説明

高濃度シリカゾル

【課題】シリカ微粒子が有機溶媒を含む分散媒に高濃度に分散した高濃度シリカゾルを提供する。
【解決手段】下記の(a)〜(c)の条件を満たすシリカ微粒子が、シリカ濃度20〜40質量%の範囲で、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.0〜4.2D(Debye)の範囲にある含窒素系溶媒を含む分散媒に分散してなる、高濃度シリカゾルとする。
(a)前記シリカ微粒子の比表面積が560〜900m/gの範囲
(b)前記シリカ微粒子の平均粒子径が2〜5nmの範囲
(c)前記シリカ微粒子内に炭素原子を含有しない

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代表的には塗料、ハードコート剤又は透明保護膜(フィルム)の充填材(フィラー)、セラミック成形体用のバインダー又は顔料の成分等に利用されるシリカゾルであって、その分散質であるシリカ微粒子が所定の含窒素系溶媒を含む分散媒に高濃度に分散してなる高濃度シリカゾルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリカ、アルミナなどの無機酸化物微粒子の有機溶媒分散液(オルガノゾル)を得るには、これらの無機酸化物微粒子の表面を疎水性にすることが必要であり、このため、通常、無機酸化物微粒子の表面を疎水性に改質(修飾)することが行われている。このような無機化合物微粒子の表面改質の方法としては、反応性モノマーまたはシランカップリング剤などの改質剤と、無機酸化物微粒子表面のヒドロキシル基とを反応させ、無機酸化物微粒子表面に疎水性の有機基を導入する方法が知られている。
【0003】
無機酸化物微粒子表面に疎水性の有機基を導入してオルガノゾルを調製する方法として、例えば、特開平1−42315号公報(特許文献1)には、親水性有機溶媒中に分散しているシリカゾルに表面処理剤を加えてシリカの表面を親油化した後、シリカゾルを遠心分離して溶媒層を除去し、取出した沈降シリカ層に親油性有機溶媒を加えてシリカをこの親油性溶媒中に均一に分散させてなる有機溶媒分散シリカゾルの製造方法が開示されている。
【0004】
特開平11−43319号公報(特許文献2)には、5.5〜550m/gの比表面積を有する親水性コロイド状シリカを5〜55重量%のSiO濃度で含有し、ジシロキサン化合物及び/又はモノアルコキシシラン化合物であるシリル化剤を、当該親水性コロイド状シリカの表面積100m当たりSi原子として0.03〜2ミリモル量比に含有し、且つその残余として0.1〜12重量%の水溶解度を有する疎水性有機溶媒に対して炭素数1〜3のアルコールは0.05〜20の重量比である混合溶媒と媒体中15重量%以下の水とからなる媒体を含有する反応混合物を、反応混合物中に存在するアルカリが除去され又は当量以上の酸で中和された状態で、0〜100℃で熟成することにより、疎水性コロイド状シリカが分散したシリル化処理シリカゾルを生成させることを含む疎水性オルガノシリカゾルの製造方法が開示されている。
【0005】
特開2003−12320号公報(特許文献3)には、平均粒子径が2〜100nmの範囲にあり、多価アルコールで表面が修飾されたシリカ系無機化合物微粒子が有機溶媒に分散してなるオルガノゾルであって、該シリカ系無機化合物微粒子のシリカ源の一部または全部がアルカリ金属珪酸塩に由来するものである無機化合物オルガノゾルが開示されている。この無機化合物オルガノゾルの製法としては、例えば、シリカゾル(水溶媒)に多価アルコール(例えば、エチレングリコール)を加え、加熱蒸留により水分を除去し、続いて有機溶媒を加え、再度加熱蒸留により水分を除去する方法が記載されている。
【0006】
特開2005−314197号公報(特許文献4)には、シリカ微粒子の粒子径が500nm以下であり、金属不純物含有量が1.0ppm以下であり、該シリカ微粒子を20重量%を超えて含有していても長期安定な高純度疎水性有機溶媒分散シリカゾルが開示されており、この高純度疎水性有機溶媒分散シリカゾルは、アルコキシシランを分散させた親水性溶媒を両親媒性有機溶媒で置換し、得られたシリカゾルを酸性下、シランカップリング剤で表面処理させて製造されることが記載されている。
【0007】
また、シリカ微粒子の表面改質を伴うことなく、オルガノシリカゾルを得る方法として、国際公開第2007/18069号パンフレット(特許文献5)には、形状が不均一な異形シリカ微粒子が溶媒に分散した異形シリカゾルが開示されており、この異形シリカゾルを減圧蒸留、限外濾過法などの公知の方法により、分散媒としての水を有機溶媒に置換してオルガノゾルとすることが可能であることが開示されている。そのような有機溶媒としては、アルコール類、グリコール類、エステル類、ケトン類、窒素化合物類、芳香族類などの溶媒を使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−42315号公報
【特許文献2】特開平11−43319号公報
【特許文献3】特開2003−12320号公報
【特許文献4】特開2005−314197号公報
【特許文献5】国際公開第2007/18069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4は、いずれもシリカ微粒子などの分散質に改質剤(シランカップリング剤、多価アルコール等)による表面処理を行って疎水化し、シリカ微粒子と有機溶媒の親和性を向上させることに特徴がある。しかし、これらの方法では、シリカ微粒子の凝集を充分に抑制できない場合があった。また、特に改質剤としてシランカップリング剤を用いて、シリカ微粒子を疎水化して得られたオルガノシリカゾルでは、オルガノシリカゾルに水分が混入することにより、シリカ微粒子表面から疎水性基が脱離し、オルガノシリカゾルの安定性を低下させることがあった。なお、このようなオルガノシリカゾルの安定性低下によるシリカ微粒子の凝集が、オルガノシリカゾルをフィラーとして含有する塗料用被膜形成剤、ハードコート用被膜形成剤又は成形前のフィルム等において生じた場合、それぞれ塗料、ハードコート又はフィルムの性能及び性状を損なうため、解決が期待されていた。
【0010】
特許文献5には、分散媒としての水を有機溶媒に溶媒置換してオルガノシリカゾルとすることが可能であること及びそのような溶媒置換に適用する有機溶媒について開示している。このオルガノシリカゾルは、比表面積が13〜550m/gの範囲のシリカ微粒子が有機溶媒に分散してなるオルガノシリカゾルを対象としており、シリカ微粒子の比表面積が550m/gより大きいシリカゾル(水溶媒)をオルガノシリカゾルとする方法については、開示されていない。
【0011】
また、テトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解工程を含む製造方法により、比表面積が550m/gを超えるシリカ微粒子を分散質とするシリカゾル(水溶媒)を得ることができる。しかしながら、そのようなシリカゾルは濃縮による増粘が生じ易く、NaOHや塩基性有機溶媒等のアルカリ成分と共存することで不安定化し易く、また、熱的影響を受けやすいなどの問題点があり、更に原料(テトラエトキシシラン)が珪酸アルカリ(シリカ微粒子の代表的な製造原料)に比べて高価であることも難点となっていた。
例えば、塗膜、ハードコート膜又は透明保護膜に求められる性能に応じて、それらの充填材として用いられるシリカ微粒子として、より粒子径が小さく、より比表面積が大きいシリカ微粒子であって、特に珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子を分散質としたオルガノシリカゾルが求められていた。
【0012】
なお、珪酸アルカリを原料として得られるシリカ微粒子は、その表面にシラノール基(−Si−OH)が多数存在しており、そのようなシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルを濃縮し、高濃度化すると、シリカ微粒子のシラノール基同士が脱水縮合し、ゲル化が生じ易くなることが知られている。また、シリカ微粒子の粒子径が小さくなる程、その比表面積は増大し、その結果、単位質量当り存在するシラノール基の量が増大するので、より粒子径の小さいシリカ微粒子又はより比表面積の大きいシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルは、よりいっそう高濃度化によってゲル化が生じ易くなるものと言える。
【0013】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであって、珪酸アルカリを原料として得られるシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルにおいて、シラノール基の脱水縮合を抑制することにより、シリカゾルのゲル化を抑制することを本質的な課題とするものである。また、より具体的には、珪酸アルカリを原料として得られるシリカ微粒子(比表面積が560m/g以上、平均粒子径が2〜5nm)を分散質とするオルガノシリカゾルであって、シリカ濃度が20〜40質量%の範囲にあるオルガノシリカゾルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の課題は下記(1)〜(10)の手段により達成される。
(1)下記の(a)〜(c)の条件を満たすシリカ微粒子が、シリカ濃度20〜40質量%の範囲で、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.0〜4.2D(Debye)の範囲にある含窒素系溶媒を含む分散媒に分散してなることを特徴とする高濃度シリカゾル。
(a)前記シリカ微粒子の比表面積が560〜900m/gの範囲
(b)前記シリカ微粒子の平均粒子径が2〜5nmの範囲
(c)前記シリカ微粒子内に炭素原子を含有しない
本発明に係る高濃度シリカゾルにおいては、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.0〜4.2D(Debye)の範囲にある前記含窒素系溶媒の窒素原子が、シリカ微粒子表面のシラノール基に配位し、シラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を示すので、前記(a)、(b)及び(c)のようにシラノール基を比較的多量に有するシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルを安定に保つことができる。
(2)前記分散媒中に、前記含窒素系溶媒が50質量%以上含まれることを特徴とする前記(1)記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルにおいては、その分散媒のうち少なくとも50質量%が前記含窒素系溶媒であれば、シリカ微粒子表面のシラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を示すことができる。
(3)前記シリカ微粒子が、珪酸アルカリを原料として調製されたものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルの特徴的な効果(従来より高いシリカ濃度において安定であること)は、珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子のようにシラノール基を多量に有するシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルにおいて顕著に現れるものである。なお、前記(c)の条件は、本発明に係る高濃度シリカゾルの分散質であるシリカ微粒子が、少なくともアルコキシシランの加水分解反応により調製されたものではないことを表すものであり、このことは必然的に前記シリカ微粒子が珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子であることを表している。
(4)前記シリカ微粒子におけるSiO:MO(Mはアルカリ金属を示す)の質量比が、100:0.2〜100:10の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルの分散質であるシリカ微粒子として、その組成が前記SiO:MOの質量比範囲であるものが好ましい。
(5)前記含窒素系溶媒が、ジプロピルアミン、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン又はモノエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルにおいて、前記含窒素系溶として、これらの含窒素系溶媒を使用した場合、シリカ微粒子表面のシラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を良好に示すことができる。
(6)前記分散媒が、水を含むことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルの分散媒は、前記のとおり、その少なくとも50質量%が前記含窒素系溶媒であれば、シリカ微粒子表面のシラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を示すことができる。含窒素系溶媒以外の分散媒については、格別に制限されるものではないが、例え水分を含むものであっても、シリカ微粒子表面のシラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を示すことができる。
(7)25℃での粘度が、5〜300mP・sの範囲にあることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の高濃度シリカゾル。本発明に係る高濃度シリカゾルは、前記含窒素系溶媒の作用により、安定性の高いものである。安定性のレベルについては、前記粘度範囲(25℃)を維持できるものとなる。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とするセラミック成形体用バインダー。本発明に係る高濃度シリカゾルは、その分散質であるシリカ微粒子の比表面積が比較的大きく、シラノール基を比較的多く有するため、例えば、セラミック成形体用バインダーとして好適に使用可能である。
(9)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とする充填材。本発明に係る高濃度シリカゾルは、その分散質であるシリカ微粒子の平均粒子径は2〜5nmと小さく、その比表面積は560〜900m/gと比較的大きく、シラノール基を比較的多く有するため、塗料、ハードコート剤又はフィルムの充填材として有用である。
(10)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とする顔料。本発明に係る高濃度シリカゾルは、その分散質であるシリカ微粒子の平均粒子径は2〜5nmと小さいので、例えば、顔料(例えば、酸化チタン粉末のような黒色顔料)の表面被覆に適用されて、顔料に耐高温酸化特性を付与することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)の高濃度シリカゾルは、その分散質が前記(a)、(b)及び(c)の条件を満たすシリカ微粒子であり、そのシリカ濃度が20〜40質量%の範囲にあるにも拘わらず、前記含窒素系溶媒の窒素原子が、シリカ微粒子表面のシラノール基に配位し、シラノール基同士の脱水縮合を阻害し、ゲル化を抑制する作用を示すので、従来の高濃度シリカゾル又は高濃度オルガノシリカゾルに比べて、優れた効果、即ち経時での良好な安定性の維持を示すことができる。
【0016】
また、上記(2)〜(7)の何れの高濃度シリカゲルも上記(1)の構成を含むため、経時での良好な安定性を維持することができる。
上記(2)の高濃度シリカゾルは、特にその分散媒の少なくとも50質量%が前記含窒素系溶媒の高濃度シリカゾルである。この高濃度シリカゾルは、分散媒に占める前記含窒素系溶媒の割合が50質量%であっても、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示すことができる。
上記(3)の高濃度シリカゾルは、特にその分散質が珪酸アルカリを原料として調製したシリカ微粒子からなる高濃度シリカゾル場合である。この高濃度シリカゾルは、このような凝集性の高い分散質からなるにも拘わらず、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示すことができる。
上記(4)の高濃度シリカゾルは、特にその分散質の組成が、SiO:MO(Mはアルカリ金属を示す)[質量比]が、100:0.2〜100:10の範囲にある高濃度シリカゾルである。この高濃度シリカゾルは、分散質のシリカ微粒子の組成として特殊な範囲を必要とせず、前記のように典型的な範囲にありながら、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示すことができる。
上記(5)の高濃度シリカゾルは、特にその分散媒がジプロピルアミン、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン又はモノエタノールアミンから選ばれる高濃度シリカゾルである。この高濃度シリカゾルは、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示すことができる。
上記(6)の高濃度シリカゾルは、特にその分散媒が前記含窒素系溶媒の他に水分を含む高濃度シリカゾルである。この高濃度シリカゾルは、分散媒にシリカ微粒子の凝集を助長する水分を含有するにも拘わらず、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示すことができる。
上記(7)の高濃度シリカゾルは、前記効果(経時での良好な安定性の維持)を示し、粘度を経時で5〜300mP・sの範囲で維持することができる。
【0017】
上記(8)のセラミック成形体用バインダーは、分散質であるシリカ微粒子の比表面積が比較的大きく、シラノール基を比較的多く有する高濃度シリカゾルを含有するものである。このセラミック成形体用バインダーは、分散質の前記性状により、セラミック成分のバインダーとして好適である。
【0018】
上記(9)の充填材は、分散質であるシリカ微粒子の平均粒子径は2〜5nmと小さく、その比表面積は560〜900m/gと比較的大きく、シラノール基を比較的多く有する高濃度シリカゾルを含有するものである。この充填材は、前記性状により、塗料、ハードコート剤又はフィルムの充填材として好適である。
【0019】
上記(10)の顔料は、分散質であるシリカ微粒子の平均粒子径は2〜5nmの高濃度シリカゾルを含有するものである。この高濃度シリカゾルは例えば、顔料(例えば、酸化チタン粉末のような黒色顔料)の表面被覆に適用されて、顔料に耐高温酸化特性を付与することができる。
【0020】
また、前記高濃度シリカゾルを塗料、保護膜、ハードコート剤などのフィラーとして塗料等に配合した場合、塗料への分散性がよく、得られる塗膜は緻密であるとともに基材との密着性に優れ、また粒子の凝集に基づくクラックの発生や透明性の低下などがほとんど起こることがない。このため、該高濃度シリカゾルは、各種塗料、保護膜、ハードコート剤などの他、各種樹脂の充填剤として有用であり、たとえば磁気テープの充填剤、フィルムのブロッキング防止剤などの用途にも好適である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の高濃度シリカゾルについて詳細に説明する。本発明は、シリカ微粒子をシランなどで表面処理することなく、従来、高濃度化が難しかった微小で高比表面積のシリカ微粒子を高濃度で含むシリカオルガノゾルに関するものである。尚、ここで高濃度化が難しかったとは、高濃度シリカゾルを調製しても、経時でゲル化してゾル状態を保てないことを意味する。
【0022】
本発明に係る高濃度シリカゾルは、(a)比表面積が560〜900m/g、(b)平均粒子径が2〜5nm、及び(c)微粒子内に炭素原子を含有しないシリカ微粒子を、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.0〜4.2D(Debye)の範囲にある含窒素系溶媒を含む分散媒に分散してなるものである。
【0023】
[シリカ微粒子]
本発明の高濃度シリカゾルの分散質であるシリカ微粒子は、珪酸アルカリを原料として調製されたものが好ましい。ここで珪酸アルカリとしては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等を好適に使用することができる。
珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルは、濃縮により凝集し易く、高濃度化に難点があった。本発明に係る高濃度シリカゾルは、この問題を解決したものである。なお、本発明に係る高濃度シリカゾルの分散質であるシリカ微粒子として、加水分解性の有機珪素化合物を原料として調製されたシリカ微粒子を使用することに問題は無いが、そのようなシリカ微粒子は、珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子に比べて、凝集性が低いので、必ずしも、本発明を適用する必要はない。
なお、加水分解性の有機珪素化合物を原料として調製されたシリカ微粒子は、該有機珪素化合物の非加水分解性基(アルキル基など)や未反応の加水分解性基が残留するため、その組成中に炭素原子が残留することが知られている。前記(c)の条件(前記シリカ微粒子内に炭素原子を含有しない。)は、この点に鑑み設定したものであり、本発明に係る高濃度シリカゾルの分散質は、珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子であることを意味している。
なお、本発明に係る高濃度シリカゾルは、有機珪素化合物に由来する成分(主として炭素原子)を含まないので、カーボンの存在を嫌う用途に対しては、特に好適に適用される。
また、珪酸アルカリを原料として調製されたシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルは、加水分解性の有機珪素化合物を原料として調製されたシリカ微粒子を分散質とするシリカゾルと比べて製造コストが廉価である点もメリットとなる。
【0024】
珪酸アルカリを原料とするシリカゾルの製造方法として、典型的には次の(1)〜(3)の製造方法を挙げることができる。
(1)珪酸液をアルカリ存在下で加熱することにより珪酸を重合する工程を含むシリカゾルの製造方法
この製造方法は、アルカリ金属珪酸塩、第3級アンモニウム珪酸塩、第4級アンモニウム珪酸塩またはグアニジン珪酸塩から選ばれる水溶性珪酸塩を、脱アルカリすることにより得られる珪酸液を、アルカリ存在下で加熱することにより珪酸を重合する工程を含むものである。具体的な例としては、珪酸アルカリ水溶液をシリカ濃度3〜10質量%に水で希釈し、次いでH型強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし、必要に応じてOH型強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて脱アニオンし、活性珪酸を調製する。pHが8以上となるようアルカリ物質を加え、50℃以上に加熱することにより平均粒子径60nm以下のシリカゾルを製造する方法を挙げることができる。
【0025】
(2)核粒子分散液に酸性珪酸液を添加することにより、核粒子の粒子成長を行うシリカ
ゾルの製造方法
この製造方法において、核粒子は、粒子成長の基点として機能するものであれば、特に限定されるものではなく、公知のシリカ微粒子又はアルミナ微粒子の分散液を用いることができる。なかでも、本願出願人による特開平5−132309号公報、特開平7−105522号公報等に開示した製造方法により得られたシリカゾル又はシリカ複合酸化物ゾルは粒子径分布が均一であり、実用上好ましいものといえる。ここで、核粒子分散液には予め珪酸アルカリを加えることが好ましい。こうしておくことで、続いて粒子成長用の酸性の珪酸液を加える段階において、前記核粒子分散液に溶解しているシリカ濃度が、珪酸アルカリにより予め高められているので、核粒子への珪酸の析出(粒子成長)が促進される。ここで用いる珪酸アルカリとしては、ケイ酸カリウム(カリ水硝子)、ケイ酸ナトリウム(ナトリウム水硝子)などの水溶液を用いることが好ましい。
なお、予め核粒子が分散していなくても、珪酸アルカリ水溶液に後述する酸性珪酸液を加えていくとシリカ濃度が高くなったところで核粒子が発生するので、このような核粒子分散液も好適に用いることができる。核粒子分散液のシリカ濃度は核粒子の大きさによっても異なるが、0. 005〜20質量%の範囲にあることが好ましい。核粒子の濃度が0. 005質量%未満の場合は、粒子成長を行うために温度を高めた場合核粒子の一部または全部が溶解することがあり、核粒子の全部が溶解すると核粒子分散液を用いる効果が得られず、核粒子の一部が溶解した場合は得られるシリカ粒子の粒子径が不均一になる傾向があり、同様に核粒子分散液を用いる効果が得られないことがある。一方、核粒子の濃度が20質量%を超えると、核粒子当たりの酸性珪酸液の添加割合を低濃度の場合と同一にするには珪酸液の添加速度を速めることになるが、この場合、酸性珪酸液の核粒子表面への析出が追随できず、酸性珪酸液がゲル化することがある。核粒子の平均粒子径は、通常は、調製しようとするシリカ微粒子の大きさに応じて、適宜選択される。
【0026】
(3)シリカヒドロゲルを解膠する工程を含むシリカゾルの製造方法
この製造方法は、珪酸塩を酸で中和して得られるシリカヒドロゲルを洗浄して、塩類を除去し、アルカリを添加した後、加熱することによりシリカヒドロゲルを解膠する工程を含むものである。この製造方法は解膠法と呼ばれるもので、通常は、珪酸塩の水溶液を酸で中和して、シリカヒドロゲルを調製し、化学的手段または機械的な手段にて、シリカヒドロゲルをスラリー状ないしは分散溶液にする方法として知られている。ここで、化学的手段としては、シリカヒドロゲルにアルカリを添加し、所望により加熱する方法が挙げられる。また、機械的手段としては、攪拌器などの装置を使用する方法を挙げることができる。これらの化学的手段と機械的な手段は併用されても差し支えない。具体的には、珪酸塩を酸で中和して得られるシリカヒドロゲルを洗浄して、塩類を除去し、アルカリを添加し、60〜200℃の範囲に加熱することにより、シリカヒドロゲルを解膠して、シリカゾルを調製する。この製造方法で原料として使用する珪酸塩としては、アルカリ金属珪酸塩、アンモニウム珪酸塩および有機塩基の珪酸塩から選ばれる1種または2種以上の珪酸塩が好ましい。アルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウムを、有機塩基としては、テトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩などのアミン類を挙げることができ、アンモニウムの珪酸塩または有機塩基の珪酸塩には、珪酸液にアンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、アミン化合物などを添加したアルカリ性溶液も含まれる。
【0027】
前記シリカ微粒子は、SiO/MO(Mは、Na又はK)の質量比が100:0.2〜100:10のものを好適に使用することができ、100:0.5〜100:8であることがより好ましく、100:1〜100:5であることが特に好ましい。
SiO100質量部に対し、MOが0.2質量部未満の場合は、アルカリ金属の除去にかかる工程上の負荷が著しく増大する。SiO100質量部に対し、MOが10質量部を超える場合は、本発明に係る高濃度シリカゾルの用途によっては、アルカリ金属(Na又はK)が溶出し、悪影響を与える場合がある。
【0028】
本発明において、前記シリカ微粒子の比表面積は560〜900m/gの範囲であり、好ましくは、600〜800m/gの範囲であり、より好ましくは650〜750m/gの範囲である。上記範囲の比表面積を有するシリカ微粒子を分散させたシリカゾルは、多量のシラノール基の存在により、経時安定性に問題があったが、本発明に係る高濃度シリカゾルは、そのシリカ微粒子の比表面積が560〜900m/gの範囲であっても良好な経時安定性を示すことができる。なお、シリカゾルの分散質であるシリカ微粒子の比表面積が600m/g未満の場合は、凝集性が比較的高くはないので、本発明を適用する必要性は低い。
【0029】
また、前記シリカ微粒子の平均粒子径は、2〜5nmであり、好ましくは3〜4nmである。上記範囲の平均粒子径を有するシリカ微粒子を分散させたシリカ微粒子分散液は、従来、水系分散媒又は有機系分散媒の何れであっても、経時で増粘又はゲル化する問題があった。しかしながら、本発明に係る高濃度シリカゾルは優れた経時安定性を示すものであり、従来の問題を解決したものである。なお、平均粒子径として2nm未満のシリカ微粒子を調製することは容易ではない。また、平均粒子径5nmを超えるシリカ微粒子は、凝集性が比較的高くないので、本発明を適用する必要性は低い。
【0030】
[分散媒]
前記シリカ微粒子を分散させる分散媒としては、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.00〜4.20D(Debye)の範囲にある含窒素系溶媒を用いる。含窒素系溶媒を分散媒とした場合、含窒素系溶媒の窒素原子が、シリカ微粒子表面のシラノール基に配位するため、シラノール基同士の脱水縮合を阻害し、それにより高濃度化してもゲル化し難くなると考えられる。尚、本明細書において、含窒素系溶媒とは、その構造中に窒素原子を含有する溶媒である。
【0031】
本発明において、沸点が100℃以上の含窒素系溶媒とするのは水系溶媒にシリカ微粒子を分散させた水系溶媒分散シリカゾルの水系溶媒と含窒素系溶媒とを溶媒置換する際に置換しやすくするためであり、水系溶媒よりも沸点が高い溶媒を用いることで溶媒置換を容易に行うことができる。
【0032】
また、本発明において、含窒素系溶媒の双極子モーメントは1.0〜4.2D(Debye)であり、2.0〜4.1Dであることが好ましい。含窒素系溶媒の双極子モーメントが1.0Dよりも低い場合は、溶媒の分極性が小さく、シリカ微粒子の表面シラノール基に含窒素系溶媒が配位する割合が低いので、シラノール基による脱水縮合を阻害する効率が、相対的に低くなり、シリカ微粒子の安定性が低くなり、経時的に安定させることができなくなる場合がある。含窒素系溶媒の双極子モーメントが4.2Dより高い場合は、シリカ微粒子表面のシラノール基に窒素原子で十分に配位されるものの、窒素系溶媒同士の相互作用もあり、高粘度化しやすくなるものと推測され、シリカゾルの粘度が高くなるため、シリカ微粒子を高濃度に分散させることが出来なくなる場合がある。従って、双極子モーメントが1.0〜4.2Dの範囲の含窒素系溶媒を用いることで、シラノール基同士の脱水縮合によるゲル化を阻害しつつ、溶媒の粘度を低くして高濃度化できる。
【0033】
前記条件を満たす含窒素系溶媒としては、例えば、ジプロピルアミン、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン又はモノエタノールアミン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの含窒素系溶媒は、2種以上を混合して使用しても構わない。
【0034】
本発明において、前記含窒素系溶媒は、分散媒中50質量%以上含有することが好ましい。分散媒中に含窒素系溶媒を50質量%以上配合させることで、高濃度シリカゾルにおけるシリカ濃度又は前記含窒素系溶媒の双極子モーメントに依らず、経時安定性に優れた高濃度シリカゾルを得ることができる。分散媒中の含窒素系溶媒の割合は、70質量%以上含有させることがより好ましく、80質量%以上含有させることが特に好ましく、含窒素系溶媒100質量%が最も好ましい。
【0035】
尚、前記分散媒には、含窒素系溶媒が前記範囲となれば、その他に、水、あるいはエタノールなどの水溶性有機溶媒を含有させることができる。
【0036】
本発明の高濃度シリカゾルの製造方法としては、特に限定されず、従来から用いられている方法を採用することができる。
例えば、前記(a)、(b)及び(c)の条件を満たすシリカ微粒子を分散質とする水系溶媒分散シリカゾルを調製するか、あるいは市販品を準備し、この水系溶媒分散シリカゾルを濃縮した後、含窒素系溶媒を含む分散媒を加えて溶媒置換することにより製造することができる。
【0037】
前記水系溶媒分散シリカゾル中のシリカ濃度は、例えば、1〜10質量%とするのが好ましく、3〜8質量%がより好ましく、4〜6質量%が特に好ましい。なお、該シリカ濃度が1質量%未満の場合、濃縮による高濃度化処理に要する時間が増えるため、望ましくない。また、該シリカ濃度が10質量%を超える場合は、水系溶媒分散シリカゾルの安定性が低下するので好ましくない。
【0038】
次に、前記水系溶媒分散シリカゾルを所望の濃度となるまで濃縮する。水系溶媒分散シリカゾルを濃縮する方法としては、特に限定されないが、例えば、減圧下で加熱濃縮する方法等が挙げられる。水系溶媒分散シリカゾルの濃縮は、本発明の高濃度シリカゾルのシリカ濃度範囲で、所望のシリカ濃度ができる濃度まで濃縮すればよく、20〜40質量%程度となるように濃縮すればよい。
【0039】
次に、前記濃縮した水系溶媒分散シリカゾルに含窒素系溶媒を含む分散媒を添加して溶媒置換を行うが、この分散媒は、分散媒中のシリカ濃度が所望の濃度となるように添加することができる。本発明の高濃度シリカゾルは、シリカゾル中のシリカ濃度が20〜40質量%の範囲、好ましくは30〜40質量%、特に好ましくは32〜37質量%となるように調整するものである。シリカゾル中のシリカ濃度が20〜40質量%であれば、シリカゾル中のシリカ微粒子が凝集してゲル化することなく、安定的に分散させることができるため、高濃度のシリカゾルとすることができる。
【0040】
また、本発明の高濃度シリカゾルは、含窒素系溶媒の窒素原子がシリカ微粒子のシラノール基同士の凝集を阻害する作用により凝集が抑制されるので、25℃における粘度を5〜300mP・sの範囲に維持することができる。該粘度は6〜200mP・sの範囲がより好ましく、10〜100mP・sの範囲が特に好ましい。
25℃における粘度が300mP・sを超えると、例えば、本発明の高濃度シリカゾルをフィルム成形用の原料樹脂の充填剤として用いた場合に粘度が高くなりすぎ、混合性が低下するため好ましくない。
【0041】
また、本発明の高濃度シリカゾルは、25℃におけるpH値がpH7.0〜11.0の範囲であることが好ましく、pH7.5〜10.5がより好ましく、pH8.0〜10.0が特に好ましい。pHが11.0を超える場合、高濃度シリカゾルは増粘し易くなる。また、pHが7.0未満の場合もやはり増粘しやすくなる。
【0042】
本発明の高濃度シリカゾルは、セラミック形成体用バインダー、塗料用充填材、ハードコート剤用充填材、フィルム用充填材又は顔料等に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例における分析又は定量の方法を以下に記す。
【0045】
[高濃度シリカゾル中のシリカ微粒子の比表面積および平均粒子径]
高濃度シリカゲルの分散質であるシリカ微粒子の比表面積の測定および平均粒子径の測定は、以下の〔I〕シアーズ法(滴定法)、または〔II〕BET法(窒素吸着法)を用いて行った。
【0046】
〔I〕シアーズ法(滴定法)
1)SiOとして15gに相当する試料をビーカーに採取してから、恒温反応槽(25℃)に移し、純水を加えて液量を90mlにする。(以下の操作は、25℃に保持した恒温反応槽中にて行った。)
2)pH3.6になるように0.1モル/L塩酸水溶液を加える。
3)塩化ナトリウムを30g加え、純水で150mlに希釈し、10分間攪拌する。
4)pH電極をセットし、攪拌しながら0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液を滴下して、pH4.0に調整する。
5)pH4.0に調整した試料を0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pH8.7〜9.3の範囲での滴定量とpH値を4点以上記録して、0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量をX、その時のpH値をYとして、検量線を作る。
6)下記式(1)からSiO15g当たりのpH4.0〜9.0までに要する0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の消費量V(ml)を求め、下記式(2)に従って比表面積SA(m/g)を求めた。
V=(A×f×100×15)/(W×C) ・・・(1)
(式(1)において、A:SiO15g当たりpH4.0〜9.0までに要する0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(ml)、f:0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の力価、C:試料のSiO濃度(%)、W:試料採取量(g)である。)
SA=29.0V−28 ・・・(2)
7)上記6)で求めた比表面積SAより平均粒子径D1(nm)を、下記式(3)から求めた。
D1=6000/(ρ×SA) ・・・(3)
(式(3)において、ρは粒子の密度(g/cm)である。シリカの場合は2.2を代入する。)
【0047】
〔II〕BET法(窒素吸着法)
高濃度シリカゾル50mlをHNOでpH3.5に調整し、1−プロパノール40mlを加え、110℃で16時間乾燥した試料について、乳鉢で粉砕後、マッフル炉にて500℃、1時間焼成し、測定用試料とした。そして、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、型番マルチソーブ12)を用いてBET法(窒素吸着法)を用いて、窒素の吸着量から、BET1点法により比表面積を算出した。具体的には、試料0.5gを測定セルに取り、窒素30vol%/ヘリウム70vol%混合ガス気流中、300℃で20分間脱ガス処理を行い、その上で試料を上記混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、比表面積SA(m/g)を算出した。
また、得られた比表面積SAを上記式(3)に代入して平均粒子径D1(nm)を求めた。
【0048】
[高濃度シリカゾル中のSiO/NaO比(質量比)]
下記(A)及び(B)の測定結果から、SiO/NaO比(質量比)を算定した。
(A)Naの含有量測定方法は以下の通りである。
1)高濃度シリカゾル約10gを白金皿に採取し、0.1mgまで秤量する。
2)硝酸5mlと弗化水素酸20mlを加えて、サンドバス上で加熱し、蒸発乾固する。
3)液量が少なくなったら、更に弗化水素酸20mlを加えてサンドバス上で加熱し、蒸発乾固する。
4)室温まで冷却後、硝酸2mlと水を約50ml加えて、サンドバス上で加熱溶解する。
5)室温まで冷却後、フラスコ(100ml)に入れ、水で100mlに希釈して試料溶液とする。
6)試料溶液中に存在するナトリウムの含有量を、原子吸光分光光度計(商品名:Z−5300、株式会社日立製作所製)により、測定モード:原子吸光測定波長範囲190〜900nm、検出波長:589.0nmで測定した。フレームにより試料を原子蒸気化し、その原子蒸気層に適当な波長の光を照射した際に、原子によって吸収された光の強さを測定し、これにより試料中の元素濃度を定量した。
(B)シリカ微粒子中のシリカ含有量測定
高濃度シリカゾル10gに50%硫酸水溶液2mlを加え、白金皿上にて蒸発乾固し、得られた固形物を1000℃にて1時間焼成後、冷却して秤量する。次に、秤量した固形物を微量の50%硫酸水溶液に溶かし、更にフッ化水素酸20mlを加えてから、白金皿上にて蒸発乾固し、1000℃にて15分焼成後、冷却して秤量する。これらの重量差よりシリカ微粒子中のシリカ含有量を求めた。
(A)及び(B)の測定結果より、SiO:NaOの質量比を算定した。
【0049】
[粘度]
粘度計(東機産業株式会社製、TV−10)にて、室温で高濃度シリカゾルの粘度測定を行った。粘度は、粘度計のローターの回転数60rpmにて測定した。各実施例及び比較例で調製した高濃度シリカゾル(シリカ濃度35質量%)300gを円筒型のガラス製保存ビン(高さ20cm)に注入し、製造初期、25℃で30日保存時、及び、25℃で100日保存時に粘度を測定した。
【0050】
[pH]
測定用サンプル約50gをポリエチレン製のサンプル瓶に採取し、これを25℃の恒温槽に30分以上浸漬した後、pH4、7および9の標準液で更正が完了した株式会社堀場製作所製のpHメータF22のガラス電極を挿入して、pHを測定した。
【0051】
[炭素含有量]
炭素含有量については、EMIA−320V(HORIBA社製)にて測定した。
【0052】
<水系溶媒分散シリカゾルの調製>
合成例1.[水系溶媒分散シリカゾル(平均粒子径5nm)の調製]
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)を純水で希釈してシリカ濃度5質量%とした後、陽イオン交換塔に通液し、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)を得た。次に純水469gと珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)31gを混合して、希釈珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度1.5質量%)500gを調製した。この希釈珪酸ナトリウム水溶液500gに、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)222gを混合し、60℃で1時間加熱した。その後60℃を保持しつつ、更に珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)945gを6時間かけて徐々に添加して、水系溶媒分散シリカゾルを得た。
この水系溶媒分散シリカゾルをロータリーエバポレーターにて、500gまで濃縮した。この水系溶媒分散シリカゾルはシリカ濃度10質量%で、平均粒子径5nmであった。
【0053】
合成例2.[水系溶媒分散シリカゾル(平均粒子径2nm)の調製]
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)を純水で希釈してシリカ濃度5質量%とした後、陽イオン交換塔に通液し、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)を得た。次に純水438gと珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)62gを混合して、希釈珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度3.0質量%)500gを調製した。この希釈珪酸ナトリウム水溶液500gに、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)222gを混合し、50℃で1時間加熱した。その後50℃を保持しつつ、更に珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)945gを6時間かけて徐々に添加して、水系溶媒分散シリカゾルを得た。
この水系溶媒分散シリカゾルをロータリーエバポレーターにて、500gまで濃縮した。この水系溶媒分散シリカゾルはシリカ濃度10質量%で、平均粒子径2nmであった。
【0054】
合成例3.[水系溶媒分散シリカゾル(平均粒子径3nm)の調製]
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)を純水で希釈してシリカ濃度5質量%とした後、陽イオン交換塔に通液し、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)を得た。次に純水453gと珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)47gを混合して、希釈珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度2.3質量%)500gを調製した。この希釈珪酸ナトリウム水溶液500gに、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)222gを混合し、60℃で1時間加熱した。その後60℃を保持しつつ、更に珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)945gを6時間かけて徐々に添加して、水系溶媒分散シリカゾルを得た。
この水系溶媒分散シリカゾルをロータリーエバポレーターにて、500gまで濃縮した。この水系溶媒分散シリカゾルはシリカ濃度10質量%で、平均粒子径3nmであった。
【0055】
合成例4.[水系溶媒分散シリカゾル(平均粒子径9nm)の調製]
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)を純水で希釈してシリカ濃度5質量%とした後、陽イオン交換塔に通液し、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)を得た。次に純水484gと珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度24質量%)16gを混合して、希釈珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度0.8質量%)500gを調製した。この希釈珪酸ナトリウム水溶液500gに、珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)222gを混合し、80℃で1時間加熱した。その後80℃を保持しつつ、更に珪酸液(シリカ濃度4.5質量%)945gを10時間かけて徐々に添加して、水系溶媒分散シリカゾルを得た。
水系溶媒分散シリカゾルをロータリーエバポレーターを用いて、500gまで濃縮した。この水系溶媒分散シリカゾルはシリカ濃度10質量%で、平均粒子径9nmであった。
【0056】
(実施例1)
合成例1で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、NMPを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
合成例1で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにジプロピルアミンを209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、ジプロピルアミンを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
合成例3で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにN−メチルホルムアミドを209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、N−メチルホルムアミドを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
合成例2で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度45質量%まで濃縮した。続いて、NMPを加えて希釈し、シリカ濃度37質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
合成例4で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を230g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、イオン交換水を加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
合成例2で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにトリエチルアミンを209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、トリエチルアミンを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
合成例2で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにN−メチルアセトアミドを209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、N−メチルアセトアミドを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
合成例3で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにエチレングリコールを209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。つづいて、エチレングリコールを加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例5)
合成例1で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度45質量%まで濃縮した。続いて、NMPを加えて希釈し、シリカ濃度42質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例6)
合成例1で調製した水系溶媒分散シリカゾル(シリカ濃度10質量%)1300gにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を209g添加して10分間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いてバス温度80℃、減圧度740mmHgの条件でシリカ濃度37質量%まで濃縮した。続いて、イオン交換水を加えて希釈し、シリカ濃度35質量%の高濃度有機溶媒分散シリカゾルを得た。この高濃度有機溶媒分散シリカゾルについて、シリカ微粒子の比表面積、平均粒子径、SiO/NaO比(質量比)、pH、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果より、実施例1〜4の高濃度シリカゾルは経時的にゲル化することはなく、また、その粘度も一定であり、経時安定性に優れていた。それに対し、シリカ微粒子の平均粒子径が9nmである比較例1、沸点が100℃未満であり、双極子モーメントが1.0未満の含窒素系溶媒を用いた比較例2、双極子モーメントが本発明の範囲を超えた含窒素系溶媒を用いた比較例3、並びに含窒素系溶媒以外の有機溶媒を用いた比較例4は、いずれも経時的にゲル化することが確認できた。また、シリカ濃度が42質量%の比較例5も経時的にゲル化する傾向にあり、分散性が安定的ではない。そして、分散媒に占める含窒素系溶媒の含有量が50質量%より少ない比較例6は、比較例1〜5に比べて30日程度では分散性を保つことができるが、100日後にはゲル化することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の高濃度シリカゾルは、有機溶媒中に微細かつ高比表面積なシリカ微粒子が高濃度で安定的に分散しているので、各種塗料、保護膜、ハードコート剤などの他、各種樹脂の充填材、セラミック成形体のバインダー、顔料の成分等として有用であり、たとえば磁気テープの充填剤、フィルムのブロッキング防止剤などの用途にも好適である。
また、本発明に係る高濃度シリカゾルは、比較的高いシリカ濃度にて、保管又は運送に供された場合でも、安定性が維持されるものである。このため、シリカゾルを使用する多くの分野において、保管スペースの節約又は運送コストの節約の効果を示すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の条件を満たすシリカ微粒子が、シリカ濃度20〜40質量%の範囲で、沸点が100℃以上且つ双極子モーメントが1.0〜4.2D(Debye)の範囲にある含窒素系溶媒を含む分散媒に分散してなることを特徴とする高濃度シリカゾル。
(a)前記シリカ微粒子の比表面積が560〜900m/gの範囲
(b)前記シリカ微粒子の平均粒子径が2〜5nmの範囲
(c)前記シリカ微粒子内に炭素原子を含有しない
【請求項2】
前記分散媒中に、前記含窒素系溶媒が50質量%以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項3】
前記シリカ微粒子が、珪酸アルカリを原料として調製されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項4】
前記シリカ微粒子におけるSiO:MO(Mはアルカリ金属を示す)の質量比が、100:0.2〜100:10の範囲であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項5】
前記含窒素系溶媒が、ジプロピルアミン、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン又はモノエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項6】
前記分散媒が、水を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項7】
25℃での粘度が、5〜300mP・sの範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾル。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とするセラミック成形体用バインダー。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とする充填材。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の高濃度シリカゾルを含有することを特徴とする顔料。

【公開番号】特開2011−236094(P2011−236094A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110188(P2010−110188)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】