説明

高温水又は外気温と温度差のある水による栽培植物の害虫駆除方法及び装置

【課題】 植物の根を十分に保護しつつ、高温水による植物の害虫駆除を達成する。
【解決手段】 植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、槽内に入れた高温水から上記根を断熱性材料で遮へいした状態で、上記下向き葉茎部のみを上記高温水中に所要時間浸漬し、
上記高温水中への浸漬は、植物葉茎部を壊死させることなしに、害虫を死滅させる上記高温水の温度と浸漬時間で行う、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、栽培植物特に水耕栽培中の植物に害虫が付着した場合に、該植物に高温水を施すことにより害虫を死滅させ、又は外気温と温度差のある水を施すことにより害虫を植物から離脱させる害虫駆除方法及び害虫駆除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、害虫の付着した植物に高温水を施す場合に植物と害虫(昆虫)が高温水から受ける影響についてみると、害虫は変温動物であって外気温の影響を強く受け易く、特に体積の小さい昆虫は温度の伝播が極めて早い。しかも植物に寄生する害虫の大半が植物の体表面に付着する傾向にあるから、害虫の付着した植物に高温水を施した場合、その影響が植物よりも害虫に早く作用することは知られている。
【0003】
そこで、先行技術についてみると、特許文献1に、害虫駆除方法として、高温水を、害虫の体温が生存可能温度以上になるような時間であって、植物の生存可能温度を越えない時間を限度として噴霧する方法が記載されており、実施例として、約66℃〜110℃の高温水を5秒をこえない時間施用する例、植物及びそれが植えられた土壌に約66℃〜100℃の高温水を5秒をこえない時間噴霧する例、植物及び土壌に約66℃〜427℃の超音波温水を5秒をこえない時間噴霧する例が記載されている。
【0004】
しかし、上記の従来方法には致命的欠陥がある。それは、高温水を植物に施すときに植物の根に全く考慮が払われていない点である。本発明者の実験によれば、植物の根、特に根毛は熱に対する耐性が小さい。例えば、ホウレンソウ等の根毛は、38°〜40℃、15〜10秒間で壊死した。しかも、植物の根毛は、死滅しないまでも、何らかの障害を受けたときでも、植物の生育に多大なダメージを受けるのである。それにも拘らず、上記従来方法では、植物の植えられている土壌に高温水を施用しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−32646
【発明の概要】
【0006】
本発明者は、従来の高温水による害虫駆除方法の欠点を改善すべく、植物の根に高温水が及ばないようにする方法を種々研究した結果その解決策を見いだしたのである。
【0007】
さらに、本発明者は、高温水が及ぼす予期せぬ悪影響をできるだけ避けるため、殺虫に代え、害虫を植物から離脱させる駆除方法について種々研究、実験を重ねてきた。それは、変温動物である害虫は、外気温の変化に対し徐々に適応して外気温と同じ体温に至るのであるが、体全体への温度の伝播が極めて早いことを考えると、外気温と温度差のある水を急激に害虫に及ぼしたとき、害虫はそれに適応して植物に元気に留まっていられるのか、の実験であった。実験の結果、害虫は見事に植物から離脱して落下したのである。それは、使用水による急激な温度変化が害虫に対し、いわゆる温度ショックを与え、それが害虫の植物に留まる機能を麻痺させた結果と考えられる。
【0008】
上記使用水は、外気温より高い温度、又は外気温より低い温度でも良く、処理時間は数秒〜1分間である。又、使用水と外気温との温度差が大きい程温度ショックが有効に働くが、使用水の上限温度は、植物に悪影響を及ぼす約50℃、下限は約10℃である。
上記使用水の温度条件は一つの目安であって、害虫の種類等によって適宜選定される。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の第1の課題は、従来方法でないがしろにされていた植物の根を十分に保護しつつ、高温水により植物に付着する害虫を死滅させる害虫駆除方法を提供することである。
【0010】
本願発明の第2の課題は、高温水の使用による悪影響をできるだけ避けるため、高温水よりも低温の水により、植物に付着した害虫を殺すのではなく、植物から離脱させる害虫駆除方法を提供することである。
【0011】
本願発明の第3の課題は、上記害虫駆除方法を有効に実施することのできる害虫駆除装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の課題を解決する手段として、本願第1発明は、
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、槽内に入れた高温水から上記根を断熱性材料で遮へいした状態で、上記下向き葉茎部のみを上記高温水中に所要時間浸漬し、
上記高温水中への浸漬は、植物葉茎部を壊死させることなしに、害虫を死滅させる上記高温水の温度と浸漬時間で行う、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法を提案し、
【0013】
本願第2発明は、
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、上記下向き葉茎部に高温水を所要時間噴射し、その間上記根を断熱性材料で上記噴射高温水から遮へいし、
上記高温水の噴射は、植物葉茎部を壊死させることなしに、害虫を死滅させる上記高温水の温度と噴射時間で行う、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法を提案し、
【0014】
本願第3発明は、
上記第1又は第2発明における高温水を植物葉茎部に施す前、後のいずれか一方又は両方において、植物葉茎部に低温水を施して該葉茎部を冷却する、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法を提案する。
【0015】
又、上記第2の課題を解決する手段として、本願第4発明は、
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、槽内に入れた外気温と温度差のある水の中に上記下向き葉茎部を急激に所要時間浸漬し、その間必要により上記根を断熱性材料で上記水から遮へいし、
上記外気温と温度差のある水への浸漬は、上記葉茎部に付着する害虫に温度ショックを与えて葉茎部から離脱させ且つ上記葉茎部に悪影響を与えない温度及び浸漬時間で行う、
外気温と温度差のある水による栽培植物の害虫駆除方法を提案し、
【0016】
本願第5発明は、
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、上記下向き葉茎部に、外気温と温度差のある水を急激に噴射し、その間必要により上記根を断熱性材料で上記噴射水から遮へいし、
上記外気温と温度差のある水の噴射は、上記葉茎部に付着する害虫に温度ショックを与えて葉茎部から離脱させ且つ上記葉茎部に悪影響を与えない温度及び噴射時間で行う、
外気温と温度差のある水による栽培植物の害虫駆除方法を提案する。
【0017】
さらに、上記第3の課題を解決する手段として、本願第6発明は、
広間隔をあけて軸支された駆動車と従動車に無端駆帯を掛け回して上部走行路つづいて逆送する下部走行路を形成し、
上記無端駆帯に、断熱性材料からなるボックスであって、内部の根収納室内に根を収容し、葉茎部をボックス上面から突出させた植物栽培ボックスの多数体を走行方向に隣接状態でそれぞれ連結し、該無端駆帯の駆動により上記栽培ボックスを上部走行路においては葉茎部を上に向けた正姿勢で、ついで下部走行路において葉茎部を下に向けた反転姿勢で走行させ、
上記下部走行路に至った栽培ボックス群のうち一部の栽培ボックスの下向き葉茎部に対し、高温水又は外気温と温度差のある水を施用すべき浸漬槽又は噴射室のいずれか1つ又は複数を下方後退位置から施用位置へ昇降自在に配置した、
栽培植物の害虫駆除装置を提案し、
【0018】
又、本願第7発明は、
断熱性材料からなるボックス内部の根収納室内に植物の根を収容し、葉茎部をボックス上面から突出させた植物栽培ボックスの多数体を、互に隣接状態で、左右支持台上に上下反転可能に支持し、
上記栽培ボックス群のうち一部の栽培ボックスの反転時の下向き葉茎部に対し、高温水又は外気温と温度差のある水を施用すべき浸漬槽又は噴射室のいずれか1つ又は複数を下方後退位置から施用位置へ昇降自在に配置すると共に、各栽培ボッスの下に移動できるように走行可能に支持した
栽培植物の害虫駆除装置を提案する。
【発明の効果】
【0019】
本願第1、第2発明によれば、植物を、根を上に、葉茎部を下に向けた反転状態において、その下向きの葉茎部に高温水を施すから、高温水が根の方へ流下する危険がないばかりでなく、高温水への浸漬、高温水の噴射いずれの方法においても、下向きに垂下している葉茎部に対する処理作業の容易さが大きな利点となる。しかも高温に弱い根は断熱性材料で遮へいしてあるから、高温水への浸漬、高温水の噴射時に根を高温水から防止し、さらなる作業の安全を確保できるのである。
【0020】
又、本願第3発明によれば、高温水処理の前に葉茎部を冷却すれば、葉茎部が低温となり、高温水の影響が植物体に伝播する時間を遅らせることができ、高温水処理の後に葉茎部を冷却すれば、体温の上昇した植物体の温度を下げて葉焼け等の高温障害を防止でき、さらに高温水処理の前、後に冷却すれば、高温障害の発生率をさらに低下させることができると共に、必要によっては葉茎部に施すべき高温水の温度をより高く、処理時間をより長くして害虫駆除率を高めることができるのである。
【0021】
本願第4、第5発明は、外気温と温度差のある水により害虫に温度ショックを与えて植物から離脱させるものであるから、第1、第2発明が害虫を殺虫するために使用する高温水よりも比較的低い温度の水で足りるようになり、それにより葉茎部に及ぼす悪影響を十分抑制することが可能となるのである。
【0022】
本願第6、第7発明によれば、多数栽培ボックスのうちの一部の栽培ボックスに対応する小型浸漬槽、噴射室に少量の高温水等を用意すれば足りることとなり、経済的に有利になると共に、高温水等の温度管理が容易になる利点も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(イ)、(ロ)高温水への浸漬による害虫殺虫駆除方法の実施例を示す略線図である。
【図2】(イ)、(ロ)高温水への浸漬による害虫殺虫駆除方法の他の実施例を示す略線図である。
【図3】高温水噴射による害虫殺虫駆除方法の実施例を示す略線図である。
【図4】外気温と異なる温度水への浸漬による害虫離脱駆除方法の実施例を示す略線図である。
【図5】外気温と異なる温度水の噴射による害虫離脱駆除方法の実施例を示す略線図である。
【図6】冷却を伴う高温水噴射による害虫殺虫駆除方法の実施例を示す略線図である。
【図7】(イ)害虫駆除装置の一部省略縦断側面図である。 (ロ)浸漬槽部分の拡大縦断側面図である。 (ハ)噴射室部分の拡大縦断側面図である。
【図8】害虫駆除装置の他の例の平面図である。
【図9】図8のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明における上記「葉茎部を下に、根を上に向けた反転状態」とは、垂直の状態に限らず、傾斜した状態も含む。
【0025】
又、「根を断熱性材料で高温水又は温度水から遮へいする」とは、発泡スチロール等の合成樹脂発泡体、ゴム、合成木材その他種々の断熱性材料でつくられたボックス、カバー等で根に及ぶ高温水等を遮ぎることである。ボックス型のものとしては、ボックス内に形成した根収納室内に根を収容し、葉茎部はボックス上に突出させた状態で、根収納室内に培養液を給排する栽培型ボックスは、そのまま根の遮へいボックスとして利用できる。
【0026】
又、従来、広く使用されている発泡スチロール板等のパネル上に植物を植えつけ、根をパネル下に突出させて培養液に浸漬させる栽培用植物植設パネルは、根を上に反転したときは、パネル自身が下からの高温水等を遮へいするものとなり、又パネル上の根に断熱性カバーを覆蓋すれば、さらに遮へいが十分となる。
【0027】
上記根の高温水からのさらなる安全を確保するため、高温水処理時に、根に冷風、特に好ましくは高湿度の冷風を吹つける方法を採ることもできる。
【0028】
(1)本発明者による害虫を死滅させるに要する温度と処理時間を次に示す。
【表1】

(2)植物の壊死を起すに要する温度と処理時間を次に示す
【表2】

実際に施用される高温水の温度及び処理時間は、植物及び害虫の種類、気温、湿度等に応じて適宜選択される。
【実施例1】
【0029】
第1発明の実施例
図1(イ)のように、支持レール(2)、(2)に、発泡スチロール製の断熱性栽培ボックス(1)…を走行自在に支持させ、該栽培ボックス(1)…内の根収納室内に根を収容し、葉茎部をボックス上面から突出した状態で、培養液を根収納室内に供給、排出してホウレンソウ(P)…を栽培している場合に、葉茎部に付着したモンシロチョウ幼虫及びアブラムシを高温水で殺虫駆除する例である。
【0030】
同図(ロ)のように、浸漬槽(3)内に50℃に加熱された高温水(4)を注入する。ホウレンソウ(P)…を植えた栽培ボックス(1)…を浸漬槽(3)の上まで支持レール(2)、(2)上を走行させ、そこで栽培ボックス(1)…を、葉茎部を下に根を上にした状態に反転し、それにより葉茎部を高温水(4)中に浸漬する。浸漬は10秒間行い、直ちに引き上げる。
【0031】
上記50℃の高温水中に10秒間浸漬することにより、ホウレンソウには何ら障害を与えることなく、モンシロチョウ幼虫及びアブラムシを死滅させることができた。死滅した害虫の多くは高温水の底に沈下し、浸漬槽(3)に設けた濾過装置に回収される。
【実施例2】
【0032】
第1発明の他の実施例
図2(イ)のように、発泡スチロール製の断熱パネル(1a)…にコスレタス(Pa)…を植えつけ、その葉茎部をパネル上に、根をパネル下に突出した状態で、栽培槽(6a)内の培養液(7a)液面上に浮かべて栽培を行っている場合に、葉茎部にヨトウムシ、アブラムシが付着したので、これを高温水で殺虫駆除する例である。
【0033】
上記コスレタス植設パネル(1a)…を、葉茎部を下に、根を上にした状態に反転すると共に、パネル(1a)…の上面に、発泡スチロール製の横断面カップ状の断熱性カバー(8a)…をかぶせて根を覆い、その状態でパネル(1a)…浸漬槽(3a)の高温水(4a)上に移し、葉茎部を50℃の高温水中に8秒間浸漬する。
【0034】
上記浸漬時に、パネル(1a)…を支持台(9a)、(9a)に支持して、パネル(1a)…を高温水(4a)液面から離間させるとよい。
【0035】
上記50℃の高温水中に8秒間葉茎部を浸漬することにより、コスレタス(Pa)に障害を与えることなく、ヨトウムシ、アブラムシを死滅させることができた。
【0036】
上記実施例1、2において、栽培ボックス(1)…、(1a)…を高温水(4)、(4a)の水面に浮かべて高温処理を行うようにしてもよい。
【実施例3】
【0037】
第2発明の実施例
図1(イ)と同様に栽培ボックス(1b)…に植えたチシャの葉茎部にヨトウムシ、アブラムシが付着した場合に、高温水を噴射することにより害虫を殺虫駆除する例である。
【0038】
上記のチシャを植えた栽培ボックス(1b)…を、図3のように上面開口した噴射室(10b)の上に移動し、そこで各栽培ボックス(1b)…を葉茎部を下に反転し、その状態で、噴射室(10b)内の高温水供給管(11b)…のノズルから50℃の高温水を葉茎部に対し斜め下から20秒間噴射する。
【0039】
上記50℃の高温水を20秒間噴射することにより、チシャに障害を与えることなく、害虫を死滅させる。死滅した害虫のほとんどは噴射室(10b)の床上に落下するから、これを適宜回収処分する。
【実施例4】
【0040】
第4発明の実施例
図1(イ)と同様に栽培ボックス(1c)…にシュンギクを植えて栽培を行っている場合に、その葉茎部にアブラムシ、テントウムシが付着したので、外気温と異なる温度の水(ショック水)中に浸漬することにより、害虫を葉茎部から離脱させる駆除の例である。
【0041】
図4に示すように、外気温24℃の下で、浸漬槽(3c)に、38℃の温度ショック水(5c)を注入する。上記シュンギクを植えた栽培ボックス(1c)…を、浸漬槽(3c)の上に移動させ、そこで各栽培ボックス(1c)…を反転して各葉茎部を上記ショック水(5c)中に急速に浸漬する。浸漬は8秒間行う。
【0042】
外気温24℃の下で、それより高温の38℃の水中に急速に8秒間浸漬することにより、アブラムシ、テントウムシに温度ショックを与えて葉茎部から離脱させた。葉茎部には全く障害を与えることはない。離脱した害虫のほとんどは温度ショックにより麻痺しているが、なかにはひん死のものや死滅したものも含まれることがある。
【0043】
離脱した害虫は浸漬液に沈下し、又は液面に浮遊するが、前者は、浸漬液の濾過装置に回収され、後者は適宜回収して処分する。
【実施例5】
【0044】
第5発明の実施例
図1(イ)と同様に栽培ボックス(1d)…に植えたチシャの葉茎部にヨトウムシ、アブラムシが付着したので、これに外気温と異なる温度の水を噴射して植物から離脱させる例である。
【0045】
外気温35℃の下で、チシャを植えた栽培ボックス(1d)…を、図5に示すように、水(14d)を入れた上面開口の噴射室(10d)の上に移動し、そこで各栽培ボックス(1d)…を葉茎部を下に反転し、その状態で、噴射室(10d)内のショック水供給管(12d)…のノズルから、外気温35℃より低い15℃のショック水(5d)を葉茎部に対し急速に噴射した。噴射時間は10秒間行った。
【0046】
ヨトウムシ、アブラムシは上記の温度ショックにより葉茎部から離脱して落下した。
【0047】
落下した害虫は室内の水(14d)に沈下し、又は水面に浮遊し、前者は濾過装置に回収され、後者は適宜回収して処分する。
【実施例6】
【0048】
第3発明の実施例
栽培ボックス(1e)…に植えたミズナの葉茎部にヨトウムシが付着した場合に、高温水を噴射する前後に低温水を噴射して冷却する例である。
【0049】
図6のように、ミズナ(Pe)を植えた栽培ボックス(1e)…を噴射室(10e)の上に移動させ、そこで栽培ボックス(1e)…を葉茎部を下に反転させ、その状態で、まず噴射室(10e)内の冷却水供給管(15e)の各ノズルから15℃の低温水を葉茎部に10秒間噴射して冷却する。ついで高温水供給管(11e)…のノズルから55℃の高温水を20秒間噴射してヨトウムシを死滅させ、ついで、冷却水供給管(15e)のノズルから15℃の低温水を再度10秒間噴射して葉茎部を冷却する。
【0050】
上記の冷却処理により、ミズナにとって危険な55℃、10秒間の高温処理に対して、ミズナを安全に維持しつつ害虫の死滅駆除を行うことができた。
【実施例7】
【0051】
第6発明の実施例
図7(イ)において、フレーム(Ff)の前後端部に駆動軸(16f)及び従動軸(17f)を支承し、駆動軸(16f)、従動軸(17f)の各左右端部に駆動スプロケット(18f)、(18f)、従動スプロケット(19f)、(19f)をそれぞれ固着し、これら左右の駆動スプロケット(18f)、従動スプロケット(19f)、(18f)と(19f)にそれぞれ無端チェン(20f)、(20f)を掛け回し、これら左右2本の無端チェンにて直線状の上部走行路(U)、それから反転して逆方向へ延長する下部走行路(D)を形成し、これら左右の無端チェン(20f)、(20f)に、短辺がわ側面を太鼓形とした多数の栽培ボックス(1f)…をその太鼓形の弧状面を互に隣接した状態で連結してある。上記駆動軸(16f)には、モーターから減速機を介して回転が伝達される。
【0052】
上記栽培ボックス(1f)…は、上記上部走行路(U)にあるとき根収納室内に培養液を給排されて、葉茎部を上に向けた正姿勢で栽培されているが、無端チェン(20f)、(20f)の駆動により駆動スプロケット(18f)をめぐって葉茎部を下にした逆姿勢で下部走行路(D)を逆送し、両走行路(U)、(D)において各栽培ボックス(1f)…全体で1つの屋根を構成する。
【0053】
上記下部走行路(D)の下には、本例では栽培ボックス(1f)2列分の幅に対応する高温水浸漬槽(3f)及び同じくボックス2列分の幅のショック水噴射室(10f)を、それぞれエアシリンダ(21f)、(22f)にて昇降自在に支持されており、エアシリンダ(21f)、(22f)の縮小駆動により降下したときは、各栽培ボックス(1f)…が駆動スプロケット(18f)をめぐって葉茎部を下に反転しても、各葉茎部を垂下したまま下部走行路(D)へ支障なく進行できるように、下方の後退位置に降下しており、エアシリンダ(21f)、(22f)の伸長駆動により上昇したときは、浸漬槽(3f)、噴射室(10f)が栽培ボックス(1f)…の下面に接するか、接近した施用位置まで上昇し、浸漬槽(3f)においては、2列分の栽培ボックス(1f)…の下向きの葉茎部を高温水(4f)中に浸漬し、又噴射室(10f)に置いては同じく2列分の下向き葉茎部をショック水供給管(12f)からの噴射水を受けうる位置においている。
【実施例8】
【0054】
第7発明の実施例
図8、9に示すように、各栽培ボックス(1g)…は、短辺がわ側面を逆台形状に形成し、その両側面に軸(23g)、(23g)を突設したもので、これら栽培ボックス(1g)…を、左右支持台(2g)、(2g)上に固定した軸受(24g)(24g)、に各軸(23g)(23g)、…を回転自在に支承させて、長辺がわ側面を互に隣接状態に支持し、その際、各栽培ボックス(1g)…は、葉茎部を上に向けた正姿勢時、及び上下反転した逆姿勢(図9の状態)時に、側面の台形における下辺の両端部に相当する長辺部を隣り同志互に当接して栽培ボックス(1g)全体で1つの屋根を構成する。
【0055】
上記のように支持した栽培ボックス(1g)…を上下反転させる機構は次のようである。各栽培ボックスにおける一側がわの軸(23g)…に内側スプロケット(25g)と外側スプロケット(26g)をそれぞれ固定し、まず回転角度制御型モーター(本例では180度回転)(27g)の駆動スプロケット(28g)と、第1の栽培ボックスの内側スプロケット(25g)とに第1チェン(29g)を掛け、次に第1栽培ボックスの外側スプロケット(26g)と、第2栽培ボックスの外側スプロケット(26g)とに第2チェン(30g)を掛け、第2栽培ボックスの内側スプロケット(25g)と、第3栽培ボックスの内側スプロケット(25g)とに第3チェン(31g)を掛け、以下同様に第4チェン(32g)を掛け、最後位の栽培ボックスのスプロケット(26g)までチェン(n)を掛ける。
【0056】
このようにして、モーター(27g)の180度づつの回転により各栽培ボックス(1g)…が180度回転を繰り返し、正姿勢から逆姿勢、ついで正姿勢へと反転を行っていく。
【0057】
上記栽培ボックス(1g)…の下には、ボックス配列方向に沿ってレール(31g)、(31g)を敷設し、該レール(31g)、(31g)に走行自在にのせたモーターつき台車(32g)上にエアシリンダ(22g)を設置し、該シリンダ(22g)に、本例では栽培ボックス2列分の幅を有する温度ショック水噴射室(10g)を昇降自在に支持してある。
【0058】
本例では、各栽培ボックス(1g)…を支持台(2g)、(2g)上で葉茎部を下に反転した後、エアシリンダ(22g)の伸長駆動により噴射室(10g)を栽培ボックス2列分(1g)、(1g)に当接する位置に上昇させ、そこで温度ショック水をショック水供給管(12g)、(12g)の各ノズルから葉茎部に所要時間噴射し、次に噴射室(10g)を葉茎部より下に降下させた後、台車(32g)を、栽培ボックス2列分の距離を後方へ移動させ、そこで噴射室(10g)を新たな栽培ボックス2列分に上昇当接させて新たな葉茎部に温度ショック水を噴射し、以下これを繰り返していく。
【符号の説明】
【0059】
1、1b、1c、1d、1e、1f、1g 断熱性栽培ボックス
1a 断熱パネル
3、3a、3f 高温水浸漬槽
3c ショック水浸漬槽
10b 高温水噴射室
10d、10f、10g ショック水噴射室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、槽内に入れた高温水から上記根を断熱性材料で遮へいした状態で、上記下向き葉茎部のみを上記高温水中に所要時間浸漬し、
上記高温水中への浸漬は、植物葉茎部を壊死させることなしに、害虫を死滅させる上記高温水の温度と浸漬時間で行う、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法。
【請求項2】
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、上記下向き葉茎部に高温水を所要時間噴射し、その間上記根を断熱性材料で上記噴射高温水から遮へいし、
上記高温水の噴射は、植物葉茎部を壊死させることなしに、害虫を死滅させる上記高温水の温度と噴射時間で行う、
高温水による栽培植物の害虫駆除方法。
【請求項3】
上記高温水を植物葉茎部に施す前、後のいずれか一方又は両方において、植物葉茎部に低温水を施して該葉茎部を冷却する、
請求項1、2のいずれかに記載の高温水による栽培植物の害虫駆除方法。
【請求項4】
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、槽内に入れた外気温と温度差のある水の中に上記下向き葉茎部を急激に所要時間浸漬し、その間必要により上記根を断熱性材料で上記水から遮へいし、
上記外気温と温度差のある水への浸漬は、上記葉茎部に付着する害虫に温度ショックを与えて葉茎部から離脱させ且つ上記葉茎部に悪影響を与えない温度及び浸漬時間で行う、
外気温と温度差のある水による栽培植物の害虫駆除方法。
【請求項5】
植物を、害虫の付着した葉茎部を下に、根を上に向けた状態に反転し、上記下向き葉茎部に、外気温と温度差のある水を急激に噴射し、その間必要により上記根を断熱性材料で上記噴射水から遮へいし、
上記外気温と温度差のある水の噴射は、上記葉茎部に付着する害虫に温度ショックを与えて葉茎部から離脱させ且つ上記葉茎部に悪影響を与えない温度及び噴射時間で行う、
外気温と温度差のある水による栽培植物の害虫駆除方法。
【請求項6】
広間隔をあけて軸支された駆動車と従動車に無端駆帯を掛け回して上部走行路つづいて逆送する下部走行路を形成し、
上記無端駆帯に、断熱性材料からなるボックスであって、内部の根収納室内に根を収容し、葉茎部をボックス上面から突出させた植物栽培ボックスの多数体を走行方向に隣接状態でそれぞれ連結し、該無端駆帯の駆動により上記栽培ボックスを上部走行路においては葉茎部を上に向けた正姿勢で、ついで下部走行路において葉茎部を下に向けた反転姿勢で走行させ、
上記下部走行路に至った栽培ボックス群のうち一部の栽培ボックスの下向き葉茎部に対し、高温水又は外気温と温度差のある水を施用すべき浸漬槽又は噴射室のいずれか1つ又は複数を下方後退位置から施用位置へ昇降自在に配置した、
栽培植物の害虫駆除装置。
【請求項7】
断熱性材料からなるボックス内部の根収納室内に植物の根を収容し、葉茎部をボックス上面から突出させた植物栽培ボックスの多数体を、互に隣接状態で、左右支持台上に上下反転可能に支持し、
上記栽培ボックス群のうち一部の栽培ボックスの反転時の下向き葉茎部に対し、高温水又は外気温と温度差のある水を施用すべき浸漬槽又は噴射室のいずれか1つ又は複数を下方後退位置から施用位置へ昇降自在に配置すると共に、各栽培ボッスの下に移動できるように走行可能に支持した
栽培植物の害虫駆除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−259352(P2010−259352A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111781(P2009−111781)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(395021239)株式会社生物機能工学研究所 (21)
【Fターム(参考)】