説明

高密度リポタンパク質中コレステロール測定試薬キット及び測定方法

【課題】HDLを多量に含む検体であっても正確にHDL−Cを測定することができる試薬キットを提供すること。
【解決手段】試料中のHDLを定量するための試薬キットであって、前記HDL以外のリポタンパク質のコレステロールエステルと酵素との反応を抑制する阻害剤と、HDLのコレステロールエステルと反応する第一酵素とを含有する第一試薬と、HDLのコレステロールエステルと反応する第二酵素を含有する第二試薬とを含む試薬キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床診断の分野において、試料に含まれる高密度リポタンパク質中コレステロール(以下、HDL−Cとする)を測定する試薬キット及びHDL−Cを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポタンパク質は、コレステロールなどの脂質とアポタンパク質との複合体の総称であり、血液などに含まれる。コレステロールは、主に脂肪酸とエステル結合したエステル型コレステロールとしてリポタンパク質中に存在する。リポタンパク質は比重の低いものから順にカイロミクロン(以下、CMとする)、超低密度リポタンパク質(以下、VLDLとする)、低密度リポタンパク質(以下、LDLとする)、高密度リポタンパク質(以下、HDLとする)などに分類されている。これらのうちHDLは抗動脈硬化因子として注目されており、HDL−Cの測定は各種動脈硬化症を含む循環器系疾患の重要な臨床検査項目のひとつである。
【0003】
試料中のHDL−Cを定量する試薬として、例えば特許文献1記載の試薬が知られている。この試薬では、HDLからコレステロールを遊離させるために阻害法が用いられる。阻害法では、先ずHDL以外のリポタンパク質が酵素と反応するのを阻害する阻害剤を試料に添加する。次に、HDLのコレステロールエステルと反応する酵素の作用によりHDLからコレステロールが遊離する。遊離したHDL−Cに酵素を反応させ、生じた反応産物を光学的に測定することによりHDL−Cが定量される。しかしながら、HDLを多量に含む試料を検体として用いた場合、所定の測定時間内に全てのHDLに前記酵素が反応しきれず、正確にHDL−Cを測定できないことがある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−176797
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、HDLを多量に含む検体であっても正確にHDL−Cを測定することができる試薬キットと、HDL−Cを測定する方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、HDL以外のリポタンパク質と酵素との反応を抑制する阻害剤と、HDLのコレステロールエステルと反応する第一酵素とを含有する第一試薬と、HDLのコレステロールエステルと反応する第二酵素を含有する第二試薬と、を含む試薬キットを提供する。
【0007】
また、本発明は、試料と、HDL以外のリポタンパク質と酵素との反応を抑制する阻害剤とHDLのコレステロールエステルに反応する第一酵素とを含有する第一試薬とを混合する工程と、試料と第一試薬との混合液にHDLのコレステロールエステルに反応する第二酵素を含有する第二試薬を添加する工程と、を含むHDL−C測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、HDLを多量に含む検体であっても正確にHDL−Cを測定することができる試薬キット及び測定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本実施形態のHDL−C測定試薬キットは、第一試薬と第二試薬とを含む。第一試薬は、HDL以外のリポタンパク質が酵素と反応するのを阻害する阻害剤と、HDLのコレステロールエステルと反応する第一酵素とを含有し、第二試薬は、HDLのコレステロールエステルと反応する第二酵素を含有する第二試薬を含有する。
【0010】
HDL−C測定においては、HDLからコレステロールを遊離させて後述するUV法又は色素法によって測定する。このため、HDL以外のリポタンパク質が酵素と反応し、コレステロールが遊離するのを阻害する必要がある。
【0011】
阻害剤としては、カリクスアレン、界面活性剤、ポリアニオン、水溶性ポリマー、抗体などが挙げられる。これらの阻害剤のうち一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの阻害剤は試料中のHDL以外のリポタンパク質と複合体又は凝集体を形成する。複合体又は凝集体を形成すると、これらに含まれる物質(例えば、エステル型コレステロールなど)への酵素反応が妨げられるため、該複合体又は凝集体中のコレステロールエステルからのコレステロールの遊離が抑制される。
【0012】
カリクスアレンは、フェノールを基本骨格とし、フェノールの4〜8分子をメチレン基で環状に重合させた環状オリゴマーである。
カリクスアレンは、HDL以外のリポタンパク質からのコレステロールの遊離を抑制するものであれば何れも用いることができる。具体的には、カリクス(4)アレン、カリクス(6)アレン、カリクス(8)アレン、硫酸カリクス(4)アレン、硫酸カリクス(6)アレン、硫酸カリクス(8)アレン、酢酸カリクス(4)アレン、酢酸カリクス(6)アレン、酢酸カリクス(8)アレン、カルボキシカリクス(4)アレン、カルボキシカリクス(6)アレン、カルボキシカリクス(8)アレン、カリクス(4)アレンアミン、カリクス(6)アレンアミン、カリクス(8)アレンアミンなどが挙げられる。これらのカリクスアレンのうち一種又は二種以上を阻害剤として用いることができる。上述したカリクスアレンの中でも硫酸カリクスアレンが水溶性に優れ取り扱いが容易であるため、硫酸カリクスアレンを用いるのが好ましい。カリクスアレンの終濃度(第一試薬と第二試薬と検体とを混合した反応液中の濃度)は、好ましくは0.05〜20mM、より好ましくは0.1〜5mMとなる。
【0013】
界面活性剤は、HDL以外のリポタンパク質からのコレステロールの遊離を抑制するものであれば何れも用いることができる。界面活性剤の中でもHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance値:界面活性剤の親水性と疎水性の比率を示す値)が16以上のものが好ましく、HLB値が17以上のものがより好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンセチルエーテル(C16)(ヘキサデシルエーテル)(商品名:日光ケミカルズ(株):BC−25TX、BC−30TX、BC−40TX)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(C12)(ドデシルエーテル)(商品名:日光ケミカルズ(株):BL−21、BL−25)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(商品名:日光ケミカルズ(株):BO−50)、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(C22)(商品名:日光ケミカルズ(株):BB−30)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:日本油脂(株):ノニオンK―230)、ポリオキシエチレンモノラウレート(商品名:日本油脂(株):ノニオンS−40)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類(商品名:シグマ:Brij98、Brij721、Brij78、Brij99)などが挙げられる。これらの界面活性剤のうち一種又は二種以上を阻害剤として用いることができる。
【0014】
ポリアニオンは、HDL以外のリポタンパク質からのコレステロールの遊離を抑制するものであれば何れも用いることができる。具体的には、デキストラン硫酸、リンタングステン酸、ヘパリンなどが挙げられる。これらのポリアニオンのうち一種又は二種以上を阻害剤として用いることができる。これらの阻害剤は二価カチオンと共に用いられるのが好ましい。二価カチオンとしてはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオンなどが挙げられる。
【0015】
水溶性ポリマーは、HDL以外のリポタンパク質からのコレステロールの遊離を抑制するものであれば何れも用いることができる。具体的には、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレングリコール(以下、PEGとする)などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーのうち一種又は二種以上を阻害剤として用いることができる。これらの水溶性ポリマーは二価カチオンと共に用いることもできる。二価カチオンとしてはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオンなどが挙げられる。
【0016】
抗体は、HDL以外のリポタンパク質からのコレステロールの遊離を抑制するものであればポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、これらを混合して用いてもよい。また、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いることもできる。本明細書における「抗体」とは、抗体のフラグメント及びその誘導体をも含む。抗体のフラグメント及びその誘導体としては、Fab,Fab’,F(ab)及びsFvフラグメントなど(Blazar et al., 1997, J. Immunol., 159: 5821-5833及びBird et al., 1988, Science, 242: 423-426)が例示される。抗体のサブクラスはIgGに限定されず、IgMなどでもよい。
【0017】
本実施形態の試薬キットに用いられる抗体の具体例として、抗アポリポタンパク抗体類(例えば、抗アポリポタンパクB抗体、抗アポリポタンパクC抗体、抗アポリポタンパクE抗体など)、抗リポタンパク抗体類(例えば、抗βリポタンパク抗体など)などが挙げられる。これらの抗体のうち一種又は二種以上を阻害剤として用いることができる。
【0018】
上述の阻害剤のうち、本実施形態ではHDL以外のリポタンパク質と結合して複合体を形成するカリクスアレンを用いることが好ましい。
【0019】
第一試薬中の阻害剤の濃度が高すぎると、HDL以外のリポタンパク質だけでなく、HDLにも阻害剤が結合して酵素とHDLとの反応が阻害されるため、阻害剤の濃度は酵素とHDLとの反応を阻害しない程度の濃度であることが好ましい。また、第一試薬中の阻害剤の濃度が低すぎると、HDL以外のリポタンパク質を充分に阻害することができず、HDLだけでなく、HDL以外のリポタンパク質と酵素とが反応してしまうため、阻害剤の濃度はHDL以外のリポタンパク質を充分に阻害できる程度の濃度であることが好ましい。
【0020】
本実施形態の第一試薬は、HDLのコレステロールエステルと反応する酵素(第一酵素)を含有し、第二試薬も第一酵素と同様の活性を有する酵素(HDLノコレステロールエステルと反応する酵素:第二酵素)を含む。第一酵素と第二酵素とは同種の酵素であってもよいし、異なる種類の酵素であってもよい。第一酵素及び第二酵素としては、HDLのコレステロールエステルと反応する酵素であれば何れも用いることができる。また、HDLからだけでなく、HDL以外のリポタンパク質のコレステロールエステルと反応する活性を有していてもよい。第一酵素及び第二酵素の具体例としては、コレステロールエステラーゼ(以下、CEとする)、リパーゼ、リポプロテインリパーゼなどが挙げられる。これらの酵素はPEG等を結合させて化学修飾したもの又は化学修飾していないものを用いることができる。これらの酵素の由来は、細菌由来、原生生物由来、動物由来、植物由来、真菌由来のものなど、特に限定されない。また、これらの酵素は遺伝子操作によって得られたものであってもよい。
【0021】
阻害法においては、先ず阻害剤を含む第一試薬と試料とを混合してHDL以外のリポタンパク質と阻害剤とを結合させる。次にリポタンパク質のコレステロールエステルと反応する酵素を含む第二試薬を添加してHDLのみを酵素反応に導く。このため、従来は第一試薬にコレステロールエステルと反応する酵素が含まれていると、HDL以外のリポタンパク質とこの酵素とが反応してしまい、正確にHDL−Cを測定できないと考えられていた。しかしながら、本実施形態の第一試薬と試料とを混合すると、HDL以外のリポタンパク質に阻害剤が結合すると共に、第一酵素の作用によりHDLからコレステロールが遊離する。第一酵素がHDL以外のリポタンパク質に作用しないのは、これらのリポタンパク質に第一酵素が作用する前に阻害剤が結合するためであると考えられる。第一試薬添加時から、HDLからのコレステロールの遊離を開始させることにより、HDLが多量に含まれる検体でも、所定の測定時間内に検体中の全てのHDLからコレステロールを遊離させることができると考えられる。このため、本実施形態の試薬キットを用いると正確に検体中のHDL−C測定を行うことができる。
【0022】
この試薬キットを用いて測定したHDL−C測定値は、沈殿法によるHDL−C測定値と非常によく相関する。沈殿法では、先ず検体にPEGなどのポリアニオン及び二価カチオンを添加して疎水性の高いVLDLやLDLなどを沈殿させて遠心分離を行い、上清に残ったHDLを採取する。次に自動分析装置を用いてこのHDLにコレステロール測定用試薬(例えば、T−CHO試薬・KL「コクサイ」)などを添加しHDL−Cを測定する。沈殿法は、HDL−Cを非常に正確に測定できるが、コレステロール測定の前にHDLとHDL以外のリポタンパク質とを分画する必要がある。本実施形態の試薬キットを用いると測定前の分画が不要であるため、沈殿法に比べ測定操作が簡便である。
【0023】
HDL−C測定に供される試料としては、血液、血漿、血清、尿、髄液、唾液、精液など、生体から採取した試料を用いることができる。
遊離したコレステロールを測定する方法としては、公知のHDL−C測定法の何れを用いてもよい。例えば、UV法や色素法などによって測定することができる。以下、UV法及び色素法について説明する。
【0024】
UV法とは、HDLから遊離したコレステロールを酸化型補酵素の存在下でコレステロールデヒドロゲナーゼ(以下、CDHとする)を作用させることによってコレステノンを生成させ、同時に生ずる還元型補酵素の吸光度を測定する方法である。下記の化学反応式に示すように、CDHの作用によって生成するHDL−Cの物質量(モル)と、当該反応の際に生ずる還元型補酵素の物質量(モル)とは化学量論的に等しい為、還元型補酵素の濃度を測定することによってHDL−Cの濃度を求めることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
UV法で用いられるCDHは、PEG等を結合させて化学修飾した酵素又は化学修飾していない酵素を用いることができる。CDHの由来は、微生物由来、動物由来、植物由来、真菌由来のものなど、特に限定されない。また、遺伝子操作によって得られたCDHを用いてもよい。CDHは、第一試薬及び第二試薬の何れに含有させてもよいし、両方の試薬に含有させてもよい。
【0027】
酸化型補酵素としてはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(以下、NADとする)やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(以下、NADPとする)を用いることができる。NADとしては、例えば、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(以下、βNADとする)、Thio−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(以下、t−NADとする)等が挙げられる。NADPとしては、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(以下、βNADPとする)、Thio−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(以下、t−NADPとする)などが挙げられる。補酵素は、第一試薬及び第二試薬の何れに含有させてもよいし、両方の試薬に含有させてもよい。これらの補酵素のうち一種又は二種以上を用いることができる。
【0028】
コレステロールが存在するとCDHの作用で酸化型補酵素は還元型(NADH、NADPHなど)に変換される。βNADHやβNADPHは340nmの吸光度で測定でき、t−NADHやt−NADPHは405nmの吸光度で測定できる。
【0029】
次に色素法について説明する。
色素法においては、先ずHDLから遊離したコレステロールをコレステロールオキシダーゼ(以下、CODとする)の作用によってコレステノンを生成させる。この際同時に生ずる過酸化水素と色原体とからペルオキシダーゼ(以下、POとする)を作用させて、キノン系色素を生成させる。生成したキノン系色素の発色を450nm以上(色原体の種類に依存する)の吸光度で測定して過酸化水素の濃度を求め、これをHDL−Cの濃度に換算する。
【0030】
COD及びPOはPEG等を結合させて化学修飾したもの又は化学修飾していないものを用いることができる。これらの酵素の由来は、細菌由来、原生生物由来、動物由来、植物由来、真菌由来のものなど、特に限定されない。また、これらの酵素は遺伝子操作によって得られたものであってもよい。
【0031】
色原体としては過酸化水素と反応して呈色するものであれば何れも用いることができる。例えば、4−アミノアンチピリン(以下、4−AAとする)等のカップラとデベロッパ(カップラと酸化縮合して色素を生ずる物質)との組み合わせが用いられる。例えば4−AAとフェノール系化合物,ナフトール系化合物又はアニリン系化合物との組合せ、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンとアニリン系化合物との組合せなどや、例えば2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)、トリフェニルメタン系ロイコ色素、ジフェニルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、トリアリルイミダゾール誘導体、ロイコメチレンブルー誘導体、o−フェニレンジアミン誘導体等の酸化によってそれ自体が発色する発色剤等が挙げられる。デベロッパとしてのフェノール系化合物の具体例としては、例えばフェノール、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール等が挙げられ、ナフトール系化合物の具体例としては、例えば1−ナフトール、1−ナフトール−2−スルホン酸、1 −ナフトール−2−カルボン酸等が挙げられ、また、アニリン系化合物の具体例としては、例えばN,N−ジエチルアニリン、N−エチル−N−(β−ヒドロキシエチル)−m−トルイジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ− 3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−サクシニル−エチレンジアミン(EMSE)などが挙げられる。カップラとデベロッパとの組合せを用いる場合、カップラの使用量は、用いるカップラの種類や組み合わせるデベロッパの種類などにより異なるため一概には言えないが、終濃度として、好ましくは0.01〜100mM、より好ましくは0.1〜10mMであり、カップラとして4−AAを使用する場合の使用量は、終濃度として、好ましくは0.01〜50mM、より好ましくは0.1〜5mMである。また、デベロッパの使用量は、用いるデベロッパの種類や組み合わせるカップラの種類等により異なるため一概には言えないが、終濃度として、好ましくは0.01〜50mM、より好ましくは0.1〜5mMである。トリフェニルメタン系ロイコ色素の具体例としては、例えばロイコマラカイトグリーン、ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−2−スルホフェニルメタン、ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−3,4−ジスルホプロポキシフェニルメタン・ジナトリウム塩等が挙げられ、ジフェニルアミン誘導体の具体例としては、例えばビス〔4−ジ(2−ブトキシエチル)アミノ−2−メチルフェニル〕アミン、N,N−ビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−N’−p−トルエンスルホニル尿素等が挙げられ、また、ロイコメチレンブルー誘導体の具体例としては、例えば10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン・ナトリウム塩、10−〔3−(メトキシカルボニルアミノメチル)フェニルメチルアミノカルボニル〕−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンなどが挙げられる。更に、ベンジジン誘導体の具体例としては、例えばベンジジン、o−トリジン、o−ジアニシジン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’−テトラアミノベンジジンなどが挙げられ、トリアリルイミダゾール誘導体の具体例としては、例えば2−(4−カルボキシフェニル)−3−N−メチルカルバモイル−4,5−ビス(4ージエチルアミノフェニル)イミダゾール、2−(3−メトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−N−メチルカルバモイル−4,5−ビス(2−メチル−4−ジエチルアミノフェニル)イミダゾールなどが挙げられる。これら色原体の使用量は、通常この分野で用いられる濃度である。
【0032】
色素法を用いてHDL−C測定を行う場合、COD、PO及び色原体は第一試薬及び第二試薬の何れに含有させてもよい。
【0033】
第一試薬及び第二試薬には緩衝剤が含まれることが好ましい。緩衝剤の種類は特に限定されない。第一試薬のpHは6〜10であることが好ましく、6.5〜7.5であることがより好ましい。第二試薬のpHは6〜10であることが好ましく、8〜9であることがより好ましい。
【0034】
上記の試薬には、酵素を安定化させる物質(酵素安定化物質)を含有させることが好ましい。酵素安定化物質として、アルカリ土類金属塩、グリシン系化合物、コール酸、配糖体、クリスタリン、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。
【0035】
アルカリ土類金属塩は、上述の第一酵素及び/又は第二酵素を安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ラジウム塩、ベリリウム塩、ストロンチウム塩及びバリウム塩を用いることができる。試薬には、これらのアルカリ土類金属の乳酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを添加することができる。これらのうち、一種又は二種以上を試薬に添加することができる。
【0036】
グリシン系化合物は下記化学式(1)で示される。
R−(NH−CH−CO)−NH−CH−COOH (1)
(式中Rは水素又は/及び置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいカルボニル基を示し、nは0又は1を示す)
ここで、Rは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいカルボニル基、アルキル基としてはメチル基、エチル基などを挙げることができ、フェニル基としてはヒドロキシフェニル基などを挙げることができる。また、置換基としてはヒドロキシメチル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基、ニトロ基、メトキシ基、チオール基などを挙げることができる。試薬にグリシン系化合物を添加する場合、上記のうちの一種又は二種以上を試薬に添加することができる。また、上記化学式(1)に示すグリシン系化合物として、グリシン、グリシルグリシン、トリシンを用いるのが好ましい。試薬中のグリシン系化合物の濃度は0.01〜2Mが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5Mである。
【0037】
コール酸及びその誘導体としては、例えばコール酸の塩類(例えば、ナトリウム塩など)、デオキシコール酸又はその塩類、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルフォネート(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルフォネート(CHAPSO)、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)コールアミド(デオキシ−BIGCHAP)などが挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を試薬に添加することができる。
【0038】
配糖体及びその誘導体としては、例えば、n−ドデシル−β−D−マルトシド(ドデシルマルトース)、n−ヘプチル−β−D−チオグルコシド、ジギトニン、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、2−エチル−ヘキシルグルコシド、n−オクタノイル−N−メチルグルカミド、n−メチルグルカミド、n−ノナノイル−N−メチルグルカミド、n−デカノイル−N−メチルグルカミドなどが挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を試薬に添加することができる。
【0039】
クリスタリン及びその誘導体としては、例えば、α−クリスタリン、β−クリスタリン、γ−クリスタリン、δ−クリスタリンなどが挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を試薬に添加することができる。
【0040】
以下、実施例によりより具体的に説明する。以下の実施例におけるHDL−C測定は、上述のUV法により行った。
【0041】
(実施例)
下記の組成を含む第一試薬A及び第二試薬を調製した。
第一試薬A(pH7.3)
PIPES 10mM
二塩化ヒドラジニウム 100mM
硫酸カリクス(8)アレン 1.5mM
βNAD 5.5mM
第二試薬(pH8.7)
TAPS 0.2mM
コール酸ナトリウム 0.1%
乳酸カルシウム 0.5mM
ドデシルマルトース 4.0mM
グリシン 0.4M
CE 14KU
CDH 24KU
【0042】
さらに第一試薬Aに様々な濃度のCEを添加して第一試薬B〜Hを調製した。第一試薬BへのCE添加濃度は0.25KU/L、第一試薬CへのCE添加濃度は0.5KU/L、第一試薬DへのCE添加濃度は0.75KU/L、第一試薬EへのCE添加濃度は1KU/L、第一試薬FへのCE添加濃度は1.25KU/L、第一試薬GへのCE添加濃度は1.5KU/L、第一試薬HへのCE添加濃度は2KU/Lであった。
【0043】
検体として11人の生体から採取した血清検体1〜11を用意した。
【0044】
日立7180S形自動分析装置を用いて、検体4μLと第一試薬180μLと第二試薬60μLとを混合して測定用試料を作成し、各検体のHDL−C濃度を測定した。測定中の温度は、反応開始から測定終了まで37℃に保たれるように設定された。
【0045】
対照として、上記実施例で用いた検体1〜11に含まれるHDL−Cを、上述した沈殿法を用いて測定した。PGポール(シスメックス製)を用いて検体中のHDL以外のリポタンパク質を沈殿させ、遠心分離を行ってHDLを含む上清を採取した。自動分析装置でこの上清とT−CHO試薬・KL「コクサイ」(何れもシスメックス製)とを混合し、各検体のHDL−C濃度を測定した。
【0046】
測定結果を下記表1に示す。また、実施例で算出したHDL−C測定値と比較例で算出したHDL−C測定値との相関グラフ及び直線の式(y = ax +b)を図1〜8に示す。図1〜8は、ぞれぞれ第一試薬A〜Hを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図及び相関式である。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図1〜8より、第一試薬にCEを添加すると、グラフの傾きが1に近似し、切片が0に近似した。即ち、第一試薬にCEを含有させた場合は、グラフの式がy=xに近づき、PEG法とよく相関することが判った。以上より、CEを含有する第一試薬を含む試薬キットを用いると、正確に検体中のHDL−Cを測定できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第一試薬Aを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図2】第一試薬Bを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図3】第一試薬Cを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図4】第一試薬Dを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図5】第一試薬Eを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図6】第一試薬Fを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図7】第一試薬Gを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。
【図8】第一試薬Hを用いた場合のHDL−C測定値と沈殿法によるHDL−C測定値との相関図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の高密度リポタンパク質中コレステロールを定量するための試薬キットであって、
高密度リポタンパク質以外のリポタンパク質と酵素との反応を抑制する阻害剤と、高密度リポタンパク質のコレステロールエステルと反応する第一酵素とを含有する第一試薬と、
高密度リポタンパク質のコレステロールエステルと反応する第二酵素を含有する第二試薬と、を含む試薬キット。
【請求項2】
前記第一酵素がコレステロールエステラーゼ、リポプロテインリパーゼ及びリパーゼからなる群より選択される少なくとも1つの酵素である、請求項1記載の試薬キット。
【請求項3】
前記第二酵素がコレステロールエステラーゼ、リポプロテインリパーゼ及びリパーゼからなる群より選択される少なくとも1つの酵素である、請求項1又は2記載の試薬キット。
【請求項4】
NAD又はNADPが、前記第一試薬及び前記第二試薬からなる群より選択される少なくとも1つの試薬に含有されている、請求項1〜3の何れかに記載の試薬キット。
【請求項5】
コレステロール脱水素酵素が、前記第一試薬及び前記第二試薬からなる群より選択される少なくとも1つの試薬に含有されている、請求項1〜4の何れかに記載の試薬キット。
【請求項6】
前記阻害剤が、カリクスアレン、界面活性剤、ポリアニオン、水溶性ポリマー及び抗体からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜5の何れかに記載の試薬キット。
【請求項7】
試料と、高密度リポタンパク質以外のリポタンパク質と酵素との反応を抑制する阻害剤と高密度リポタンパク質のコレステロールエステルに反応する第一酵素とを含有する第一試薬とを混合する工程と、
前記試料と前記第一試薬との混合液に高密度リポタンパク質のコレステロールエステルに反応する第二酵素を含有する第二試薬を添加する工程と、
を含む高密度リポタンパク質中コレステロール測定方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−195443(P2007−195443A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16972(P2006−16972)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】