説明

高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維

【課題】ゴム補強用繊維として、高強力で耐疲労性に優れた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の提供。
【解決手段】少なくとも95モル%がヘキサメチレンアジパミド単位からなる高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維であって、該ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の、蟻酸相対粘度は60以上であり、強度は9.5cN/dtex以上であり、沸騰水収縮率は5.0%以上であり、かつ、切断余裕度は10%以上であり、そして仕上剤が、該繊維の表面に繊維重量当たり0.5〜2.5重量%付与されている、ここで該仕上剤は、モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物を含み、かつ、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤が、該仕上剤成分の全体に対して5重量%〜25重量%で含まれる、ことを特徴とする前記高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維に関する。本発明は、特に、ゴム補強用繊維として、ゴムに埋め込まれて加硫処理された時に高強力であり、かつ優れた耐疲労性を示す高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、強靭性、接着性、耐疲労性に優れているため、タイヤコードなどのゴム補強用繊維として広く採用されている。産業用資材製品は常に軽量化が求められており、繊維補強用材料としては、その機能を損なうことなく繊維の量を削減することが重要である。かかる要求を満足するために、より高強度の繊維を開発することが求められており、様々な検討がなされている。
【0003】
高強度ポリヘキサメチレンアジパミド繊維に関するものとして従来、例えば、特許第2559866号公報(以下、特許文献1参照)には、繊維を形成するポリヘキサメチレンアジパミドの蟻酸相対粘度が85以上になるように溶融紡糸し、該紡出糸条に非水系の仕上剤で処理し、次いで多段延伸することを特徴とする高耐疲労性高強力ポリヘキサメチレンアジパミドの製造方法が開示されている。しかしながら、本実施例からみる限りにおいて、該繊維の強度レベルは9.4cN/dtex以下の範疇であり、本発明の9.5cN/dtex以上の高強力水準領域では、該実施例に記載されている仕上剤組成では、レゾルシンーホルムアルデヒドーラテックス(RFL)処理コード、加硫コードの強力、及び耐疲労性については不十分な水準であった。また高耐疲労性の達成手段が、一定水準以上の分子量と非水系仕上剤に限定されており、実施例では、経済性または環境負荷軽減の観点から、仕上剤を鉱物油で希釈することなく原油のままオイリングロールを用いて付与する方法を採用しているが、仕上剤原油の粘度が高いため仕上剤の付着が不均一となり、実際上切糸数、毛羽が多い等の工程性能に問題があった。
【0004】
特許第3291828号公報(以下、特許文献2参照)には、特徴的な繊維構造パラメータを満足し、かつ特定の処理剤を均一に付与された強度9.7cN/dtex以上、切断伸度が16%以上、沸騰水収縮率が4%以下である高強度ナイロン66繊維が開示されている。
特許文献2に開示された高強度ナイロン66繊維の具体的な製造方法としては、銅化合物を含む溶液中にチップを浸漬、またはチップに該溶液をかけて吸着させた後、固相重合で硫酸相対粘度3.0以上の高重合度ポリマーとし紡糸温度280℃〜310℃の範囲で溶融紡糸するものであり、その特徴は以下の通りである:
(1)紡糸口金直下に、10〜100cmの加熱筒を設置し、加熱筒内の雰囲気温度を250℃以上とする。
(2)冷却固化後連続的に熱延伸する工程で、引き取りロール前に、高級炭化水素で希釈された特定の処理剤成分を、付与する処理剤全体の50%未満で付与する。
(3)次いで、引き取りロールと給糸ロール間で1〜10%のストレッチを与えて、原油又は高級炭化水素で希釈された特定の処理剤成分を付与する。
(4)上記特定の処理剤は、極圧性、潤滑性、耐熱性に優れた処理剤成分であり、(A)二価エステル化合物を50〜80重量%、(B)炭素数C〜C26の分岐アルコールのエチレンオキサイド付加物(n=1〜7)の燐酸化物ナトリウム塩からなる化合物(B)を0.3〜10重量%、多価アルコールエチレンオキサイド付加物で、その付加物のモル数が10〜50モルである化合物と、モノ及びジカルボン酸とを反応して得られる非イオン活性剤からなる化合物(C)を10〜40重量%含有する処理剤である。
(5)次いで、延伸は2段以上の熱延伸を採用し、最終延伸温度は230℃以上であり、リラックスロール間で8〜12%弛緩させた後に巻き取る。
【0005】
特許文献2に開示される製造方法で製造される高強度ナイロン66繊維は、沸騰水収縮率が4%以下であるため、一般的な重合度(硫酸相対粘度3.6以下)のナイロン66ポリマーを使用した高強度ポリアミド繊維では、熱収縮応力が小さいためレゾルシンーホルムアルデヒドーラテクッス(RFL液)処理時、230℃前後の熱処理ゾーンで一定の張力をかけて数十秒間熱処理する際に、熱結晶化を促進しながら見掛け熱延伸されることになる。当該高強度ナイロン66繊維は、延伸限界倍率の90%以上の延伸倍率で延伸されていることも重なって、RFL処理時の熱処理時に構造上の欠陥が増加し、処理コードのタフネス及び耐疲労性が低下するという問題があった。このため、特許文献2の実施例に記載されている如く硫酸相対粘度3.6(蟻酸相対粘度で120)を超える高重合度のナイロン66ポリマーを固相重合にて準備する必要があるためコスト高となるのと同時に、溶融粘度が高くなるので該実施例に記載されている如く20cm長の加熱筒を取り付けてフィラメントを形成するナイロン66ポリマーの溶融粘度を下げる必要があるためランニングコスト、設備的にコスト高となる問題があった。
【0006】
また、特許文献2において使用される仕上油に関しても、水中に仕上油を均一に分散させる乳化機能をもつ高級アルコールPOEO付加物(処理剤3)を付与した高強度ナイロン66繊維が、その示差複屈折が構造上の構成要件を満足できないために耐疲労性は低いレベルにあり、また、該明細書記載内容から使用される特定処理剤成分は、非水系処理剤に限定される。このため、特許文献2において使用される仕上油は、高級炭化水素で希釈して付与される必要があり、経済的に高価でかつ環境負荷が大きいという問題があった。さらに、特許文献2に記載される高強度ナイロン66繊維に関しては、その最終延伸温度が230℃以上であるため、処理剤が劣化することに伴う延伸ロール表面の汚れが激しく、毛羽や糸切れが増加するという工程性能上不安定な問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2559866号公報
【特許文献2】特許第3291828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しょうとする課題は、前記従来技術における問題点を解消し、レゾルシンーホルムアルデヒドーラテックス(RFL液)処理コード及び加硫コードに用いられる高強力で高耐疲労性を有する高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を提供することである。
本発明が解決しょうとする課題は、特定の繊維物性、繊維の表面に付与される特定の仕上剤を好適に組み合わせることで、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)ポリマーを必要以上に高重合度にすることなく、かつ経済性及び環境負荷に優れるエマルジョン仕上剤(水分散系)であっても、RFL液処理コード及び加硫コードとして用いられる場合に、高強力で高耐疲労性を有し、かつ工程性能に優れた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである:
[1]少なくとも95モル%がヘキサメチレンアジパミド単位からなる高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維であって、該ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の、蟻酸相対粘度は60以上であり、強度は9.5cN/dtex以上であり、沸騰水収縮率は5.0%以上であり、かつ、切断余裕度は10%以上であり、そして仕上剤が、該繊維の表面に繊維重量当たり0.5〜2.5重量%付与されている、ここで該仕上剤は、モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物を含み、かつ、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤が、該仕上剤成分の全体に対して5重量%〜25重量%で含まれる、ことを特徴とする前記高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。
【0010】
[2]前記仕上剤が、下記(a)〜(c):
(a)多価エステル化合物が、仕上剤成分全体に対して、40〜75重量%で含まれる、
(b)高級アルコールのPOEO付加物が、仕上剤成分全体に対して、10〜45重量%で含まれる、
(c)モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物が、仕上剤成分全体に対して、15重量%〜50重量%で含まれる、
の特徴を有する、前記[1]に記載の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。
【0011】
[3]前記仕上剤が、仕上剤主成分を水中に分散させたエマルジョンで付与されることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、9.5cN/dtex以上の強度を有する高強度繊維であるので、各種産業の資材用途の軽量化に適用でき、かつ耐疲労性も良好なので特にタイヤコード等のゴム補強用途の軽量化に好適に利用しうる。
また、本発明の高強度ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の表面に付与する特定の仕上剤は、エマルジョン(水分散系)仕上剤を用いることも可能であり、従来の非水系仕上剤に限定されていた高強度高耐疲労性ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の製法と比較して、経済性及び環境負荷軽減に有効であり、工程安定性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例に使用した試験用紡糸機及び延伸機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いるポリヘキサメチレンアジパミドポリマーは、分子鎖の繰り返し構造単位の95モル%以上がヘキサメチレンアジパミドであって、5モル%未満の共重合成分を含有していてもよい。共重合成分としては、例えば、ε―カプロアミド、テトラメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド、ヘキサメチレンセバカミド、ヘキサメチレンセバカミド、ヘキサメチレンイソフタラミド、テトラメチレンテレフタラミド、キシレンフタラミド等が挙げられる。共重合成分を5モル%以上含有する場合には、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の結晶性が低下し、耐熱性、熱寸法安定性が低下するため好ましくない。
【0015】
本発明においては、繊維を形成するポリヘキサメチレンアジパミドの蟻酸相対粘度が60以上になるように溶融紡糸しなければならない。蟻酸相対粘度が60未満の場合、本発明の強度9.5cN/dtex以上が安定して得られない。使用する原料ポリマーの蟻酸相対粘度、水分率及び溶融紡糸中のポリマー温度、滞留時間を調整することによって、繊維を形成するポリヘキサメチレンアジパミドの蟻酸相対粘度を設定することができる。繊維を形成するポリヘキサメチレンアジパミドの蟻酸相対粘度の好ましい範囲は60〜120であり、溶融紡糸の容易さを考慮すれば65〜110がより好ましい。
【0016】
本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の強度は、9.5cN/dtex以上である。強度が9.5cN/dtex未満では、各種産業の資材用途の軽量化、特にタイヤコード等のゴム補強用途の軽量化に有効に寄与しない。高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の強度の好ましい範囲は、9.8cN/dtex以上である。一方、高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の強度の上限は、11.5cN/dtexである。強度が11.5cN/dtexを超えると、毛羽や糸切れが増加して工程数が大きく低下する。高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の強度の上限の好ましい範囲は、11cN/dtexである。
【0017】
また、本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の沸騰水収縮率は5%以上でなければならない。本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)で処理される時、数十秒間一定張力下でかつ200℃以上の高温で熱処理されるため、熱結晶化を促進しながら延伸されることになる。このため、沸騰水収縮率が5%未満の場合には、RFL処理時の熱処理時に構造上の欠陥が増加し、処理コードのタフネスが低下する。沸騰水収縮率が5%以上になると熱収縮応力が高くなるためレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)処理時の延伸が抑制され高強力の処理コードを得ることが可能となる。沸騰水収縮率の好ましい範囲は、5.5%〜12%である。
【0018】
さらに、本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の切断余裕度は10%以上である。切断余裕度は、下記式で定義される:
切断余裕度=[(A/B)−1]×100%
{式中、Aは、脱脂乾燥後のポリヘキサメチレンアジパミド繊維の蟻酸相対粘度であり、そしてBは、脱脂乾燥後の伸張破断したポリヘキサメチレンアジパミド繊維の蟻酸相対粘度である。}。
なお、伸張破断したポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、引っ張り試験機で伸長破断させた後のポリヘキサメチレンアジパミド繊維をいう。
切断余裕度が10%未満の場合、切糸回数が増加し工程性能が低下するばかりか、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維中の構造欠陥が増加し、伸長圧縮現象を繰り返す耐疲労特性が低下する。高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の切断余裕度の好ましい範囲は12%以上である。一方、切断余裕度の上限は50%である。切断余裕度が50%を超えると、分子鎖の繊維軸方向に対する引き揃えが十分でなく、9.5cN/dtex以上の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得ることができない。切断余裕度の上限の好ましい範囲は45%である。
【0019】
本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、直接紡糸多段延伸法にて製造され、高張力で延伸ロールに接して延伸されるため、極圧性と金属表面との摩擦抵抗低減(平滑性)に優れ、加硫コードの強力低下抑制、及び耐疲労性向上のため、繊維を形成する単繊維間の摩擦抵抗を低減する仕上油は、繊維の表面に均一に付着されている必要がある。
そこで、本発明に係る高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の表面には、モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物を含み、かつジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤が、仕上剤成分全体に対して5重量%〜25重量%含まれる仕上剤を、繊維の重量当たり0.5〜2.5重量%で付与される。
【0020】
また、当該繊維表面に付与される仕上剤は、下記(a)〜(c)を特徴とする:
(a)多価エステル化合物が、仕上剤成分全体に対して、40〜75重量%である。
(b)高級アルコールのPOEO付加物が、仕上剤成分全体に対して、10〜45重量%である。
(c)モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物が、仕上剤成分全体に対して、15重量%〜50重量%である。
仕上剤の付着量が0.5%未満になると、極圧性と金属表面との摩擦抵抗低減効果(平滑性)が十分でなく高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を安定的に生産することが困難となる。一方、仕上剤の付着量が2.5重量%を超えると、レゾルシンーホルムアルデヒドーラテックス液(RFL液)処理時に、RFL液のポリヘキサメチレンアジパミド繊維に対する浸透性が阻害されゴムとの接着が大きく低下するため、目的とする耐疲労性を得ることができない。仕上剤の繊維重量当たりの付着量の好ましい範囲は、0.7〜2.0重量%である。
【0021】
前記の仕上油(本明細書の全体にわたり、「仕上剤」ともいう。)において、多価エステル化合物(a)としては、2価エステル化合物として、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等とオレイン酸、エルシン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、オクチル酸等の1塩基酸とのエステル、ジオレイルアジペート、ジイソステアリルアジペート、ジオクチルアジペート、ジ(2−オクチルドデシル)アジペートなどのアジピン酸エステル、セバチン酸エステル、ジオレイルチオジプロピオネート、ジオクチルチオジプロピオネート等のチオジプロピオン酸エステル、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等フェノール類と1塩基酸とのエステル、3価以上のエステル化合物として、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール、ソルビタン、ソルビトール、イソシアヌル酸等とオレイン酸、エルシン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、オクチル酸等の1塩基酸とのエステルが挙げられる。耐熱性及び平滑性から、3価以上のエステル化合物と2価エステル化合物の混合物が好ましく、3価以上のエステル化合物が多価エステル化合物全体に対して、5〜50重量%、好適には10〜40重量%である。
【0022】
多価エステル化合物は、仕上剤主成分全体に対し、40〜75重量%である。多価アルコールの比率が40%未満になると、金属表面との摩擦抵抗低減効果(平滑性)が損なわれ工程性能が大きく低下する。一方、75重量%を超えると、高級アルコールのPOEO付加物(b)やモノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物(c)の添加量が相対的に低下し、エマルジョンの安定性が低下したり、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を構成する単繊維間の摩擦抵抗低減効果を損なうことになり、工程性能や加硫コードの強力及び耐疲労性が低下することになる。好適には45〜70重量%である。
【0023】
また、高級アルコールのPOEO付加物(b)は、高級アルコールとしては、直鎖又は分岐アルコールであり、炭素数C〜C26のアルコールが好ましい。具体的には、オクチルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、イソデシルアルコール、ラウリルアルコール、イソラウリルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、2−ヘプチルウンデカノール等である。上記多価アルコールにモル数が10〜50モルのプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド(POEO)付加物が付加される。
【0024】
高級アルコールのPOEO付加物は、仕上剤主成分全体に対し、10〜45重量%である。高級アルコールのPOEO付加物は10重量%未満では、安定したエマルジョンが得られず糸切れ及び毛羽が増加し工程性能が大きく低下する。一方45重量%を超えると多価アルコール化合物(a)及びモノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物(c)の添加量が相対的に低下し、平滑性やポリヘキサメチレンアジパミド繊維を構成する単繊維間の摩擦抵抗低減効果を損なうことになり、工程性能や加硫コードの強力及び耐疲労性が低下することになる。好適には15〜40重量%である。
【0025】
モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤は、多価アルコールとして、エチレンオキサイド付加物のモル数が10〜50モルである化合物と、モノ及びジカルボン酸とを反応して得られる非イオン活性剤であり、多価アルコールのエチレンオキサイド付加物は、例えば硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、ソルビトールエチレンオキサイド付加物であり、特に硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物が好ましい。
モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤で使用されるモノカルボン酸は、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸等であるが、特にステアリン酸、イソステアリン酸が好ましい。
またジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤で使用されるジカルボン酸は、マレイン酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカン酸等であるが、特にマレイン酸、アジピン酸が好ましい。
【0026】
上記モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤とジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物(c)は、仕上剤主成分全体に対して15〜50重量%となるよう混合して使用される。ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤は、高い油膜強度を有するが、エマルジョンとしては極めて不安定である。一方、モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤は、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤と比較して油膜強度は劣るものの、エマルジョン安定性が比較的高く、混合して使用することで、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤のエマルジョン安定性が相乗的に向上する。
【0027】
モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤とジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤との混合物(c)が、仕上剤成分全体に対して、15重量%未満では、油膜強度が不十分であり、十分な単繊維間摩擦抵抗低減効果が得られず、目標とするRFL液処理コード強力、加硫コード強力及び耐疲労性を得ることができない。一方、50重量%以上になると油膜強度は十分であるが、多価エステル化合物(a)や高級アルコールのPOEO付加物(b)の含有量が相対的に低下し、平滑性や乳化性能が低下し、工程性能やエマルジョン安定性が低下する。モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤とジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物の好ましい範囲は、仕上剤主成分全体に対して20〜45重量%である。
【0028】
またジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤は、仕上剤主成分全体に対して5〜25重量%含有される。ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤が5重量%未満になると、モノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤を併用しても、十分な油膜強度を得ることができない。25重量%を超えると、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の粘度が高いため延伸ロール上に残って汚れを促進したり、さらにはモノカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の含有量を増やしても、相分離を引き起こし易く、安定なエマルジョンを得ることができない。ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤含有量の好ましい範囲は、10〜22重量%である。
【0029】
なお、前記の仕上剤成分(a)、(b)、及び(c)の他に、3重量%以下の酸化防止剤や水中に分散された仕上剤成分のエマルジョン状態の安定化のため石鹸成分を2重量%以下含有してもよい。
驚くべきことに、また予想外に、本発明で特定した繊維物性を有する高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の表面に付与する仕上剤を選定することで、その仕上剤をエマルジョン(仕上剤主成分を水中に分散させた状態)で付与しても、高強力で、かつ高耐疲労性を持った加硫コードを得ることが可能となる。
【0030】
次に、図1を参照しながら、本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の製造方法について説明する。
まず、酢酸銅や沃化銅、及びハロゲン化アルカリ金属などの安定剤を含む、蟻酸相対粘度40〜50のプレポリマーを公知の溶融重合法で製造し、ポリマーペレットとする。次いでこのポリマーペレットを公知の固相重合法で蟻酸相対粘度80〜120まで高分子量化する。なお、蟻酸相対粘度80〜100程度の高分子量であれば、公知の溶融重合法の最終段階で真空度を調整することで安価に得ることが可能である。
【0031】
上記ポリヘキサメチレンアジパミドポリマーを紡糸温度280℃〜310℃の範囲で溶融した後、約10〜80μの細孔を有する金属不織布フィルターを組み込んだ紡糸パック中を通過させ、口金細孔を通して紡出する。口金直下には、加熱ゾーンが設けられる。
上記加熱ゾーンを通過した糸条は加熱ゾーン直下で急冷固化され、次いで仕上剤が付与される。仕上剤は前記した仕上剤成分からなり、鉱物油で希釈した非水系仕上剤を付与してもよいが、好適には仕上剤濃度が15〜35重量%のエマルジョン仕上油がオイリングロールを用いて付与される。繊維に付着させる仕上剤の付着量は、巻き取った繊維に対し0.5〜2.5重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%である。
【0032】
次に、延伸は、図1に例示する装置を用いて2段以上の多段熱延伸が採用される。総合延伸倍率は4.0〜6.8倍、通常は、4.5〜6.5倍である。延伸ロールは、3対以上の延伸ロールからなり、第1延伸ロールと第2延伸ロール間で、全延伸倍率の40%〜65%が延伸され、第2延伸ロールと第3延伸ロール間で最終延伸倍率まで延伸される。第2延伸ロールと第3延伸ロール間の延伸は、延伸歪速度を遅くすることが必要であるため、第2延伸ロールは、糸条が第2延伸ロール上をスリップするようにロールの表面粗度がRa2.5〜5.5μmになるように表面加工処理される。第2延伸ロールの表面粗度がRa2.5μm未満では、充分に延伸歪速度を遅くすることが困難であり、切断余裕度10%以上の高耐疲労性を兼ね備えた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を安定的に得ることが困難となる。また、Raが5.5μmを超えると、延伸歪速度の変動が大きくなり延伸が不安定になる。第2延伸ロールの表面粗度の好ましい範囲は、Ra3.0〜5.0μmである。なお、第3延伸ロール表面粗度を第2延伸ロール表面粗度と同範囲にして、第3延伸ロールと第4延伸ロール間で延伸を行ってもよい。
【0033】
延伸された糸条は、第3延伸ロール上で、225℃以下で熱セットされた後、第4延伸ロール間で弛緩した後巻き取られる。第3延伸ロールの温度が225℃を越えると沸騰水収縮率5%以上の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得ることができない。第3延伸ロール温度の好ましい範囲は220℃以下である。なお、第3延伸ロールと第4延伸ロール間で延伸を行う場合又は第3延伸ロール以降巻直接取る場合は、最終延伸ロール上で225℃以下の温度で熱セットした後弛緩させながら直接巻き取ってもよい。
【実施例】
【0034】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
まず、実施例における各特性の処理方法及び評価方法について述べる。
繊度、強力、伸度
繊度、強力、及び伸度を、JIS L 1017 8.3及び8.5に準じて測定した。
【0035】
沸騰水収縮率
沸騰水収縮率を、JIS L 1017 8.14に準じて測定した。
【0036】
仕上剤付着率
仕上剤付着率を、JIS L 1017 8.16により測定した。
【0037】
蟻酸相対粘度
蟻酸相対粘度とは、90%蟻酸にポリマー濃度が8.4重量%となるように溶解せしめた溶液の25℃における相対粘度である。なお試料は、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の脱脂サンプルで、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維をジクロロメタンに浸漬して振とう処理する操作を3回繰り返して繊維表面に付着している仕上剤を脱脂した後、十分に水洗し、85℃の真空乾燥機で水分率1000ppm以下に調整したサンプルである。
【0038】
延伸ロールの表面粗度
延伸ロールの表面粗度を、表面粗さ測定器(小坂(株)製 サーフコーダSE―40D−106)を用い、JIS−B0601規定の触針式表面粗さを測定した。50回測定を繰り返して、算術平均値を求めた。
【0039】
レゾルシンーホルムアルデヒドーラテックス(RFL)液処理コード強力
リング撚糸機を用いて、1400dtexの高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を、39回/10cmの下撚り(Z撚り)を施し、次いで下撚り糸2本ずつに撚数39回/10cm(S撚り)の上撚りを施し生コードを作成した。次に、生コードを、3オーブンホットストレッチ装置(コンピュートリーター)を用いて、レゾルシンーホルムアルデヒドーラテックス(RFL)液の処理を施した。RFL処理時のホットストレッチ条件(処理温度/張力)は、第一ゾーン:160℃/1.4kg、第二ゾーン:227接し/2.8kg、第3ゾーン:227℃/1.65kgであった。得られた処理コードの強力、及び伸度を、JIS L 1017 8.5に準じて測定した。
【0040】
加硫コード強力
RFL液処理コードをゴム中に埋めて155℃に設定したヒートプレス機で、自由収縮下で40分間加硫した後、加硫コードを取り出し、JIS L 1017 8.5に準じて加硫コードの強力を測定した。
【0041】
グッドイヤーチューブ疲労試験及び疲労後加硫コード強力
JIS L 1017 3.2.2.1Aに準じ、加硫条件140℃×40分で、チューブ形状(内径:12.5mm、外径:26mm、長さ:230mm)のチューブを作成し、曲げ角度90°、内圧 3.5kg/cm、回転数850rpmで700分処理した。
処理後のチューブを解体し、加硫コードを取り出し、JIS L 1017 8.5に準じて疲労試験後の加硫コード強力を測定した。
【0042】
伸張破断したポリヘキサメチレンアジパミド繊維サンプルの作製方法
オートグラフを使用し、糸長25cm、引張スピード300mm/minの条件下で、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維が切断するまで伸張した後、チャック間のサンプルを採取した。
【0043】
本実施例における製造方法
公知の溶融重合法及び溶融重合の最終段階で真空状態にすることにより、蟻酸相対粘度82のポリヘキサメチレンアジパミドポリマーを得た。このポリヘキサメチレンアジパミドポリマーは、銅化合物で70ppmに相当する沃化銅、沃素含有量で1,800ppmに相当する沃化カリウムを含んでいた。
このポリマーを、溶融状態のまま、図1に例示する溶融紡糸機及び延伸機に導き、1440dtex/210fの高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。具体的には、300℃に設定されたスピンヘッド(1)中に組み込まれた60μmの細孔を有する金属不織布フィルターを組み込んだ紡糸パック(2)中を通過させ、紡糸口金(2)より紡出した。口金直下には設定温度250℃の長さ7cmの加熱ゾーン(3)を設け、加熱雰囲気下を通過させた後、冷却風チャンバー(5)から20℃の冷風を糸条の直角方向から吹きつけ急冷した。
【0044】
次いで、オイリングロール(6)にて仕上剤を繊維に付与し、非加熱の引取ロール(7)で引き取った後、ロール温度70℃の第一延伸ロール(8)に導き、次いでロールの表面粗度を変化させたロール温度220℃の第2延伸ロール(9)、及びロール温度を変化させた第3延伸ロール(10)で延伸した後、ロール表面温度150℃の第4延伸ロール(11)で弛緩した後巻取機(12)にて巻き取った。この際に48時間生産した時の切糸回数を評価し、得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維の繊維物性を評価した。
次に、RFL液処理及び加硫処理を施しチューブ疲労試験を行った。この時のRFL処理コード強力、加硫コード強力、及びチューブ疲労試験後の強力保持率(対RFL液処理コード強力)を評価した。
【0045】
実施例1
第2延伸ロール粗度をRa:3.0μmに調整し、第3延伸ロール温度を220℃に設定し、以下の仕上剤1の組成の仕上剤をエマルジョンで繊維の重量当たり1.1重量%付与した。得られた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の繊維物性、切糸回数及びRFL液処理コード強力、加硫コード強力、チューブ疲労試験後の強力保持率を、以下の表1に示す。
【0046】
仕上剤1
(a)トリメチロールプロパントリラウレート :10重量部
(a)ジオレイルチオジプロピオネート :40重量部
(b)POEOステアリルポリエーテル :20重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25マレイン酸ステアリン酸エステル:15重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25トリイソステアレート :15重量部
得られた高強力ポリヘキサメチレン繊維の繊維物性は、請求項に規定する範囲内であり、切糸数も少なく、かつ処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率も高かった。
【0047】
実施例2
第2延伸ロール粗度をRa:4.5μに調整し、第3延伸ロール温度を210℃に設定し、以下の仕上剤2の組成の仕上剤をエマルジョンで繊維の重量当たり1.1重量%付与した。得られた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の繊維物性、切糸回数及びRFL液処理コード強力、加硫コード強力、チューブ疲労試験後の強力保持率を、以下の表1に示す。
【0048】
仕上剤2
(a)イソシアヌル酸トリオレート :10重量部
(a)ジ(2−オクチルドデシル)アジペート :40重量部
(b)POEO2−エチルヘキシルポリエーテル :20重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25アジピン酸ステアリン酸エステル:13重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25トリイソステアレート :17重量部
得られた高強力ポリヘキサメチレン繊維の繊維物性は、請求項に規定する範囲内であり、切断余裕度は15%以上、沸騰水収縮率は6%以上であり、切糸数も少なく、かつ処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率も高い水準にあった。
【0049】
比較例1
第2延伸ロール粗度をRa:1.5μmに調整した以外は、実施例1と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
以下の表1に示すように、得られたポリヘキメチレンアジパミド繊維の切断余裕度は6%であり、切糸回数は、実施例1と比較して多く、処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率も低い水準であった。
【0050】
比較例2
第3延伸ロール温度を235℃に設定した以外は、実施例2と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンド繊維を得た。
以下の表1に示すように、得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維の沸騰水収縮率は3.5%と低く、処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率は低い水準であった。
【0051】
比較例3
エマルジョン仕上剤を繊維の重量当たり0.3重量%付与する以外は実施例1と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
以下の表1に示すように、仕上剤の付着量が少なくなると、平滑性や油膜強度が不足するため、切糸回数が多い等工程性能が低く、かつRFL処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率も低下した。
【0052】
比較例4
エマルジョン仕上剤を繊維の重量当たり2.7重量%付与する以外は実施例1と同一条件でポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
以下の表1に示すように、仕上剤の付着量が2.5重量%を超えるとRFL液のポリヘキサメチレンアジパミド繊維に対する浸透性が阻害されゴムとの接着が大きく低下するため、チューブ疲労試験後の強力保持率は低下した。
【0053】
比較例5
仕上剤成分を、以下の仕上剤3をエマルジョンで付与した以外は実施例1と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
仕上剤3
(a)トリメチロールプロパントリラウレート :10重量部
(a)ジオレイルチオジプロピオネート :44重量部
(b)POEOステアリルポリエーテル :20重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25アジピン酸ステアリン酸エステル:3重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25トリイソステアレート :23重量部
以下の表1に示すように、得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維の繊維物性は、請求項に規定する範囲内にあるが、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の含有率が仕上剤成分全体に対して5重量%以下であり、処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率は低い水準であった。
【0054】
比較例6
仕上剤成分を、以下の仕上剤4で付与した以外は実施例2と同一条件であった。
仕上剤4
(a)イソシアヌル酸トリオレート :10重量部
(a)ジ(2−オクチルドデシル)アジペート :40重量部
(b)POEO2−エチルヘキシルポリエーテル :12重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25アジピン酸ステアリン酸エステル:28重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25トリイソステアレート :10重量部
仕上剤4では、安定したエマルジョンが得られず、高強力ポリヘキサメチレンアジパミドの紡糸が不可能であった。
【0055】
比較例7
仕上剤成分を、以下の仕上剤5で付与した以外は実施例1と同一条件であった。
仕上剤5
(a)トリメチロールプロパントリラウレート :10重量部
(a)ジオレイルチオジプロピオネート :47重量部
(b)POEOステアリルポリエーテル :25重量部
(c)硬化ヒマシ油EO25アジピン酸ステアリン酸エステル:18重量部
仕上剤5では、安定したエマルジョンが得られず、高強力ポリヘキサメチレンアジパミドの紡糸が不可能であった。
【0056】
参考例1
参考例1として、仕上剤1をC18の炭化水素系鉱物油で希釈し、実施例1と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
以下の表1に示すように、エマルジョン仕上剤又は炭化水素系鉱物油で希釈した非水系仕上油であっても、特定の繊維物性で、かつ選定した仕上剤を付与することで、切糸数も少なく、かつ得られた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率は高い水準にあった。
【0057】
参考例2
参考例2として、比較例5で用いた仕上剤3をC18の炭化水素系鉱物油で希釈し、実施例1と同一条件で高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。
以下の表1に示すように、エマルジョン仕上剤又は炭化水素系鉱物油で希釈した非水系仕上油であっても、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の含有量が仕上剤成分全体に対して5重量%以下の場合は、得られた高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の処理コード強力、加硫コード強力及びチューブ疲労試験後の強力保持率は低い水準となった。
【0058】
上記実施例、比較例、及び参考例から、請求項に規定する繊維物性を満足し及び特定の仕上剤を付与することで、仕上剤がエマルジョンであっても、強度9.5cN/dtex以上の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維が収率よく製造でき、また本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用いてなるRFL液処理コード、加硫コードは高強力で、かつ耐疲労性が良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、9.5cN/dtex以上の強度を有する高強度繊維であるので、各種産業の資材用途の軽量化に好適に利用でき、かつ耐疲労性も良好なので特にタイヤコード等のゴム補強用途の軽量化に好適である。
【符号の説明】
【0060】
1 スピンヘッド
2 紡糸パック及び紡糸口金
3 加熱ゾーン
4 フィラメント
5 冷却風チャンバー
6 オイリングロール
7 引取りロール
8 第1延伸ロール
9 第2延伸ロール
10 第3延伸ロール
11 第4延伸ロール
12 巻取機
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも95モル%がヘキサメチレンアジパミド単位からなる高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維であって、該ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の、蟻酸相対粘度は60以上であり、強度は9.5cN/dtex以上であり、沸騰水収縮率は5.0%以上であり、かつ、切断余裕度は10%以上であり、そして仕上剤が、該繊維の表面に繊維重量当たり0.5〜2.5重量%付与されている、ここで該仕上剤は、モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物を含み、かつ、ジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤が、該仕上剤成分の全体に対して5重量%〜25重量%で含まれる、ことを特徴とする前記高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。
【請求項2】
前記仕上剤が、下記(a)〜(c):
(a)多価エステル化合物が、仕上剤成分全体に対して、40〜75重量%で含まれる、
(b)高級アルコールのPOEO付加物が、仕上剤成分全体に対して、10〜45重量%で含まれる、
(c)モノカルボン酸及びジカルボン酸と反応して得られる非イオン活性剤の混合物が、仕上剤成分全体に対して、15重量%〜50重量%で含まれる、
の特徴を有する、請求項1に記載の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。
【請求項3】
前記仕上剤が、仕上剤主成分を水中に分散させたエマルジョンで付与されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高強力ポリヘキサメチレンアジパミド繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242268(P2010−242268A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94105(P2009−94105)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】