説明

高導電性の光学可変性顔料

本発明は、実質的に二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物からなるフレーク状基体と、この基体を取り囲む導電層とを有する高導電性の光学可変性顔料、その製造方法、及び、この種の顔料の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物からなるフレーク状基体と、この基体を取り囲む導電層とを含む高導電性の光学可変性顔料、その製造方法、および、この種の顔料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的に、インク(特に印刷インク)、塗料、プラスチック、セラミック材料などの工業的用途の着色は、真珠光沢顔料を用いて行うことが多い。真珠光沢顔料は、所望の色効果に加えて、特に、高光沢効果や角度に応じて変化する微妙な揺らぎと弱い色を生じさせることができる。この顔料は、その高い透明性により他の有機または無機の着色剤と容易に混ざるので、こうした混合物に基づいた多くの様々な工業的用途は一般的である。
【0003】
特に近年、見る角度に応じて変化する色特性(カラーフロップ、光学可変性挙動)を有する顔料が、多種多様な可能性のある用途の対象分野に入ってきた。こうした特性は、基体とその上に配置された層とが厳密な品質要求を満たすならば、前述の顔料タイプを用いて得ることができる。その品質要求は、特に、塗布された層の平滑性および均一性に関して、コーティング層の低い気孔率、ならびにこれらの層の高い透明性であり、同時に個々の層の厚みが互いに完全に調和していることである。
【0004】
さらに、導電性があって、特に工業的用途で有用な機能性顔料が知られている。これらの顔料は、導電材料からなるか、または支持体材料上のコーティング層に導電材料を含むものである。ここでは、この支持体材料は様々な形状を取ることができる。
【0005】
例えば、(SbSn)O2被覆マイカまたは単層もしくは多層の誘電体コーティング層と最上部に(SbSn)O2外層とを有するマイカなどの、透明フレーク状基体に基づく導電性顔料が知られている。これらの顔料は、カーボンブラックまたは黒鉛などの導電性顔料として伝統的に用いられてきた材料と較べて、その色は淡い白っぽい色または薄灰色であり、したがって塗布媒体の光学的印象を著しく損なわないという利点を有する。これらの顔料は、各種の塗布媒体に導入されて、例えばプラスチック物品や床仕上げ材などに導電性コーティング層を形成することに寄与できる。これらの顔料は(例えば、Minatec(登録商標)31CMまたはMinatec(登録商標)30CMという商品名でメルクKGaA社から)市販されている。これらは、例えば、DE 38 42 330、DE 42 37 990、EP 139 557、EP 359 569およびEP 743 654などの特許に記載されている。
【0006】
これらの顔料はほとんど透明なので、塗布媒体に光学的に魅力的な色を付与する場合、これらの顔料を微粒子状または溶解した着色剤、特に有色の顔料とも容易に混ぜることができる。しかし、所望の彩度が高ければ高いほど、選択しなければならない着色顔料の割合が高くなり、塗布媒体中に存在する導電性顔料はこれに比例して減少する。したがって、導電経路の形成が妨げられるか、しばしば遮られる。その結果、塗布媒体の導電性能が低下する。したがって、たとえ着色顔料の添加が少量であるとしても、非常に多量の顔料を媒体に恒久的に添加することになり、媒体の導電性が完全に失われてしまう可能性がある。これに対して、導電性顔料の割合を不釣合いに増加させてこれを埋め合わせるなら、媒体の濁り、色特性の低下、塗布液の高い粘度、およびそれぞれの基体に対するコーティング層の密着性がさらに低下する可能性を覚悟しなければならない。
【0007】
したがって、多くの用途分野について、有色であるとともに導電性が高い利用可能な顔料が望ましい。この目的のために、EP 310 340は、酸化鉄粒子を含むコア上に、ケイ素および/またはチタンの酸化物を含む層と導電層とを有する顔料を既に提案している。これらの顔料は、5×106Ωcm未満の比抵抗を有し、かつ基体の固有の色に対応して黄色からオレンジ色を経て赤色までの範囲の色を有する。しかし、基体の選択の幅のために、こうした顔料の色は限られた狭い範囲でしか変えることができず、光学可変性の色の印象は記載されておらず、かつ達成可能な導電性は改良を必要としている。
【0008】
しかし、特にセキュリティ製品または電子用品などの用途分野については、十分に高い導電性と同時に光学可変性の色を有する利用可能な導電性顔料が望ましい。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明の目的は、可能な限り単純な組成を有し、広い色範囲をカバーすることができ、様々な塗布媒体へうまく組み込むことができ、大量塗布用に簡単に低コストで製造することができる、高導電性の光学可変性顔料を開発することであった。
【0010】
本発明の別の目的は、こうした顔料の簡単な製造方法の提供にあった。
【0011】
さらに、本発明の別の目的は、上述の顔料の使用について示すことにあった。
【0012】
本発明の目的は、少なくとも80nmの厚みを有しその全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物からなるフレーク状基体と、前記基体を取り囲む導電層と、を有する高導電性の光学可変性顔料によって達成される。
【0013】
さらに、本発明の目的は、高導電性の光学可変性顔料の製造方法であって、以下のステップを含む方法によって達成される。
【0014】
a)任意選択で、少なくとも80nmの厚みを有しその全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を含むフレーク状基体を、屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とを含む層パッケージの少なくとも1つでコーティングして、各場合において屈折率n<1.8の誘電体層が前記導電層の直下に塗布されているという条件で、前記屈折率n≧1.8の誘電体層が、前記基体に直接塗布され、および任意選択でさらに前記屈折率n<1.8の誘電体層に直接塗布され、支持フレークを得るステップと、
b)ステップa)で得られた前記支持フレークのすべての面に導電層をコーティングするステップ。
【0015】
さらに、本発明の目的は、塗料、コーティング剤、印刷インク、プラスチック、セキュリティ用途、床仕上げ材、フィルム、調合物、セラミック材料、ガラス、紙、レーザーマーキング用、遮熱用、乾燥配合物、および顔料配合物への前記顔料の使用によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の顔料は、光学可変性であり、かつ、前記基体の全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を含み、少なくとも80nmの厚みを有するフレーク状基体と、この基体を取り囲む導電層とを有する。
【0017】
光学可変性顔料とは、種々の照明および/または見る角度で、視覚的に感知可能な種々の色および/または明るさの印象をもたらす顔料である。色の印象が異なる場合、この特性はカラーフロップとして知られている。本発明の光学可変性顔料は、少なくとも2つの異なる照明および/または見る角度で、少なくとも2つ多くとも4つの光学的に明瞭に識別可能な個別の色を有していることが好ましいが、2つの異なる照明および/または見る角度で2つの光学的に明瞭に識別可能な個別の色を有しているか、または3つの異なる照明および/または見る角度で3つの光学的に明瞭に識別可能な個別の色を有していることが好ましい。それぞれの場合において、個別の色調のみが存在し中間の色調が存在しない、すなわち、見る角度を変えた場合、ある色から別の色への明瞭な変化が明白であることが好ましい。しかし、見る角度を変えることにより色が段階的に変化することを示す実施形態も好適である。
【0018】
本発明では、フレーク状とは、その頂部と底部に互いにほぼ平行な2つの面を有し、その長さおよび幅寸法が顔料の最大の寸法に相当する平坦な構造であると見なされる。フレークの厚みである前記表面間の間隔は、これとは対照的により小さな寸法を有している。
【0019】
本発明の顔料の基体の長さおよび幅寸法は、2〜250μm、好ましくは2〜100μm、特に5〜60μmである。これは、通常、基体の粒径と呼ばれる値でもある。この値はそれ自体重要なものではないが、基体の粒度分布は狭いことが好ましい。基体の厚みは、少なくとも80nmから5μmまでであり、好ましくは0.1〜4.5μm、特に好ましくは0.2〜1μmである。
【0020】
基体のアスペクト比(厚みに対する長さの比)は、少なくとも2、好ましくは少なくとも10、特に好ましくは少なくとも50である。
【0021】
基体は、その全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を含む。さらに、基体は、その全重量を基準として20%以下の微粒子状および/または溶解した着色剤を含むことができる。基体は、好ましくは、95重量%から実質的に100重量%までの酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物からなり、ごく微量または低比率の異種イオンを存在させることができる。
【0022】
こうした基体は、それが酸化ケイ素水和物の画分を含んでいても、SiO2フレークとして知られている。
【0023】
その透明性は高く、着色剤が存在しない場合は無色である。その表面は平坦かつ非常に平滑であり、層厚みは均一である。下記の好ましいSiO2フレーク製造方法のために、その側面には鋭い破断縁部があり、これは尖った鋸歯状の突起を有することもある。狭い粒径分布を有する基体、特に、細かい粒子の割合を小さくした基体が特に好ましい。
【0024】
基体は、可視光線を、実質的にすなわち少なくとも90%程度、透過する場合、透明と見なされる。
【0025】
さらに、本発明の顔料は前述の基体を取り囲む導電層を有する。
【0026】
導電層の好適な材料は、特に、ドープした金属酸化物であり、導電層はこれを1種または複数種含んでいる。金属酸化物は、好ましくは、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、および/または酸化チタンであり、好ましくは、酸化スズ、酸化インジウム、および/または酸化亜鉛である。前記金属酸化物は、導電層内にドープされた形で存在する。このドーピングは、ガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、リン、ヒ素、アンチモン、セレン、テルル、モリブデン、タングステン、および/またはフッ素で行うことができる。上述のドーパントは、導電層内に単独で存在していてもよく、これらの組み合わせとして存在していてもよい。金属酸化物のドーピングには、アルミニウム、インジウム、タングステン、テルル、フッ素、および/またはアンチモンを使用することが好ましい。導電層内のドーパントの割合は0.1〜30重量%とすることができ、好ましくは2〜15重量%の範囲である。特に好ましい実施形態で使用される導電層は、アンチモンをドープした酸化スズ、アンチモンおよびテルルをドープした酸化スズ、タングステンをドープした酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム、アルミニウムをドープした酸化亜鉛またはフッ素をドープした酸化スズであり、アンチモンをドープした酸化スズが特に好ましい。この好ましい組み合わせにおけるスズとアンチモンの比は4:1〜100:1とすることができ、好ましくは8:1〜50:1である。アンチモン含有量が低いと導電率に悪影響を及ぼす。これに対して、アンチモン含有量が高いと本発明の顔料の導電層の透明性が低下する。
【0027】
フレーク状基体を基準とする導電層の割合は、10〜70重量%とすることができ、好ましくは20〜40重量%である。導電層の材料としてアンチモンをドープした酸化スズを用いる場合、アンチモンの含有量は、酸化アンチモンと酸化スズの合計量を基準として、好ましくは1〜20モル%、特に好ましくは5〜15モル%である。
【0028】
導電層の層厚みは、10nm〜200nm、好ましくは20nm〜50nmである。一般に、導電層は非常に薄いので、導電性顔料中の基体の幾何形状およびアスペクト比は実質的に維持される。
【0029】
本発明によれば、屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とからなる層パッケージの少なくとも1つを、さらに前記基体と前記導電層の間に配置させることもできる。屈折率n≧1.8の層を基体の上に直接配置させ、屈折率n<1.8の層を導電層の直下に配置させる。上記の層パッケージが2つ以上存在する場合、屈折率n≧1.8の層は、さらに、導電層の直下に配置されていないすべての屈折率n<1.8の層の上に配置される。少なくとも1つの、好ましくは複数の、特に好ましくはすべてのこれらの層が、干渉および/または固有の色を通して顔料の色に寄与している。
【0030】
本発明の顔料は、好ましくは、上記の層パッケージを1つだけ有するかまたはこれを有していない。
【0031】
層が電流を伝導しない場合、この層は誘電体と呼ばれる。
【0032】
誘電体層を含む層パッケージが存在する場合、この層パッケージは高屈折率層と低屈折率層とからなる。屈折率n≧1.8の材料を含む1つまたは複数の誘電体層(高屈折率層)は、好ましくは、TiO2、酸化チタン水和物、チタン亜酸化物、Fe23、FeOOH、SnO2、ZnO、ZrO2、Ce23、CoO、Co34、V25、Cr23、および/またはこれらの混合相からなる層である。これらの材料は、無色であるか、または固有の吸収に起因した固有の色を有している。TiO2、酸化チタン水和物、Fe23、FeOOHおよびSnO2が特に好ましい。TiO2および酸化チタン水和物が特に好ましい。これらは特に高い屈折率を有するので、酸化スズを予めコーティングすることにより、少量の酸化スズとTiO2および/または酸化チタン水和物からなる次の層から形成されている、TiO2および酸化チタン水和物と共に酸化スズを含む混合相もまた特に好ましい。
【0033】
屈折率n<1.8の材料を含む1つまたは複数の誘電体層(低屈折率層)は、好ましくは、SiO2、酸化ケイ素水和物、Al23、酸化アルミニウム水和物、これらの混合相またはMgF2からなる。SiO2および/または酸化ケイ素水和物が特に好ましい。先に既に記載したように、層パッケージが存在する場合には、低屈折率層は、各場合において、導電層の直下に配置される。
【0034】
TiO2層とSiO2層とからなる層パッケージが特に好ましい。
【0035】
上記の1つまたは複数の層パッケージは、必ずしも基体を取り囲む必要はない。本発明の顔料を製造するには、この層パッケージが、基体の両側に形成されること、すなわち基体の最大表面の上に配置されることで、十分である。しかし、1つまたは複数の層パッケージが存在する場合、これが基体をほぼ完全に取り囲む実施形態が好ましい。
【0036】
層パッケージ内の層の厚みは、干渉および/または固有の吸収によって、少なくとも1つの層、好ましくはすべての層が本発明の顔料の色に独自に寄与する、すなわち光学的に活性であるように選択される。この寄与は、干渉色の強調、抑制または修飾のいずれかであってもよく、これに加えてまたは別法として、本発明の顔料の光学可変性挙動の強調であってもよい。高屈折率層の好ましい層厚みは、10〜200nm、特に好ましくは20〜180nmの範囲である。一方、低屈折率層の好ましい層厚みは、15〜300nm、特に好ましくは25〜250nmの範囲である。
【0037】
本発明の顔料は高い導電率を有する。この導電率は、粉末状顔料の比抵抗で表して、先行技術から知られている導電層を有するマイカと比較してほぼ10倍に改善されている。同時に、この顔料は光学可変性である。すなわち、塗布媒体中において見る角度を変えると、異なる個別の色を示す。このことは、本発明の顔料の場合には特に驚くべきことである。この顔料は、上記の基体とその上に配置させ、これを取り囲む導電層からなるものに過ぎない。先行技術から知られている光学可変性顔料は、通常多層構造に基づいており、場合によりかなり複雑なものである。多層構造には、個々の層の層厚みおよび材料について、非常に厳密な調和が必要である。したがって、基体と単一の導電層とを含む本発明の単純な構造が、一段と優れた導電率を有する光学可変性顔料をもたらすとは全く予期されていなかった。この比較的高い導電率の形成をもたらすメカニズムは明確になっていない。しかし、顔料を熱処理した場合でさえ基体と導電層との間に混合酸化物が形成されないという事実、およびこの顔料の鋭い刃をした尖った側面の両方が、塗布媒体中での導電率の上昇と導通経路の形成の改善とをもたらすことができると考えられる。この高い導電率により、それぞれの塗布媒体中で本発明の顔料の比較的低い濃度が容易に達成されると同時に光学的に魅力的な色が得られる。さらに、この色は、基体の厚みを増加させることにより望み通りに変化させることができる。同時に、この顔料粉体は高い輝度を有する。これは、先行技術からの導電性顔料の灰色の色合いより明らかに魅力的である。
【0038】
その高い導電率のために、本発明の顔料は、さらに電場および電磁場において特定の相互作用を示す。例えば、高周波電磁場の減衰または反射、および電場における誘電体コーティング層の電流密度の特定の変化である。これは、本発明の導電性顔料が、連続的な導電経路を形成しうる濃度閾値より低い濃度で誘導体バインダー中に存在する場合にも起こる。
【0039】
後者は、多くのセキュリティ用途、特に、他の方法では目に見えないセキュリティ特徴をチェックするために、電磁場の影響にしばしばさらされるセキュリティ製品に特に有利である。ここでは、本発明の顔料は、例えば交流電場の磁力線を偏向させる機能を果たすことができ、電磁場の局所的な増幅(いわゆるホットスポット)を生じさせる。このホットスポットに助けられて、例えばエレクトロルミネッセンス物質を発光させることができる。
【0040】
本発明の顔料は、簡単で安価な製造方法を利用して得ることができる。
【0041】
したがって、本発明はさらに、光学可変性顔料の製造方法に関し、次のステップを有する。
【0042】
a)任意選択で、少なくとも80nmの厚みを有し、その全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を含むフレーク状基体を、屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とを含む層パッケージの少なくとも1つでコーティングして、各場合において屈折率n<1.8の誘電体層が前記導電層の直下に塗布されているという条件で、前記屈折率n≧1.8の誘電体層が、前記基体に直接塗布され、および任意選択でさらに前記屈折率n<1.8の誘電体層に直接塗布され、支持フレークを得るステップと、
b)ステップa)で得られた前記支持フレークのすべての面に導電層をコーティングするステップ。
【0043】
ステップa)における基体のコーティングを、基体の大きな表面だけをそれぞれ、例えばCVDまたはPVD法によるコーティングで覆うような方法で行うこともできる。あるいは、ベルトプロセスでコーティング層と一緒に基体を製造する場合も、ステップa)および/またはステップb)におけるフレーク状基体のコーティングを、ゾルゲル法によってまたは無機出発物質からの湿式化学法によって行うことが好ましい。
【0044】
プロセスが簡単であり、かつ出発物質の入手可能性が高いので、ステップa)および/またはステップb)における基体のコーティングを、無機出発物質からの湿式化学法によって行うことが特に好ましい。
【0045】
ステップb)で塗布された導電層は、アンチモンをドープした酸化スズであることが好ましい。
【0046】
本発明に従って使用されるフレーク状基体は、WO93/08237に記載のベルトプロセスで製造することが有利である。この公開特許のすべての範囲を参照により本明細書に組み込む。SiO2フレークを製造するための好適な出発物質は、特にナトリウムまたはカリウムの水ガラス溶液である。これを連続ベルトに塗り、乾燥し、フレーク状にベルトから剥離し、水および酸で処理し、任意選択で洗浄し、乾燥し、焼成し、任意選択で粉砕および/または分級する。
【0047】
出発物質は、さらに、網目形成成分、界面活性物質、粘度上昇剤、その他の添加剤、ならびに微粒子状および/または溶解した着色剤を含むことができる。これらもWO93/08237にさらに詳しく記述されている。
【0048】
上記プロセスを利用して、均一の層厚みおよび鋭い破断縁部を有するSiO2フレークを製造することができる。層厚みを設定する場合、約15%の水ガラス溶液の場合の乾燥中に、塗布されたウエット層厚みの約1/10の層厚みが減少することに注目すべきである。したがって、本発明の顔料の基体を製造するためのウエット層厚みは、少なくとも800nm、好ましくは少なくとも1μmでなければならない。
【0049】
このようにして得られた基体あるいは導電層を備えた本発明の顔料は、分級することが有利である。分級により、微粒子の割合が低下し、粒度分布の狭い基体または顔料が得られる。
【0050】
導電層のコーティングについては、無機出発物質を用いた湿式化学プロセスを選択することも有利である。こうしたプロセスはそれ自体知られている。例えば、EP 139 557に記載のプロセスを用いることができる。
【0051】
アンチモンをドープした酸化スズを含む導電層を塗布することが特に好ましい。スズおよびアンチモンの塩(例えば塩化物)を計量しながら添加することによって、導電層中にスズとアンチモンを所望のとおり均質に分布させることができる。これらの塩は、1つの溶液に一緒にしてまたは2つの別個の溶液で、pH1〜5の範囲の適切なpHおよび50〜90°Cの適温の基体の水性懸濁液に対して所定の混合比で連続的に、加水分解とフレーク状基体への堆積とがそれぞれ直ちに起こるような速度で添加される。
【0052】
所望の層厚みに達してコーティングを終了した後、顔料を懸濁液から分離し、必要に応じて洗浄・乾燥し、一般に400°C〜1100°C、好ましくは700°C〜950°Cの範囲の温度で焼成する。
【0053】
導電性を改善するためには、顔料を、任意選択で、不活性ガス雰囲気下または還元雰囲気下、例えばフォーミングガス下で焼成することもできる。このプロセスは、例えば、タングステンをドープした酸化スズの場合に有利である。
【0054】
得られた顔料はほぼ完全に透明であり、白っぽい淡い粉体色を有する。この顔料は、表面上で並べられると、または表面と平行に並べられることができる塗布媒体中へ導入されると、見る角度に応じて変化する色を示す。
【0055】
屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とを含む層パッケージの1つまたは複数を基体と導電層の間に塗布する場合も、これらを塗布するのに適切なプロセスはすべて湿式化学プロセスである。このプロセスは、干渉顔料のコーティングに適切であり、当業者によく知られている。これらは、例えば、DE 14 67 468、DE 19 59 998、DE 20 09 566、DE 22 14 545、DE 22 15 191、DE 22 44 298、DE 23 13 331、DE 25 22 572、DE 31 37 808、DE 31 37 809、DE 31 51 355、DE 32 11 602およびDE 32 35 017の明細書に記載されている。
【0056】
本発明はまた、塗料、コーティング剤、印刷インク、プラスチック、セキュリティ用途、床仕上げ材、フィルム、調合物、セラミック材料、ガラス、紙、レーザーマーキング用、遮熱用、乾燥配合物、または顔料配合物への、上記の本発明の顔料の使用にも関する。
【0057】
その光学可変性色挙動により、本発明の顔料は、単にその色特性だけによって、上述のタイプの塗布媒体を着色するための使用に非常に適している。ここでは、この顔料は通常の干渉顔料と同じ方法で使用される。しかし、魅力的な色特性に加えて、この顔料が導電性にも優れていることは特に有利である。導電性に優れていることにより、この顔料は、導電性コーティング層を必要とする工業的用途での使用において特に好適なものとなっており、また、セキュリティ特徴をチェックするためのコーティング層において導電性顔料が必要とされることがある様々なセキュリティ製品での使用においても同様に特に好適なものとなっている。こうしたセキュリティ製品は、ほんの2、3例を挙げると、例えば、銀行券、小切手、クレジットカード、株券、パスポート、身分証明書、運転免許証、入場券、収入印紙などである。
【0058】
この顔料をコーティング剤およびインクに用いる場合、当業者に知られている全ての領域の用途、例えば、粉体塗料、自動車塗料、グラビア、オフセット、スクリーンまたはフレキソ印刷用の印刷インク、および屋外用途のコーティング剤への適用が可能である。印刷インクの調製には、複数のバインダー、特に水溶性だけでなく溶媒含有タイプの、例えばアクリレート、メタクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ニトロセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリ酪酸ビニル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、マレイン酸樹脂、デンプンまたはポリビニルアルコールに基づくバインダーが適している。コーティング剤は、水性コーティング剤であっても溶媒系コーティング剤であってもよく、コーティング剤構成成分の選択は当業者の一般的知識により行われる。
【0059】
本発明の顔料は、導電性プラスチックおよびフィルムの製造にも、例えば導電性フィルムおよびシートにも、導電性を必要とする当業者に知られたすべての用途のためのプラスチック容器および成形物にも有利に使用することができる。ここでは、適切なプラスチックは、すべての一般的なプラスチック、例えば熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂である。本発明の顔料は、ここでは、通常の真珠光沢または干渉顔料と同じ条件で使用される。
【0060】
したがって、プラスチック中へ導入することの特別の特徴は、例えば、R.Glausch、M.Kieser、R.Maisch、G.Pfaff、J.Weitzel著、Perlglanzpigmente [Pearlescent Pigments]、Curt Vincentz Verlag、1996年、83頁以降に記載されている。
【0061】
本発明の顔料は、さらに、流動性顔料配合物および乾燥配合物の調製にも適している。これらの配合物は、本発明による1種または複数種の顔料を含み、任意選択でその他の顔料または着色剤(以下を参照)、バインダー、および任意選択で1種または複数種の添加剤を含む。乾燥配合物とは、水および/または溶媒もしくは混合溶媒を0〜8重量%、好ましくは2〜8重量%、特に3〜6重量%含む配合物を意味するとも解される。乾燥配合物は、真珠粒子、ペレット、顆粒、チップ、ソーセージまたはブリケットの形をしており、約0.2〜80mmの粒径を有することが好ましい。
【0062】
言うまでもないが、本発明の顔料は、必要に応じその他の有機着色剤および/または無機着色剤および/または導電材料との混合物として、多種多様な塗布媒体に使用することができる。ここでは、これらの混合比は、媒体中の顔料濃度が所望の光学特性および/または機能性を達成するのに十分に高く、しかし必要とされる粘度または所望の特性に悪影響を及ぼさないよう十分に低い限りどの点からも限定されない。これらは、市販の添加剤、フィラーおよび/またはバインダー系と任意の比率で混合することができる。
【0063】
本発明の顔料は、光学可変性色挙動を有し、したがって、この種の色特性を必要とする多くの塗布媒体に適している。しかし、同時に、この顔料は導電性でもあり、それゆえ、塗布媒体に導電層を生成することができる。両特性から、本発明の顔料をセキュリティ用途で使用する場合に特に有利であることが分かる。この用途において、この顔料は、可視および不可視の両方のセキュリティ特徴を生成させる役割を果たすことができる。したがって、この顔料は、複数のセキュリティ特徴を生成させるセキュリティ用途で特に有利に使用することができる。
【実施例】
【0064】
例により本発明を以下に説明する。これらの例は、本発明を記述するものであるが、本発明を限定することを意図するものではない。
【0065】
実施例1:
SiO2フレーク(厚み:300nm、粒径10〜50μm)100gを脱イオン水1900mlに懸濁し、この懸濁液を、塩酸を使用してpH2.0に調節する。この懸濁液を温度75°Cで撹拌しながら、この懸濁液中へ50重量%SnCl4水溶液177.2g、HCl(37重量%)56ml、35重量%SbCl3水溶液38.3gの混合物を計量しながら連続的に供給することにより、アンチモンをドープした酸化スズの層をSiO2フレークに塗布する。水酸化ナトリウム溶液を、調節しながら同時に添加することによりpHを一定に保つ。この溶液を総量290ml添加した後、反応混合物を75°Cでさらに30分間撹拌し、次いで撹拌しながら室温まで冷却し、pH3に調節する。
【0066】
得られた顔料は、吸引漏斗でろ過し、水洗し、140°Cで乾燥し、850°Cで30分間焼成して、顔料粉体157.4gを得る。コーティング層中のSn:Sb比は85:15である。
【0067】
顔料粉体の比抵抗を測定するために、顔料0.5gを、直径2cmのアクリルガラス管中で金属ラムを用い10kgの重量をかけて金属電極に対して圧縮する。このように加圧した顔料の電気抵抗Rを測定する。比抵抗ρは、圧縮した顔料の層厚みLから次式により得られる。
ρ=R・π・(d/2)2/L(Ω・cm)
顔料粉体は青白く、12Ω・cmの粉体抵抗を有する。
【0068】
比較例:
マイカ(10〜50μm)100gを脱イオン水1900mlに懸濁し、この懸濁液を塩酸を使用してpH2.0に調節する。このマイカフレークに、例1と同様な方法で、アンチモンをドープした酸化スズを含む層を塗布する。得られた顔料は、吸引漏斗でろ過し、水洗し、140°Cで乾燥し、750°Cで30分間焼成して、顔料粉体158gを得る。コーティング層中のSn:Sb比は85:15である。
顔料粉体は薄灰色であり、65Ω・cmの粉体抵抗を有する。
【0069】
使用例:コーティングフィルムの導電率の試験
本発明の実施例からの顔料(顔料1)および比較例からの顔料(顔料2)をそれぞれ、NCラッカー(混合溶媒中コロジオン6%およびブチルアクリレート6%)に分散する。厚み100μmのPETフィルムにこれらのコーティング組成物をそれぞれ塗布する。ブランク試料として、導電性顔料を含まないNCラッカーをフィルムに塗布する。乾燥コーティング層中の顔料の濃度は、コーティングの乾燥重量を基準として約30重量%である。コーティング層の乾燥層厚みは約25μmである。コーティング層を乾燥した後、コーティング層の漏れ抵抗を、DIN 53482に従ってばね荷重式のタブ電極を利用して測定する。結果を表1に示す。
【0070】
コーティングフィルムの色を黒背景で評価する。この目的のために、コーティングフィルムを黒い基板(黒い厚紙またはフィルム)に貼り付け、急角度(約70°、色1)および浅い角度(約150°、色2)で観察する。結果を、同様に表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明の顔料と比較例の顔料とを比較することにより、本発明の顔料のみが、低い顔料濃度で優れた導電性および強い角度依存性の色を示すことが分かる。比較例の顔料を含むコーティング層の導電性は本発明の例のコーティング層の導電性より1桁悪く、コーティング層の色は魅力のない灰色である(黒背景)。予想通り、導電性顔料を含まないコーティング層の導電性はさらに数桁低く、その色は黒背景のために黒色である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも80nmの厚みを有しその全重量を基準として二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を少なくとも80重量%含むフレーク状基体と、この基体を取り囲む導電層とを有する顔料。
【請求項2】
屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とからなる層パッケージの少なくとも1つが、前記基体と前記導電層の間に設置されている顔料であって、各場合において屈折率n<1.8の層が前記導電層の直下に配置されているという条件で、前記屈折率n≧1.8の誘電体層が、前記基体の上に直接配置されていること、および任意選択で前記屈折率n<1.8の誘電体層の上に直接配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
前記基体がSiO2フレークであることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料。
【請求項4】
前記導電層が1種または複数種のドープした金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1から3の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項5】
前記導電層の前記金属酸化物が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、および/または酸化チタンであることを特徴とする、請求項4に記載の顔料。
【請求項6】
金属酸化物を含む前記導電層が、ガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、リン、ヒ素、アンチモン、セレン、テルル、モリブデン、タングステン、および/またはフッ素でドープされていることを特徴とする、請求項4または5に記載の顔料。
【請求項7】
前記誘電体層が、TiO2、酸化チタン水和物、チタン亜酸化物、Fe23、FeOOH、SnO2、ZnO、ZrO2、Ce23、CoO、Co34、V25、Cr23、および/またはこれらの混合相を含む屈折率n≧1.8の材料からなることを特徴とする、請求項2から6の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項8】
前記誘電体層が、SiO2、酸化ケイ素水和物、Al23、酸化アルミニウム水和物、これらの混合相またはMgF2を含む屈折率n<1.8の材料からなることを特徴とする、請求項2から7の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項9】
前記基体が、微粒子状および/または溶解した着色剤を、前記基体の全重量を基準にして20重量%以下の割合でさらに含むことを特徴とする、請求項1から8の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項10】
請求項1から9の一項または複数項に記載の光学可変性顔料の製造方法であって、以下のステップを含む方法:
a)任意選択で、少なくとも80nmの厚みを有しその全重量を基準として少なくとも80重量%の二酸化ケイ素および/または酸化ケイ素水和物を含むフレーク状基体を、屈折率n≧1.8の誘電体層と屈折率n<1.8の誘電体層とを含む層パッケージの少なくとも1つでコーティングして、各場合において屈折率n<1.8の誘電体層が前記導電層の直下に塗布されているという条件で、前記屈折率n≧1.8の誘電体層が、前記基体に直接塗布され、および任意選択でさらに前記屈折率n<1.8の誘電体層に直接塗布され、支持フレークを得るステップと、
b)ステップa)で得られた前記支持フレークのすべての面に導電層をコーティングするステップ。
【請求項11】
前記フレーク状基体のコーティングを、ゾルゲル法によってまたは無機出発物質からの湿式化学法によって行うことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塗布された前記導電層が、アンチモンをドープした酸化スズを含む層であることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
塗料、コーティング剤、印刷インク、プラスチック、セキュリティ用途、床仕上げ材、フィルム、調合物、セラミック材料、ガラス、紙、レーザーマーキング用、遮熱用、乾燥配合物、または顔料配合物への、請求項1から9の一項または複数項に記載の顔料の使用。
【請求項14】
前記顔料が、有機着色剤および/または無機着色剤および/または他の導電材料との混合物として使用されることを特徴とする、請求項13に記載の使用。

【公表番号】特表2011−506699(P2011−506699A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538417(P2010−538417)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010528
【国際公開番号】WO2009/077122
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】