説明

高度な光触媒のリンドープアナターゼTiO2組成物及びその製造方法

本発明は、概して、増大された光触媒活性を示すドープアナターゼTiO組成物に関する。組成物の一形態において、本発明は、ナノサイズのアナターゼ型結晶構造のニ酸化チタン組成物を提供する。上記組成物は、リンでドープされ、かつそのドーピングレベルは0.10〜0.55重量%である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[本発明の分野]
本発明は、概して、増大された光触媒活性を示す、ドープアナターゼTiO組成物に関する。
【0002】
[本発明の背景]
長年、顔料産業は、有機樹脂の分解及び塗装表面の白亜化の原因となる、TiOの光触媒活性を減少させることに焦点を当てていた。しかしながら、高表面積のTiOナノ物質の発見によって、一部の科学者は、ニ酸化チタンの光触媒性質を理解し、さらに最大限に生かすことに焦点を当てている。このような取り組みは、多くの場合、空気及び水における低濃度の有機汚染物質の光分解を触媒する物質を開発することを目的としている。
【0003】
ナノサイズのアナターゼTiOが、光触媒として研究されている。3.2eVである上記アナターゼのバンドギャップが水の分解に近づくように、格子及び表面のドーピングによって、このバンドギャップを緩和することに、焦点が主に当てられている。しかしながら、これまで、ドーパントと正確な効果との間の相関関係についての系統的な研究は行われていない。さらに、一貫性のない方法を介して相当な数のドープ物質の生成が行われており、報告された研究を比較することを非常に困難にしている。
【0004】
報告されたドーピングの研究において、デグサ(Degussa)P25は、比較的一貫した市販品であり、事実上、光触媒の基準となっている。デグサP25は純アナターゼではなく、かつそのルチル型の中身は可変ではあるが、これが実情である。
【0005】
当業者には、一般に、リンドーピングはデグサP25などの物質の触媒活性を低下させるという説が受け入れられている。本発明は、予期されない有益な発見の提示を介して、この説に反論するものである。
【0006】
[本発明の概要]
本発明は、概して、増大された光触媒活性を示すドープアナターゼTiO組成物に関する。
【0007】
組成物の一形態において、本発明は、ナノサイズのアナターゼ型結晶構造のニ酸化チタン組成物を提供する。上記組成物は、リンをドープされ、かつそのドーピングレベルは0.10〜0.55重量%である。
【0008】
方法の一形態において、リンドープアナターゼ型結晶構造のニ酸化チタンを製造する方法を提供する。上記は:1)オキシ塩化チタン、オキシ硫酸チタン、又は他のチタン塩のリンドープ溶液を噴霧乾燥し、上記物質中にリン原子が均一に分散された非晶質固体のニ酸化チタン中間体を形成する工程であって、上記溶液中のリンの量は、0.10〜0.55重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる工程;及び、2)300〜900℃の温度で、上記非晶質固体の中間体を焼成する工程を含む。
【0009】
他の方法の形態において、本発明は有機化合物の光分解を誘発する方法を提供する。上記方法は、光の存在下で上記有機化合物をリンドープアナターゼ型結晶構造の二酸化チタン物質に暴露する工程を含む。上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも100%大きい。
【0010】
[図の簡単な説明]
図1は、標準TiOであるデグサP25における4−CP(4−クロロフェノール)の分解と比較して、リンドープアナターゼ物質の表面における4−CPの相対的な光触媒分解のグラフを示す。
【0011】
図2は、リンドーピングが4−CPの全体的な光触媒分解を顕著に促進している、図1のグラフの一部を示す。データは、標準TiOであるデグサP25の表面における4−CPの分解と比較している。
【0012】
図3は、アナターゼナノ粒子の表面の“原位置”で製造し得る化合物の一つである、ピロリン酸チタン‐TiP‐の旋光分散(ORD:optical rotatory dispersion)を示す。
【0013】
図4は、0.3%リンドープナノアナターゼの走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)画像を示す。
【0014】
図5は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high-performance liquid chromatography)及び全有機体炭素(TOC:total organic carbon)法によって分析された、非ドープアナターゼ、0.3%リンドープアナターゼ、及び標準デグサP25における、4−クロロフェノール及びイソプロパノールの光分解速度定数の比較を示す。
【0015】
図6は、HPLCによって分析された、分解の中間有機生成物を含む、非ドープアナターゼ及び0.3%リンドープアナターゼにおける、4−クロロフェノールの光分解の比較を示す。
【0016】
図7は、TOC法によって分析された、0.3%リンドープアナターゼ及びデグサP25における4−クロロフェノールの光分解の比較を示す。
【0017】
図8は、HPLC測定法によって測定された、分解の中間生成物を含む2.4%リンドープアナターゼにおける4−クロロフェノールの光分解を示す。
【0018】
[本発明の詳細な説明]
本発明は、ナノサイズのアナターゼ型結晶構造のニ酸化チタンにおける、効果的なリンドーピングレベルについて説明する。上記ドーピングは、非ドープのTiOと比較して、数回ドープされたTiOの表面における有機化合物の光分解を増大する。
【0019】
概して、TiOにおけるリンドーピングレベルは、0.10〜0.55重量%である。好ましくは、上記ドーピングレベルは、0.20〜0.40重量%である。さらに好ましくは、上記ドーピングは0.25〜0.35重量%又は0.27〜0.35重量%であり、約0.30重量%であることが最適である。
【0020】
出願者は、どのような説にもとらわれずに、下記事項が観察されたドーピング効果の信憑性のある説明であることを確信する。リンは一般にアナターゼの光触媒活性を減少させる。しかしながら、リンの存在は、有機化合物のナノアナターゼの表面への吸収を顕著に増加させる。これにより、全体的な光分解作用はさらに効率的になる。
【0021】
リンはアナターゼ格子における溶解性を制限されている。焼成工程において、過剰なリンは上記格子から、最後には粒子表面上に除去される。上記格子によるリンの除去は比較的複雑なプロセスであり、また、上記粒子上へのピロリン酸チタンの適切な堆積は従来技術の手順にある。焼成温度に応じて、リン酸チタン、リン酸チタニル、ピロリン酸チタン、又はそれらの混合物が粒子表面上に形成される。
【0022】
過剰なリンは、アナターゼナノ粒子上に薄い層を形成する。これによって光分解の促進が説明され得る。低濃度のリンはアナターゼ結晶格子の間に均一に分散され、その結果、物質の吸収特性に影響を与えないものである。あるリン濃度において、リン酸チタンの単分子層が上記粒子の上に形成される。これは有機化合物の吸収を顕著に増加させ、光分解プロセスを促進する。さらなるリン濃度の増加は、リン酸チタン又はピロリン酸チタンの密集した緻密な層を生じさせる。付随して、粒子表面の有機化合物の吸収は増加するが、光活性TiOの核は上記化合物から分離され、したがって活性は減少する。
【0023】
データは、1.2%リンドープアナターゼの表面におけるn−ブタノールの吸収は、非ドープの表面における吸収の2倍になり得ることを示す。さらに高いリンレベルにおいて、n−ブタノールの吸収はこれ以上大幅に増加しない。
【0024】
最も効果的な範囲のリンをドープされたアナターゼは、オキシ塩化チタン、オキシ硫酸チタン、又は他のチタン塩水溶液の、リンドープ溶液の乾燥噴霧によって適宜加工され、上記物質中にリン原子が均一に分散された、非晶質固体の二酸化チタン中間体が形成される。その後、上記非晶質固体の中間体は、次の工程において焼成され(300〜900℃)、リンをドープされたアナターゼ結晶構造の粒子が形成される。分散されたアナターゼ粒子を形成するために、焼成された物質は任意に製粉されてもよい。
【0025】
上記ドーピングは、概して、ドープされたTiOの表面における有機化合物の光分解を、非ドープのTiOと比べて少なくとも100%増大させる。多くの場合、上記ドーピングは、光分解を少なくとも150〜200%増大させる。ある場合では、上記ドーピングは、光分解を250〜300%増大させる。
【0026】
[実施例]
(実施例1)
オキシ塩化チタン溶液(120gTi/L)を250℃で噴霧乾燥して形成した中間体を、さらに550℃で24時間焼成した。焼成で得られた一次粒子のサイズは約40nmであった。上記粒子は中空球の薄膜であるマクロ構造を形成した。さらに上記生成物を一次粒子に分散した。この生成物における有機化合物の光触媒無機化は、市販の標準TiOであるデグサP25とほぼ同様であった(図5及び図6)。
【0027】
(実施例2)
TiOに対して0.3重量%のリンに相当する量のリン酸を、オキシ塩化チタン溶液(120gTi/L)に処理した。上記溶液を250℃で乾燥噴霧して形成した固体の中間体を、さらに750℃で16時間焼成した。焼成で得られた一次粒子のサイズは約40nmであった。上記粒子は中空球の薄膜であるマクロ構造を形成した。さらに上記生成物を一次粒子に分散させた(図4)。この生成物における有機化合物の光触媒分解は、市販の標準TiOであるデグサP25におけるものよりも、約3倍早かった(図5、6及び図7)。この生成物の表面におけるn−BOHの吸収は、デグサP25におけるものよりも約2倍高かった。
【0028】
(実施例3)
TiOに対して2.4重量%のリンに相当する量のリン酸を、オキシ塩化チタン溶液(130gTi/L)に処理した。上記溶液を250℃で乾燥噴霧して形成した中間体を、さらに800℃で16時間焼成した。焼成で得られた一次粒子のサイズは約40nmであった。上記粒子は中空球の薄膜であるマクロ構造を形成した。さらに上記生成物を一次粒子に分散させた。この生成物における有機化合物の光触媒無機化は、市販の標準TiOであるデグサP25におけるものよりも顕著に遅かった。加えて、多くの有機分解中間生成物が光分解の間に形成された(図8)。
【0029】
(実施例4)
TiOに対して0.3重量%のリンに相当する量のリン酸を、オキシ塩化チタン溶液(120gTi/L)に処理した。上記溶液を250℃で乾燥噴霧して形成した固体の中間体を、さらに750℃で16時間焼成した。焼成で得られた一次粒子のサイズは約40nmであった。上記粒子は中空球の薄膜であるマクロ構造を形成した。この生成物における有機化合物の光触媒分解は、市販の標準TiOであるデグサP25におけるものよりも約3倍早く、機械製粉工程によって表面に損傷を受けた0.3%リン物質におけるもよりもわずかに早かった。不均一系においてこの物質は簡単に分離するため、TiO化合物を実装させずに使用する場合、この物質は光触媒として最適に利用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】標準TiOであるデグサP25における4−CPの分解と比較して、リンドープアナターゼ物質の表面における4−CPの相対的な光触媒分解のグラフを示す図である。
【図2】リンドーピングが4−CPの全体的な光触媒分解を顕著に促進している、図1のグラフの一部を示す図である。
【図3】アナターゼナノ粒子の表面の“原位置”で製造し得る化合物の一つである、ピロリン酸チタン‐TiP‐の旋光分散を示す図である。
【図4】0.3%リンドープナノアナターゼの走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【図5】高速液体クロマトグラフィー及び全有機体炭素法によって分析された、非ドープアナターゼ、0.3%リンドープアナターゼ、及び標準デグサP25における、4−クロロフェノール及びイソプロパノールの光分解速度定数の比較を示す図である。
【図6】HPLCによって分析された、分解の中間有機生成物を含む、非ドープアナターゼ及び0.3%リンドープアナターゼにおける、4−クロロフェノールの光分解の比較を示す図である。
【図7】TOC法によって分析された、0.3%リンドープアナターゼ及びデグサP25における4−クロロフェノールの光分解の比較を示す図である。
【図8】HPLC測定法によって測定された、分解の中間生成物を含む2.4%リンドープアナターゼにおける4−クロロフェノールの光分解を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノサイズであるアナターゼ型結晶構造の二酸化チタン組成物であって、上記組成物はリンをドープされ、かつ上記ドーピングレベルは0.10〜0.55重量%である組成物。
【請求項2】
上記ドーピングレベルは0.15〜0.50重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記ドーピングレベルは0.20〜0.40重量%である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
上記ドーピングレベルは0.25〜0.35重量%である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
上記ドーピングレベルは0.27〜0.33重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
リンドープアナターゼ型結晶構造の二酸化チタンの製造方法であって、以下の各工程を含み、それによって結晶構造のニ酸化チタンを形成する方法:
a)オキシ塩化チタン、オキシ硫酸チタン、又は他のチタン塩のリンドープ溶液を噴霧乾燥し、上記物質中にリン原子が均一に分散された非晶質固体のニ酸化チタン中間体を形成する工程であって、上記溶液中のリンの量は、0.10〜0.55重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる工程;及び、
b)300〜900℃の温度で、上記非晶質固体の中間体を焼成する工程。
【請求項7】
上記溶液中のリンの量は、0.15〜0.50重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記溶液中のリンの量は、0.20〜0.40重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記溶液中のリンの量は、0.25〜0.35重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記溶液中のリンの量は、0.27〜0.33重量%の範囲にドープされる物質を形成する量から選ばれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
有機化合物の光分解を誘発する方法であって、上記方法は、光の存在下で、上記有機化合物をリンドープアナターゼ型結晶構造の二酸化チタン物質に触れさせる工程を含み、上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも100%大きい方法。
【請求項12】
上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも150%大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも200%大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも250%大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
上記リンドープ物質の光触媒活性は、非ドープ物質より少なくとも300%大きい、請求項11に記載の方法。

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2009−505824(P2009−505824A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528095(P2008−528095)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/032865
【国際公開番号】WO2007/024917
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(501495330)アルテアナノ インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】