説明

高流動モルタル用白華防止剤及び高流動モルタル

【課題】本発明の目的は、高流動モルタル用の白華防止剤及び白華の発生しにくい高流動モルタルを提供することにある。
【解決手段】(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)無水石膏を含有し、成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))が0.1〜1.4であり、かつモルタルへの配合時の成分(A)及び(B)の合計量がセメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部である高流動モルタル用白華防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高流動モルタル用白華防止剤及び白華の発生しにくい高流動モルタルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント製品の美観上の課題として白華現象がある。白華現象とはセメント硬化体の表面に白色析出物が発生する現象であり、この現象が起きると、仕上がり面は非常に見苦しくなる。この白色析出物は、セメントの水和反応により生成された水酸化カルシウムが毛細管現象で硬化体表面に運ばれ、そこで空気中の二酸化炭素と反応した炭酸カルシウムあるいは水酸化カルシウムそのものである。
【0003】
この白華現象の防止方法として各種の撥水剤や防水剤が白華防止剤として提案されてきた。例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ベヘニン酸カルシウム、オレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸金属塩(特許文献1)が知られている。一般的には、経済性を考慮して混合物を用いることが多い。
【0004】
通常、上記脂肪酸及び脂肪酸のカリウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩等を水及び水と可溶な溶剤に溶かしたものがセメント用白華防止剤として提案されてきた(特許文献2)。しかし、これら混入型の白華防止剤や塗布型の白華防止剤は、セメント製品に混和すると強度低下を起こす一方、普通硬化型の高流動モルタルに適用しても目地材や左官材のようなセメントモルタルほど有効ではない。
【0005】
その他、ポリオキシアルキレン変性シリコーンと水溶性ビニル共重合体を混和することで白華の防止を図ったセルフレベリング材(特許文献3)が考案されているが、冬季に換気の悪い環境で施工する場合には、白華防止効果は不十分であった。
【0006】
一方、アルミナセメント、II型無水石膏、凝結調整剤、ポリマーディスパージョンを組み合わせた急硬性高流動モルタルが考案されている(特許文献4)。このモルタルは、低温でも早期に硬化するため、白華は発生しにくいが、可使時間が短いため、大量施工、ポンプ施工が困難である。そのため、施工量の制約を受けるという問題がある。
【特許文献1】特開平2−160647号公報
【特許文献2】特開平11−60301号公報
【特許文献3】特許第3315804号公報
【特許文献4】特開平10−231165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、従来のセメントモルタル用の白華防止剤を高流動モルタルに適用しても、強度低下をおこしてしまうなどの問題があるとともに、十分な白華防止効果は得られなかった。
従って、本発明の目的は、高流動モルタル用の白華防止剤及び白華の発生しにくい高流動モルタルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高流動モルタルの白華防止手段について種々検討してきたところ、石膏に加えて、セルロース誘導体とポリマーとを組み合せ、かつセルロース誘導体とポリマーの配合量及び配合比を一定の範囲に調整すれば、高流動モルタルの白華が顕著に抑制できるとともに、流動性が良好で、かつ強度低下を生じない高流動モルタルが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)無水石膏を含有し、成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))が0.1〜1.4であり、かつモルタルへの配合時の成分(A)及び(B)の合計量がセメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部である高流動モルタル用白華防止剤を提供するものである。
また本発明は、(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)無水石膏を含有し、成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))が0.1〜1.4であり、かつ成分(A)及び(B)の合計量がセメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部である高流動モルタルを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の白華防止剤を用いれば、流動性が良好で、かつ強度低下を生じることなく、高流動モルタルの白華を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の高流動モルタル用白華防止剤及び高流動モルタルは、(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)石膏を含有するものである。本発明において、これらの3成分が白華防止作用を示す理由は明らかではないが、(A)セルロース誘導体はモルタル成形体の表面において白華の生成を防止するものと考えられる。また、(B)ポリマーは、高流動モルタルの内部にフィルムを形成し、白華成分が表面に移動することを抑制するものと考えられる。さらに(C)石膏は、凝結時間を制御することにより、白華成分自体の生成を抑制するものと考えられる。
【0012】
(A)セルロース誘導体としては、セルロースの水溶性誘導体であればよく、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキル・アルキルセルロース;セルロース硫酸エステル等のセルロースエステルが挙げられる。このうち、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキル・アルキルセルロースが好ましく、特にメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。
【0013】
(A)セルロース誘導体の配合量は、セメント100質量部に対し、0.05〜5.0質量部、特に0.05〜1.0質量部が好ましい。セルロース誘導体の配合量が少なすぎると混和した効果が十分でなく、白華の発生する恐れがある。また多すぎると、粘性が増し、単位水量が大きくなり、色むらが発生する恐れがある。
【0014】
(B)ポリマーとしては、ポリマーディスパージョンと再乳化形粉末樹脂が使用可能である。ポリマーディスパージョンとしては、JIS A 6203に規定されたものを使用でき、また、再乳化形粉末樹脂としては、同じくJIS A 6203に規定されたものを使用することができる。すなわち、前記ポリマーディスパージョンとしては、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、又はエチレン酢酸ビニルなどを主成分とする樹脂を使用することができる。また、前記再乳化形粉末樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルなどを主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。また、再乳化形粉末樹脂の製造方法は限定されることなく、粉末化方法やブロッキング防止法などのいずれの製法によって製造してもよい。
【0015】
(B)ポリマーの配合量は、セメント100重量部に対して、固形分換算で0.2〜10質量部、特に0.2〜8質量部が好ましい。(B)ポリマーの配合量が少なすぎると、混和した効果が十分でなく、白華の発生する恐れがある。また多すぎると流動性が低下する。
【0016】
本発明においては、上記成分(A)と(B)の配合比及び合計含有量が、白華防止効果、流動性の維持、強度維持の点から重要である。成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))は、0.1〜1.4が好ましく、特に0.2〜1.0が好ましい。0.10未満では高流動モルタルの流動性が低下する。また、1.4を超えると流動性が低下するとともに色むらの発生する恐れがある。
【0017】
また、成分(A)及び(B)の合計量は、セメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部が好ましく、特に0.5〜8.0質量部が好ましい。0.3質量部未満では十分な白華防止効果が得られず、9.0質量部を超えると粘性が高くなり施工性が低下する。
【0018】
本発明に使用する(C)無水石膏は、強度発現性の向上、乾燥収縮の低減を目的としてII型無水石膏、フッ酸石膏を使用することが可能である。粒径は、ブレーン比表面積3500〜8000cm2/g、特に4000〜7000cm2/gが好ましい。ブレーン比表面積が小さすぎると反応性が低く、乾燥収縮の低減効果が得られず、強度発現性が向上しない。また、寒冷期に施工すると遅れ膨張の発生する恐れがある。また、ブレーン比表面積が大きすぎると流動性が低下するとともに異常膨張を起こす恐れがある。石膏の配合量は、セメント100質量部に対し、2.5〜35質量部、特に3〜20質量部が好ましい。少なすぎると混和した効果が十分に得られない。多すぎると単位水量が大きくなり、ひび割れや下地材との剥離浮きの発生する恐れがある。また、寒冷期に施工すると未反応の無水石膏が高流動モルタル硬化体中に残り、遅れ膨張の発生する恐れがある。
【0019】
本発明において、高流動モルタルとは、例えば屋内の床補修に用いるセルフレベリング材や空隙充填に用いることができるグラウト材等を云い、より好適にはJISR5201に規定するフローコーンを用いた静置フロー値が練り上がり直後で180mm以上のモルタルを云う。
【0020】
本発明の高流動モルタルには、上記成分以外にセメント、細骨材を配合するが、さらに石灰石微粉末、他の白華防止剤、減水剤、消泡剤、凝結調整剤、白色顔料等を配合することができる。
【0021】
本発明に使用するセメントとしては、市販のポルトランドセメントが使用可能である。例えば、太平洋セメント(株)製普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどが使用できる。
【0022】
本発明に使用する細骨材は、珪砂、石灰砂、川砂、山砂、海砂、砕砂等が使用でき、その他、高炉急冷スラグ骨材、高炉徐冷スラグ骨材、及び下水汚泥スラグ、都市ゴミスラグを微粉砕したもの等が利用可能である。細骨材の粒径は88μm〜2.5mmが好ましく、より好ましくは、0.15〜1.2mmである。粗粒率は、1.2〜3.0が好ましい。配合量は、セメント100質量部に対し、100〜250質量部が好ましい。少なすぎると硬化時の自己収縮、硬化後の乾燥収縮が大きくなりひび割れの発生する恐れがある。多すぎると材料分離の発生する恐れがあり、ひび割れや下地材との剥離浮きの発生する恐れがある。細骨材の粒径が小さすぎたり、粗粒率が小さすぎると、単位水量が大きくなりひび割れの発生する恐れがある。また、適正な流動性が得られず、施工性が低下するとともに強度発現性も低下する。細骨材の粒径が大きすぎたり、粗粒率が大きすぎると材料分離を起こす恐れがあり、ひび割れや下地材との剥離浮きの発生する恐れがある。
【0023】
本発明の高流動モルタルには、材料分離を抑制するため石灰石微粉末を使用することができる。粒径は、単位水量に影響を与えず、材料分離の抑制が得られる範囲で良く、ブレーン比表面積2000〜3000cm2/gが好ましい。配合量は、材料分離抑制効果の点からセメント100質量部に対し、10〜75質量部が好ましい。
【0024】
本発明に用いられる他の白華防止剤としては、高活性レジン及び/又はシラン化合物が好ましい。高活性レジンとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの水溶性の高活性レジンであればよい。またシラン化合物としては、シラン系浸透型吸水防水剤が好ましい。例えば、高活性レジンとして日本エヌエスシー(株)製:商品名「EROTEX ERA100」は一次白華の防止に特に有効であり、シラン系浸透型吸水防水剤としては信越化学工業(株)製:商品名「KP8400」などは二次白華の防止に特に有効である。これを組み合わせると一次白華及び二次白華のどちらにも有効になる。これらの、他の白華防止剤の配合量はセメント100質量部に対し、0.5〜10質量部、特に1〜8質量部が好ましい。
【0025】
本発明に使用される減水剤は、増粘剤と併用しても減水効果が失われず、良好な施工性が得られるものであれば使用可能である。例えば、ポリカルボン酸系減水剤、太平洋マテリアル(株):商品名「コアフローNF−200」などが挙げられる。減水剤は、セメント100質量部に対し0.5〜4質量部、特に1〜3質量部が好ましい。
【0026】
本発明において、高流動モルタル白華防止剤は、前記成分(A)、(B)及び(C)を含有するが、さらに前記他の白華防止剤、減水剤等を含有していてもよい。白華防止剤中の、これらの成分の含有量は、モルタルへの配合時のセメント量を基準に前記のように定めればよい。
【0027】
本発明の高流動モルタルは、前記成分を配合し、常法に従い、水と混練した後養生することにより製造することができる。ここで水の量は、セメント100質量部に対し65〜80質量部が好ましい。
【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(1)配合
表1の通り(実施例1〜5及び比較例1〜10)。
(2)練混ぜ方法
表1の配合によりハンドミキサーを用いて5分間練り混ぜ、高流動モルタルを調整した。
【0030】
(3)評価試験方法
(i)フロー試験
日本建築学会JASS15M−103「セルフレベリング材の品質規準」に準じて実施した。
[流動性の評価]
日本建築学会JASS15M−103「セルフレベリング材の品質規準」に準じてフロー値を測定した。
[材料分離抵抗性の評価]
フロー試験において高流動モルタルの広がりがきれいな円形であった場合を材料分離抵抗性の評価は「○」、モルタルの広がりがきれいな円形でなく、外周がいびつな形状を示した場合は材料分離抵抗性の評価は「×」とした。
【0031】
(ii)流し込み試験
練り上がった高流動モルタルをコンクリート平板に厚さ10mmに流し込み、以下の評価試験を実施した。コンクリート平板はJISA5304の規定に適合する300×300×60mmのものを使用した。試験環境は5℃、70%RHとした。
[白華の評価]
高流動モルタルの流し込みから1週間経過後、白華の発生の有無及び色むらの有無を観察した。白華が発生した場合は、析出物を回収し質量を測定した。色むらは目視で観察し、確認できなかった場合は評価「○」、確認できた場合は評価「×」とした。
[表面接着強度の評価]
白華の発生の有無及び色むらの有無を観察した後、日本建築学会JASS15M−103「セルフレベリング材の品質規準」に従い、高流動モルタルの表面接着強度を測定した。
[凝結試験]
JISR5201により20℃の試験室で凝結試験を実施した。
【0032】
【表1】

【0033】
使用材料
A1 普通セメント
太平洋セメント(株)製商品名 普通ポルトランドセメント
A2 アルミナセメント
太平洋マテリアル(株)製商品名 アルミナセメント1号
A3 高炉スラグ
(株)デイ・シイ製商品名 セラメントブレーン比表面積4000cm2/g
B 石灰石微粉末
寒水石微粉末 ブレーン比表面積2500cm2/g
C1 II型無水石膏
ブレーン比表面積8000cm2/g
C2 硫酸アルミ
無水硫酸アルミニウム 市販試薬
C3 炭酸リチウム
炭酸リチウム 市販試薬
D 細骨材
石灰石砕砂 粗粒率2.1
E1 消泡剤
サンノプコ(株)製商品名 SNディフォーマーAHP
E2 セルロース誘導体
信越化学工業(株)製商品名 メトローズ90SH15000
F 減水剤
太平洋マテリアル(株)製商品名 コアフローNF-200
H1 白華防止剤
(株)日油製商品名 カルシウムステアレート
H2 白華防止剤
日本エヌエスシー(株)製商品名 EROTEX ERA100
P1 アクリルエマルジョン
ニチゴー・モビニール(株)商品名 モビニール7700
P2 粉末樹脂
日本エヌエスシー(株)商品名 TITAN8100
【0034】
【表2】

【0035】
表1及び2の結果から明らかなように、本発明の成分(A)、(B)及び(C)を一定の配合比及び配合量で配合した高流動モルタルは、優れた高流動性を保持しつつ、白華が防止されるとともに強度も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)無水石膏を含有し、成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))が0.1〜1.4であり、かつモルタルへの配合時の成分(A)及び(B)の合計量がセメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部である高流動モルタル用白華防止剤。
【請求項2】
さらに、高活性レジン及び/又はシラン化合物を含有する請求項1記載の白華防止剤。
【請求項3】
(A)セルロース誘導体、(B)ポリマー及び(C)無水石膏を含有し、成分(A)と(B)の固形分質量比((A)/(B))が0.1〜1.4であり、かつ成分(A)及び(B)の合計量がセメント100質量部に対し0.3〜9.0質量部である高流動モルタル。
【請求項4】
さらに、高活性レジン及び/又はシラン化合物を含有する請求項3記載の高流動モルタル。
【請求項5】
さらに、ポリカルボン酸系減水剤を含有する請求項3又は4記載の高流動モルタル。
【請求項6】
白華防止モルタルである請求項3〜5のいずれか記載の高流動モルタル。

【公開番号】特開2010−83710(P2010−83710A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254565(P2008−254565)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】