説明

高清浄度連鋳鋳片の製造方法

【課題】取鍋交換時において溶鋼の清浄化が促進され清浄度の高い連鋳鋳片を製造できる方法を提供する。
【解決手段】取鍋交換後、後鍋からタンディッシュ3への溶鋼2注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]が下式(1)を満たし、下記に示す取鍋1からタンディッシュへの溶鋼注入速度Sとタンディッシュから鋳型15への溶鋼注入速度Qとの関係が下式(2)を満たすことを特徴とする。H≧h×0.75・・・・・(1)、5.0≧S―Q≧3.0・・・・(2)。但し、H:後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ、h:定常時におけるタンディッシュ内湯面高さ、S:後鍋注入開始からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復する間の取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度ton/min、Q:前鍋注入終了からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95に回復するまでの間、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度ton/min

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法における取鍋交換前後において、タンディッシュから鋳型へ注入される溶鋼の汚染を防止して高清浄度の連続鋳片を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高品質な鉄鋼材料製造のため、更なる溶鋼の高清浄度技術向上が求められている。溶鋼中のAl2O3等の介在物は、圧延後の欠陥原因になるため、鋳造前段階で極力分離除去する必要がある。
取鍋から溶鋼をタンディッシュに注湯する際、タンディッシュには溶鋼と共に流出した介在物を浮上分離させる役目があり、その浮上分離割合が大きいほど高清浄度な溶鋼を製造することが可能になる。
【0003】
取鍋交換時においては、タンディッシュから鋳型内へ溶鋼供給が継続して行われる一方で、前鍋終了時から後鍋注入開始時までの間は、取鍋からタンディッシュへの溶鋼供給が中断されるため、後鍋注入開始時のタンディッシュ内の溶鋼量は最も減少した状態にあり、それ故にタンディッシュ内溶綱湯面高さは定常時の湯面高さよりも減少する。
取鍋交換時にタンディッシュ内の溶鋼湯面の高さが下がることによってタンディッシュ内での介在物の滞留時間が短くなり、介在物の浮上機会が減少するため介在物の鋳型への流出率が大きくなる。
【0004】
また、定常時には溶綱によって覆われていたタンディッシュ内壁が、後鍋注入開始時には湯面低下によって外気に曝され、タンディッシュ内壁に付着・残留している溶鋼が空気酸化されるため溶綱清浄度が低下する。
さらに、後鍋注入開始後は、タンディッシュから鋳型への溶綱供給を継続したまま、タンディッシュ内溶綱量を回復させるため、急激に溶綱量を増加させる必要がある。そのため、タンディッシュ内の前鍋から流出したスラグ等の非金属介在物を浮上させる時間もなく溶鋼が鋳型内に流入する。このため、鍋交換時のスラブ品質が悪化する。
【0005】
以上のように、取鍋交換時には溶鋼の清浄度が低下することがあり、これを防止するための技術として、以下のようなものが提案されている。
例えば、特許文献1には、「溶融金属収容容器の溶融金属を他の溶融金属受容器を介して鋳型に供給して連続的に金属鋳片を製造するに際して、溶融金属供給開始初期において前記溶融金属収容容器から前記溶融金属受容器への溶融金属供給量を前記溶融金属受容器から前記鋳型への供給量より多くし、かつ全開時の60%以下にした後、該溶融金属受容器の溶融金属が所定量に達した時点で、前記溶融金属収容容器から該溶融金属受容器への溶融金属供給量を前記溶融金属受容器からの溶融金属供給量と同等にすることを特徴とする溶融金属供給時の介在物混入防止方法。」(特許文献1の請求項1参照)
【0006】
また、特許文献2には、以下のような清浄度の高い連鋳鋳片製造方法が提案されている。「鋼の連続鋳造工程の多連々鋳造における取鍋交換時において、取鍋の溶鋼供給開始からタンディッシュ内の取鍋用浸漬ノズルの溶鋼浸漬高さHが150mmに達するまで、取鍋からタンディッシュへの溶鋼供給速度Qをタンディッシュから鋳型内への溶鋼総供給速度よりも大きく、かつ10t/min以下に制御し、前記溶鋼浸漬ノズル浸漬高さHが150mm超の場合は前記溶鋼供給速度Qを下記(1)及び(2)式の範囲内で制御することを特徴とする鍋交換部における清浄度の高い連鋳鋳片製造方法。
150mm<H<200mmのとき:
Q(t/min)≦0.1×(H−150)+10・・・・(1)
200mm≦Hのとき:
Q(t/min)≦15.0 ・・・・(2)」
【0007】
なお、上記引用文献1,2のいずれにおいても、鍋交換前のタンディッシュの溶鋼量が70tであり、鍋交換時のタンディッシュの溶鋼量は40tとなる旨が記載されている。
また、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度は常時一定であり7t/分である旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−295107号公報
【特許文献2】特開2000−317592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に開示された技術においては、鍋交換前の70tの溶鋼量が鍋交換時には40tになっており、溶鋼量が定常時の60%未満になっていることから、鍋交換直後には溶鋼の湯面がかなり下がった状態になっている。
このため、定常時には溶綱によって覆われていたタンディッシュ内壁が、後鍋注入開始時には湯面低下によって外気に曝され、タンディッシュ内壁に付着・残留している溶鋼が空気酸化されるため溶綱清浄度が低下するという問題がある。
【0010】
また、特許文献1および特許文献2に開示された技術においては、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度は、鍋交換前後において一定であることが前提となっており、湯面高さを早期に回復しようとすると取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度を速くしなければならず、その場合には溶鋼への介在物の混入の問題が生ずるし、逆にタンディッシュへの溶鋼注入速度が遅いと、タンディッシュ内壁に付着・残留している溶鋼の空気酸化による溶綱清浄度低下の問題やタンディッシュ内溶綱流動の滞留時間が短くなり、介在物の浮上機会が小さくなるという問題が生ずる。
以上のように、特許文献1、2に開示された技術ではタンディッシュ内溶綱清浄度を向上させることは難しいと考えられる。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、取鍋交換時において溶鋼の清浄化が促進されて高清浄度連鋳鋳片の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、取鍋交換時のタンディッシュ内溶綱湯面高さを、所定の高さ以上に保ち、かつ取鍋からタンディッシュへの溶綱供給速度とタンディッシュから鋳型への溶綱供給速度の差を規制することにより、取鍋交換時においても溶鋼の清浄度を高く維持して高清浄度連鋳鋳片を製造することができるとの知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えている。
【0013】
(A)本発明に係る高清浄度連鋳鋳片の製造方法は、取鍋交換後、後鍋からタンディッシュへの溶鋼注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]が下式(1)を満たし、下記に示す取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度S[ton/min]と下記に示すタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度Q[ton/min]との関係が下式(2)を満たすことを特徴とする。
H ≧h×0.75・・・・・(1)
5.0≧S―Q≧3.0・・・・(2)
但し、H:後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]
h:定常時におけるタンディッシュ内湯面高さ[m]
S:後鍋注入開始からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復する間の取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度[ton/min]
Q:前鍋注入終了からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復するまでの間、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
【0014】
(B)また、上記(A)に記載のものにおいて、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度を定常時におけるタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度よりも遅くすることを特徴とするものである。
【0015】
(C)また、上記(A)又は(B)に記載のものにおいて、取鍋交換後において、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度が下記(3)式を満たすことを特徴とするものである。
M×H’/h≧Q・・・・・(3)
M :定常時におけるタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
H’:後鍋注入中のタンディッシュ内溶綱湯面高さ[m]
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、取鍋交換時の取鍋からタンディッシュおよび、タンディッシュから鋳型への溶綱注入速度を適正化することができ、これにより、取鍋交換時の介在物起因の製品欠陥を大幅に低減して、清浄度の高い連鋳鋳片を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の高清浄度連鋳鋳片の製造方法に用いる連続鋳造装置の要部を説明する説明図である。
【図2】溶鋼中介在物個数密度(個/m)と後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さとの関係の実験結果を示すグラフである。
【図3】溶鋼中介在物個数密度(個/m)と、取鍋1からタンディッシュへの溶鋼注入速度(S)とタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度(Q)の差(S−Q)[ton/min]との関係の実験結果を示すグラフである。
【図4】溶鋼中介在物個数密度(個/m)と、(M×H’/h)とQとの差(M×H’/h−Q)との関係の実験結果を示すグラフである。
【図5】実施例で行った実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態1]
図1に示す高清浄度連鋳鋳片の製造方法に用いる連続鋳造装置の要部を説明する。
高清浄度連鋳鋳片の製造方法に用いる連続鋳造装置は、溶鋼2をタンディッシュ3に供給する取鍋1と、溶鋼2をタンディッシュ3に供給するロングノズル5と、ロングノズル5に設けられて溶鋼2の供給量を調整する第1スライディングノズル7と、取鍋1から溶鋼2の供給を受けて溶鋼2を一旦貯留してスラグ9を浮上させるタンディッシュ3と、タンディッシュ3内の溶鋼2を鋳型15に供給する浸漬ノズル11と、浸漬ノズル11に設けられて溶鋼供給量を調整する第2スライディングノズル13と、浸漬ノズル11から溶鋼2の供給を受ける鋳型15を備えている。
また、ロングノズル5に設けた第1スライディングノズル7及び浸漬ノズル11に設けた第2スライディングノズル13の開度を調整する制御装置17が設けられている。
【0019】
上記のような連続鋳造設備を用いた高清浄度連鋳鋳片の製造方法は、取鍋交換後、後鍋からタンディッシュ3への溶鋼注入開始時のタンディッシュ3内湯面高さ[m]が下式(1)を満たし、下記に示す取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度S[ton/min]と下記に示すタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度Q[ton/min]との関係が下式(2)を満たすことを特徴とするものである。
H ≧h×0.75・・・・・(1)
5.0≧S―Q≧3.0・・・・(2)
但し、H:後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]
h:定常時におけるタンディッシュ内湯面高さ[m]
S:後鍋注入開始からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復する間の取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度[ton/min]
Q:前鍋注入終了からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復するまでの間、タンディッシュから鋳型15への溶鋼注入速度[ton/min]
なお、H、hはタンディッシュ底部より溶鋼湯面位置まで言い、溶鋼湯面位置は図1の破線部(破線部上のスラグを除く)の高さである。
定常時の湯面高さhは、タンディッシュ内の介在物浮上時間を大きくするため高い方が好ましく、ある規定容量のタンディッシュについて言えば規定の重量に近い重量の溶鋼がタンディッシュ内にある状態が定常時となり、このときの湯面高さが定常時湯面高さとなる。具体的には、規定容量の90%〜100%の溶鋼がタンディッシュ内にあるときが定常時となり、このときの湯面高さが定常時の湯面高さとなる。
以下においては、上記の各要件について詳細に説明する。
【0020】
[H≧h×0.75]について
取鍋交換時におけるタンディッシュ内最低溶綱湯面高さの溶鋼清浄度に及ぼす影響度を調べた結果を図2に示す。
図2のグラフは、縦軸が溶鋼中介在物個数密度(個/m)、横軸が定常時のタンディッシュ内湯面高さを1としたときのこれに対する後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ割合を示している。図2のグラフ中には、S−Qを2〜6まで変化させたときの5つの場合について示している。
図2から、S−Q=6の場合、及びS−Q=2の場合は、Hの値がいずれの値であっても溶鋼中介在物個数密度が高いことから、S−Qの値が3〜5であることが前提となることが読み取れる。
S−Qの値が3〜5の場合において、Hの値が0.75以上であれば、溶鋼中介在物個数密度は0.15〜0.3であり、極めて小さい値を示している。
このことから、Hの値が0.75以上にすることが溶綱汚染を抑制するのに効果的であることが分かる。
【0021】
これは、タンディッシュ内溶綱湯面高さが大きいほど、タンディッシュ内壁への酸化による溶綱汚染を抑制でき、かつ介在物のタンディッシュ3内での滞留時間が大きくなるためタンディッシュ3内において介在物が浮上分離されやすいためと考えられる。
逆に、Hの値が0.75未満では、S−Qの値が3〜5であっても、溶鋼中介在物個数密度は0.55以上になっており、大きな値を示している。
これは、Hの値が0.75未満の場合、タンディッシュ3内壁への酸化による溶綱汚染の影響および、介在物のタンディッシュ3内滞留時間が短いためにタンディッシュ3内において介在物が浮上分離できずに溶鋼清浄度が悪化するためと考えられる。
【0022】
なお、取鍋交換時においてもタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼2の注入は継続されるため、H≧h×0.75にするためには、タンディッシュ3内の溶鋼湯面高さがh×0.75未満になる前に後鍋からタンディッシュ3への溶鋼2の注入を開始する必要がある。このため、取鍋交換に要する時間を短縮することも有効であるが、取鍋交換時にはタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度を定常時の速度よりも低下させてタンディッシュ3内の溶鋼面が低下する速度を遅くするようにしてもよい。このためには、例えば取鍋交換開始時におけるタンディッシュ3の重量を計測し、この値から取鍋交換開始時の溶鋼量を求め、この値とタンディッシュ3の形状に基づいて溶鋼湯面高さを算出し、この溶鋼湯面高さがh×0.75になるまでに排出される溶鋼量を求め、この溶鋼量と取鍋交換時間との関係に基づいて制御装置17によって第2スライディングノズル13の開度を調整するようにすればよい。
【0023】
なお、取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度Sと、タンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度Qとの関係を規定する時期について、タンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復する間としたのは、タンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復した後は、定常状態の湯面高さするための微調整を行う必要があるため、この時期を除外する趣旨である。
【0024】
[5.0≧S―Q≧3.0]について
タンディッシュ内溶綱湯面高さがh×0.95[m]に回復するまでの間、取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度(S)とタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度(Q)の関係の溶鋼清浄化への影響を調査した結果を図3に示す。
図3のグラフは、縦軸が溶鋼中介在物個数密度(個/m)、横軸が取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度(S)とタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度(Q)の差(S−Q)[ton/min]を示している。図3のグラフ中には、Hを0.60〜0.90の範囲で0.1ずつ変化させた4つの場合について示している。
【0025】
図3から、H≦0.7の場合には、(S−Q)がいずれの値であっても、溶鋼中介在物個数密度が高い値(約0.6(個/m))以上となっており、H≧0.75が前提となることが読み取れる。
H≧0.75の場合において、5.0≧S―Q≧3.0であれば、溶鋼中介在物個数密度は約0.2であり、極めて小さい値を示している。
このことから、5.0≧S―Q≧3.0にすることが溶綱汚染を抑制するのに効果的であることが分かる。
S−Q>5.0の場合において溶鋼中介在物個数密度が大きくなったのは、取鍋1からタンディッシュ3への溶綱注入速度が大きいため、スラグ9を巻き込みやすくタンディッシュ3内の溶綱清浄度が悪化するためであると考えられる。
また、S−Q<3.0の場合において、溶鋼中介在物個数密度が大きくなったのは、取鍋交換後においてタンディッシュ内溶綱湯面高さ回復が遅れるため、タンディッシュ内壁への酸化による溶綱汚染が生じたためであると考えられる。
【0026】
なお、5.0≧S―Q≧3.0に制御するための方法としては、ロングノズル5に設けた第1スライディングノズル7の開度調整と、浸漬ノズル11に設けた第2スライディングノズル13の開度を調整することによって行う。
この場合、特許文献1,2に示された従来例と同様に、タンディッシュ3から鋳型15への溶鋼2の注入速度は定常時と同じにしてもよいが、定常時よりも速度を低下させるようにするのがより好ましい。なぜなら、タンディッシュ3から鋳型15への溶鋼2の注入速度を定常時よりも低下させることによって、取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度を低下させることが可能になり、取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入時の介在物の溶鋼内への混入を少なくすることができるからである。
【0027】
上記のように、本実施の形態の高清浄度連鋳鋳片の製造方法においては、取鍋交換後、後鍋からタンディッシュ3への溶鋼注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]が下式(1)を満たし、取鍋1からタンディッシュ3への溶鋼注入速度S[ton/min]とタンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度Q[ton/min]との関係が下式(2)を満たすことにより、取鍋交換時の介在物起因の製品欠陥を大幅に低減して清浄度の高い鋳片を製造することが可能になる。
H ≧h×0.75・・・・・(1)
5.0≧S―Q≧3.0・・・・(2)
【0028】
[実施の形態2]
本実施の形態においては、実施の形態1の条件に加えて、取鍋交換後において、タンディッシュ3から鋳型15への溶鋼注入速度が下記(3)式を満たすようにしたものである。
M×H’/h≧Q・・・・(3)
M :定常時におけるタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
H’:後鍋注入中のタンディッシュ内溶綱湯面高さ[m]
Q :前鍋注入終了からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復するまでの間、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
【0029】
取鍋交換時のタンディッシュ3から鋳型15への溶綱供給速度(Q)と清浄性を調査した結果を図4に示す。
図4のグラフは、縦軸が溶鋼中介在物個数密度(個/m)、横軸が(M×H’/h)とQとの差(M×H’/h−Q)を示している。また、図4のグラフは、H/h=0.8、S−Q=4.0の場合である。
図4から、M×H’/h−Qが0.0以上では溶鋼中介在物個数密度が約0.1であり、極めて小さい値を示している。他方、M×H’/h−Qが0.0未満(-0.5以下)では、溶鋼中介在物個数密度が0.3以上の値を示しており、M×H’/h−Qが0.0以上の場合に比較すると溶鋼中介在物個数密度が大きくなっている。
したがって、M×H’/h≧QとなるようにQを制御することが、溶鋼中介在物個数密度を小さくすることに有効であることが分かる。
【0030】
M×H’/h≧Qにすることで溶鋼中介在物個数密度が小さくなった理由としては、Qを上記のように設定することで、取鍋交換時のタンディッシュ3から鋳型15への溶綱供給速度が小さくなることから、タンディッシュ内溶綱流動の滞留時間が長くなり、介在物の浮上機会が大きくなるためと考えられる。また、Qを上記のように設定することで、取鍋交換後においてタンディッシュ内溶綱湯面高さ回復が速くなるので、この意味でタンディッシュ内壁への酸化による溶綱汚染の影響を少なくできためでもある。
【0031】
他方、M×H’/h<Qの場合に溶鋼中介在物個数密度が大きくなったのは、タンディッシュ内溶綱流動の滞留時間が短くなり、介在物の浮上機会が小さくなるし、Qを上記のように設定することで、取鍋交換後においてタンディッシュ内溶綱湯面高さ回復が遅れるので、タンディッシュ内壁への酸化による溶綱汚染の悪影響が生じるためであると考えられる。
【0032】
以上のように、本実施の形態では、実施の形態1で示した条件を前提としてさらにM×H’/h≧QとなるようにQを制御するようにしたので、取鍋交換時の介在物起因の製品欠陥を実施の形態1よりもさらに低減して清浄度の高い鋳片を製造することが可能になる。
【実施例】
【0033】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので、これについて説明する。
転炉での酸素吹錬およびRH真空脱ガス処理を施した、取鍋中の300トンの溶鋼を、溶鋼注入速度5.0ton/min・stで、図1に示した容量70トンのタンディッシュ内に溶鋼を供給した。その後、タンディッシュ3から鋳型15へ溶鋼を供給し、連続鋳造を行った。また、タンディッシュ3内の溶綱湯面高さは、タンディッシュ重量を湯面高さに換算することにより測定した。
実験に用いた各条件は表1に示す通りであり、表1中に(1)式、(2)式、(3)式の要件を満たす場合には○印を、満たさない場合には×印を記載している。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明、比較例、従来例の条件で鋳造後のスラブを超音波探傷測定により、介在物個数の測定を行った。それぞれのスラブ中の介在物個数を、従来例を1とした介在物指数として比較したものを図5に示す。図5のグラフにおいては、縦軸が介在物指数を示している。介在物指数は、従来例を1.0として評価した。
図5に示すように、本発明1〜5での鋳造条件の場合、従来例や比較例1〜4に比べてスラブ中の介在物個数を大幅に削減できた。つまり、本発明の高清浄度連鋳鋳片の製造方法により、取鍋交換時のタンディッシュ3中の溶綱清浄度を大幅に促進させることができることが実証された。
【符号の説明】
【0036】
1 取鍋
2 溶鋼
3 タンディッシュ
5 ロングノズル
7 第1スライディングノズル
9 スラグ
11 浸漬ノズル
13 第2スライディングノズル
15 鋳型
17 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋交換後、後鍋からタンディッシュへの溶鋼注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]が下式(1)を満たし、下記に示す取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度S[ton/min]と下記に示すタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度Q[ton/min]との関係が下式(2)を満たすことを特徴とする高清浄度連鋳鋳片の製造方法。
H ≧h×0.75・・・・・(1)
5.0≧S―Q≧3.0・・・・(2)
但し、H:後鍋注入開始時のタンディッシュ内湯面高さ[m]
h:定常時におけるタンディッシュ内湯面高さ[m]
S:後鍋注入開始からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復する間の取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度[ton/min]
Q:前鍋注入終了からタンディッシュ内湯面高さがh×0.95[m]に回復するまでの間、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
【請求項2】
タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度を定常時におけるタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度よりも遅くすることを特徴とする請求項1記載の高清浄度連鋳鋳片の製造方法。
【請求項3】
取鍋交換後において、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度が下記(3)式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の高清浄度連鋳鋳片の製造方法。
M×H’/h≧Q・・・・・(3)
M :定常時におけるタンディッシュから鋳型への溶鋼注入速度[ton/min]
H’:後鍋注入中のタンディッシュ内溶綱湯面高さ[m]

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22641(P2013−22641A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162746(P2011−162746)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】