説明

高性能炭素繊維用プレカーサー用油剤組成物及びプレカーサー

【目的】 炭素繊維用プレカーサーの経時劣化を防止し、プレカーサーの高品質を維持させるために必要な油剤組成物を提供する。
【構成】 アミノ基に由来する窒素の含有量が0.05〜2.0重量%であり、25℃の粘度が500センチストークス以上のアミノ変性ポリシロキサンを少なくとも50重量%以上含有するシリコーン油剤に、アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量の炭素数6以下のカルボン酸を加えてなる油剤80〜20重量部とPOEアルキルエーテル、POEアルキルアリールエーテル又はPOE脂肪酸エステルを主体とするノニオン系乳化剤20〜80重量部との混合物100重量部に対してアルキルアミン、アリールアミン、もしくはアルキルアリールアミンのカルボン酸塩、アミノ酸又はベタイン化合物のアミノカルボン酸物質を0.2〜10重量部混合してなる新規な油剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高性能即ち高強度、高弾性率を有する炭素繊維の製造原料として必要なアクリロニトリル系前駆体繊維(以下、プレカーサーと称する)に用いられる油剤組成物及びその油剤組成物を付与したプレカーサーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】炭素繊維は、その前駆体繊維であるアクリル系、レーヨン系、ポリビニールアルコール系、ノボラック系等の有機繊維又はピッチ系の無機繊維を200〜300℃の加熱された酸化性の雰囲気中で酸化繊維に転換した後、更に不活性雰囲気中で炭化処理することにより工業的に製造されている。この酸化処理(耐炎化処理)や炭化処理(炭素化処理)工程は高温で行われるため、繊維が互いに固着又は融着を起し、得られる炭素繊維の品質が著しく低下することがある。これを防ぐために特殊な有機シリコーン系の油剤(一般にシリコーン油剤と称される)を用いる方法が数多く提案されている。
【0003】中でも高性能の炭素繊維を得るためにはアミノ変性ポリシロキサン(アミノ変性シリコーン又はポリアミノシロキサンとも称される)が特に有効であり、特公昭52−24136を始めとして、特公昭53−10175、特公昭60−52208、特公昭63−23285等に記載されている。又アミノ変性シリコーン油剤に添加物を加えて油剤の安定性を増す方法についても特開平2−91224、特開平2−91225、特開平2−91226等に提案がなされている。
【0004】本発明者等も高性能炭素繊維用のプレカーサーについて研究を重ねてきたが、プレカーサー用油剤の適否が形成される炭素繊維の性能に大きく関与し、高性能炭素繊維を得るためにはアミノ変性ポリシロキサン油剤が必須であることを知った。特に近年のように著しく高強度、高弾性率の高性能炭素繊維、黒鉛繊維が要求される場合には油剤の選定が非常に重要であることが判った。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように非常に有用なアミノ変性ポリシロキサン油剤ではあるが、この油剤を付与したプレカーサーを長期間保存しておいた場合には経時劣化を起すことが判った。特に超高強度炭素繊維を製造せんとする場合に、かかるプレカーサーを用いると、この経時劣化が顕著で、夏期の30〜40℃の倉庫の中に3カ月間保管した後で焼成すると、得られる炭素繊維の強度が10%以上も低下し、高性能炭素繊維用プレカーサーとして使用できない場合もあることが判明した。
【0006】アクリル系のプレカーサーが経時劣化することについては従来の文献にも全く記載されていない。そこでこの経時劣化現象を追求するためにプレカーサーの油剤を抽出して、プレカーサー自体の変化と抽出した油剤の変化の両面から鋭意研究した。
【0007】先ずプレカーサー自体の変化を確認するために、アミノ変性ポリシロキサンを除去した製造直後及び1年間常温(温度調節のされていない倉庫内)で保管して経時劣化を起したプレカーサーの両者について、化学分析や物理的、機械的性質の比較検討を行ったが、両者の間には全く差が見られなかった。そこで更に油剤側の変化について検討を行った。
【0008】油剤であるポリシロキサンは、加熱によりゲル化することは古くから知られている。又これを防ぐために、ポリシロキサンに酸化防止剤等を加えることも良く知られている方法である。更に、酸化防止剤を加えた場合のポリシロキサンの熱分解の挙動についても報告されている(例えばZh. Prikl. Khim. Vol. 49、No.4、p839〜844、1976参照)。
【0009】本発明者等も当初経時劣化したシリコーン油剤を付与したプレカーサーをメチルエチルケトン(以下MEKと略記する)で抽出してもシリコーン油剤が完全に抽出されないことから、油剤のゲル化が原因であろうと推定して、酸化防止剤の添加や強酸性基を含む乳化剤との組合せによるゲル化防止の方法を試みた。
【0010】しかしこの方法はプレカーサーの経時劣化に対しては効果が見られないばかりでなく経時劣化を加速するという逆効果が現れることを見い出した。
【0011】そこで更に前記プレカーサーから抽出した油剤をゲルクロマトグラフィー(GPC)を用いて分析したところ、長期間保管したプレカーサーから抽出されたシリコーン油剤には、環状シロキサンオリゴマー(4〜8量体)が含まれており、かつ高温で保管されたものほどこのオリゴマーが多いことを見い出した。
【0012】そこでこの原因がプレカーサーに付与されているポリシロキサンが保管中に徐々に低分子化するために起こる現象であろうと推定して、種々の実験を行った。即ちアミノ変性ポリシロキサンを水に乳化させるために用いる乳化剤の組成及び乳化を促進するために加える酸の種類を種々変えて、乳化性、加熱時のゲル化の程度やオリゴマーの生成状況を詳細に調査した。
【0013】その結果このポリシロキサンの低分子化は、硫酸、硝酸、リン酸、スルフォン酸等の強酸性基(強酸性の遊離酸ばかりでなくその塩やエステルも含む)が共存すると急激に進行することが判明した。
【0014】一方ポリアミノシロキサンは、その分子中に塩基性のアミン基を含有するために強酸性基を含有する乳化剤を用いると、水に対する溶解性が向上することから乳化剤としてスルフォン酸エステルやリン酸エステルが好適に用いられてきた(特公昭52−24136)。
【0015】このような強酸性基を含有する乳化剤を用いたり、或いはこれに酸化防止剤を配合するとポリアミノシロキサンのゲル化は改善されるものの、低分子化はむしろ加速されることをその熱分解ガスクロマトグラフィーの研究から明らかになった。
【0016】即ち高分子のポリアミノシロキサンに、ポリオキシエチレン(以下POEと略記する)ラウリルフェノールエーテルのスルホン酸エステルやリン酸エステルを加えて加熱すると、環状のシロキサンオリゴマー(4〜8量体)が容易に生成することを確認した。この低分子化反応は酸化防止剤を加えても全く防止できないばかりでなく、酸化防止剤の種類に依っては加速する場合すらあることが判った。又強酸性基のないPOEノニルフェノールエーテルに少量のリン酸を加えた場合にもシロキサンオリゴマーの生成が著しく加速された。
【0017】アミノ変性ポリシロキサン油剤を用いて生産された生産直後のプレカーサーを耐炎化したものと、プレカーサーを長期間保管して経時劣化してから耐炎化したものとを、MEKで抽出すると、前者はMEKで抽出されるシリコーン油剤が少ないが、後者は前者より多量のシリコーン油剤が抽出される。このことはプレカーサーを保管している間に耐炎化のような高温にさらされた際に、シリコーン油剤がMEKに溶解しなくなる反応、即ち分子間の架橋反応にともなわれるゲル化反応が抑制されてしまうような中間構造、又はゲル化反応以上にポリシロキサンの分子鎖切断(低分子化)反応を促す反応開始点を生成していることを伺わせるものである。
【0018】従ってプレカーサーの経時劣化を防止するためにはシルコーン油剤がある程度ゲル化し易い方が好ましいと判断した。
【0019】プレカーサーに均一に油剤を付与するためには、シリコーン油剤を有機溶剤に溶解するか、或いは微粒な水系エルジョンとして用いなければならない。有機溶剤を用いるのは安全性やコストの点で工業的に不利であるため通常は水系のエマルジョンとして用いられている。しかし一般的に多くのシリコーン油剤は疎水性のため0.1ミクロン以下の微粒な水系エマルジョンを得るのは容易ではない。
【0020】そのため従来からポリアミノシロキサンを水に乳化して粒子径が0.1ミクロン以下の微粒なエマルジョンを得るために酸性基を含んだ乳化剤が好適に用いられてきた。例えば特公昭52−24136の実施例に記載されているようにPOE(9)ノニルフェニルホスフェート(ノニルフェノールホスフェートとも称される)のようなモノリン酸エステルは、ポリアミノシロキサンのアミノ基と程よく塩を作り、著しく親水性が向上し、殆ど可溶化し、透明な水溶液が得られ、そのエマルジョンの平均粒子径は0.1ミクロン以下となり通常の光学顕微鏡ではその粒子を見ることが出来ない程の微粒子である。それが為に、油剤は付着斑を起すことなく、プレカーサーの表面に均一な皮膜を形成させることが出来るのでこのような特性のある油剤が高性能炭素繊維用プレカーサーを製造するために好適に利用されているのである。
【0021】しかしこのように乳化性に勝れた乳化剤は、リン酸、硫酸等の強酸性基を含むものである。これに対して脂肪酸エステルやアルキルエーテル等のノニオン系の乳化剤は乳化性が劣り、0.1ミクロン以下というような微粒なエマルジョンは得られない。経時劣化防止の観点からは強酸性基のないノニオン系の乳化剤が好ましいが、ノニオン系乳化剤だけでは透明な油剤水溶液は得られない。
【0022】そこで更に強酸性基を含まないポリエーテル系及びエステル系のノニオン乳化剤を用いて透明性の良い微粒なエマルジョンを得る方法について鋭意研究を重ねた。そして乳化性が良く、かつプレカーサーの経時劣化も防止出来る油剤組成物について幅広く検討し、ようやく本発明に到達することが出来た。
【0023】又アミノ変性ポリシロキサンと乳化剤や乳化促進剤を調合する際に障害となる高粘性のために調合に長時間を要するという問題も合せて解消することが出来た。
【0024】
【課題を解決するための手段】本発明の目的はプレカーサーの経時劣化を防止し、かつプレカーサーの表面に均一に付着させることの出来る微粒なエマルジョンを形成し、かつ油剤水溶液の粘性を低下せしめることが可能な油剤組成物と、その油剤組成物を付与した高性能炭素繊維用プレカーサーを提供することにある。
【0025】この目的はアミノ変性ポリシロキサン中のアミノ基に由来する窒素の含有量が0.05〜2.0重量%の範囲にあり、25℃における粘度が500センチストークス以上であるアミノ変性ポリシロキサンを少なくとも50重量%以上含有するシリコーン油剤に、アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量の炭素数6以下の脂肪族モノカルボン酸を加えてなる油剤80〜20重量部と、POEアルキルアリールエーテル又はPOEアルキルエーテル又はPOE脂肪酸エステルを主体とするノニオン系乳化剤20〜80重量部との混合物100重量部に対してアルキルアミン、アリールアミンもしくはアルキルアリールアミンのカルボン酸塩、アミノ酸又はベタイン化合物のアミノカルボン酸物質を0.2〜10重量部混合してなる油剤組成物を、プレカーサーに0.1〜5.0重量%付与することにより達成される。
【0026】プレカーサーとしてはアクリロニトリルを90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有するアクリロニトリル共重合体を乾式、湿式、乾湿式紡糸法等によって得られたものが好適に使用できる。又高性能炭素繊維を得るためにプレカーサーに付与される本発明による油剤組成物の量は0.1〜5.0重量%が適性範囲であり、0.1重量%未満或いは5.0%より多くては十分に効果を発揮することが困難である。
【0027】本発明に使用されるアミノ変性ポリシロキサンは、そのアミノ基に由来する窒素の含有量が0.05〜2.0重量%のものが適切であり、窒素が0.05重量%未満のものは微粒なエマルジョンを得るのが容易でない。窒素が2.0重量%を越えたものは、微粒なエマルジョンは得られ易いものの熱安定性に乏しいため、耐炎化時に油剤成分が分解し易く、高性能炭素繊維が得られにくい。
【0028】アミノ変性ポリシロキサンの粘度は25℃において500センチストークス以上の高粘度のものが好結果をもたらすが、これ未満の低粘度のものを使用すると高強度の炭素繊維は得られない。粘度の上限は特に限定されないが余り高いと乳化剤と混合する時に混合しにくいので通常は10000センチストークス程度までが好都合であるが、高粘度用の混合機を用いれば更に高粘度のものであっても使用できるので粘度の上限の制約は殆どない。
【0029】ここで用いるシリコーン油剤はアミノ変性ポリシロキサンが好適であるが、水に乳化した際のエマルジョンの平均粒子径が0.1ミクロンより大になったり、20重量%溶液の透明度が60%未満にならない範囲で、ポリジメチルシロキサンやポリメチルフェニルシロキサン又はポリエーテル変性、エポキシ変性その他の変性ポリシロキサン等のシリコーン油剤を混合しても差し支えないが、アミノ変性ポリシロキサンが少なくとも50重量%含まれていないと粒子径や水溶液の透明度を好適範囲に保持することは困難である。
【0030】乳化剤としては水溶性のPOEアルキルエーテル、POEアルキルアリールエーテル、POE脂肪酸エステル及びこれらの混合物等のノニオン系乳化剤が用いられるが、これだけでは十分に乳化することは出来ない。乳化に先立って、用いるシリコーン油剤にアミノ変性ポリシロキサンのアミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量に相当する炭素数6以下の低級脂肪族モノカルボン酸を加えておくことが必要である。こうすることにより乳化が促進され、強酸性基を有しないノニオン系乳化剤でも十分に乳化することが出来る。ここにおいてアミノ変性ポリシロキサンの乳化を促進するために添加する炭素数6以下の低級脂肪族モノカルボン酸としては蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸等のモノカルボン酸及びグリコール酸、乳酸、マロン酸等の炭素数4以下のオキシカルボン酸等が挙げらる。これらのモノカルボン酸は単独でも2種以上を混合して用いても差し支えない。
【0031】炭素数7以上のモノカルボン酸は乳化促進作用が十分でないため単独では使用できないが、炭素数6以下のカルボン酸との併用は差し支えない。しかし実質的な乳化促進効果が余りないので工業的にはそのような併用は無意味である。
【0032】更にアミノ変性ポリシロキサンを十分に乳化するためには、アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量のモノカルボン酸を加えることが適当であり、この範囲未満では乳化が不十分であり又この範囲を越えて加えても乳化性は変わらないので無意味である。
【0033】アミノ変性ポリシロキサンを50重量%以上含むシリコーン油剤とノニオン系乳化剤の混合比率は重量比で80/20〜20/80の範囲が適切であり、この範囲より乳化剤が少ないと良好なエマルジョンが得られにくい。またこの範囲を越えて乳化剤を加えても乳化効果が上がらないので無意味である。
【0034】このようにして作成した油剤組成物を、水で希釈すると肉眼では殆ど透明な水溶液が得られ、光学顕微鏡でもその粒子を殆ど見ることは出来ない。このようにして作成した20重量%水溶液エマルジョンを、光散乱光度計でその粒子径を測定すると、通常の場合平均粒子径は0.1ミクロン以下(10〜80mμ)である。
【0035】ここにおいてシリコーン油剤に予めモノカルボン酸を加えずに、乳化剤の水溶液の中にシリコーン油剤を加えてから、後でモノカルボン酸を加えた場合は必ずしも微粒なエマルジョンが得られない。しかし乳化する際に用いる混合機や攪拌機の性能にも依るので、シリコーン油剤、モノカルボン酸、乳化剤の添加の順序は必ずしも限定されるものではないが、油剤組成物の20重量%水溶液を分光光度計を用いてセル長1cmで波長660mμにおける純水に対する透過率を測定した場合に透過率(以下透明度と称す)が60%以上となるように乳化することが必要条件である。又、エマルジョンの粒子径も0.1ミクロン以下が好ましいが透明度が60%を下回らない範囲であれば0.1ミクロン以上の粒子を多少含んでも差し支えない。
【0036】本発明のアミノ変性ポリシロキサンを50重量%以上含有するシリコーン油剤/低級モノカルボン酸/ノニオン系乳化剤からなる組成物100重量部に対してアルキルアミン、アリールアミンもしくはアルキルアリールアミンのカルボン酸塩、アミノ酸又はベタイン化合物のアミノカルボン酸物質を0.2〜10重量部を加えて混練すると、油剤組成物の粘性が低下して混合操作が容易になるばかりでなく、油剤組成物の水溶液の粘度が大幅に低下する。これによりプリカーサーの油剤処理が容易となり、油剤は短時間で均一にプレカーサーに付与させることが出来る。
【0037】こうして得られたプレカーサーを焼成して得た炭素繊維のストランド強度は、アミノカルボン酸物質を加えない油剤を用いたものより向上する。この作用機構は明瞭には解明出来ていないが、油剤水溶液の粘度が低いことにより、単繊維の集合体であるプレカーサーへの内部に位置する単繊維まで均一に油剤が付与されるために強度の低い単繊維が減少するためと推定される。
【0038】ここで使用されるアミノカルボン酸物質としては、その分子中にアミノ基を含むものにあってはそのアミノ基とほぼ当モルのカルボン酸を加えたもの(アミノカルボン酸塩)、同一分子中にアミノ基とカルボン酸基を有するもの(アミノ酸やベタイン化合物)が該当するが水100gに対する溶解度が0.2g以下の難溶性のものは使用できない。その分子中にアミノ基を含む化合物としては1〜4級アミンの何れでも良いし、アミノ基以外にヒドロキシ基を含むアルキルアミンやアリールアミン又はアルキルアリールアミンでも良い。更にアミノ基を含む化合物自体が水に対して難溶性であっても、カルボン酸を加えることにより水溶性が増して0.2重量%以上の濃度が得られるものであれば良い。
【0039】アミノカルボン酸物質の添加量はその構造により異なるため一義的に決めることは困難であるが、通常は前述した如く0.2〜10重量部の範囲が好適である。0.2重量部より少ないと、油剤組成物の20重量%水溶液の粘度が10センチストークス以下に下げることが困難であり、又10重量部より多く加えても効果的に粘度を下げることは出来ないので10重量部より多く加えることはあまり実用的ではない。
【0040】本発明の油剤組成物水溶液のpHは4〜9程度に調整することによりエマルジョンの安定性が長期に保持されるが、pHがこの範囲を逸脱するとエマルジョンの安定性が阻害され、水溶液の透明性が低下する。従ってアミノ基とカルボン酸の比率はほぼ当モルが好ましいが、水溶液のpHを4〜9に保持できる範囲であれば必ずしも当モル配合でなくても良い。
【0041】このようにアミノカルボン酸物質を加えても油剤組成物の水溶液の透明性即ち微粒なエマルジョンの安定性を損ねたり、プレカーサーの経時劣化防止効果を低下する恐れはほとんどない。これはこのようなアミノカルボン酸物質を加えても経時劣化が促進されるようなことは全くないばかりでなく、プレカーサーの製造工程での加熱ローラーへの油剤の固着も大幅に改善されるという効果も発揮される。これも油剤組成物及びその水溶液の粘性が低いためと考えられる。
【0042】前述した如く経時劣化を防止するためには加熱した時にある程度ゲル化する油剤が好ましいが、そのゲル化の判定のために加熱処理後の油剤をMEKで洗浄して不溶分を測定する方法は実施例の項に詳しく記載するが、本発明に係わる油剤組成物を230℃の空気中で60分間加熱した後、MEKで洗浄して可溶成分を除去してMEK不溶分を求めると30重量%以上となる。
【0043】このように230℃、60分の加熱によるポリシロキサンのMEKの不溶分が30重量%以上となるように調合されたアミノ変性ポリシロキサン油剤組成物を用いるとプレカーサーの経時劣化は著しく改善される。
【0044】一方本発明の範囲外であるアミノ変性ポリシロキサン油剤組成物、例えばポリアミノシロキサン(粘度1500センチストークス、アミノ基の窒素0.4%)とPOE(9)ノニルフェノールエーテルのモノリン酸エステル(乳化剤)の2:1(重量比)の混合物に酸化防止剤〔2,2′−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、商品名Sumilizer MDP−S〕を3重量%添加した油剤にあっては230℃、60分の加熱処理を施した後のMEK不溶分が10重量%以下でありプレカーサーの経時劣化も非常に烈しいものであった。これは酸化防止剤を添加することによりゲル化は防止出来てもプレカーサーの経時劣化を防止する効果がまったくないためである。
【0045】特開平2−91225には種々の酸化防止剤を添加することによりローラーやガイドへの油剤の固着を防止する方法が提案されているが、その方法は確かに油剤の固着に対しては効果があるかもしれないが、高性能炭素繊維プレカーサーに必要な経時劣化を防止する効果、即ちプレカーサーとしての高品質を維持する能力という点から見ると逆効果をもたらす場合が多い。
【0046】この原因は、酸化防止剤を添加することによりポリシロキサンのゲル化を防止することは出来ても、ポリシロキサンの一部を低分子化するために却ってポリシロキサンの耐熱安定性を損なってしまうためと考えられる。
【0047】本発明者等の研究によれば高性能炭素繊維用プレカーサーに用いるシリコーン油剤としては耐炎化処理工程程度の熱処理で、適度にゲル化することにより耐熱安定性が向上するものの方が好ましいことが判明した。
【0048】更に油剤組成物の構成成分や水溶液の粘性を適正化することにより、ローラーやガイドへの油剤の固着が大幅に改善され効率よくプレカーサーや炭素繊維を生産することが出来る。
【0049】
【実施例】本発明をより具体的に説明するために、以下に代表的な実施例を示すが、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。尚以下の実施例に示される%及び部は特に限定しない限りは重量である。
【0050】実施例中に示されるプレカーサー及び耐炎化糸のポリシロキサン(シリコーン油剤)の付着量、エマルジョンの粒子径、溶液の透明度、MEK不溶分、経時劣化の評価は以下の方法により測定した。
【0051】(1) ポリシロキサン付着料の測定法:サンプル(プレカーサー又は耐炎化糸)を水酸化カリウム/ナトリウムブチラールでアルカリ溶融した後水に溶解し、塩酸でpH1に調整する。これに亜硫酸ナトリウムとモリブデン酸アンモニウムを加えて発色させ、ケイモリブデンブルーの比色定量(波長815mμ)を行い、ケイ素の含有量を求める。このケイ素含有量と、予め同法で求めた原料ポリシロキサン中のケイ素の含有量の値を用いてサンプル中のポリシロキサン量を算出する。
【0052】(2) エマルジョンの粒子径測定:油剤組成物の20重量%水溶液について、大塚電子製、ダイナミック光散乱光度計DLS−700を用いて平均粒子径並びに粒度分布を測定した。
【0053】(3) 油剤溶液の透明度測定:油剤組成物の20重量%水溶液を1cmのセルに入れ、波長660mμにおける純水に対する透過率を測定することによって行った。尚、光度計は日立製作所製分光光度計100−10型を用いた。
【0054】(4) MEK不溶分の測定:油剤組成物の20重量%水溶液約5gを重量既知の直径6cmのアルミ製の平皿(深さ1.5cm)に採り、これを105℃の熱風乾燥器で1時間乾燥した後重量を測定する(重量Ag)。油剤組成物中にはポリシロキサン(シリコーンオイル)以外に乳化剤やカルボン酸、アミノカルボン酸等が含まれているため、105℃で1時間乾燥した後の重量(重量Ag)はこれらも含んだ重量である。従ってポリシロキサンのみの重量は乾燥固形分(A−アルミ皿の重量)gに油剤組成物中のポリシロキサンの重量比率を掛けたものとなる。これがA′gのことである。この重量比率は油剤組成物を調合したときのポリシロキサン/乳化剤/カルボン酸/アミノカルボン酸の混合比率から求まる。これを230℃の熱風乾燥器に入れ1時間加熱する。加熱後の油剤をMEK50mlを用いてビーカーに移し、室温で5分間攪拌してから、重量既知のガラスフィルターで濾過する。これを更に50mlのMEKで2回洗浄してMEK可溶分を除去した後、105℃の熱風乾燥器で30分間乾燥してから重量を測定する(重量Bg)。尚、230℃1時間加熱しても乳化剤やカルボン酸、アミノカルボン酸はMEKに溶解するためMEKで洗浄した後はゲル化して不溶化したポリシロキサンのみがガラスフィルターの上に残る。従ってMEK不溶分は下式となる。


A′g=(A−アルミ皿)g×油剤組成物中のポリシロキサン混合重量比
【0055】(5) プレカーサーの経時劣化評価法:生産直後のプレカーサーを、220℃、230℃、240℃の熱風循環式耐炎化炉で各20分間滞留せしめて耐炎化した後、最高温度500℃、1000℃、1400℃の炭素化炉中で連続的に炭素化する。得られた炭素繊維はJIS−7601の方法に従ってストランド強度を測定する(強度A)。樹脂溶液としてはエピコート#828/3フッ化ホウ素モノエチルアミン/メチルエチルケトン=100/3/30(重量比)の混合溶液を用いた。一方同じプレカーサーを60℃の温風循環式恒温槽内に3カ月間保管した後同様に耐炎化、炭素化して得た炭素繊維のストランド強度を同様に測定する(強度B)。
経時劣化後の強度保持率=B/A×100(%)
【0056】実施例 1アクリロニトリル98%、メタアクリル酸2%からなる共重合体を紡糸し、油剤組成物を付与して得た12000フィラメント(単糸デニール0.6d)のプレカーサーを、220℃、230℃、240℃の熱風循環式耐炎化炉で各20分間滞留せしめて耐炎化した後、最高温度500℃、1000℃、1400℃の炭素化炉を用いて連続的に炭素化せしめた。
【0057】プレカーサーには後掲の表1に記載した如く、組成の異なる4種の油剤組成物1〜4を付与し、常温(20〜30℃)、40℃、60℃で0〜12カ月保管し、これらを焼成した。プレカーサーの保管期間と得られた炭素繊維の物性を表1に示す。
【0058】尚油剤組成物1,2,3,4を用いたプレカーサーのポリアミノシロキサン付着量はそれぞれ1.25%、1.20%、1.23%、1.21%であった。
【0059】この結果から明らかな如く、本発明による油剤組成物3及び4と比較例1とでは大きな差があり比較例1の如き油剤組成物ではプレカーサーの経時劣化が著しく、生産直後に高性能を有していたプレカーサーであっても長期の保管に堪え難いものとなる。
【0060】1〜4の4種の油剤組成物を用い、生産後常温で12カ月経過した後耐炎化した耐炎化糸を、MEKを溶剤としてソックスレー抽出器で抽出し、抽出前後の耐炎化糸のポリアミノシロキサン量を測定した。この結果を表2に示す。油剤組成物1を用いたものは耐炎化工程でもポリアミノシロキサンがかなり減少するが、MEK抽出を行うと更に多くのポリアミノシロキサンが除去されてしまう。一方本発明による油剤組成物3及び4にあっては、耐炎化工程での逸散も少なく、MEK抽出を行っても耐炎化糸に付着しているポリアミノシロキサンの80%以上がMEKに溶解しないで残存している。
【0061】これは耐炎化のような高温下において比較例1の如き油剤組成物ではポリアミノシロキサンのゲル化よりも低分子化反応の方が優先しているためと考えられる。
【0062】比較例2の油剤組成物はMEK不溶分も多く、経時劣化もほとんどないが、本発明による油剤組成物3及び4に比べると20%水溶液の粘度も高く炭素繊維の強度も低めであった。この油剤組成物2はポリアミノシロキサンと乳化剤及び乳酸を加えて混練する際の粘性が非常に高いため、油剤組成物3及び4を混練するのに比べて3倍もの時間を要した。又プレカーサーの製造工程における120〜150℃の乾燥ローラー上の油剤の固着物の量は油剤組成物3及び4に対して油剤組成物2は約10倍も多かった。
【0063】実施例 2アミノ変性ポリシロキサン油剤と、これを乳化させるための乳化剤及びカルボン酸の組成及び粘度を低下させるためのアミノカルボン酸物質を変更した他は実施例1と同様にプレーカーサーを作成し同様に焼成した。但しプレカーサーは60℃で3カ月保管し、保管前後のプレカーサーから得られた炭素繊維の性能を比較し表3に示す。
【0064】表3から明らかな如く、乳化剤がリン酸エステル、スルホン酸エステル、硫酸エステルのような強酸性基を有するものは、MEK不溶分が少なく、プレカーサーの経時劣化が激しいために、60℃、3カ月経過後に得られた炭素繊維の強度低下が大きい(油剤組成物14〜17)。又酸化防止剤を添加しても経時劣化の防止には効果がないばかりか、むしろ経時劣化が加速される傾向にあることが判る(油剤組成物19,21)。一方本発明によるカルボン酸以外には、強酸性基を有しない油剤組成物では60℃で3カ月という苛酷な条件下でも炭素繊維の強度低下率は非常に僅かであり(油剤組成物5〜11)、これらのものは常温では1年経過しても実質的な経時劣化は認められない。
【0065】本発明による油剤組成物5〜11と比較例の油剤組成物18〜21との結果を見れば明らかな如く、強酸性基を有しない乳化剤に強酸性基を有する乳化剤を僅か10〜20%混合しただけでも、経時劣化は著しく加速され、強酸性基が経時劣化に悪影響していることが実証された。
【0066】一方油剤組成物12及び13は強酸性基を含んでいないので経時劣化防止効果はあるが、本発明の油剤組成物に比して水溶液の粘度が高く、炭素繊維の強度レベルも低い。
【0067】実施例 3アミノ基に由来する窒素の含有量が異なる(0.03〜2.5%)アミノ変性ポリシロキサン80部にPOE(9)ノニルフェノールエーテル20部とアミノ基と等モルの乳酸とを加えた油剤100部に対して、ジブチルエタノールアミンの酢酸塩を4.5部加えた油剤組成物を用いた他は実施例1と同様に作成したプレカーサーを、実施例1と同様に焼成して炭素繊維を得た。ここで用いたアミノ変性ポリシロキサンの25℃における粘度は1300〜5000センチストークスの範囲のものであり、プレカーサーに付与したアミノ変性ポリシロキサンの量は1.0〜1.2%である。
【0068】油剤組成物の20%水溶液の透明度及び得られた炭素繊維の強度は表4に示す。この結果から明らかな如くアミノ基に由来する窒素の含有量が2%を越えたり、或いは0.05%を下回るアミノ変性ポリシロキサンを用いると高強度炭素繊維は得られない。又窒素含有量が0.05%を下回ると透明性の良い水溶液が得られない。
【0069】実施例 4アクリロニトリル98%、メタアクリル酸2%からなる共重合体を紡糸しこれにアミノ基に由来する窒素の含有量が0.3〜0.5%であり25℃における粘度が150〜47820センチストークスであるアミノ変性ポリシロキサン70部にPOE(9)ラウリルエーテル30部と酢酸3部及びジブチルエタノールアミンの酢酸塩4.5部とを加えてなる油剤組成物を付与した6000フィラメント(単糸デニール0.8d)のプレカーサーを実施例1と同様に焼成して炭素繊維を得た。尚プレカーサーに付与したアミノ変性ポリシロキサンは1.0〜1.2%の範囲である。
【0070】これらの炭素繊維の強度を表5に示す。尚ここで用いた油剤組成物の20%水溶液の透明度は何れも90〜95%の範囲であった。
【0071】アミノ変性ポリシロキサンの粘度が低いものは耐炎化工程で単糸同志が融着しておりこのため炭素化工程で著しく脆化し炉内で切断が起こり満足な炭素繊維は得られなかった。少なくとも500センチストークス以上の粘度を有するアミノ変性ポリシロキサンが好結果を与えることが明らかとなった。
【0072】実施例 5アミノ基に由来する窒素が0.5%、25℃の粘度が1700センチストークスであるアミノ変性ポリシロキサン80部とPOE(9)ラウリルルフェノールエーテル20部の配合物に対して、添加するモノカルボン酸の種類と添加量を変えて作成した油剤組成物の20%水溶液の透明度を測定し表6に示す。
【0073】尚油剤組成物の粘度を低下させるために加えたジブチルエタノールアミンの酢酸塩の量は4.5部と一定である。
【0074】炭素数7以上のペラルゴン酸やラウリル酸及びジカルボン酸では乳化促進効果がなく、又モノカルボン酸とアミノ変性ポリシロキサンのアミンの配合モル比は0.3/1よりカルボン酸が少ないと極度に乳化性が低下する。又アミン1モルに対して5モル以上のカルボン酸を加えても乳化性は向上しないので無意味である。
【0075】実施例 6アミノ基に由来する窒素が0.4%、25℃の粘度が1500センチストークスであるアミノ変性ポリシロキサンとPOE(9)ノニルフェノールエーテル(乳化剤)との配合比を10/90〜90/10迄変化させたもの100部に対して、更にアミノ変性ポリシロキサンのアミンと当モルの乳酸を添加し、更にジブチルエタノールアミンの酢酸塩を4.5部を混合してなる油剤組成物の20%水溶液の透明度を測定して表7に示す。
【0076】アミノ変性ポリシロキサンと乳化剤の配合割合は80/20〜20/80の範囲が好適でありそれより乳化剤が少ないとモノカルボン酸を加えても透明性の良い油剤組成物の水溶液は得られない。一方この範囲以上に乳化剤を加えても透明性が向上しないので無意味である。
【0077】実施例 7アミノ基に由来する窒素が0.4%、25℃の粘度が1700センチストークスのアミノ変性ポリシロキサン80部とPOE(9)ノニルフェノールエーテル20部と酢酸2部及びアニリンの酢酸塩3部とからなる油剤組成物を0.05〜6.0%付与した以外は実施例1と同様に作成したプレカーサーを同様に焼成して炭素繊維を得た。この炭素繊維の強度は表8に示す。
【0078】尚プレカーサーに付与した油剤組成物の量はプレカーサーをソックスレー抽出器を用いMEKで1時間抽出し、抽出液を蒸発乾固して求めたものであるが、この値はプレカーサーを前述した比色分析で求めたアミノ変性ポリシロキサン量と油剤組成物中のアミノ変性ポリシロキサンの混合比率から計算で求めた油剤組成物量とほぼ同一の値であった。
【0079】プレカーサーに付与された油剤組成物が0.1%に満たない場合は、耐炎化工程での単糸同志の融着が起こり、それがために炭素化での脆化が激しく、炉内で切断し満足な炭素繊維が得られなかった。又油剤組成物を5%以上付与しても効果はなくむしろ炭素繊維の強度は低下傾向を示した。従ってプレカーサーに付与される油剤組成物の適正範囲は0.1〜5.0%でありより好ましくは0.5〜2.5%の範囲である。
【0080】実施例 8アミノ変性ポリシロキサンと他のポリシロキサンの混合系の油剤について調査するため、油剤組成物22〜28を調整して透明度、MEK不溶分を測定し、その結果を表9に示す。本発明の範囲である油剤組成物の20%水溶液の透明度が60%以上、MEK不溶分が30%以上という特性を保持をするためにはシリコーン油剤中のアミノ変性ポリシロキサンの比率が少なくとも50%以上でなければならないことが判る。アミノ変性ポリシロキサンがポリジメチルシロキサンより少ないものは微粒なエマルジョンが得られないために水溶液の透明度が低く、MEK不溶分が少なく、高強度炭素繊維用プレカーサー油剤としては不向きである。一方エーテル変性ポリシロキサンはそのもの自体が水溶性であるため、アミノ変性ポリシロキサンとの混合水溶液の透明度は高いものの、MEK不溶分がすくない。エーテル変性ポリシロキサン自体を230℃で1時間加熱すると約75%もの揮発分があり耐熱安定性に欠けることが判明した。
【0081】実施例 9実施例8の7種の油剤を用いた他は、実施例4と同様にして作成したプレカーサーを、実施例1と同様に焼成して炭素繊維を得た。又これらのプレカーサーを60℃で3カ月間保管し、経時劣化後のプレカーサーを再度同一条件で焼成して強度保持率を求めた。これらの結果は表10に示す。
【0082】ポリジメチルシロキサンやエーテル変性ポリシロキサンを多く加えた油剤を用いた場合、高強度炭素繊維が得られないばかりでなく、強度保持率も低いことが明らかであり、少なくともアミノ変性ポリシロキサンの比率は50%以上でなければならない。
【0083】


【0084】油剤名の組成
【0085】油剤1(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1500cs,チッソ含有量0.4%)/POE(9)ノニルフェノールホスフェート=2/1の混合物。
20%水溶液の透明度;98%。
20%水溶液の粘度;2.6cst。
MEK不溶分;6.5%。
平均粒子径;19.2mμ、最大粒子径;44mμ。
【0086】油剤2(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1500cs,チッソ含有量0.4%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル=2/1の混合物100部に対して乳酸3部を添加した油剤組成物。
20%水溶液の透明度;96%。
20%水溶液の粘度;28.5cst。
MEK不溶分;85.6%。
平均粒子径;20.2mμ、最大粒子径;92mμ。
【0087】油剤3(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1500cs,チッソ含有量0.4%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル=2/1の混合物100部に対して乳酸3部を添加したものにアミノエチルエタノールアミンの酢酸塩を1.5部加えた油剤組成物。
20%水溶液の透明度;93%。
20%水溶液の粘度;2.7cst。
MEK不溶分;83.0%。
平均粒子径;23.8mμ、最大粒子径;85mμ。
【0088】油剤4(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1500cs,チッソ含有量0.4%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル=2/1の混合物100部に対して酢酸2部と酸化防止剤(商品名 アデカスタブAO−23 アデカアーガス製)3部を添加したものにジブチルエタノールアミンの酢酸塩を4.5部加えた油剤組成物。
20%水溶液の透明度;93%。
20%水溶液の粘度;2.6cst。
MEK不溶分;80.1%。
平均粒子径;25.5mμ、最大粒子径;82mμ。
【0089】


【0090】


【0091】油剤名と組成
【0092】油剤5(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/酢酸=70/30/2の混合物102部にジブチルエタノールアミンの酢酸塩を4.5部加えた油剤組成物。
【0093】油剤6(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/酢酸=70/30/2の混合物102部にアニリンの酢酸塩を3部加えた油剤組成物。
【0094】油剤7(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/酢酸=70/30/2の混合物102部にベーターアラニンの酢酸塩を5部加えた油剤組成物。
【0095】油剤8(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ラウリルフェノールエーテル/酢酸=70/30/3の混合物103部にPOE(4)オクチルアミンの酢酸塩を3部を加えた油剤組成物。
【0096】油剤9(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/POE(9)sec−アルキル(炭素数12〜14混合)エーテル/乳酸=70/15/15/3の混合物103部にPOE(10)ラウリルアミンの酢酸塩6部を加えた油剤組成物。
【0097】油剤10(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(5)オクチルエーテル/乳酸=60/40/2の混合物102部にトリエチルオクチルアミンの酢酸塩8部を加えた油剤組成物。
【0098】油剤11(本発明);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ラウリル酸エステル/酢酸=67/33/3の混合物103部にジエチルオレイルイミダゾールの蟻酸塩7部を加えた油剤組成物。
【0099】油剤12(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(7)ノニルフェノールエーテル/酢酸=70/30/3の混合物。
【0100】油剤13(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(5)オクチルエーテル/乳酸=60/40/3の混合物。
【0101】油剤14(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールホスフェート=70/30の混合物。
【0102】油剤15(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールスルホネート=80/20の混合物。
【0103】油剤16(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(5)オクチルサルフェート=60/40の混合物。
【0104】油剤17(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)sec−アルキル(炭素数12〜14混合)ホスフェート=70/30の混合物。
【0105】油剤18(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/POEノニルフェノールホスフェート/酢酸=60/32/8/2の混合物。
【0106】油剤19(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/POEノニルフェノールホスフェート/酢酸=60/32/8/2の混合物102部に対して酸化防止剤( Sumilizer MDP−S 住友化学製)2部を添加したもの。
【0107】油剤20(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/POEノニルフェノールホスフェート/乳酸=60/36/4/3の混合物。
【0108】油剤21(比較例);ポリアミノシロキサン(粘度1700cs、チッソ含有量0.6%)/POE(9)ノニルフェノールエーテル/POEノニルフェノールホスフェート/乳酸=60/36/4/3の混合物103部に対して酸化防止剤( Sumilizer MDP−S 住友化学製)3部を添加したもの。
【0109】


【0110】


【0111】


【0112】


【0113】


【0114】


【0115】油剤名と組成実施例には次のものを用いた。
アミノ変性ポリシロキサン;粘度1700センチストークス,アミノ基に由来する窒素0.4%。
ポリジメチルシロキサン;粘度40000センチストークス。
エーテル変性ポリシロキサン;粘度4000センチストークス,POEの割合は約50%であり水溶性のもの。
乳化剤;POE(9)ノニルフェノールエーテル。
アミノカルボン酸;いずれの油剤に対してもジブチルエタノールアミンの酢酸塩を添加。
【0116】油剤22(本発明);アミノ変性ポリシロキサン/ポリジメチルシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=60/10/30/2/4.5の混合物。
【0117】油剤23(本発明);アミノ変性ポリシロキサン/ポリジメチルシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=40/30/30/2/4.5の混合物。
【0118】油剤24(本発明);アミノ変性ポリシロキサン/ポリジメチルシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=35/35/30/2/4.5の混合物。
【0119】油剤25(比較例);アミノ変性ポリシロキサン/ポリジメチルシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=25/45/30/2/4.5の混合物。
【0120】油剤26(本発明);アミノ変性ポリシロキサン/エーテル変性ポリシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=50/20/30/2/4.5の混合物。
【0121】油剤27(本発明);アミノ変性ポリシロキサン/エーテル変性ポリシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=35/35/30/2/4.5の混合物。
【0122】油剤28(比較例);アミノ変性ポリシロキサン/エーテル変性ポリシロキサン/乳化剤/酢酸/アミノカルボン酸=25/45/30/2/4.5の混合物。
【0123】


【0124】
【発明の効果】以上詳述した如く本発明は、特定組成のアミノ変性ポリシロキサンと強酸性基を有しないノニオン系乳化剤、モノカルボン酸及びアミノカルボン酸を必須成分とすることにより、油剤組成物水溶液の透明度を高めかつ粘性を低下せしめ更にプレカーサーの保管中に起こる経時劣化を防止することにより高性能炭素繊維用プレカーサーの工業生産を可能かつ容易にした。
【0125】更に本発明の油剤組成物を付与したプレカーサーが長期の保管後においてもその性能が保たれることにより、このプレカーサーを焼成して得られる高性能炭素繊維の工業生産がプレカーサーの生産スケジュールに影響されることなく、いつでも容易に行うことが可能となった意義は非常に大きいものである。
【0126】又油剤組成物の粘性が低いことは油剤の調合を容易にしたばかりでなく、プレカーサーの生産工程における乾燥ローラーの汚染を低減し、プレカーサーの工業生産性を高め、かつ粘性の低い油剤組成物がゆえにプレカーサーに均一に付与することが容易となり、より高強度の炭素繊維が得られる結果を生み出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アミノ基に由来する窒素の含有量が0.05〜2.0重量%の範囲にあり、25℃における粘度が500センチストークス以上であるアミノ変性ポリシロキサンを少なくとも50重量%以上含有するシリコーン油剤に、アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量の炭素数6以下の低級脂肪族モノカルボン酸を加えてなる油剤80〜20重量部と、ポリオキシエチンレアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル又はポリオキシエチレン脂肪酸エステルを主体とするノニオン系乳化剤20〜80重量部との混合物100重量部に対して、アルキルアミン、アリールアミンもしくはアルキルアリールアミンのカルボン酸塩、アミノ酸又はベタイン化合物のアミノカルボン酸物質を0.2〜10重量部含有することを特徴とする高性能炭素繊維用プレカーサー用油剤組成物。
【請求項2】 油剤組成物の20重量%水溶液の透明度が60%以上であることを特徴とする請求項1の油剤組成物。
【請求項3】 油剤組成物を230℃の空気中で60分間加熱した後、メチルエチルケトンで洗浄した際のポリシロキサンの不溶分が30重量%以上であることを特徴とする請求項1の油剤組成物。
【請求項4】 請求項1の油剤組成物を0.1〜5.0重量%付与したアクリロニトリルを90重量%以上含有するアクリロニトリル系炭素繊維用プレカーサーであって、前記プレカーサーを作成後直ちに焼成して得た炭素繊維の強度と、該プレカーサーを60℃の空気中で90日間保管した後において同一の焼成条件で焼成して得られる炭素繊維の強度を比較した場合、後者の炭素繊維強度が前者の炭素繊維強度の90%以上の強度を保持することを特徴とする高性能炭素繊維用プレカーサー。

【公開番号】特開平6−220722
【公開日】平成6年(1994)8月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−29722
【出願日】平成5年(1993)1月25日
【出願人】(591261107)住化ハーキュレス株式会社 (2)