説明

高温超電導磁石用永久電流スイッチ

【課題】 永久電流モードを高温超電導磁石において実現する、高温超電導磁石用永久電流スイッチを提供する。
【解決手段】 励磁用直流電源1に接続された高温超電導磁石2と並列に接続される高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、永久電流スイッチ4を構成する高温超電導線3の近傍に常電導電磁石5を配置し、この常電導電磁石5に交流電源5Cを接続して交流電流を流すことにより、前記高温超電導線3に渦電流による発熱と磁場の両方を発生させて臨界温度に到達しない小さい熱負荷でも、外部磁場が加わることにより、前記高温超電導磁石2の常電導転移を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導磁石に用いる永久電流スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、磁場、温度、通電電流の3条件により、超電導状態を維持できるか否かが決まる。低温超電導磁石においては、ヒーターで超電導線に熱を加えることによって起こる常電導転移を利用した永久電流スイッチが一般的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.Takahashi,et al,「Relaxation of trapped magnetic field in a 100m long class MgB2 solenoid coil in persistent current mode operation」,Supercond.Sci.Technol.18,pp.373−375(2005)
【非特許文献2】高橋 雅也 外4名,「MgB2 で作製した永久電流スイッチの開発」,低温工学,社団法人低温工学協会,41巻11号,pp.525−530(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、高温超電導体は臨界温度が高いため、熱負荷を利用した熱スイッチを用いることは極めて困難である。
以下、その点について説明する。
近年、MRIやNMRなどにおいて、高感度・高分解能分析を可能にするため、高磁場化への要求が高く、それに伴い、定格運転電流も高くなる傾向を示している(上記非特許文献1参照)。現在、永久電流スイッチは、例えば、CuNi合金マトリックスのNbTi線材で作製されているものが多い。これは、常電導転移時の抵抗を高くし、外部電源から効率的に超電導コイルへ通電するようにするためである。しかし、CuNi合金マトリックスが高抵抗であり、かつNbTiのTc(臨界温度)が低いことから、CuマトリックスNbTi線材と比較して、低い電流でクエンチしやすく、熱的に不安定な線材構成となっている。このため、大きい負荷マージンをとる設計や複数素子化を余儀なくされ、大電流化への対応を困難にしている(上記非特許文献2参照)。
【0005】
この問題に対処するため、Bi−2212線材やNb3 Sn線材で永久電流スイッチ用線材が試作されている。中でもBi−2212線材は臨界温度Tcが85Kと高いため期待されたが、通電電流が100A程度であること、フラックスクリープが生じることから、永久電流スイッチ等にはまだ実用化されていない。
本発明は、上記状況に鑑みて、永久電流モードを高温超電導磁石において実現する、高温超電導磁石用永久電流スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕励磁用直流電源に接続れた高温超電導磁石と並列に接続される高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、永久電流スイッチを構成する高温超電導線の近傍に常電導電磁石を配置し、この常電導電磁石に交流電源を接続して交流電流を流すことにより、前記高温超電導線に渦電流による発熱と磁場の両方を発生させて臨界温度に到達しない小さい熱負荷でも、外部磁場が加わることにより、前記高温超電導磁石の常電導転移を発生させることを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記高温超電導線がビスマス系又は希土類系高温超電導線であることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記常電導電磁石は、その両端が対向して形成されるギャップを有するC型磁心と、前記交流電源が接続され前記C型磁心に巻回されるコイルとからなることを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔3〕記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記C型磁心が珪素鋼板又はパーマロイからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、永久電流モードを高温超電導磁石において実現することにより、高温超電導磁石の励磁電源が分離可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示す高温超電導磁石用永久電流スイッチの回路図である。
【図2】本発明の実施例を示す高温超電導磁石用永久電流スイッチの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高温超電導磁石用永久電流スイッチは、励磁用直流電源に接続された高温超電導磁石と並列に接続される高温超電導磁石用永久電流スイッチであって、永久電流スイッチを構成する高温超電導線の近傍に常電導電磁石を配置し、この常電導電磁石に交流電源を接続して交流電流を流すことにより、前記高温超電導線に渦電流による発熱と磁場の両方を発生させて臨界温度に到達しない小さい熱負荷でも、外部磁場が加わることにより、前記高温超電導磁石の常電導転移を発生させる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す高温超電導磁石用永久電流スイッチの回路図、図2はその高温超電導磁石用永久電流スイッチの模式図である。
これらの図において、1は励磁用直流電源、2は励磁用直流電源1に接続されるビスマス系又は希土類系高温超電導線からなる高温超電導コイル(高温超電導磁石)、3は高温超電導コイル2に並列に接続されるビスマス系又は希土類系高温超電導線、4は高温超電導コイル2の永久電流スイッチ、5は高温超電導線3の常電導転移時の抵抗を大きくし、永久電流スイッチ4を開く機能を果たす常電導電磁石、6は真空容器を示している。さらに、常電導電磁石5は、珪素鋼板又はパーマロイからなり、その両端が対向して形成されるギャップ5Dを有するC型磁心5Aと、交流電源5Cが接続され、C型磁心5Aに巻回されるエナメル線からなるコイル5Bとで構成されている。
【0013】
このように、高温超電導線3の近傍に常電導電磁石5を配置し、この常電導磁石5に交流電源5Cを接続して交流電流を流すことにより、高温超電導線3に渦電流による発熱と磁場の両方を発生させて臨界温度に到達しない小さい熱負荷でも、外部磁場が加わることにより、高温超電導コイル2に常電導転移を発生させる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の高温超電導磁石用永久電流スイッチは、永久電流モードを高温超電導磁石において実現する、高温超電導磁石用永久電流スイッチとして利用可能である。
【符号の説明】
【0015】
1 励磁用直流電源
2 高温超電導コイル(高温超電導磁石)
3 高温超電導線
4 永久電流スイッチ
5 常電導電磁石
5A C型磁心
5B コイル
5C 交流電源
5D ギャップ
6 真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁用直流電源に接続された高温超電導磁石と並列に接続される高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、永久電流スイッチを構成する高温超電導線の近傍に常電導電磁石を配置し、該常電導電磁石に交流電源を接続して交流電流を流すことにより、前記高温超電導線に渦電流による発熱と磁場の両方を発生させて臨界温度に到達しない小さい熱負荷でも、外部磁場が加わることにより、前記高温超電導磁石の常電導転移を発生させることを特徴とする高温超電導磁石用永久電流スイッチ。
【請求項2】
請求項1記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記高温超電導線がビスマス系又は希土類系高温超電導線であることを特徴とする高温超電導磁石用永久電流スイッチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記常電導電磁石は、その両端が対向して形成されるギャップを有するC型磁心と、前記交流電源が接続され前記C型磁心に巻回されるコイルとからなることを特徴とする高温超電導磁石用永久電流スイッチ。
【請求項4】
請求項3記載の高温超電導磁石用永久電流スイッチにおいて、前記C型磁心が珪素鋼板又はパーマロイからなることを特徴とする高温超電導磁石用永久電流スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−238717(P2012−238717A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106586(P2011−106586)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】