説明

高炉装入用の炭材内装還元鉄及び高炉操業方法

【課題】、高炉において還元鉄を原料として多量に使用することができる高炉装入用の還元鉄及び高炉操業方法を提供すること。
【解決手段】還元鉄を炭材と共にプレス成型して製造したことを特徴とする高炉装入用の炭材内装還元鉄を用いる。粒径が1〜10mmの炭材が挟み込まれた、還元鉄の粒状物からなることが好ましい。高炉原料として、コークス、酸化鉄系原料、還元鉄系原料を用いる際に、還元鉄系原料の一部または全部として上記の炭材内装還元鉄を用いる高炉操業方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の生産性および操業安定性を確保しながら、比較的多量のスクラップ等の還元鉄系原料を高炉原料として使用できる高炉装入用の炭材内装還元鉄及びこれを用いた高炉操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を生産する際のスクラップの利用として、転炉内の溶銑にスクラップなどを投入して精錬することが一般的に行なわれている。転炉における溶銑の配合比率は銑配率と呼ばれている。溶銑の生産は高炉等により酸化鉄系原料を還元して行なうため、炭素系還元材が不可欠であり、必然的に二酸化炭素を生成するのに対し、スクラップなどは還元鉄であるため、そのままで転炉原料として用いることができる。よって、鋼を生産するために発生する二酸化炭素は銑配率に比例することになる。
【0003】
近年、地球温暖化の懸念から二酸化炭素発生量の削減が製鉄業界においても最重要課題とされている。二酸化炭素発生量の削減のために銑配率を低下させる(スクラップなどの還元鉄を多量に転炉に投入する)と、転炉中の溶鋼温度がその熱容量分だけ低下するため、精錬を継続するためには熱補償が不可欠である。転炉中に酸素を吹き込む脱炭工程は発熱反応であるが、ガスのほとんどは溶鋼との熱交換を行なわないまま排ガスとなり熱効率が低く、溶鋼温度の低下を防止するために、銑配率には下限が存在する。従って、転炉におけるスクラップの利用量には限界がある。
【0004】
一方で高炉は向流充填層反応容器であり排ガス温度が低く熱効率も高いため、製鉄所において大量にスクラップなどの還元鉄を使用するには高炉への投入が効果的である。高炉でスクラップなどの還元鉄を使用するに際しては、酸化鉄系原料(鉄鉱石や焼結鉱)と共に使用するのが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。また、コークスと混合して装入することによりスクラップなどの還元鉄への浸炭を促進して融点を低下させ、炉内での溶融を促進する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開昭62−127411号公報
【特許文献2】特許第3700184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示されるように、スクラップなどの還元鉄をコークスと混合して高炉に装入することにより、還元鉄の溶融を促進することは可能であるが、還元鉄とコークスとは性質(比重、大きさ、形状等)が異なるため、炉内に堆積する過程での分離が避けられないという問題がある。また、コークスとの接触も点接触に限られており、接触点を増やすにはコークスを細粒化する必要がある一方で、コークス細粒化は通気不良や原料降下不調を引き起こすため実施不可能であり、還元鉄とコークスとを充分に接触させることは困難であった。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、高炉において還元鉄を原料として多量に使用することができる高炉装入用の還元鉄及び高炉操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するための本発明は、炉内におけるコークスとスクラップなどの還元鉄の分離を防止するとともに、接触面積を増加させるため、炭材を還元鉄に内装させて、炭材内装還元鉄とするものであり、その特徴は以下の通りである。
(1)還元鉄を炭材と共にプレス成型して製造したことを特徴とする高炉装入用の炭材内装還元鉄。
(2)粒径が1〜10mmの炭材が挟み込まれた、還元鉄の粒状物からなることを特徴とする(1)に記載の高炉装入用の炭材内装還元鉄。
(3)高炉原料として、コークス、酸化鉄系原料、還元鉄系原料を用いる際に、還元鉄系原料の一部または全部として(1)または(2)に記載の炭材内装還元鉄を用いることを特徴とする高炉操業方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スクラップなどの還元鉄とコークスの接触点が増加するので、スクラップの溶解が促進され、高炉操業を安定化することができる。その結果、従来以上に多量のスクラップを高炉で利用することができ、高いスクラップ比での安定した高炉操業が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
高炉内においてスクラップなどの還元鉄とコークスの接触点を増加させるには、両方または一方の粒径をできるだけ小さくする必要がある。しかし、粒径を低下させることは、高炉の通気不良や原料降下不調を引き起こすため好ましい方法ではない。そこで、本発明者らはスクラップなどの還元鉄の空隙にコークスなどの炭材を内装させることを考えた。スクラップ等の還元鉄に炭材を内装させることで、スクラップなどの還元鉄の粒径は一定のままに、コークスなどの炭材との接触点を大幅に増加することが可能となる。さらに炭材は還元鉄の内部に格納されているため、高炉への原料装入過程で分離、偏析することもない。このような高炉装入用の炭材内装還元鉄として、還元鉄を炭材と共にプレス成型して製造したものを用いることができる。また、このような高炉装入用の炭材内装還元鉄は、粒径が1〜10mmの炭材が挟み込まれた、還元鉄の粒状物を用いることが好ましい。還元鉄に内装させる炭材の粒径が大きいと、還元鉄との接触面積が低下し、また還元鉄で挟み込むこと自体が困難となる。また、粒径があまりに小さいと、炭材のハンドリングが困難であると同時に、還元鉄の粒状物から炭材が容易に離脱し、挟み込まれた状態の維持が難しい。内装させる炭材の量は、還元鉄の2〜10mass%程度とすることが好ましい。
【0010】
尚、本発明において還元鉄とは、酸化鉄に比較して酸素の還元が進んだ状態の鉄であり、スクラップ等の金属鉄を用いることが好ましい。また、炭材とは、主として炭素からなる原料であり、石炭、コークス等を用いることが好ましい。
【0011】
図1にこのような炭材を内装させた還元鉄の一実施形態を示す。図1において、還元鉄1の内部に炭材2が挟み込まれている。このような構造とすることで、還元鉄と炭材との接触面積が増加し、しかも高炉装入原料として適当な粒径を有する原料とすることができる。
【0012】
炭材を内装させた還元鉄は、例えば鋼板等の鉄スクラップに石炭粉を混合して、プレス処理することで製造できる。炭材を内装させた還元鉄の粒径は、1cm〜40cm程度とすることが、原料搬送の点で好ましい。
【0013】
高炉原料として、コークス、酸化鉄系原料、還元鉄系原料を用いる高炉操業を行なう際に、還元鉄系原料の一部または全部として上記の炭材内装還元鉄を用いることで、還元鉄の高炉での使用量を増やすことができる。酸化鉄系原料とは、鉄鉱石、焼結鉱等の酸化鉄を主成分とする鉄原料であり、還元鉄系原料とは、酸化鉄系原料に比較して鉄の還元の進んだ鉄原料であり、鉄スクラップ等のリサイクル原料が主に用いられている。還元鉄系原料の少なくとも一部として炭材内装還元鉄を用いれば効果があるが、全量を炭材内装還元鉄とすることが好ましい。
【0014】
図2に、炭材を内装していない還元鉄をコークスに混合して高炉に装入する状態の概略図を示す。図2において還元鉄1は周辺のコークス3とわずかな点接触で接触するのみである。還元鉄1をコークス3と混合して高炉に装入することにより、還元鉄の溶融を促進する効果はあるが、図1と比較した場合、溶融が促進されるのは表面のわずかな部分のみであることが分かる。
【0015】
還元鉄を高炉原料として使用する場合、鉄鉱石あるいは焼結鉱(酸化鉄系原料)と共存させるパターンと、コークスと共存させるパターンとが考えられる。酸化鉄系原料、またはコークスとの混合状態として還元鉄を高炉に装入する場合、コークス層中に還元鉄系原料を存在させた方が、還元鉄の溶け落ち開始温度(溶融開始温度)が40℃程度低下し、還元鉄系原料使用においてはコークス層中へ存在させる方が有利である。さらに、還元鉄に炭材を内装体として存在させることにより、コークス層中に還元鉄系原料を存在させた時より、50℃程度溶け落ち開始温度が低下する。炭材を内装した還元鉄をコークス層中に存在させれば、還元鉄の溶融促進効果はさらに大きい。
【0016】
上記のように、炭材を内装した還元鉄を用いることで、還元鉄の溶融が促進されるので、操業の自由度が高まり、還元鉄を酸化鉄系原料と共存させる、あるいは、コークス層中に存在させる等、操業形態を任意に選択することが可能となる。また、溶け落ち開始温度が低い為、高炉原料としての還元鉄系原料の多量使用を実現できる。
【実施例1】
【0017】
冷延鋼板の裁断屑であるスクラップの還元鉄を用いて、本発明の効果を確認する実験を行った。0.5mm厚さの冷延鋼板140gを30mm角の立方体にプレス成型し、電気炉にて溶け落ち開始温度を測定した。プレス成型の際に、炭材として粒径約2mmのコークス粉を、スクラップ150gに対して7g添加してプレス処理したもの(炭材内装冷延鋼板)も製造した。プレス成型品は、図3に示すように(a)冷延鋼板のプレス成型品1の周囲空隙をアルミナ球4で充填し、立方体容器内に収納した、冷延鋼板スクラップの単体、(b)冷延鋼板スクラップ1を用いその周囲空隙をコークス3で充填し、立方体容器内に収納したもの、(c)炭材2内装冷延鋼板スクラップ1の周囲空隙をアルミナ球4で充填し、立方体容器内に収納したもの、とし、(a)〜(c)を電気炉に装入して、溶け落ち開始温度を測定した。図3(c)の、炭材内装冷延鋼板スクラップの写真を、図4に示す。溶け落ち開始温度は、図3に示すように(a)1436℃、(b)1392℃、(c)1335℃であり、炭材内装冷延鋼板では、コークス層に混合した場合に対して溶け落ち開始温度が56℃低下した。
【0018】
(a)のパターンは、還元鉄系原料を使用する際に、還元鉄系原料を鉄鉱石あるいは焼結鉱と共存させた場合に該当し、(b)のパターンは、還元鉄系原料を使用する際、還元鉄系原料をコークスと共存させた場合に該当し、(c)のパターンは、炭材を内装した還元鉄系原料を使用する場合に該当する。(c)に示すように、冷延鋼板スクラップ内に炭材を内装体として存在させることにより、大きく溶け落ち開始温度が低下することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】炭材を内装させた還元鉄の一実施形態を示す概略図。
【図2】炭材を内装していない還元鉄をコークスに混合して高炉に装入する状態の概略図
【図3】還元鉄の状態と、溶け落ち開始温度の関係を示すグラフ。
【図4】炭材を内装させた還元鉄の写真。
【符号の説明】
【0020】
1 還元鉄
2 炭材
3 コークス
4 アルミナ球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元鉄を炭材と共にプレス成型して製造したことを特徴とする高炉装入用の炭材内装還元鉄。
【請求項2】
粒径が1〜10mmの炭材が挟み込まれた、還元鉄の粒状物からなることを特徴とする請求項1に記載の高炉装入用の炭材内装還元鉄。
【請求項3】
高炉原料として、コークス、酸化鉄系原料、還元鉄系原料を用いる際に、還元鉄系原料の一部または全部として請求項1または請求項2に記載の炭材内装還元鉄を用いることを特徴とする高炉操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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