説明

高架橋における構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法

【課題】 RC高架橋から発生する構造物音の対策位置を決定するとともに、それを用いて構造物音を低減する。
【解決手段】本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法は、まず、構造物音低減の対象となる高架橋の上部工近傍で車両走行に伴う発生音を計測して騒音となる周波数を騒音周波数として特定する一方(ステップ101〜102)、上部工を構成する板状部材の振動特性を、該板状部材の固有振動数及び該固有振動数に対応した振動モードの複数組からなる振動特性データ群として評価し(ステップ103)、該振動特性データ群と騒音周波数とを照合することで、騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを特定し(ステップ104)、該振動モードで板状部材が最大振幅となる部位を対策位置として決定する(ステップ105)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄道用の高架橋に適用される構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の鉄道車両が高架橋を通過する際、列車周辺の空気の乱れによる空力音、列車の駆動音、軌道の振動による転動音といった様々な音が発生するが、かかる音は、近隣に伝播して騒音被害を招く原因となる。
【0003】
これらのうち、高架橋を構成する構造部材に伝達した振動に起因する音は構造物音と呼ばれており、鋼製の鉄道高架橋については従来からさまざまな騒音対策がとられてきた。
【0004】
かかる状況下、昨今の新幹線の速度向上に伴い、鋼製の高架橋よりも構造物音が小さいとされてきた鉄筋コンクリート製(以下、RC)の高架橋についても、騒音被害の拡大が懸念されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−032165号公報
【特許文献2】特開2000−160510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人の研究により、RC高架橋の場合、ラーメン高架橋においては中間スラブや張出スラブ、桁橋では中間スラブや張出スラブあるいは主桁のウェブが構造物音の主たる発生源であり、かかる構造部材の板振動が騒音の原因となることがわかってきた。
【0007】
しかしながら、どの部位に対策を施せばよいのか、有効かつ合理的な対策が未だ提案されていないのが現状であり、周辺への騒音低減を含めた環境対策として、RC高架橋の構造物音対策が急務となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、RC高架橋から発生する構造物音の対策位置を決定することが可能な高架橋における構造物音の対策位置決定方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、それを用いて構造物音を低減可能な高架橋における構造物音の低減方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法は請求項1に記載したように、構造物音低減の対象となる高架橋の上部工近傍で車両走行に伴う発生音を計測して騒音となる周波数を騒音周波数として特定し、
前記騒音周波数の特定工程と同時に又は相前後して、前記上部工を構成する板状部材の振動特性を、該板状部材の固有振動数及び該固有振動数に対応した振動モードの複数組からなる振動特性データ群として評価し、
該振動特性データ群と前記騒音周波数とを照合することで騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを推定し、
該振動モードで前記板状部材が最大振幅となる部位を対策位置として決定するものである。
【0011】
また、本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法は、前記板状部材に複数の加速度計を面状に配置し、該複数の加速度計で車両通過時の振動又はハンマー打撃による振動を計測することで、前記板状部材の振動特性を評価するものである。
【0012】
また、本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法は、前記高架橋を鉄道用RCラーメン高架橋とするとともに、前記板状部材を中間スラブ又は張出スラブとするものである。
【0013】
また、本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法は、前記高架橋を鉄道用RC桁橋とするとともに、前記板状部材を中間スラブ、張出スラブ又は主桁ウェブとするものである。
【0014】
また、本発明に係る高架橋における構造物音の低減方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の高架橋における構造物音の対策位置決定方法において、前記対策位置に振動抑制手段を設置するものである。
【0015】
また、本発明に係る高架橋における構造物音の低減方法は、前記振動抑制手段を、補剛材、ダンパー又はTMDとするものである。
【0016】
背景技術でも述べた通り、昨今は新幹線の速度向上に伴い、RC高架橋からの構造物音に起因する騒音の低減が急務となっていたが、構造物音について本出願人が調査研究を行ったところ、高架橋の上部工を構成する板状部材が列車走行時に板振動し、その板振動が騒音の原因になっていることが判明した。
【0017】
しかし、さらに調査研究を行ったところ、騒音の原因となる板振動のモードは、低次モードとは限らず、高次モードであることが少なくないことも判明した。そのため、最大振幅となる箇所の特定ができず、対策を施すことが困難となっていた。
【0018】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、本発明を実施するにあたっては、まず、構造物音低減の対象となる高架橋の上部工近傍で、列車に代表される車両の走行に伴う発生音を計測する。計測は、集音マイクを用いて行えばよい。
【0019】
次に、計測された発生音を周波数分析し、騒音となる周波数を特定する。発生音には、構造物音のほか、空力音や車両の駆動音あるいは転動音が混在しているので、これらの点を考慮しつつ、構造物音が原因となっている周波数を特定し、これを騒音周波数とする。
【0020】
一方、高架橋の上部工を構成する板状部材の振動特性を評価する。板状部材の振動特性は、該板状部材の固有振動数とその固有振動数に対応した振動モードの複数組からなる振動特性データ群として評価する。
【0021】
次に、評価された振動特性と騒音周波数とを照合することにより、騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを推定する。例えば、騒音周波数が60Hzであった場合、上述した振動特性データ群から固有振動数が60Hz近傍のものを選び出せば、その選び出された固有振動数に対応する振動モードが、騒音原因となっている板振動の振動性状であると推定できる。
【0022】
次に、その振動モードで板状部材が最大振幅となる部位、いわゆる振動の腹を対策位置として決定する。
【0023】
このようにすれば、実際に騒音の原因となっている振動モードの最大振幅部位を対策位置として定めることができるため、経済性に優れた合理的な騒音対策が可能となる。
【0024】
なお、対策位置が決定された後は、該対策位置に振動抑制手段を設置することにより、構造物音の低減を図ることができる。振動抑制手段は、対策位置における振動を抑制できるものであればその構成は任意であって、例えば対策位置における板状部材の面外剛性(せん断剛性、曲げ剛性)を高める、面外振動の減衰を高める、面外振動の振動を他の振動で相殺するといった対策が可能であり、具体的にはそれぞれ、補剛材を設置し、ダンパーを設置し、あるいはTMD(Tuned Mass Damper)を設置するようにすればよい。
【0025】
振動特性データ群として板状部材の振動特性を評価するには、例えばFEM等による数値解析を行うことで可能であるが、実測で行う場合には、前記板状部材に複数の加速度計を面状に配置し、該複数の加速度計で車両通過時の振動又はハンマー打撃による振動を計測する方法を採用することができる。
【0026】
本発明でいう高架橋とは、柱や橋脚によって地盤面よりも高い位置に設置される橋を意味するものとし、構造上の分類としては、少なくともラーメン高架橋と桁橋を含むものとする。また、狭義には地上に架けられた橋のみを高架橋と呼ぶ場合もあるが、本発明においては、地上(陸上)のみならず、河川や湾を横断する橋も含むものとする。
【0027】
本発明の高架橋は、主として列車、特に新幹線等の高速列車が車両として走行する場合を想定しており、鉄道用RCラーメン高架橋及び鉄道用RC桁橋への適用が最適である。ここで、前者における板状部材は、中間スラブ又は張出スラブとなり、後者における板状部材は、中間スラブ、張出スラブ又は主桁ウェブとなる。
【0028】
但し、本発明は、大型トラック等の自動車が車両となる道路用高架橋にも適用が可能であるとともに、RCのみならず鋼製の高架橋にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法の実施手順を示したフローチャート。
【図2】騒音周波数を特定する際に用いる発生音の計測結果を示したグラフ。
【図3】構造物音の低減対象となるRCラーメン高架橋の図であり、(a)は橋軸方向から見た断面図、(b)はA−A線方向から見た矢視図。
【図4】中間スラブの振動特性を評価する場合の加速度計の配置状況を示した平面図。
【図5】中間スラブにおける振動特性の評価結果を示した図。
【図6】張出スラブにおける振動特性の概要を示した図であり、(a)は解析モデル図、(b)は、9Hzにおける振動モード図、(c)は21Hzにおける振動モード図。
【図7】中間スラブに対して施された対策工を示した図であり、(a)は橋軸方向から見た断面図、(b)はB−B線方向から見た矢視図。
【図8】張出スラブに対して施された対策工を示した図であり、(a)は橋軸方向から見た断面図、(b)はC−C線方向から見た矢視図。
【図9】構造物音の低減対象となるRC桁橋の図であり、(a)は橋軸方向から見た断面図、(b)はD−D線方向から見た矢視図。
【図10】RC桁橋に対して施された対策工を示した図であり、(a)は橋軸方向から見た断面図、(b)はE−E線方向から見た矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図1は、本実施形態に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法の実施手順を示したフローチャートである。同図でわかるように、本実施形態に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法及びそれを用いた構造物音の低減方法においては、まず、構造物音低減の対象となる高架橋をRCラーメン高架橋とし、該RCラーメン高架橋の上部工近傍で列車走行に伴う発生音を計測する(ステップ101)。
【0032】
計測は、集音マイクを用いて行えばよい。
【0033】
次に、計測された発生音を周波数分析し、騒音となる周波数を特定する(ステップ102)。発生音には、構造物音のほか、空力音や列車の駆動音あるいは転動音が混在しているので、これらの点を考慮しつつ、構造物音が原因で騒音となる周波数を特定し、これを騒音周波数とする。
【0034】
図2は、RCラーメン高架橋の上部工裏面において計測された新幹線通過時の発生音の音圧レベルを示したものである。計測は、走行速度が異なる3ケースについて行った。なお、走行速度は、V3,V2,V1の順に大きい。
【0035】
同グラフでわかるように、列車速度がV2,V1の場合、20Hz,63Hz付近に発生音のピークが認められ、列車速度がV3の場合、63Hz付近に発生音のピークが認められる。
【0036】
ここで、20Hz及び63Hzは、構造物音に起因する発生音と考えられ、20Hz近傍の発生音は、人間の耳で聞き取ることができる可聴範囲の下限付近であるため、直接的な騒音とはならないまでも、障子、窓、とびら等の建具を振動させてがたつき音を発生させる被害が懸念され、63Hz近傍の発生音は騒音としての被害が懸念される。
【0037】
本実施形態では、超低周波音と言われる20Hzを含めて、列車速度がV1,V2の場合の騒音周波数を20Hz及び63Hz、列車速度がV3の場合の騒音周波数を63Hzと特定する。
【0038】
次に、ステップ101〜102とは別に、発生音の計測対象となったRCラーメン高架橋の上部工を構成する板状部材の振動特性を評価する(ステップ103)。
【0039】
図3に示すようにRCラーメン高架橋1は、対向配置された柱2,2の頭部に橋軸直交方向に横梁3を架け渡すとともに、橋軸方向に沿って3スパンとなるように列状に配置された柱2の頭部に縦梁4を架け渡すことで、下部工としてのラーメン架構5が構成されるとともに、該ラーメン架構で上部工6を支持してなる構造物であるが、該上部工のうち、列車が走行する軌道が敷設されたスラブ7が板状部材として構造物音を発生する。
【0040】
スラブ7は、縦梁4と横梁3で囲まれた平面矩形領域の上方に位置する中間スラブ8と該中間スラブから縦梁4,4の側方にそれぞれ延設された一対の張出スラブ9,9とからなり、かかる中間スラブ8及び張出スラブ9,9に対してそれぞれ振動特性を評価する。
【0041】
ここで、中間スラブ8の振動特性を評価するにあたっては、図4に示すように、複数の加速度計41を面状、本実施形態では平面格子状となるように中間スラブ8に配置する。加速度計41は、列車の走行に差し支えない限り、中間スラブ8の上面に配置してもよいし、下面に配置してもかまわない。
【0042】
次に、列車通過時における中間スラブ8の板振動を加速度計41で計測し、次いで、該加速度計で得られた計測データを周波数領域で演算処理することにより、中間スラブ8の固有振動数及び該固有振動数に対応した振動モードの複数組からなる振動特性データ群を得る。
【0043】
図5は、中間スラブ8の振動特性データ群のうち、主要な固有振動数とそのときの振動モードを描いたものである。
【0044】
同図でわかるように、中間スラブ8の振動特性は、橋軸方向のスパン長をLとしたとき、固有振動数が22.8Hzのときに板中央付近(L/2近傍)が振動の腹となる振動モード(同図(a))が現れ、固有振動数が61.6Hzのときに各横梁からL/4近傍の2ヶ所が振動の腹となる振動モード(同図(b))が現れ、固有振動数が72.4Hzのときに各横梁からL/6近傍と中央付近(L/2近傍)の3ヶ所が振動の腹となる振動モード(同図(c))が現れることがわかる。
【0045】
一方、張出スラブ9,9については、FEM解析で振動特性で評価した。図6(a)は、FEM解析を行う際のモデル図、同図(b),(c)は、その結果を示したグラフである。同図(b),(c)では、張出スラブ9,9とともに中間スラブ8の結果も併せて示してあるとともに、上部工6の高欄部分は省略してある。
【0046】
同図でわかるように、張出スラブ9,9の振動特性は、固有振動数9Hzのとき(同図(b))、3スパン全体が同一方向に折れ曲がる振動モードが現れ、固有振動数21Hzのとき(同図(c))、3スパンが互い違いに折れ曲がる振動モードが現れることがわかる。
【0047】
次に、振動特性データ群と騒音周波数とを照合することで騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを推定する(ステップ104)。
【0048】
騒音周波数は上述したように、列車速度がV1,V2の場合、20Hz及び63Hzと特定されているので、中間スラブ8については、図5に示した振動特性との比較により、騒音の原因となっているのは、固有振動数が22.8Hzのときの振動モードと、固有振動数が61.6Hzのときの振動モードであると推定できる。
【0049】
同様に列車速度がV3の場合、騒音周波数は63Hzと特定されているので、騒音の原因となっているのは、固有振動数が固有振動数が61.6Hzのときの振動モードであると推定できる。
【0050】
一方、張出スラブ9,9については、列車速度がV1,V2の場合、図6に示した振動特性との比較により、騒音の原因となっているのは、固有振動数が21Hzのときの振動モードであると推定できる。なお、列車速度V3の場合、騒音周波数63Hzに対応する固有振動数が張出スラブ9,9の振動特性では現れていないため、かかる騒音周波数については、張出スラブ9,9の振動が構造物音となって騒音被害を招くことはないと推定できる。
【0051】
列車速度V1〜V3のうち、いずれを対象とするかは、RCラーメン高架橋1を走行する列車の走行速度を勘案して適宜決定すればよい。
【0052】
上記結果を踏まえ、列車速度がV1,V2である場合、中間スラブ8については、固有振動数が22.8Hzのときの振動モードと、固有振動数が61.6Hzのときの振動モードで最大振幅となる位置を対策位置として決定する(ステップ105)。
【0053】
上述したように、22.8Hzの振動モードで振動の腹となっているのは板中央付近(L/2近傍)で、61.6Hzの振動モードで振動の腹となっているのは各横梁からL/4近傍の2ヶ所であるので、板中央付近(L/2近傍)と各横梁3からL/4近傍、計3ヶ所を対策位置と決定する。
【0054】
また、張出スラブ9,9については、固有振動数が21Hzのときの振動モード(図6(c))で最大振幅となる位置を対策位置として決定する。上述したように、21Hzの振動モードは、各スパンが互い違いに上下に振動するモードであって、振動の腹となっているのは各スパン中央近傍であるので、各スパン中央付近(L/2近傍)を対策位置と決定する。
【0055】
一方、列車速度がV3である場合、中間スラブ8については、固有振動数が61.6Hzのときの振動モードで最大振幅となる位置を対策位置として決定する。上述したように、61.6Hzの振動モードで振動の腹となっているのは各横梁からL/4近傍の2ヶ所であるので、これら2ヶ所を対策位置と決定する。なお、張出スラブ9,9については上述したように対策を施す必要はない。
【0056】
このようにして対策位置が決定されたならば、その位置に振動抑制手段を適宜設置する(ステップ106)。
【0057】
図7は、列車速度がV1,V2の場合を例として、中間スラブ8における3ヶ所の対策位置に振動抑制手段としての補剛材71をそれぞれ設置した例を示したものである。補剛材71は、その各端を縦梁4,4の内側側面に連結するとともに、その上面を中間スラブ8の下面に固着すればよい。
【0058】
図8は、やはり列車速度がV1,V2の場合を例として、張出スラブ9,9における各3ヶ所の対策位置に振動抑制手段としての補剛材81をそれぞれ設置した例を示したものである。補剛材81は、その一端を縦梁4の外側側面に連結するとともに、それらの上面を張出スラブ9の下面に固着すればよい。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る高架橋における構造物音の対策位置決定方法によれば、実際に騒音の原因となっている振動モードの最大振幅部位を対策位置として定めることができるため、経済性に優れた合理的な騒音対策が可能となる。
【0060】
また、本実施形態に係る高架橋における構造物音の低減方法によれば、対策位置が決定された後、該対策位置に補剛材71や補剛材81を設置することにより、中間スラブ8や張出スラブ9,9の振動を抑制して該スラブ振動に起因する構造物音の低減を図ることが可能となる。
【0061】
本実施形態では、列車走行に伴う振動を加速度計41で計測し該実測データから中間スラブ8の振動特性を評価する一方、張出スラブ9,9については、FEM解析での振動特性を評価するようにしたが、これは2つの手法を選択的に採用できることを示すための説明の便宜であり、これらの手法に代えて、中間スラブ8及び張出スラブ9,9の振動特性をいずれもFEM解析で評価するようにしてもよいし、逆に両方とも加速度計を用いた実測データによって評価するようにしてもかまわなない。
【0062】
なお、張出スラブ9,9の振動特性を加速度計41を用いて行う場合も、中間スラブ8と同様、列車走行に支障がないように、該スラブの上面又は下面に面状、例えば平面格子状に加速度計41を適宜配置すればよい。
【0063】
また、加速度計を用いた評価についても、列車走行に伴う振動の計測データに代えて、ハンマー打撃に伴う振動の計測データに基づいて振動特性を評価するようにしてもかまわない。
【0064】
また、本実施形態では、振動抑制手段として補剛材を用いた例を説明したが、対策位置における振動を抑制する手段は任意であり、例えば補剛材に代えて、ダンパーやTMDを採用することが可能である。
【0065】
ダンパーを用いる場合は、例えば油圧ダンパーの一端を、上述した対策位置に連結するとともに、他端を柱に連結するようにすればよい。また、TMDを用いる場合には、騒音の原因となる固有振動数と同一又はその近傍の振動数を固有振動数とするバネと板状部材の数%程度の重量を持つ一質点系振動モデルからなるTMDを製作し、該TMDを上述した対策位置に設置すればよい。
【0066】
かかる構成においても、中間スラブや張出スラブといった板状部材の振動を抑制して該部材に起因する構造物音を低減することができる。
【0067】
また、本実施形態では、RCラーメン高架橋1に本発明を適用した例として説明したが、本発明は、RCラーメン高架橋に限定されるものではなく、例えば図9に示したRC桁橋にも適用することが可能である。
【0068】
RC桁橋91は同図(a)に示すように、地盤に立設された橋脚92に上部工93が架け渡されてなり、該上部工は、スラブ94と該スラブを支持する4本の主桁95からなる。
【0069】
スラブ94は、主桁95,95で挟まれた上方に位置する3つの中間スラブ96と、該中間スラブの側方に延設された張出スラブ97,97とからなり、中間スラブ96、張出スラブ97,97及び主桁95のウェブ98が板状部材となって構造物音を発生する。
【0070】
したがって、RC桁橋91に対して構造物音の対策位置を決定するには、RCラーメン高架橋1と同様、まず、RC桁橋91の上部工近傍で列車走行に伴う発生音を計測し、該計測された発生音を周波数分析することで、騒音となる周波数を特定する(ステップ101〜102参照)。
【0071】
次に、かかる騒音周波数の特定工程とは別に、RC桁橋91の上部工を構成する板状部材、すなわち、中間スラブ96、張出スラブ97,97及び主桁95のウェブ98の各振動特性をそれぞれ評価する(ステップ103参照)。
【0072】
中間スラブ96及び張出スラブ97については、上述した実施形態の中間スラブ8及び張出スラブ9,9と同様にそれらの振動特性を評価すればよい。一方、主桁95は、そのウェブ98が面外方向に振動して構造物音の原因となるので、中間スラブ96や張出スラブ97とは異なり、振動方向が水平方向になるが、その点を除いては、中間スラブ等と同様な手順で振動特性を評価すればよい。
【0073】
図9(b)は、主桁95のウェブ98の側面に加速度計41を平面格子状に配置した様子を示したものである。
【0074】
以下、上述した実施形態と同様、得られた振動特性データ群と騒音周波数とを照合することで、騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを上述の実施形態と同様に推定し(ステップ104参照)、次いで、その振動モードで最大振幅となる位置を対策位置として決定する(ステップ105参照)。
【0075】
対策位置が決定されたならば、その位置に上述の実施形態と同様、振動抑制手段を設置する(ステップ106参照)。
【0076】
図10は、3つの中間スラブ96、張出スラブ97,97及び主桁95のウェブ98への対策位置が全て、橋端からL/4(L;スパン長)であった場合の対策位置に、振動抑制手段としての補剛材101を設置した様子を示したものである。
【符号の説明】
【0077】
1 RCラーメン高架橋(高架橋)
6 上部工
7 スラブ(板状部材)
8 中間スラブ(板状部材)
9 張出スラブ(板状部材)
41 加速度計
71 補剛材(振動抑制手段)
81 補剛材(振動抑制手段)
91 RC桁橋(高架橋)
93 上部工
94 スラブ(板状部材)
95 主桁
96 中間スラブ(板状部材)
97 張出スラブ(板状部材)
98 主桁のウェブ(板状部材)
101 補剛材(振動抑制手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物音低減の対象となる高架橋の上部工近傍で車両走行に伴う発生音を計測して騒音となる周波数を騒音周波数として特定し、
前記騒音周波数の特定工程と同時に又は相前後して、前記上部工を構成する板状部材の振動特性を、該板状部材の固有振動数及び該固有振動数に対応した振動モードの複数組からなる振動特性データ群として評価し、
該振動特性データ群と前記騒音周波数とを照合することで騒音の原因となる固有振動数及びその振動モードを特定し、
該振動モードで前記板状部材が最大振幅となる部位を対策位置として決定することを特徴とする高架橋における構造物音の対策位置決定方法。
【請求項2】
前記板状部材に複数の加速度計を面状に配置し、該複数の加速度計で車両通過時の振動又はハンマー打撃による振動を計測することで、前記板状部材の振動特性を評価する請求項1記載の高架橋における構造物音の対策位置決定方法。
【請求項3】
前記高架橋を鉄道用RCラーメン高架橋とするとともに、前記板状部材を中間スラブ又は張出スラブとする請求項1又は請求項2記載の高架橋における構造物音の対策位置決定方法。
【請求項4】
前記高架橋を鉄道用RC桁橋とするとともに、前記板状部材を中間スラブ、張出スラブ又は主桁ウェブとする請求項1又は請求項2記載の高架橋における構造物音の対策位置決定方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の高架橋における構造物音の対策位置決定方法において、前記対策位置に振動抑制手段を設置することを特徴とする高架橋における構造物音の低減方法。
【請求項6】
前記振動抑制手段を、補剛材、ダンパー又はTMDとする請求項5記載の高架橋における構造物音の低減方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−106242(P2011−106242A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265749(P2009−265749)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】