説明

高熱電性能を有するナノ複合材料および方法

本明細書の開示には、向上した熱電性能を有するナノ複合材料が含まれる。また、本明細書の開示には、そのようなナノ複合材料を製造する方法、および使用する方法も含まれる。本開示のいくつかの実施形態は、マトリックスおよびナノ包接物を含む製造物品に関し、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散され、製造物品は、少なくとも1の熱電性能指数(zT)を有する。製造物品は、少なくとも1.5の熱電性能指数(zT)を有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援の研究に関する陳述
米国政府は、陸軍から授与された助成金番号W911NF−08−C−0058に準拠して、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、高い熱電性能を有する熱電ナノ複合材料、それを製造する方法、およびそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ゼーベック効果を利用する発電、およびペルチェ効果を利用する冷蔵の両方を含む熱電応用が、この10年間に世界中でますます関心を集めている。例えば、特に自動車の廃熱回収用途に対して、電力を発生し炭素排出を削減するための熱電デバイスが、急速に開発されている。宇宙および地上用途の両方に有効な熱電デバイスの開発は、高い熱電性能指数(zT)を有する組成物の使用可能性から利益を得ることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示のいくつかの実施形態は、マトリックスおよびナノ包接物を含む製造物品に関し、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散され、製造物品は、少なくとも1の熱電性能指数(zT)を有する。製造物品は、少なくとも1.5の熱電性能指数(zT)を有することができる。マトリックスは、例えば、Pb等を含むことができる。マトリックスは、PbTe、PbSe等から選択される少なくとも1つの組成物を含むことができる。ナノ包接物は、例えば、Ag、Cu等を含むことができる。ナノ包接物は、AgTe、AgSe等から選択される少なくとも1つの組成物を含むことができる。ナノ包接物の少なくとも1つの寸法は、200ナノメートル超、または400ナノメートル超、または500ナノメートル超、または600ナノメートル超、または800ナノメートル超、または1マイクロメートル超である。製造物品は、ドーパントをさらに含むことができる。ドーパントは、LaおよびNa等から選択される少なくとも1つの組成物を含むことができる。
【0005】
本開示のいくつかの実施形態は、少なくとも第1の要素を含む第1の材料および少なくとも第2の要素を含む第2の材料を加熱して、混合物を形成することと、混合物を冷却して、第2の要素を含むナノ包接物を沈殿させることと、混合物を焼鈍することと、を含む、物品を製造する方法に関する。第1の材料の第1の要素は、Pb等を含むことができる。第1の材料は、Te、Se等から選択される少なくとも1つの組成物をさらに含むことができる。ナノ包接物の第2の要素は、Ag、Cu等を含むことができる。ナノ包接物は、Te、Se等から選択される少なくとも1つの組成物をさらに含むことができる。本方法は、冷却を反復すること、および/または焼鈍を反復することをさらに含むことができる。本方法は、物品をドーパントでドーピングすることをさらに含むことができる。ドーパントは、La、Na等から選択される少なくとも1つの組成物を含むことができる。
【0006】
本開示のいくつかの実施形態は、熱電デバイス内で製造物品を使用する方法に関し、製造物品は、マトリックスと、ナノ包接物とを含み、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散され、製造物品は、少なくとも1の熱電性能指数(zT)を有する。いくつかの実施形態では、製造物品を使用する方法は、製造物品に温度勾配を適用することと、電気エネルギーを収集することと、を含む。いくつかの実施形態では、製造物品を使用する方法は、製造物品に電気エネルギーを適用することと、第1の動作温度での第1の空間から第2の動作温度での第2の空間に熱を移行させることと、を含み、第1の動作温度は、第2の動作温度よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】PbTe中のAgTeの温度に強く依存する溶解度を示す、(PbTe)1−x(AgTe)システムの疑似二元状態図の推定部分である。773Kにおける白丸は、PbTe中の実験的Ag溶解度を示す。Ag5.5の組成物((PbTe)1−x(AgTe)において、x=5.5mol%に対応する)(ポイント1)で溶解された均質物から始めて、試料を急冷した後、単相領域(ポイント2)内で焼鈍して均質化した。次に、773K(ポイント3)において焼鈍することによって、相分離を達成した。「L」は、溶解を表し、「htl」は、AgTeの高温度相を表す。
【図2】(a)増加するAgTe含有量の効果を示す、(PbTe)1−x(AgTe)ナノ複合材料(x=1.3mol%、2.7mol%、4.1mol%、5.5mol%)について、電界放出走査電子顕微鏡法によって取られた後方散乱電子画像。スケールバーは、1マイクロメートルである。(b)沈殿物(ナノ包接物)の観察領域留分の外挿は、T=773Kの場合、1mol%付近のxにおいて、相境界エッジを産生する。(c)XRDパターンは、PbTeおよび単斜晶構造を有する少量のAgTeを示す(矢印)。(c)において、下から上への曲線は、それぞれAg5.5((PbTe)1−x(AgTe)においてx=5.5mol%に対応する)、La1((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=1%に対応する)、La2((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=2%に対応する)、La3((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=3%に対応する)、およびLa4((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=4%に対応する)に関するデータに対応する。
【図3】(a)(PbTe)1−x(AgTe)ナノ複合材料についての高温抵抗。400Kにおいて開始する抵抗の崩壊は、真性半導体の挙動を示す。Agl.3((PbTe)1−x(AgTe)においてx=1.3mol%に対応)、Ag2.7((PbTe)1−x(AgTe)においてx=2.7mol%に対応)、Ag4.1((PbTe)1−x(AgTe)においてx=4.1mol%に対応)、およびAg5.5((PbTe)1−x(AgTe)においてx=5.5mol%に対応)に関するデータは、それぞれ最低ピーク抵抗を有する実線曲線(矢印参照)、破線曲線、最高ピーク抵抗を有する実線曲線(矢印参照)、および点線曲線で示される。(b)ホール係数(R)およびゼーベック係数Sのクイッククロスオーバーは、真性伝導に対する追加の証拠を提供する。
【図4】(PbTe)1−x(AgTe)ナノ複合材料およびn型純PbTeの温度関数としての熱伝導率。熱伝導率の低減は、AgTe相の濃度が増加するにつれて増加する。高温では、両極性熱伝導率が、これらの真性半導体材料(製造物品)に対して著しい寄与となる。Agl.3((PbTe)1−x(AgTe)においてx=1.3mol%に対応)、Ag2.7((PbTe)1−x(AgTe)においてx=2.7mol%に対応)、Ag4.1((PbTe)1−x(AgTe)においてx=4.1mol%に対応)、およびAg5.5((PbTe)1−x(AgTe)においてx=5.5mol%に対応)に関するデータは、それぞれ白丸を有する実線曲線、白い正方形を有する実線曲線、白い三角形を有する実線曲線、および白い五角形を有する実線曲線で示され、n型純PbTeは、黒丸を有する実線曲線で示される。差し込み図は、450K未満のTにおけるAgl.3について、デバイ−キャロウェイモデルによって、実験の格子熱伝導率(κExp)(白丸)と、予測された(計算された)格子熱伝導率(κCal)(実線)との一致を示す。
【図5】AgTeナノ粒子(ナノ包接物)がPbTe熱伝導率に及ぼす影響を評価するために、実験結果(300Kについては白丸、400Kについては白い正方形)を、合金および有効媒質モデルと比較する。合金制限内で(1mol%に近いx)、点欠陥散乱(質量と歪みの対比)のデバイ−キャロウェイモデルは、実験と良好に一致する(領域1)。有効媒質近似(EMA)は、ナノ粒子がナノ複合材料を産生し、界面効果による散乱の増強をもたらさない場合の実験結果を説明することができる。EMAの2つの限界−(2、実線曲線で示される)ゼロおよび(3、点線曲線で示される)無限(カピッツァ)界面抵抗が考慮される。無限界面抵抗を用いても、このモデルは、格子熱伝導率を著しく過大評価し、AgTeナノ粒子がフォノン平均自由行程を効果的に低減することを証明する。
【図6】(a)La3ドープPbTe−AgTe中のAgTe沈殿物のTEM画像。スケールバーは、500ナノメートルである。(b)[101]PbTeゾーン軸についての電子回折パターンは、沈殿物がベータ−AgTe(β−AgTe)であることを示す。4つの個別のベータ−AgTe(β−AgTe)変異型が観察および標識される。
【図7】(a)原子プローブ断層撮影によって得られたLa3標本の3次元再構成は、30ナノメートル以下のサイズのAgTe形状が観察されなかったことを示す。各スポットは、原子型によって陰影が付けられた個別の原子を表す。明確にするために、PbおよびTeの10%のみが示される。スケールバーは、10ナノメートルである。(b)原子プローブ断層撮影分析に由来する頻度ヒストグラムは、AgおよびLaが、黒い線で示される2項曲線に適合し、したがって、PbTeマトリックス中に均質に分散されることを示す。左側の2項曲線(より高いピーク値を有する)は、Agに関し、右側はLaに関する。
【図8】Laドープ(PbTe)0.945(AgTe)0.055ナノ複合材料の温度依存性ゼーベック係数S(a)、電気抵抗p(b)、および力率(c)は、n型縮退半導体と一致する挙動を示す。電気抵抗は、恐らくAgTeベータ(β)からアルファ(α)への移行に起因して、400K付近にピークを示す。(a)の差し込み図は、ナノ複合材料の室温キャリア密度依存性ゼーベック係数(白丸)、およびn型巨大PbTeについて得られたピサレンコ曲線(実線曲線)との比較を示す。La1((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=1%に対応する)、La2((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=2%に対応する)、La3((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=3%に対応する)、およびLa4((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=4%に対応する)に関するデータは、それぞれ白丸を有する実線曲線、上向きの白い三角形を有する実線曲線、下向きの白い三角形を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示される。
【図9】(a)総熱伝導率κ対温度、(b)Laドープ(PbTe)0.945(AgTe)0.055の得られた格子熱伝導率κは、n型PbTeよりも著しく低く、高温で最小値(破線曲線)に近づく。(c)300K(白いカラム)および650K付近(実線カラム)において試みられたPbTeナノ複合材料全体の格子熱伝導率の比較。格子熱伝導率κの文献値を、本文中に記載の単一放物線帯モデルから得られたローレンツ数を用いて再計算した。再度、破線曲線は、計算された最小格子熱伝導率κを示す。(a)または(b)において、La1((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=1%に対応する)、La2((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=2%に対応する)、La3((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=3%に対応する)、およびLa4((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=4%に対応する)に関するデータは、それぞれ白丸を有する実線曲線、上向きの白い三角形を有する実線曲線、下向きの白い三角形を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示され、n−PbTeおよびAg5.5((PbTe)1−x(AgTe)中においてx=5.5mol%に対応する)に関するデータは、それぞれ黒丸を有する実線曲線、および白い五角形を有する実線曲線で示される。(c)において、左から右へのカラムに示されるデータは、AgPb18SbTe20(K.F.Hsu,S.Loo,F.Guo,W.Chen,J.S.Dyck,C.Uher,T.Hogan,E.K.Polychroniadis and M.G.Kanatzidis,Science,303,818,(2004))、NaPb18SbTe20(A.Gueguen,P.F.P.Poudeu,C.Li,S.Moses,C.Uher,J.He,V.Dravid and K.M.,Chem.Mater.,21,1683,(2009)),Na95Pb18SbTe22(P.F.P.Poudeu,J.D′Angelo,J.L.Short,T.P.Hogan,and M.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,45,3835,(2006))、AgPb12Sn0.4Sb0.4Te22(J.Androulakis,K.F.Hsu,R.Pcionek,H.Kong,C.Uher,J.DAngelo,A.Downey,T.Hogan and M.G.Kanatzidis,Adv.Mater.,18,1170,(2006))、(Pb0.95Sn0.05Te)0.92(PbS)0.08(J.Androulakis,C.Lin,H.Kong,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007))、Pb1.005Sb0.02Te(J.R.Sootsman,H.Kong,C.Uher and J.J.D.W.P.H.T.C.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,47,8618,(2008))、およびAg0.8Pb22.5SbTe20(M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008))に関し、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる。最後のカラムに示されるデータは、(PbLa0.02Te1.02)0.945(AgTe)0.0550に関する。
【図10】AgTeナノ沈殿物(ナノ包接物)を有するLaドープPbTeのキャリア濃度対照は、775Kにおいて、1.5の過剰でzTを産生する。La1((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=1%に対応する)、La2((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=2%に対応する)、La3((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=3%に対応する)、およびLa4((PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055においてz=4%に対応する)に関するデータは、それぞれ白丸を有する実線曲線、上向きの白い三角形を有する実線曲線、下向きの白い三角形を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示される。
【図11】鋳造PbTe:Na/AgTeインゴットとしての典型的なナノ構造画像。コントラストの濃い短プレートは、AgTe相を示す。差し込み図は、わずかな孔を有するホットプレスされた試料のナノ構造を示す(黒)。スケールバーは、10マイクロメートルである。
【図12】(a)PbTe:Naに関するピサレンコプロット(実線曲線)が上書きされたPbTe:Na/AgTeに関する室温でのゼーベック係数S対ホール密度p(エラーバーを有する白丸)。差し込み図は、300Kでの概略バンド構造を示す。(b)温度依存性ゼーベック係数S、ならびにPbTe:Na(「PbTe:Na,3.6e19」という注記のついた実線曲線)およびn型PbTe:La/Ag2Te(La3、「La3,3.4e19」という注記のついた実線曲線)。原子価バンド構造の複雑性は、ゼーベック係数Sを著しく増加させる。2.5e19(2.5×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、3.1e19(3.1×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、および3.7e19(3.7×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)に関するデータは、それぞれ白い正方形を有する実線曲線、白丸を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示される。
【図13】PbTe:Na/AgTeおよびPbTe:Na(「PbTe:Na,3.6e19」という注記のついた実線曲線)に関する温度依存性導電率σ。AgTeナノ包接物は、キャリアを強力に拡散し、それによって、特に差し込み図に示される低温において、ホール移動度μを低減させる。2.5e19(2.5×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、3.1e19(3.1×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、および3.7e19(3.7×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)に関するデータは、それぞれ白い正方形を有する実線曲線、白丸を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示される。
【図14】PbTe:Naに関する温度依存性熱伝導率κ(「PbTe:Na」という注記の付いた実線曲線)およびその格子成分κ(「PbTe:Na」という注記の付いた破線曲線)と比較したPbTe:Na/AgTeに関する温度依存性熱伝導率κ(3.1e19については白丸を有する実線曲線、または3.7e19については白い星を有する実線曲線)およびその格子成分κ(3.1e19については黒丸を有する破線曲線、または3.7e19については黒い星を有する破線曲線)。AgTeナノ包接物は、フォノンを効果的に拡散させ、したがって格子熱伝導率κをT>600Kにおいて、0.5W/m−K近くまで削減する。「3.1e19」は、3.1×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応し、「3.7e19」は、3.7×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する。
【図15】(a)PbTe:Na/AgTe、PbTe:Na、およびPbTe:La/AgTeに関する温度依存性熱電性能指数zT(La3、「La3,3.4e19」という注記の付いた実線曲線)。熱電性能指数zTの向上は、PbTe:Na中の格子熱伝導率κの低減に寄与する(破線曲線)。2.5e19(2.5×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、3.1e19(3.1×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)、および3.7e19(3.7×1019/cmのホール密度pを有するドープ試料に対応する)に関するデータは、それぞれ白い正方形を有する実線曲線、白丸を有する実線曲線、および白い星を有する実線曲線で示される。(b)3.5e19/cmに近い室温ホール密度pを有するPbTe:Na/AgTe(第3のカラム対)、PbTe:Na(第2のカラム対)、およびPbTe:La/AgTe(第1のカラム対)についての、300〜750Kにおける最大効率(各対の左カラム)と平均熱電性能指数zT(各対の右カラム)との比較。PbTe:Na上で測定されたzTに関するデータは、実線曲線で示され、PbTe:Naについて計算されたzTに関するデータ(PbTe:Na/AgTeナノ複合材料の格子熱伝導性を推定する)は、破線曲線で示される。バンド構造の複雑性およびナノ構造に起因して、平均熱電性能指数zTは、約100〜40%増強される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
熱電(TE)応用は、増加を続けるエネルギー消費率に対抗するための手段として、この10年間で世界中の関心が高まっている。熱電材料の2つの主要な応用は、ゼーベック効果を利用する発電、およびペルチェ効果に起源を有する固体冷却である。しかしながら、近年は、持続可能な排ガス規制廃熱回収工程として、自動車産業にとって発電が第1の関心事である。これに関する考察は、例えば、L.E.Bell,Science(2008),321,1457において見出すことができ、参照することにより本明細書に組み込まれる。この工程の有効性は、熱電材料の全体効率によって制限される。
【0009】
zで示される熱電材料の一般的な性能指数は、z=Sσ/(κ+κ)として定義され、Sはゼーベック係数であり、σは導電率であり、κおよびκは、それぞれ熱伝導率の電子(またはキャリア)成分およびフォノン(または格子)である。熱電材料のゼーベック係数Sは、ケルビン温度1度当たりの電圧差である。導電率σは、電気抵抗率ρの逆数である。性能指数zは、逆ケルビンの単位である。熱電性能指数と称される別の性能指数は、zTとして定義することができ、zTが無次元量であるように、Tは絶対温度(ケルビン)である。
【0010】
過去50年間に調査および最適化された材料は、従来の単純な半導体であった。例としては、テルル化ビスマス、テルル化鉛、およびシリコンゲルマニウムの合金が挙げられ、最善のものでも1以下の熱電性能指数zTを呈する。近年、この熱電性能指数zTの障壁が破られ、数ナノメートルから数十ナノメートルの形状を有する薄膜超格子または量子井戸材料において、2を超える熱電性能指数zTが達成された。例えば、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる、Caylor,J.C.,Coonley,K.,Stuart,J.,Colpitts,T.,and Venkatasubramanian,R.Applied Physics Letters(2005),87,23105、Venkatasubramanian,R.;Siivola,E.;Colpitts,T.;O′Quinn,B.Nature(2001),413,597−602、およびHarman,T.C.;Taylor,P.J.;Walsh,M.P.;LaForge,B.E.Science(2003),297,2229−2232を参照されたい。第1の有意な結果は、Venkatasubramanian(2001)のものであり、6ナノメートルの周期性を有するBiTe−SbTe量子井戸超格子を使用して、熱電性能指数zT=2.4を示した。Harmanおよび共働者らは、PbTe−PbSeTeシステムにおいて、量子ドット超格子を用意し(PbTeマトリックスに包埋されたPbSeナノドットとして記載される)、1.6の熱電性能指数zTを示した。
【0011】
そのような熱電の高い熱電性能指数zTにも関わらず、超格子材料を利用するデバイスの性能は、バルクBiTe系デバイスを未だ超えていない。これは、現在の「トップダウン」製造方法から達成される熱電素子のサイズが小さいことに起因し、電気および熱接触抵抗の相対寄与が大きいことを暗示する。
【0012】
S、σ(またはρ)、およびκは、キャリア密度と密接に関係するため、キャリア密度を最適化し、独立パラメータκを最小化する方策は、zTを改善するために効率的な経路となることができる。さらなる考察は、例えば、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる、A.F.Ioffe,Semiconductor thermoelements,and Thermoelectric cooling,Infosearch,London,(1957)、およびG.J.Snyder,E.S.Toberer,Nat Mater(2008)7,105において見出すことができる。
【0013】
近年提案されている2つの機構は、状態密度およびキャリアポケット工学の変形によって、ゼーベック係数の著しい増強、したがってzTの改善を可能にすることが示された。単なる例として、PbTeの複雑な原子価バンド構造に起因して、共鳴状態を有しない、重度にドープされたp型PbTe:Naは、共鳴状態を有する材料、つまりPbTe:Tlと同様の高い熱電性能を有することが認められた。しかしながら、原子価バンド構造に対するこの影響は、電子的効果であり、格子熱伝導率を低減することによって、PbTe:NaのzTをさらに増強する可能性を示す。例えば、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる、T.Koga,X.Sun,S.Cronin,M.Dresselhaus,Appl Phys Lett(1998),73,2950、O.Rabina,Y.Lin,M.Dresselhaus,Appl Phys Lett(2001),79,81、M.S.Dresselhaus,G.Chen,M.Y.Tang,R.G.Yang,H.Lee,D.Z.Wang,Z.F.Ren,J.P.Fleurial,P.Gogna,Adv Mater(2007),19,1043、およびJ.Heremans,V.Jovovic,E.Toberer,A.Saramat,K.Kurosaki,A.Charoenphakdee,G.J.Snyder,Science(2008),321,554を参照されたい。
【0014】
特に指定のない限り、ナノ包接物および製造物品は、本開示において同義的に使用される。本開示のいくつかの部分では、ナノ包接物または製造物品はまた、試料とも称される。ナノ包接物または製造物品の典型的な実施形態は、例えば、図2、図6、図7、および図11、ならびにそれらの説明において例示される。これらは単なる例示の目的に過ぎず、本開示の範囲を限定するものではないことが理解される。
【0015】
本明細書で使用する、ナノ包接物は、マトリックスとは異なる組成を有する、ナノ複合材料(または製造物品)のマトリックス内の包接物を指す。ナノ包接物のサイズは、ナノメートルスケールまたはマイクロメートルスケールであることができる。単なる例として、ナノ包接物は、少なくとも1つの寸法が1マイクロメートル超である。
【0016】
特に指定のない限り、キャリア密度およびキャリア濃度は、本開示において同義的に使用される。
【0017】
いくつかの実施形態では、本出願のある実施形態を説明および特許請求するために使用される、成分、分子量等の特性、反応条件等の数量を表す数値は、いくつかの例において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解される。したがって、いくつかの実施形態では、明細書および添付の請求項に記載される数値パラメータは、特定の実施形態によって得ようとする所望の特性に応じて異なり得る、近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、通常の四捨五入技法を適用することによって、報告された有効桁数を考慮して解釈される必要がある。本出願のいくつかの実施形態の広範な範囲を説明する数値範囲およびパラメータは、近似値であるが、特定の実施例に記載される数値は、実践可能な限り正確に報告される。
【0018】
熱電のためのバルクナノ構造材料を合成する方策は、伝統的な冶金アプローチに端を発する。いくつかのテーマ(a)単相領域から二相領域への移行に起因する、冷却時の固体分割、(b)準安定相の形成および後次分解、ならびに(c)溶解物からの凝固が、本開示のこれらの合成において使用される。これらの変換の1つの利点は、微細構造またはナノ構造の長さスケールを拡散によって制御することができ、したがって、処理パラメータを変動させて、広範な微細構造またはナノ構造が得られるようにできることである。これは、本開示の他の部分でさらに詳述される。さらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって組み込まれる、T.Ikeda,L.A.Collins,V.A.Ravi,F.S.Gascoin,S.M.Haile and G.J.Snyder,Chem.Mater.,19,763−767,(2007)、T.Ikeda,S.M.Haile,V.A.Ravi,H.Azizgolshani,F.Gascoin and G.J.Snyder,Acta Materialia,55,1227−1239,(2007)、T.Ikeda,V.A.Ravi and G.J.Snyder,Acta Materialia,57,666−672,(2009)、およびD.L.Medlin and G.J.Snyder,Current Opinion In Colloid & Interface Science,14,226,(2009)において見出すことができる。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態は、マトリックスおよびナノ包接物を含む製造物品に関し、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散され、製造物品は、少なくとも1の電熱性能指数zTを有する。ナノ包接物は、フォノンを効果的に分散させて、低い格子熱伝導率κをもたらすことができる。製造物品は、キャリア密度を最適化するように、少なくとも1つのドーパントを含むことができる。製造物品は、向上した熱電性能指数zTを有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、マトリックスは、鉛(Pb)、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、ヒ素(As)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等、またはそれらの合金から選択される少なくとも1つの組成物を含む。いくつかの典型的な実施形態では、マトリックスは、PbTeまたはPbSeを含む。熱電応用に対するPbSeの利点としては、これらに限定されないが、低コストおよび高温抵抗が挙げらる。いくつかの典型的な実施形態では、マトリックスは、PbSeTe1−xを含み、式中、xは、PbTeおよびPbSeの合金中のPbSe率を表し、0(を含む)〜1(を含む)であり得る。いくつかの実施形態では、マトリックスは、HgCdTe、PbS、InAs、InSb、CdAs、BiTe、SnTe等を含む。いくつかの実施形態では、マトリックスは、微小ギャップ半導体を含む。いくつかの実施形態では、マトリックスは、1マイクロメートル未満、または800ナノメートル未満、または600ナノメートル未満、または400ナノメートル未満、または200ナノメートル未満、または100ナノメートル未満、または80ナノメートル未満、または60ナノメートル未満、または40ナノメートル未満、または20ナノメートル未満のナノスケール形状を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、マトリックスと同構造ではない。例えば、ナノ包接物の寸法は、それらがフォノン分散を増強するように、マトリックスのナノスケール形状よりも大きく、格子熱伝導率κを低減することができる。いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、(形状が同寸法でない場合はその短軸に沿って)20ナノメートル超、または40ナノメートル超、50ナノメートル超、または60ナノメートル超、または80ナノメートル超、または100ナノメートル超、または120ナノメートル超、または150ナノメートル超、または180ナノメートル超、または200ナノメートル超、または250ナノメートル超、または300ナノメートル超、または400ナノメートル超、または500ナノメートル超である寸法を有する。いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、(形状が同寸法でない場合はその長軸に沿って)1マイクロメートル未満、または800ナノメートル未満、または600ナノメートル未満、または500ナノメートル未満、または400ナノメートル未満、または300ナノメートル未満、または250ナノメートル未満、または200ナノメートル未満、または150ナノメートル未満、または100ナノメートル未満、または80ナノメートル未満、または60ナノメートル未満、または50ナノメートル未満の寸法を有する。いくつかの実施形態では、物品は、大きいナノ包接物に加えて、いくつかのより小さいナノ包接物を含む。単なる例として、物品は、20ナノメートルに近似するか、または20ナノメートル未満のナノスケール形状を有するマトリックス、50ナノメートル〜200ナノメートルの大ナノ包接物、および50ナノメートル未満の小ナノ包接物を含む。ナノ包接物は、略球体、棒、円筒、楕円体、プレート等の形状を有することができる。本明細書で使用する、「略」とは、ナノ包接物の形状が完全でなくてもよいことを示す。いくつかの実施形態では、マトリックス中のナノ包接物は、200ナノメートル超、または400ナノメートル超、または500ナノメートル超、または600ナノメートル超、または800ナノメートル超である少なくとも1つの寸法を有する、比較的大きいスケールを有する。いくつかの実施形態では、マトリックス中のナノ包接物の少なくとも1つの寸法は、1マイクロメートル超である。比較的大きいスケールを有するナノ包接物は、フォノン分散を増強することにおいて有効であり、それによって、格子熱伝導率κを低下させ、物品の熱電性能を向上させる。いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散される。いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、いくつかの他のパターンでマトリックス中に分散される。いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、マトリックス中にランダムに分散される。いくつかの実施形態では、マトリックス中のナノ包接物の平均数密度は、1/μm〜約200/μm、または5/μm〜150/μm、または10/μm〜120/μm、または20/μm〜100/μm、または30/μm〜80/μm、または40/μm〜60/μmである。いくつかの実施形態では、マトリックス中の平均密度は、1/μm〜約10/μm、または10/μm〜約20/μm、または20/μm〜約40/μm、または40/μm〜約60/μm、または60/μm〜約80/μm、または80/μm〜約100/μmであるか、または100/μmよりも高い。いくつかの実施形態では、ナノ包接物間の空間は、10ナノメートル〜10μm、または50ナノメートル〜5マイクロメートル、または100ナノメートル〜1マイクロメートル、または150ナノメートル〜500ナノメートル、または200ナノメートル〜300ナノメートルである。いくつかの実施形態では、ナノ包接物間の空間は、10ナノメートル〜50ナノメートル、または50ナノメートル〜100ナノメートル、または100ナノメートル〜200ナノメートル、または200ナノメートル〜400ナノメートル、または400ナノメートル〜600ナノメートル、または600ナノメートル〜800ナノメートル、または800ナノメートル〜1000ナノメートルであるか、または1000ナノメートル超である。いくつかの実施形態では、ナノ包接物(例えば、サイズ、形状、平均数密度)は、かなりの電子ドーピング効果をマトリックスに導入せず、マトリックスのキャリア密度に著しく影響しない。このように、ナノ包接物が向上した熱電性能指数に及ぼす効果は、主に格子熱伝導率κの低減に起因する。サイズ、空間等を含むナノ包接物の微細構造またはナノ構造パラメータは、例えば、物品が形成される条件を調整することによって、制御または調整することができる。単なる例として、焼鈍時間および温度は、ナノ包接物のサイズ成長に比例する。
【0022】
いくつかの実施形態では、ナノ包接物は、電子ドーピング効果をマトリックスに導入し、格子熱伝導率κの低減に加えて、キャリア密度が向上し、熱電性能指数が向上する。ナノ包接物としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)等、またはそれらの合金が挙げられる。単なる例として、ナノ包接物には、銀(Ag)の合金およびマトリックスの構成組成物、例えば、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)等が挙げられる。
【0023】
熱電応用のための製造物品の熱電性能は、ドーピングを通じてキャリア濃度を慎重に制御することによって向上させることができる。いくつかの実施形態では、製造物品は、少なくとも1つのドーパントでドープされる。物品は、n型ドーパントまたはp型ドーパントでドープすることができる。有効な電子供与体ドーパント(n型ドーパント)としては、例えば、ランタン(La)、ツリウム(Tm)、インジウム(In)、ヨード(I)等が挙げられる。有効な電子受容体ドーパント(p型ドーパント)としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、タリウム(Tl)等が挙げられる。単なる例として、タリウム(Tl)は、電子状態密度の変形によって、zTをバルクPbTe中で1.5まで増強することができるため、p型ドーパントの良好な選択である。いくつかの実施形態では、ランタン(La)ドーピングは、電荷キャリアの分解によって占められる伝導挙動を効果的にもたらす。ドーピング濃度は、異なる構成組成物を含む異なる物品について最適化することができる。いくつかの実施形態では、外部ドーパント濃度は、少なくとも0.01at%、または少なくとも0.05at%、または少なくとも0.08at%、または少なくとも0.1at%、または少なくとも0.2at%、または少なくとも0.5at%、または少なくとも0.6at%、または少なくとも0.8at%、または少なくとも1at%、または少なくとも1.2at%、または少なくとも1.5at%、または少なくとも1.8at%、または少なくとも2at%、または少なくとも2.2at%、または少なくとも2.5at%、または少なくとも2.8at%、または少なくとも3at%である。いくつかの実施形態では、外部ドーパント濃度は、10at%未満、または8at%未満、または6at%未満、または5at%未満、または4at%未満、または3at%未満、または2at%未満、または1at%である。いくつかの実施形態では、キャリア密度は、少なくとも1018/cm、または少なくとも2×1018/cm、または少なくとも4×1018/cm、または少なくとも5×1018/cm、または少なくとも6×1018/cm、または少なくとも8×1018/cm、または少なくとも1019/cm、または少なくとも2×1019/cm、または少なくとも4×1019/cm、または少なくとも5×1019/cm、または少なくとも6×1019/cm、または少なくとも8×1019/cm、または少なくとも1020/cm、または少なくとも2×1020/cm、または少なくとも4×1020/cm、または少なくとも5×1020/cmである。単なる例として、最適なキャリア密度は、1019〜1020/cmである。
【0024】
製造物品のいくつかの典型的な実施形態に関する以下の説明は、例示の目的であり、本開示の範囲を限定するものではない。いくつかの典型的な実施形態では、製造物品は、PbTeを含むマトリックスと、AgTeを含むナノ包接物と、を含む。マトリックスは、20ナノメートル未満の小ナノスケール形状を有する。ナノ包接物は、比較的大きいスケールである。ナノ包接物は、プレート様である。いくつかのナノ包接物は、100〜200ナノメートルの長寸法、および50〜100ナノメートルの短寸法を有する。いくつかのナノ包接物は、200ナノメートル超である長寸法を有し、1マイクロメートルより大きいものもある。製造物品は、室温および室温よりも高い温度で、向上した熱電性能指数を有する。PbTe中のAgTeのナノ包接物を用いる場合、著しい電子ドーピング効果は認められず、400K以上で、物品は、真性半導体挙動を示し、外部から内部導電への転移温度は、Ag含有量から独立している。物品は、例えば、ランタン(La)、ナトリウム(Na)等で熱電輸送をさらに向上させるようにドープすることができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される製造物品は、向上した熱電性能を有する。製造物品は、向上した熱電性能指数、および/または向上した理論上有効な発電効率(ηmax)を有することができる。これは、バンド構造の複雑性およびナノ構造効果に起因し得る。PbTe:Na/AgTeにおいて本明細書で示されるように、1.5よりも高いピーク熱電性能指数zTおよび平均熱電性能指数zT/熱電効率の著しい強化を実現することができる。キャリア密度とナノ構造制御の組み合わせをさらに最適化することによって、さらに高い熱電性能をもたらすことができる。PbTe:Na/AgTeおよび同様のPbTe材料は、単なる例示の目的で本明細書に記載される。これは、本開示の範囲を限定するものではない。いくつかの実施形態では、PbSeまたは同様の組成物を含む製造物品は、バンド構造の複雑性およびナノ構造効果に起因して、向上した熱電性能を有し、キャリア密度およびナノ構造制御の組み合わせをさらに最適化することによって、さらに高い熱電性能をもたらす。
【0026】
本開示のいくつかの実施形態は、少なくとも第1の要素を含む第1の材料および少なくとも第2の要素を含む第2の材料を加熱して、混合物を形成することと、混合物を冷却して、第2の要素を含むナノ包接物を沈殿させることと、混合物を焼鈍することと、を含む、物品を製造する方法に関する。
【0027】
いくつかの実施形態では、物品を製造する方法は、少なくとも第1の要素を含む第1の材料および少なくとも第2の要素を含む第2の材料を加熱して、混合物を形成することを含む。加熱によって、第1の材料および第2の材料を溶解し、第1の温度で均質な混合物または溶解物を形成する。第1の温度は、第1の温度差で、第1の材料の溶融温度および第2の材料の溶融温度の高い方よりも高い。第1の温度差は、少なくとも1K、または少なくとも2K、または少なくとも5K、または少なくとも8K、または少なくとも10K、または少なくとも12K、または少なくとも15K、または少なくとも20K、または少なくとも25K、または少なくとも30K、または少なくとも35K、または少なくとも40K、または少なくとも45K、または少なくとも50Kであり得る。加熱は、基本的に一定の温度上昇率で達成することができる。温度上昇率は、少なくとも10K/時間、または少なくとも50K/時間、または少なくとも80K/時間、または少なくとも100K/時間、または少なくとも120K/時間、または少なくとも150K/時間、または少なくとも180K/時間、または少なくとも200K/時間、または少なくとも220K/時間、または少なくとも250K/時間、または少なくとも280K/時間、または少なくとも300K/時間、または少なくとも320K/時間、または少なくとも350K/時間、または少なくとも380K/時間、または少なくとも400K/時間、または少なくとも420K/時間、または少なくとも450K/時間、または少なくとも480K/時間、または少なくとも500K/時間、または少なくとも520K/時間、または少なくとも550K/時間、または少なくとも580K/時間、または少なくとも600K/時間、または少なくとも650K/時間、または少なくとも700K/時間、または少なくとも750K/時間、または少なくとも800K/時間であり得る。加熱は、可変温度上昇率で達成することができる。基本的に一定または可変温度上昇率は、例えば、加熱工程に対するエネルギー入力速度を制御することによって達成することができる。いくつかの実施形態では、加熱は、密室内で達成される。いくつかの実施形態では、加熱は、大気圧またはその付近で達成される。いくつかの実施形態では、加熱は、真空下で達成される。単なる例として、室圧は10−5トール以下である。いくつかの実施形態では、加熱は、大気圧よりも高い室圧で達成される。いくつかの実施形態では、加熱は、少なくとも0.1時間、または少なくとも0.5時間、または少なくとも1時間、または少なくとも1.5時間、または少なくとも2時間、または少なくとも2.5時間、または少なくとも3時間、または少なくとも4時間、または少なくとも5時間、または少なくとも6時間、または少なくとも7時間、または少なくとも8時間、または少なくとも10時間、または少なくとも12時間、または少なくとも15時間、または少なくとも20時間、または少なくとも24時間、または少なくとも30時間、または少なくとも36時間、または少なくとも42時間、または少なくとも48時間継続する。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1の材料は、製造物品のマトリックスを形成する第1の要素を含む。第1の材料は、マトリックスのさらなる構成組成物を含むことができる。マトリックスは、鉛(Pb)、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、ヒ素(As)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等、またはそれらの合金から選択される少なくとも1つの組成物を含む。いくつかの典型的な実施形態では、マトリックスは、PbTe、またはPbSeを含む。いくつかの典型的な実施形態では、マトリックスは、PbSeTe1−xを含み、式中、xはPbTeおよびPbSe合金中のPbSe率を表し、0(を含む)〜1(を含む)であり得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、第2の材料は、製造物品のナノ包接物を形成する第2の要素を含む。単なる例として、第2の要素は、銀(Ag)または銅(Cu)を含む。第2の材料は、製造物品のマトリックスまたはナノ包接物のさらなる構成組成物を含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、物品を製造する方法は、混合物を冷却して、第2の要素を含むナノ包接物を沈殿させることを含む。冷却は、混合物が第2の温度であるように、冷却剤を混合物と直接または間接的に接触させることによって行われる。冷却することによって、第2の材料の第2の要素は、マトリックスから沈殿して、ナノ包接物を形成する。ナノ包接物は、少なくとも第2の要素を含む。ナノ包接物は、製造物品の他の構成組成物をさらに含むことができる。単なる例として、ナノ包接物は、第2の要素の合金を含む。本明細書で使用する、「間接的に」とは、冷却剤および混合物が、仕切りによって、例えば、混合物を保持する容器の壁によって、互いから分離されることを意味する。冷却剤は、液体(例えば、油、水等)およびガス(空気、不活性ガス等)から選択される少なくとも1つの媒体であることができる。単なる例として、冷却は、冷水の急冷によって達成される。第2の温度は、第2の温度差で、第1の材料および第2の材料の少なくとも一方の溶融温度よりも低い。第2の温度差は、少なくとも1K、または少なくとも2K、または少なくとも5K、または少なくとも8K、または少なくとも10K、または少なくとも12K、または少なくとも15K、または少なくとも20K、または少なくとも25K、または少なくとも30K、または少なくとも35K、または少なくとも40K、または少なくとも45K、または少なくとも50K、または少なくとも80K、または少なくとも100K、または少なくとも150K、または少なくとも200K、または少なくとも250K、または少なくとも300K、または少なくとも350K、または少なくとも400K、または少なくとも450K、または少なくとも500K、または少なくとも550K、または少なくとも600Kであり得る。冷却は、基本的に一定の温度低下率で達成することができる。温度低下率は、少なくとも10K/時間、または少なくとも50K/時間、または少なくとも80K/時間、または少なくとも100K/時間、または少なくとも120K/時間、または少なくとも150K/時間、または少なくとも180K/時間、または少なくとも200K/時間、または少なくとも220K/時間、または少なくとも250K/時間、または少なくとも280K/時間、または少なくとも300K/時間、または少なくとも320K/時間、または少なくとも350K/時間、または少なくとも380K/時間、または少なくとも400K/時間、または少なくとも420K/時間、または少なくとも450K/時間、または少なくとも480K/時間、または少なくとも500K/時間、または少なくとも520K/時間、または少なくとも550K/時間、または少なくとも580K/時間、または少なくとも600K/時間、または少なくとも650K/時間、または少なくとも700K/時間、または少なくとも750K/時間、または少なくとも800K/時間であり得る。冷却は、可変温度低下率で達成することができる。基本的に一定または可変温度低下率は、例えば、冷却剤の流量によって制御することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、物品を製造する方法は、混合物を焼鈍することを含む。混合物は、第3の温度で焼鈍される。第3の温度は、第3の温度差で、第1の材料の溶融温度および第2の材料の溶融温度の低い方よりも低い。第3の温度差は、少なくとも1K、または少なくとも2K、または少なくとも5K、または少なくとも8K、または少なくとも10K、または少なくとも12K、または少なくとも15K、または少なくとも20K、または少なくとも25K、または少なくとも30K、または少なくとも35K、または少なくとも40K、または少なくとも45K、または少なくとも50K、または少なくとも80K、または少なくとも100K、または少なくとも150K、または少なくとも200K、または少なくとも250K、または少なくとも300K、または少なくとも350K、または少なくとも400K、または少なくとも450K、または少なくとも500K、または少なくとも550K、または少なくとも600Kであり得る。いくつかの実施形態では、焼鈍は、少なくとも0.1時間、または少なくとも0.5時間、または少なくとも1時間、または少なくとも1.5時間、または少なくとも2時間、または少なくとも2.5時間、または少なくとも3時間、または少なくとも4時間、または少なくとも5時間、または少なくとも6時間、または少なくとも7時間、または少なくとも8時間、または少なくとも10時間、または少なくとも12時間、または少なくとも15時間、または少なくとも20時間、または少なくとも24時間、または少なくとも30時間、または少なくとも36時間、または少なくとも42時間、または少なくとも48時間、または少なくとも54時間、または少なくとも60時間、または少なくとも66時間、または少なくとも72時間、または少なくとも78時間、または少なくとも84時間、または少なくとも90時間、または少なくとも96時間継続する。
【0032】
例えば、温度低下率(または冷却率)、焼鈍時間および温度等、またはそれらの組み合わせを含む動作条件は、マトリックスおよび/またはナノ包接物の微細構造またはナノ構造を含む、物品の微細構造またはナノ構造を達成することができる。単なる例として、焼鈍時間および温度は、ナノ包接物のサイズ成長に比例する。いくつかの実施形態では、焼鈍時間および温度は、マトリクスおよび/またはナノ包接物の微細構造またはナノ構造を含む、物品の所望の微細構造またはナノ構造を達成するように選択される。いくつかの実施形態では、焼鈍を反復して、前回の焼鈍工程と同一の条件、または異なる条件で、物品の微細構造またはナノ構造をさらに改善または調整する(例えば、ナノ包接物の微細構造またはナノ構造パラメータを改善または調整することによる)。
【0033】
いくつかの実施形態では、物品を製造する方法は、さらなる冷却および/またはさらなる焼鈍を含む。冷却は、少なくとも1回、前回の冷却工程と同一の条件または異なる条件で反復することができる。焼鈍は、前回の焼鈍工程と同一の条件または異なる条件で反復することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、物品を製造する方法は、物品をドーパントでドーピングすることを含む。有効な電子供与体ドーパント(n型ドーパント)としては、例えば、ランタン(La)、ツリウム(Tm)、インジウム(In)、ヨード(I)等が挙げられる。有効な電子受容体ドーパント(p型ドーパント)としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、タリウム(Tl)等が挙げられる。ドーピングは、加熱後に行うことができる。いくつかの実施形態では、ドーピングは、冷却前に行われる。いくつかの実施形態では、ドーピングは、焼鈍前に行われる。いくつかの実施形態では、ドーピングは、焼鈍後に行われる。
【0035】
本明細書に記載の方法によって製造された物品は、向上した熱電性能、例えば、向上した熱電性能指数を有する。これは、価電子バンド構造の複雑性およびナノ構造の効果、ならびにキャリア密度とナノ構造との最適組み合わせに起因し得る。製造物品は、1以上の熱電性能指数を有することができる。製造物品は、向上した理論上有効な発電効率(ηmax)を有することができる。
【0036】
当業者であれば、本開示を読むことによって、冷却、焼鈍、およびドーピング工程の順序および条件を調整して、記載の製造物品を製造する方法を理解するであろう。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態は、熱電デバイス内で製造物品を使用する方法に関し、製造物品は、マトリックスおよびナノ包接物を含み、ナノ包接物は、マトリックス中に均一に分散し、製造物品は、少なくとも1の性能指数zTを有する。
【0038】
いくつかの実施形態では、製造物品を使用する方法は、製造物品に温度勾配を適用することと、電気エネルギーを収集することと、を含む。いくつかの実施形態では、製造物品を使用する方法は、製造物品に電気エネルギーを適用することと、第1の動作温度での第1の空間から第2の動作温度での第2の空間に熱を移行させることと、を含み、第1の動作温度は、第2の動作温度よりも低い。
【0039】
単なる例として、本明細書に開示される製造物品を含む熱電モジュールは、自動車の排ガス(500K〜800K)からの廃熱を利用して、発電し、CO排出を削減するように使用される。そのような熱電発電装置の効率は、カルノーの限界をもたらす温度差、および材料効率によって決定される。
【0040】
以下の実施例は、単なる例証目的のためであり、本開示の範囲またはその様々な実施形態をいかなる方法においても制限するものではない。
【実施例】
【0041】
実施例
以下の実施例は、本明細書に開示される実施形態を証明するために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示される方法および組成物は、本開示の実践において十分に機能することが本発明者らによって発見された方法を表し、したがって、その実践に特定のモードを構成すると考えることができる。しかしながら、当業者であれば、本開示を考慮して、開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、それでもなお、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果を得られることを理解する。
【0042】
実施例1
PbTe−AgTeの疑似二元状態図
PbTe−AgTeの疑似二元状態図(図1を参照)は、PbTe中のAgTeの顕著な強力に温度依存する溶解度を示す。PbTe中のAgTeの最大溶解度には、970Kの共融温度で7〜11mol%の分散があり、770Kで1mol%まで急速に低下する。これらの特徴から、溶解(図1のステップ1)および970Kで固体溶解を均質化(図1のステップ2)した後、AgTe沈殿物が、770Kで低温焼鈍中(図1のステップ3)に得ることができると予想することができる。
【0043】
PbTe−SbTe相図における同様の挙動を利用して、PbTeのマトリックスにおいて、SbTeのウィドマンシュテッテン沈殿物を産出することができる。
【0044】
実施例2
(PbTe)(AgTe)の形成
z=0、1、2、3、および4であり(それぞれ元のPbTe−AgTe相図に示される、Pb含有量50mol%、49mol%、48mol%、47mol%、および46mol%に対応する)、(PbTe)50−z(AgTe)2z/3ナノ複合材料の調製には、純元素を使用し、以下の考察では、x=l.3mol%の場合Agl.3、x=2.7mol%の場合Ag2.7、x=4.1mol%の場合Ag4.1、およびx=5.5mol%の場合Ag5.5と標識された((PbTe)1−x(AgTe)(0≦x≦5.5mol%)の対応する式については、表1を参照)。出発Pb(チャンク)、Ag(2ミリメートルサイズのショット)、およびTe(チャンク)の純度は、99.999%以上であった(すべてAlfa Aesarから入手)。元素の混合物を石英アンプルの中に充填した後、真空下、10−5トール以下の室圧で密閉した。次に、プログラム可能な垂直チューブ炉内で、500K/時間に近い速度で、アンプルを1273Kに加熱した(図1の点1)。この温度で約6時間浸漬した後、アンプルを冷水で急冷し、続いて973Kで2日間焼鈍し(第1の焼鈍、図1の点2)、再度水で急冷した。高温で調製されたこの固溶体からAgTeの沈殿物(ナノ包接物)を得るために、773Kでさらに3日間、アンプルを再焼鈍した(第2の焼鈍、図1の点3)。得られたインゴットをすりつぶして微粉末にした後、700Kで1時間ホットプレスして、緻密質ペレットを形成した。加圧されたディスクの密度は、理論値の98%であり、重量/体積法によって測定され、アルキメデス法によって確認された。
【0045】
実施例3
(PbTe)(AgTe)のドーピング
熱電応用の製造物品の熱電性能は、ドーピングを通じて、キャリア濃度を慎重に制御することによって向上させることができる。(PbTe)1−x(AgTe)ナノ複合材料に関する結果は、このシステムが、PbTeナノ複合材料中の熱電輸送を研究および最適化するのに適していることを示す。第1に、AgTeをPbTeに添加することによって、過度の電子ドーピング効果は認められず、400Kよりも上で、試料は内部半導体的挙動を示し、外部から内部伝導への移行温度は、Ag含有量から独立している。ナノ沈殿物(ナノ包接物)をもたらすAgTeの濃度は、ドーパントから独立して調製され得る。Pb/Sb、Pb、および名目上荷電平衡されたNaSb(Bi)TeおよびAgSbTeは、PbTeにおいて大幅な電子ドーピングを生じさせることができる。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、J.P.Heremans,C.M.Thrush and D.T.Morelli,Phys.Rev.B,70,115334,(2004)、J.P.Heremans,C.M.Thrush and D.T.Morelli,J.Appl.Phys.,98,063703,(2005)、J.R.Sootsman,H.Kong,C.Uher and J.J.D.W.P.H.T.C.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,47,8618,(2008)、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)、およびA.Gueguen,P.F.P.Poudeu,C.Li,S.Moses,C.Uher,J.He,V.Dravid and K.M.,Chem.Mater.,21,1683,(2009)を参照されたい。またPbTeを有するPbS(SnTe)組成物も内在することができるか、またはPbIで外的にドーピングすることができる。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、J.Androulakis,C.Lin,H.Kong,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007)を参照されたい。第2に、熱伝導率に対する最小電子寄与を有することによって、PbTe中のナノ粒子(ナノ包接物)に起因する熱伝導率の減少が証明され、熱伝導率に対する格子寄与は、ローレンツ数Lの正確な推定に関係なく、全体温度範囲において効果的に減少した(図4を参照)。
【0046】
p型およびn型の最適化PbTe熱電材料の両方は、最適なキャリア濃度1019〜1020/cmに対応する外部ドーパント濃度でドーピングすることができる。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、I.B.Cadoff and E.Miller,Thermoelectric Materials and Devices.Reinhold Publishing Corporation,New York:Reinhold,1960を参照されたい。PbTe中で有効な電子供与体ドーパントとしては、La、Tm、In、およびIが挙げられ、一方電子受容体としては、Na、K、およびTlが挙げられる。さらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、I.B.Cadoff and E.Miller,Thermoelectric Materials and Devices.Reinhold Publishing Corporation,New York:Reinhold,1960、D.L.Partin,J.Appl.Phys.,57,1997,(1985)、B.A.Akimov,E.N.Korobeinikova,L.I.Ryabova,and M.E.Tamm,Sov.Phys.Semicond.,25,208,(1991)、Y.Gelbstein,Z.Dashevsky and M.P.Dariel,Physica B,363,196,(2005)、およびJ.P.Heremans,V.Jovovic,E.S.Toberer,A.Saramat,K.Kurosaki,A.Charoenphakdee,S.Yamanaka and G.J.Snyder,Science,321,554,(2008)において見出すことができる。Tlは、電子密度状態の変形によってバルクPbTe中でzTを約1.5まで強化することができるため、p型ドーパントの良好な選択肢となることができる。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、J.P.Heremans,V.Jovovic,E.S.Toberer,A.Saramat,K.Kurosaki,A.Charoenphakdee,S.Yamanaka and G.J.Snyder,Science,321,554,(2008)を参照されたい。
【0047】
AgTeの存在下、PbTe中のドーピングを制御するための1つの課題は、Pb部位またはAg格子間の置換Agが他の供与体を補償する可能性である。例えば、Sbは、それがPbTeにおいてPbの代用となるとき、n型ドーパントであるが、AgTeの存在下で、Sbは、補償AgSbTeを容易に形成し、ナノ粒子(ナノ包接物)として存在するか、またはPbTe中に溶解する。いずれかの機構は、Sbのドーピング有効性を減少させる。
【0048】
実施例4
測定
X線回折(XRD)およびエネルギー分散型分光計(EDS)を備える電界放射型走査電子顕微鏡法(FESEM)によって、相純度、均質性、および微細構造を試験した。透過電子顕微鏡法、電子回折、およびエネルギー分散型X線分光学(EDS、Oxford Inc.)研究には、200kVで操作されるJEOL 2010F TEMを使用した。TEMの標本を調製するために、材料を機械的に薄層化した後、Gatan 656 Dimple Grinderにおいてくぼませた。最終薄層化は、低エネルギーArイオンミリング(Fischione1010)を極低温度で使用して行った。原子プローブ断層撮影を利用し、LEAP(登録商標)(Imago Scientific Instruments)を使用して、マトリックス中の組成物の均質性を分析した。この分析では、100ナノメートル未満の先端直径を有する針様標本を使用し、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、G.B.Thompson,H.L.Fraser and M.K.Miller,Ultramicroscopy,100,25,(2004)に前述される、「Xtreme Access」極微操作装置を備えるFEI Nova600 デュアルビームFIB内で処理することによって達成された。
【0049】
実施例5
(PbTe)(AgTe)の微細構造
ここでは(PbTe)1−x(AgTe)の4つの組成物が考慮され(x=1.3mol%、2.7mol%、4.1mol%、5.5mol%)、すべてが焼鈍温度(770K)でAgTeの溶解度限界を超える組成物(表1)を有した。溶解(図1のステップ1)および固溶体を970Kで均質化した後(図1のステップ2)、770Kでの低温焼鈍中(図1のステップ3)、AgTe沈殿物(ナノ包接物)が得られた。この熱処理に続いて、Agに富む沈殿物(ナノ包接物)は、電界放射型走査電子顕微鏡法画像によって示されるように、PbTeマトリックス中に均一に分散されることが観察された(図2(a))。AgTe含有量が増加するにつれて、AgTeは、固溶体として、焼鈍温度で溶解度限界(1mol%)までPbTeマトリックスに組み込まれた。溶解度限界を超えると、AgTeナノ包接物の体積率は、混合物中のAgTe含有量の増加に伴って増加したが、PbTeマトリックス中のAg含有量は、一定のままであった。溶解度限界は、Ag1.3試料において直接観察され(図2)、沈殿物はほとんど認められず(体積率0.2%)、AgTeの公称濃度が約1.3mol%であるとき、AgTeの大部分がPbTeマトリックス中に溶解したことを示す。SEM観察から行われたEDS分析は、全試料のPbTeマトリックスが、773Kで焼鈍されると、Ag1.3試料の公称組成物に近い平均組成物を有することを示した(表1)。SEM顕微鏡写真の画像分析は、ナノ沈殿物(すなわち、ナノ包接物)のサイズが、(PbTe)1−x(AgTe)シリーズ全体で本質的に一定であることを示した。したがって、ナノ包接物の面積率を使用して、相境界端部は1at% Ag(図2(b)におけるx切片)であると推定することができる。図2(c)のXRDパターンは、Laドーピングの有無に関わらず、ナノ複合材料中のAgTe相の存在を示した。
【0050】
表1.Laドーピングの有無に関わらない、PbTe−AgTeナノ複合材料の試料標識、公称組成物、室温ホールキャリア密度(n)、密度およびデュロン−プティ熱容量(C
【表1】

アルファ−AgTe(α−AgTe)の高温構造は、様々な格子間部位の中で分布されたAgカチオンを有するTeの面心立方様配列を含む。415Kで、わずかな構造変形が起こり、単斜セルを有するβ(ベータ)相が形成される。AgTe(両修飾)とPbTe結晶構造との格子不一致は、2%に近く、これらの沈殿物(すなわち、ナノ包接物)は、半コヒーレントであり、マトリックスに関して配向することができる。電子回析(図6(b))は、沈殿物(すなわち、ナノ包接物)が、約8〜10%の不一致を有する岩塩構造AgSbTeにおいて、ベータ−AgTe(β−AgTe)に関して説明されるものと同一の配向関係を有する、単斜ベータ−AgTe(β−AgTe)であることを、参照することによって本明細書に組み込まれる、J.D.Sugar and D.L.Medlin,J.Alloys Cmpd.,478,75,(2009)において確認する。いくつかの大型沈殿物上で実行されたエネルギー分散型分光学(EDS)分析は、AgTeに近い組成物を確認する。試料に関する組成の詳細は、表1において見出すことができる。
【0051】
熱伝導率について頑強なモデルを開発するために、微細構造形状を試験した。SEMおよびTEM画像は、1.3mol%超のAgTeを有する試料中の沈殿物の大部分が、100〜200ナノメートルの長寸法および50〜100ナノメートルの短寸法を有するプレート様であった。観察されたわずかな集団は、1マイクロメートルの大きさの少なくとも1つの寸法を有する。Ag5.5試料において、短プレート様沈殿物の平均数密度は、面積密度が測定されたTEM観察に基づいて、55±30/μmであり、TEMフォイルの厚さは、TEM中の様々な傾斜角で個別の特徴を測定することによって近似された。これは、250ナノメートルの沈殿物間(ナノ包接物間)距離を提供する。固相沈殿機構は、773Kでの最終焼鈍前に、ほんのわずかな沈殿物(ナノ包接物)がAg5.5試料の急冷インゴット内で形成されたという観察によって支持された。
【0052】
実施例6
(PbTe)(AgTe)の電子および熱輸送
実施例2および実施例3において論じられる(PbTe)1−x(AgTe)試料は、電子および熱輸送特性についてさらに調査した。図3(a)は、すべての(PbTe)1−x(AgTe)試料が、300Kにおいて、約40mΩcmの比較的高い電気抵抗を有する半導体的挙動を呈したことを明らかにする。400Kよりも上で減少する抵抗は、すべての(PbTe)1−x(AgTe)試料において、外部から内部挙動への移行を示した。またこれは、Ag5.5試料について図3(b)に示される、ゼーベック係数ならびにホール係数のクイッククロスオーバーからも明らかであり、電子および穴の両方による典型的な混合伝導を示す。抵抗のピークは、少なくとも部分的に、この温度でのβ(ベータ)からα(アルファ)、単斜から立方へのAgTeの相移行から生じ得る(図1を参照)。AgTeは、NaまたはKがPb+2の代わりとなる、NaTeおよびKTeに類似するPbTe中のp型ドーパントとなることが予想され得る。しかしながら、PbTe中のAgTeの約1mol%溶解度は、明らかに、欠陥の補償をもたらし、外部キャリアをほとんど生じない(1018cm−3未満、表1)。これは、Pbに代わる残りのAgを補償する1つの電子を供与する、格子間部位を占めるAg原子の半数によって、説明することができる。n型およびp型ドーパントの両方としてのAgの発生は、以前に報告された。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、A.J.Strauss,J.Electronic Materials,2,553,(1973)を参照されたい。
【0053】
(PbTe)1−x(AgTe)について図4に示される熱伝導率の測定値は、質量密度および特定の熱容量のデュロン−プティ近似を使用して、フラッシュ拡散測定値から得られた。低電子伝導率は、低温で、熱伝導率に対してごくわずかな電子的寄与を付与した(ウィーデマン−フランツの法則を使用して、0.05W/m−K未満)。しかしながら、高温で、両極電子伝導率に起因する寄与の増加は、図4において明らかな熱伝導率の増加をもたらした。この寄与は、Laドーピングが縮退電荷キャリアによって支配される伝導挙動を効果的にもたらしたため、以下に記載のLaドープ試料において著しく抑制された。
【0054】
(PbTe)1−x(AgTe)試料はすべて、典型的なドープPbTe熱電材料と比較して、減少したフォノン(格子)熱伝導率κを示した。この効果は、PbTe固溶体マトリックス中で分散する合金、およびナノ沈殿物(ナノ包接物)から散乱する境界の両方に起因し得る。低濃度のナノ粒子を有するAg1.3試料は、PbTe、スクッテルド鉱、およびハーフホイスラー熱電材料中に分散する点欠陥の効果を正確に予測することが知られている、デバイ−キャラウェイモデル(図5)によって予測されたものと大幅に一致する、減少した格子熱伝導率を有する。これらのモデルおよびパラメータに関するさらなる開示は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.K.Koh,C.J.Vineis,S.D.Calawa,M.P.Walsh and D.G.Cahill,Appl.Phys.Lett.,94,153101,(2009)、J.Callaway and H.C.B.von He,Phys.Rev.,120,1149,(1960)、P.G.Klemens,Proc.Phys.Soc.(London),Sect.A,68,1113,(1955)、B.Abeles,Phys.Rev.,131,1906,(1963)、G.P.Meisner,D.T.Morelli,S.Hu,J.Yang and C.Uher,Phys.Rev.Lett.,80,3551,(1998)、およびJ.Yang,G.P.Meisner and L.Chen,Appl.Phys.Lett.,85,1140,(2004)において見出すことができる。本開示では、デバイ−キャラウェイモデルは、参照として非ドープ試料を使用して実装され、ドープ試料中の質量と歪みの対比を説明する。さらに、PbTe中のAg原子の半数が、Te原子に対して4面体配位された格子間部位を占めると想定された。計算に使用されるパラメータは、デバイ温度130K、音速1432m/s、格子定数6.46Åおよび格子調和定数65(グリューンアイゼンパラメータの関数)である。これらのパラメータに関するさらなる説明は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.I.Ravich,B.A.Efimova and I.A.Smirnov,Semiconducting Lead Chalcogenides.Plenum,New York,1970、およびG.T.Alekseeva,B.A.Efimova,L.M.Ostrovskaya,O.S.Serebryannikova and M.I.Tsypin,Sov.Phys.Semicond.,4,1122,(1971)において見出すことができる。計算された格子熱伝導率と実験上の格子熱伝導率との間の一致は、図4の差し込み図に示されるように、ほぼ単相のAg1.3材料の場合、T<450Kにおいて、97%よりも優れている。
【0055】
x=1.3mol%のデータ(Ag1.3)は、AgTe粒子(ナノ包接物)がほとんど存在しなかったため、合金モデルと十分に一致し、この組成物を単相合金として処理するのを可能にする。しかしながら、Ag含有量が多い場合、熱伝導率は低下し続けたが、これは予測された合金効果で単純に説明された。疑似二項(PbTe)1−x(AgTe)システム、xが1mol%超である組成物は、750Kよりも低い温度で二相共存領域に含まれる(図1)。カピッツァ接触熱抵抗を有する従来の混合結晶の場合、有効媒質近似(EMA)は、個別の構成要素、体積率、および包接形状等の特性に基づいて、格子熱伝導率の単純だが強力な説明を提供する。EMAのモデルに関するさらなる説明は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、C.Nan,R.Birringer,D.R.Clarke and H.Gleiter,J.Appl.Phys.,81,6692,(1997)において見出すことができる。Ag5.5試料中でTEM(上述)によって観察されたAgTe粒子のサイズおよび数密度に従って、推定体積率は5%であり、公称組成物から計算された4%に極めて近かった。単斜ベータ−AgTe(β−AgTe)の公称体積率および報告された熱伝導率を使用して、AgTe濃度依存性格子熱伝導率は、球状包接物の有効媒質近似を使用して計算した。計算に関するさらなる説明は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、M.Fujikane,K.Kurosaki,H.Muta and S.Yamanaka,Journal of Alloys and Compounds,393,299−301,(2005)において見出すことができる。相図によって示されるように、PbTeの希釈溶質(1mol% PbTe未満)を有するAgTeのそれに近いと予測される純AgTeの格子熱伝導率(300Kにおいて0.9W/m−K、および400Kにおいて0.75W/m−K)を、モデル計算に使用した。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、F.W.F,J.Less−Common Met.,13,579,(1967)、およびASM Alloy Phase Diagrams Centerによって提供されるhttp://www.asminternational.org/asmenterprise/APD/ViewAPD.aspx?id=950639を参照されたい。予測熱伝導率は、図5において実線曲線として示され、カピッツァ抵抗を想定しない。カピッツァ抵抗が含まれる場合、予測格子熱伝導率κはごくわずかに低下した。図5の点線曲線は、熱的に単離された粒子または空洞に起因する無限カピッツァ抵抗の限界を示す。
【0056】
AgTe−PbTeナノ複合材料における実験的格子熱伝導率は、合金の組成物によって予測されるものよりも明らかに低く、インターフェースが無限カピッツァ抵抗を有する場合に予測されるものよりもさらに低く、PbTe合金マトリックスの熱伝導率が、少なくとも1つの追加の機構によって減少したことを示す。この減少κは、PbTeマトリックス中に散乱する合金および沈殿物のインターフェースでの長い平均自由行程フォノンの散乱の両方から生じた。大部分のモデル計算および実験的研究は、格子熱伝導率を減少させるために、マトリックス相中に分布した極細(20nm未満)ナノサイズ粒子を調査していた。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.K.Koh,C.J.Vineis,S.D.Calawa,M.P.Walsh and D.G.Cahill,Appl.Phys.Lett.,94,153101,(2009)、W.Kim,J.Zide,A.Gossard,D.Klenov and S.Stemmer,Phys.Rev.Lett.,96,045901,(2006)、G.H.Zhu,H.Lee,Y.C.Lan,X.W.Wang,G.Joshi,D.Z.Wang,J.Yang,D.Vashaee,H.Guilbert,A.Pillitteri,M.S.Dresselhaus,G.Chen and Z.F.Ren,Phys.Rev.Lett.,102,196803,(2009)、K.F.Hsu,S.Loo,F.Guo,W.Chen,J.S.Dyck,C.Uher,T.Hogan,E.K.Polychroniadis and M.G.Kanatzidis,Science,303,818,(2004)、B.Poudel,Q.Hao,Y.Ma,Y.Lan,A.Minnich,B.Yu,X.Yan,D.Wang,A.Muto,D.Vashaee,X.Chen,J.Liu,M.S.Dresselhaus,G.Chen and Z.Ren,Science,320,634,(2008)、D.M.Rowe,Thermoelectrics Handbook:Macro To Nano.CRC/Taylor & Francis,Boca Raton,2006、およびM.S.Dresselhaus,G.Chen,Z.F.Ren,G.Dresselhaus,A.Henry and J.−P.Fleurial,JOM,Journal of the Minerals,Metals and Materials Society,61,86,(2009)を参照されたい。フォノン平均自由行程の伝統的な室温推定値は、PbTe中わずか3ナノメートルであり(小ナノ粒子の重視につながる)、ナノ粒子空間は、10ナノメートルのオーダーである。しかしながら、より詳細な分析は、室温でPbTe中の熱の50%および10%が、それぞれ42ナノメートルおよび860ナノメートルを超える平均自由行程を有するフォノンによって運ばれることを示す。実際に、約200ナノメートルを超える平均自由行程を有するそれらのフォノンを散乱させることによって、フォノン熱伝導率の約20%の減少をPbTeにおいて予測することができる(沈殿物間の距離は、本明細書において、試料中約250ナノメートルである)。総熱伝導率は、図4に示されるように、測定温度範囲全体で減少した。熱伝導率κの減少は、分散相の濃度が増加するときにより有効であり、散乱中心の密度の増加に起因して、より多くのフォノンが散乱されたことを示す。さらなる説明は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、M.S.Dresselhaus,G.Chen,Z.F.Ren,G.Dresselhaus,A.Henry and J.−P.Fleurial,JOM,Journal of the Minerals,Metals and Materials Society,61,86,(2009)、およびR.Yang,G.Chen and M.S.Dresselhaus,Phys.Rev.B,72,125418,(2005)において見出すことができる。これらの特徴は、50〜200ナノメートルもの大きい粒子(ナノ包接物)サイズでさえも、十分に制御された沈殿物(ナノ包接物)の分布を調整することによって、格子熱伝導率が効果的に減少したことを明らかに示す。
【0057】
実験的熱伝導率は、上述のデバイ−キャラウェイモデルを使用して、(PbTe)1−x(AgTe)の超飽和固溶体について予測されるものにも極めて近かった(図5に図示せず)。点欠陥および境界散乱は、いずれも格子熱伝導率を低下させる有効な手段であるため、微細構造に関する詳細な理解なくして、沈殿物形成に起因するものから非平衡合金の格子熱伝導率の減少を区別することは困難であり得る。
【0058】
実施例7
Laによる(PbTe)(AgTe)のドーピングおよび測定
Laをn型ドーパントとして添加した。Laドーパントに関するさらなる説明は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、K.Ahn,C.Li,C.Uher and M.G.Kanatzidis,Chem.Mater.,21,1361,(2009)において見出すことができる。(PbLaTe1+z0.945(AgTe)0.055の組成物を有するLaドープシリーズは、z=1%の場合La1、z=2%の場合La2、z=3%の場合La3、およびz=4%の場合La4として識別された(対応する式(Pb1−yLaTe)1−x(AgTe)については、表1を参照)。図1における破線矢印は、Laドーピングが行われたマトリックス材料(PbTe)0.945(AgTe)0.055の組成物系を示す。これらの標本は、事前に合成されたAg5.5インゴット[第1の焼鈍後(PbTe)0.945(AgTe)0.055]、および化学量論量の元素La(Alfa Aesarから入手した金属基準純度99.9%のチャンク)、およびTeを使用し、続いて、実施例2に記載される非ドープシリーズに使用されるものと同一の溶融、水急冷、焼鈍、およびホットプレス手順によって調製した。T>700Kにおいて、測定の安定性を保証する試みにおいて、加圧ディスクをさらに3日間、773Kで焼鈍し(図1の点3)、続いて水で急冷して、輸送特性を測定した。
【0059】
電気抵抗およびホール効果は、Van der Pauw法によって測定した。300〜675Kの温度範囲において、2Tの可逆磁場をホール効果の測定に使用した。ホールキャリア密度は、n=l/eRによって得られ、式中、Rはホール係数であり、eは電子電荷である。ゼーベック係数は、クロメル−ニオビウム熱電対を使用して、10Kの温度勾配下で熱電力を測定することによって得られた。一定の温度勾配を利用する測定、および+5K〜−5Kの間の50を超える可変温度差を有する一定平均温度での測定の両方から、一致する結果が得られた。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法を使用する熱拡散率の測定によって得られた(Netzsch LFA 457)。測定のすべては、300K〜775Kの温度範囲において、真空下で行った。熱容量Cは、150K〜270Kの実験値に近い値0.15J/g・Kを有するデュロン−プティ法を使用して推定した。さらなる説明は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、D.H.Parkinson and J.E.Quarrington,Proc.Phys.Soc.,67,569,(1954)において見出すことができる。実際のC値は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)の他の部分で報告されるように、775Kにおいて10%高くなり得る(および対応する熱電性能指数zTは10%低くなる)。次に、熱伝導率κを、実験密度、熱容量、および熱拡散率から計算した。測定の再現性は、同一試料上の加熱および冷却熱サイクルの一貫性によって確認した。
【0060】
再合成された熱電組成物(製造物品)(La028Pb0.972Te)0.947(AgTe)0.053(La3として識別される)に対して測定を反復し、同一の組成物を有する試料は、775Kで1.5〜1.7の範囲の熱電性能指数zTをもたらし、これはキャリア密度の変動に起因し得る。この組成物に関するゼーベック係数および抵抗測定は、ULVAC ZEM−3システムを使用することによって、300K〜650Kの温度範囲においても確認された。熱電性能指数zTの決定に関する複合実験の不確実性は、20%に近いと考えられる。
【0061】
実施例8
Laドープ(PbTe)(AgTe)
Laは、PbTe中のn型ドーパントである。Laに関するさらなる考察は、例えば、G.T.Alekseeva,M.V.Vedernikov,E.A.Gurieva,P.P.Konstantinov,L.V.Prokofeva and Y.I.Ravich,Semiconductors,32,716,(1998)、およびK.Ahn,C.Li,C.Uher and M.G.Kanatzidis,Chem.Mater.,21,1361,(2009)において見出すことができ、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる。Laは、既知のAg−La−Te化合物が存在しないため、Agによって補償される可能性が低い。いくつかの電荷補償は、Ag金属で合金されるLaドープPbTe(Pb1−xLaTe−Ag):5at%〜10at%のAgが添加されると、Pb0.99La0.01Te中の電子濃度が5×1019/cmから1〜2×1019/cmに低下したことが認められた。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、K.Ahn,C.Li,C.Uher and M.G.Kanatzidis,Chem.Mater.,21,1361,(2009)を参照されたい。Ahnの参照文献では、Pb1−xLaTe−Agが、顕著な不純物相を形成することなく、NaCl型構造中で結晶化したこと、格子パラメータが、Ag含有量の増加に伴って連続的に減少したこと、および720Kにおいて、(Pb1−xLaTe−Ag)中で1.2に近いzTが得られ、ナノ粒子(ナノ包接物)の証拠は示されず、AgTeの証拠も見られなかったという結論が出された。
【0062】
本開示の結果は、Laが、LaPb1−xTe−AgTe中の有効なn型ドーパントである一方で、ナノ複合材料構造を維持することを示した。Laドープ試料La3(図6(a))に関するTEM観察は、AgTe粒子(ナノ包接物)について、LaなしのAg5.5試料と同様の体積密度(50±30/μmに近似)、およびサイズの範囲を示した。極わずかなAg、La、およびTeを含有する沈殿物(ナノ包接物)のみが、TEMおよびSTEM−EDSを介して観察された。La3試料に関して、TEMまたは原子プローブ断層撮影(APT)のいずれかによって、30ナノメートルよりも小さいナノ粒子(ナノ包接物)は認められなかった。他の高熱電性能指数zTナノ複合材料システムにおいて、さらに小さいナノ粒子(ナノ包接物)が認められた。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、K.F.Hsu,S.Loo,F.Guo,W.Chen,J.S.Dyck,C.Uher,T.Hogan,E.K.Polychroniadis and M.G.Kanatzidis,Science,303,818,(2004)、J.Androulakis,K.F.Hsu,R.Pcionek,H.Kong,C.Uher,J.D′Angelo,A.Downey,T.Hogan and M.G.Kanatzidis,Adv.Mater.,18,1170,(2006)、P.F.P.Poudeu,J.D′Angelo,J.L.Short,T.P.Hogan,and M.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,45,3835,(2006)、J.Androulakis,C.Lin,H.Kong,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007)、J.R.Sootsman,H.Kong,C.Uher and J.J.D.W.P.H.T.C.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,47,8618,(2008)、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)、A.Gueguen,P.F.P.Poudeu,C.Li,S.Moses,C.Uher,J.He,V.Dravid and K.M.,Chem.Mater.,21,1683,(2009)を参照されたい。La3試料のマトリックスからの3次元APT再構成は、すべての要素がマトリックス相中に均一に分散したことを示した(図7(a))。AgおよびLaが試料内でランダムに分布されたこと、およびAPT再構成においてクラスタリングが存在しなかったことを確認するために、データセットの多くの等サイズ領域における組成物を測定した度数分布ヒストグラムを利用した。測定に関するさらなる考察は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、B.A.Akimov,E.N.Korobeinikova,L.I.Ryabova,and M.E.Tamm,Sov.Phys.Semicond.,25,208,(1991)において見出すことができる。AgおよびLaの両方に関するヒストグラムは、図7(b)に示される二項分布に一致した。APT分析は、La3合金のマトリックスが、45%Pb、52%Te、2%Laであり、1%未満のAgが本試料中で検出されたことを示した。
【0063】
Laドープ(PbTe)0.945(AgTe)0.055組成物(製造物品)は、典型的なn型ドープPbTeと一致する、測定温度範囲全体において(図8)、n型の重度にドープされた半導体的挙動を呈した。電気抵抗ρは、増加するキャリア密度に起因して、非ドープ試料と比較して(図3(a)を参照)1桁超減少した(表1を参照)。大部分の試料について、2×1019/cm〜4×1019/cmの測定キャリア密度は、n型PbTeに最適なキャリア濃度に極めて近く(参照することによって本明細書に組み込まれる、I.B.Cadoff and E.Miller,Thermoelectric Materials and Devices.Reinhold Publishing Corporation,New York:Reinhold,1960に従う)、1つのLa+3をPb+2の代用とすることで、1つの電子をフレームワーク(マトリックス)に対して放出すると仮定して、Pb部位において、0.1%〜0.3%Laに対応する。これらの結果は、Laが(PbTe)1−x(AgTe)中で有効なドーパントであることを示す。La+3のいくつかは、Pb部位上でAg+1によって補償されるか(上に示されるAPT組成物)、またはマトリックスに組み込まれないかのいずれかであった(Laに富む不純物相の存在、高温処理中にLaと石英管との間に目に見える反応の証拠があった)。Laの100%未満のこのドーパント有効性は、標準化学組成の調整によって、キャリア濃度の微調整を可能にするため、実際に有益であり得る。力率は、S/ρとして定義された。
【0064】
また電気抵抗の最大値は、Laドープされたシリーズにおいて、400Kに近いTで見出された。この特徴は、加熱測定値と冷却測定値との間のヒステリシスを呈し、AgTe濃度が増加するにつれて増強された。これは、AgTeのベータ(β)からアルファ(α)の単斜晶相から立方相への移行からもたらされる場合があり、文献では明らかな抵抗強化および他の電気輸送異常が報告されている。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、F.F.Aliev,Semiconductors,37,1057,(2003)を参照されたい。しかしながら、格子熱伝導率およびゼーベック係数上のこの移行の影響は非常に弱小であった(図8(a)および図9(c))。zTを控えめに推定するために、冷却中に収集されたより多くの抵抗データを、熱電輸送特性の計算で使用した。
【0065】
バルクPbTeにおける音響フォノン散乱機構を推定する、ゼーベック対キャリア密度の十分に確立されたピサレンコ関係は(例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.I.Ravich,B.A.Efimova and I.A.Smirnov,Semiconducting Lead Chalcogenides.Plenum,New York,1970を参照)、Laドープ試料の実験データに関する優れた説明を提供した(図8(a)の差し込み図)。これは、AgTeナノ粒子(ナノ包接物)の添加によって、バルクPbTeに関する通常のモデリング記述が変化しなかったことを示した。電子有効質量(m)は、実験ゼーベック係数および電子密度を使用して計算した。計算詳細は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、D.M.Rowe,CRC Handbook of Thermoelectrics.CRC Press,Boca Raton,FL,1995の他の部分で見出すことができる。0.3〜0.4m(mは、自由電子質量)の室温mおよび重要なことに、その温度依存の両方が、研究されたキャリア密度範囲内で、バルクPbTeのそれらと良好に一致することを示した。このモデルを用いて、格子熱伝導率を正確に評価するために、ローレンツ数(L)の組成物および温度依存は、音響フォノン散乱機構が温度範囲全体で優性であったと仮定して推定された。さらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、H.A.Lyden,Phys.Rev.,135,A514,(1964)、Y.I.Ravich,B.A.Efimova and I.A.Smirnov,Semiconducting Lead Chalcogenides.Plenum,New York,1970、およびD.M.Rowe,CRC Handbook of Thermoelectrics.CRC Press,Boca Raton,FL,1995において見出すことができる。計算された低下フェルミ準位η=E/kT(Eおよびkは、それぞれフェルミ準位およびボルツマン定数である)は、温度の増加に伴って徐々に減少した。Tは、絶対温度である。これは、温度が上昇したときの縮退の漸減を示し、ローレンツ数Lに関する観察された強力に負の温度依存と一致した。775Kにおいて得られた値1.6×10−8/Kは、伝統的なボルツマン分布を有する音響フォノンによって散乱された非縮退電子ガスの値1.5×10−8/Kに極めて近いが(例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、D.M.Rowe,CRC Handbook of Thermoelectrics.CRC Press,Boca Raton,FL,1995を参照)、最も重度にドープされた試料(y=3.64%)において室温で得られた2.2×10−8/Kに近い値は、純金属と同様に、強力に縮退する電子ガスの場合、2.45×10−8/Kに近かった。La4試料の計算ローレンツ数は、5×1019/cmの電子密度を有するn−PbTeのローレンツ数上の他のモデルとの優れた一致を示し、バンドの非放物性と多重散乱機構の両方の影響が考慮された。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、S.Ahmad and S.D.Mahanti,Phys.Rev.B,81,165203,(2010)を参照されたい。ローレンツ数は、より多くのキャリアが強力な縮退に至ったため、全温度範囲において、ドーピングレベルの増加に伴って増加した。得られたローレンツ数Lの値は、頻繁に使用される約2.45×10−8/Kの自由電子値よりも顕著に低かった。例えば、それぞれ参照することによって組み込まれる、J.Androulakis,K.F.Hsu,R.Pcionek,H.Kong,C.Uher,J.D′Angelo,A.Downey,T.Hogan and M.G.Kanatzidis,Adv.Mater.,18,1170,(2006)、P.F.P.Poudeu,J.D′Angelo,J.L.Short,T.P.Hogan,and M.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,45,3835,(2006)、J.Androulakis,C.Lin,H.Kong ,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007)、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)、およびA.Gueguen,P.F.P.Poudeu,C.Li,S.Moses,C.Uher,J.He,V.Dravid and K.M.,Chem.Mater.,21,1683,(2009)を参照されたい。
【0066】
測定熱拡散率、密度、デュロン−プティ熱容量(表1)を用いて、図9(a)に示されるように、総熱伝導率κ(格子熱伝導率κおよび電子熱伝導率κの合計)を決定した。格子熱伝導率は、電子要素(κ=LT/ρ、式中L、T、およびρは、それぞれローレンツ数、絶対温度、および電気抵抗率である)を総熱伝導率κから差し引くことによって得られた。La2およびLa3試料において、T>650Kで0.4W/m−Kに近い非常に低い格子熱伝導率が達成され(図9(b))、カーヒルのアプローチによって計算されるように、0.36W/m−Kに近い格子熱伝導率κの「最小熱伝導率」値に近づく(参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.K.Koh,C.J.Vineis,S.D.Calawa,M.P.Walsh and D.G.Cahill,Appl.Phys.Lett.,94,153101,(2009))。500K以下で、La3試料の格子熱伝導率は、非ドープAg5.5試料のそれに極めて類似していた。これは、大きいナノ粒子(ナノ包接物)が維持されるためであり得る。500Kを超えると、La3試料の計算された格子熱伝導率κは、Ag5.5試料のそれよりも低かった。これは、重度にドープされたLa3試料中の両極熱伝導の欠失に起因し得る。格子熱伝導率κの値は、公称La含有量が増加するにつれて増加した。これは、合金フォノン散乱の低下によって説明することができる。Pb部位欠陥上の電子供与La3+が、例えば、Pb部位上のAgを受容する電子濃度を増加させることによって、電子供与Ag格子間原子の濃度を減少させることができると予想することができる。格子間Agがこれらの点欠陥のいずれかに関して最も有効な散乱を提供するため、最終結果は、より少ない点欠陥散乱となり得る。
【0067】
大きいナノ粒子(ナノ包接物)La2試料の格子熱伝導率κと文献で報告された最適熱電組成物の小ナノ粒子(ナノ包接物)PbTe系ナノ複合材料との比較(図9(c))は、室温付近で、格子熱伝導率κを低下させることにおいて、小ナノ粒子(20ナノメートル未満)が有効であったことを示した。大きいナノ粒子(ナノ包接物)(100ナノメートル〜200ナノメートル)は、より高温で有効であり、この場合、熱電性能指数zTがより大きい。比較は、ローレンツ数Lおよび格子熱伝導率κに基づき、上述の方法および文献からの輸送データを使用して再計算された。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、K.F.Hsu,S.Loo,F.Guo,W.Chen,J.S.Dyck,C.Uher,T.Hogan,E.K.Polychroniadis and M.G.Kanatzidis,Science,303,818,(2004)、J.Androulakis,K.F.Hsu,R.Pcionek,H.Kong,C.Uher,J.D′Angelo,A.Downey,T.Hogan and M.G.Kanatzidis,Adv.Mater.,18,1170,(2006)、P.F.P.Poudeu,J.D′Angelo,J.L.Short,T.P.Hogan,and M.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,45,3835,(2006)、J.Androulakis,C.Lin,H.Kong,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007)、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)、J.R.Sootsman,H.Kong,C.Uher and J.J.D.W.P.H.T.C.G.Kanatzidis,Angew.Chem.Int.Ed.,47,8618,(2008)、およびA.Gueguen,P.F.P.Poudeu,C.Li,S.Moses,C.Uher,J.He,V.Dravid and K.M.,Chem.Mater.,21,1683,(2009)を参照されたい。それらの研究と比較して、極めて長い時間(1ヶ月)焼鈍されたPbTe−AgSbTe(LAST)は、室温でより高い格子熱伝導率κをもたらしたが、高温では低い格子熱伝導率κであり、La2試料と類似していた。さらに、長期間の焼鈍中に、ナノ粒子(ナノ包接物)のサイズが最大50ナノメートルまで増加したこともわかった。参照することによって本明細書に組み込まれる、M.Zhou,J.Li and T.Kita,J.Am.Chem.Soc.,130,4527,(2008)を参照されたい。PbS(SnTe)−PbTe試料は、それ自体が、本開示または他の文献において記載されるはるかに大きい特徴とは性質の異なる、20ナノメートル未満のナノ粒子またはラメラ(ナノ包接物)を含む、大きい構造(長さ300ナノメートル〜600ナノメートル)を示した。例えば、それぞれ参照することによって組み込まれる、J.Androulakis,C.Lin,H.Kong,C.Uher,C.Wu,T.Hogan,B.A.Cook,T.Caillat,K.M.Paraskevopoulos and M.G.Kanatzidis,J.Am.Chem.Soc.,129,9780,(2007)、およびT.Ikeda,L.A.Collins,V.A.Ravi,F.S.Gascoin,S.M.Haile and G.J.Snyder,Chem.Mater.,19,763−767,(2007)を参照されたい。昇温で長期間の焼鈍から形成されたナノ粒子(ナノ包接物)は、低温で沈殿したナノ粒子(ナノ包接物)よりも高温でより安定する可能性が高かった。小さい粒子(ナノ包接物)は、大きい粒子(ナノ包接物)よりも低温で形成する傾向もある。
【0068】
図10は、上述のLaドープ(PbTe)0.945(AgTe)0.055試料の熱電性能指数zTを示した。3×1019/cm付近のホールキャリア密度を有する試料は、775Kにおいて、1.6のピークzT値を示した。比較として、従来のn型PbTeは、675Kにおいて、0.8のピーク熱電性能指数zTを有した。このピークzT温度は、ナノ粒子(ナノ包接物)相が熱力学的に安定し、PbTeマトリックス中に吸収されない二相領域内に明らかにあった。ナノ粒子(ナノ包接物)は、ゆっくりと粗大化し続け得る。いくつかの温度において、大きい(例えば、50〜200ナノメートル)沈殿物(ナノ包接物)に加えて、より小さい(例えば、50ナノメートル未満)沈殿物(ナノ包接物)を含めることによって、例えば、化学組成または処理を変更することによって、より低い格子熱伝導率κおよびしたがって、より高い熱電性能指数zTを得ることができる。低温範囲で比較的低い移動度は、温度に伴って、熱電性能指数zTの急上昇をもたらし得る。
【0069】
比較的大きい(100ナノメートル〜200ナノメートル)ナノ粒子(ナノ包接物)の適切な密度を有する、LaドープPbTe−AgTeナノ複合材料中のT>650Kにおける高い熱電性能指数zTは、小さい(20ナノメートル未満)ナノ粒子(ナノ包接物)を有する多くの関連システムにおいて認められない、例外的に低い格子熱伝導率κから生じた。非ドープPbTe−AgTeナノ複合材料は、熱伝導率に対する電子要素κを複雑化することなく、この効果を証明した。Laドーピングによって最適化された独立キャリア濃度の組み合わせを用いると、LaドープPbTe−AgTeナノ複合材料の熱電性能指数zTは、775Kにおいて1.6まで到達した。このアプローチおよび類似の合成アプローチは、平衡相図および沈殿動態の両方を考慮するとともに、ドーパント化学を慎重に制御することによって、他の熱電材料システムに広く適用可能となり得る。
【0070】
実施例9
Naによる(PbTe)(AgTe)のドーピングおよび測定
P型PbTe/AgTeナノ複合材料を、Naドーピング(PbTe:Na/AgTe)によって得た。(PbTe)0.945(AgTe)0.055の組成のPbTe/AgTeナノ複合材料を、上記および他の文献(例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater 2011,21,241)に記載のとおり事前合成した後、PbTe:Na/Ag2Teを作製するための出発物質として、適量のNaおよびTe金属と一緒に使用した。Naの公称濃度(Pbに対して正規化される)は、0〜3at%であり、本研究の最終試料は、密封、溶解、急冷、焼鈍、およびホットプレスを含む、上記と同一の方法で合成した。エネルギー分散型分光計(EDS)を備えたX線回折および走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して、位相成分を検査した。
【0071】
相対密度98%以上のホットプレスしたディスク形状の試料を測定に使用した。輸送特性の測定に関する詳細は、上記および他の文献で説明される。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.Pei,A.LaLonde,S.Iwanaga,G.J.Snyder,Energ Environ Sci(2011),DOI:10.1039/c0ee00456a、およびY.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater 2011,21,241を参照されたい。熱容量Cp(k/原子)は、3.07+4.7×10−4×(T/K−300)となるように計算され、これは鉛カルコゲニドについて正確であり得る。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、R.Blachnik,R.Igel,Z Naturforsch B 1974,B29,625、M.Zhou,J.F.Li,T.Kita,J Am Chem Soc(2008),130,4527、およびY.Pei,A.LaLonde,S.Iwanaga,G.J.Snyder,Energ Environ Sci 2011,DOI:10.1039/c0ee00456aを参照されたい。最近報告された高zT PbTe材料の大部分についての熱伝導率は、+/−5%のデュロン−プティ近似またはその付近の熱容量を使用して決定した。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、J.Heremans,V.Jovovic,E.Toberer,A.Saramat,K.Kurosaki,A.Charoenphakdee,G.J.Snyder,Science(2008),321,554、P.F.P.Poudeu,A.Gueguen,C.I.Wu,T.Hogan,M.G.Kanatzidis,Chem Mater(2010),22,1046、およびY.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater(2011),21,241を参照されたい。本方法は、700Kを超えるTにおいて、デュロン−プティの法則(3kB/原子)よりも10%近く高い値を決定することに留意されたい。ゼーベック係数Sおよび熱伝導率κの各測定値の不確実性は、5%に近く、熱電性能指数zTの決定において、20%に近い総合誤差をもたらす。
【0072】
実施例10
Naドープ(PbTe)(AgTe)x
PbTe/AgTeの高温過飽和固溶体相を低温で焼鈍することによって、形成された二相領域は、AgTeナノ包接物をPbTeマトリックス中に均一に分散させた。図11は、NaドープPbTe/AgTeの鋳放し材料およびホットプレスペレットの両方について、典型的なナノ構造を示す。結果は、文献と一致した。焼鈍およびナノ構造に関するさらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、F.Wald,Journal of the less−common metals(1967),13,579、R.Blachnik,B.Gather,Journal of the less−common metals 1978,60,25、およびJ.Lensch−Falk,J.Sugar,M.Hekmaty,D.Medlin,J Alloy Compd(2010),504,37において見出すことができる。
【0073】
PbTe:Na(NaでドープされたPbTe)と同様に、Naは、ホール係数(R)およびゼーベック係数Sの測定によって示されるように、PbTe/AgTe中の有効なp型ドーパントであることがわかった。PbTe/AgTe中のNaのドーピング溶解度は、純PbTe中よりもはるかに小さいことがわかった。PbTe:Na/AgTe中の測定室温ホール密度(p=1/eR、eは電子電荷である)は、PbTe:Na中のそれよりもはるかに小さかった。Naの公称濃度は、PbTe:Na/AgTeおよび前のPbTe:Naにおいて同等であった。PbTe:Na/AgTe中の測定ホール密度pは、4×1019/cmを超えなかったが、室温ホール密度pは、14×1019/cmに達し得る(例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.Pei,A.LaLonde,S.Iwanaga,G.J.Snyder,Energ Environ Sci 2011,DOI:10.1039/c0ee00456aに従う)。2.5、3.1、および3.7×1019/cmの室温ホール密度pを有する最も重度にドープされた試料は、それぞれ以下の考察に使用され、それぞれ2.5e19、3.1e19、および3.7e19として表示される。
【0074】
室温ゼーベック係数S対ホール密度p(ピサレンコプロット、図12(a)における実線曲線)は、PbTeに関する輸送特性およびバンド構造の強力な説明を提供した。p型の通常バルクPbTeに関して公開されたほぼすべての測定は、このピサレンコ系に含まれるため、本結果も同様に測定の不確実性内である(図12(a))。相関に関するさらなる考察は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.I.Ravich,B.A.Efimova,I.A.Smirnov,Semiconducting lead chalcogenides,Plenum Press,New York 1970において見出すことができる。上記および他の文献(例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater 2011,21,241)に記載されるように、LaドープPbTe/AgTe(PbTe:La/AgTe)において見出される結果と同様に、NaによるドーピングもAgTeの導入もPbTeのバンド構造を変化させなかった。
【0075】
ゼーベック係数Sは、高いドーピングレベルで平坦化していた(ホール密度p>3×1019/cm)。これは、図12(a)の差し込み図に示されるように、複雑な原子価構造に起因し得る。さらに、軽原子価バンドのエネルギーは、温度の上昇に伴って低下し、450K付近で重原子価バンドよりも下に移動した。電子輸送、光学顕微鏡法、およびp−PbTeの他の特性は、この2つの原子価モードに起因し得る。例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、Y.I.Ravich,B.A.Efimova,I.A.Smirnov,Semiconducting lead chalcogenides,Plenum Press,New York 1970、G.Nimtz,B.Schlicht,Springer Tracts in Modem Physics 1983,98,1、Y.I.Ravich,in Lead Chalcogenides:Physics and Applications,(Ed:D.Khokhlov),Taylor & Fransics Group,New York 2003,1、R.S.Allgaier,J Appl Phys 1961,32,2185、A.J.Crocker,L.M.Rogers,J Phys−Paris 1968,29,C4、V.I.Kaidanov,R.B.Melnik,I.A.Chernik,A.A.Kosulina,Sov Phys Semicond+1969,2,1474、R.N.Tauber,A.A.Machonis,I.B.Cadoff,J Appl Phys 1966,37,4855、J.Androulakis,I.Todorov,D.Y.Chung,S.Ballikaya,G.Y.Wang,C.Uher,M.Kanatzidis,Phys Rev B(2010),82、およびY.Pei,A.LaLonde,S.Iwanaga,G.J.Snyder,Energ Environ Sci(2011),DOI:10.1039/c0ee00456aを参照されたい。
【0076】
一般的なゼーベック係数Sは、絶対温度Tに比例するというよりもむしろ、ゼーベック係数Sは、特に高温度で著しく増加した(図12(b))。これは、フェルミ広域化に起因して、重質量キャリアの寄与が増加するためであり得る。類似のn型材料(PbTe:La/AgTe、La3)は、p型PbTe:Na/AgTeよりもはるかに低いゼーベック係数を有した。これは、伝導バンドの複雑性の欠如に起因し得る。これらのPbTe:Na/AgTe試料は、同様のドーピングレベルにおいて、PbTe:Naに関してほぼ未変化のゼーベック係数Sを示し、AgTe包接物が、PbTeのバンド構造に影響しなかったという上記考察をさらに確認した。
【0077】
相境界におけるキャリアの散乱の強化、およびマトリックス相において散乱する点欠陥の強化の両方に起因して、PbTe:Naと比較して、PbTe:Na/AgTeの減少した移動度が観察されるのは妥当である。さらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、F.Wald,Journal of the less−common metals(1967),13,579、およびY.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater(2011),21,241において見出すことができる。3×1019/cmを超えるホール密度pを有するPbTe:Na/AgTe試料のホール移動度μデータは、同様のホール密度pを有するPbTe:Naとの比較とともに、図13の差し込み図に示される。これらのPbTe:Na/AgTeナノ複合材料は、同一の温度範囲において、同様のホール移動度μを有し、高温でPbTe:Na試料と収束した。これは、これらの材料中のキャリアの散乱が、常に高温での音響フォノンに支配されることに起因し得る。結果として、PbTe:Na/AgTeナノ複合材料の導電率は、低温でPbTe:Na(図12)のそれよりも低い。PbTe:Naと同様に、導電率σは著しく低下した。これは、通常、温度の上昇に伴って音響フォノン散乱によって支配されるシステムに関して予想され、移動度の低い重バンドからのキャリアの増加によって十分に説明することができる。同様のホール移動度μを用いて、ホール密度pの増加は、図13に示されるように、PbTe:Na/AgTeナノ複合材料において高い導電率σをもたらした。
【0078】
図14で見ることができるように、熱伝導率κは、AgTeナノ包接物に起因して、ほぼ測定温度範囲全体で約50%減少した。全試料のホール密度pも同様であり、3.5×1019/cmに近いことがわかった。両極性熱伝導率の曖昧性を回避するため、および明確にするために、重度にドープされた試料のみが図14に示される。
【0079】
観察された熱伝導率κの減少は、少なくとも部分的に、導電率σの減少、したがって同様に熱伝導率κに対する電子要素κの減少に起因し得る。これらのバンドの複雑な原子価バンド構造および非放物性に起因して、p−PbTeにおけるローレンツ数を決定することは困難であるため、ウィーデマン−フランツの法則を介してκを正確に推定することは困難である(κ=LσT、式中、L、σ、およびTは、それぞれローレンツ数、導電率、および絶対温度である)。これらの事項に関するさらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、I.A.Smirnov,Y.I.Ravich,Sov Phys Semicond+(1967),1,739、I.A.Smirnov,M.N.Vinogradova,N.V.Kolomoets,L.M.Sysoeva,Soviet Physics Solid State,Ussr(1968),9,2074、およびY.I.Ravich,B.A.Efimova,I.A.Smirnov,Semiconducting lead chalcogenides,Plenum Press,New York(1970)において見出すことができる。簡潔にするために、ローレンツ数Lの推定は、音響フォノン散乱機構を推定する単一の放物線バンド(SPB)モデルを使用して行われ、より厳密な単一非放物性バンドおよび多重バンドモデル計算と比較した時に、10%未満の偏差を有するローレンツ数Lをもたらした。本モデルに関するさらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、I.A.Smirnov,M.N.Vinogradova,N.V.Kolomoets,L.M.Sysoeva,Soviet Physics Solid State,Ussr(1968),9,2074、C.M.Bhandari,D.M.Rowe,in CRC handbook of thermoelectrics,(Ed:D.M.Rowe),CRC Press,Boca Raton,Fla.(1995),43、S.Ahmad,S.D.Mahanti,Phys Rev B(2010),81,165203、およびY.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater(2011),21,241において見出すことができる。
【0080】
総熱伝導率κから電子要素κを差し引くことによって、得られた格子要素κを計算し、図14に示す。ナノ包接物の導入は、格子熱伝導率κを効果的に減少させた。これは、境界におけるフォノン散乱の強化に起因し得る。相関に関するさらなる考察は、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、K.F.Hsu,S.Loo,F.Guo,W.Chen,J.S.Dyck,C.Uher,T.Hogan,E.K.Polychroniadis,M.G.Kanatzidis,Science(2004),303,818、M.G.Kanatzidis,Chem Mater(2010),22,648、Y.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater 2011,21,241において見出すことができる。T>600Kにおいて約0.5W/m−Kの極めて低い格子熱伝導率κは、例えば、それぞれ参照することによって本明細書に組み込まれる、P.F.P.Poudeu,A.Gueguen,C.I.Wu,T.Hogan,M.G.Kanatzidis,Chem Mater(2010),22,1046、Y.Pei,J.Lensch−Falk,E.S.Toberer,D.L.Medlin,G.J.Snyder,Adv Funct Mater(2011),21,241に従って、0.36W/m−Kの理論的最小許容値に接近していた。PbTe:Na/AgTeナノ複合材料の総熱伝導率κは、PbTe:Naの格子熱伝導率κよりもさらに低かった。
【0081】
上述のLaドーピングと比較して(熱容量Cの同一推定を使用して)、PbTe/AgTeナノ複合材料におけるNaドーピングは、良好な電子輸送特性のための複合バンド構造の電子効果を含み、したがって、特に低温で、熱電性能指数zTの著しい強化をもたらした(図15(a))。あるいは、PbTe:Naと比較して、AgTeナノ包接物を導入することは、熱伝導率κを著しく減少させ(図14)、したがって、調査された温度範囲全体で熱電性能指数zTを増加させた(図15(a))。これは、ホール密度p=3.7×1019/cmおよび熱電性能指数zT曲線(破線曲線)を有するPbTe:Na/AgTe試料の測定熱電性能指数zTの優れた収束によってさらに証明され、(該曲線は、)ホール密度p=3.6×1019/cmを有するPbTe:Naに対して、ホール密度p=3.7×1019/cmを有するPbTe:Na/AgTe試料の格子熱伝導率κを単に推定することによって生成された。
【0082】
最も重要なことに、複雑なバンド構造およびナノ構造の両方を複合する現在の努力は、T>650Kにおいて、1.5を超える熱電性能指数zTを可能にした。さらに、図15(b)に示されるように、PbTe:Na/AgTeの平均熱電性能指数zTおよび理論上実施可能な発電効率(ηmax)は、PbTe:La/AgTeおよびPbTe:Naと比較したとき、約100〜40%増加した。ここで、平均熱電性能指数zTおよび理論上実施可能な発電効率ηmaxの推定は、例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、G.J.Snyder,in Thermoelectrics handbook:macro to nano,(Ed:D.M.Rowe),CRC/Taylor & Francis,Boca Raton 2006,1、G.J.Snyder,Appl Phys Lett 2004,84,2436、G.J.Snyder,T.Ursell,Phys Rev Lett 2003,91,148301に記載される、熱電適合性効果を考慮した。
【0083】
バンド構造の複雑性およびナノ構造効果は、熱電性能を向上させるために有効なアプローチとして、同時に考慮される。PbTe:Na/AgTeにおいて示されるように、1.5を超えるピーク熱電性能指数zTおよび平均熱電性能指数zT/熱電効率の著しい強化が実現された。キャリア密度およびナノ構造制御の組み合わせをさらに最適化することは、同様のPbTe材料において、さらに高い熱電性能をもたらすことができる。
【0084】
当業者に理解されるように、本明細書に開示される要素および構造は、多くの組み合わせで使用することができ、それらが本発明の一部を形成することが認められる。
【0085】
上述の様々な方法および技法は、本応用を実行するための多数の方法を提供する。当然のことながら、本明細書に記載される任意の特定の実施形態に従って、必ずしも記載されるすべての目的または利点が達成され得るわけではないことを理解されたい。したがって、例えば、当業者は、本明細書において教示または提案される他の目的または利点を必ずしも達成することなく、本明細書において教示される1つの利点または複数の利点を達成または最適化する方法で、本方法を実行することができることを認識するであろう。様々な代替例が本明細書において言及される。好適な実施形態には、1つの特徴、別の特徴、またはいくつかの特徴を具体的に含むものもあれば、1つの特徴、別の特徴、またはいくつかの特徴を具体的に除外するものもあり、さらには、1つの有利な特徴、別の有利な特徴、またはいくつかの有利な特徴を含めることによって、特定の特徴を弱めるものもあることを理解されたい。
【0086】
さらに、当業者であれば、異なる実施形態から様々な特徴の適用性を認識するであろう。同様に、上述の様々な要素、特徴、およびステップ、ならびにそのような要素、特徴、またはステップそれぞれの他の周知の均等物が、当業者によって様々な組み合わせで用いられて、本明細書に記載の原理に従う方法を行うことができる。様々な要素、特徴、およびステップの中で、多様な実施形態に具体的に包含されるものもあれば、具体的に除外されるものもある。
【0087】
本出願は、ある実施形態および実施例の文脈において開示されたが、当業者であれば、本出願の実施形態が、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替実施形態および/または用途、および修正、ならびにその均等物にまで及ぶことを理解するであろう。
【0088】
いくつかの実施形態では、本出願の特定の実施形態を記載する文脈において(特に、以下の請求項の文脈において)使用される「a」、「an」、および「the」という用語、ならびに同様の言及は、単数および複数の両方を網羅すると解釈することができる。本明細書における値の範囲に関する記述は、単に、その範囲内に含まれるそれぞれ別個の値に対して個別に言及する簡単な方法として機能することが意図される。本明細書において特に指定のない限り、各個別の値は、本明細書に個別に引用されるかのように、明細書に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書において特に指定のない限り、またはそうでなければ明らかに文脈と矛盾しない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書において、ある実施形態に関して提供される任意およびすべての実施例、または例示的な文言(例えば、「等」)の使用は、単に本出願の理解をより容易にすることが意図され、他の方法で特許請求される本出願の範囲を限定するものではない。明細書におけるいずれの文言も、本出願の実践に必須のいかなる非特許請求要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0089】
本出願を実行するために発明者らに知られる最良の形態を含む、本出願の好適な実施形態を本明細書に記載した。それらの好適な実施形態の変型例は、前述の説明を読むことによって当業者に明らかとなるであろう。当業者であれば、そのような変型例を適切に用いることができ、本出願は、本明細書に具体的に記載される方法とは別の方法で実践することができると考えられる。したがって、本出願の多くの実施形態は、適用可能な法律によって許容される、添付の請求項において言及される主題のすべての修正および均等物を含む。さらに、そのすべての可能な変型例における上述の要素のいかなる組み合わせも、本明細書において特に指定のない限り、または明らかに文脈と矛盾しない限り、本出願に包含される。
【0090】
本明細書において参照されるすべての特許、特許出願、特許出願の公報、および他の資料、例えば、論文、書籍、明細書、発行物、文書、物品等は、それらと関連付けられるいずれかの起訴ファイル履歴、本文書と不一致または対立するそれらのうちのいずれか、または現在または今後、本文書と関連付けられる請求項の最も広範な範囲に関して限定的な作用を有し得るそれらのうちのいずれかを除いて、あらゆる目的でそれら全体がこの参照によって本明細書に組み込まれる。例としては、組み込まれる資料のいずれかと関連付けられる用語の説明、定義、および/または使用と、本文書に関連付けられる用語の説明、定義、および/または使用との間にいずれかの不一致または対立が存在する場合、本文書における用語の説明、定義、および/または使用が優先される。
【0091】
最後に、本明細書に開示される本出願の実施形態は、本出願の実施形態の原理の例示であることを理解されたい。用いることができる他の修正は、本出願の範囲内であり得る。したがって、例として、本出願の実施形態の代替構成を、本明細書の教示に従って利用することができるが、これらに限定されない。したがって、本出願の実施形態は、厳密に図示および説明されるとおりのものに限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとナノ包接物とを含む製造物品であって、前記ナノ包接物が、前記マトリックス中に均一に分散され、前記製造物品が、少なくとも1の熱電性能指数(zT)を有する、製造物品。
【請求項2】
前記製造物品が、少なくとも1.5の熱電性能指数(zT)を有する、請求項1に記載の製造物品。
【請求項3】
前記マトリックスが、Pbを含む、請求項1または請求項2に記載の製造物品。
【請求項4】
前記マトリックスが、PbTeおよびPbSeから選択される少なくとも1つの組成物を含む、前項のいずれか1項に記載の製造物品。
【請求項5】
前記ナノ包接物が、AgまたはCuを含む、前項のいずれか1項に記載の製造物品。
【請求項6】
前記ナノ包接物が、AgTeおよびAgSeから選択される少なくとも1つの組成物を含む、前項のいずれか1項に記載の製造物品。
【請求項7】
ドーパントをさらに含む、前項のいずれか1項に記載の製造物品。
【請求項8】
LaおよびNaから選択される少なくとも1つのドーパントを含む、請求項7に記載の製造物品。
【請求項9】
前記ナノ包接物の少なくとも1つの寸法が、200ナノメートル超である、前項のいずれか1項に記載の製造物品。
【請求項10】
少なくとも第1の要素を含む第1の材料と、少なくとも第2の要素を含む第2の材料とを加熱して、混合物を形成することと、
前記混合物を冷却して、前記第2の要素を含むナノ包接物を沈殿させることと、
前記混合物を焼鈍させることと、
を含む、物品を製造する方法。
【請求項11】
前記第1の材料の前記第1の要素が、Pbを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の材料が、TeおよびSeから選択される少なくとも1つの組成物をさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ包接物の前記第2の要素が、AgまたはCuを含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ包接物が、TeおよびSeから選択される少なくとも1つの組成物をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記冷却を反復することをさらに含む、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記焼鈍を反復することをさらに含む、請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記物品をドーパントでドーピングすることをさらに含む、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ドーパントが、LaおよびNaから選択される少なくとも1つのドーパントを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
製造物品を熱電デバイス内で使用する方法であって、前記製造物品が、マトリックスとナノ包接物とを含み、前記ナノ包接物が、前記マトリックス中に均一に分散され、前記製造物品が、少なくとも1の熱電性能指数(zT)を有する、方法。
【請求項20】
前記製造物品に温度勾配を適用することと、
電気エネルギーを収集することと、
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記製造物品に電気エネルギーを適用することと、
第1の動作温度での第1の空間から第2の動作温度での第2の空間に熱を移行させることと、
を含み、前記第1の動作温度が、前記第2の動作温度よりも低い、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15a】
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【図15b】
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【図2】
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【図7】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−518450(P2013−518450A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551352(P2012−551352)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2011/023055
【国際公開番号】WO2011/094635
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(508032284)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (17)