説明

高引張強度および/または高弾性率を有する合成有機芳香族複素環ロッドファイバーまたはフィルムを得る方法

【課題】高引張強度および/または高弾性率を有する合成有機芳香族複素環ロッドファイバーまたはフィルムを得る方法を提供する。
【解決手段】合成有機ポリマーを紡いで芳香族複素環ロッドファイバーにする工程または、前記合成有機ポリマーを芳香族複素環ロッドフィルムとして得る工程と、加工助剤の存在下において、前記加工助剤の沸点よりも低くかつ−50℃よりも高い温度、および、ファイバーまたはフィルム破断強度の10〜95%の張力で、前記ファイバーまたはフィルムに負荷を加える工程と、前記加工助剤を取り除き、および/または、ファイバーまたはフィルム破断強度の10〜95%の張力で加熱工程を行う工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバー(繊維)またはフィルム、および、高引張強度および/または高弾性率を有する合成芳香族複素環有機ロッドファイバーまたはフィルムを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの高度技術用途にとって、高引張強度および/または高弾性率を有するファイバーおよびフィルム用いることが重要である。これらのいわゆる高性能ファイバーまたはフィルムは、有機系(例えばパラ−アラミド繊維およびフィルムまたは炭素繊維)または無機系(例えばEガラス繊維、炭化ケイ素繊維)でもよい。それらは、自動車用、航空宇宙用および防弾用の数々の専用品、建造物の補強、海洋探査、防護服、スポーツ用品、および断熱に利用されている。高性能繊維またはフィルムの各々の種類はある一定のニッチ用途で優れている。
ある特別な種類の高性能ファイバーまたはフィルムは、高弾性高強度ファイバーまたはフィルムである。この種類の有機系部材は、分子間相互作用によって繋ぎ合わされた共有結合(一次元)鎖を含有する。代表的な例としては、Dyneema(登録商標)およびSpectra(登録商標)のごとき超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)、Kevlar(登録商標)、Technora(登録商標)およびTwaron(登録商標)のごときパラ−アラミド、Vectran(登録商標)のごとき芳香族同素環ポリエステル、およびピリドビスイミダゾールをベースにしたPBO(Zylon(登録商標))およびPIPD(M5)のごとき芳香族複素環ロッドが挙げられる。
【0003】
PBOは、高い弾性率と強度と、良好な熱的性質と可撓性とを兼ね備えているので、消防士のための耐衝撃耐炎作業服および耐熱フェルトに好適である。しかしながら、構造複合材への使用は、その低い圧縮強度によって制限されてしまう。新規のファイバーまたはフィルムM5は、圧縮特性が著しく改善されたPBOのようなファイバーまたはフィルムである。
これまで、前記ファイバーまたはフィルムは引張特性が目覚ましい範囲および、ある種類のファイバーまたはフィルムに至っては、単繊維もしくはフィルムタイプでも優れた引張特性を備えていると考えられていた。それにもかかわらず、引張強度をさらに高めることができると、実質的な改良をすることができ、既存の高性能ファイバーまたはフィルムでは不可能であった新しい用途が現実のものとなる。PIPDについて、紡糸、エアギャップ延伸および熱処理の慣用技術が、特許文献1に記載されている。前記技術は、最も近い従来技術と考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP0,696,297
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
高引張強度および/または高弾性率を有する合成有機芳香族複素環ロッドファイバーまたはフィルムを得る新規の方法を用いることによって、引張強度を実質的に2倍以上に向上させ、弾性率も向上させることが見出された。前記新規な方法は、合成有機ポリマーを紡いで芳香族複素環ロッドファイバーにする工程、または、(例えば成形によってまたはドクターブレードを用いることによって)前記合成有機ポリマーを芳香族複素環ロッドフィルムとして得る工程と、加工助剤の存在下において、前記加工助剤の沸点よりも低くかつ−50℃よりも高い温度、ファイバーまたはフィルム破断強度の10〜95%の張力で、前記ファイバーまたはフィルムに負荷を与える工程と、前記加工助剤を取り除き、および/または、ファイバーまたはフィルム破断強度の10〜95%の張力で加熱工程を行う工程と、を含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
既存の方法によれば、ファイバーおよびフィルムの配向および弾性率は、張力を受けている状態での熱処理によって向上する。故に、例えば、(石英)管で構成されるオーブンをファイバーに対して用いる。前記管内の底から少し上の部分に、窒素の流れを導入する。その流量は調節することができる。また、前記窒素の流れは加熱してもよい。前記窒素の流れはファイバーを加熱するのに用いられるが、不活性雰囲気としての役割も果たす。ファイバーは、オーブン内で、上方クランプから吊り下げられる。その下端にはおもりを取り付け、加熱処理中に張力がかかるようにする。オーブンおよび上方クランプは共に頑丈な枠に取り付けられる。第2のクランプ(下方クランプ)を、前記枠の、前記第1のクランプ(上方クランプ)および加熱帯よりも下の部分に取り付ける。この下方クランプを閉めると、前記装置内でのファイバー片の長さが固定され、加熱処理中に変わることはない。さらに、前記窒素の流れを室温よりも低い温度まで冷ます設備も導入する。
【0007】
従来技術の方法によれば、ある特定の後処理は以下のようにして実施することができる。例えば、21℃および65%の相対湿度で調整された紡いだままのPIPDファイバーを、前述のように、前記装置内にクランプで固定した。初めに張力は掛けなかった。その後、張力をかけ、そして前記ファイバーを1回、好ましくは異なる温度における複数回の処理に附した。300mN/texの張力で150℃、350℃および550℃のそれぞれにおいて30秒間の加熱を行ったときに最も良い結果が得られた。機械的性質を評価するには、オーブンの加熱された領域内のファイバー部分のみを用いた。
【0008】
本発明によれば、初めに張力はかけなかった。その後任意に、ファイバーを、好ましくは室温まで、さらに好ましくは20℃よりも低い温度、例えば5℃まで、冷ましてもよい。ファイバーまたはフィルムに張力(例えば、約800mN/tex)をかけ、この張力および温度を短い時間、通常は1分間未満、例えば6秒間、維持した。その後、下方クランプを閉め、すなわち、前記ファイバーまたはフィルムの緊張(伸び)を固定し、そして熱処理を開始した。この場合、温度を1〜600秒間で5℃から500℃まで、または好ましくは10〜300秒間で室温から350℃まで上昇させた。
【0009】
測定したファイバーの機械的特性はフィラメント(長繊維)特性である。前記フィラメント特性は、25〜75本のフィラメントについて、Favimat(登録商標)(Textechno、Monchengladbach、Germany)によって測定した。前記フィラメントの破断張力および弾性率の平均値は、25〜75本のフィラメントに対する25〜75個の測定値または1本以上のフィラメントの25〜75部分に対する25〜75個の測定値の平均値として測定したところ、それぞれ、3,600mN/texおよび320GPaであることが分かった。前記フィラメントの原張力および弾性率は、それぞれ、2,100mN/texおよび170GPaであった。フィルムの場合、当業者に周知であるように、測定は上記と同様にして行った。
【0010】
好ましい実施態様において、ファイバーまたはフィルムを製造するための前記方法は、紡いだファイバーを、前記加負荷工程と加熱工程の間で、50℃〜300℃、好ましくは80℃〜100℃の温度で、ファイバーまたはフィルム破断強度の10〜95%の張力で、気相または蒸気相の加工助剤による処理工程に附すことによって、さらに改善される。この気相または蒸気相の加工助剤による処理によって、以降の工程においてより低い張力を用いることができるようになり、結果として破損および毛羽立ちが少なくなる。特に、加負荷工程をより低い張力で行っても、気相または蒸気相の加工助剤処理を行わずより高い張力負荷と同様の結果を得ることができる。また、気相または蒸気相の加工助剤での処理をしない場合に比べ同じ張力でも高強力および/または高弾性率のファイバーまたはフィルムが得られる。前記気相または蒸気相の加工助剤による処理工程と、前記加熱工程とを組み合わせて、1つの工程として実施してもよい。その場合、ファイバーまたはフィルムを最初に気相または蒸気相の加工助剤で処理した後、加熱する。
【0011】
本発明の方法は、任意の芳香族複素環ロッドファイバーおよびフィルム、さらに好ましくはPBOおよびPIPDに用いることができる。フィラメントの線密度は、0.1〜5,000dtexであることが好ましく、マルチフィラメントの線密度は、0.5〜5dtexであることが好ましく、0.8〜2dtexであることがさらに好ましい。
ファイバー(繊維)は、1種(モノフィラメント)または少なくとも2本の長繊維(マルチフィラメント)、具体的には2〜5,000本、さらに具体的には100〜2,000本のフィラメントを含有する。約1,000本のフィラメントを含有するファイバーがよく用いられる。
前記加工助剤は、任意の不活性液体、例えば水、酸(例えばリン酸、硫酸)、塩基(例えばアンモニア)、水性塩溶液(例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム)および有機化合物(例えばエタンジオール、メタノール、エタノール、NMP)でもよい。加工助剤は水溶液であることが好ましく、水であることがさらに好ましい。加工助剤が水である場合、気相または蒸気相の加工助剤は蒸気である。
【0012】
本発明の方法において、実質的な熱機械後処理を全く受けていない紡いだままの繊維または得られたままのフィルムを用いることが好ましい。ファイバーを湿式紡糸によってまたはフィルムを成形、ドクターブレード等によって製造し、かつ、水または水溶液を凝集媒体として用いおよび/または水または水溶液を中和および洗浄に用いた場合、前記紡いだままのファイバーまたは得られたままのフィルムは、最大100重量%を上回る水分を含有し得る。さらに、21℃および65%の相対湿度において調整された後、前記紡いだままのファイバーまたは得られたままのフィルムの含水率は、5重量%を上回り、一般に8重量%を上回ることがあり得る。PIPDの場合、前記紡いだままのファイバーまたは得られたままのフィルムの調整後の含水率は、(乾燥したポリマーに基づいて)約20〜24重量%である。
【0013】
加負荷中および気相または蒸気相の加工助剤による任意の処理の際にかけられる張力は、ファイバーまたはフィルムの破断強度の10〜95%であり、これは慣用に用いられてきた張力よりも高い。例えば、PIPDファイバーの慣用の紡績法では、乾燥前の負荷は、2,100mN/texの破断強度の5%を超えない。張力は、紡いだままのファイバーの破断強度の15〜80%であることがさらに好ましく、25〜60%であることが最も好ましい。フィルムについても同様の張力が用いられる。気相または蒸気相の加工助剤による処理(例えば水蒸気処理)が用いられる場合には、この処理における張力は、加負荷工程において用いられる張力の60〜90%であることが好ましい。前記気相の加工助剤による処理は、一定の長さで行われることが好ましい。処理時間は、0.1秒間〜1時間、好ましくは1〜300秒間であることが好ましい。
加負荷時の温度は、加工助剤の沸点よりも低く、かつ、少なくとも−50℃であり、好ましくは少なくとも−18℃であり、DMTAで測定したファイバーまたはフィルムの局所熱転移が始まる温度に近いまたはわずかに高くてもよい。実用的な温度は室温である。好ましい温度は、0〜20℃の範囲内である。PIPDの場合、局所転移温度は約−50℃で始まる。加熱前の加負荷時間は、一般に0.1〜1,000秒間である。
【0014】
加熱工程では加工助剤の沸点よりも高い温度が用いられる。加熱工程は、一定の温度または段階的に異なる温度で、常圧、高圧または減圧で進行させることによって、ファイバーまたはフィルムからの加工助剤の除去を促進させてもよい。加熱工程は、100℃〜ファイバーの融解または分解温度よりも50℃低い温度で行われることが好ましい。例えば、PIPDおよびPBOの場合、好ましくは120〜450℃、さらに好ましくは125〜350℃、最も好ましくは130〜250℃の温度で、0.1秒間〜1時間、好ましくは1〜300秒間行われる。高温におけるファイバーまたはフィルムの破断を防止するために、加熱工程において負荷を徐々に少なくする必要があり得る。好ましい実施態様において、加工助剤は加熱工程の実施と同時に取り除かれる。
【0015】
さらに本発明は、0.1〜500dtexの線繊維密度と、3,200mN/texよりも高い引張強度とを有する合成有機PIPDファイバーに関する。前記引張強度は3,300mN/texよりも高いことが好ましく、3,500mN/texよりも高いことがさらに好ましい。さらに本発明は、弾性率が少なくとも14GPa、好ましくは少なくとも20GPaである合成有機フィルムに関する。
Favimat測定を以下のようにして行った。
100mmの1本のファイバーからランダムに25〜75本のフィラメントを選択し、Favimat (Textechno、Monchengladbach、Germany)のファイバーマガジンに50mgのプレテンションおもりをつけて吊るした。各フィラメントについて、繊度およびその力−伸び曲線を自動的に測定した。その際に用いた試験条件は以下の通りである。
【0016】
温度 21℃
相対湿度 65%
ゲージ長 25.4mm
ファイバーカウントプレテンション 1.0cN/tex
クランプ速度 2.54mm/min
機械特性の値として、フィラメントの特性の平均値とした。
以下の結果が得られた。
【0017】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高引張強度および/または高弾性率を有する合成有機芳香族複素環ロッドファイバーまたはフィルムを得る方法であって、前記方法は、
(i)合成有機ポリマーを紡いで芳香族複素環ロッドファイバーにする工程、または、前記合成有機ポリマーを芳香族複素環ロッドフィルムとして得る工程、
(ii)加工助剤の存在下において、前記加工助剤の沸点よりも低くかつ−50℃よりも高い温度、および、繊維またはフィルム破断強度の10〜95%の張力で、前記繊維またはフィルムに負荷を加える加負荷工程、
(iii)前記加工助剤を取り除く工程、および
(iv)繊維またはフィルム破断強度の10〜95%の張力で前記繊維またはフィルムを加熱する加熱工程、
を含んでなることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
紡いだままのファイバーまたは得られたままのフィルムが前記加負荷工程に附される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加負荷工程は−18℃〜室温で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加負荷工程は0℃〜20℃で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱工程は100℃以上で実施される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記加負荷工程と加熱工程の間で、前記紡いだままのファイバーまたは得られたままのフィルムは、50℃〜300℃の温度で気相または蒸気相の前記加工助剤による処理工程に附される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のファイバーまたはフィルムを得る方法。
【請求項7】
ファイバーまたはフィルムが、80℃〜100℃の温度で処理工程に附される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記加工助剤は水溶液である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記加工助剤は水である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記加工助剤は前記加熱工程の実施と同時に取り除かれる、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
0.1〜500dtexの線繊維密度と、3,200mN/texよりも高い平均引張強度とを有する請求項1に記載の方法によって得られる合成有機ファイバー。
【請求項12】
前記平均引張強度が3,500mN/texよりも高い、請求項11に記載の合成有機ファイバー。
【請求項13】
弾性率が少なくとも14GPaであることを特徴とする、請求項1に記載の方法によって得られる合成有機フィルム。
【請求項14】
弾性率が少なくとも20GPaである請求項13記載の合成有機フィルム。

【公開番号】特開2009−185441(P2009−185441A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91692(P2009−91692)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2004−516638(P2004−516638)の分割
【原出願日】平成15年6月23日(2003.6.23)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】