説明

高濃度液状プルランとその流通方法

本発明は、新規な高濃度液状プルランとその流通方法を提供することを課題とし、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によるプルラン濃度10%(w/w)換算での粘度が2.5mm/s以上、製品グラム当たりの一般細菌数が300個未満、大腸菌群が陰性、pHが4.5乃至7.5、及びプルラン濃度が20%(w/w)以上である高濃度液状プルランと、これを所定の温度条件下で流通させる方法を確立することにより前記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な高濃度液状プルランとその流通方法に関する。
【背景技術】
プルランは、例えば、特公昭51−36360号公報、特公昭51−42199号公報、特公昭55−27099号公報、及び日本国特許第3232488号公報に開示されているとおり、プルラン産生菌を、グルコース、マルトース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、水飴、スクロース、フラクトース、糖化転化糖、異性化糖、又は糖蜜などの糖質含有液体培地中で培養することにより得ることのできる水溶性多糖類である。プルランの製造方法としては、プルラン産生菌を前記培地中でバッチ式、半連続式又は連続式で培養して得られる培養液を濾過し、必要に応じて、脱塩し、脱色し、濃縮した後、フィルム状に成形するか、前記培養後の濃縮液を乾燥し、粉砕してプルラン粉末とする方法、又は、前記製造方法の過程で得られる培養液を脱塩した後、アルコール沈澱処理してプルランを沈澱させ、これを乾燥して、高純度プルラン粉末とする方法を例示できる。これら従来の製造方法により得られるプルランは、全て粉末状又はフィルム状プルラン(固状プルラン)である。したがって、現在、市場に供給されているプルラン製品は、固状プルランのみであって、液状プルラン製品は存在しない。当然ながら、液状プルラン、殊に、高濃度液状プルランやその流通方法は知られていない。その理由としては、液状プルランは固状プルランとは違って、微生物汚染を受け易く、pHや粘度も変化し易いと考えられ、実用化できないと考えられていたからである。また、液状プルランの粘度は、その濃度増加につれ、対数比例的に増加し、流動性の面からも商品化できないと認識されていたこともその理由である。
しかしながら、昨今、液状プルラン、殊に、高濃度液状プルランの要望が食品、健康食品、化粧品、医薬品、化学品、農林水産の各分野おいて急速に高まりつつある。斯かる状況下、液状プルランを必要とするユーザーは、固状プルランを購入し、これを適宜溶媒に溶解して、不均質な液状プルランとして用いているのが現状である。この際、ユーザーは、固状プルランを溶解するための溶媒、容器、装置・器具等を準備しなければならない上、固状プルランを溶解するための時間、労力、エネルギーも要するなどの問題点、また、固状プルランは、いわゆる「ままこ(だま)」を形成し易く、気泡を抱き込み易いとの問題点、更には、加熱条件下でも、10乃至15%(w/w)程度の液状プルランですらも、不均質なものしか調製できないとの問題点があった。また、プルランを加熱すると、プルランの低分子化が起こり粘度が低下するとの不具合もあった。
【発明の開示】
本発明は、前記従来技術に鑑みて為された発明であって、従来、固状でしか流通させることは困難であると考えられていたプルラン製品を、液状で、しかも、高濃度の状態で安定に保存・流通させることができ、取扱性にも優れ、しかも低コストでユーザーに供給可能な高濃度液状プルランとその流通方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、前記課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、特定の粘度、pH及びプルラン濃度を有し、一般細菌数(以下、「生菌数」と言う場合がある。)を一定のレベル以下とし、かつ、大腸菌群の菌数が陰性である衛生的な高濃度液状プルランにより、また、この高濃度液状プルランを特定の温度条件下で流通させることにより前記課題を解決できることを見出した。
即ち、本発明は、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によるプルラン濃度10%(w/w)換算での粘度が2.5mm/s以上、製品グラム当たりの一般細菌数が300個未満、大腸菌群が陰性、pHが4.5乃至7.5、及びプルラン濃度が20%(w/w)以上である高濃度液状プルランにより前記課題を解決するものである。
また、本発明は、プルランの重量平均分子量が、5,000乃至500,000である高濃度液状プルランにより前記課題を解決するものである。
更に、本発明は、前記高濃度液状プルランとして、プルラン水溶液を用いることにより前記課題を解決するものである。
更に、本発明は、前記高濃度液状プルランに1種又は2種以上の殺菌剤及び/又は静菌剤を添加してなる高濃度液状プルランにより前記課題を解決するものである。
更に、本発明は、前記高濃度液状プルランであって、殺菌及び/又は静菌剤として、エタノールを用いる高濃度液状プルランにより前記課題を解決するものである。
更に、本発明は、前記高濃度液状プルランを14℃以下の温度で流通させる高濃度液状プルランの流通方法により前記課題を解決するものである。
更に、本発明は、前記殺菌及び/又は静菌剤を含んでなる高濃度液状プルランを37℃以下の温度で流通させる高濃度液状プルランの流通方法により前記課題を解決するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の高濃度液状プルランとその流通方法について以下、詳細に説明する。
本発明の高濃度液状プルランは、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によるプルラン濃度10%(w/w)換算での粘度が2.5mm/s以上、製品グラム当たりの一般細菌数が300個未満、大腸菌群が陰性、pHが4.5乃至7.5、及びプルラン濃度が20%(w/w)以上である高濃度液状プルランである。尚、本願明細書を通じて、一般細菌数の測定は、『衛生試験法・注解 2000、日本薬学会編』、75頁、金原出版株式会社(2000年2月29日発行)に記載された標準平板菌数(一般細菌数)の測定法に従って行った。
本発明の斯かる高濃度液状プルランの製造方法について述べるに、まず、プルラン産生菌を糖質含有液体栄養培地中、始発pH5〜7.5、温度20乃至40℃、好適には、25乃至35℃で1乃至10日間、バッチ式、半連続式、又は連続式で培養してプルランを産生させる。プルラン産生菌としては、例えば、特公昭51−36360号公報、特公昭51−42199号公報、特公昭55−27099号公報、及び特許第3232488号公報に記載されたプルラン産生菌はもとより、従来公知のプルラン産生菌のいずれも用いることができる。
プルランの重量平均分子量は、培地のpH、リン酸濃度を制御することにより調整することができる。具体的には、低分子量のプルランを製造するには、リン酸濃度を比較的高濃度とし、pHを比較的高く設定する。逆に、高分子量のプルランを製造する場合には、リン酸濃度を比較的低濃度とし、pHを比較的低く設定する。リン酸として、例えば、KHPOを用いる場合、KHPO濃度は、通常、0.1乃至0.5%(w/w)の範囲で調整する。
プルラン産生菌培養後に得られる液状プルランのpHは、通常、pH5.0未満、硫酸添加灰化法で測定したときの強熱残分(硫酸塩)が0.05%(w/w)以上、プルラン水溶液グラム当たりの生菌数(大腸菌数を含む)は、1×10個以上、及びプルラン濃度は精々15%(w/w)である。斯かる従来の液状プルランは、本発明の高濃度液状プルランと較べ、プルラン粘度及び/又は濃度が低く、不純物が多いことに加え、除菌・殺菌が為されていないことから、比較的低温度下においても、時間の経過と共に微生物汚染が急速に進み、通常、数日乃至1週間以内に品質が著しく変化し劣化する。
本発明においては、従来公知のプルランの製造方法の過程で得られる液状プルランを原料として、斯界において通常用いられる方法、例えば、遠心分離法、アルコール分別・沈澱法、塩析法、脱塩・脱色法、カラムクロマトグラフィー法、膜濾過法、膜濃縮法等の1種又は2種以上の方法を用いて、通常、重量平均分子量5,000以上、好ましくは、重量平均分子量10,000乃至500,000のプルラン含有画分であって、プルラン濃度20%(w/w)以上、好適には、20乃至40%(w/w)、より好適には、25乃至40%(w/w)、更に好適には、25乃至35%(w/w)の高濃度液状プルラン画分を採取する。また、液状プルランの粘度、濃度が前記範囲を下回るか上回る場合には、膜濃縮又は減圧濃縮等の公知の濃縮方法により濃縮するか、水、アルコール等の適宜溶媒を添加して希釈する。また、粘度は、高濃度液状プルランを加熱処理、通常、100℃以上の温度で数分から数時間加熱処理することにより低下させることができる。尚、高濃度液状プルランの粘度、濃度、及び分子量とは密接に関係している。つまり、本発明の高濃度液状プルランの粘度は、プルランの分子量と濃度の増加につれて増大する。この関係を利用して、高濃度液状プルランの使用目的に応じてその粘度を調節することができる。例えば、重量平均分子量が約5,000、約50,000、約130,000、及び約400,000のプルランを濃度20%(w/w)で含有する水溶液につき、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したときの粘度はそれぞれ、約2.5mm/s、約6.5mm/s、約21mm/s、及び約160mm/sである。更に、本発明の高濃度液状プルランの粘度と濃度は、精製又は部分精製プルランを添加することにより増加させることもできる。尚、本発明の高濃度液状プルランの粘度の上限は、その使用目的により設定されるが、流動性の観点からは、通常、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したとき約250mm/s以下、好ましくは、約200mm/s以下、より好ましくは、約180mm/s以下に設定するのがよい。
本発明の高濃度液状プルランのpH調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ剤、塩酸、有機酸等の酸剤を用いて、pH4.5乃至7.5、好適には、pH5.0乃至7.0、より好適には、pH5.5乃至7.0の範囲に調整する。高濃度液状プルランのpHが、pH4.5未満又はpH7.5を越える場合には、保存時又は加熱加工時に、高濃度液状プルランの品質に著しい変化をもたらす場合があることから好ましくない。このpH調整は、上記粘度又は濃度の調整前又は調整中に実施することも随意である。
微生物の殺菌・除菌・静菌処理は、高濃度液状プルランのpH、粘度、濃度を所定の範囲に調整する工程、又は、その工程の前後において、紫外線殺菌、マイクロ波殺菌、β線・γ線等の放射線殺菌、除菌濾過、加圧滅菌、遠心分離、薬剤殺菌及び低温殺菌、更には、HTST殺菌及びUHT殺菌等の公知の加熱殺菌方法等の1種又は2種以上の方法により、高濃度液状プルラングラム当たりの大腸菌数を陰性とし、高濃度液状プルラングラム当たりの一般細菌数を300個未満、好ましくは、50個以下、より好ましくは、10個以下、更に好ましくは、無菌にする。前記殺菌・除菌・静菌処理は、通常、本発明の高濃度液状プルランを調製する最終段で実施するのが効果的ではあるが、微生物汚染に由来するパイロジェンの混入を効率的に低減するためには、pH、粘度、及びプルラン濃度を調整する各段階で実施するのがよい。また、パイロジェンの混入を最小限に抑えるためには、プルラン産生菌培養後の全工程を無菌的に実施するのが望ましい。また、高濃度液状プルランを、例えば、100℃以上の高温で加熱殺菌する場合には、プルラン分子量の低下、粘度低下、pH低下或いは着色を招くことを考慮すべきである。更に、微生物汚染の問題を回避するために、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の直鎖状又は分岐状の飽和乃至不飽和の炭素数1乃至20のアルコールを初めとする1種又は2種以上の殺菌剤、滅菌剤或いは静菌剤を添加したり、高濃度液状プルランのpH、粘度、濃度を調整する全工程を、室温以下の温度、好ましくは、高濃度液状プルランの品温として、14℃以下、より好ましくは、12乃至4℃で実施するのが望ましい。尚、微生物汚染を抑制する観点からは、プルラン産生菌培養後の各工程をできるだけ低温で実施するのが望ましい。しかしながら、冷却に要する設備、装置、器具、エネルギーの観点から好適な温度は、高濃度液状プルランの品温として、14乃至4℃、より好適には、12乃至8℃である。
前記14℃以下の温度条件下においては、本発明の高濃度液状プルランが無菌でなくとも、液状プルランのグラム当たりの生菌数が300個未満である場合には、比較的長期間に亘って、製造直後の高濃度液状プルランの品質を維持できる利点がある。また、高濃度液状プルラングラム当たりの生菌数が300個以上の場合、通常、微生物汚染が急激に進み、品質劣化を招く。
本発明の高濃度液状プルランの内、殺菌剤、滅菌剤、静菌剤不含有の高濃度液状プルランの品温を14乃至4℃、より好適には、12乃至8℃の温度で、流通、貯蔵・保管する場合には、製造直後の高濃度液状プルランを、その冷却に要する設備・装置、冷却エネルギーコストをより少なくして、約3カ月以上もの長期間に亘って、安定に保持できる。また、本発明の高濃度液状プルランの流通形態としては、これを各種形状、容量の容器に充填するか、鉄道、船舶、航空機、タンクローリー等のトラックに、積載乃至搭載したタンク、コンテナ等の容器に充填し、前記温度条件下で流通させる形態を例示できる。また、高濃度液状プルランの品温を14℃以下に保てる自然環境下で流通させる場合には、冷却装置を有さないタンクローリー等のトラック、鉄道、船舶、航空機等によっても、本発明の高濃度液状プルランの品質を安定に保ちつつ、容易かつ安価に流通させることができる利点がある。
また、本発明の高濃度液状プルランの内、各種殺菌剤・滅菌剤・静菌剤として、例えば、前記したアルコール、殊に、エタノールを2.5%(w/w)以上、好適には、2.5乃至10%(w/w)添加してなる高濃度液状プルランである場合には、自然環境温度、殊に、その品温が37℃以下に保持し得る条件下においては、微生物汚染を懸念することなく、約3カ月以上もの長期間に亘って、製造直後の高濃度液状プルランの品質を実質的に安定に保持したまま、流通、貯蔵・保管することができる利点を有している。斯かる本発明の高濃度液状プルランは、過度に冷却していないことから、これを昇温する際に要するエネルギーをより少なくできる利点をも有している。また、本発明の高濃度液状プルランを流通、貯蔵・保管するに際し、高濃度液状プルランを収容する容器内に空気層がある場合には、これを脱気するか、二酸化炭素、窒素ガス等によりガス置換すれば、好気性菌の増殖を効果的に抑制することができる。更に、適宜の脱酸素剤を容器内に配置したり、高濃度液状プルラン中に添加することにより、主として好気性菌の増殖を効果的に抑制することができる。
斯かる本発明の高濃度液状プルランは、従来、市場に流通した例を見ない新規な液状プルラン製品である。本発明の高濃度液状プルランの特徴を列挙すると下記のとおりである。
(1)プルランを20%(w/w)以上、好適には、20乃至40%(w/w)含有する高濃度液状プルランである。
(2)微生物汚染が抑制乃至回避され、粘度、pH、着色度及び濁度の変化が抑制された高濃度液状プルランである。
(3)本発明の高濃度液状プルランは、そのまま、或いは、適宜所望の他の成分と配合して、所望の形態又は組成物に容易に加工できる。
(4)本発明の高濃度液状プルランと同じ濃度の液状プルランを、固状プルランを用いて調製しようとすると、溶媒中で固状プルランが、いわゆる「ままこ(だま)」になってしまい、均質な液状プルランを調製することは困難であるところ、本発明の高濃度液状プルランは、このような不具合なく調製された、均質かつ安定な液状プルランである。
(5)本発明の高濃度液状プルランは、プルランを20%(w/w)以上、好適には、20乃至40%(w/w)もの高濃度で含有するにも拘わらず、室温又は40乃至70℃程度の比較的穏やかな温度条件下で、適度の流動性を示す取扱性良好な液状プルランである。
以下、本発明の高濃度液状プルランとその流通方法を、実験例及び実施例に基づいて詳細に説明する。
実験例1:高濃度液状プルランの品質保持試験
高濃度液状プルランの品質保持試験をする目的で、後述する実施例1で得た濃度約30%(w/w)の高濃度液状プルラン(以下、「本実験の高濃度液状プルラン」と言う。)を滅菌済み500ml容ガラス製容器24本に250mlずつ分注し、密栓し、6、12、15、16、27又は37℃の恒温室にそれぞれ4本ずつ配置し、13週間放置する実験を行った。放置開始後2、4、9及び13週間目に、各温度の恒温室に放置した試料を経時的に1本ずつ取り出し、無菌的にサンプリングして、生菌数、pH、着色度、濁度、粘度を調べた。各サンプルにつき、一般生菌数は、『衛生試験法・注解 2000、日本薬学会編』、75頁、金原出版株式会社(2000年2月29日発行)に記載された方法に従って測定した。pHは、直接、試料をpHメータにより測定した。着色度は、各サンプルを滅菌精製水で3倍希釈し、1cmセル中、波長420nm及び波長720nmにおける吸光度差(=A420−A720)を求めて着色度とした。濁度は、各サンプルを滅菌精製水で3倍希釈し、1cmセル中、波長720nmにおける吸光度を濁度とした。粘度は、各サンプルを滅菌精製水で3倍希釈し、30℃の温度条件下、ウベローデ型粘度計(株式会社相互理化学硝子製作所製)により測定した値を、濃度10%(w/w)のプルラン水溶液の粘度に換算して表示した。尚、一旦、分析に供した試料は、廃棄した。その結果を表1に示す。


表1に示す結果から明らかなとおり、本実験の高濃度液状プルランを12℃以下の温度条件下で放置したときには、実験開始後、約3カ月間(13週間)に亘って、実験開始時の本発明の高濃度液状プルランの粘度、生菌数、pH、着色度、及び濁度が実質的にそのまま保持されていた。尚、濁度は、放置期間の経過につれ、減少する傾向を示した。また、本実験の高濃度液状プルランを14℃の温度条件下で放置したときには、実験開始後、4週間目迄は、実験開始時の本発明の高濃度液状プルランの粘度、生菌数、pH、着色度、及び濁度が実質的にそのまま保持されていたが、9週間目以降は、生菌数の増加し、粘度及びpHが低下する傾向を示した。一方、本実験の高濃度液状プルランを15℃の温度条件下に放置したときには、実験開始後、2週間目迄は、実験開始時の本実験の高濃度液状プルランの粘度、生菌数、pH、着色度、及び濁度が実質的に保持されていたが、実験開始後、4週間目以降は、生菌数が著しく増加し、粘度及びpHが低下する傾向を示した。
一方、本実験の高濃度液状プルランを27℃又は37℃で放置した場合には、実験開始後、2週間目から、著しい生菌数の増加を認めた。更に、本実験の高濃度液状プルランを37℃で放置した場合には、9週間目から、顕著な粘度低下とpH低下を認めた。尚、表1中、着色度と濁度を示す数値は、放置時間の経過と共に減少する傾向を示したが、これらの数値は、測定値から見て、実質的に無変化と見なし得る数値である。
これらの結果から、本実験の高濃度液状プルランは、14℃以下の温度条件下では、少なくとも4週間に亘って、また、12℃以下の温度条件下では、少なくとも約3カ月間に亘って、製造直後の品質が安定に保持されることが判明した。
尚、本実験に於いては、pH5.9の高濃度液状プルランを用いたが、このプルラン水溶液のpHを4.5、5.5、6.5又は7.5に調整した以外は前記同様にして試験した場合にも、何れの高濃度液状プルランも、表1の結果と同様の結果が得られる。また、pH4.5未満、pH7.5を越える高濃度液状プルランの場合には、時間の経過と共に粘度、pH、着色度又は濁度が著しく変化する場合があることから好ましくない。また、このような低pH、或いは高pHの高濃度液状プルランは、加熱するとプルランの分子量の低下を招くことからも好ましくない。
実験例2:高濃度液状プルランの品質保持試験
高濃度液状プルランの品質保持試験として、実施例1で得た濃度約30%(w/w)の高濃度液状プルランを滅菌済み500ml容ガラス製容器32本に200mlずつ分注し、8本ずつ4群(A群乃至D群)に分け、A群乃至D群の高濃度液状プルランに、殺菌剤・静菌剤としてのエタノールをそれぞれ1.0、2.5、5、及び10%(w/w)となるように添加した。次いで、A群乃至D群の試料を27℃と37℃の恒温室に約3カ月(13週間)放置する実験を行った。各試料につき、放置開始後2、4、9及び13週間目にそれぞれサンプリングして、生菌数、pH、着色度、濁度、粘度を調べた。各サンプルにつき、生菌数、着色度、着色度、濁度、及び粘度は、実験例1と同様にして測定した。尚、一旦、分析に供した試料は、廃棄した。その結果を表2に示す。


表2の結果から明らかなとおり、エタノール濃度が2.5%(w/w)以上の高濃度液状プルランは、27℃及び37℃の何れの条件下においても、約3カ月間に亘って、製造直後の品質が実質的に安定に保持されることが判明した。
尚、本実験に於いては、pH5.9の高濃度液状プルランを用いたが、高濃度液状プルランのpHを4.5、5.5、6.5又は7.5に調整した以外は前記同様に試験した場合にも、表2に示す結果と同様の結果が得られる。また、pH4.5未満、pH7.5を越える高濃度液状プルランの場合、これら高濃度液状プルランは、時間の経過と共に粘度、pH、着色度及び/又は濁度が変化する場合があることから好ましくない。また、このような低pH又は高pHの高濃度液状プルランは、加熱するとプルランの分子量の低下を招くことからも好ましくない。
【実施例1】
日本国特許第3232488号公報に記載されたプルランの製造方法に準じて、プルラン濃度10%(w/w)のプルラン水溶液(pH3.5)を得た。このプルラン水溶液をイオン交換樹脂を用いて脱塩・脱色し、濾過し、濃縮した後、5N−NaOHでpH5.9に調整し、UHT殺菌して(150℃、2乃至3秒)、最終濃度約30%(w/w)の高濃度液状プルラン(プルランの重量平均分子量400,000)を得た。この高濃度液状プルランの粘度は、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したとき162mm/s、硫酸添加灰化法で測定したときの強熱残分(硫酸塩)は0.01%以下、グラム当たりの生菌数は31個/gで、大腸菌は陰性であった。
【実施例2】
日本国特許第3232488号公報に記載されたプルランの製造方法に準じて、プルラン濃度8%(w/w)のプルラン水溶液(pH2.5)を得た。このプルラン水溶液をイオン交換樹脂を用いて脱塩・脱色し、濾過、濃縮し、70℃で1時間加熱殺菌した後、5N−NaOHでpH7.5に調整して、最終濃度約25%(w/w)の高濃度液状プルラン(プルランの重量平均分子量50,000)を得た。尚、加熱殺菌により、この高濃度液状プルランの粘度は、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したとき6.5mm/s、硫酸添加灰化法で測定したときの強熱残分(硫酸塩)は0.01%以下、グラム当たりの生菌数は3個/gであった。本品を無菌的に熱交換機を通して12乃至10℃に冷却した後、冷却装置付きタンク(容量50m)を備えた船舶にて、品温を12℃に保って、目的地の港まで10日間かけて輸送し、次いで、製品を12℃に冷却可能な装置付タンクローリ(10トン)に分注して、ユーザーまで4日間かけて搬送した。ユーザーに搬送されたプルラン水溶液は、工場出荷時と実質的に同一の品質を保持していた。
【実施例3】
日本国特許第3232488号公報に記載されたプルランの製造方法に準じて、プルラン濃度12%(w/w)のプルラン水溶液(pH5.3)を得た。このプルラン水溶液をイオン交換樹脂を用いて脱塩・脱色し、濾過し、濃縮した後、4N−NaOHでpH6.5に調整して、最終濃度約31%(w/w)の高濃度液状プルラン(プルランの重量平均分子量130,000)を得た。この高濃度液状プルランの粘度は、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したとき21mm/s、硫酸添加灰化法で測定したときの強熱残分(硫酸塩)は0.01%以下、グラム当たりの生菌数は20個/gであった。
本品は14℃の温度で保存したとき、少なくとも、1カ月間は、製造直後と実質的に同一の品質を保持していた。また、本品を12℃以下の温度で保存したときには、少なくとも、3カ月間に亙って、製造直後と実質的に同一の品質を保持していた。
【実施例4】
日本国特許第3232488号公報に記載されたプルランの製造方法に準じて、プルラン濃度12%(w/w)のプルラン水溶液(pH3.0)を得た。このプルラン水溶液をイオン交換樹脂を用いて脱塩・脱色し、濾過し、濃縮した後、4N−NaOHでpH6.0に調整し、殺菌剤・静菌剤としてのエタノールを2.5%(v/v)となるように添加して、最終濃度約35%(w/w)の高濃度液状プルラン(プルランの重量平均分子量150,000)を得た。この高濃度液状プルランの粘度は、ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によりプルラン濃度10%(w/w)換算で表示したとき22mm/s、硫酸添加灰化法で測定したときの強熱残分(硫酸塩)は0.01%以下、グラム当たりの生菌数は36個/gであった。
本品は37℃の温度で保存したとき、少なくとも、約3カ月間に亙って、製造直後と実質的に同一の品質を保持していた。
【産業上の利用の可能性】
以上説明したとおり、本発明は、製造直後の品質が比較的長期間に亘って安定に保持され、その取り扱い性にも優れ、かつ、低コストで流通させることのできる高濃度液状プルランとその流通方法を提供するものである。本発明の高濃度液状プルランは、従来の固状プルランの製造工程で必須であった、プルランの固状化工程を経ることなく調製されることから、その工程に要していたエネルギーを不要又は削減できると共に、その工程に要していた装置・器具等をも不要とすることができることから、従来の固状プルランと較べ、安価にユーザーに提供できる利点がある。また、本発明の高濃度液状プルランは、特定の温度条件下で流通させることにより、製造直後の品質を約3カ月以上もの長期間に亘って実質的に安定に保持できる利点を有する。したがって、本発明の高濃度液状プルランは、国内はもとより、外国へ輸送する場合にも、高品質の高濃度液状プルランを安定にユーザーに供給できる利点を有している。
また、本発明に斯かる高濃度液状プルランは、従来の粉末状プルラン、フィルム状プルラン、シート状プルラン等のプルラン製品と同様、各種飲食品、化粧品、医薬品、水畜産林業用品、農業用品、化学工業用品等の幅広い分野に好適に用いることができる。
このように、本発明が斯界に与える影響は極めて大きいと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウベローデ型粘度計法(測定温度30℃)によるプルラン濃度10%(w/w)換算での粘度が2.5mm/s以上、製品グラム当たりの一般細菌数が300個未満、大腸菌群が陰性、pHが4.5乃至7.5、及びプルラン濃度が20%(w/w)以上である高濃度液状プルラン。
【請求項2】
プルランの重量平均分子量が、5,000乃至500,000である請求の範囲第1項記載の高濃度液状プルラン。
【請求項3】
高濃度液状プルランが、プルラン水溶液であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載の高濃度液状プルラン。
【請求項4】
1種又は2種以上の殺菌剤及び/又は静菌剤を含んでなる請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載の高濃度液状プルラン。
【請求項5】
殺菌及び/又は静菌剤が、エタノールであることを特徴とする請求の範囲第4項記載の高濃度液状プルラン。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項のいずれかに記載の高濃度液状プルランを14℃以下の温度で流通させることを特徴とする高濃度液状プルランの流通方法。
【請求項7】
請求の範囲第4項又は第5項に記載の高濃度液状プルランを37℃以下の温度で流通させることを特徴とする高濃度液状プルランの流通方法。

【国際公開番号】WO2004/048420
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554995(P2004−554995)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014820
【国際出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】