説明

高層魚礁

【課題】 内部空間を大きく確保することができ、魚礁の中間海底用デッキの面積を大きくすることができ、クレーン台船を大型化する必要のない高層魚礁を提供すること
【解決手段】 構造物基体2の4隅部に、柱状体3が間隔をおいて上方に立ち上げるように設けられ、前後方向後部側の左右の各柱状体3と、左右方向両側部の前後の各柱状体3とに渡って平面コ字状の横架構体4が架設され、横架構体4の上面に床版が設けられて全体として平面コ字状の中間海底用デッキ5が形成され、前端部の柱状体3間は開口部12とされ、中間海底用デッキ5から内側に離れた位置に第1塔状構造物6を奥部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備えていると共に、中間海底用デッキ5から内側に間隔をおいて離れた位置に、第1塔状構造物6よりも低い第2塔状構造物7を開口部12側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備え、上部に複数段のリング状部を備えた筒籠状部15を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸域の比較的深い所に設置する高層魚礁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の漁場整備開発事業においては、「採る漁業」から「つくり育てる漁業」の推進が図られ、その主要なものとして、漁場造成、海洋牧場の造成などの施設として人工魚礁の設置が挙げられる。これらの人工魚礁を使用した魚礁群は、その陰影効果、餌料効果、渦流・湧昇流効果、逃避場効果等が発揮され、魚群の蝟集効果が発揮されて、新たな漁場が形成されることになる。
【0003】
このような人工魚礁として利用可能な高さを高くしたタワー型魚礁として、上方になるにしたがって先細状に構成し、上部に間隔をおいて複数の柱状体を立設すると共に、間隔の狭い各柱状体間の中央から、上端部にアームに支持された籠状構造物を設けた構造も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
魚の蝟集効果を高める上では、魚礁空間を大きくする方が望ましいが、前記の場合は、上方になるにしたがって先細状であるので、上方になるにしたがって、徐々に魚礁内空間が小さくなるという問題がある。
【0005】
魚礁上部の蝟集空間を高めるタワー型魚礁として、従来、下部枠体から高さの同じ5本の鉄塔を平面5角形状に配置して立設し、各鉄塔の上端部および中段部に補強用横梁を設けると共に、中段部に渡って格子状の床材を閉鎖環状に設けた高層魚礁も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、この場合には、20mを越える高層魚礁を吊り上げ搬送する場合に、搬送台船におけるクレーンのブームを、鉄塔間に配置して吊り上げ搬送することができないため、必然的に高層魚礁の上方にクレーンのブームを配置するようになり、ブームを長くして対応することになり、吊り上げ時の曲げモーメントが大きくなるためクレーン台船側も大型化するようになる。
【0007】
そして、沿岸域の比較的深い所においては、高さ20m以上の高層の魚礁が効果的と考えられているが、従来の高さ20mクラスまでの魚礁は、一般的に港湾漁港事業で普通のクレーン船で容易に施工可能であるが、高さ20mを超える高層魚礁の施工(積込・設置)は、起重機ブームの長さ(高さ)を必要とするため、特殊大型の起重機船(サルベージ船等)を必要とする。
【0008】
しかし、サルベージ船等の特殊大型の起重機船は、数も少なく設置地域の近傍にあるとは限らず、長距離の往復回航を必要とするケースが多く、また、陸上での製作組立場所や積込港の岸壁の広さ、水深の制約からも、特殊大型の起重機船を漁場整備事業に使用することが困難な場合がある。従って、全国各地で実施される沿岸漁場整備事業では、多くの制約を有する特殊大型起重機船を活用すること自体、実質的に困難であった。
【0009】
前記の点を改善する技術として、馬蹄形状に格子状床材を設け、開放部を形成して、ブームを柱状体の間に配置できるようにした高層魚礁も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−51664号公報
【特許文献2】特開2002−360107号公報
【特許文献3】特許第2659037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、馬蹄形状に床部を設ける場合には、平面馬蹄形の横架構体を設け、その横架構体の上側に塔状構造物を設けた構造であるので、馬蹄形の床部(中間海底用デッキ)と塔状構造物とが同じ馬蹄形状部に位置しているので、塔状構造物がデッドスペースとなって床部面積が小さくなるという問題がある。
【0011】
本発明は、前記の従来の利点を生かしながら、しかも前記従来の問題点を有利に解決し、高層魚礁の内部空間を大きく確保することができ、しかも魚礁の床部(中間海底用デッキ)面積を大きくすることができ、さらに、クレーン船を大型化することない高層魚礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、第1発明の高層魚礁においては、鋼材等で構成され内部に蝟集空間を有する平面多角形状の構造物基体の隅部に、それぞれ内部に蝟集空間を有する柱状体が間隔をおいて上方に立ち上げるように設けられ、前端側に配置された一対の左右の各柱状体間を除く魚礁外周方向に隣り合う柱状体に渡って、内部に蝟集空間を有する平面一部切欠多角環状の横架構体が架設され、平面一部切欠多角環状の横架構体の上面に床版が設けられて全体として平面一部切欠多角環状の中間海底用デッキが形成され、前記前端側に配置された一対の左右の各柱状体間は横架構体および中間海底用デッキが設けられていない開口部とされ、前記中間海底用デッキから内側に離れた位置で中間海底用デッキの高さレベルよりも上端部の高さが上方に離れた第1塔状構造物を奥部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備えていると共に、前記平面一部切欠多角環状の中間海底用デッキから内側に間隔をおいて離れた位置で上端部のレベルが前記中間海底用デッキのレベルよりも高く、かつ第1塔状構造物の上端部レベルと高低差がつけられ高さの低い第2塔状構造物を開口部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備え、さらに前記各第1および第2塔状構造物は内部に蝟集空間を有し、上部に複数段のリング状部を有する筒籠状部を備えていることを特徴とする。
【0013】
また、第2発明の高層魚礁においては、鋼材等で構成され内部に蝟集空間を有する平面矩形状の構造物基体の4隅部に、それぞれ内部に蝟集空間を有する柱状体が間隔をおいて上方に立ち上げるように設けられ、前後方向後部側の左右の各柱状体と、左右方向両側部の前後の各柱状体とに渡って内部に蝟集空間を有する平面コ字状の横架構体が架設され、各辺の前記横架構体の上面に床版が設けられて全体として平面コ字状の中間海底用デッキが形成され、前端部の柱状体間は横架構体および中間海底用デッキが設けられていない開口部とされ、前記中間海底用デッキから内側に離れた位置で中間海底用デッキの高さレベルよりも上端部の高さが上方に離れた第1塔状構造物を奥部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備えていると共に、前記平面コ字状の中間海底用デッキから内側に間隔をおいて離れた位置で上端部のレベルが前記中間海底用デッキのレベルよりも高く、かつ第1塔状構造物の上端部レベルと高低差がつけられ高さの低い第2塔状構造物を開口部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備え、さらに前記各第1および第2塔状構造物は内部に蝟集空間を有し、上部に複数段のリング状部を有する筒籠状部を備えていることを特徴とする。
【0014】
また、第3発明では、第1発明または第2発明の高層魚礁において、第2塔状構造物が構造物基体の前端部に設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、第4発明では、第1発明〜第3発明のいずれかの高層魚礁において、各柱状体の外周側に、上下方向に延長する側面板が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明または第2発明によると、平面多角形状または平面矩形状の構造物基体の隅部または4隅部に間隔をおいて柱状体を立ち上がるように設けているので、隅部または4隅の柱状体により囲まれる内側空間を大きくすることができ、また、横架構体を平面一部切欠環状または平面コ字状に設けているので、横架構体を設けていない前端側または一辺側を魚礁内における潮流の流れの良い潮上側の開口部とすることができる。横架構体の上にほぼ連続した広い中間海底用デッキを形成でき、その部分に海底に位置する種の魚の定着場として機能させることができ、また、中間海底用デッキに定着したヒラメ、カレイ等魚が中間海底用デッキを助走場として利用して第1,2塔状構造物周囲の小魚を捕獲する餌料場として機能させることができる。
【0017】
また、第1塔状構造物と第2塔状構造物との高さレベルに比較的大きな差があるので、クレーン船におけるクレーンにより、岸壁付近の組立ヤードから高層魚礁をクレーン船に載置する場合、あるいはクレーン船から設置場所に吊り上げ降下させて海底に設置する場合に、クレーンのブームを高さの低い第2塔状構造物側から高さの高い第1塔状構造物に向かうように傾斜させた状態で配置することができ、すなわち、クレーンのブームの中間部を高さの低い第2塔状構造物側に配置することができるので、高さの高い第1塔状構造物側の上にブームの中間部を配置する場合に比べて、ブームの長い特殊な大型のクレーン船を使用することなく、通常のクレーン船を用いて高層魚礁を吊り上げ搬送することができる。
【0018】
また、第2発明によると、第2塔状構造物の設けられている位置が、開口部側でしかも前端部であるので、第1および第2塔状構造物の間を広くでき、遊泳空間を大きくすることができ、より内部空間の大きい高層魚礁とすることができる。
【0019】
また、第3発明によると、各柱状体の外周側の巾方向中間部に隅部の柱から離れた位置に、上下方向に延長する側面板が設けられているので、側面板背面に小魚の隠れ場を形成でき、また、隅部の柱から離れた位置に側面板が設けられていると、側面板の両側における隅部柱との間に小魚の逃げ道を容易に形成できる効果がある。また、側面板により渦流を発生させることも期待できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次にこの発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1〜図5は、本発明の一実施形態の高層魚礁を示すものであって、図1は、本発明の一実施形態の高層魚礁の斜視図、図2は高層魚礁の正面図、図3は高層魚礁の平面図、図4は高層魚礁の左側面図、図5は高層魚礁の背面図である。
【0022】
図に示す実施形態の高層魚礁1では、高さ20m以上、例えば25m程度のものであり、その構造物は、構造物基体2と、その4隅部から立設される柱状体3と、各柱状体3の上部に渡って設けられている横架構体4と、その上に設けられている全体として平面コ字状の中間海底用デッキ5と、中間海底用デッキ内側で奥部側に位置する2本の高い第1塔状構造物6と、中間海底用デッキ内側で開口部側に位置する2本の低い第2塔状構造物7とを備えている。
【0023】
前記の構造物基体2は、L形鋼等の鋼材を直方体状に組立溶接されると共に適宜対角方向にブレス材が配設されて形成された鋼材ブロック8が、前後方向および左右方向に、鋼材ブロック8のほぼ巾方向の寸法間隔をおいて千鳥状に配置されていると共に前後方向および左右方向に隣り合う各鋼材ブロック8が連結鋼材9により連結されて、内部に蝟集空間を有する平面矩形状の構造物基体とされている。
【0024】
前記の構造物基体2の4隅部には、L形鋼等を直方体状に組立溶接されて形成された角柱状鋼材ブロックまたは前記鋼材ブロック8を複数直列に溶接等により結合して角柱状に製作した柱状体3の下部が溶接等により固定されている。
各柱状体3の外周側の外側における2つの側面のそれぞれの巾方向中間部であって柱状体3における隅部の柱19から横方向に離れた位置に、上下方向に延長する鋼製側面板20が溶接等により柱19間に設けられた斜材等に固定されて、側面板20の両側における隅部柱19との間に小魚の逃げ道を容易に形成している。また、側面板20により渦流を発生させることも期待できる。また、側面板20の上部は、上方に延長されて横架構体4の外側面に溶接により固定されている。
【0025】
前記の横架構体4は、L形鋼を上梁、下梁あるいは斜材として利用してこれらを直方体状に組立溶接されて形成された一つまたは複数の角梁状鋼材ブロックにより製作され、内部に蝟集空間を有するようにされ、前記横架構体4が、前後方向後部側の左右の各柱状体3の上端部および左右方向両側部の前後の各柱状体3の上端部に渡って架設されて、前記各横架構体4により平面コ字状の横架構体4が形成され、その平面コ字状の横架構体4の上面には、多数の鋼製矩形状等の床版が敷き並べて溶接等により固定されて、全体として平面コ字状の中間海底用デッキ5が形成されている。
【0026】
したがって、前端部の柱状体3間は横架構体4および中間海底用デッキ5が設けられていないで開口部12とされている。
【0027】
前記の中間海底用デッキ5の内側に離れた位置において、複数の高さの高い第1塔状構造物6が、開口部12から奥側に離れた位置に設けられていると共に、開口部12側の前端部に複数の高さの低い第2塔状構造物7が設けられている。
【0028】
前記の各第1および第2塔状構造物6,7を構成する柱状部は、前記の鋼材ブロック8の前後方向および左右方向の隅部の柱材の内側に位置するように小幅間隔とされた隅部柱材を備えた柱状部で、1つまたは複数の鋼材ブロックが溶接等により組立てられて構成されている。各塔状構造物6,7の下部は、構造物基体2の鋼材ブロック8内に配置されて、鋼材ブロック内に設けられた支持鋼材を介して支持されていると共に、構造物基体2に水平支持鋼材あるいは傾斜支持鋼材などの連結鋼材により連結されて横方向の安定性を図るようにされている。
【0029】
また、各第1および第2塔状構造物6,7の上部外側には、前後方向および左右方向に張り出す複数の支持鋼材の中間部が溶接等により各塔状構造物6,7に固定されて構成された支持部材ユニット16が、上下方向に間隔をおいて設けられ、上下方向の各段の支持部材ユニット16に、短管状の鋼板製リング状部材17の内側が溶接により固定され、また、各鋼板製リング状部17はその内側にそって縦向きに配置された縦連結鋼材18が溶接により固定されて、各塔状構造物6,7の上部に、上下方向に間隔をおいてリング状部材17を備えた筒籠状部15を形成している。
【0030】
各第1塔状構造物6と各第2塔状構造物7の上端部のレベルは、比較的大きな高低差がつけられており、高さの異なるそれぞれの塔状構造物6,7が別々に認識されやすいように構成され、また、それぞれの塔状構造物6,7の上部周囲付近に小魚類が蝟集しやすいようにされている。
【0031】
各第1塔状構造物6の上端レベルは、中間海底用デッキ5の高さレベルよりも上方に大きく離れた位置とされ、各第1塔状構造物6の上端部から下方に間隔をおいて複数段のリング状部を備えた筒籠状部15を備えている。また、各第2塔状構造物7の上端レベルは、中間海底用デッキ5のよりも上方に離れた位置とされ、各第2塔状構造物7の上端部から下方に間隔をおいて複数段のリング状部を備えた筒籠状部15を備えている。
【0032】
第2塔状構造物7側に設けられている筒籠状部15の下端レベルは、中間海底用デッキ5の上面レベルより若干下方の位置とされている。また、第1塔状構造物6の筒籠状部15の下端レベルは、第2塔状構造物7の上端レベルよりも大きく上方に離れ、第1塔状構造物6側の筒籠状部15と第2塔状構造物7の筒籠状部15とが別々に認識されやすいように構成され、また、それぞれの筒籠状部15付近に小魚類が蝟集しやすいようにされている。
【0033】
前記の筒籠状部15を備えた第1塔状構造物6と、筒籠状部15を備えた第2塔状構造物7との高低差を大きくした理由について、図6を参照して説明すると、大きな高低差とすることにより、クレーン船11おけるブーム13の中間部あるいは先端部を、第1塔状構造物6の上端レベル内で、かつ第2塔状構造物7の上方に配置することができ、そのため、クレーン船11のブーム13を長くすることなく、通常のクレーン船を使用して高層魚礁1をクレーン船11から設置場所に吊り上げ搬送したり、製作ヤードからクレーン船11に積み込むことができるようにされている。
【0034】
なお、構造物基体2の上面には、鋼製エキスパンドメタル等からなる多孔状足場14が設けられ、高層魚礁1の設置時の作業足場あるいは設置後における小魚の逃げ場として機能させることができる。また、多孔状足場14に定着したヒラメ、カレイ等魚が多孔状足場14を助走場として利用して適度に離れた第1,2塔状構造物周囲の小魚を捕獲する餌料場としても機能させることができる。図示の形態では、第1塔状構造物6間および第2塔状構造物7間および第2塔状構造物7の後部側の左右方向における構造物基体2の上面に設けられている。
【0035】
このように構成された本発明の高層魚礁1を設置する場合は、潮流方向の潮上側に開口部12が向くように海底に設置され、潮上側に蝟集する習性の魚類が開口部12を通して中間部の魚礁内部に回遊しやすいようにされている。また、構造物基体2には、必要に応じ、コンクリートあるいは鋼片を錘りとして付属させ、高層魚礁1の安定性を向上させることができる。
【0036】
また、平面矩形状の構造物基体2の4隅部に間隔をおいて柱状体3を立ち上がるように設けているので、4隅の柱状体3により囲まれる内側空間を大きくすることができ、また、これらに渡って架設される横架構体4を平面コ字状に設けているので、横架構体4を設けていない一辺側を魚礁内における潮流の流れの良い潮上側の開口部12とすることができる。また、横架構体4の上にほぼ連続した広い中間海底用デッキ5を形成でき、その部分に海底に位置する種の魚の定着場として機能させることができ、また、中間海底用デッキ5に定着したヒラメ、カレイ等魚が中間海底用デッキ5を助走場として利用して適度に離れた第1,2塔状構造物周囲の小魚を捕獲する餌料場として機能させることができる。
また、平面視では、平面コ字状の中間海底用デッキ5内側に、間隔をおいて離れた塔状構造物6,7が設けられている単純な構成であるので、略平面コ字状の中間海底用デッキを含む矩形状の広い釣り場面積のある魚礁とすることができ、釣り糸を中間海底用デッキ付近あるいはその内側あるいは塔状構造物間に投下させて、各種の魚を釣ることが可能な高層魚礁とすることができる。
【0037】
また、第1塔状構造物6と第2塔状構造物7との高さレベルに比較的大きな差があるので、クレーン船11におけるクレーンにより、岸壁付近の組立ヤードから高層魚礁1をクレーン船11に載置する場合、あるいはクレーン船11から設置場所に吊り上げ降下させて海底に設置する場合に、クレーンのブーム13を高さの低い第2塔状構造物7側から高さの高い第1塔状構造物6に向かうように傾斜させた状態で配置することができ、すなわち、第1塔状構造物6の高さレベル内に、クレーンのブーム13の中間部を高さの低い第2塔状構造物側に配置することができるので、高さの高い第1塔状構造物6側の上にブーム13の中間部を配置する場合に比べて、ブームの長い特殊な大型のクレーン船を使用することなく、通常のクレーン船を用いて高層魚礁1を吊り上げ搬送することができる。
【0038】
なお、本発明の高層魚礁1を設置する場所として沿岸域の比較的深い所として、水深60m以深の海域を想定しており、この海域における高層魚礁の高さは少なくとも20m以上のものを想定している。望ましくは、20m〜30mの高さを有するものがよい。これ以上の高さの高層魚礁1になると、海底に人工魚礁を設置した際に潮流等の関係から不安定になる恐れがある。
【0039】
また、普通の起重機船のクレーンブームの長さは40m以下であるので、この普通起重機ブームで例えば40mの高層魚礁1として、これを吊り上げ搬送する場合には、魚礁高さのほぼ中間部高さで吊り上げるのが望ましく、この場合に、第2塔状構造物7間にクレーンブームを配置するようにしてもよい。
【0040】
なお、構造物基体2や柱状体3または搭状構造物6,7あるいは横架構体4並びに中間海底用デッキ5等は、クレーンブームで吊り上げることからの軽量化、錆が剥がれることによる不良付着生物(生物死骸も含む)の除去性能、蝟集空間の確保等を考慮して、鋼材製とされている。
【0041】
なお、本発明の高層魚礁1は、単位魚礁として用いて単体での小漁場も形成でき、また、公知の中・低層魚礁とを組合せると、培養効果を有する人工礁を構築できる。
【0042】
次に、図7を参照して本発明の高層魚礁の作用効果について説明すると、以下のようになる。
(1)内部空間を有する下部の構造物基体2により(図7における2点鎖線の楕円Iで示す領域)、魚礁に魚体の大部分もしくは一部を接触させている種の魚、例えば、アイナメ、カサゴ、クジメ、オコゼ、マダコ等の蝟集効果がある。
(2)また、下部の構造物基体2上から塔状構造物6上部におけるリング状部下部付近の広い領域(図7における一点鎖線の縦長楕円IIで示す領域)で、体を魚礁に接触させることは少ないが、魚礁に極く近い所に位置する種の魚(マダイ、チダイ、イシダイ、メバル、クロソイ、イサキ、メジナ等)の蝟集効果を高めている。
(3)また、鋼板等による平面コ字状の中間海底用デッキ部分から塔状構造物のリング状部付近の広い領域(図7における点線の横長楕円IIIで示す領域)において、主として魚礁から離れた表中層に位置する種の魚(ブリ類、マグロ類等、カツオ類、アジ類、サバ類、シイラ類)の大型魚の蝟集効果がある。
(4)また、塔状構造物のリング状部近傍領域(図における小さい縦長楕円IIIで示す領域)において、主として魚礁から離れた表中層に位置する種の魚(ブリ類、マグロ類等、カツオ類、アジ類、サバ類、シイラ類)の小型魚の蝟集効果がある。
(5)また、鋼板等による平面コ字状中間海底用デッキ付近(図7における点線の横長扁平楕円IVで示す領域)は、主として魚礁周辺の海底に位置する種の魚(ヒラメ、カレイ類等、アマダイ、シロギス、カジキ等)の定着場および餌料場として機能し蝟集効果がある。
【0043】
本発明を実施する場合、各搭状構造物6,7の中間あるいは上部に、水産生物の着生基質を設け、藻場や産卵場として機能させてもよく、例えば、横架構体4及び柱状体または搭状構造物3,6,7の少なくとも一方の外側面に水産生物の着生基質となる擬岩を貼り付けた構成としてもよい。隠れ場的効果を発揮させるためには、横架構体4に擬岩を貼り付ける方がより効果が期待できる。
【0044】
本発明を実施する場合、図8に示すように、潮流の下流側となる横架構体4の背面側に矩形状鋼板等の縦板21を横方向に間隔をおいて複数枚固定してもよく、このようにすると、各縦板21の裏面側を小魚の逃げ場を形成することができ、また、縦板21により渦流を発生させることができる。
【0045】
また、本発明を実施する場合、高層魚礁1の全体平面形状としては、四角形以上の多角形状でもよく、このような場合には、下部基体2を平面多角形とし、中間海底用デッキ5は、一部切欠多角環状形状になり、例えば、図9の平面正8角形とした高層魚礁1の概略平面図に示すように、下部基体2における8つの各隅部に、柱状体3を立設し、潮上側に好都合な開口前端側(図の右側)における一対の左右方向に隣り合う柱状体3間を除いた横外周方向(平面多角環状方向)に隣り合う柱状体3に横架構体4を架設して、一部切欠多角環状の横架構体4を形成し、その上面に多数の床版を構成する矩形状等の鋼板を設置して、中間海底用デッキ5を形成するようにしてもよい。
【0046】
また、各柱状体3を平面多角形状の隅部に柱を配置する形態とする場合には、多角形の各柱状体3の外周側外側の多角形数の半数位の各側面(平面5角形なら2〜3つの外側面、平面6角形なら3つの側面)に側面板20を設けるようにすればよい。その他の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態の高層魚礁の斜視図である。
【図2】図1に示す高層魚礁の正面図である。
【図3】図1に示す高層魚礁の平面図である。
【図4】図1に示す高層魚礁の左側面図である。
【図5】図1に示す高層魚礁の背面図である。
【図6】クレーン船によって、高層魚礁を吊り上げ搬送している状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の高層魚礁の各部によって期待できる蝟集効果の模式図である。
【図8】横架構体の下流側の背面に縦板を設けた背面図である。
【図9】四角形以上の多角環状の高層魚礁とする場合の概略平面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 高層魚礁
2 構造物基体
3 柱状体
4 横架構体
5 中間海底用デッキ
6 第1塔状構造物
7 第2塔状構造物
8 鋼材ブロック
9 連結鋼材
11 クレーン船
12 開口部
13 ブーム
14 多孔状足場
15 筒籠状部
16 支持部材
17 リング状部
18 縦連結鋼材
19 隅部の柱
20 側面板
21 縦板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材等で構成され内部に蝟集空間を有する平面多角形状の構造物基体の隅部に、それぞれ内部に蝟集空間を有する柱状体が間隔をおいて上方に立ち上げるように設けられ、前端側に配置された一対の左右の各柱状体間を除く魚礁外周方向に隣り合う柱状体に渡って、内部に蝟集空間を有する平面一部切欠多角環状の横架構体が架設され、平面一部切欠多角環状の横架構体の上面に床版が設けられて全体として平面一部切欠多角環状の中間海底用デッキが形成され、前記前端側に配置された一対の左右の各柱状体間は横架構体および中間海底用デッキが設けられていない開口部とされ、前記中間海底用デッキから内側に離れた位置で中間海底用デッキの高さレベルよりも上端部の高さが上方に離れた第1塔状構造物を奥部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備えていると共に、前記平面一部切欠多角環状の中間海底用デッキから内側に間隔をおいて離れた位置で上端部のレベルが前記中間海底用デッキのレベルよりも高く、かつ第1塔状構造物の上端部レベルと高低差がつけられ高さの低い第2塔状構造物を開口部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備え、さらに前記各第1および第2塔状構造物は内部に蝟集空間を有し、上部に複数段のリング状部を有する筒籠状部を備えていることを特徴とする高層魚礁。
【請求項2】
鋼材等で構成され内部に蝟集空間を有する平面矩形状の構造物基体の4隅部に、それぞれ内部に蝟集空間を有する柱状体が間隔をおいて上方に立ち上げるように設けられ、前後方向後部側の左右の各柱状体と、左右方向両側部の前後の各柱状体とに渡って内部に蝟集空間を有する平面コ字状の横架構体が架設され、各辺の前記横架構体の上面に床版が設けられて全体として平面コ字状の中間海底用デッキが形成され、前端部の柱状体間は横架構体および中間海底用デッキが設けられていない開口部とされ、前記中間海底用デッキから内側に離れた位置で中間海底用デッキの高さレベルよりも上端部の高さが上方に離れた第1塔状構造物を奥部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備えていると共に、前記平面コ字状の中間海底用デッキから内側に間隔をおいて離れた位置で上端部のレベルが前記中間海底用デッキのレベルよりも高く、かつ第1塔状構造物の上端部レベルと高低差がつけられ高さの低い第2塔状構造物を開口部側に左右方向に間隔をおいて2〜3本備え、さらに前記各第1および第2塔状構造物は内部に蝟集空間を有し、上部に複数段のリング状部を有する筒籠状部を備えていることを特徴とする高層魚礁。
【請求項3】
第2塔状構造物が構造物基体の前端部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の高層魚礁。
【請求項4】
各柱状体の外周側に、上下方向に延長する側面板が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高層魚礁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−101717(P2006−101717A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289483(P2004−289483)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000006839)日鐵建材工業株式会社 (371)
【Fターム(参考)】