説明

高濃度シリカスラリ−及びその製造法

【課題】固形分濃度が20重量%以上で、なおかつ正電荷で長時間安定な高濃度シリカスラリ−を提供する。
【解決手段】シリカ濃度が20〜50%、pHが1.5〜5.5、導電率が300〜1500μS/cmであって、且つ、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が+10〜+80mVである高濃度シリカスラリーを用いる。その様な高濃度シリカスラリーはシリカゲルと水を粉砕、分散化し、負電荷スラリーを得た後、分子量2000〜100000のカチオン性高分子と混合し、得られたシリカ含水ゲルを、水洗し塩を除去した後、再分散することによって製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度シリカスラリ−及びその製造方法に関するものである。本発明の方法により製造された高濃度シリカスラリ−は、例えば、記録紙、研磨材、化粧品等各種の用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
本発明で言うシリカスラリ−とは、SiOで表されるシリカが沈降せずに溶媒に安定的に分散したシリカコロイドである。
【0003】
一般的なシリカコロイドとしては、シリカゾルがある。シリカゾルは、工業的にはイオン交換樹脂法等の方法で製造される。例えば、Du Pont社製Ludox、日産化学株式会社製スノ−テックス、触媒化成工業株式会社製カタロイド等がある。
【0004】
シリカゾルの粒子径は0.007〜0.04μm程度で、BET法により測定される比表面積は70〜400m/g程度であり、シリカゾルは0.007〜0.04μm程度のシリカ微粒子が溶媒中に凝集することなく分散したものである。又、高純度シリカコロイドとしては、アルコキシシランを原料とするゾルゲル法で合成したシリカコロイドが知られている。例えば、扶桑化学工業株式会社製クオ−トロン等がある。ゾルゲル法で合成したシリカコロイドの粒子径は、0.3〜25μmで比表面積は0.3〜12m/g程度であり、0.3〜25μm程度のシリカ微粒子が溶媒中に凝集することなく分散したものである。
【0005】
これらシリカコロイドは、シリカ粒子表面のシラノール基の解離による負電荷のゼータ電位による静電的反発力により安定に分散している。
【0006】
例えば、負電荷を有すシリカコロイドを近年広く応用されているインクジェット紙用の塗工液に使用すると、インク成分が負電荷である場合が多く、定着性や耐水性の問題が生じ易く、インクジェット紙用の塗工液には正の電荷を有すアルミナ水和物コロイドが使用されることがある。しかしながら、アルミナ水和物コロイドはインク吸収性に課題が生じ易く、インク吸収性に優れたシリカコロイドで正の電荷を有す安定なシリカスラリーが望まれている。
【0007】
又、負電荷シリカゾルは、酸性領域で使用すると不安定となり易く、例えば、弱酸性領域で使用されるインクジェット紙の塗工液用には正の電荷を有すシリカコロイドが望まれている。
【0008】
近年、正電荷ゾルとして例えば、シリカアルミナ複合ゾルが、シリカとアルミナとを含む凝集粒子が水性溶媒中に分散したコロイド溶液であって、シリカは一次粒子が球状で平均粒子直径が2〜30nm、凝集粒子の平均粒子直径が100〜1000nm、凝集粒子のゼータ電位が+10mV以上、溶液のpHが3〜9であるシリカアルミナ複合ゾル(例えば、特許文献1)、無機微粒子が分散された無機微粒子分散液において、無機微粒子(例えば、気相法シリカ)と水溶性多価金属化合物(例えば、塩基性ポリ水酸化アルミニウム)を含み、かつゼータ電位が+60mV以上である無機微粒子分散液(例えば、特許文献2)、が開示されている。
【0009】
一方、シリカとカチオン性樹脂を混合する方法が提案されている。
【0010】
例えば、平均粒子径が200nm未満のシリカ微粒子とカチオン性樹脂とを極性溶媒中で混合して得られる混合液を、処理圧力300Kgf/cm以上で対向衝突させるか、或いはオリフィスの入り口側と出口側の圧差が300Kgf/cm以上である条件下でオリフィスを通過させることにより、再度、元の分散状態まで再分散した分散液が報告されている。(例えば、特許文献3)また、極性溶媒中に湿式シリカ及びカチオン性樹脂を分散せしめた分散液であって、該分散液中のシリカ濃度が22重量%超であり、且つ、該分散液中のシリカ粒子の平均粒子径が0.5μm未満であって、該カチオン性樹脂が平均分子量1万以下の環状アンモニウム塩型のカチオン性樹脂であるカチオン性樹脂変性シリカ分散液が開示されている。(例えば、特許文献4)
一般的に、負電荷のシリカ粒子とカチオン性高分子を混合すると粘度の上昇、更にはゲル化や凝集がみられる。特許文献3及び特許文献4ではシリカ粒子とカチオン性樹脂の不安定な混合物を再分散させることで正の電荷を有すシリカ分散液を得ている。
【0011】
しかしながら、特許文献3、特許文献4ではシリカ粒子とカチオン性高分子を混合し得た混合溶液を機械的に分散させたものであり、分散液中にはアンモニウム塩型のカチオン性高分子や硫酸等の電解質を多量に含有し導電率が高いものとなり、高濃度シリカスラリ−の安定性はまだ十分とは言えなかった。
【0012】
又、シリカとカチオン性樹脂の混合液の保存に関する方法が提案されている。例えば、シリカとして乾式シリカを用い、該乾式シリカをカチオン性樹脂と共に極性溶媒中に分散させた後、5〜45℃の範囲の温度で10日以上熟成を行うカチオン性樹脂変性シリカ分散液(例えば、特許文献5)や、極性溶媒中にシリカ及びカチオン性樹脂を分散したカチオン性樹脂変性シリカ分散液を、5℃以上30℃以下の温度範囲で保存するカチオン性樹脂変性シリカ分散液(例えば、特許文献6)が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献5及び特許文献6のカチオン性樹脂変性シリカ分散液は、特許文献5では長期間の熟成はしているが洗浄処理したものではなく、特許文献6では30℃以下の温度での保存及び輸送がされているが、やはり洗浄処理されたものではなく、安定性は十分とは言えなかった。
【0014】
【特許文献1】特開2001−180926(請求項4)
【特許文献2】特開2004−285308(0010欄)
【特許文献3】特開2000−239536(0009欄)
【特許文献4】特開2005−762(請求項1)
【特許文献5】特開2001−207078(請求項2)
【特許文献6】特開2003−129395(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高い安定性を有すシリカ濃度が20〜50%、pHが1.5〜5.5、導電率が300〜1500μS/cm、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が+10〜+80mVの高濃度シリカスラリ−及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、本発明の高濃度微細シリカスラリ−を工業的に容易に且つ低コストで製造する方法において、コロイド粒子の安定性機構に着目して鋭意検討した結果、シリカ濃度が20〜50%、pHが1.5〜5.5、導電率が300〜1500μS/cmであって、且つ、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が+10〜+80mVである高濃度シリカスラリ−では、長期間沈降せず、安定であること、またそのような高濃度シリカスラリーはシリカゲルを0.5〜5mmの純度99.95%以上の高純度シリカボ−ルをメディアとして使用するメディアミルにより粉砕、分散化し負電荷高濃度スラリーを得た後に、分子量2000〜100000のカチオン性高分子を混合し得られたシリカ含水ゲルを、水洗して塩を除去した後、再分散することにより得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0017】
本発明は、コロイド粒子の安定性機構、特にコロイド粒子の安定性に及ぼす電解質濃度の影響に着目したものであって、高濃度シリカスラリーの導電率に特に特徴があり、製造法としてはシリカ粒子とカチオン性高分子を混合し、得られるカチオン性高分子や酸等の電解質を含有したカチオン性高分子含有シリカ含水ゲルを水洗して塩を除去することに特徴がある。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の高濃度シリカスラリ−のシリカ濃度は20〜50%であり、好ましくは25%を超え45%以下である。シリカ濃度が20%未満では工業的な利用価値が低く、一方、シリカ濃度50%を超える場合、本発明の範囲の粘度が得難い。
【0020】
尚、本発明におけるシリカ濃度は、高濃度シリカスラリ−中の溶媒を蒸発させた残りの固形分から計算される重量%を言う。
【0021】
本発明の高濃度シリカスラリ−のpHは、特に1.5〜5.5が好ましい。pHが5.5を超える場合、本発明の範囲の粒子状態が得られ難く、安定性に問題がある。一方、pHが1.5未満の場合にも安定性に問題が生じ易い。
【0022】
本発明の高濃度シリカスラリーは、導電率が300〜1500μS/cmであることが必要である。この様な導電率は電解質濃度が低いことにより達成される。
【0023】
導電率が1500μS/cmを超える場合、安定性に問題があり、一方300μS/cm未満のスラリ−は精製が非常に困難となり、工業的に製造することが難しい。
【0024】
本発明で得られる高濃度シリカスラリ−の表面電荷は高く安定性に優れたものであり、特にゼ−タ電位は+10〜+80mVである。ゼータ電位が+10未満の場合、安定性に問題が生じ易い。一方、上限は特に限定するものではないが、+80mVを超えるものを製造することは難しい。
【0025】
尚、ゼ−タ電位の測定は特に限定するものではなく、電気泳動法、超音波法、ESA(Electrokinetic Sonic Amplitude)法等で測定できる。
【0026】
本発明の高濃度シリカスラリーにおいてカチオン性高分子は、負電荷のシリカ粒子表面に吸着し正の電荷を生じさせることにあるが、一方でシリカ粒子の凝集を促進する。
【0027】
本発明の高濃度シリカスラリ−中のシリカ粒子は、平均粒子径が0.01〜0.5μm、比表面積が150〜700m/gであることが好ましい。
【0028】
一般に、粒子が小さく、濃度が高いほどシリカコロイドは不安定になり、安定なシリカコロイドを得ることは困難となることが知られている。本発明の高濃度スラリ−は0.004〜0.02μmの微細粒子(比表面積値から計算した相当径、相当径D2(μm)=(2720/As)/1000、Asは比表面積(m/g))が0.01〜0.5μmの大きさに集合した形態の凝集粒子が溶媒中に安定的に分散した高濃度スラリ−であることが好ましく、従来の一般的なシリカゾルやシリカコロイドとは異なるものである。
【0029】
本発明において、シリカ粒子の平均粒子径が0.01μm以上0.1μm未満のものが粒子の沈降が長期にわたり起こらない点で特に好ましく、平均粒子径が0.1μm以上0.5μm以下のものは、ゲル化しにくく、取扱いが容易であるという点で特に好ましい。
【0030】
平均粒子径が0.5μmを超えると粒子の沈降が起こり安定なスラリ−が得られにくい。一方、平均粒子径が0.01μm未満の粒子を製造するのは工業的に難しい。
【0031】
尚、本発明の平均粒子径の測定方法は特に限定するものではないが、例えば、レ−ザ−回折散乱法や遠心沈降法で容易に測定出来る。
【0032】
本発明の高濃度シリカスラリ−中のシリカ粒子の比表面積は、150〜700m/gであることが好ましい。ここで言う比表面積とは、シリカスラリ−中の溶媒を蒸発乾固させて得られたシリカゲルをBET法により測定した値を言う。
【0033】
比表面積が150m/g未満では、粘度が本発明の範囲を超える。一方、700m/gを超える超微細なシリカ粒子を工業的に製造することは難しい。
【0034】
さらに本発明の高濃度シリカスラリーは、平均粒子径が0.01〜0.5μm(D1)、比表面積が150〜700m/g(相当径D2=0.004〜0.02μm)、凝集度D1/D2=3以上の凝集シリカ粒子を含む高濃度シリカスラリー(ここで、相当径D2(μm)=(2720/As)/1000、Asは比表面積(m/g))であることが特に好ましい。
【0035】
従来のシリカゾルでは、BET比表面積が70〜400m/g(BET相当径D2=0.007〜0.04μm)、又は粒子径(D1)が0.007〜0.04μmを夫々単独で満足するものはあったが、同時に満足するものはなく、特にD1/D2比が3未満のシリカ微粒子が溶媒中に凝集することなく分散したものでしかなかった。
【0036】
それに対して本発明の高濃度シリカスラリーは、0.004〜0.02μm程度の微粒子(D2)が0.01〜0.5μm(D1)に凝集し、D1/D2が3以上となり、D1/D2比、すなわち凝集度において従来のシリカゾルとは異なる。
【0037】
例えば、比表面積において、従来のゾルゲル法によるシリカコロイドは、比表面積が0.3〜12m/g程度であり、本発明の高濃度シリカスラリーの比表面積の150〜700m/gとは異なる。
【0038】
本発明の高濃度シリカスラリ−の粘度は5〜300mPa・sであることが好ましい。300mPa・sを超える場合、取り扱いに問題が生じる。一方、下限は特に制限するものではないが、5mPa・s未満のスラリ−を製造することは難しい。尚、粘度の測定方法は特に制限するものではないが、例えば、B型粘度計等が一般的な方法として例示できる。
【0039】
本発明の高濃度シリカスラリーは正電荷を有しているために、なおかつ長期にわたって安定である。本発明の高濃度シリカスラリ−は、1ヶ月間室温放置後の粘度の変化率が、初期粘度に対して±50%以下であることが好ましい。粘度の変化率が±50%を超える場合、取り扱いに問題が生じる。一方、下限は特に制限するものではなく変化率0%が好ましい。
【0040】
次に本発明の高濃度シリカスラリ−の製造方法を説明する。
【0041】
本発明の高濃度シリカスラリ−は、シリカゲル、特に好ましくは珪酸ソ−ダから得た高比表面積のシリカゲルを、0.5〜5mmの純度99.95%以上の高純度シリカボ−ルをメディアとして使用するメディアミルにより粉砕、分散化し負電荷シリカスラリーを得た後に、得られた負電荷シリカスラリーと分子量2000〜100000のカチオン性高分子を混合し、得られたカチオン性高分子含有シリカ含水ゲルを、水洗し塩を除去した後、再分散することにより製造することが出来る。
【0042】
本発明の高濃度シリカスラリーは、強く吸着し脱離が起こり難い比較的分子量の大きいカチオン性高分子を用い、カチオン性高分子が吸着したシリカ粒子から余分な塩や未吸着高分子を除いたことに特徴がある。
【0043】
カチオン性高分子としては、水に溶解したときにカチオン性を示すものであれば特に限定されないが、第一〜第三級アミン基(アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩等)、第四アンモニウム基(テトラアルキルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリニウム塩等)を有する高分子、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン、アミノアルキル(メタ)アクリレートアクリルアミド共重合体、ポリアクリルアミドマンニッヒ変成物、キトサン等を用いることができる。
【0044】
カチオン性高分子の分子量は2000〜100000である。分子量が2000未満の場合、安定性に問題が生じ易い。一方、分子量が100000を超える場合、取り扱いが困難になり易い。このカチオン性高分子はシリカに対して0.5〜10重量%含まれていることが好ましい。
【0045】
本発明の正電荷を有す高濃度シリカスラリーの製造は、原料シリカゲルを高純度シリカボ−ルをメディアとしたメディアミルにより粉砕、分散化し負電荷シリカスラリーを得るスラリー化工程、得られた負電荷シリカスラリーにカチオン性高分子を混合しゲル化させるカチオン性高分子吸着工程、得られたゲルを水洗する洗浄工程、水洗ゲルを再分散させる分散工程、よりなる。
【0046】
本発明における原料シリカゲルは、珪酸ソ−ダを原料として製造したものを使用することが好ましい。他の原料、例えば、四塩化珪素を原料とした乾式法シリカを原料としたゾルゲル法シリカ等があるが、高い比表面積を得るのは難しく、アルコキシシランを原料としたゾルゲル法のシリカゲルは高コストであり工業的に大量生産が難しい。
【0047】
本発明の高濃度シリカスラリーに用いるシリカゲル原料段階での比表面積は、特に制限するものではないが150〜800m/gが好ましい。150m/g未満、800m/gを超えた場合、本発明の高濃度シリカスラリ−を得るのは難しい。
【0048】
本発明の負電荷高濃度シリカスラリーは、シリカゲルを、平均径が0.5〜5mmの純度99.95%以上の高純度シリカボ−ルをメディアとしたメディアミルにより、粉砕、分散化することが好ましい。また本発明では、メディアミルにより粉砕、分散化する前に、シリカゲルを純水に加え、アルカリを加えて調整したスラリ−を樹脂製ボ−ルで予備粉砕することが好ましい。
【0049】
本発明で粉砕メディアとして用いる高純度シリカボ−ルの平均径は0.5〜5mmであることが好ましい。0.5mm未満ではボ−ルと高濃度シリカスラリ−の分離が難しい。一方、5mmを超えた場合は本発明の0.1〜0.5μmの微細シリカ粒子を得るのが難しい。
【0050】
また本発明で粉砕メディアとして用いる高純度シリカボ−ルの純度は、99.95%以上である。ここで言う純度とは、シリカボ−ル中に含まれるAl、Ba、Ca、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、P、Pb、Sn、Sr、Ti、Zn、Zr、U及びTh量を不純物として換算して求めたものである。
【0051】
高純度シリカボ−ルの純度が99.95%未満では、例えば、粉砕、分散用のメディアとして使用した場合、金属不純物の混入が起こり易い。純度99.95%以上の上限については特に制限はなく用途に合わせて100%まで使用出来る。
【0052】
本発明では高純度シリカボ−ルを粉砕メディアとして用いて粉砕、分散化するが、粉砕に用いるメディアミルは特に制限するものではなく本発明のシリカボ−ルを用いれば適宜選択することができる。例えば、ボ−ルミル、サンドミル、ビ−ズミル及びアトライタ−等が使用出来る。
【0053】
高純度シリカボ−ルを粉砕メディアとして用いて粉砕、分散化するスラリー化において、高濃度でシリカ微粒子が安定的に分散したスラリ−とするためには、コロイド粒子が安定に分散状態を取り得る高い表面電位状態であることが必要である。
【0054】
本発明を満足するものであれば特に制限するものではないが、シリカ濃度が20〜50%、導電率が10〜1500μS/cm、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位はこの段階において−30mV以上、が好ましい。
【0055】
又、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子は、本発明を満足するものであれば特に制限するものではないが、平均粒子径が0.01〜0.5μm(D1)、比表面積が150〜700m/g(相当径D2=0.004〜0.02μm)、凝集度D1/D2=3以上、が好ましい。
【0056】
スラリ−化条件としては、シリカゲルに水を加え、アルカリ性水溶液の添加等によりpHを4〜9.5に調整することが好ましい。そのアルカリ性水溶液としては、特に制限するものではないが、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、アミン溶液、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が使用出来る。
【0057】
ここまでの方法より、まずシリカ濃度が20〜50%、導電率が10〜1500μS/cm、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が−30mV以上、平均粒子径が0.01〜0.5μm(D1)、比表面積が150〜700m/g(相当径D2=0.004〜0.02μm)、凝集度D1/D2=3以上の負電荷シリカスラリーが得られる。
【0058】
本発明では次に上記の方法で得られた負電荷シリカスラリーとカチオン性高分子を混合し、混合溶液を得る。
【0059】
混合方法は特に制限するものではないが、pH1〜4の酸性領域での混合が好ましい。pHが4を超えると粒子の凝集が起こり易く、一方、pHが1未満では取り扱いが難しい。
【0060】
得られた混合液は2000μS/cm以上の導電率を有し、室温で数時間から数日の放置でゲル化する。ゲル化の状態は特に制限するものではないが、30℃〜80℃の温度で数時間〜数十時間水分の蒸発を防ぐ密閉容器中で静置するのが好ましい。尚、ここで言うゲル化は破砕が可能な程度の強度を有す状態である。
【0061】
次に得られたカチオン性高分子含有の含水シリカゲルを水洗し塩を除去する。
【0062】
水洗の方法は特に制限するものではないが、例えば洗浄を均一かつ効率的に行うため、カチオン性高分子含有の含水シリカゲルを数ミリから数センチ角の大きさに破砕した後に純水で洗浄するのが好ましい。
【0063】
洗浄方法としては、ゲルに純水を通過させるろ過洗浄やゲルに純水を加え上澄みを除去するデカンテーション洗浄等が好ましい。水洗量は本発明の条件を満足するものであれば特に制限するものではないが、洗浄水の導電率が100〜700μS/cmとなるまで純水で洗浄するのが好ましい。洗浄水の導電率が700μS/cmを超える場合は最終的に得られる本発明の高濃度シリカスラリーの導電率を満足することが難しく、洗浄水の導電率を100μS/cm未満とすることは工業的に難しい。
【0064】
上記の方法で得られたカチオン性高分子含有の含水シリカゲルを水に再分散し、本発明の条件を満足する安定な正電荷を有す高濃度シリカスラリーを得ることが出来る。
【0065】
再分散の方法は本発明の条件を満足するものであれば特に制限するものではなく、例えば攪拌羽根による攪拌分散化や超音波分散、高純度シリカボールをメディアとしたメディアミル等を使用することで容易に再分散させることが出来る。
【0066】
以上の方法により、高い安定性を有すシリカ濃度が20〜50%、pHが1.5〜5.5、導電率が300〜1500μS/cm、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が+10〜+80mVである高濃度シリカスラリ−が得られる。
【発明の効果】
【0067】
本発明の高濃度シリカスラリーは、シリカ濃度が20〜50%と高濃度で、粘度が長期間安定な高濃度シリカスラリ−である。更に、製造プロセスが簡単で、且つ、原料に安価な珪酸ソ−ダを用いることが出来るため、低コストである。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
尚、以下の記載における、平均粒子径、比表面積、粘度、シリカ濃度及び純度(不純物分析)の測定は下記の方法によるものである。
【0070】
平均粒子径はMICROTRC(日機装社製 UPA150粒度分析計)により測定した体積平均粒子径である。比表面積はシリカスラリ−やシリカゲルを110℃乾燥の後、前処理温度200℃でMONOSORB(QUANTA CHROME社製)を用いBET法で測定した値である。
【0071】
粘度は、TOKIMEC VISCOMETER(TOKYO KEIKI社 B8L)によるロ−タ−No.2、30RPMで測定した値である。
【0072】
導電率は、CONDUCTIVITY METER DS−14(堀場製作所)を用い測定した値である。
【0073】
シリカ濃度は、シリカスラリ−を110℃で蒸発乾固させた重量から計算した重量%である。
【0074】
純度はシリカに硫酸、フッ化水素酸を添加し、加熱して蒸発乾固した後、不純物成分を硝酸及び水に溶解させ、IMPA・Sで定量して得たAl、Ba、Ca、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、P、Pb、Sn、Sr、Ti、Zn、Zr、U及びThを不純物として換算した重量%の計算値である。
【0075】
ゼ−タ電位の測定は、Matec Applied Science社のES9.800Zeta Potential Analyzerを用いて、スラリ−そのもののゼ−タ電位とpH2.5〜9.5の範囲のデ−タ電位を硝酸水溶液と水酸化カリウム水溶液を用いたPotentiometric Titration法で測定した。
【0076】
実施例1
1Lポリエチレン製容器に、平均径1.5mm(0.5〜3mm)の純度99.98%の高純度シリカボ−ル700gと、市販のシリカゲルであるニップシールLP(東ソーシリカ社製)90gに純水185gを加えスラリ−とし、80時間ボ−ルミルで粉砕し、スラリ−濃度30%のシリカスラリー(A)を得た。
【0077】
次に得られたシリカスラリーに塩酸を加えpHを2.0とし酸性シリカスラリーとした。酸性シリカスラリーと市販のカチオン性高分子である分子量7900のPD−30(四日市合成株式会社製)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、60℃で15時間密閉容器中でゲル化させ、含水ゲル(C)を得た。
【0078】
得られた含水ゲル(C)を1mmから2cm角程度の大きさに解砕し、純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去した。この操作を上澄み液の導電率が300μS/cmまで繰り返した。
【0079】
洗浄した含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ高濃度シリカスラリーを得た。得られたスラリーは、スラリ−濃度28%、平均粒子径0.045μm(D1)、比表面積221m/g(D2=0.014μm)、D1/D2=3.2、pH3.12、導電率686μS/cm、粘度35mPa・s、ゼータ電位+37mVの高濃度シリカスラリー(B)であった。
【0080】
次に、pH2.5〜9.5の範囲のデ−タ電位を硝酸水溶液と水酸化カリウム水溶液を用いたPotentiometric Titration法で測定した。上記に示したシリカスラリー(A)と本発明の高濃度スラリー(B)のpHとゼータ電位の関係を図1に示す。
【0081】
本発明の高濃度シリカスラリー(B)の1ヶ月間室温放置後の粘度は35mPa・sで長期間粘度上昇がなく、安定であった。
【0082】
実施例2
実施例1と同様な条件で得られた含水ゲル(C)を1mmから2cm角程度に解砕し、純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去した。この操作を上澄み液の導電率が200μS/cmまで繰り返した。
【0083】
洗浄した含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ高濃度シリカスラリーを得た。高濃度シリカスラリーは、スラリ−濃度28%、平均粒子径0.045μm(D1)、比表面積221m/g(D2=0.014μm)、D1/D2=3.2、pH5.1、導電率350μS/cm、粘度210mPa・s、ゼータ電位+48mVの高濃度シリカスラリーであった。
【0084】
実施例3
実施例1と同様な条件で得られたシリカスラリー(A)に塩酸を加えpHを1.8としシリカスラリーを得た。
【0085】
該シリカスラリーとカチオン性高分子に分子量70000のポリエチレンイミン(試薬)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、60℃で15時間密閉容器中でゲル化させ、含水ゲルを得た。
【0086】
得られた含水ゲルを1mmから2cm角程度に解砕し、純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去した。この操作を上澄み液の導電率が500μS/cmまで繰り返した。
【0087】
洗浄した含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ本発明の高濃度シリカスラリーを得た。得られた高濃度シリカスラリーは、スラリ−濃度25%、平均粒子径0.08μm、比表面積210m/g、pH2.20、導電率1300μS/cm、粘度55mPa・s、ゼータ電位+24mVの高濃度シリカスラリーであり、1ヶ月間室温放置後の粘度は30mPa・sであった。
【0088】
実施例4
SiO濃度が25重量%、NaO濃度が8重量%の珪酸ソ−ダ水溶液と40重量%の硫酸水溶液を混合ノズルを用いて混合し、SiO濃度が17重量%、pHが0.8のシリカゾルを製造した。シリカゾルは約5分後にゲル化した。得られたゲルを解砕し70℃の純水で洗浄した後、1mmフルイで篩い、110℃で15時間乾燥してシリカゲルを得た。得られたシリカゲルの比表面積は760m/gであった。
【0089】
当該シリカゲル180gに純水3.70gを加え、アンモニア水でpHを9.2としたスラリ−を調整した(スラリ−C)。2Lポリエチレン製容器に、スラリ−Cと15mmφの鉄心入り樹脂製ボ−ル2Kgを入れ、15時間ボ−ルミルで粉砕し平均粒子径15μmのスラリ−Dを得た。
【0090】
次に、1Lポリエチレン製容器に、平均径0.5mm(0.3〜3mm)の純度99.9.8%のシリカボ−ル700gと上記スラリ−D400mlを入れ、24時間ボ−ルミルで粉砕しスラリ−濃度31%のシリカスラリーを得、該シリカスラリーに塩酸を加えpHを2.0とし酸性シリカスラリーとした。
【0091】
酸性シリカスラリーと市販のカチオン性高分子である分子量7900のPD−30(四日市合成株式会社製)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、60℃で15時間密閉容器中でゲル化させ、含水ゲルを得た。
【0092】
得られた含水ゲルを1mmから2cm角程度に解砕し、純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去した。この操作を上澄み液の導電率が300μS/cmまで繰り返した。
【0093】
洗浄した含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ高濃度シリカスラリーを得た。得られた高濃度シリカスラリーは、スラリ−濃度31%、平均粒子径0.25μm(D1)、比表面積380m/g、pH4.50、導電率880μS/cm、粘度25mPa・s、ゼータ電位+30mVで、1ヶ月間室温放置後の粘度は45mPa・sであった。
【0094】
比較例1
実施例1と同様な条件で得られたシリカスラリー(A)に塩酸を加えpHを2.0とし酸性シリカスラリーを得た。
【0095】
酸性シリカスラリーと市販のカチオン性高分子である分子量7900のPD−30(四日市合成株式会社製)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、洗浄せずそのまま混合溶液とした。得られた混合溶液の導電率は11000μS/cmであり、本発明の条件を満足するものではなかった。
【0096】
得られた混合溶液の粘度は不安定であり、室温で4時間後にゲル化した。
【0097】
比較例2
実施例1と同様な条件で得られたシリカスラリー(A)に塩酸を加えpHを2.0とし酸性シリカスラリーを得た。
【0098】
得られた酸性シリカスラリーの導電率は7000μS/cm、スラリー中のシリカ粒子のゼータ電位は−2mVであり、本発明の条件を満足するものではなかった。
【0099】
得られた酸性高濃度シリカスラリーは不安定であり、室温で5日後にゲル化した。
【0100】
比較例3
カチオン性高分子を混合し得た含水ゲルの洗浄上澄み液の導電率が900μS/cmであること以外は実施例1と同様に下記条件で実施した。実施例1と同様な条件で得られたシリカスラリー(A)に塩酸を加えpHを2.0とし、酸性シリカスラリーを得た。
【0101】
該酸性シリカスラリーと市販のカチオン性高分子である分子量7900のPD−30(四日市合成株式会社製)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、60℃で15時間密閉容器中でゲル化させ、実施例1と同様な含水ゲル(C)を得た。得られた含水ゲル(C)を1mmから2cm角程度に解砕し純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去し含水ゲルを得た。得られた含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ濃度30%の高濃度シリカスラリーを得た。
【0102】
得られた混合溶液の導電率は2100μS/cmであり、本発明の条件を満足するものではなく、粘度は不安定であり、5時間程度から粘度の上昇が見られ15時間後にはゲル化した。
【0103】
比較例4
カチオン性高分子の分子量が1800であること以外は実施例2と同様に下記条件で実施した。
【0104】
酸性シリカスラリーとカチオン性高分子に分子量1800のポリエチレンイミン(試薬)をカチオン性高分子/SiO=4%(重量%)になるように混合し、60℃で15時間密閉容器中でゲル化させ、含水ゲルを得た。
【0105】
得られた含水ゲルを1mmから2cm角程度に解砕し純水を加え1時間放置後、上澄み液を除去した。この操作を上澄み液の導電率が300μS/cmまで繰り返した。洗浄した含水ゲルをポリ容器に入れ、超音波分散器で1時間分散させ濃度30%の高濃度シリカスラリーを得た。
【0106】
得られたスラリーは、ゼータ電位−8mVの負電荷であり、本発明を満足する高濃度シリカスラリーは得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施例1で得られた高濃度シリカスラリーのpHによるゼータ電位の変化を示す図である。(A)高分子添加/洗浄再分散未実施(B)本発明の高濃度シリカスラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ濃度が20〜50%、pHが1.5〜5.5、導電率が300〜1500μS/cmであって、且つ、高濃度シリカスラリー中のシリカ粒子のゼータ電位が+10〜+80mVである高濃度シリカスラリ−。
【請求項2】
高濃度シリカスラリーに含まれるシリカ粒子の平均粒子径が0.01〜0.5μm、比表面積が150〜700m/gである事を特徴とする請求項1に記載の高濃度シリカスラリ−。
【請求項3】
シリカ粒子の凝集度D1/D2が3以上である請求項2に記載の高濃度シリカスラリー(ここで、D1(μm)=平均粒子径、D2(μm)=(2720/As)/1000、Asは比表面積(m/g)である)。
【請求項4】
分子量2000〜100000のカチオン性高分子がシリカ粒子表面に吸着していることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の高濃度シリカスラリ−。
【請求項5】
カチオン性高分子がシリカ粒子に対して0.5〜10重量%含まれている事を特徴とする請求項4記載の高濃度シリカスラリー。
【請求項6】
粘度が5〜300mPa・sである請求項1〜請求項5に記載の高濃度スラリー。
【請求項7】
1ヶ月間室温放置後の粘度の変化率が初期粘度に対し±50%以下である請求項1〜請求項6に記載の高濃度シリカスラリー。
【請求項8】
シリカゲルと水を、平均径が0.5〜5mmの純度99.95%以上の高純度シリカボ−ルをメディアとして使用するメディアミルにより粉砕、分散化して負電荷高濃度スラリーを得た後に、分子量2000〜100000のカチオン性高分子と混合し、得られたシリカ含水ゲルを水洗して塩を除去した後、再分散することを特徴とする請求項1〜請求項7に記載の高濃度シリカスラリ−の製造方法。
【請求項9】
メディアミルにより粉砕、分散化する前に、シリカゲルを純水に加え、アルカリを加えてスラリ−とし、樹脂製ボ−ルで粉砕することを特徴とする請求項8に記載の高濃度シリカスラリ−の製造方法。
【請求項10】
シリカゲルが珪酸ソ−ダを原料としたシリカゲルであることを特徴とする請求項8〜請求項9に記載の高濃度シリカスラリ−の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277023(P2007−277023A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102380(P2006−102380)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】