度で実施された分離について最高であったが、他方ほとんどが架橋した固定相は300℃を超える温度について最も適合する。ほとんどが架橋した固定相の中温から高温までの範囲は部分架橋したマトリックスの範囲と重なる可能性があるが、ほとんど架橋した固定相については低温では低効率の分離が観察された。さらに、ほとんどが架橋した固定相の高温での効率における劇的な増加は、高温ガスクロマトグラフィー試験における多種多様な適用のための有効性および有用性をさらに高める。
【0115】
当然ながら、本発明のイオン液体および特に二イオン液体塩は他の分離および分析法において使用できる。それらの適用性の範囲は、決してクロマトグラフィーに限定されない。これらの物質を使用できる1つの技術は固相抽出法(「SPE」)である。SPEでは、サンプルは、分離、同定および/または定量すべき不純物または何らかの他の要素を含有する。このサンプルは、本発明の二イオン液体塩、そしてより広範には、固定化形にあるイオン液体がその中に存在する容器内に入れることができる。イオン液体物質は、容器の底部に静止できる、または液体クロマトグラフィーカラムに固定相を充填できる限りにおいて容器の底部に静止させる、または容器を通して充填できるビーズもしくは他の構造を形成できるように、容器の壁に結合(固定化)する、ビーズもしくは他の構造上に吸着、吸収させることができる。あるいは、本発明のイオン液体および特に二イオン液体塩は、クロマトグラフィーで使用されたビーズなどの一部の種類の他の固体支持体上の本明細書に記載したような架橋結合または類似の固定化反応によって固定化できる。これらのビーズは、容器の底部に配置することができる、または液体クロマトグラフィーのために使用される装填カラムとほとんど同時に容器を充填することができる。当然ながら、固体支持体は、容器内の任意の場所に置かれた任意の構造であってよい。
【0116】
特に好ましい実施形態では、容器は、イオン液体および/または二イオン液体塩がフィルターとほとんど同様に、1つの方法または別の方法で、シリンジの底部に付着または配置されるシリンジである。シリンジのニードルがサンプル内に入れられてプランジャーが引き出されると、真空が形成されてシリンジのバレル内へサンプルが吸引される。この物質は、その液体の構成成分の少なくとも1つに結合するイオン液体、および特に本発明による二イオン液体塩の少なくとも1つの層を通過する。サンプル液体は、次に溢れ出ることができる、またはプランジャーを押し下げると射出することができ、後者はバレルの底部に配置されたイオン液体または二イオン液体塩を通してサンプルを強制的に押し戻すであろう。
【0117】
この液体は、所定の物質の存在、または本発明のイオン液体もしくは二イオン液体塩によって保持された物質の不在のどちらかについて分析できる。または、保持された物質は(相違する溶媒中に物質を配置することなどによって)除去できる、または除去できない、そして他の手段によって分析的に分析できる。同一技術は、分取方法において、および/または同様にバルク精製の手段として使用できる。
【0118】
本発明の固定化イオン液体および二イオン液体塩を使用できるまた別の技術は固相マイクロ抽出法もしくはSPMEである。大まかに言えば、これらの技術では、分離物質(この場合にはイオン液体、または特に本発明による二イオン液体塩)は、通常はガスクロマトグラフィーに使用されるなどのマイクロシリンジ内のプランジャーへ広く付着させた繊維上に1つの方法もしくは他の方法で吸収、吸着または固定化される。
本発明の場合は、固定化イオン液体および吸収、吸着および固定化された二イオン液体塩が意図されている。
プランジャーを押し下げると、繊維が露出され、繊維は次に当該のサンプル内に浸漬される。
プランジャーは次に繊維をシリンジのバレル、または少なくとも保護および輸送のためにニードルのバレル内へ引き戻すために抜去することができる。
シリンジは次にガスクロマトグラフまたは一部の他の器具の隔膜を通して注入することができ、それによって繊維はマイクロシリンジのプランジャーを再び押し下げることによってカラム内に挿入することができる。
GC内で使用された熱は次に揮発させる、または分離および/または同定を可能にするために、GCカラムを通して移動相によって運ばれる場所から結合サンプルを追い出す。それは、HPLCインジェクター内または非緩衝キャピラリー電気泳動法において液体移動相によって溶離することもできる。
【0119】
より詳細には、固相マイクロ抽出は、少量の抽出相(この場合にはイオン液体および好ましくは本発明による二イオン液体塩)が固体支持体上に配置される技術であり、固体支持体はその後にある時間にわたってサンプルへ曝露させられる。サンプルが攪拌されない状況では、サンプルマトリックスと抽出相との分配平衡に到達する。対流が一定である場合には、短時間の平衡前抽出が実現され、抽出された分析物の量が時間と関連付けられる。定量は、次にコーティングにおける分析の時間蓄積に基づいて実施できる。これらの技術は、通常は被覆された繊維(例えば、キャピラリーGCもしくはキャピラリー電気泳動法において使用されるものに類似する溶融シリカ、ガラス繊維、ワイヤー、金属もしくは合金繊維、ビーズなど)、容器、攪拌機構円板などを使用するなどによってオープンベッド抽出コンセプトを用いて実施される。しかし、インチューブ・アプローチについても証明されている。インチューブ・アプローチは、抽出相がキャピラリーの内壁上に被覆されることを必要とし、当該の分析物を含有するサンプルはキャピラリーに曝露され、そして分析物は抽出相への分配を受ける。そこで、物質は、例えばニードルの内壁上に被覆することができ、ニードルは個別の固体支持体を必要とせずに注入することができる。
【0120】
図8は、SPME器具の例を示す(1)。例えば溶融シリカロッド60の外径よりわずかに大きな内径を有するステンレススチール製マイクロチューブ40が使用されている。典型的には、最初の5mmが長さ1.5cmの繊維から引き出され、これは次にマイクロチューブ内に挿入される。この繊維を永続的に装填するためには、高温エポキシ系接着剤が使用される。サンプル注入は、標準のシリンジ注入と極めてよく似ている。プランジャー30の運動は、抽出および脱着中の繊維60の露出、ならびに、隔膜の保管および浸透中のニードル20内でのその保護を可能にする。10はマイクロシリンジのバレルを示し、50はその中にシリコーン繊維が装填されるステンレススチール製マイクロチューブの端部を示す。本発明によるSPMEのために有用なシリンジのまた別のバージョンは、図9に示されている。シリンジ2は、繊維を保持するために短いピースのステンレススチール製マイクロチューブ130から構築できる。より大きなチューブのまた別のピース120はニードルとして機能する。マイクロチューブ130とニードル120との間の接続を密封するためには隔膜110が使用される。石英ファイバー140はマイクロチューブ130の一端を通して露出させられ、他方の端はプランジャー100によって閉鎖されている。プランジャー100を抜去するとマイクロチューブ130およびファイバー140が器具のバレルであるニードル120内に引き入れられる。プランジャー100を押し下げるとこのプロセスが逆転される。これらはしかし代表的構造であり、その内面上に固定化されたイオン液体を備えるニードルまたはチューブを含有するものを含む任意のシリンジ器具もまた意図されている。
【0121】
本発明によって任意の一イオン液体塩または二イオン液体塩を使用できる。以下で示すような二イオン液体は、上述のように固体支持体上に吸収または吸着させることができる。
【化9】

【0122】
さらに、本発明による一イオン液体または二イオン液体塩の両方のイオン液体は、それら自体におよびキャピラリーGCカラムを製造することに結び付けて上記で考察したように固体支持体へ結合または架橋させることによって固定化することができる。しかしそうするためには、使用される種は、反応に固定化を生じさせるために配置された少なくとも1つの不飽和基を有していなければならない。例えば、以下のモノンカチオン性またはジカチオン性種を参照されたい。
【化10】

【0123】
また別のタイプのSPME技術は、作業特異的SPMEまたはTSSPMEとして知られている。作業特異的SPMEは分離もしくは除去を、そしてこのために特定種の検出を可能にする。これらには、例えば水銀およびカドミウムを含むことができるが、この技術は他の物質に同等に適用できる。このコンセプトは、上記でSPMEに関して記載したコンセプトと正確に同一である。しかしこの例では、使用されるイオン液体または二イオン液体は、それらが特定種と特異的に相互作用するようにさらに修飾される。例えば以下に示すものは、カドミウムおよび水銀(Cd2+またはHg2+)の検出において使用できる。最初のモノカチオン性物質は、上述のようにファイバー上に被覆、吸収または吸着させることができる。二イオン液体塩もまた知られている方法で吸収または吸着させることができる。以下に例示する、不飽和基の存在によって第1一イオン性および第2ジカチオン性である第2および第3イオン液体物質は、キャピラリーGCカラムを製造することに結び付けて架橋に関して上述の技術に類似する技術を用いて固体支持体上により容易に固定化することができる。
【化11】

【0124】
最後に、特定のサンプルを、イオン液体および好ましくは本発明による二イオン液体塩を含むマトリックス内に懸濁させることができる。このマトリックスは上述のようにSPMEシリンジのファイバー上に装填もしくは固定化し、そしてSPME/MALDI質量分析法として知られる技術を実行するために質量分析計内に注入することができる55。マトリックスはUVレーザーへ露光させられる。これは、GCにおける熱と同様にサンプルの揮発または遊離を引き起こす。これは、サンプルが、それを分析できる質量分析計に流入するのを可能にする。マトリックスとして使用できるイオン性物質には、制限なく:
【化12】

【化13】

が含まれる。
【0125】
【表5A】

【0126】
【表5B】

【0127】
【表6】

【0128】
【表7】

【0129】
【表8】

【0130】
【表9】

【0131】
【表10】

【実施例1】
【0132】
化合物#2:2の合成は、常温で絶え間なく攪拌しながら丸底フラスコ内の23.5mL(0.295mol)の1−メチルイミダゾールへ15.0mL(0.148mol)の1,3−ジブロモプロパンを滴下法で加える工程を含んでいた。反応は2時間以内に完了した。臭化物塩を100mLの水に溶解させ、25mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。NTf2-塩の合成は、10g(0.03mol)の臭化物塩を100〜150mLの水に溶解させる工程から構成した。2モル当量(0.06mol、3.92g)のN−リチオトリフルオロメチルスルホンイミドを別個のビーカー内の50mLの水に溶解させ、臭化物塩へ直接的に加えた。溶液を12時間攪拌し続けた。イオン液体を除去するために一番上の水層を除去した。さらに30mLのアリコートの水を3回加え、イオン液体が硝酸銀試験に合格するまでイオン液体を用いて抽出した。次に回転式蒸発によりイオン液体を乾燥させ、さらにP25真空下で乾燥させた。
【実施例2】
【0133】
化合物#7:7の合成は、常温で絶え間なく攪拌しながら丸底フラスコ内の15.6mL(0.196mol)の1−メチルイミダゾールへ15.0mL(0.098mol)の1,6−ジブロモヘキサンを滴下法で加える工程を含んでいた。反応は2時間以内に完了した。臭化物塩を100mLの水に溶解させ、25mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。アニオンは、約150mLのアセトン中に10g(0.024mol)の臭化物塩を溶解させることによって交換した。2モル当量のテトラフルオロホウ酸ナトリウム(0.049mol、5.38g)を次にアセトン混合物へ直接的に加えた。24時間にわたり完全に混合させた後、臭化ナトリウムを濾過して除去することにより純粋イオン液体が残留した。サンプルは次に、臭化銀沈降物が存在しないことを保証するために硝酸銀試験を受けさせた。真空下でアセトンを除去し、残留しているイオン液体をP25真空下で乾燥させた。
【実施例3】
【0134】
化合物#17:17の合成は、常温で絶え間なく攪拌しながら丸底フラスコ内の19.4mL(0.148mol)の1−ブチルイミダゾールへ15.0mL(0.074mol)の1,9−ジブロモノナンを滴下法で加える工程を含んでいた。反応は5時間で完了した。結果として生じた粘性液体を100mLの水に溶解させ、35mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。
【実施例4】
【0135】
化合物#25:25の合成は、コンデンサーを装備した丸底フラスコ内の125mLの2−プロパノール中に13.1mL(0.148mol)の1,2−ジメチルイミダゾールを溶解し、15.0mL(0.074mol)の1,9−ジブロモノナンを滴下法で加え、さらに95℃で24時間にわたり環流させる工程を含んでいた。真空下で2−プロパノールを除去した後、臭化物塩を100mLの水に溶解させ、35mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。NTf2-塩の合成は、10g(0.02mol)の臭化物塩を100〜150mLの水に溶解させる工程から構成した。2モル当量(0.04mol、11.48g)のN−リチオトリフルオロメチルスルホンイミドを別個のビーカー内の50mLの水に溶解させ、臭化物塩へ直接的に加えた。この溶液を12時間攪拌し続けた。イオン液体を除去するために一番上の水層を除去した。さらに30mLのアリコートの水を3回加え、イオン液体が硝酸銀試験に合格するまでイオン液体を用いて抽出した。次に回転式蒸発によりイオン液体を乾燥させ、さらにP25真空下で乾燥させた。
【実施例5】
【0136】
化合物#29:29の合成は、コンデンサーを装備した丸底フラスコ内の100mLの2−プロパノール中に25.0g(0.158mol)の1−ベンジルイミダゾールを溶解させ、25.9g(0.079mol)の1,12−ジブロモドデカンを滴下法で加え、さらに95℃で24時間にわたり環流させる工程を含んでいた。この塩の疎水性のために、水には極めて不溶性であることが見いだされた。このため、この塩は酢酸エチル(約75mL)を用いて洗浄し、次にP25下で乾燥させた。臭化物塩は非水溶性であるために、10.0g(0.016mol)を攪拌しながらメタノール中に溶解させた。また別のビーカーに、約50mLの水とともに8.9g(0.031mol)のN−リチオトリフルオロメチルスルホンイミドを加えた。2つの含量を混合し、混合物をほぼ5時間にわたり攪拌し続けた。メタノール水溶液を除去し、この液体を水で洗浄し、次に真空下およびP25下でさらに乾燥させた。
【実施例6】
【0137】
化合物#31:31の合成は、コンデンサーを装備した丸底フラスコ内の100mLの2−プロパノール中に13.0mL(0.128mol)の1,3−ジブロモプロパンを溶解し、26.6mL(0.256mol)の1−メチルピロリジンを滴下法で加え、さらに95℃で24時間にわたり環流させる工程を含んでいた。真空下で2−プロパノールを除去した後、臭化物塩を100mLの水に溶解させ、35mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。
【実施例7】
【0138】
化合物#35:35の合成は、コンデンサーを装備した丸底フラスコ内の100mLの2−プロパノール中に12.0mL(0.059mol)の1,9−ジブロモノナンを溶解し、12.3mL(0.118mol)の1−メチルピロリジンを滴下法で加え、さらに95℃で24時間にわたり環流させる工程を含んでいた。真空下で2−プロパノールを除去した後、臭化物塩を100mLの水に溶解させ、35mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。NTf2-塩の合成は、10g(0.02mol)の臭化物塩を100〜150mLの水に溶解させる工程から構成した。2モル当量(0.04mol、11.48g)のN−リチオトリフルオロメチルスルホンイミドを別個のビーカー内の50mLの水に溶解させ、臭化物塩へ直接的に加えた。溶液を12時間攪拌し続けた。イオン液体を除去するために一番上の水層を除去した。さらに30mLのアリコートの水を3回加え、イオン液体が硝酸銀試験に合格するまでイオン液体を用いて抽出した。次に回転式蒸発によりイオン液体を乾燥させ、さらにP25真空下で乾燥させた。
【実施例8】
【0139】
化合物#38:38の合成は、コンデンサーを装備した丸底フラスコ内の100mLの2−プロパノール中に13.0mL(0.064mol)の1,9−ジブロモノナンを溶解し、20.0mL(0.128mol)の1−ブチルピロリジンを滴下法で加え、さらに95℃で24時間にわたり環流させる工程を含んでいた。真空下で2−プロパノールを除去した後、臭化物塩を100mLの水に溶解させ、35mLのアリコートの酢酸エチルを用いて3回抽出した。真空加熱下で水を除去し、残留している塩をP25真空下で乾燥させた。NTf2-塩の合成は、10g(0.019mol)の臭化物塩を100〜150mLの水に溶解させる工程から構成した。2モル当量(0.037mol、10.62g)のN−リチオトリフルオロメチルスルホンイミドを別個のビーカー内の50mLの水に溶解させ、臭化物塩へ直接的に加えた。溶液を12時間攪拌し続けた。イオン液体を除去するために一番上の水層を除去した。さらに30mLのアリコートの水を3回加え、イオン液体が硝酸銀試験に合格するまでイオン液体を用いて抽出した。次に回転式蒸発によりイオン液体を乾燥させ、さらにP25真空下で乾燥させた。
【0140】
[参考文献]
【表11A】

【表11B】

【表11C】

【表11D】

【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】カチオンおよびアニオンがジカチオン性イオン液体の表面張力に及ぼす作用を示す。
【図2】カチオンおよびアニオンがジカチオン性イオン液体の密度に及ぼす作用を示す。
【図3】超高感受性水素炎イオン化検出器を用いて、一定流量のヘリウム気体下で加熱した溶融シリカキャピラリーの壁に被覆した薄膜の分解/揮発を示す熱安定性図である。このプロット図は、ジェミナルジカチオン性イオン液体(D〜G)が、従来型のイオン液体(A〜C)に比較してはるかに高い熱安定性、および/または低い揮発性を有するという事実を例示する。A、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(BMIM−C1);B、BMIM−PF6;C、BMIM−NTf2;D、C9(bpy)2−NTf2、38;E、C9(mim)2−NTf2、10;F、C12(benzim)2−NTf2、29;G、C9(mpy)2−NTf2、35。
【図4】3つの置換ジカチオンの相対存在量ならびにイミダゾリウム環上のプロトンの消失によって+1イオンが形成されることを示す混合物4の陽イオンエレクトロスプレー質量分析図である。
【図5】1−ヘキシル−3−ビニルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメタン)スルホニル]イミデートの膜厚が100℃でのナフタレンのピーク効率(理論段数/m)に及ぼす作用を例示したプロット図である。
【図6】15mの部分架橋したイオン液体固定相(0.10% nvim−NTf2(2)/7.5% AIBNを含む10% C9(vim)2−NTf2(5))上での脂肪酸メチルエステル(C6−C24)の分離を示したクロマトグラムである。条件:100℃を2分間維持し、15℃/分で260℃にする。
【図7】13mのC9(vim)2−NTf2(7.5% AIBN)の架橋結合している可能性が高いイオン液体固定相上でのPAHおよび塩素化殺虫剤の混合物の分離を示すクロマトグラムである。1、インデン;2、ナフタレン;3、ビフェニル;4、アズレン;5、アセナフテン;6、アセナフチレン;7、ヘプタクロル;8、フルオレン;9、BHC;10、ジベンゾチオフェン;11、DDE;12;エンドスルファン;13、アントラセン;14、ジエルドリン;15、4H−シクロペンタ[def]フェナントレン;16、フルオランテン;17、DDT;18、リンダン;19、ピレン;20、カルバゾール。条件:175℃を1分間保持する;20℃/分で335℃にする。このクロマトグラムにおける番号付けしていない小さなピークは、番号付けした標準物質に含有される不純物である。
【図8】SPMEおよびSPME/MALDI質量分析法のために有用なシリンジである。
【図9】SPMEおよびSPME/MALDI質量分析法のために有用なまた別のシリンジである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約400℃以下の固体/液体転移温度を有する二イオン液体塩であって、架橋基によって分けられる2つの一イオン性基および2つの一イオン性対イオンまたは少なくとも1つの二イオン性対イオンのどちらかを含む二イオン液体塩。
【請求項2】
前記固体/液体転移温度が約100℃以下である、請求項1に記載の二イオン液体塩。
【請求項3】
前記固体/液体転移温度が約25℃以下である、請求項2に記載の二イオン液体塩。
【請求項4】
前記2つの一イオン性基がカチオン性基である、請求項1、2および3のいずれか一項に記載の二イオン液体塩。
【請求項5】
前記カチオン性基が置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状、分枝状、環式もしくは芳香族であってよい第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、チオニウムホスホニウム、もしくはアルソニウム基である、請求項4に記載の二イオン液体塩。
【請求項6】
前記架橋基が、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄もしくはケイ素、およびそれらの混合物を含む基を含み、前記基が置換もしくは未置換、直鎖状もしくは分枝状、飽和もしくは不飽和、環式もしくは芳香族であり、さらにC2−C40炭素鎖の長さにほぼ等しい長さを有する、請求項4に記載の二イオン液体塩。
【請求項7】
架橋または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和基をさらに含む、請求項4に記載の二イオン液体塩。
【請求項8】
前記架橋基が、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄もしくはケイ素、およびそれらの混合物を含む基を含み、前記基が置換もしくは未置換、直鎖状もしくは分枝状、飽和もしくは不飽和、環式もしくは芳香族であり、C2−C40炭素鎖の長さにほぼ等しい長さを有し、そして架橋または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和基をさらに含む、請求項5に記載の二イオン液体塩。
【請求項9】
前記2つの一イオン性基がアニオン性である、請求項1、2および3のいずれか一項に記載の二イオン液体塩。
【請求項10】
前記アニオン性基が、置換もしくは未置換、飽和もしくは不飽和、直鎖状、分枝状、環式もしくは芳香族であってよいカルボン酸基、硫酸基、またはスルホン酸基である、請求項9に記載の二イオン液体塩。
【請求項11】
前記架橋基が、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄もしくはケイ素、およびそれらの混合物を含む基を含み、前記基が置換もしくは未置換、直鎖状もしくは分枝状、飽和もしくは不飽和、環式もしくは芳香族であり、さらにC2−C40炭素鎖の長さにほぼ等しい長さを有する、請求項9に記載の二イオン液体塩。
【請求項12】
架橋または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和基をさらに含む、請求項9に記載の二イオン液体塩。
【請求項13】
前記架橋基が、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄もしくはケイ素、およびそれらの混合物を含む基を含み、前記基が置換もしくは未置換、直鎖状もしくは分枝状、飽和もしくは不飽和、環式もしくは芳香族であり、C2−C40炭素鎖の長さにほぼ等しい長さを有し、そして架橋または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和基をさらに含む、請求項10に記載の二イオン液体塩。
【請求項14】
前記一イオン性基、前記架橋基または前記対イオンのうちの少なくとも1つが少なくとも1つの立体中心(stereogeneic center)を含み、そして少なくとも1対のエナンチオマーを含む、請求項1、2および3のいずれか一項に記載の二イオン液体塩。
【請求項15】
前記エナンチオマーの少なくとも1つが他のエナンチオマーより多い量で存在する、請求項14に記載の二イオン液体塩。
【請求項16】
前記少なくとも1つのエナンチオマーが他のエナンチオマーに比較して約90%以上の量で存在する、請求項15に記載の二イオン液体塩。
【請求項17】
約400℃以下の固体/液体転移温度および約200℃以下の液体範囲を有する二イオン液体塩を含む溶媒であって、架橋基によって分けられる2つの一イオン性基および2つの一イオン性対イオンまたは少なくとも1つの二イオン性対イオンのどちらかを含む溶媒。
【請求項18】
前記2つの一イオン性基がカチオン性である、請求項17に記載の溶媒。
【請求項19】
前記2つの一イオン性基がアニオン性である、請求項17に記載の溶媒。
【請求項20】
前記一イオン性基、前記架橋基または前記対イオンのうちの少なくとも1つが少なくとも1つの立体中心を含み、そして少なくとも1対のエナンチオマーを含む、請求項17、18および19のいずれか一項に記載の溶媒。
【請求項21】
前記エナンチオマーの少なくとも1つが、他のエナンチオマーより多い量で存在する、請求項20に記載の溶媒。
【請求項22】
前記少なくとも1つのエナンチオマーが、他のエナンチオマーに比較して約90%以上の量で存在する、請求項21に記載の溶媒。
【請求項23】
化学的分離または分析において有用な器具であって、固体支持体およびその上に吸着、吸収または固定化された少なくとも1つの二イオン液体塩を含む器具。
【請求項24】
前記二イオン液体塩が架橋基によって分けられる2つの一イオン性基、ならびに、2つの一イオン性対イオンもしくは少なくとも1つの二イオン性対イオンのどちらかを含む、請求項23に記載の器具。
【請求項25】
前記2つの一イオン性基がカチオン性である、請求項24に記載の器具。
【請求項26】
前記2つの一イオン性基がアニオン性である、請求項24に記載の器具。
【請求項27】
前記一イオン性基、前記架橋基または前記対イオンのうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの立体中心を含み、そして少なくとも1対のエナンチオマーを含む、請求項24、25および26のいずれか一項に記載の器具。
【請求項28】
前記エナンチオマーの少なくとも1つが、他のエナンチオマーより多い量で存在する、請求項27に記載の器具。
【請求項29】
前記固体支持体が、クロマトグラフィーカラム内に装填されている、請求項24、25および26のいずれか一項に記載の器具。
【請求項30】
前記固体支持体が、ガスクロマトグラフィーにおいて有用なキャピラリーカラムである、請求項24、25および26のいずれか一項に記載の器具。
【請求項31】
内腔を規定する中空ニードルを有するシリンジをさらに含み、前記ニードルがバレルおよびバレル内に配置されたプランジャーの端部に配置されており、前記固体支持体は、前記プランジャーが前記バレルから引き出されるとニードルの内腔内に引き入れられ、前記プランジャーが前記バレル内に引き戻されるとニードルから露出するように前記シリンジへ付着させられている、請求項24、25および26のいずれか一項に記載の器具。
【請求項32】
前記二イオン液体塩が前記固体支持体上に固定化され、前記二イオン液体塩が架橋または固定化を促進できる少なくとも1つの不飽和基を含む、請求項24に記載の器具。
【請求項33】
化学物質の混合物から1つの化学物質を分離する方法であって、
少なくとも1つの第1化学物質および少なくとも1つの第2化学物質の混合物を提供する工程と、
上部に吸着、吸収または固定化された少なくとも1つの二イオン液体塩を含む少なくとも1つの固体支持体へ前記混合物を曝露させる工程と、
ある期間にわたって前記固体支持体上に前記第1化学物質の少なくとも一部分を保持する工程とを含む方法。
【請求項34】
前記二イオン液体塩が、架橋基によって分けられる2つの一イオン性基、ならびに、2つの一イオン性対イオンもしくは少なくとも1つの二イオン性対イオンのどちらかを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記二イオン液体塩と混合した少なくとも1つの一イオン液体をさらに含み、前記混合物が前記固体支持体上に固定化される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記固体支持体がカラムであり、前記第1化学物質の溶出が防止または遅延されるように前記混合物が前記カラムを通過させられる工程をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記カラムがキャピラリーである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記混合物が気体移動相である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記固体支持体が内腔を規定する中空ニードルを有するマイクロシリンジへ付着させられており、前記ニードルがバレルおよびバレル内に配置されたプランジャーの端部に配置されており、前記固体支持体は、前記プランジャーが前記バレルから引き出されるとニードルの内腔内に引き入れられ、前記プランジャーが前記バレル内に引き戻されるとニードルから露出するように前記マイクロシリンジへ付着させられており、
前記固体支持体を前記ニードル内から前記混合物中へ曝露させる工程と、
前記固体支持体を前記混合物から引き戻す工程であって、前記混合物が少なくともある量の前記第1化学物質を含む工程と、を含む請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記シリンジがマイクロシリンジである、請求項31に記載の器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−507556(P2008−507556A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522803(P2007−522803)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/026036
【国際公開番号】WO2006/012513
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(598169572)シグマ−アルドリッチ・カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】Sigma−Aldrich Co.
【Fターム(参考)】