説明

高強度しゅう動材

【課題】耐磨耗性、潤滑性および強度を兼備する鋳鉄しゅう動材を提供する。
【解決手段】パーライト及びフェライトの少なくとも一方からなる基地に黒鉛が分散した組織を有する鋳鉄基材が、当該鋳鉄基材の浸ホウ素処理により形成された浸ホウ素処理層3を有し、該浸ホウ素処理層3中の相手軸と接する表面側には、該表面側からしゅう動材の内部方向に最大深さで10〜200μmのFe−B層6を有し、該Fe−B層には前記黒鉛2が分散し、且つSi濃化領域7が形成されている高強度しゅう動材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度しゅう動材に関するものであり、特に、強度としゅう動特性を兼備した、浸ホウ素処理層を施した鋳鉄系しゅう動材に関するものである。より詳しく述べるならば、本発明は、建設、土木、鉱山などで使用される機械のエンジン駆動部、トランスミッション、ショベル、クラッシャー、粉砕ミルなどの各種機器において軸受として使用されるブシュに関する。かかるブシュのしゅう動状況は、受ける荷重が大きい;過酷な環境で使用される;長い時間、例えば1年連続運転されることもある;鉱山などでは給油を頻繁に行うことができないなどである。これらの状況に適用するために、かかるブシュは密封グリース潤滑下で使用されることが多い。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許第2661650号明細書)、特許文献2(特許2912458号明細書)、特許文献3(特開平2−34769号公報)、及び特許文献4(特開2000−119839号公報)は、鉄鋼表面を浸ホウ素処理するものであり、浸ホウ素処理されたしゅう動面は全面的にFe−B化合物となっている。このため油、グリースなど潤滑剤が十分にしゅう動部に供給されている場合は問題無いが、潤滑剤切れが生じた場合、しゅう動材表面には潤滑成分が無いため、摩耗や焼付きなどの損傷が生じる。特許文献4は、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、鋳鋼及び鋳鉄を被処理材料として挙げ、これらの材料を浸ホウ素処理することにより硼化鉄が形成されると説明している。
【0003】
非特許文献1:トライボロジストVol.49/No.7/2004「鉄鋼材料の使い方」第541〜546頁はトライボロジ材料としての鋳鉄を、熱伝導性が優れた片状黒鉛を有するねずみ鋳鉄(FC),保油性に優れた球状黒鉛鋳鉄(FCD),黒鉛形状が片状と球状の中間の芋虫状であるCV鋳鉄に分類している。
【0004】
鋳鉄は自己潤滑性を有する黒鉛が分散している点では優れているが、硬さが低いために耐摩耗性が劣る傾向にある。そこで、特許文献5(特許第3297150号明細書)は「質量%で、C:2.5〜3.6%、Si:1.4〜2.6%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.1〜0.4%、S:0.12%以下、Cr:0.1〜0.4%、B:0.03〜0.12%、Cu:0.2〜2.0%、Co:1.0〜10%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、かつパーライトからなるマトリクス中に、ステダイト及びボロン化合物からなる硬質相と片状黒鉛とが分散した組織からなることを特徴とする優れた耐食性及び耐摩耗性を有する鋳鉄」(請求項1)を提案する。特許文献5の鋳鉄は、しゅう動面に、硬質Fe−B相と黒鉛相がパーライトマトリクス中に混在した状態であるため、潤滑剤が十分に供給されている場合や、潤滑剤切れが生じた場合ともに、それなりに性能を発揮する。しかし、パーライトマトリクスが主要組織である鋳鉄は硬さが低いために、耐焼付性や耐摩耗性とも不十分である。
【0005】
特許文献6(特開平1−219153号公報)は鋳鉄表面にホウ素の拡散浸透層を有し、その内側に鋳鉄内部Si含有量が高い高Si層を有する耐酸化耐熱鋳鉄機械部品を開示している。この特許文献6からは耐摩耗性や耐焼付性が十分であるかは分からない。
【0006】
なお、鋳鉄表面を窒化すると耐摩耗性が付与されるが、窒化層は厚さを厚くできないために、上記した建設機械などのブシュとしては性能が不足する。
【0007】
グリース潤滑については、非特許文献2(トライボロジスト、Vol.50/No.4/2005「グリース」、第307−318頁)、非特許文献3(「図解トライボロジー」、日刊工業新聞社、2007年1月25日発行、初版1刷、第133〜137頁)に解説されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2661650号明細書
【特許文献2】特許2912458号明細書
【特許文献3】特開平2−34769号公報
【特許文献4】特開2000−119839号公報
【特許文献5】特許3297150号明細書
【特許文献6】特開平1−219153号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】トライボロジストVol.49/No.7/2004「鉄鋼材料の使い方」第541〜546頁
【非特許文献2】トライボロジスト、Vol.50/No.4/2005「グリース」、第307−318頁
【非特許文献3】「図解トライボロジー」、日刊工業新聞社、2007年1月25日発行、初版1刷、第133〜137頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋳鉄のしゅう動特性を改良する従来技術を分類すると次のとおりである。
(1)浸ホウ素処理鋳鉄(特許文献4)−しゅう動面が全面的にホウ化物に転換されるために、黒鉛がもっている潤滑性が発揮されない。
(2)Fe-B相分散鋳鉄(特許文献5)−鋳鉄のマトリクスがパーライトであるために、耐摩耗性及び耐焼付性が優れない。
(3)ホウ素拡散鋳鉄(特許文献6)−潤滑性についは明らかでない。
このように従来の浸ホウ素処理もしくはホウ素添加鋳鉄は耐摩耗性、潤滑性及び強度を兼備することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、パーライト及びフェライトの少なくとも一方からなる基地に黒鉛が分散した組織を有する鋳鉄基材が、当該鋳鉄基材の浸ホウ素処理により形成された浸ホウ素処理層を有し、該浸ホウ素処理層中の相手軸と接する表面側には、該表面側からしゅう動材の内部方向に測定した最大深さで10〜200μmのFe−B層を有し、該Fe−B層には前記黒鉛が分散し、且つSi濃化領域が形成されていることを特徴とする高強度しゅう動材を提供する。以下、本発明を詳しく説明する。
【0012】
本発明における基材となる鋳鉄はねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄などであり、特に球状黒鉛鋳鉄が好ましい。ねずみ鋳鉄はJIS G 5501に規定され、また球状黒鉛鋳鉄はJIS G 5502に規定される。
球状黒鉛鋳鉄に浸ホウ素処理を施すと、図1の模式図に示すようにFe−B化合物層に球状黒鉛粒子が分散した状態となることが分かった。図1において、1は球状黒鉛鋳鉄基材、2は球状黒鉛、2‘はフェライト、3は浸ホウ素処理層、4は表面側領域、5は鋳鉄基材側領域(後述のSi傾斜領域)、6はFe−B層、7はSi濃化領域、8はしゅう動面である。
球状黒鉛鋳鉄基材1は、パーライト又はフェライトあるいはこれらの両方からなる基地中に球状黒鉛2が分散している。また、ステダイトなどが存在することもある。球状黒鉛鋳鉄は、特許文献2が提案するソルバイト組織をもつ鉄鋼材料ほどは高強度ではないが、鋳鉄の中で高強度を有している。
【0013】
図1は球状黒鉛鋳鉄基材1の表面部ではFeはFeB,FeBなどのFe−B化合物に転換されている。即ち、基材内部では黒鉛粒子の周りをフェライト2‘が取囲んでいるが、表面部ではフェライトはホウ化物に転換され、黒鉛は転換されずに残されている。意外にも、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄などのように黒鉛が有る程度の大きさ、特に、好ましくは平均粒径で10μm以上の粒径を有している場合は、黒鉛は残存する。但し、浸ホウ素処理剤中のB成分を少なくし、ホウ素の浸透を意図的に遅くして長時間以上加熱すると、微細黒鉛は浸ホウ素処理層中に残存しなくなる。
【0014】
浸ホウ素処理を行うと、鋳鉄の基本成分であるFe−C−SiのうちFe及びFeの炭化物はホウ化物に変換され、また図1において、ホウ素がしゅう動面8から球状黒鉛鋳鉄基材1の内部に向かって拡散する。さらに、浸ホウ素処理層3をEPMAで観察すると表面側ではSiが高濃度に濃化した多数のSi濃化領域7が認められる。このSi濃化領域7は微小な多数の点状のものと、これよりは寸法がかなり大きく、拡散深さ方向に伸びた楔状、棒状もしくはこれらが変形した領域のものとがある。後者の大きなSi濃化領域7は前者の点状領域よりは数が著しく少ない。
【0015】
Si濃化領域7の生成原因は次のように考えられる。浸ホウ素処理層3をEPMAで観察すると、微小な高濃度Bスポットが多数分散しており、同じ箇所に高濃度Feも同定されるから、浸ホウ素処理により形成されるFe−B層6ではFe結晶とFe−B化合物の混合組織になっている。ホウ素処理によりホウ化物と未変換のFe結晶が共存する状態となる際、ホウ化されたFe結晶からはSiが未ホウ化Fe結晶中に押出され、Si濃度が、一般的には平均で5質量%以上に、高められ、この結果Si濃化領域7が形成される。さらに、球状黒鉛2の上側(しゅう動面側)は該黒鉛2がSiの拡散を阻止するために、Si濃化領域7は大きく発達しかつ深さ方向に伸びたような形状となり、球状黒鉛2と境界が接するようになる。
【0016】
しかしながら、浸ホウ素処理による拡散時間が長くなると、Siが球状黒鉛2を回り込んで鋳鉄基材1の内部に向かって拡散するために、Si濃化領域7のうち大きなものは消失する。同様に、Si濃化領域7のうち小さいものからもSiが拡散し、この拡散速度は速いために、早期に消失する。Fe−B層6は、しゅう動面4から基材中心側に向かってホウ素の拡散先端まで測定した最大深さで10μm以上存在している。即ち、ホウ素の拡散先端の鋸刃状最大深さを測定し、Fe−B層6の厚さが10μm未満であると、Fe−B層6が薄いために、摩耗が進むと基材が露出するので耐焼付性が劣る。またFe−B層6は、しゅう動面8から基材中心側に向かって測定した最大深さで200μm以下存在している。この最大深さが200μmを超えると、クラックが浸ホウ素処理層5内を伝播し易く、欠けや剥離が生じて基材が露出するために、耐摩耗性や耐焼付性が劣る。
【0017】
上述した球状黒鉛2による拡散阻止作用がない箇所のFe−B層6では、Siはほぼ一定の速度及び濃度で鋳鉄基材側に拡散するために、表面側領域4よりも基材側でSi傾斜領域5が形成される。この領域5は基材表面と接し、Siが表面側から内部に向かって濃度勾配を有しており、黒鉛鋳鉄基材1よりもSi濃度が高く、その面と平行方向に連続した層状である。図2及び3は、日本電子社製(JXA−8100)EPMA装置を使用し、Siなどの元素の濃度をマッピングした画像であり、球状黒鉛鋳鉄基材と浸ホウ素処理層の間に黒鉛鋳鉄基材から連続的にSiの濃度が変化するSi傾斜領域が存在することが確認できる。Si濃度については白色が約6%を意味している。Si傾斜領域とFe−B層の間にはSiの濃度に連続性は確認できなかったために、ホウ化処理により鋳鉄から押し出されたSiもSi濃化領域表面に濃縮していることが分かる。
なお、図2と図3は同じ材料の別の箇所を観察した画像であり、ともに上側の行に配列した画像は表面画像、下側の行に配列した画像は断面画像であり、図2は断面の局部的拡大、図3は断面全体を示している。
これら図からSi傾斜領域とSi濃化領域の中間的なSi濃度の領域が存在していることがわかるが、この部位については、性質もSi傾斜領域とSi濃化領域の中間的なものになる。
Si傾斜領域5のSi濃度は勾配が、相手軸と接する表面側(8)からしゅう動材内部側に向かって、相手軸と接する表面(8)から略垂直方向に形成され、かつ鋳鉄基材1との境界が、相手軸と接する表面(8)と略水平であることが好ましい。
【0018】
浸ホウ素処理法は、ホウ砂(Na247)に炭化珪素又は炭化ホウ素などを10〜40重量%加えて所定温度に加熱された溶融塩浴に数時間浸漬する液体法、ホウ砂、ホウ砂と炭化珪素、ホウ砂と塩化ナトリウムなどを混合して所定の溶融温度に加熱された溶融塩浴中で母材を陰極として数時間電解を行う電解法、あるいは炭化ホウ素および炭素に炭化珪素素、四フッ化ホウ素カリウムなどを添加した混合粉のなかに母材を埋めて加熱する固体法などが採用される。なかでも固体法が好ましい。固体法によれば、1から数時間の加熱で、他の方法に比べて容易に厚みが200μm以下の厚い浸ホウ素処理層が得られるとともに、上述の二つの領域4、5が形成される。
【0019】
ねずみ鋳鉄は各種鋳鉄を使用することができるが、強度がすぐれたFC250,300、350、特にFC350を使用することが好ましい。ねずみ鋳鉄の場合もFe−B層6(図1)中に(片状)黒鉛が残存する。
球状黒鉛鋳鉄は主要基地組織がフェライトであるFCD400、フェライト+パーライトであるFCD500、600、又はパーライトであるFCD700−2を使用することができる。鋳鉄の化学組成は特に限定されないが、強度の面からは基地組織は完全パーライトもしくはパーライト量が多い方が好ましい。
【0020】
ブシュを鋳造する場合は、中子を使用した通常の砂型鋳造を行い、型ばらし後、鋳造品のしゅう動面となる表面を切削、研摩することにより鋳肌を除き、その後、浸ホウ素処理を行う。この場合しゅう動面となるブシュ内面全面に浸ホウ素処理層を形成し、ブシュの外面は適当なマスク材を使用して浸ホウ素処理層を形成しないことが好ましい。浸ホウ素処理後の冷却は鋳鉄マトリクスのパーライト量を多くするためにできるだけ徐冷することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
図1に示されるように、本発明のしゅう動材は、しゅう動面8において、Hv1200〜1850の硬さを有する硬質Fe−B化合物が耐摩耗性に寄与し、分散した黒鉛が潤滑性に寄与する。黒鉛は片状黒鉛でも潤滑性を有するが、球状黒鉛2はFe−B層3に深く突入しているために、しゅう動相手材による脱落が起こり難く安定して潤滑性と保油性を発揮する。
また基材となる鋳鉄は特殊鋼や高炭素材料などの鉄鋼材料よりは強度は低いが、軟鋼と同等以上の十分な強度を有しており、しかも潤滑成分となる黒鉛を供給するという鉄鋼材料では見られない特長を有している。
しゅう動面8が相手軸としゅう動する際に、Fe−B化合物より軟質なSi濃化領域7が摩滅し易く、また球状黒鉛粒子の拡散阻止効果により生成したSi濃化領域は寸法が大きいために、グリースを保持してしゅう動材の耐摩耗性を高める。
【0022】
しゅう動面が、相手材としゅう動によって摩耗すると、本願請求項4が規定するSi傾斜領域5がしゅう動面に現れだすが、図1〜3から明らかなように、Si傾斜領域5がしゅう動面全面をすぐに覆うわけではなく、一部がFe−B層6に置き換わって現れ始める。Si傾斜層5は、Fe−B層6に比べ軟質であるが、鋳鉄に比べ高強度であるため、全体としてのしゅう動面硬度の減少は緩やかであり、一挙にFe−B層6から鋳鉄に変化する場合と比較して、急激な摩耗増加はない。さらに、Si傾斜領域5は、しゅう動面側のSi濃度が鋳鉄側Si濃度より高く、鋳鉄側では鋳鉄のSi濃度と連続するため、Si傾斜領域内でも緩やかに硬度が変化することでも急激な摩耗変化は起こらない。
【0023】
本発明のしゅう動材は、エンジンオイルなどの潤滑油による潤滑中でも使用できるが、グリース潤滑でしかも油切れが起こり易い条件で使用される用途に特に適している。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
表1に示すJIS規格の鋼材もしくは鋳造材の市販品の板を購入した。但し、比較例の9はFC350鋳鉄にホウ素を添加した市販品の板である。これらの鋳造板を固体法による浸ホウ素処理を行った。ホウ化処理剤は炭化ホウ素3〜20重量部、炭素10〜30重量部、炭化珪素50〜70重量部、四フッ化ホウ素カリウム0.5〜7重量部−但し、成分合計量は100重量部を超えない−からなり、これらの混合粉末中に試料を埋込み、900℃で1時間加熱後炉冷した。この結果平均厚さが60μmの浸ホウ素処理層が形成された。
【0025】
供試材につき次の条件でまた図4に示すように摩耗試験を行なった。
摩耗試験条件
試験機:往復しゅう動試験機
荷重:200kgf
ストローク:20mm
周波数:5Hz
試験時間:10時間
相手材12−SUJ2焼入半球
供試材13−平板
温度:室温
潤滑:グリース(リチウム石けん)
塗布量: 0.03g
【0026】
さらに、次の条件で、図5に示すように耐焼付性試験を行なった。
摩耗試験条件
試験機:リングオンプレート試験機
荷重:荷重漸増 15MPa/10min
回転数:1000rpm
温度:室温〜成り行き
相手材12−SUJ2焼入リング
供試材13−平板
潤滑:グリース(リチウム石けん)
塗布量:0.1g
試験の結果を表1に示す。
【0027】
【表1】



【0028】
表1の実施例1の顕微鏡組織写真を図6には、Fe−B層及び球状黒鉛が認められれるが、Si濃化領域7及びSi傾斜領域は図2、3に示すEPMA図から認められる。球状黒鉛粒子の大きさは、浸ホウ素処理層中でも、球状黒鉛鋳鉄基材中でも変わりはない。さらに浸ホウ素処理層中では、球状黒鉛とその周囲のFe−B化合物の境界は鮮明であるので、球状黒鉛はホウ素とまったく反応していないことが分かる。
【0029】
表1に示された比較例No.4,5の高周波焼入れ材は耐摩耗性がすぐれているが、耐焼付性は不良である。鉄鋼材料の浸ホウ素処理材(比較例No.6)は、高強度材であり、かつ耐摩耗性が優れているが、潤滑成分である黒鉛が存在しないために、耐焼付性が不良である。無処理球状黒鉛鋳鉄及び化成処理球状黒鉛鋳鉄は耐摩耗性と耐焼付性の両方が不良である(比較例No.7,8,9)。これに対して本発明実施例は耐摩耗性と耐焼付性の両方がすぐれている。比較例のNo.10,11は球状黒鉛鋳鉄を浸ホウ素処理しているが、浸ホウ素処理層の厚さが十分でないために、耐焼付性が不良であり、また「厚さ」(即ち最大深さ)が大の比較例No.11では耐摩耗性が著しく不良である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明のしゅう動材は建設、土木、鉱山などで使用されるブシュに適している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のしゅう動材を示す模式図である。
【図2】EPMAによるSiの濃度分布をカラー表示した画像解析図である。
【図3】図2と同様の画像解析図である。
【図4】耐摩耗性試験法の説明図である。
【図5】耐焼付き試験法の説明図である。
【図6】実施例1の顕微鏡写真(倍率×200)である。
【符号の説明】
【0032】
1−球状黒鉛鋳鉄基材
2−球状黒鉛
2‘−フェライト
3−浸ホウ素処理層
4−表面側領域
5−Si傾斜側領域
6−Fe−B層
8−しゅう動面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーライト及びフェライトの少なくとも一方からなる基地に黒鉛が分散した組織を有する鋳鉄基材が、当該鋳鉄基材の浸ホウ素処理により形成された浸ホウ素処理層を有し、該浸ホウ素処理層中の相手軸と接する表面側には、該表面側からしゅう動材の内部方向に測定した最大深さで10〜200μmのFe−B層を有し、該Fe−B層には前記黒鉛が分散し、且つSi濃化領域が形成されていることを特徴とする高強度しゅう動材。
【請求項2】
前記Si濃化領域の少なくとも一部が前記黒鉛と境界を接することを特徴とする請求項1記載の高強度しゅう動材。
【請求項3】
前記Si濃化領域のSi濃度が平均5質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の高強度しゅう動材。
【請求項4】
前記浸ホウ素処理層が、前記Fe−B層の内側に、該浸ホウ素処理層からしゅう動材の内部方向にSi傾斜領域を有することを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載の高強度しゅう動材。
【請求項5】
前記Si傾斜領域が、相手軸と接する表面側からしゅう動材内部側に向かって、相手軸と接する表面から略垂直にSi濃度の勾配を有し、前記鋳鉄基材との境界が、相手軸と接する表面と略水平であることを特徴とする請求項4記載の高強度しゅう動材。
【請求項6】
少なくともしゅう動面の全面に前記浸ホウ素処理層が形成されていることを特徴とする請求項1から5までの何れか1項記載の高強度しゅう動材。
【請求項7】
前記鋳鉄基材が球状黒鉛鋳鉄又はねずみ鋳鉄であることを特徴とする請求項1から6までの何れか1項記載の高強度しゅう動材。
【請求項8】
前記球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の平均粒径が10μm以上であることを特徴とする請求項7記載の高強度しゅう動部材。
【請求項9】
前記ねずみ鋳鉄がFC350である請求項7記載の高強度しゅう動材。
【請求項10】
グリース潤滑下で使用されることを特徴とする請求項1から9までの何れか1項記載の高強度しゅう動材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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