説明

高所作業車の懸吊装置

【課題】車台,デッキとシザースリンク等から成る昇降機構を固定すると共に,懸吊手段と,前記固定手段ないしシザースリンク機構の伸張を規制する手段の構成及び動作を一体かつ,同期可能なものとして,簡単な作業で,安全に高所作業車を懸吊する。
【解決手段】シザースリンク機構によってデッキを昇降させる高所作業車において,前記デッキの下方位置に配置される最上段の左右のX字状リンクを同一平面上で連結する支軸に回動自在に,掛止部を設け,前記懸吊具は,掛止部に連結した係合面と係合端及び支軸を遊嵌する長穴から成る係合孔が形成され,前記係合孔は,前記係合孔内に遊嵌された前記支軸の外径分を除く,垂直方向の長さが,前記係合部が前記固定部に対して係合位置にある状態において,少なくとも前記係合部の前記係合面と前記固定部35下端間の垂直方向の距離を有するシザースリンク機構の伸張を規制する手段。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高所作業に用いられる高所作業車の懸吊装置,より詳しくは,車台上にシザースリンク又は,パンタグラフ状リンク機構からなる昇降手段を介して昇降するデッキを有する高所作業車の前記シザースリンク機構の伸張を規制して固定すると同時に,高所作業車をクレーンのフック等で懸吊することを可能とする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,例えば建築現場における天井施工,天井(天井裏を含む)及び壁面高所における照明取付工事あるいは塗装工事等のような高所作業では,足場を組立てて行っていたが,最近では作業の省力化と安全性を図るために,走行可能な車台上に昇降可能なデッキを設けてなる高所作業車が多用されている。
【0003】
かような高所作業車を建築現場へ搬入,搬出する際には,一般にトラックに積込んで運搬し,トラックへの積込み,積降ろしは,自走式のものでも,通常はクレーン等で吊り上げて行っている。
【0004】
本願出願人の開発に係る特許文献1記載の手段は,車台13とデッキ15との間に複数のX字状リンク16,17を配したシザースリンク機構を設け,該シザースリンク機構によって前記デッキ15を昇降させる高所作業車10で,張り出しデッキ又は延長デッキ15を採用する同文献記載の形態にあっては,懸吊具30の上方位置のデッキ床面に形成した開口部32から前記床面15a,15b(図2参照)上に少なくとも前記懸吊具30の掛止部31が突出したときに,前記デッキ15の下方位置に配置される最上段の左右のX字状リンク16d,17dを同一平面上で連結する左右のX字状リンクの交点を連結する支軸40を成す枢着軸20b又はこれを外嵌する軸管29bに懸吊具30を回動自在に設け,該懸吊具30は,上端に掛止部31と,下端に係合部34を形成し,かつ,前記懸吊具30の垂直位置において,前記掛止部31は,前記懸吊具30の上方位置のデッキ床面15a,15bに形成した開口部32から前記デッキ床面15a,15b上に突出する回動軌跡を有し,前記係合部34は,前記懸吊具の垂直位置及び前記デッキを下降した状態,例えば最下降位置において,前記最上段より下方に位置する,例えば,最下段の左右のX字状リンク16a,17aを同一平面上で連結する前記左右のX字状リンク16a,17aの交点を連結する枢着軸20aに嵌装する軸管29aで形成した固定部35に係合自在の回動軌跡を有する懸吊具から成るシザースリンク機構の伸張を規制する伸張規制手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2008−24509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の手段によれば,図8(A)〜(D)に示すように,伏倒している懸吊具30を回動し,起立させて懸吊具の係合部34を,下方に位置する枢着軸20aないしこれに嵌装した軸管29aに係合する際には,フック状の係合部34先端に設けた係合端344が該軸20aを乗越えて回動することとなるため,係合させる固定部35である前記枢着軸20aないし軸管29aの外周下端と,係合部34の係合面343との間に所定の間隙G2が生ずることとなる。この間隙G2を有する状態で懸吊具30の掛止部31のいずれかにクレーンのフックないしロープを連結し,高所作業車10を吊上げようとした場合,懸吊具30を回動自在に支持する支軸40を成す枢着軸20bとX字状リンク16,17が同期して上記係合部34の係合面343とこれが係合する固定部35とが係合するまで,すなわち,両部材間の前記間隙G2が無くなる時点迄上昇した後に,上記係合部34を介して高所作業車が吊上げられ始める。
【0007】
前記間隙が無くなる迄の間は,懸吊具30下方に位置する各シザースリンク16a〜16d及び17a〜17dも上方に引き上げられるため,各シザースリンク間に前記間隙G2に対応する間隙が生じる(同図(D))。
【0008】
また,一般的にバッテリーを含む約500kgの重量を有する高所作業車により,懸吊時,前記支軸40(枢着軸20b等)にも大きな負荷がかかることとなる。
【0009】
本発明は,車台13,デッキ15とシザースリンク16,17から成る昇降機構を固定すると共に,懸吊手段と,前記シザースリンク機構の伸張を規制する手段の構成及び動作を一体かつ,同期可能なものとして,簡単な作業で,高所作業車を懸吊することができると共に,吊上げ作業に際して,各シザースリンク16a〜16d及び17a〜17d間に間隙を生じない懸吊装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため,本発明の高所作業車の懸吊装置は,車台13とデッキ15との間に複数のX字状リンク16,17を配したシザースリンク機構を設け,該シザースリンク機構によって前記デッキ15を昇降させる高所作業車10において,
前記デッキ15の下方位置に配置される左右のX字状リンク16,17を同一平面上で連結する支軸40,すなわち,最上段の左右のX字状リンク16d,17dを同一平面上で連結する前記支軸40に懸吊具30を回動自在に設け,
該懸吊具30は,掛止孔311を有する掛止部31と,該掛止部31に連結した係合部34とから構成され,
該係合部34はフック状に曲率して成る係合面343と先端の係合端344を有し,さらに,前記係合部34は,前記支軸40を遊嵌する長穴(341)又はばか穴(342)から成る係合孔340が形成され,
前記懸吊具30を回動自在に設けた前記支軸40の下方から車台上のいずれかの位置において,懸吊時,前記係合面343を係合固定する固定部35を設け,さらに,
前記係合孔340は,前記係合孔内に遊嵌された前記支軸40の外径分を除く,垂直方向の長さG1が,前記係合部34が前記固定部35に対して係合位置にある状態において,少なくとも前記係合部34の係合面343と前記固定部35(29a,20a)下端間の垂直方向の距離G2を有するシザースリンク機構の伸張規制手段を備えることを特徴とするものである(請求項1)。
【0011】
前記固定部35は,最下段の左右のX字状リンク16a,17aを同一平面上で連結する枢着軸20a又はこれに嵌装した軸管29aにより形成することができ,あるいは,前記車台13上に,1対2組のブラケット36,36を立設し,それぞれのブラケット間を架橋するピン37,37に前記係合部34を係合自在に設け,前記懸吊具30の回動時,前記係合面343を係合自在とする固定部35を設けても良い(請求項2,3)。
【0012】
なお,図7に詳細が示されているが,前記係合部34の係合孔340近傍の外縁に,ストッパーを設けることができる。すなわち,懸吊具30を回動自在に設けた最上段の枢着軸20bないし該軸に外嵌した軸管29bから成る支軸40の中心と該最上段の枢着軸ないし該軸に外嵌した軸管から成る支軸40の直下方に位置する第2段の左右のX字状リンク16c,17cを連結する枢着軸20cないし該軸に外嵌した軸管29cの外周上端との距離を半径rとする円弧に対して外側に突出した半径Rとなる突起から成るストッパー50を形成することで,係合端344が,係合部34の揺動により,固定部35から離脱することを防ぐことが可能である。(請求項4)。
【0013】
かようにして,非懸吊時,伏倒している前記懸吊具30を回動し,起立させ,例えば,前記懸吊具30の上方位置のデッキ床面に形成した開口部32から前記床面15a,15b上に前記懸吊具30の掛止部31を突出させた位置において,前記係合部34の係合面343が,前記枢着軸20aないし軸管29aから成る固定部35あるいは,前記車台13に形成した固定部35に臨み,懸吊時,前記最上段の左右のX字状リンク16d,17dを同一平面上で連結する前記支軸40ないし,枢着軸20b又はこれを外嵌した軸管29bが前記係合部34の係合孔340の下端方向に相対的に移動すると共に,前記係合部34の係合面343が,実施形態において,前記下段の左右のX字状リンク16a,17aを同一平面上で連結する枢着軸20a(軸管29a)で形成され又は前記車台13に形成した前記固定部35に係合することによって,係合孔340と支軸40(軸管29b等)には,負荷をかけずに前記シザースリンク機構の伸張を規制し,高所作業車を懸吊する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,車台13,デッキ15とシザースリンク16,17等から成る昇降機構を固定すると共に,懸吊手段と,固定手段ないしシザースリンク機構の伸張を規制する手段の構成及び動作を一体かつ,同期可能なものとして,簡単な操作による作業で,懸吊準備と,機体固定とを同時に行って,高所作業車を安定して,各シザースリンク間に間隙を生ずることなく,安全に懸吊し,吊上げ作業中に作業者が誤って指を挟む事故を回避することができる。また,懸吊時,懸吊具30の係合孔340と,これを支持する支軸40(軸管29b等)に負荷をかけることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る懸吊装置を備えた高所作業車を示し,同図(A)及び(C)は,それぞれ一部切欠正面図及び側面図で懸吊初期を示す,同図(B)は,平面図,
【図2】同図(A)及び(C)は,それぞれ図1(A),(C)の部分拡大図で,同図(A)は,係合部が固定部に対して係合位置にある状態の懸吊具,同図(B)及び(C)は,懸吊初期で係合部が固定部に係合した状態の懸吊具を示す,
【図3】同実施形態におけるX字状リンクを伸張した状態の正面図,
【図4】他の実施形態における懸吊具の係合孔を示す部分拡大図で,同図(B)は,本実施形態における,懸吊初期で,係合部が固定部に係合した懸吊具の状態を示し,同図(A)は,懸吊具30の拡大図で,非懸吊時で,係合部が固定部に対して係合位置に回動した懸吊具の状態を示す,
【図5】他の実施形態における固定部及び懸吊具の関係を示す部分拡大図で,同図(A)及び(B)は,正面図及び側面図,同図(C)は,本実施形態における,懸吊初期で,係合部が固定部に係合した懸吊具の状態を示し,同図(D)は,懸吊具の拡大図で,懸吊初期で,係合部が固定部に係合した懸吊具の状態を示す,
【図6】係合部と掛止部の連結構造の他の実施形態を示す部分拡大断面図で,同図(A)及び(B)は,正面図及び側面図,
【図7】係合部と掛止部の連結構造の他の実施形態を示す部分拡大断面図で,同図(A)は,係合部が軸管に対して係止を解除する状態を示し,同図(B)は,非懸吊時における係合部が固定部に対して係合位置に回動した状態を示す,
【図8】従来の懸吊装置を備えた高所作業車を示し,同図(A)〜(C)は,懸吊初期で,係合部が固定部に係合した懸吊具の状態を示す,同図(A),(C)はそれぞれ一部切欠正面図及び側面図,同図(B)は,係合部が固定部の係合位置に回動した懸吊具の状態を示す,同図(D)は,懸吊初期で,係合部が固定部に係合した懸吊具の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
懸吊具による懸吊初期の状態を示す図1(A),(B)及び同図(C)において,高所作業車の機体10は,バッテリー等で自走可能なホイール式の走行機構12を有する車台13上にシザースリンクないし,パンタグラフ型リンク機構からなる昇降機構14を介して昇降するデッキ15を設けて構成されている。
【0018】
又,前記デッキ15上には防護柵45が設けられ,デッキ15の床面は,張り出しデッキ又は延長デッキを採用する図示の実施形態にあっては,第1床面15a及び第2床面15bの二重に構成されている。
【0019】
図3に示すように,昇降機構14は,デッキ15の幅方向側面に対応する機体10の同図紙面表裏に位置する左右両側(本明細書において「左右」という,同図紙面裏面側のX字状リンク17は,対称に表れる部材であり,図示省略し符号のみを示す)で,それぞれ前記デッキ15の幅方向側面の内外側に同一長さのアウターアーム162,172及びインナーアーム161,171としてX字状に交点を枢着された複数のX字状リンクから成る左右1対のX字状リンク16,17を複数段,ここでは,X字状リンクを1段として,4段(16a〜16d,17a〜17d)に枢着連結したもので,左右の各X字状リンク16,17を下段のX字状リンクの端縁と,上段のX字状リンクの端縁との連結部において,それぞれ下段の内側に位置するインナーアーム161と上段の外側に位置するアウターアーム162を,又,下段の外側に位置するアウターアーム162と上段の内側に位置するインナーアーム161を連結するように,左右のX字状リンク16,17を各ロッド21を介して回動自在に連結している。
【0020】
そして,詳細は図示省略するが,最下段のX字状リンク16a,17aのインナーアーム161の下端部が車台13の前端部に枢着され,最下段のアウターアーム162下端部が車台13の後部で機体10長手方向へ摺動自在に支持され,さらに,最上段のX字状リンク16d,17dのインナーアーム161上端部がデッキ15の後部にデッキ長手方向へ摺動可能に支持され,アウターアーム162の上端部は,デッキ15の前端部に枢着されている。
【0021】
図1(B)及び図3に示すように,張り出しデッキ又は延長デッキを採用する実施形態にあっては,デッキ15の第1床面15a及びこれに対して摺動し,デッキを拡張する第2床面15bには,前記2の床面が重畳位置で,前記懸吊具30が臨み,該懸吊具の回動起立時,そこから掛止部31が突出する開口部32が形成されこの開口部32には,蓋体33が二重に開閉自在に設けられている。
【0022】
そして,最下段のX字状リンク16a,17aの交点を,各アウターアーム及びインナーアームと共に連結する枢着軸20a上には,左右のインナーアームを連結し,前記枢着軸20aを外嵌する軸管29aを設け,該軸管29aにより前記デッキ15の最下降位置で,前記各X字状リンクを固定して,懸吊時に前記各X字状リンクが伸張して開かないようにするための後述の固定部35として配置される。
【0023】
又,図2(A)〜(C)は,係合部が固定部に対して係合位置にある懸吊初期の状態を示すもので,同図に示すように,最上段及び最下段の左右のX字状リンク16d,17d及び16a,17aの交点は,両X字状リンクを構成する各アウターアーム及びインナーアームと共に枢着軸20b,20aで連結されている。なお,中間段の左右のX字状リンク16b,17b及び16c,17cの交点は,左右それぞれ別々にインナーアームとアウターアームとをロッド21(図1(C),図7参照)で連結しても良いが,本実施形態では,第2段の左右のX字状リンク16c及び17cの交点は,両X字状リンクを構成する各アウターアーム及びインナーアームと共に枢着軸20cで連結されている。後述,懸吊動作の初期において,係合部34が固定部35から離脱する方向への回動を抑制するストッパー50を係止する機能のための構成となる。
【0024】
又,昇降機構は上下複数段に枢着して連結された左右一対の各X字状リンク16a〜16d,17a〜17dを垂直方向に移動させる油圧シリンダ19を備える。
【0025】
油圧シリンダ19は,最下段のX字状リンク16a,17aの左右のインナーアーム161,171にそれぞれ設けられたシリンダ取付用ブラケット26,26間に架設された枢軸にシリンダ19aが枢着され,その2段上方に位置するX字状リンク16c,17cの左右のインナーアーム161,171にそれぞれ設けられたシリンダ取付用ブラケット28,28間に架設された枢軸にピストンロッド19bが枢着されている。
【0026】
そして,前記油圧シリンダ19によって昇降機構が作動し,デッキ15が水平状態を保って昇降する。
【0027】
以下,さらに,本発明に係る前記シザースリンク機構の伸張を規制する伸張規制手段について,説明する。
【0028】
図2(A)〜図2(C)に示すように,前記昇降機構14の最上段の左右のX字状リンク16d,17dの交点を連結する支軸40を成す枢着軸20bには,機体10の重心の略垂直線上もしくはこれから均等に左右に延長した位置に懸吊具30が配置され,回動自在に取付けられる。該懸吊具30は,その上端をクレーン等のフックに掛止する,ここでは,掛止孔311(他には,フック状の掛止体)を有する掛止部31が形成されており,この掛止部31はデッキ15の床面15aの下方に位置している。そして,前記懸吊具30の下端は,掛止部31と一体に前記枢着軸20b上を回動するフック状の係合面343を有する係合部34,34が形成されている。
【0029】
図示の実施形態における懸吊具30は,前記枢着軸20bに対して回動自在にこの枢着軸に外嵌した支軸40たる,ここでは,円筒状の軸管29bを設け,前記軸管29bの軸心に対して直交方向に掛止部31を設けて該軸管に固着形成し,前記軸管29bの軸心に対して前記掛止部31と点対称の位置に,フック状板片から成る2の係合部34,34を設け,この係合部34,34を,支軸40を成す軸管29bの両軸端方向に等位置において固着形成している。
【0030】
図6(A),(B)は,2の係合部34,34の掛止部31への連結を前記軸管29bに代替して,2のコ字状板片から成る連結片42,43の開口面を対峙させ,係合部34,34を両端に固設した実施例を示すものである。かように,係合部34,34の掛止部31への連結手段は,上記実施例に限定されず,実施に応じて,種々の設計変更は任意である。
【0031】
なお,図示の実施形態では,係合部34は,支軸40を成す前述枢着軸20bないし,軸管29bにそれぞれ連結片42,43に対して2の板材を連結して構成しているが,当然ながら,相応の強度を有する1の板材で代替することができる。この場合,支軸上で係合部34が揺動しないよう枢着軸20b上にボスないしカラーを突設することもできる(図示省略)。
【0032】
そして,図2(A)〜(C)に示すように,固定部35たる軸管29aの下端と前記係合部34の係合面343間には,懸吊初期における垂直方向の距離G2が形成されることとなる。
【0033】
すなわち,前出特許文献1について述べたように,非懸吊時,懸吊具30を支軸40上で回動させて懸吊具の係合部34を下方に位置する枢着軸20aに係合する際には,係合部34先端に設けた係合後のフックが外れることを防ぐための係合面343から円弧状に中心方向に突出する係合端344が,該軸20aの外周を乗りこえて回動することとなるため,前記係合面343は,係合させる前記枢着軸20aないし軸管29a等固定部35の垂直方向下端との間に,所定の間隙G2が形成されることとなる(図7(B)参照)。
【0034】
本発明においては,懸吊時,上記間隙G2による懸吊具30下方に位置する各シザースリンク16a〜16d及び17a〜17d間の間隙が生じないように,前記係合部34は枢着軸20bないし軸管29bを遊嵌する係合孔340を,図2(A)に示す実施形態においては,懸吊時における垂直方向に長い,すなわち,実施形態においては,前記係合孔340内に遊嵌された支軸40の外径分を除く,垂直方向の長さG1が,少なくとも前記係合部34の係合面343と前記固定部35(29a,20a)下端間の垂直方向の距離G2と略同等の長さを有する。
【0035】
図4は,本発明装置における係合部34の係合孔340の他の実施例を示すもので,該係合孔340は,軸管20bの外径に対して,大径の円状(所謂ばか穴)に穿設形成されている。
【0036】
図7(B)において,符号50はストッパーで,該ストッパー50の先端は,支軸40を成す,最上段の枢着軸20bないし該軸に外嵌した軸管29bの中心と前記軸管29bの直下方に位置する第2段の左右のX字状リンク16c(,17c)を連結する枢着軸20cないし軸管29cの上端との距離を半径rとする円弧に対して外側に突出した半径Rを有する突起から成るストッパー50を形成する。
【0037】
これにより,同図に示す非懸吊時に,懸吊具30が,図中反時計方向へ回動させ,懸吊具30の係合部34に形成した凹部51が前記軸管29cの同図右方の外周円弧部に外嵌し,前記外周に前記ストッパー50の突部が,懸吊具の重量も相俟って,前記軸管29cの外周に載置固定されるように係止されるため,懸吊作業の初期において懸吊具30が揺動して,係合部34が前記軸管29cの外周から外れることを防止し,懸吊具30の起立状態を維持する。
【0038】
一方,非懸吊時ないし運転時,懸吊具30の係合部34を,前記軸管29cから成る固定部35から外す場合には,同図(A)に示すように,懸吊具30を係合部34の係合孔340(長穴341)に沿って同図上方へ引き上げると共に図中時計方向へ回転させ,ストッパー50が第2段の左右のX字状リンク16c(,17c)を連結する前記枢着軸20cないし軸管29cの外周上端を乗り越えるようにすればよい。
【0039】
なお,前記固定部35は最下段のX字状リンク16a,17aの左右のインナーアームを連結する軸管29aに限らず,油圧シリンダ19と干渉しない範囲で,最下段のX字状リンク16a,17aと最上段のX字状リンク16d,17dとの間の中間段のX字状リンク16b,17b(,又は16c,17c)の左右のインナーアームを連結する図示せざる軸管を設け,この軸管により固定部35を形成してもよい。
【0040】
図5(A)〜(D)に示す実施形態では,固定部35は,車台13に設けられている。
【0041】
この固定部35は,車台13上に1組のブラケット36,36を左右それぞれ一対に立設し,それぞれのブラケット間を架橋するようにピン37,37が架設されている。懸吊具30の係合部34は係合端344から車台13に設けた前記固定部35のピン37,37に係合する。
【0042】
本実施形態は固定部35を車台13に設けているが,前記懸吊具を回動自在に設けた支軸の下方に位置する何れか1段の左右のX字状リンクを同一平面上で連結する枢着軸に前記ブラケット36,36及びピン37,37から成る固定部35を設けても良い。
【0043】
機体10をクレーン等で吊り上げる場合には,昇降機構14を縮めてデッキ15を最下降位置に位置させ,ついで,デッキ15の床面15a(,15b)の蓋体33を開放し,懸吊具30を回動し,掛止部31の長手方向の端部を開口部32から床面上に突出させる(図1参照)。
【0044】
この懸吊具30の回動と同時に,係合部34が回動し,X字状リンク16a,17a間に架設した固定部35を成す軸管29aの外周を係合部34のフック状先端で成る係合端344が乗りこえて,係合面343が前記軸管29aの外周下端に対峙する(図2(A))。前述のように,この状態で間隙G2が存在している。
【0045】
そして,懸吊具30の掛止部31にクレーン等のフックを掛止して吊り上げると,係合部34の係合孔340内で,前記軸管29が相対的に垂直方向下方に移動し,これに伴って,前記懸吊具30の係合部34の係合面が,固定部35を成す軸管29aの外周に係合する。
【0046】
かようにして,高所作業車を懸吊することにより,前記係合部34と,固定部35との係合は一層強固なものとされ,前記シザースリンク機構の伸張を規制し,係合孔340と軸管29b等の支軸40に,負荷をかけることなく,かつ,X字状リンク間に間隙を生ずることなく,懸吊具30は,機体10を略重心位置で,懸吊し,機体10は略水平状態で吊り上げられる。
【符号の説明】
【0047】
10…高所作業車(機体)
12…走行機構
13…車台
14…昇降機構
15…デッキ
15a,15b…第1,第2床面
16(a〜d),17…左右のX字状リンク
161…左のX字状リンクを成すインナーアーム
162…左のX字状リンクを成すアウターアーム
171…右のX字状リンクを成すインナーアーム
172…右のX字状リンクを成すアウターアーム
19…油圧シリンダ
20a,20b,20c…枢着軸
21…ロッド
26…連結部材
28…連結部材
27…シリンダ
29a,29b,29c,291b,292b,292b…軸管
30…懸吊具
31…掛止部
311(,311)…掛止孔
32…開口部
33…蓋体
34…係合部
340…係合孔
341…長穴
342…ばか穴
343…係合面
344…係合端
35…固定部
36,36…ブラケット
37,37…ピン
40…支軸(軸管29b;291b,292b;,枢着軸20b)
41…ブラケット
42,43…連結片
45…防護柵
50…ストッパー
51…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台とデッキとの間に複数のX字状リンクを配したシザースリンク機構を設け,該シザースリンク機構によって前記デッキを昇降させる高所作業車において,
前記デッキの下方位置に配置される左右のX字状リンクを同一平面上で連結する支軸に懸吊具を回動自在に設け,
該懸吊具は,掛止孔を有する掛止部と,該掛止部に連結した係合部と,該係合部の先端が曲率して成る係合面と係合端を有し,さらに,
前記懸吊具を回動自在に設けた前記支軸の下方から前記車台上のいずれかの位置において,懸吊時,前記係合面を係合固定する固定部を設けると共に,
前記係合部は,前記支軸を遊嵌する係合孔が形成され,
該係合孔は,前記係合孔内に遊嵌された前記支軸の外径分を除く,垂直方向の長さが,前記係合部が前記固定部に対して係合位置にある状態において,少なくとも前記係合部の前記係合面と前記固定部下端間の垂直方向の距離を有して成る前記シザースリンク機構の伸張規制手段を備えることを特徴とする高所作業車の懸吊装置。
【請求項2】
前記固定部は,最下段の左右のX字状リンクを同一平面上で連結する枢着軸又はこれに嵌装した軸管により形成することを特徴とする請求項1記載の高所作業車の懸吊装置。
【請求項3】
前記固定部は,前記車台上に,1組のブラケットを立設し,それぞれのブラケット間を架橋するピンに前記係合部を係合自在に設けたことを特徴とする請求項1記載の高所作業車の懸吊装置。
【請求項4】
前記係合部の係合孔近傍の外縁に,懸吊具を回動自在に設けた最上段の枢着軸ないし該軸に外嵌した軸管から成る支軸の中心と該最上段の枢着軸ないし該軸に外嵌した軸管から成る支軸の直下方に位置する第2段の左右のX字状リンクを連結する枢着軸ないし該軸に外嵌した軸管の上端との距離を半径とする円弧に対して外側に突出したストッパーを形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の高所作業車の懸吊装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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