説明

高温での最終オゾン処理によって化学紙パルプを漂白する方法

60℃より高く、有利には65℃より高く、更により有利には70℃以上の温度においてパルプのオゾン処理を行う工程を含む、予備漂白した化学パルプを処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学紙パルプ、特にクラフト又はサルファイトパルプの漂白に関する。
【0002】
本発明に関連して、漂白シーケンスの最後に高温でオゾン処理を実施すると、その品質を低下させることなく特にパルプの明度(brightness)が向上することが示された。
【背景技術】
【0003】
漂白化学紙パルプを製造する方法において、脱リグニンと呼ばれる第1段階は、パルプ中に存在するリグニンの殆どを除去することから構成される。この操作は、従来は酸素(O)による化学処理によって行われており、本来、褐色のリグニンが減少するためにパルプの漂白を伴う。
【0004】
漂白と呼ばれる次の段階は、残留リグニンを完全に除去して、完全に白色の「炭水化物」フラクション(セルロース及びヘミセルロース)のみを残留させることから構成される。
【0005】
一般に、化学紙パルプは、二酸化塩素(D)、過酸化水素(P)、苛性ソーダ(E)、及び再び酸素(O)のような薬剤を用いる漂白シーケンスと呼ばれる一連の処理を用いて漂白する。
【0006】
例えば、漂白化学パルプを製造するための最新の簡単な方法は、4つのODED段階の全てを含む場合がある。
【0007】
漂白特性は、更なる段階を加えるか、又は酸素(O)若しくは過酸化水素(P)を加えることによってE段階を強化することによって向上させることができる。したがって、OD(EO)D、OD(EP)D、OD(EO)DED、OD(EO)DP、D(EO)D(EP)D等のタイプの漂白化学パルプを製造する方法も、産業界において見られる。
【0008】
1992年以来、化学パルプ漂白において用いる薬剤のリストにオゾン(Z)が加えられている。オゾンはリグニンに対する非常に有効な酸化剤である。しかしながら、これは、水性媒体中で速やかに分解し、セルロースを部分的に酸化する可能性があり、その使用の操作条件を非常に精密に制御する必要がある薬剤である。
【0009】
これは、その漂白シーケンス中にオゾン段階が導入されている世界中の30のプラントにおいて行われている。種々のシーケンスが実施されているが、オゾン段階は、常に、OZED、OZDED、OOZDED法のように、漂白の最初、即ち一般に酸素による脱リグニンの後に配置されている。言い換えれば、オゾン処理は、E又はEOP又はEO又はEP形態と考えることができるアルカリ抽出(E)の前に行われる。
【0010】
このタイプの方法においてオゾンによる漂白作用を促進させる操作条件を確認するために幾つかの研究が行われている。
【0011】
而して、1992年1月のTAPPI JOURNALの論評記事である、"A survey of the use of ozone in bleaching pulps"と題されたN. Liebergottらによる論文は、パルプを漂白するためにオゾンを用いなければならない条件を概説している。ここでは特に、最良の漂白を得るためには、媒体のpHは、酸性、好ましくは約2でなければならず、とりわけ、オゾンの過度の分解を抑止して、それによってリグニンのより良好な分解を達成するためには、温度も20℃付近の可能な限り低いものでなければならない、と教示されている。したがって、この教示によれば、オゾン処理は、予備漂白と呼ばれる初期漂白段階中に低温で行われる。
【0012】
1997年9月のTAPPI JOURNALの論評記事(vol.80, No.9, pp.209-14)において発表されているもののようなより最近の論文においては、漂白の最後にオゾンを用いることが提案されている。不完全に漂白され、したがって残留リグニンを含むパルプに対してオゾン段階を適用することにより、このリグニンが実質的に即時に消失し、その結果、パルプの明度が速やかに向上する。記載されている方法は劇的であるが、過剰量のオゾンを適用してセルロースの品質を低下させることを避けたい場合には、殆どの場合において明度は2〜3%ポイントしか増加しなかった。従来の教示を考慮すると、報告されている実験は、温度が過度に上昇することを避けることに注意を払って行っている。
【0013】
また、WO−2005/059241の文献は、20〜60℃の間で行うオゾン処理を報告しているが、アルカリ抽出の前であり、必然的に非常に高い温度での前段の酸性化工程と組み合わされている。これもまた、この温度レベルより高いとパルプの分解(粘度の低下)及び効率の低下が報告されているので、これらの温度を超えることに反対している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO−2005/059241
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】N. Liebergott, et al. "A survey of the use of ozone in bleaching pulps," TAPPI JOURNAL, Jan. 1992
【非特許文献2】TAPPI JOURNAL, vol.80, No.9, pp.209-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、導入するオゾンの量を増加させることなく且つ処理する材料に損傷を与えることなく、より効率的なオゾン処理を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
而して、本発明は、高温でパルプのオゾン処理を行う工程を含む、予備漂白した化学パルプを処理する方法に関する。
【0018】
実際、驚くべきことに、オゾン処理の温度を20℃超に上昇させると、温度がより高くなるとオゾン活性が低くなるということを示す従来技術の教示に反して、オゾンの作用がより有効になることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、混合硬材クラフトパルプに対する漂白シーケンスの最後にオゾンを適用することによる漂白に対する温度の影響を示す。
【図2】図2は、混合硬材クラフトパルプの場合における、セルロースの重合度に対する、オゾンによる最終漂白処理温度の影響を示す。
【図3】図3は、軟材クラフトパルプに対する漂白シーケンスの最後にオゾンを適用することによる漂白に対する温度の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によれば、この工程は、有利には、60℃より高く、有利には65℃より高く、更により有利には70℃以上の温度で行う。
【0021】
好ましい態様によれば、オゾン処理は80〜90℃の間の温度で行う。実施においては、プラントのエネルギーバランスを損なうことなく且つ圧力下で操作することを必須条件とすることなく本発明を利用するためには、約80℃の温度が好ましい。
【0022】
好ましくは、オゾン処理は100℃を超えない温度で行う。
【0023】
本発明方法を用いて処理することを意図する化学紙パルプは、硬材及び軟材パルプ、並びに一年生植物のような非木材パルプである、また、本発明方法は、クラフト、サルファイト、及びソーダ蒸解後のパルプを処理するのにも用いられる。
【0024】
本発明方法は、脱リグニン段階の後で、漂白シーケンスの第1番目の通常の段階の後に行う。したがって、本方法は予備漂白パルプと呼ばれるパルプに対して行う。
【0025】
より正確には、化学パルプを予備漂白するという事項は、その明度レベル及び/又はその残留リグニン含量によって評価することができる。
【0026】
而して、本発明方法は、有利には、その明度レベルが70%より高く、有利には80%より高く、好ましくは85%付近であるパルプに対して行う。明度レベルは、標準規格NF−ISO−3688にしたがって測定する。
【0027】
本発明方法によって処理する予備漂白パルプの選択に関する第2番目の基準は、残留リグニン含量である。有利には、本発明方法は、パルプの残留リグニン含量と相関するカッパー価が2.5より低く、有利には2より低く、好ましくは1より低いパルプに対して行う。これらの値は、一般に20〜30の間である非漂白パルプのカッパー価と比較すべきである。カッパー価に関して用いる標準規格は、標準規格NF−ISO−302である。
【0028】
本発明方法は、有利には、これらの2つの基準(明度及びカッパー価)の少なくとも1つ、或いは両方を満足するパルプに対して行う。
【0029】
一態様によれば、オゾン処理は本発明方法の唯一の工程であり、したがってパルプ処理の最終工程である。したがって、オゾン処理は、酸素、二酸化塩素、苛性ソーダ、過酸化水素、及び場合によってはオゾンによる段階を含む上記で言及したタイプのより複雑な製造方法の一部である。例えば、本発明方法を統合した完全なシーケンスは、ODEDZ、ODEDPZ、OZEDZ(ここで、Zは本発明による処理である)のタイプのものである。
【0030】
本発明方法は、有利には、処理の最後において、特に上流のアルカリ抽出(E)を受けたパルプに対して実施することが明らかである。
【0031】
従来技術とは異なり、パルプの予備処理、特に予備高温酸性化に関する必要条件は存在しない。
【0032】
二者択一的に、本発明方法は、上記記載のオゾン処理工程、及び少なくとも1つの引き続く漂白工程を含む。これは、新しいオゾン処理(Z)か、又は過酸化水素(P)、二酸化塩素(D)、苛性ソーダ(E)、及び/又は酸素と過酸化水素との組み合わせ(OP)による処理に関する。本発明方法の対象である最終漂白処理は、したがって変化させることができる。
【0033】
処理する化学パルプ中の残留リグニンの少ない量のために、本発明のオゾン処理は、少量のオゾン:乾燥パルプ1トンあたり5kg(又は0.5重量%)未満のオゾン、好ましくは1トンあたり2kg(又は0.2重量%)未満のみのオゾンを用いて行う。これらの適度な量により、セルロースがその品質に有害なように酸化される危険性が低減される。
【0034】
有利には、導入するオゾンの最小割合は、乾燥パルプの0.01重量%〜0.05重量%(それぞれ、パルプ1トンあたり0.1kg〜0.5kg)である。
【0035】
本発明に関連して、オゾン処理工程は2〜10の間のpHで行うことができるので、処理するパルプのpHは問題ではない。特に、本発明は、7付近の中性のpHにおいて等しく有利であることが示された。予備酸性化が必要でない限りにおいては、本発明方法は4以上のpHにおいて行うことができる。中性のpHにおいて操作することができる(硫酸を加えないので液の腐食性がより低い)という大きな有利性のために、オゾン処理は、有利には4(二酸化塩素によって処理した後の中性pHのパルプ)〜8(純水のものに近いpH)の間のpHで行う。
【0036】
特に広範囲の許容しうるpHのために、本発明のオゾン処理は、予備的な漂白(予備漂白)のために用いるシーケンスの最後の工程の直後に、したがって中間洗浄なしに行うことができる。これは、例えば最終段階が二酸化塩素による処理である場合にあてはめることができる。
【0037】
本発明方法、特にオゾン処理工程は、パルプと混合物(パルプ+水)の間の物質比に対応する広範囲のコンシステンシーを有するパルプに対して行うことができる。有利には、オゾン処理は、1〜45%の間、より正確には低いコンシステンシー方法を用いる場合には2〜3%の間、中程度のコンシステンシー法を用いる場合には3〜12%の間、高コンシステンシー法を用いる場合には35〜40%の間のコンシステンシーを有するパルプに対して行う。
【0038】
本発明によるオゾン処理方法は、クラフトパルプ又はサルファイトパルプのために特に好適である。
【0039】
上述したように、本発明の条件下において、導入するオゾンの量を増加することなく且つ処理する材料に損傷を与えることなくより効率的なオゾン処理が観察される。
【0040】
特徴的には、幾つかのタイプの硬材(落葉樹)パルプに関しては、この処理によって、更に「ピッチ」タイプの残留化合物が除去され、それにより漂白パルプの清浄度が向上する。
【0041】
態様:
本発明及びその有利性は、添付の図面と組み合わせて以下の実施態様からより明らかになるであろう。しかしながら、これらは非限定的である。
【実施例】
【0042】
実施例1:
20付近のカッパー価に相当する残留リグニン含量を有する軟材クラフトパルプを、公知の方法で、予備漂白D(EP)Dシーケンスを用いて処理した。得られた明度は83.7%−ISOであった。
【0043】
水で洗浄し硫酸でpH2.7に酸性化した後の、35%のコンシステンシーを有するこのパルプを、20〜80℃の間の可変温度を有する水浴中の回転ガラス反応器から構成される通常の実験装置内でオゾン処理にかけた。
【0044】
0.2%付近の量のオゾンをパルプに徐々に加えた。
【0045】
この処理の後、パルプを洗浄し、通常の標準的な方法によってその明度を測定した。
【0046】
得られた結果を図1における曲線によって示す。これらにより、従来技術の教示(それにしたがえば、例えば80℃での結果は20℃での結果よりも劣っていなければならない)とは異なり、Z段階の温度を上昇させると漂白結果が向上することが明瞭に示される。しかしながら、温度を80℃より高く上昇させると有利でなかったことが観察された。
【0047】
また、オゾン段階の効率性を向上させることは、セルロースの品質の大きな低下を伴わず、その重合度(水素化ホウ素ナトリウムによる還元の後に標準規格:NF−ISO−5351にしたがって測定)は非常に良好なレベルを維持することがこの実施例において観察されることも興味深い。これを図2に示す。
【0048】
実施例2:
27付近のカッパー価に相当する残留リグニン含量を有する軟材クラフトパルプを、公知の方法で、DEDED漂白シーケンスを用いて処理した。得られた明度は81.9%−ISOであった。
【0049】
このパルプは、水で洗浄した後に、7付近のpHを有していた。次に、35%のコンシステンシーを有するこのパルプを、実施例1と同じ装置内でオゾン処理にかけた。
【0050】
0.19%の量のオゾンをパルプに徐々に加えた。この処理の後、パルプを洗浄し、通常の標準的な方法によってその明度を測定した。
【0051】
この最終オゾン段階による漂白の結果を図3に示す。これらは、実施例1で得られたものと同等であった。処理pHが7であり、従来技術の教示にしたがえば、これはオゾンの速やかな分解を引き起こし、したがって効率性が失われることになるので、これは特に注目すべきである。
【0052】
この実施例においては、オゾン処理の成果は80℃より高い温度において更に良好であるようである。しかしながら、80℃より高い温度を適用することは、パルププラントの熱バランスに不利益をもたらす可能性がある。
【0053】
実施例3:
81.9の明度を得るために、上述の実施例と同じパルプをDEDEDシーケンスによって部分的に漂白した。
【0054】
実施例2とは異なり、パルプは最終D段階後に洗浄せず、35%のコンシステンシーに直接増粘させた。そのpHは4付近であった。
【0055】
このパルプに対して、80℃の温度での本発明によるオゾン処理を、0.19%の量のオゾンが消費されるまで施した。
【0056】
89%−ISOの明度が得られ、これはD段階の後に洗浄を行った実施例2と同等の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃より高く、有利には65℃より高く、更により有利には70℃以上の温度においてパルプのオゾン処理を行う工程を含む、予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項2】
オゾン処理工程を、80〜90℃の間、有利には80℃付近の温度で行う、請求項1に記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項3】
予備漂白した化学パルプが、70%より高く、有利には80%より高く、好ましくは85%付近の明度レベルを有する、請求項1又は2のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項4】
予備漂白した化学パルプが、2.5より低く、有利には2より低く、好ましくは1より低いカッパー価に相当する残留リグニン含量を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項5】
オゾン処理工程において用いるオゾンの量が、乾燥パルプの0.01〜0.5重量%の間、有利には0.05〜0.2重量%の間である、請求項1〜4のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項6】
オゾン処理工程を、2〜10の間、有利には4〜8の間のpHにおいて行う、請求項1〜5のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項7】
オゾン処理工程を1〜45%の間のコンシステンシーを有するパルプに対して行う、請求項1〜6のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項8】
オゾン処理工程を、最終予備漂白工程の直後に中間洗浄なしに行う、請求項1〜7のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。
【請求項9】
化学パルプがクラフト又はサルファイトパルプである、請求項1〜8のいずれかに記載の予備漂白した化学パルプを処理する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513728(P2010−513728A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540758(P2009−540758)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063743
【国際公開番号】WO2008/071718
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(501274528)アイティーティー・マニュファクチュアリング・エンタープライゼズ・インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】