説明

高性能ポリエチレン繊維を含有するロープ

本発明は、70:30〜98:2の質量比の高性能ポリエチレン繊維とポリテトラフルオロエチレン繊維との混合物を含む複数のストランドを含有するロープに関する。ロープは、周期的ベンドオーバーシーブ用途において著しく改良された耐用寿命性能を示す。本発明はまた、ベンドオーバーシーブ用途における荷重支持部材としてのこのロープの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高性能ポリエチレン繊維を含むロープに関する。このロープは、ベンドオーバーシーブ(bend−over−sheave)用途にとくに適している。本発明はまた、ベンドオーバーシーブ用途における荷重支持部材としてのこのロープの使用に関する。
【0002】
そのようなロープは、米国特許第5901632号明細書から公知である。この特許公報には、直径の大きい編組ロープが記載されている。このロープは、複数のストランドを含有し、このストランド自体が、好ましくは、高強度ポリマー繊維を含有するロープヤーンから編組されたものである。記載の最も好ましい実施形態では、ロープは、12本ストランドのツーオーバー/ツーアンダー円形編組線であり、各ストランド自体が、高性能ポリエチレン(HPPE)繊維から作製された12本ストランドの編組線である(12×12構成)。
【0003】
ベンドオーバーシーブ用途のロープは、本出願に関連する範囲内では、持上げ用途および係留用途、たとえば、海運市場、海洋探査市場、オフショア油・ガス市場、地震関連市場、漁業市場、および他の産業市場で一般に使用される荷重支持ロープであるとみなされる。ベンドオーバーシーブ用途としてまとめて参照されるそのような使用時、ロープは、とくに擦れや曲げを引き起こすドラム、ビット、プーリー、シーブなどに掛けて頻繁に牽引される。そのような頻繁な曲げまたは撓みを受けた場合、外部および内部の摩耗、摩擦熱などが原因でロープおよび繊維の損傷を生じるので、ロープは破損する可能性がある。そのような疲労破損は、多くの場合、曲げ疲労または撓み疲労と呼ばれる。
【0004】
ベンドオーバーシーブ用途のロープの撓み疲労を低減させるために、ロープの直径の少なくとも8倍の直径を有するシーブ(または他の表面)の使用が一般に推奨される。外部摩耗により生じるロープの強度損失を低減させるために、ロープまたはロープ中のストランドにジャケット、たとえば、織成スリーブまたは編組スリーブを設けることは公知である。しかしながら、こうしたジャケットを設けると、ロープの直径および剛性が増大し、しかも重量および経費がかさむことになるが、ロープの荷重支持能力に寄与することにはならず、しかも荷重支持要素の直接目視検査ができなくなる。とくに、ロープ中の繊維間の内部摩耗により生じる強度損失を低減させるために、ロープストランド中のポリマー繊維の特定の混合物を適用することが米国特許第6945153B2号明細書に提案されている。
【0005】
米国特許第6945153B2号明細書には、米国特許第5901632号明細書に記載のものに類似した構成の編組ロープが記載されている。この場合、ストランドは、40:60〜60:40の比の高性能ポリエチレン繊維とリオトロピックまたはサーモトロピックなポリマー繊維との混合物を含有する。芳香族ポリアミド(アラミド)やポリビスオキサゾール(PBO)のようなリオトロピックまたはサーモトロピックな液晶繊維は、良好な耐クリープ破断性を提供するが自己摩耗を非常に起こしやすいことが指摘されており、一方、HPPE繊維は、最小量の繊維間摩耗を呈するがクリープ破損を起こしやすいと記載されている。
【0006】
しかしながら、公知のロープの欠点は、頻繁な曲げまたは撓みを受けたときに依然として限られた耐用寿命であるという点である。したがって、長期間にわたり周期的ベンドオーバーシーブ用途で改良された性能を示すロープが業界で必要とされている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、改良された性能を示すそのようなロープを提供することである。
【0008】
この目的は、ロープ全体を基準にして70:30〜98:2の質量比の高性能ポリエチレン(HPPE)繊維とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維との混合物を含む複数のストランドを含有するロープを用いて本発明により達成される。
【0009】
意外なことに、最適な性質を有するロープが得られる。ロープは、改良された撓み疲労を有し、しかも依然として高剛性および高強度を有する。
【0010】
本発明に係るロープは、周期的ベンドオーバーシーブ用途で著しく改良された耐用寿命性能を示す。これは意外なことである。なぜなら、PTFE自体は、とくに滑性を有することが知られているが、たとえば米国特許第6945153B2号明細書には、すでにHPPEヤーンがロープで最良の耐摩耗性能を示すと明記されているからである。
【0011】
本発明に係るロープの他の利点としては、たとえば、使用時にストランド間および/または繊維間の摩擦の結果として発生する熱が少なくなるので、HPPE繊維がクリープ伸びを示す危険性が低減されることが挙げられる。したがって、適切に設計され使用されるのであれば、たとえば、過荷重状態(最大設計許容荷重に対して)を回避することにより、多量のHPPE繊維を含むロープを長期間にわたる用途に安全に適用することが可能である。ロープは、高い強度効率を有する。このことは、ロープの強度がその構成繊維の強度の比較的高いパーセントに相当することを意味する。ロープはまた、牽引ウインチおよび保管ウインチに掛けたときに良好な性能を示し、しかも起こりうる損傷の検査を容易に行うことが可能である。
【0012】
したがって、本発明はまた、ベンドオーバーシーブ用途たとえば巻上げ用途における荷重支持部材としての、本明細書にさらに詳述されるような構成および組成のロープの使用に関する。
【0013】
本発明に係るロープは、撚りロープ、編組ロープ、平行ロープ(被覆付き)、およびワイヤーロープ状構成ロープをはじめとする種々の構成をとりうる。ロープ中のストランド数もまたさまざまでありうるが、良好な性能と製造の容易さとの両立を達成するために、一般的には少なくとも3本かつ好ましくは多くとも16本である。
【0014】
好ましくは、本発明に係るロープは、使用時にその一体性を保持する強靭でトルクバランスのとれたロープを提供するために、編組構成をとる。さまざまな公知の編組線タイプが存在し、それぞれ、一般的にはロープの形成方法により区別される。好適な構成としては、蛇腹状編組線、管状編組線、およびフラット編組線が挙げられる。管状または円形の編組線は、ロープ用途で最も多く見受けられる編組線であり、一般的には、絡み合った2組のストランドで構成され、さまざまなパターンを有しうる。管状編組線中のストランド数はさまざまでありうる。とくにストランド数が多い場合および/またはストランドが比較的細い場合、管状編組線は中空コアを有しうるので、編組線は扁長形状に圧潰しうる。これが望ましくない場合、種々のポリマー繊維、好ましくはHPPE繊維から作製されるロープでありうるコア部材を編組線に含有させてもよく、こうした編組線は、使用時にその形状をより良好に保持するであろう。
【0015】
本発明に係る編組ロープ中のストランド数は、少なくとも3本である。ストランド数を増加させると、ロープの強度効率が低下する傾向がある。したがって、ストランド数は、編組線のタイプにもよるが、好ましくは多くとも16本である。とくに好適なのは、8本または12本のストランドからなる編組構成のロープである。そのようなロープは、靭性と耐撓み疲労性との有利な組合せを提供し、比較的単純な機械を用いて経済的に作製可能である。
【0016】
本発明に係るロープは、撚り係数(撚り構成における1メートルあたりの巻数)や編組周期(すなわち編組ロープの幅に対するピッチ長さ)がとくに重要になることのない構成をとりうる。好適な編組周期は、4〜20の範囲内である。編組周期を大きくすると、より高い強度効率を有するがそれほど強靭ではなく組継ぎのより困難なよりゆるいロープが得られる可能性がある。編組周期が小さすぎると、靭性が過度に低下するであろう。したがって、好ましくは編組周期は約5〜15、より好ましくは6〜10である。
【0017】
本発明に係るロープは、広い許容範囲内のさまざまな直径を有しうる。好ましくは、ロープは、少なくとも2mm、より好ましくは少なくとも5mm、さらにより好ましくは少なくとも10mmの直径を有する。たとえば2〜20mmの範囲内のより小さい直径のロープは、典型的には、自動車ドアウィンドウリフティング機構などのような機械的装置中でコードとして適用される。最も好ましくは、ロープは、少なくとも20mmの大きい直径を有する。扁長形断面を有するロープの場合、等価直径、すなわち、単位長さあたり非丸形ロープと同一の質量を有する丸形ロープの直径により丸形ロープのサイズを規定するほうが正確である。ロープの直径は、ロープの最外周で測定される。これは、ストランドにより規定されるロープの境界が不規則であるからである。ロープが大きいほど本発明の利点が生きてくるので、好ましくは、本発明に係るロープは、少なくとも30mm、より好ましくは少なくとも40、50、60、さらには少なくとも70mmの等価直径を有する高耐荷重性ロープである。公知の最大のロープは、約300mmまでの直径を有し、水深の深い位置にある設備で使用されるロープは、典型的には、約130mmまでの直径を有する。
【0018】
本発明に係るロープは、略円形または略丸形の断面を有しうるが、扁長形断面をも有しうる。扁長形断面とは、張力のかかったロープの断面が扁平形、卵形、さらには(一次ストランド数に依存して)ほとんど矩形の形状を示すことを意味する。そのような扁長形断面は、好ましくは、1.2〜4.0の範囲内のアスペクト比、すなわち長直径対短直径比(または幅対高さ比)を有する。アスペクト比の決定方法は、当業者に公知であり、例としては、ロープをぴんと張った状態に保持しながら、またはロープの周りに接着テープを耐密に巻いた後、ロープの外形寸法を測定することが挙げられる。このアスペクト比の利点は、周期的に曲げたときにロープ中のフィラメント間で生じる応力差がより少なくかつ発生する摩耗および摩擦熱がより少ないので、曲げ疲労寿命が伸びることである。断面は、好ましくは約1.3〜3.0、より好ましくは約1.4〜2.0のアスペクト比を有する。
【0019】
本発明に係るロープの場合、一次ストランドとしても参照されるストランドの構成は、とくに重要ではない。当業者であれば、バランスのとれたトルクフリーのロープが得られるように、撚りストランドや編組ストランドのような好適な構成および撚り係数または編組周期をそれぞれ選択することが可能である。
【0020】
本発明の特定の実施形態では、各一次ストランド自体が編組ロープである。好ましくは、ストランドは、ポリマー繊維を含む偶数本の二次ストランド(ロープヤーンとも呼ばれる)から作製される円形編組線である。二次ストランド数は、限定されるものではなく、たとえば6〜32本の範囲内でありうるが、そのような編組線の作製に利用可能な機械を考慮に入れると、8、12、または16本が好ましい。当業者であれば、各自の知識に基づいてまたはいくらかの計算もしくは実験を利用して、所望の最終的なロープの構成およびサイズに関連付けて構成のタイプおよびストランドのタイターを選択することが可能である。
【0021】
ポリマー繊維を含有する二次ストランドまたはロープヤーンは、この場合も所望のロープに依存して、種々の構成をとりうる。好適な構成としては、撚り繊維が挙げられるが、円形編組線のような編組ロープまたは編組コードを使用することも可能である。好適な構成は、たとえば、米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0022】
本発明の枠内では、繊維とは、不定の長さを有しかつ長さ寸法が幅および厚さよりもかなり大きい細長形状体を意味するものとする。したがって、繊維という用語は、モノフィラメントヤーン、マルチフィラメントヤーン、リボン、ストリップ、またはテープなどを包含し、規則的または不規則的な断面を有しうる。繊維という用語はまた、以上の任意の1つまたは組合せを複数有するものを包含する。
【0023】
モノフィラメントの形状を有する繊維またはテープ状の繊維は、さまざまなタイターを有しうるが、典型的には、10〜数千dtexの範囲内、好ましくは100〜2500dtex、より好ましくは200〜2000dtexの範囲内のタイターを有しうる。マルチフィラメントヤーンは、典型的には0.2〜25dtex、好ましくは約0.5〜20dtexの範囲内のタイターを有する複数のフィラメントを含有する。マルチフィラメントヤーンのタイターもまた、さまざまであり、たとえば、50〜数千dtexでありうるが、好ましくは約200〜4000dtex、より好ましくは300〜3000dtexの範囲内である。
【0024】
本発明に係るロープは、高性能ポリエチレン(HPPE)繊維を含む複数のストランドを含有する。HPPE繊維とは、本明細書中では、超高モル質量ポリエチレン(超高分子量ポリエチレンUHMWPEとも呼ばれる)から作製されかつ少なくとも2.0、好ましくは少なくとも2.5または少なくとも3.0N/texの靭性を有する繊維のことである。繊維の引張り強度(単に強度とも記される)または靭性は、公知の方法により、たとえば、ASTM D885−85またはD2256−97に準拠して決定される。ロープ中のHPPE繊維の靭性に上限を設ける理由はないが、利用可能な繊維は、典型的には多くとも約5〜6N/texの靭性を有する。HPPE繊維はまた、たとえば少なくとも75N/tex、好ましくは少なくとも100または少なくとも125N/texの高い引張り弾性率を有する。HPPE繊維は、高弾性率ポリエチレン繊維とも呼ばれる。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明に係るロープ中のHPPE繊維は、1本以上のマチルフィラメントヤーンである。
【0026】
HPPEの繊維、フィラメント、およびマチルフィラメントヤーンは、好適な溶媒中のUHMWPEの溶液をゲル繊維の形態に紡糸して溶媒の部分的または完全な除去の実施前、実施中、および/または実施後に繊維を延伸することにより、すなわち、いわゆるゲル紡糸プロセスを介して、作製することが可能である。UHMWPEの溶液のゲル紡糸については、当業者に周知であり、多数の出版物中に、たとえば、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、GB2042414A号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、および先進的繊維紡糸技術(Advanced Fiber Spinning Technology)、T.ナカジマ(T.Nakajima)編、ウッドヘッド・パブリッシングLtd(Woodhead Publ.Ltd)刊(1994年)、ISBN1−855−73182−7、ならびにそれらに引用されている参考文献に記載されている。
【0027】
UHMWPEとは、少なくとも5dl/g、好ましくは約8〜40dl/gの固有粘度(135℃のデカリン溶液で測定したときのIV)を有するポリエチレンのことである。固有粘度は、MやMのような実際のモル質量パラメーターよりも容易に決定しうるモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMとの間には、いくつかの経験的関係が存在するが、そのような関係は、モル質量分布に依存する。式M=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書参照)によれば、8dl/gのIVは、約930kg/molのMと等価であろう。好ましくは、UHMWPEは、炭素原子100個あたり1個未満の分枝、好ましくは炭素原子300個あたり1個未満の分枝を有する線状ポリエチレンであり、分枝または側鎖または鎖分枝は、通常、少なくとも10個の炭素原子を含有する。線状ポリエチレンは、5モル%までの1種以上のコモノマー、たとえば、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、またはオクテンのようなアルケンをさらに含有しうる。
【0028】
好ましい実施形態では、UHMWPEは、ペンダント側基として、少量、好ましくは炭素原子1000個あたり少なくとも0.2個または少なくとも0.3個の比較的小さい基、好ましくはC1〜C4アルキル基を含有する。そのような繊維は、高い強度と耐クリープ性との有利な組合せを示す。しかしながら、側基が大きすぎたりまたは側基の量が多すぎたりすると、繊維の作製プロセスが悪影響を受ける。このため、UHMWPEは、好ましくはメチル側基またはエチル側基、より好ましくはメチル側基を含有する。側基の量は、炭素原子1000個あたり、好ましくは多くとも20個、より好ましくは多くとも10個、5個、または多くとも3個である。
【0029】
本発明に係るロープ中のHPPE繊維は、少量、一般的には5質量%未満、好ましくは3質量%未満の慣用的添加剤、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤などをさらに含有しうる。UHMWPEは、単一のポリマーグレードでありうるが、2つ以上の異なるポリエチレングレードの混合物、たとえば、IVもしくはモル質量分布および/またはコモノマーもしくは側基のタイプおよび数の異なるポリエチレングレードの混合物でもありうる。
【0030】
本発明に係るロープは、HPPE繊維とPTFE繊維との混合物を含む複数のストランドを含有する。PTFE繊維とは、本明細書中では、ポリテトラフルオロポリエチレンポリマーから作製される繊維のことである。PTFE繊維は、HPPE繊維よりもかなり低い靭性を有し、ロープの静的靭性に有効な寄与を示さない。それにもかかわらず、PTFE繊維は、好ましくは、HPPE繊維の取扱い時、混合時、および/またはロープの作製時における繊維の破断を防止するために、少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4または少なくとも0.5N/texの靭性を有する。PTFE繊維の靭性に上限を設ける理由はないが、利用可能な繊維は、典型的に、多くとも約1N/texの靭性を有する。PTFE繊維は、典型的には、HPPE繊維よりも大きい破断点伸びを有する。
【0031】
PTFE繊維の性質およびそのような繊維の作製方法については、多数の出版物中に、たとえば、欧州特許出願公開第0648869A1号明細書、米国特許第3655853号明細書、米国特許第3953566号明細書、米国特許第5061561号明細書、米国特許第6117547号明細書、および米国特許第5686033号明細書に記載されている。
【0032】
PTFEポリマーとは、テトラフルオロエチレンを主モノマーとして調製されるポリマーのことである。好ましくは、ポリマーは、4モル%未満、より好ましくは2または1モル%未満の他のモノマー、たとえば、エチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロプロピルビニルエーテルなどを含有する。PTFEは、一般的には、高融点および高結晶化度を有する非常に高いモル質量のポリマーであるので、材料を溶融加工することは実質上不可能である。また溶媒へのその溶解度は、非常に制限される。したがって、PTFE繊維は、典型的には、PTFEとPTFEの融点未満のオプションの他の成分との混合物を前駆体繊維、たとえばモノフィラメント、テープ、またはシートの形態に押し出してから、焼結のような加工工程および/または生成物の高温での後延伸を行うことにより、作製される。したがって、PTFE繊維は、典型的には、1つ以上のモノフィラメント状またはテープ状の構造、たとえば、ヤーン状生成物の形態に加撚されたいくつかのテープ状構造の形状を有する。PTFE繊維は、一般的には、前駆体繊維の作製に適用されるプロセスおよび適用される後延伸条件に依存して、特定の多孔度を有する。PTFE繊維の見掛け密度は、さまざまでありうるが、好適な生成物は、約1.2〜2.5g/cmの範囲内の密度を有する。
【0033】
本発明に係るロープのHPPE繊維およびPTFE繊維は、好ましくは、ロープヤーンを形成するように組み合わされたものであり、このロープヤーンからロープ中のストランドが形成される。本発明に係るロープ中の一次ストランドおよび二次ストランドはすべて、ほぼ同一のHPPE対PTFE質量比を有しうるが、この比は、ストランドごとに異なっていてもよい(ただし、ロープ全体の平均質量比は、指示範囲内にある)。一実施形態では、PTFE繊維は、特定的には、本質的にHPPEからなるストランドの内部にロープヤーンが隠蔽された状態で、他のストランドと直接接触するストランドのロープヤーン中に存在する。また、本発明に係るロープは、HPPE繊維とPTFE繊維とを含む複数のストランドと、HPPE繊維、PTFE繊維でないさらなる繊維、またはHPPE繊維とさらなる繊維との混合物からなるさらなる1本以上のストランドと、を含有することも可能である。そのようなストランドは、好ましくは、ロープのコアである。
【0034】
本発明に係るロープは、70:30〜98:2の質量比のHPPE繊維とPTFE繊維との混合物を含む複数のストランドを含有する。PTFE繊維の含量を高くすると、より大きい滑性作用がストランドに付与され、ロープが頻繁な曲げを受けたときの耐用寿命が向上するであろう。好ましくは、HPPE繊維対PTFE繊維の質量比は、多くとも97:3、より好ましくは多くとも96:4、95:5、94:6、93:7、さらには92:8である。しかしながら、PTFE繊維は、ロープの強度にまったくまたはほとんど寄与しないので、その量は、多くなりすぎないようにすることが望ましい。したがって、好ましくは、HPPE繊維とPTFE繊維との質量比は、少なくとも74:26、78:22、80:20、さらには82:18である。
【0035】
本発明に係るロープ中の一次ストランドは、この繊維混合物のほかに、他の繊維、被覆材などのような他の成分をさらに含有しうる。好ましくは、ストランドは、多くとも25質量%、より好ましくは多くとも20もしくは15質量%の他の成分を含有する。
【0036】
一次ストランドを含有する本発明に係るロープとは、ロープにその荷重支持性を付与する主成分が一次ストランドであることを意味する。当業者の熟知するところであろうが、ロープは、性能をさらに向上させたりまたはいくつかの追加の性質を付与したりするための補助成分をさらに含みうる。例としては、たとえば導電性または光透過性を有するいくらかの補助ロープストランドまたは補助繊維が挙げられる。こうした性質の変化は、たとえば過荷重状態を生じたことを示す指標として役立ちうる。ロープはまた、任意の慣用的な被覆材またはサイズ材をさらに含みうる。この被覆材は、ロープを保護したりまたは耐摩耗性をさらに向上させる滑剤として作用したりしうる。そのような目的に好適な被覆材料は、一般的には、たとえば熱可塑性ポリマーまたはビチューメン化合物の水性ディスパージョンとして適用される。好ましくは、ロープは、約25質量%未満または20もしくは15質量%未満の他の成分を含有する。
【0037】
1サイクルあたり6回の曲げ変形を引き起こす3本のローラーを用いる反転曲げ試験により、HPPEマルチフィラメントヤーンから作製された直径約5mmの編組ロープを評価した。ロープ上に水をスプレーしながら周囲条件下で試験を行う。ロープは、破損発生前の約400サイクルの周期的な曲げに対する耐性(曲げ疲労寿命)を示した。同一のロープの2つの他の部分を用いて試験を反復した。ただし、今度は、約15質量%の2種の被覆材料(一方はシリコーン化合物をベースとし、他方はビチューメン化合物をベースとする)を施した。その結果、それぞれ、約1000および1300サイクルで破損を生じた。たとえばデンタルフロスとして使用するための典型的な寸法を有する約86質量%のHPPEヤーンと約14質量%のテープ状PTFE繊維との混合物からなるストランドを含む類似の構成のロープを作製する。いかなる被覆材をも適用しない場合、このロープは、約5000サイクル後に破損する。シリコーン被覆材(全ロープ質量を基準にして約11質量%のシリコーン化合物)で被覆された同一のHPPE/PTFEロープは、15000サイクル後でも破損を生じない。
【0038】
本発明はさらに、70:30〜98:2の質量比の高性能ポリエチレン繊維とポリテトラフルオロエチレン繊維との混合物を含む複数のストランドを含有するロープに関する。ただし、このロープは、約2〜20質量%のシリコーン化合物(全ロープ質量を基準にして)をさらに含有する。そのようなロープは、曲げ疲労寿命に関して驚くほど大きなさらなる改良を示すとともに、有利な強度特性および耐摩耗性を兼ね備える。
【0039】
好ましくは、本発明に係るロープは、約3〜18、4〜16、さらには約5〜15質量%のシリコーン化合物を含有する。
【0040】
シリコーン化合物という用語は、本明細書中では、ケイ素原子が酸素原子を介して結合され、各ケイ素原子が1個または2個以上の有機基、通常はメチルまたはフェニルを保有する化合物に対して使用される。シリコーンはまた、ポリオルガノシロキサンとしても知られ、線状、環式、またはそれらの混合でありうる。ポリオルガノシロキサンのようなシリコーン化合物は、公知の方法に従ってたとえばオルガノジクロロシランを水と反応させることにより生成可能である。
【0041】
本発明の特定の実施形態では、ロープの強度特性をさらに向上させるために、ロープは、後延伸されたものであるか、または少なくともその一次ストランドは、ロープの形態に集成する前に、好ましくは100〜120℃の範囲内の温度で後延伸されたものである。そのようなロープ後延伸工程については、とくに欧州特許第0398843B1号明細書または米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0042】
本発明はまた、ロープを作製するための、他のポリマー繊維と組み合わされたPTFE繊維の使用に関する。PTFE繊維は、PTFEの物理的性質が良好であるので要求の厳しい多くの用途で使用される。それは、優れた高温性能および低温性能、耐薬品性、ならびに紫外線暴露の結果としての損傷に対する耐性を有する。PTFE繊維の代表的な用途としては、デンタルフロス、ベアリング、ならびに種々のメンブレンおよび防水性かつ通気性の布としての使用が挙げられる。これらは、織成、編組、編成、およびニードルパンチをはじめとする広範にわたる一連のテキスタイルプロセスから形成される。PTFE繊維は、縫糸としても使用されるが、ロープに使用することについては発表されていない。PTFE繊維は、意外なことに、ロープ、特定的には使用時に頻繁に曲げられるより大きい直径のロープの耐用寿命を伸ばす。
【0043】
好ましくは、本発明に係る使用は、ベンドオーバーシーブ用途のロープの作製における、少なくとも2.0N/texの靭性を有する高性能繊維と組み合わされたPTFE繊維の適用に関する。ただし、他の繊維対PTFE繊維の質量比は、70:30〜98:2である。より好ましくは、高性能繊維はHPPE繊維である。
【0044】
本発明に係るロープは、ポリマー繊維からロープを構築するためのおよび場合によりロープ被覆材を適用するための公知の技術を用いて作製可能である。
【0045】
本発明に係るロープの好ましい作製方法は、a)70:30〜98:2の質量比でHPPE繊維とPTFE繊維とを集成してロープヤーンを形成する工程と、b)場合により、2本以上のこのロープヤーンを集成してストランドを形成する工程と、c)このロープヤーンまたはこのストランドを編組してロープを形成する工程と、d)場合により、ロープ被覆材を適用する工程と、を含む。
【0046】
本発明に係る方法の好ましい実施形態は、繊維、ロープヤーン、ストランド、および被覆材の構成および/または組成に関連して上述したものに類似している。
【0047】
本発明に係る方法は、たとえば、編組中にストランドを収容するキャリヤーが空になった場合、一方の一次ストランドの端を次の一次ストランドの端に組継ぎする工程をさらに含みうる。このようにすれば、破断強度の低下を引き起こすおそれのあるウィークスポットを含有するロープを生じることなく、ロープの長さを任意の所望の長さまで延長することが可能である。
【0048】
本発明に係る方法はまた、編組工程の前に一次ストランドを後延伸する工程または他の選択肢としてロープを後延伸する工程をさらに含みうる。そのような延伸工程は、好ましくは、高温で、ただし、スタンド(stands)中の(最も低い融点の)フィラメントの融点未満で行われ(=熱延伸)、好ましくは100〜120℃の範囲内の温度で行われる。そのような後延伸工程については、とくに欧州特許第398843B1号明細書または米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0049】
意外なことに、HPPE繊維を含有する本発明に係るロープは、これまでに知られているロープよりも良好な撓み疲労を示す。したがって、本発明はまた、HPPE繊維と、ロープの撓み疲労を改良する少なくとも1つの手段と、を含むロープに関する。このロープは、撓み疲労を改良する手段を含まないロープと比較して撓み疲労が少なくとも5倍改良されることを特徴とする。好ましくは、撓み疲労は、少なくとも7倍、より好ましくは10倍、さらにより好ましくは13倍改良される。好ましい実施形態に対しては、たとえば、使用されるHPPE繊維のタイプおよび量、ロープの直径などとしては、HPPE繊維とPTFE繊維とを含有するロープに関連して以上に規定されたものと同一の好ましい選択肢があてはまる。
【0050】
[ロープの撓み疲労の試験方法]
ロープの撓み疲労の試験方法については、米国特許第6,945,153B2号明細書に記載されている。この特許に開示されている試験装置および試験試料をそれぞれ本明細書の図1および図2に示す。図1は、試験装置20を示している。この装置は、試験シーブ22とテンションシーブ24とを有する。力26をシーブ24に加えて試験試料に張力を生じさせ、かつ試料とシーブとの境界面に表面張力を生じさせる。第1の試験試料28および第2の試験試料30をシーブに掛けて配置し、連結器32を用いてそれらの自由端を連結一体化させる。試験試料28を図3に示す。試料28は、ロープ部分34とロープ部分の両端のアイスプライス36とからなる。ロープ部分は、二回曲げゾーン38とゾーン38の両側に位置する2つの一回曲げゾーン40とを含む。
【0051】
1サイクルで、連結器がシーブに達するまで一方の方向にシーブを回転させてから同様にカップル(couples)がシーブに達するまで他方の方向に回転させる。このようにすると、二回曲げゾーン38は、シーブを2回通過する。6.5秒間のサイクル周期に対応する554サイクル/時の頻度で、これを連続的に繰り返した。
【0052】
シーブの直径は、試験ロープの直径の20倍である。
【0053】
シーブは、ロープと同一の直径の中央部52を有する図3に示されるような溝を含む。フランジ角αは30°であり、溝は、図3に示されるように中央部の両側から直線部54に延在する。溝の全深さは、試験ロープの直径の0.75倍である。力26は、試験ロープの最大破断荷重(MBL)の2×22%である。
【0054】
1サイクルのストロークは、シーブの直径の2.22倍である。
【0055】
撓み疲労は、破断により破損するまでロープが耐える合計サイクル数で表される。
【0056】
[比較実験A]
20mmシーブに嵌合しかつ完全にHPPE繊維からなる標準的なロープを作製した。オランダ国のディーエスエム(DSM)により供給された2640dtexのダイニーマ(Dyneema)TM SK75をHPPE繊維として使用した。
【0057】
ロープヤーンの構成は、10×2640dtex、S/Z撚り数12ターン/メートルであった。ヤーンからストランドを作製した。ストランド構成は、7本のロープヤーン、Z/S撚り数20ターン/メートルであった。ストランドからロープを作製した。ロープ構成は、6.1ターン/メートル(164mmのピッチ)を有する12ストランド編組ロープであった。
【0058】
ロープの破断荷重は40.3トンであった。
【0059】
以上に記載されるような試験方法に従ってロープの撓み疲労を試験した。
【0060】
シーブ直径は400mmであった。サイクル周期は6.5秒間であった。シーブ24に加えられた力は2×9.15トンであった。
【0061】
ロープは4145サイクル後に破損した。
【0062】
[比較実験B]
ベンドオーバーシーブ用途向けに最適化された被覆材で比較実験Aの標準的なロープを含浸した。
【0063】
比較実験Aのロープのときと同一の条件下で撓み疲労を試験した。ロープは18608サイクル後に破損した。
【0064】
[実施例1]
20mmシーブに嵌合する本発明に係るロープを作製した。ロープは、比較実験Aで使用したHPPE繊維(以下の構成ではGで示される)と、米国のゴア(Gore)により供給されたe−PTFE 500dtex(以下の構成ではDで示される)と、の混合物を含む複数のストランドを含んでいた。
【0065】
ロープヤーンの構成は、S/Z撚り数12ターン/メートルを有する(9×2640dtex D+9×500dtex G)であった。
【0066】
ストランド構成は、7本のロープヤーン、Z/S撚り数20ターン/メートルであり、ロープ構成は、6.1ターン/メートル(164mmのピッチ)であった。
【0067】
比較実験Aのロープのときと同一の条件下で撓み疲労を試験した。ロープは23132サイクル後に破損した。
【0068】
[実施例2]
比較実験Bのロープに使用したのと同一の被覆材で実施例1のロープを含浸した。
【0069】
比較実験Aのロープのときと同一の条件下で撓み疲労を試験した。ロープは123591サイクル後に破損した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、試験装置20を示している。この装置は、試験シーブ22とテンションシーブ24とを有する。力26をシーブ24に加えて試験試料に張力を生じさせ、かつ試料とシーブとの境界面に表面張力を生じさせる。第1の試験試料28および第2の試験試料30をシーブに掛けて配置し、連結器32を用いてそれらの自由端を連結一体化させる。
【図2】試験試料28を図3に示す。試料28は、ロープ部分34とロープ部分の両端のアイスプライス36とからなる。ロープ部分は、二回曲げゾーン38とゾーン38の両側に位置する2つの一回曲げゾーン40とを含む。
【図3】シーブは、ロープと同一の直径の中央部52を有する図3に示されるような溝を含む。フランジ角αは30°であり、溝は、図3に示されるように中央部の両側から直線部54に延在する。溝の全深さは、試験ロープの直径の0.75倍である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ全体を基準にして70:30〜98:2の質量比の高性能ポリエチレン繊維とポリテトラフルオロエチレン繊維との混合物を含む複数のストランドを含有するロープ。
【請求項2】
前記ロープが編組構成をとる、請求項1に記載のロープ。
【請求項3】
前記ロープが8本または12本のストランドを含有する、請求項1または2に記載のロープ。
【請求項4】
前記ロープが少なくとも30mmの直径を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項5】
前記高性能ポリエチレン繊維が少なくとも2.5N/texの靭性を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項6】
前記ポリテトラフルオロエチレン繊維が少なくとも0.3N/texの靭性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項7】
前記質量比が80:20〜95:5である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項8】
前記ロープが約2〜20質量%のシリコーン化合物をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項9】
ロープを作製するための、他のポリマー繊維と組み合わされたポリテトラフルオロエチレン繊維の使用。
【請求項10】
撓み疲労を改良する手段を含まないロープと比較して撓み疲労が少なくとも5倍改良されることを特徴とする、HPPE繊維とロープの撓み疲労を改良する少なくとも1つの手段とを含むロープ。
【請求項11】
ベンドオーバーシーブ用途における荷重支持部材としての、請求項1〜10のいずれか一項に記載のロープの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−517557(P2009−517557A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542648(P2008−542648)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011404
【国際公開番号】WO2007/062803
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】