説明

高温で動作する照射誘起発光体および放射線計測装置

【課題】軽水炉等の核分裂炉、および核融合炉における高温動作に適した照射誘起発光体およびこれを配した放射線計測装置の提供。
【解決手段】希土類酸化物を用いることにより高温で動作する照射誘起発光体が得られ、またこの希土類酸化物を用いたことを特徴とする放射線計測装置が得られる。更に詳しくは、希土類酸化物として、ユーロピウム酸化物(Eu2O3)、ガドリニウム酸化物(Gd2O3)乃至エルビウム酸化物(Er2O3)の内一つあるいは複数と、光ファイバーと、光検出器とで構成され、前記光ファイバーの一端に該発光体を配した放射線計測装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水炉等の核分裂炉、および核融合炉における高温動作に適した照射誘起発光体および放射線計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在稼働中の軽水炉等の核分裂炉、および研究開発が進められている核融合炉においては、炉内におけるガンマ線、中性子線等の線量情報、エネルギー情報は安全な運転管理において非常に重要な情報である。しかしながら、これらの原子炉内は高温であり、かつ強い電磁場が発生しているために使用できる測定器が限定される。特に電磁場による強いノイズが生じるため、従来型の電気計測機器類を用いることが難しく、新たな計測システムの開発が必要とされている。
【0003】
電磁場の影響を受けない測定技術の一つとして、光技術が考えられる。放射線照射により励起発光現象を生じる照射誘起発光体は中性子、ガンマ線等のすべての放射線に対して感度を有し、その強度、エネルギー情報を取得することができるため、原子炉内放射線管理のための優れた放射線測定材料となりうる。また、光伝達手段として光ファイバを用いることにより、電磁場によるノイズを受けない信号伝達が可能となると考えられる。そのため、放射線センサー部に照射誘起発光体、信号伝達部に光ファイバを用いることにより、強い電磁場におけるノイズレスな測定が実現できると考えられそのような放射線測定装置が提案されている。
【0004】
このような構成において、光ファイバは放射線に曝されると着色するため、光の透過損失が大きくなるという欠点があったが、近年原子炉内における光ファイバの研究が数多くなされ、耐放射線光ファイバが開発されこの点は解決されている。しかしながら、現在使用されている照射誘起発光体は熱に弱く、また耐放射線性に関してもその特性が劣悪であると言う欠点を有する。具体的に言うと、一般的な照射誘起発光体として硫化亜鉛(ZnS)とルビー(Cr添加アルミナ)があるが、いずれも室温付近では強い照射誘起発光強度を持つが,ほぼ200℃で光らなくなるという問題があった。
【非特許文献1】「放射線計測ハンドブック」第2版、244-250頁、日刊工業新聞社発行、1991年1月30日第2版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように現在使用されている照射誘起発光体は熱に弱く、これまで実用化されたものは200℃より高温では発光しなくなるという問題があった。また耐放射線性に関してもその特性が劣悪であるという問題があった。
【0006】
本発明は、400℃までの高温で発光強度を保持し動作する照射誘起発光体および放射線計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、希土類酸化物を用いることにより高温で動作する照射誘起発光体が得られ、またこの希土類酸化物を用いたことを特徴とする放射線計測装置が得られる。
【0008】
本発明は、更に詳しくは希土類酸化物として、ユーロピウム酸化物(Eu2O3)、ガドリニウム酸化物(Gd2O3)乃至エルビウム酸化物(Er2O3)の内一つあるいは複数を用いるこ
とを特徴とする放射線計測装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、希土類酸化物を用いたので200℃以上の高温でも動作する照射誘起発光体、ならびに放射線計測装置が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は本発明の実施の形態による放射線計測装置の概略構成を示す図である。光ファイバ1の一方の端には照射誘起発光体2が取り付けられ、他端には光検出器3が取り付けられている。
【0012】
図2は本発明による放射線計測装置を用いた実験システムの概略構成を示す図である。ここで、原子炉内を模した照射室7内には放射線源4が配され、本発明による放射線計測装置の照射誘起発光体2が近接配置されている。放射線源4から発せられた放射線は照射誘起発光体2により検知され、光に変換された後光ファイバ1により光検知器3に伝達される。伝達された光のエネルギーは光検出器3により検知、計測されるが、この光検出器3は照射室7の外に配置され、安全な計測が保障される。また、本実験システムでは、照射誘起発光体2にヒータ5を取り付けてある。これは、照射誘起発光体2の高温動作を検証するためのもので、ヒータ5は温度コントローラ6により所望の温度に制御される。温度コントローラ6は照射室7外に配置されている。
【0013】
次に、本発明による照射誘起発光体2の特性について説明する。
【0014】
図3、図4および図5は、希土類酸化物の照射誘起発光特性を示す図である。
【0015】
希土類酸化物にはRe2O3(Re = Nd, Sm, Eu, Gd,
Ho, Er,
Tm)があるが照射誘起発光を測定するため、これらの試料に荷電粒子、γ線を照射する。荷電粒子照射はタンデム型加速器を用いて行い、プロトン1 MeVを照射してその発光を測定する。
【0016】
プロトンの強度は2.6 x 1013 p/cm2sであり、室温、〜10-7Torrで照射する。γ線源は例えばコバルト60
γ線源であり、線源強度は3.2 PBq、照射位置での吸収線量率は6.3 Gy(H2O)/sである。また、ヒーターを用いて試料温度を〜450℃まで上昇させて発光を測定している。ユーロピウム酸化物(Eu2O3)、ガドリニウム酸化物(Gd2O3)、エルビウム酸化物(Er2O3)のプロトン誘起発光スペクトルをそれぞれ図3、図4、図5に示すが顕著な発光が得られている。
【0017】
図3のプロトン照射によるEu2O3の発光特性を見るとEu2O3にはいくつかのピークが見られる。これらのピークは3価のユーロピウム内のf-f電子遷移による発光スペクトル5D07FJ(J
= 0, 1, 2, 3, 4)であると考えられ、610、710nmの鋭いピークはそれぞれ5D07F25D07F4に起因した発光であると考えられる。
【0018】
また図5のプロトン照射によるEr2O3の発光特性より得られる鋭いピークもEr3+の軌道内電子遷移による発光であると考えられ、550、650nmのピークはそれぞれ4F9/24I15/24S3/24I15/2に起因した発光であると考えられる。
【0019】
図4のプロトン照射によるGd2O3の発光特性においても540〜660 nmの間にいくつか鋭い発光ピークがある。このことにより、本発明による希土類酸化物が放射線計測能力を持つ
ことが示された。
【0020】
次に、γ線照射における高温時のγ線誘起発光特性を説明する。ここでは、放射線源4をγ線源で構成し、ヒーター5を用い照射誘起発光体2の温度を450度まで昇温させた時の発光特性を示す。図6はγ線照射時のEu2O3の発光特性(試料温度400℃)であり、図7はγ線照射時のGd2O3の発光特性(試料温度400℃)である。
【0021】
ここで、γ線照射室内7で発光した光は光ファイバ1を通して図2に示すように光検出器3に導かれている。照射誘起発光体2である試料と同様に光ファイバ1もγ線が照射されているため、特性スペクトルには光ファイバ1による光も含まれる。光ファイバ1によるスペクトルは、照射誘起発光体2の発光スペクトル測定と同時に光ファイバ1のみの発光スペクトルを測定することにより弁別できる。
【0022】
図6、および図7中に見える350〜800nmの広い幅を持ったスペクトルが光ファイバ1自身の発光であり、これは光ファイバ1内で発生したチェレンコフ光であると考えられる。これら2つのグラフより、Eu2O3、Gd2O3とも400℃でも発光ピークが確認できる。
【0023】
Eu2O3、Gd2O3の試料温度に対する発光量の違いを示す図をそれぞれ図8、図9に示す。ここで比較として、照射誘起発光体として広く利用されている硫化亜鉛系蛍光体(ZnS:Ag)の発光スペクトル温度依存性を図10に示す。
【0024】
ここで、図10中の360、410、540、580nmのピークは発光ピークではなく、室内光により得られるピークである。ZnS:Agの発光は温度上昇と共に減少し、400℃に達するとほとんど発光していないが、Eu2O3、およびGd2O3は温度が400℃まで上昇してもその発光が減少することはない。また、Gd2O3の波長613nmの光強度は温度上昇と共に増加傾向にあり、これらの発光を高温状態で利用することは有用であることを示している。
【0025】
また、本発明に用いる光ファイバ1においては、耐放射線光ファイバを使用しても良い。図6、図7より明らかなように、350〜800nmの広い幅を持ったスペクトラムのレベルが下がり、本発明による放射線計測装置の計測能力を向上することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の主要構成要素である照射誘起発光体および光ファイバは外部電力を必要としないため、 コンパクトでメンテナンス性に優れた放射線計測装置を構成することができる。更には、
光ファイバは、柔軟性に優れ、伝送する光信号の損失は 電気ケーブルに比べて数桁以上小さい。そのため、遠距離で使用が可能となり、 放射線被曝の可能性が非常に少ない放射線計測が可能となるというメリットも生まれる。このため、本発明に係る放射線計測装置は、核分裂炉、核融合炉等の高温、高放射線濃度の様々な分野に適用できる。
【0027】
また本発明によって製造された照射誘起発光体は、高温、高放射線濃度の雰囲気における放射線計測素子として広く用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態による放射線計測装置の概略構成を示す図
【図2】本発明による放射線計測装置を用いた実験システムの概略構成図
【図3】プロトン照射によるEu2O3の発光特性
【図4】プロトン照射によるGd2O3の発光特性
【図5】プロトン照射によるEr2O3の発光特性
【図6】γ線照射時のEu2O3の発光特性(試料温度400℃)
【図7】γ線照射時のGd2O3の発光特性(試料温度400℃)
【図8】Eu2O3のγ線による発光の温度依存性
【図9】Gd2O3のγ線による発光の温度依存性
【図10】ZnS:Agのγ線による発光の温度依存性
【符号の説明】
【0029】
1 光ファイバ
2 照射誘起発光体
3 光検出器
4 放射線源
5 ヒーター
6 温度コントローラ
7 照射室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ線、中性子線等の放射線照射を受け、自らの発光によって前記放射線の特性、エネルギー量等を検知する照射誘起発光体において、希土類酸化物をその主成分として含むことを特徴とする照射誘起発光体。
【請求項2】
前記希土類酸化物として、ユーロピウム酸化物(Eu2O3)、ガドリニウム酸化物(Gd2O3)乃至エルビウム酸化物(Er2O3)の内一つあるいは複数を用いることを特徴とする請求項1記載の照射誘起発光体。
【請求項3】
請求項1乃至請求項2記載の照射誘起発光体と、光ファイバと、光検出器とで構成され、前記光ファイバの一端に前記照射誘起発光体を配し、他端に前記光検出器を配したことを特徴とする放射線計測装置。
【請求項4】
前記光ファイバは耐放射線光ファイバを使用することを特徴とする請求項3記載の放射線計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−83325(P2006−83325A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271199(P2004−271199)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】